【ミリマス】七尾百合子「おやすみの挨拶」 (37)


アイドルマスターミリオンライブ!のSSです。

書き貯めなし、のんびりと投稿していきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1554643175

>>1

立ててくれた方、ありがとうございます!

それでは投稿していきます。



4月某日。

765プロに所属するアイドル七尾百合子と、同じく765プロでプロデューサーを務めるPは白雲を眼下に眺めながら空を飛んでいた。まだ夏を迎えるには早いどころか春を迎えたばかりだが、芸能業界では流行や季節を先取りした企画が次々と立案される。年始の番組を年内に撮ってしまうなんてことは、この業界では当たり前だ。それはアイドル業も例外ではなく、2人は水着のグラビア撮影のために南国へ向かっていた。

いたいけな15歳の少女の水着姿なんて、犯罪まがいじゃないか?
と、Pは機内でとりとめもない思考を巡らせる。もちろん、少女の両親の下へは説明に伺い、許可をもらってはいるものの、尾を引くものがないと言えば嘘になる。せめて、水着のグラビアを掲載するのは高校生以上になってからにしたほうがいいのではないか。彼はそう考えているが、芸能業界に関わる者として頭が固すぎるかもな、と結論付け思考をストップする。

こてん。
重さを感じ、そちらに軽く目線を向けると、眠りに落ちた百合子がPの左肩にもたれかかってきていた。その汚れを知らないであろう無邪気な寝顔を見て、俺が盾になって守ってやればいいか、とPは胸の内に決意を固める。

そんなことを百合子に言えば、「私が風の戦士でプロデューサーさんが剣闘士…カッコイイですね!」とか喜びそうなので絶対に口には出さないが。

Pは座席の前ポケットに収納してあった自身のスマートフォンを取り出し、カメラを起動した。
パシャリ。

百合子の寝顔の写真、765プロの公式ツイッターにでもアップしておこう。

◆◆

もう!プロデューサーさんったら信じられません!私の寝顔を勝手にツイッターにアップしちゃうなんて!

目的地である南国に到着し、まずはホテルに荷物を置きに行くために空港からシャトルバスで移動する。その最中、765プロのアイドル達が懇意にしている女性スタイリストが後ろの席の百合子に声をかけた。

「ねぇねぇ、百合子ちゃん。百合子ちゃんってツイッターってやってるっけ?」
「いえ、私そういうのに疎くて…やってみたいなーとは思ってるんですけど」
「そうなんだ。じゃあこれまだ見てないね」

女性スタイリストはそう言いながら、自身のスマートフォンに表示されたツイッターの画面を百合子に見せる。

「…っプロデューサーさん!」

百合子は隣の席で何食わぬ顔で窓の外を眺めていたPに怒鳴りつけた。

「どうした百合子。腹でも痛いのか」
「隣で話聞いてましたよね!?なんで寝顔を勝手にアップしちゃうんですかぁ!」
「別にいいだろ。可愛かったからファンにも共有したかったんだよ」
「かわっ…」
「ちょろすぎだろお前」
「~~~もうっ!」

プロデューサーさんはデリカシーってものをどっかに置いてきちゃったんじゃないでしょうか。ふんっ、とわざと口に出して顔をプロデューサーさんから背けます。私はホントに怒ってるんですからね!

そうやって顔を背けた先にはスタイリストさんがニヤニヤしながらこっちを向いていました。

「あいかわらず765さんは仲がいいね」

もうっ!みんなしてからかわないでください!!

