~派出所~
両津「それは一体どういう事なんだ?中川」
中川「ええ、どうやら最近そういう話が出ているようですね」
麗子「そうよ。何でもトイレのノックが2回だから失礼に当たるって」
両津「聞くのは初めてだぞそんなの…」
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両津「大体、わしはそんなの気になった事なんて今まで一度もないぞ」
中川「ええ、僕も今までそんな事は全く…」
両津「それに大体な、トイレのノックは2回と決まっているもんなのか?」
中川「言われて見ればそうですね」
麗子「ええ、特にそう決まってるってわけじゃないものね」
両津「よく、映画なんかでトイレをドンドンドンと何回もノックしてる場面があるだろ!」
中川「ええ、それにそもそもノックは注意を呼びかけるためのものですから、多くやるのは逆に失礼とも考えられますし…」
麗子「じゃ、ノックは控えめにやるのが一番マナーに合ってるって事になるかしら?」
両津「なら、わしらは今度からトイレをノックする時は3回やる事にしよう」
中川「え?トイレのノックを3回ですか?」
麗子「どうして両ちゃん?」
両津「そうすれば、2回はトイレのノックじゃなくなってマナー違反とか言われなくなる!」
麗子「子供の言い訳みたいね…」
両津「まったく、バカバカしい。わしは今まで通りノックは2回で通すからな」
中川「ええ、僕もそれでいいと思います」
麗子「けど、着替えてる時にノックなしにいきなり扉を開けるのはやめてね」
両津「だいたい、そんな事誰が言い出したんだ?」
麗子「近ごろ、マナー講師がそういうのを広めるらしいわね」
中川「そうみたいだね」
両津「マナー講師?何だそれは?」
麗子「ええ、テレビなんかに出て、これがマナーですと誰も知らないような新しいマナーを…」
両津「勝手に作るのか?新しいマナーを?」
中川「そうですね。例えば相手にお酒を注ぐときは、徳利の注ぎ口から注いではいけないとか…」
両津「何だそれは?」
中川「何でも、円の切れてる部分なので縁の切れ目を意味するからだそうです」
両津「それじゃあマナーじゃなくて単なるダジャレだろ!」
麗子「あと、戦国時代徳利の注ぎ口には毒が塗られる場合があってそれを避けるためとも言ってたわね」
両津「わしは聞いた事がないぞそんな話…」
両津「それじゃ戦国時代の武将はバカだろ。注ぎ口以外にも毒が塗ってあったらどうするんだ」
中川「さぁ…」
両津「それで、安心して飲んだら逆に毒入りだったりしてな!」
麗子「確かに、注ぎ口以外から注いだからって安全とは言えないものね」
両津「わしなら、逆にその思い込みを利用して部長に毒を…」
麗子「両ちゃんならやりかねないわね!」
両津「だいたい、注ぎ口以外から注いだら酒がこぼれてしまうかも知れんだろ」
両津「まったく…。マナー講師とやらは本気でそんな事言ってるのか?」
中川「さぁ…どうでしょう。何か考えあっての事かも知れませんけど」
両津「とにかくだ!意味ない事をマナーだといって広められたら面倒でかなわんな!」
中川「ええ、その通りです」
麗子「今まで何でもなかった事も、マナー違反と言われたらつい意識しちゃうものね」
中川「マナーを広める側も、そういう所を考えるべきですね」
麗子「そうね。根拠のないマナーを広める事こそが最大のマナー違反かも知れないわね」
両津「確かにな。今まで何でもなかった事が、ある日急にマナー違反と言われたら…」
両津(・・・ん?)
両津(考えてみれば、今まで誰も気にしなかった事をマナーと言い張ればマナーになるんだな)
両津(これはいわば、先に言ったもん勝ちという事か?)
両津(そうなると、ハッタリにかけてはわしは誰にも負けない自信がある…)
両津(これは、ひょっとすると大もうけのチャンスかも知れんな!)
