乃々「乃々のノーノーラジオ……」蘭子「この宴、楽しもうぞ!」 (35)

・(既にpixivに投稿してありますがここでは)初投稿です
・アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です
・設定などに若干の改変があります
・原作で殆ど絡みの無い二人の話です
・オリPが出ます

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蜃気楼揺らめき太陽の嘲笑うような表情に何度も翻弄される夏。私こと森久保乃々は涼しさを求めて事務所のプロデューサーさんの机の下に居ました。
美城プロダクション全体に言えることなのですが、冷房が効いているのは良いんです。でも少し効きすぎじゃないですかね……?
暑いのも寒いのも苦手なもりくぼからすれば体調を崩しかねないので、冷房が直接当たらないプロデューサーさんの机の下は程よい環境として認知されてしまったのです。

「ああぁ……心地いい……」

思わずそんな言葉を漏らしてしまう程には絶妙な加減の涼しさです。流石は聖域(サンクチュアリ)と言った所ですか。ですが、いつまでもこうしてはいられません。本日はラジオ番組「乃々のノーノーラジオ」の収録。以前ゲストとして招かれたラジオが好評だったので、プロデューサーさんが隔週で番組を取ってきてしまったのです。メインパーソナリティなのです。

今回で三回目を迎えるこの「乃々のノーノーラジオ」、いささか名前が適当過ぎやしないかと常々思っているのですが、プロデューサーさんが決めたことなので覆しようがありません。
単純に一人でラジオをするのは難しくはありません。アイドルになって既に半年以上が経過しようとしますが、数々の仕事を(無理矢理やらされてきた)こなしてきた経験から言って、一人のラジオ番組は楽な部類です。こちらの事情も知っているスタッフさんが多いためか、他のアイドルさんよりも多くカンペやアシストなどを出してくれます。

ですが今日は違います。今日の第三回「乃々のノーノーラジオ」は遂にゲストをお招きすることになったのです。
お相手は同じ美城プロダクションの神崎蘭子さん。会話したこともなければ、お会いしたこともない方です。部署が違いすし、なによりこのプロダクションには一五〇名を優に越えるアイドルが在籍しています。半年経っても名前しか知らないのも無理はありません。

「あうぅ……」

初めてお会いする方とお話出来るでしょうか。いや、無理です。反語。
もりくぼは只々平穏に暮らしたいだけなのです……。植物の心のような人生を……。どうしてプロデューサーは仕事を取ってきたのでしょう。プロデューサーだからですね。はい。

そうこうしている内に収録するスタジオへの移動時間が迫ってきています。

「で、出たくないぃ……」

冬にこたつから出たくないのと同じように、もりくぼはこの机の下から出るのを嫌がっていました。これから辛い目に合うと分かっていながらどうして呑気に出ていけるでしょうか。それもこれも次々と仕事を与えるプロデューサーのせいです。

「じゃ、じゃあ出ていかなければいいんじゃないか……?」

「ひぃっ!?」

突然隣から聞こえてきた声に心臓が縮み上がります。すぐさま首を向けるとそこには同じプロデューサーの元に働く輝子さんの姿が。

「……輝子さんいつの間に?」

入ってきた時、誰も居なかったはずなのですが。勿論そのあと誰も入ってきませんでした。

「フ、フフ……企業秘密ってやつだよ乃々さん」

隠されるとことさら怪しく感じますがともかく、仕事に向かわないといけないのは事実です。

「……あの、今日の収録、初めてゲストを招くんです。でもどうやって会話すればいいのか……」

素直に相談することにしました。

「誰と、コラボするんだ?」

「神崎蘭子さん……ですね」

「あぁ……あの子はとっても良い子だ……本人が個性的な上に他の人の個性にも理解を示してくれる……」

他人の個性に理解を示してくれるというのはとても良いことだと思います。きっと優しい方なのでしょう。

「良い子……話しやすいんですか?」

「……まぁちょっと覚悟しておいた方が良いんじゃないかな。うん。」

「えっ」

えっ。

────────


どうも、もりくぼです。
私は先程の会話の後でプロデューサーに車で連行されラジオの収録に向かっている所です。
流石はプロデューサーさんと言った所ですか。数々のアイドルを運んできたプロデューサーの運転は実に滑らかで振動が少なく、森に生きる民であるもりくぼにも優しいです。これで仕事に関しても優しければ最高なのですが……。仕事といえばプロデューサーさんなら神崎さんのことを知っているかもしれません。少しでも仕事が楽に迅速に終わるためならもりくぼは何だってします。