◆◆◆

ホテルに荷物を置き、撮影をするための海辺に到着。百合子は着替えるために、黒いカーテンで車内を隠した車に乗り込んでいった。海辺には民間が営業している海の家や脱衣所があるものの、万が一の事態があってはいけないという配慮から車内での着替えとなっている。Pは百合子が車内に入っていくのを確認した後に、現地のスタッフと撮影の段取りを確認しに向かった。とはいえ、撮影だけなのだからカメラマンに基本的に任せ、撮影後に使用する写真の確認や修正等で動くことになる。つまり、撮影が終わるまではPは手持無沙汰である。

一応パソコンもって来といてよかったな。

「プロデューサーさん!」

大きめの白いタオルを羽織った百合子がPがいるパラソルの下まで駆け寄ってくる。

「こんな時にまでお仕事ですか?」
「こんな時にまでお仕事するのがプロデューサーというお仕事なの」
「担当アイドルが撮影しているのにですか?」

そういって百合子が自然にPのすぐ横に腰を下ろす。
こういうとこが無防備で心配になる。Pは内心ため息をつき、業務用パソコンを閉じる。隣に座った百合子からは少しの潮の香りと、女の子特有の甘い匂いがして心臓が鼓動を早める。そんなことを百合子に感づかれたくない気持ちから、Pは分かり切っていることを聞いてしまう。

「今回はいつもお世話になってるスタッフさんも多いしな。撮影は?もう終わったのか?」
「今は休憩ですよ。もう少し日が沈んでからのショットが欲しいってことで。ほら、プロデューサーさんがちゃんと見てないから把握してないじゃないですか」

そう言って百合子は分かりやすくいじける。

見てるよ。ちゃんと進捗は把握してたし、たまにこっちを見てるのも気づいてた。だから、そんな拗ねたような顔しないでくれ。

「悪かったって。ほら、なんかドリンクでも飲むか?」

Pは脇に置いてあった小型のクーラーボックスを開き、百合子に差し出す。水にお茶にアイスティー、現地にしか売っていないご当地ドリンクなどがそこには入っていた。

「プロデューサーさんってこういうとこマメですよね」

普段はあんなにデリカシーに欠けるくせに、とボソッと呟いた百合子の言葉は聞こえないふりをする。

「あ、じゃあこのジュースいただきます。んっ、美味しい!」

拗ねたり頬を緩ませたりと百合子は表情が目まぐるしく変わる。そんな百合子を見て、Pの心に悪戯心が沸き立つ。

「あ、すまん。それ俺の飲みかけだったかも」
「うぇっ!?」

なんだそのアイドルらしからぬ声は。くっくっと笑いをこらえながら、冗談だよ、と声をかける。

「もう!いい加減にしてください!」

◆◆◆◆

つーん。
百合子がそんな表現がしっくりくるような態度をとり始めてから数分が経った。最初のほうはPも悪かった、とか許してくれよ、とか声をかけていたが、途中からは言葉で機嫌を直すのを諦めたようで、苦笑いを浮かべた後、無言で海を見ている。

これでちょっとは懲りてくれたかな、なんて思うのと同時に無視はやりすぎたかな、という感情が頭をもたげる。そもそも、からかっていたのはPであり、反応する様を楽しんでいたのだから、百合子に非は一切ないのだが、本人はそのことに気が付いていない。

七尾さーん、休憩終わりまーす。スタッフの声がかかり、再び撮影に戻る時間が来た。まだ百合子がPに対して怒っている、という状況のため声をかけていくのが憚られるが、声をかけないというのも具合が悪い。脳内で思考を巡らせ、百合子は小声で行ってきます、とだけ言おうと結論を出した。そして立ち上がり、言葉を口にしようとした瞬間。

「頑張ってな。言い損ねてたけどその水着、百合子によく似合ってる。見てないなんてことないから、安心して行ってこい」

Pは見上げる形になった百合子をじっと見つめたまま、そう言った。

…やっぱりプロデューサーさんはずるい!百合子は染まった頬を見られないために、無言でスタッフたちの下へ走って行った。

◆◆◆◆◆

撮影は無事に終わり、Pと百合子は夕食のために海辺のテラス席に座っていた。他のスタッフたちとの打ち上げの予定があったのだが、お酒のある席に百合子を連れていくわけには行かないし、だからと言ってスタッフたちにお酒を抜きにしてもらうのも忍びない、という理由から辞退したのである。