両津「ちょっと、急用を思い出した。わしは帰るぞ」
中川「あっ、先輩?…行ってしまった」
麗子「どうしたのかしら急に?」
~数日後~
麗子「ここ何日か、両ちゃんの姿を見ないわね」
中川「うん、しばらく休むと署の方には連絡があったみたいだけど…」
部長「みんな、ちょっとテレビを点けてみろ」
麗子「あ、部長」
中川「どうかしたんですか?」
部長「今日、両津から昼のテレビ番組に出ると連絡があってな」
麗子「え?両ちゃんが?」
中川「テレビにですか?」
部長「ああそうだ。あのバカ、仕事をサボッて一体何を…とにかく、テレビを見てみよう」
司会「…さて、これで納得!マナー教室のお時間がやって参りました」
司会「お話しして頂くのは、マナー講師の間名厚志(まな こうし)先生と、両津・パトリック・勘吉先生です」
マナー講師「宜しくお願いします」
両津「うおっほん!宜しく」
司会「特に、両津先生は小さい頃からイギリスで育ち、マナーには大変お詳しいそうです」
両津「その通り!わしは、マナーの神様と呼ばれておる」
司会「これは、大変楽しみですね。それでは早速、お二人にマナーについて語ってもらいましょう」
中川「先輩、いつの間にかマナー講師になって…」
麗子「イギリス育ちだなんて、よくあんな嘘を…」
部長「両津がマナー講師だと?あいつは、存在そのものがマナー違反みたいなもんだろうに」
司会「えーそれでは、最近話題になっているノックをする時のマナーですが…」
マナー講師「ええ、2回するのはトイレのノックですから、会社などでは3回に…」
両津「異議あり!」
司会「え?両津先生、違うんですか?」
両津「そうだ。ノック2回はマナー違反でも何でもない」
司会「そうなんですか、それは一体どうして…」
両津「そもそも、ノックとは人の注意を呼ぶためのものだ」
両津「そう何回もやればいいってもんでもない。多くやるのはかえって失礼」
両津「ノックは、少ない方がマナーにかなっている!」
司会「うーん、確かに…」
オー
オー
部長「あいつにしては、まともな事を言ってるじゃないか」
麗子「この前の、圭ちゃんの受け売りですけれどね」
中川「しかし、先輩の勢いで人を納得させる才能はすごい…」
司会「という事は、今まで通りノックは2回がマナーという事でよろしいでしょうか」
両津「誰がそんな事を言った」
司会「え?違うんですか?」
両津「そうだ。ノックは1回だけやるのがマナーだ」
司会「え?1回だけ?」
両津「ああ、ノックは少ない方がマナーにかなうと言ったろ?それでお前達も納得しただろ」
司会「た、確かにそうですが…」
マナー講師「う、うーむ…」
部長「言質を取って、無理やり無茶な言い分を押しつける…あいつは、サギ師の素質があるな!」
中川「もしかして、マナー講師は先輩の天職かも知れませんね…」
麗子「本当に、変なところで才能を発揮するわね!」
司会「しかしそれでは、ノックに気付いてもらえない時もありませんか?」
マナー講師「そうですよ、それじゃノックの意味が全く」
両津「だから、思いっきり力を入れてやるんだ。1回で気付いてもらえるようにな!」
両津「力を入れて、思いっきりドアをバンと一回ぶん殴る!」
両津「これが、ノックの正しいマナーだ。わしの育ったイギリスではそうだった」
「はあ…」
オー
オー
部長「それのどこがマナーなんだ、あのバカは!」
中川「けれど、勢いとハッタリに押されて皆さん納得してしまってますね…」
麗子「イギリスにそんなマナーなんてないわよ!」
司会「えー、それでは次に、徳利からお酒を注ぐ時のマナーについてですが」
マナー講師「ああそれは、戦国時代では注ぎ口に毒が塗られる事もあって…」
マナー講師「あと注ぎ口は円の切れ目ですから、そこから注ぐのは縁の切れ目という意味になり」
両津「それにも、異議あり!」
司会「え?両津先生、これも違うんですか?」
両津「ああそうだ。よく考えてみろ」
司会「え?というと」
両津「注ぎ口だけじゃなく徳利の口に毒がまんべんなく塗ってあったら意味ないじゃないか」
司会「あ、ええ、それもそうですが…」
両津「そうやって毒殺された戦国武将の話なぞ、わしは聞いた事もないしな!それに…」
両津「注ぎ口は円の切れ目だから、縁の切れ目になると言っているが」
両津「酒を注ぎ口じゃない所から注いだって、結局円を切る事に変わりはないだろ?」