「プロデューサーさん……神崎さんってどんな方なんですか?」

「うん?神崎さんねぇ……凄い個性的というかなんというか……尖った子かなぁ」

やはりみなさん個性的という点を挙げてきます。それだけ強烈なのでしょうか。

「とりあえず最初は慣れないかもだけど、暫くすれば翻訳出来るようになるから。通訳スタッフも付けるから心配しないでいいよ」

……通訳?

「ひょっとして海外の方だったり……?」

「いや?熊本出身だった気がするけど」

ますますよく分からなくなってきました。
そうこうしているうちに車はあれよあれよと収録するスタジオに到着してしまいます。

素直に言われるがままに車から降りて建物に入ります。
なんで抵抗しないのかって?したこともありましたね。仕事に行きたくないと後部座席に籠ったこともありましたが、その時は無理矢理引きずり出され、お姫様抱っこで現場入りしました。あんな目に合うくらいなら諦めて自主的に仕事に向かうという訳です。プロデューサーさんに子供が居たとするならばきっと反抗期は短いんだろうなと漠然と思いました。

「あぅ、おはよう……ございます」

「おはよう!今日もよろしくな~乃々ちゃん!」

道すがら行き交うスタッフさんに挨拶をします。
その様子を見ていたプロデューサーさんが楽しそうに笑います。何か変だったでしょうか。

「いやね、森久保も成長したなって」

「どこがですか……」

「自分から仕事向かうようになったし、挨拶も交わせるようになったし」

「そんな身体にしたのはプロデューサーです……責任取ってください……」

「分かった。お姫様抱っこしたのは悪かったからその言い方は辞めてくれ」

軽口を叩けるようになっただけ多少は成長したのでしょうか。分かりません。

控え室に入り荷物を置きます。そしてやって参りました。共演者様へのご挨拶タイムです。プロデューサーさんは他の方との打合せに行くとの事でまさかの一人です。ボッチです。翻訳を付けるとはなんだったのでしょうか。ともかく時間がありません。収録が長引けば長引く程もりくぼへのダメージは深くなるが故にもりくぼは急いで神崎さんの控え室に向かうことにしました。


────────



悲しいことに何事もなく着いてしまいました。
神崎さんの控え室のドアの前に立つもりくぼは一人です。オンリーワンです。かけがえのないもりくぼを守る保全運動に参加しませんか。しませんか。そうですか。

コンコンとノックを二回。少し置いてから「失礼します」と中に入ります。

「おはようございます。本日の番組のMCを──」

「煩わしい太陽ね。汝が今宵、我の耳を楽しませる奏者かしら?」

「────担当、させて、いただく。あの、その、もりくぼです……」

ごめんなさいちょっと何言ってるか分からないです。とは続けられませんでした。確かに通訳要りますね!日本語なんですけどね!?なんですけどね!?