司会「うーん、言われてみれば確かに…」
マナー講師「ぐ、ぐーむ…」
オー
オー
部長「ああ言えば、こう返ってくる…まったく、口先だけは達者な男だな!」
中川「怒られそうになった時、必死に言いわけしてきた今までの経験が生きているんでしょうね…」
麗子「さすがのマナー講師も、相手が両ちゃんなら歯が立たないようね!」
司会「それでは両津先生、お酒を注ぐ時はどうすればマナー違反にならずに…」
両津「それはだな。ストローを使えばいい」
司会「え?ストローを?」
両津「そうだ。徳利にストローを差して出す。そうすれば」
両津「例え縁に毒が塗ってあっても大丈夫だし、円を切らずに酒が飲める!」
司会「はあ…」
オー
オー
部長「徳利にストローだなんて、バカかあいつは?」
中川「ヤクルトじゃないんですから…」
麗子「風情も何もあったものじゃないわね!」
マナー講師「ま、待て!それだと、相手に酒を注げないじゃないか!いい加減な事を言って…」
司会「あ、そうですね。両津先生、相手にお酒を注ぎたい時はどうしたらいいんでしょうか」
両津「なんだ、そんな事か。そういう時は…」
両津「ストローを、2本使えばいい。それで相手に飲んでもらう」
両津「自分も一緒に飲めるし、織田信長もそうやって家来と酒を飲んでいたと言われてるしな!」
司会「は、はあ…」
オー
オー
部長「男同士が、一つの徳利にストローを差しあって酒を飲み合う…」
部長「あいつは、とうとう頭がおかしくなったようだな!」
中川「その光景を、想像したくありませんね…」
麗子「一体、何を考えてるのよ両ちゃんは!」
両津「今までのマナーは、もう古い!」
両津「これからは、スーパーマナー講師のわしがマナーの新しい時代を切り開いて見せる!」
司会「いやぁ、素晴らしい!両津先生、大変勉強になりました!」
ワー
ワー パチパチ…
麗子「みんな、両ちゃんの口のうまさとハッタリにすっかり乗せられちゃったみたいね」
中川「ひどい内容でしたね…」
部長「バカバカしい…。ま、両津の言う事に引っかかるヤツなんぞおらんだろうがな」
部長の予測に反し、スーパーマナー講師両さんがそのハッタリと口のうまさで
新しく作り出すマナーは、人々の爆発的に広まった。
多少おかしな所があっても、これがマナーだと力強く断言する両さんの強引な語り口に
多くの人がつい納得してしまった。
発行する新しいマナー本は爆発的に売れ、
そのあおりで従来のマナー講師はほとんど姿を消してしまった。
しかし…
~宴会場~
署長「やーやー大原くん、いつもご苦労だね」
部長「いやあ、あのバカが何かやらかさなければ、もっと苦労せずにも済むんですが」
署長「まぁまぁ、とりあえず一杯やろう。それじゃ…」
部長「いやー、どうも済みませんな…ん?」
署長「ん」
部長「あ、あの署長、徳利にストローなんか2本差して、片方咥えて差し出されましても…」
署長「なんだ大原君、知らないのか?こうするのがマナーなんだそうだ」
部長「署長、あのバカの言った事を間に受けて…」
署長「いや、周りのみんながやってるんだぞ?ほら大原君」
署長「ん」
部長「い、いや署長、こんな気持ちの悪い絵面もめったにないといいますか、何といいますかその…」
バァン!
部長「うおっ!?」
店員「刺身盛り合わせ、お待ちい!」
部長「こ、こら、何て乱暴な!扉は優しくノックせんか全く!」
店員「えっ、でもこうするのがマナーだって店長に習って…」
部長「両津、あのバカは…!」
署長「何だ、大原くんはマナーを知らないのか?」
署員「ん…」チュー
署員「ん…」チュー
署長「ほら、みんなやってるじゃないか。さ、大原くん、ん…」
部長「…」
部長「うおっぷ」ダッ
署長「あ、どこへ行くんだね大原くん?」
~翌日、派出所~
部長「両津!両津の大バカ者はどこだ!」
中川「あ、部長。それが最近、マナー講師の仕事が忙しいらしくって…」
麗子「ほとんど派出所に顔を出さなくなっちゃったわね」
部長「あいつが、適当な事をマナーだといって広めるからとんでもない事に…!」
中川「最近、ますます調子に乗ってさらにとんでもない事を言ってるみたいですよ?」
麗子「ええ、何でも両ちゃんを見かけたら100円あげないとマナー違反だとか…」
部長「あのバカ…今度あいつが派出所に顔を出したら、これ以上ないぐらいにきつくお灸を据えて…!」
バァン!
部長「うおっ!?」
麗子「きゃあっ!?」
中川「うわっ!?」
両津「どーもどーも皆さん、元気でやってますか?」
両津「スーパーマナー講師の、両津勘吉です」
部長「両津!この大ばかもの!入ってくる時に扉を殴るんじゃない!」
麗子「そうよ両ちゃん、心臓が止まるかと思ったじゃないの!」
中川「すっかり、マナー講師になり切ってしまっている…」
部長「両津!おかしなマナーを作って広めるのは今すぐやめんか!お前のお陰で、多くの人が迷惑して…」
両津「あ、部長」
部長「ん?何だ」
両津「私に、えらそうに指図するのはマナー違反ですよ?」
部長「こいつは…!」
中川「部長!どうか抑えて…」
両津「私より、部長の階級が上なのはマナー違反ですとでも言えば」
両津「部長なんて、すぐにヒラに降格ですからね!」
部長「ぐぬ…!」
中川「先輩なら、本当にやりかねないから恐ろしい…」
麗子「あれじゃ、まるで暴君ね」
両津「いやぁ、マナーが正しく守られる世の中は素晴らしいですね!」
両津「今日は、マナー知らずの部長に私が特別にマナーを教えて差し上げ…」
ピリリ…
両津「おっと、電話か。はい、もしもし」
両津「なに、講演の依頼?わしは今忙しくてな!」
両津「なに?金に糸目はつけない?わかった、それじゃ今から打ち合わせに…」
部長「世間の人間も、いいかげんなマナーに流されるからあの男が調子に乗るんだ!」
麗子「本当に、困ったものね」
中川「うーん…。何とかする方法はないでしょうか」
麗子「それじゃあ、こういうのはどう?」
中川「どうするんですか?」
部長「何か、いい方法でもあるのか?」
~1週間後、迎賓館前~
両津「いやぁ、スマンな!二人とも待ったか?」
麗子「いいえ、私たちも今来たところよ」
中川「時間はまだ十分ありますから」
両津「しかし、ヨーロッパの公爵や伯爵を招いた麗子主催の晩餐会か!それにわしも招待してくれるとはな!」
麗子「だって、両ちゃんも有名人じゃない」
両津「ははは!いやぁ!まあな!」
中川「先輩だって、決して引けは取りませんよ」
両津「とびっきりうまいものが、たくさん食えるんだろ?」
麗子「ええ、普段は宮廷に勤めてる超一流のシェフを招いて…」
中川「それに、食材もこれ以上ないぐらいに最高のものが用意されてますよ」
両津「うひょう、聞いただけでヨダレが止まらんな!それじゃ早速…」
麗子「その前に、両ちゃん」
両津「ん?何だ」
麗子「両ちゃんは、テーブルマナーは大丈夫よね?」
両津「あ…あたり前だろ。わしを誰だと思ってるんだ、スーパーマナー講師両津勘吉だぞ?」
中川「良かった、それを聞いて安心しました。格式の高い晩餐会ですから」
中川「世界経済にも大きな影響を持つ皆さんの前で、基本的なマナーも知らないようなマネをされては…」
麗子「大恥なんてもんじゃないわよね!」
中川「きっと、日本の評価そのものが下がって、経済にも大きな影響が…」
麗子「そうなったら両ちゃん、もうマナー講師なんて名乗れないわね」
両津「い、いやぁ、任せておけ!何せ、わしはマナーの神様だからな!」
両津(う、うーむ、ちょっと安請け合いをし過ぎたか?)
両津(貴族が集まる晩餐会に出て、ちょっと豪勢な飯を食うだけで)
両津(箔がついてわしの名も売れ、ますます懐に金が転がり込んで一石二鳥と思ってたんだが…)
両津(ま、まぁ、何とかなるだろ!)