「ふむ。差し詰め森の精霊(シルフィード)といったところか。汝の輝き、ミサを見せてもらおうぞ!」

「えっと……?」

本当に会話が成り立ちません。むりくぼです。どうすれば良いのでしょうか。分かる方は分かるのでしょうか。きっとその方は熊本出身なのでしょう。

「……む?もしや汝は“瞳を持つ者”ではないのか……?」

「ひ、瞳を持つ者……?その……よく分かりませんが多分違うと……思います」

「……」

「……」

どうしましょう、この空気。
なんだか神崎さんがあたふたしだしました。
一通りキョロキョロと周りを見渡した後で、

「し、暫し待たれよ!」

と言い深呼吸を始めました。何度も、何度も、執拗に繰り返しています。これ、過呼吸になりそうな勢いですけど大丈夫でしょうか。

「うっ、えふっ、ひゅー」

「予想が当たっちゃったんですけど!?あわ、落ち着いて、息を吐いて下さい」

「……!!」

コクコクと頷くと神崎さんはゆっくりと息を吐き出します。
軽く背中を擦りながらもりくぼは今日の収録がただでは終わらないことを確信するのでした。


────────

「さっ、先程は失礼した」

「い、いえいえ、大丈夫です」

数分かけて落ち着いた神崎さんは取り繕うように言葉を紡ぎます。既に色々手遅れですが。

「改めて、我が名は神崎蘭子。悪辣なる魔王にして堕天使よ」

手遅れ感が更に酷くなりました。

「よろしくお願いします……」

今更感のある自己紹介をお互いに交わすところでスタッフさんが私たちを呼びに来ました。どうやら収録が始まるようです。

多くのスタッフさんに挨拶しながらスタジオに入ります。顔馴染みのスタッフさんもいるのでこちらの精神状態も安定するというものです。

しかしながら神崎さん、さっきは言葉のインパクトが強すぎて気がつきませんでしたが、非常に容姿が整った方です。
アルビノ性らしい色素の抜けたグレーの髪。それをツインテールにまとめ、もりくぼと同じように強めに巻いています。ちょっとシンクロニティを感じます。燃えるような烈火の色を持つ瞳はしっかりとしたアイラインにマッチしていて綺麗ですし、陶器のように白い肌は美しさを感じると同時に手入れをしっかりとしていることを教えてくれます。

つまり美容などにとても気を使っている方です。もりくぼも女の子ですのでその手の話なら少しは出来ますが、恐らく神崎さんの方がお詳しいのでしょう。是非とも話を聞きたいです。

そんなことを考えながら収録室のドアを開けます。346プロとは違い程よい空冷です。

「おお!シヴァの吐息か!」

「……えっと?」

また神崎さんの謎言語が炸裂します。
すかさずスタッフさんが

「冷房が気持ちいい、といったニュアンスです」

と教えてくれます。神崎さんも満足げに頷いている辺り当たっているのでしょう。これが凄腕の翻訳家……蘭学者なのですね。ちょっとうまいことを言った気分になりましたが、これから常に翻訳を聞き続けると考えると中々面倒です。
ストレートに翻訳出来たら良いのでしょうけども。

「そろそろ収録始めまーす。準備の方を」

スタッフさんの合図と共に準備を行います。といっても殆どはスタッフさんが用意してくれているので、私たちが行うのは喉の調子を確かめたり、飲み物を飲んだり、今日話したい内容の選定だったり、といったところです。

……今日はハガキが多いですね。それだけ神崎さんの影響力があるのでしょう。

「森の精霊(シルフィード)よ。この宴、存分に楽しもうぞ!」

「……えっと、ラジオ、楽しみましょう?」

「うむ!」

伝わったみたいです。
さぁ、お仕事の時間です。今日も平和に終わりますように。もりくぼは切に願っています。

────────


「はい、始まりました。乃々の、ノーノーラジオ~……ですけど」

始まりました。三回目になるタイトルコールです。多少の緊張がありますが、それでも昔よりは声は震えていません。もりくぼは成長するのです。

「このラジオ番組は、もりくぼこと森久保乃々が頂いたお便りやメールを元にトークをしたり、美城プロのアイドル関連のお話をする番組ですけど……」

基本的にはトークをするだけの簡単な番組ですね。
まだ始まったばかりの番組ですので手探りに近いというのもありますが。

「な、なんと本日は、番組初のゲストをお呼びしているんですけど。という訳で神崎さん、自己紹介をよろしくお願いします」

無難な紹介をしてくれるとこちらも助かるのですが。

「ククク、ナァーッハハハハッァー!!!我が名は神崎蘭子!!!強大なる業魔を討ち果たし広大なる魔界を征服せし魔王、神崎蘭子よ!!しかと覚えよ!!(私は神崎蘭子です!最近アイドルフェスで一位を取りました♪今日は私のことを覚えてくれたら嬉しいな♪)」