両津「え、えーっと服にシワは寄ってないよな?冠婚葬祭の時ぐらいにしか着ないスーツなんだが…」
麗子「ふふ…。両ちゃん、すっかり騙されてるわね」
中川「どうやら、バレる心配はないようだね」
・
・
・
~回想~
部長「ニセの晩餐会を開くのか?」
麗子「はい部長、私がヨーロッパの貴族を招いて主催したといった感じで…」
中川「それで麗子さん、どうするの?」
麗子「もちろん、両ちゃんはテーブルマナーなんて知らないわよね」
麗子「インチキマナー講師なんだから。それで、たっぷり恥をかかせてあげれば…」
中川「うーん…。確かに、晩餐会で大恥をかけば先輩のマナー講師としての立場はなくなるね」
部長「その様子が世間に伝われば、みんなも目を覚ますかも知れんな!」
麗子「きっと、上手く行くわよ。両ちゃって単純なんだから」
中川「そうかも…。部長、どうでしょうか?」
部長「そうだな、君たちに任せてみるか」
・
・
・
両津「どこか、ほつれてたりしないかな?うーむ、何だか緊張してきたぞ…」
麗子「両ちゃんの勝手に作ったマナーなんて、通用しない事を思い知らせてあげるんだから」
中川「果たして、先輩はどう振舞うんだろうか…」
麗子「ところで、両ちゃん」
両津「ん?どうした?」
麗子「蝶ネクタイはどうしたの?」
両津「ネクタイ?ネクタイならこうしてちゃんと…」
中川「いえ、蝶ネクタイですよ先輩」
両津「蝶ネクタイだと?ああ、リボンみたいになってるあれか!それがどうかしたのか?」
麗子「それがどうしたの、じゃなくって。招待状にブラック・タイでお越しくださいって書いてなかった?」
両津「ああ、だからこうして黒いネクタイをして…」
中川「いえ、先輩…」
中川「ブラック・タイとは、タキシードと蝶ネクタイ着用の事を言います」
中川「格式ある晩餐会に出席する時には、その格好をするのが基本です」
中川「それからホワイト・タイというのもあって、これはより格式の高い場で着用する…」
麗子「ドレス・コードって言うのよ。知ってるわよね?」
両津「あ、当たり前じゃないか。わしはスーパーマナー講師だぞ?」
中川「先輩が着てるのは、冠婚葬祭用の黒いスーツですか…まあ、それはいいとして」
中川「それに普通の黒いネクタイ着用では、お葬式に出席するドレス・コードという事に…」
麗子「まさか両ちゃん、知らなかったわけじゃないわよね?」
中川「ええ、マナー講師ともあろう先輩が…」
両津「い、いや!もちろん知ってたさ!ちょっと、親戚の法事に出席して来たからな!」
両津「蝶ネクタイは、こうしてちゃんとポケットに…あれ?どっかに落っことしたかな?」
両津「ちょっと、探してくる!二人とも待ってろ!」
麗子「逃げたわね…」
中川「まさか、こんな初歩的な所でつまづくとは…」
麗子「ま、でもこれで服装の基本的なマナーも知らなかったって事になるわね」
中川「そうだね、マナーを教える人間としてはあるまじき事に…」
麗子「きっと、週刊誌が嗅ぎ付けてあっという間に…」
両津「おーい!」
両津「二人とも、待たせたな!」
麗子「…え?」
中川「先輩、蝶ネクタイが見つかったんですか?」
両津「ああ、近くに落っこちてた。すぐ見つかって助かったよ!」
麗子「両ちゃん、随分ハデな蝶ネクタイね?」
中川「ええ、まるでアゲハ蝶ですね」
両津「ん?」ピク
麗子「きゃあ!動いてるわよそれ?」
中川「先輩、それはもしかして蝶ネクタイじゃなくて蝶…」
両津「さーて、行くとするか!マナー講師のわしだ、晩餐会など怖るるに足りん!」ヒラヒラ
麗子「両ちゃん、羽ばたいてるわよそれ?」
中川「その格好で晩餐会に参加しようとは、すごい度胸だ…」
~晩餐会会場~
麗子「本日は、お集まり頂きまして…」
両津「うーむ、外国人だけかと思っていたが意外と日本人が多いんだな!」
両津「ま、麗子が招待したんだろうから不思議でもないか」
客「あ、もしかしてあなたはマナー講師の両津さん?」
両津「ん?そうだが」
客「いやー、いつもテレビで拝見してますよ!」
両津「おおそうか、わしも有名になったもんだ」
客「…それにしても、素敵な蝶ネクタイをしていますね」
両津「ああ、晩餐会には蝶ネクタイをして出るのがマナーだからな!」ヒラ