駄目でした。
開幕一分にして私のメンタルが持ちそうにありません。そしてなんなんですかこの翻訳。本人の語気との温度差が凄いんですけど。風邪引きますよ。


「え、えっと。神崎さんは仰る通り、美城プロ主催のアイドルフェスにて総合部門一位を獲得した実力派アイドルです。独特な世界観や語り。それに合わせた素敵な楽曲が人気です。神崎さん、今日はよろしくお願いします」

どうにか言わなければならないことを早口で伝えきりました。

「任せよ!」

任せたくないのが本音ですが。

「あっと、それではまず最初は恒例のコーナー……。今日の一曲です。今日かける曲は勿論神崎さんのデビュー曲『-LEGNE- 仇なす剣 光の旋律』です」

これは毎回やることになっているコーナーで自分の出た曲やゲストの曲を流して駄弁るコーナーです。

「この鐘の音から始まる曲は昨年の夏、神崎さんがデビューした際の曲ですね。堕天使をイメージしたMVが大変人気を呼び、ミリオンセラーにまで到達しました。かくいうもりくぼも聴いてました」

「おお!感謝するぞ、森の精霊よ。この戯曲は我が友との邂逅、交錯、理解を経て世に流れし苦心の一作。(ありがとう乃々ちゃん!この曲はプロデューサーさんと頑張ってお話しながら歌った曲なんです!)」

翻訳スタッフさんが神崎さんの早口に負けじとペンを走らせて私の発言にラグが無いように頑張っています。

「と、言うと」

「我が友は我の強大な魔力の前に一度瞳を曇らせたわ……しかし我が友は瞳を凝らし、我が真の姿を見通し、遂に降誕の時に相応しい戯曲を創造した……!(初めはプロデューサーさんは私のことをゴシックホラーが好きだと思っていたの。でもプロデューサーさんは頑張って私の言葉を読み取って、コンセプトを希望通りに変えた曲をくれたんです)」

「…………なるほど」

まだ長文が流れてくると翻訳文もそれ相応の長さになるため私の方の反応が遅れてしまいます。ここは慣れなんでしょうか。こんな事態になるのは今回だけだと思いたいんですけど。

というかふと思ったのですが、これ、リスナーの皆様は翻訳文無しで聞いてるんですよね。……会話の意味が伝わっているのでしょうか……?

そうこうしていると曲も終盤に差し掛かります。

「ここのギターソロは熱いですね。発売当初、トモダチの輝子さんも雑誌で高く評価していました」

「かの"吼える胞子"に認められるとは……。我も素晴らしき楽団に恵まれたものよ(輝子さんにも誉められるなんて……。良い音楽スタッフさんに恵まれて嬉しいです)」

「というとやはり輝子さんのレビューって光栄なのでしょうか」

「左様。かの鋼鉄地獄からの怨嗟の声は瞬く間に地上に広まるわ。それ故に"吼える胞子"の一声は重く、そして意義のあることよ(そうですね。輝子さんが昔から担当している『輝子のイチオシメタル!』のコーナーは見ている方も多くて、影響力もあります。それだけに輝子さんに認めてもらったのはミリオンセラーにも貢献したと思うんです)」

輝子さんの影響力って凄いですね。よくメタル系の雑誌の方と打ち合わせしていると思ったら毎月レビューコーナーをやっていたりしますし。

そんなことを考えていたら曲も終わり、「以上、今日の一曲でした」と言葉を繋いでおきます。


「さて……次のコーナー、『森のお便りトーク』もといハガキ返信ですが…………その……」

「ふむ?我等を阻む者が?(なにかありましたか?)」

こくりと頷きます。しまった。これはラジオの向こうに伝わりません。慌てて言葉を捻り出します。

「その、物理的な量が……神崎さんがゲストだと予告したのが一週間前のことですが、まさか神崎さん宛に五百枚を越えるハガキが届くとは思いませんでした」

「なんと……!勤勉な下僕を持って我が心は歓喜に震えているっ!(わあ!ファンのみなさんありがとうございます!)」

因みに前回の私のソロ状態の番組だと八十枚くらいだったはずです。およそ六、七倍です。流石は第二回シンデレラガールといった所でしょうか。……羨ましくなんかないですしぃ……。

それよりもお仕事に心を戻します。


「なので今回は前もってハガキを厳選させて頂きました。……少々心苦しいのですが……その、許してくださいぃ……」

「して、我に目通りすること叶った幸運な紙片は如何に?(それで、どんなハガキが来たんですか?)」

「はいぃ、こちらになりますけど……いちまいめ」

スタッフさんによって厳選されたハガキの山の中から一つ捲ります。

「えっと……

ラジオネーム:双翼の片割れ 様

『初めまして、ということになるのかな。このハガキが読まれたということは今頃僕は喜びという感情を覚えていることだろう。そのくらいキミのファンということさ。

早速本題に入ることにしよう。神崎さんは絵を嗜んでいると聞くけど、実際何か習ったことがあるのかい?なんでもアイデアスケッチを元に衣装製作が決まったこともあったらしいと聞いてね。差支え無ければ教えて欲しい』

……だそうです。神崎さん、どうでしょう?」


「我この人知ってる気がする……んん゛っ、神の目を欺きグリモワールに術式を刻むことは常に我自身との闘いであり、誰に導かれるものではなかった……しかし流した雫の結晶は芽吹き大輪の花を咲かせた!(絵を描くのはいつも一人で、教わったことはないです。でも続けていった内に衣装の元デザインにもなったので嬉しいです!)」

今素が少し出ましたよね。とは言いにくいのでスルーします。こういう優しさも大事なんだってプロデューサーさんも言っていました。プロデューサー自身は優しくはないです。

「つまり独学、というわけですね……。それでも結果が残っているあたり継続は力なりと感じます。もりくぼもよく絵を描くので分かります」

「おお!森の精霊も同士であったか!(乃々ちゃんも絵描くんですね!)」

「はい……。といっても神崎さんとは……その方向性は多分違いますね」

「というと?」


「もりくぼは……その、絵本作家になりたくて……子供向けの挿し絵とかを練習してるんです。ラジオとかで言うの……初めてで、少し恥ずかしいんですけど」

「否!その夢想、恥じる事など無い!その幼き翼、大いに育てよ!(恥ずかしがることなんかないですよ。立派な夢、頑張って実現させましょう!)」

「……ありがとうございます。この夢だけは、諦めたくないので」

「うむ!道行く先は違えど、共に歩もうぞ!(目標は違っても、一緒に頑張ることもできますしね!)」

輝子さんやプロデューサーさんが言っていた通り個性的ですが、とても良い人だとありありと伝わります。
アイドルの皆様方にも創作に強い方も居るようなのでまずはそういう方から作品を見せていけたらな、なんて。


「さて、一枚目はこのあたりにして。次の一枚を神崎さん」

「さぁ、我が手が取ったアルカナは?(どんなお話かな~?)

ふむ、ラジオネーム 締切り三日前様

ええと『やみのまっス神崎さん!』や、やみのま~……

『自分、漫画家なんスけど、ラジオネームの通り締切りが三日前でピンチなんスよ。でもそれなのに中々作業が進まなくて。きっとこれは自分に甘えてるんス!なので神崎さんに一喝して欲しいっス!』

ふむ……世界を内包せし大樹の憂鬱、どうしてくれようか(漫画家さんのお悩み、どうしましょう)」

このコーナーに不思議な職種からお手紙を頂くのは珍しくありません。漫画家さんから頂くのは初めてですが良いアドバイスを……。


「あっ……」

「そのホルスの眼に何か映ったか?(何か思い付きました?)」

とても悲しいことに気がついてしまいました。

「いえ……多分これは言わなくて良いことなんです」

「しかし、天啓に至る至言になるかもしれないわ(もしかしたら良いアドバイスや渇になるかもしれませんし)」

神崎さんは身を乗り出して手助けしようとしています。魔王というよりは天使に近いその心もち、皆さん真似してくれたらきっと素敵な世の中になるのでしょう。言語は真似しないで欲しいですけど。そんな神崎さんに悲しい事実を伝えます。