客「うおっ!?」
両津「マナーは、きっちりと守らなくてはいけませんな!がっはっは…」ヒラヒラ
中川「蝶ネクタイじゃなくて、蝶をつけるのはマナーに合ってるんだろうか…」
麗子「周りの人達も、戸惑ってるわね…」
麗子「それでは皆様、お食事をお楽しみ下さい」
両津「よっしゃ!やっとメシが食える!」
両津「…それにしても、テーブルの上に色々とゴチャゴチャあるもんだな」
両津「ナイフにフォークに、スプーンが何本も…箸だけでいいだろ、まったく!」
両津「っと、わしはマナー講師だからな、ここで下手をうてばマナー講師としての地位が…」
給仕「こちら、前菜のスープになります」
両津「うほっ、うまそう!それじゃ早速いただき…」
周り「…」ジロ…
両津「ん!何だ」
周り「いきなり、違うスプーンで…」
周り「ああ、あれはデザート用のスプーン…」ヒソヒソ
両津「な、何だ?もしかして使う順番が決まってるのか?」
両津「えーと、これか?いやいやそれとも…」
周り「…」ジロジロ
中川「周りの反応をうかがいながら、手探りで正解を探している…」
麗子「ナイフやフォークは、外側に置いてあるのから使うのがテーブルマナーの基本なのにね!」
両津「ふぅ!たかがメシを食うのに面倒でかなわんな!」
両津「あー、緊張したらのどが渇いてきた、何か、飲むものは…お、丁度いい。これを」
両津「ゴックゴック…ぷはー」
ザワッ
周り「…」シーン…
両津「ん?な、何だ何だ?」
麗子「両ちゃん、手洗い用のフィンガーボウルの水を飲んじゃったわね…」
中川「先輩のあまりの非常識さに、会場中が静まりかえっている…」
両津「な、何なんだお前ら!さっきからわしが何かするたび…」
麗子「待って、両ちゃん」
両津「麗子?」
麗子「…」ス…
両津「お、おい?」
麗子「ふぅ、おいしかった」
オー
オー
周り「おおー!白鳥家のお嬢さんも!?」
周り「手洗い用の、フィンガーボウルの水を飲んでしまった…」
麗子「これは、こうして水を飲む用に置いてあったものです」
麗子「ですので皆さん、両ちゃんは特別おかしな事をしたわけではなくて…」
両津「れ、麗子…」
両津「…そうか。麗子は、わしに恥をかかせないようにああやってわしと同じように」
両津「それに比べてわしは、自分勝手にマナーを作って」
両津「それを知らなければ、マナー知らずと罵って恥をかかせ…」
両津「…すまん、麗子」
両津「わしが、間違っていた…」ひいい…
麗子「両ちゃん。知らない人に恥をかかせるのがマナーじゃないの」
麗子「一番のマナーは、人に配慮する事よ」
周り「その通り!」
周り「いやー、すばらしい!さすがは白鳥家のお嬢さんだ!」
パチパチパチ…
中川「さすがは麗子さん。先輩も目を覚ましてくたみたいで、良かった…」
~翌日の派出所~
両津「いやー、それにしてもマナーというのは奥が深いな!」
中川「そうですね。元々はちょっとした配慮だったものが、いつの間にか形式的になってしまったり…」
両津「今じゃ、時代に合わなくなったマナーもずい分とあるかもな」
中川「ええ、元の意味が薄れてしまったマナーは思い切って変えていく事も必要だと思いますね」
両津「結局、あんまり固く考えずに自然にしとくのが一番なのかも知れんな!」
中川「そうですね。それにマナーを知らなかった人への配慮も欠いてしまっては…」
麗子「両ちゃん!」
両津「ん?お、おお麗子」
麗子「私の机の上に、エッチな本置かないでよ!」
両津「べ、別にいいじゃないかそのぐらい。ちょっと置いといたぐらいでそんな怒らなくても」
麗子「両ちゃんって、本当に配慮がないわね!女性の机の上にエッチな本置くなんて!」
麗子「もう、そのぐらいのマナーは守ってよ!」
両津「ひえ~っ、もうマナーは懲り懲りだ~」
中川「最低限のマナーだけは守りましょうね、先輩」
おしまい
以上でした
依頼出して来ます
おつ
おつ
>>周り「いやー、すばらしい!さすがは白鳥家のお嬢さんだ!」
白鳥麗子は別の漫画(ドラマが有名)。
秋本では?
話は面白かった
面白かった
久々に本家のノリを思い出した
乙
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