「…………その、お手紙を投函した日は、恐らく神崎さんがゲストだと予告した一週間前です。その時点で締切り三日前だとするともう……………………」

「あっ……い、否!彼の者は自らの運命を予言し我らに未来を託したのだ!(で、でも今日が締切り三日前だという前提で投函したのかも……)」

「だと、いいですね。私はそう切に願っているんですけど……」

「……」

「……」


静寂が空間を包みます。およそ20秒。完全に放送事故です。ですが、このお手紙はそれほどに悲しかったのだと弁明させてください。

「さ、さて、お時間も良い頃になりました。次を最後のお手紙とさせていただきます。というわけで……じゃかじゃかじゃか……じゃん」

山から捲った最後の一枚のハガキ。
その宛名は……


「えっとラジオネーム まゆですよぉ様……えっ」

「我この人知ってる気がする……」

「……奇遇ですね。もりくぼの聖域の近所にも同じ名前の方が暮らしています。とと、続きを

『まゆですよぉ』

二回言いましたね!?まゆさんですよねこのハガキ!

『私、いつもお世話になっている人に手料理を振る舞おうと思っているんです。でもその人の好みは知っていても、普通に美味しく作るだけなら他の方がよくやっているんです。何か区別するための一工夫を一緒に考えてくれませんか?』

お悩み自体は普通なんですけど……いえ、馬鹿にしている訳ではなくてですね」

「普遍的な試練こそ我らの真の力が試される時……!(普通のお悩みこそ私たちの腕の見せ所ってことですね!)」

「そう、それです!」

なんだか翻訳文を見なくても神崎さんの言いたいことが伝わってくるような気がします。慣れなのでしょうか。慣れてしまったのですね。嗚呼、もりくぼはまた一つ常識から外れてしまいました。

それはともかくこのお悩み、どうしましょうか。
……恐らくお世話になっている人はプロデューサーさんでしょう。美味しく料理を振る舞っているという方は幾らか心当たりがあります。

この問題、どう解決してみせたものか。
神崎さんの顔を見ると難しそうな顔をして悩んでいる様子。

「あ、愛情を込めて作る……のは、既に十二分に込めてそうですね……」

十二分にというよりか十二割くらいが愛情ではないでしょうか。

「如何なる供物を振る舞うのか……欠けし真実が揃う時こそ祝福の鐘が鳴り響くであろう(どんな料理が好みなのか書いてあれば……具体的に話せたかもしれないのに~)」

神崎さんが力なく机に突っ伏します。
……んぅ?何か引っ掛かりました。もりくぼの口が勝手に動き出します。

「……祝福の……お祝い…………誕生日……記念日?」

「それー!流石は森の精霊よ!!(流石は乃々ちゃん!)」

神崎さんは突然机に手を叩きつけ身を乗りだしマイクを手に掴みます。その目は爛々と輝き、楽しげです。言いたいことが決まったのでしょう。

なんだか翻訳文を見なくても神崎さんの言いたいことが伝わってくるような気がします。慣れなのでしょうか。慣れてしまったのですね。嗚呼、もりくぼはまた一つ常識から外れてしまいました。

それはともかくこのお悩み、どうしましょうか。
……恐らくお世話になっている人はプロデューサーさんでしょう。美味しく料理を振る舞っているという方は幾らか心当たりがあります。

この問題、どう解決してみせたものか。
神崎さんの顔を見ると難しそうな顔をして悩んでいる様子。

「あ、愛情を込めて作る……のは、既に十二分に込めてそうですね……」

十二分にというよりか十二割くらいが愛情ではないでしょうか。

「如何なる供物を振る舞うのか……欠けし真実が揃う時こそ祝福の鐘が鳴り響くであろう(どんな料理が好みなのか書いてあれば……具体的に話せたかもしれないのに~)」

神崎さんが力なく机に突っ伏します。
……んぅ?何か引っ掛かりました。もりくぼの口が勝手に動き出します。

「……祝福の……お祝い…………誕生日……記念日?」

「それー!流石は森の精霊よ!!(流石は乃々ちゃん!)」

神崎さんは突然机に手を叩きつけ身を乗りだしマイクを手に掴みます。その目は爛々と輝き、楽しげです。言いたいことが決まったのでしょう。

間違えて二回送ってしまいました




「良いか紙片の主よ!如何なる貌をした供物であろうと無造作に捧げるなど愚の骨頂!その強き想念を遂げた日でも、恩人と邂逅を果たした日でもよい!強き想いが詰まった日にこそ振る舞うべきである!(まゆですよぉ様!どんな料理でもテキトーに振る舞うのはよくありません!付き合った記念日や出会った日でもいいので、思い出のある日にこそ振る舞って二人で思い出に浸るのです!)」

ひと息に言い切ります。演説のように高らかな声がよく響き渡ります。

「おぉ……流石は魔王様……ということですね。振る舞った後のことまで……」

「うむ!思い出、大事にしたほうが良いから…………」

……!今、一瞬素が出ましたね!?出ましたね!?
これが俗に言う魔王デレなんですか。比率は9:1なんですか。

そしてスタッフさんが「そろそろお時間です」とカンペを出してくれます。丁度良いタイミングです。

「さて、早いものでもう時間が来てしまいました……。今回ももりくぼこと森久保乃々と、ゲストの」

「神崎蘭子よ!しかと覚えよ!」

「また二週間後をお楽しみに~……ですけど」

こうして今日も無事にお仕事を終え、もりくぼは森に帰るのでした。


────────



「フフ、お疲れ様……」

「本当に疲れたんですけど……」

収録の次の日。レッスンを終えプロデューサーさんの机の下で昨日の顛末を輝子さんに報告していました。

「言葉は難しい……不完全……だが心根は伝わった、そうだろ?」

輝子さんが何を言わんとするかはもう分かってます。

「そう、ですね。神崎さんは凄い方でした。色々と」

本当に色々と。

「分かって貰えたようで……何よりだ」

友人を理解して貰えたことに喜びを感じているのか、そうじゃないのか。それは分かりませんが、輝子さんは嬉しそうにふにゃりと笑いました。



「輝子さん……もりくぼ、また神崎さんにお会い出来ますかね」

それはなんとなく口を付いて出た言葉でした。一回共演しただけでは飽きたらず、また会いたくなったのです。あの独特な語り、その内側で隠れた努力をこなす素敵なアイドルに。

「与えよ、さらば与えられん……だったか?探しに行ってみたら案外見つかるかも……しれない」

「それ聖書の言葉ですけど……。メタラー的に良いんですかそれは」

「別にブラックメタルみたいに過激派ではないから、な」

そんなことを話ながらもりくぼ達は帰路に着きます。輝子さんを寮に送り、迷宮のような渋谷駅から少し離れた神奈川の自宅まで戻ります。

いつもは窮屈な車内に鬱屈とした思いを溜め込む所ですが、今日は、今日だけは、神崎さんに見せたい絵本のことを考えるのでした。


以上になります

pixivの方はこちらになります

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10133804

ではまたいつか

アイドルさんちょっとハガキ出しすぎじゃないですかね…

>今回で三回目を迎えるこの「乃々のノーノーラジオ」
初回、2回目もどっかにあったりします?

一回目二回目はないです
アイドルとして仕事をもらってそれなりにやってきたという時間経過の表現の一つとして入れただけなので気にしないで下さい

なんでRの方の依頼スレで依頼してるんだろう

ご指摘ありがとうございますm(__)m
pixiv以外に投稿したり書き込みをするのは初めてでして……申し訳ないです
vipの方に依頼を再度しました(合ってるか分からない)

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