「プロデューサーさん、ホントによかったんですか…?」

百合子は申し訳なさそうに尋ねてきた。別に気にすることないのに。こういう周囲に気を配れるところも百合子の美点であるとPは感じている。

「大丈夫だよ。撮影終わってからは百合子のそばにあんまりいられなかったから、メシぐらい2人で落ち着いて過ごしたいしな」

Pとしてはからかい半分で言ったつもりだったのだが、

「はい。プロデューサーさんが飲み会を断ってくれて、正直嬉しかったです、なんて。えへへ…」

と、素直に返してくるから天然はタチが悪い。

なんだよそれ、可愛すぎるだろ。

素直に返事されてしまった恥ずかしさもあり、メニューを広げてなにを食べるか相談する。

「あ、そういえばプロデューサーさんお酒飲まないんですか?」
「百合子もいるのに飲まないよ。別にソフドリで大丈夫」
「むぅ…そうですか…」

百合子は納得していない様子だったが、食べるものを決め店員を呼ぶ。来たのはPより少し年上に見える美人な女性で、担当するアイドルだったらどうプロデュースするか、なんて考えてしまう。いかんいかん、職業病だな。お互いに取り分けられるような料理を4品ほど注文し、ドリンクを頼む。

ちょっとお花摘みに行ってきますね、と一丁前に隠語を使い、百合子が席を立つ。百合子の今の服装は南国らしく、赤地にカラフルな花が咲き誇るノースリーブのリゾートワンピースで、肩口から覗く肌色がまぶしい。それ以上に、たまに肩紐がズレた時に見える下着であろうピンク色が目のやり場に困る。

南国だからってさすがに油断しすぎだろ。

Pもスーツでは息が抜けないため、アロハシャツを着ている。傍から見たらどんな風に見えているんだろうか、なんて考えが頭をよぎるが、益体もないと切り捨てる。

「お待たせしました。こちらご注文のお飲み物になります」

そう言って百合子の席には花が添えられたジュースが置かれるが、Pの前に置かれたそれはどう見てもアルコールだ。

「すみません、ソフトドリンクを頼んだと思うんですけど」
「先ほどお連れ様が、おすすめのアルコールに変更するようにと。断るかも知れないけど仕事で疲れてるだろうから、ご飯くらいはリラックスさせてあげたい、っておっしゃってましたよ。どうします?お下げしますか?」

先ほどの女性の店員は笑顔で提案してきた。なるほど、そうきたか。ここまでされて断るほどバカじゃない。いただきます、と店員に礼を述べると、

「気が利く可愛い彼女さんですね」

と言い残し席から去っていった。

…やっぱりそう見えるよな。

◆◆◆◆◆◆

他愛のない会話に花を咲かせ、料理を食べ終えても2人ともしばらくの間、席から離れなかった。時刻は短針が10を指そうとしている。普段のPであればこんなに長く話し込むこともなかっただろうが、南国という穏やかな雰囲気に加えて、少量ではあるが身体に巡ったアルコールが彼をそうさせた。

さすがにこれ以上遅くなるとまずいと判断し、店を出て宿泊するホテルへ戻る。そして、隣接したそれぞれの部屋の前で、朝食の時間などを決め、Pが部屋に入ろうとした時、百合子が口を開いた。





「あの、おやすみの挨拶、してくれないんですか?」

今私はどんな顔をしているだろう。多分真っ赤なんだろうな。普段着ないような明るめの服装も、油断しているような仕草も。きっとプロデューサーさんには全然伝わっていないんだろうな。あなたにしか、こんな自分見せないのに。

「…おやすみ?」

プロデューサーさんは不思議そうな顔でそう告げる。そんな簡単にいかないよね。

「小説みたいに上手くいかないものなんですね」
「悪い、百合子ほど本を読めていないからな…」

意味がよく分からないとプロデューサーさんは困り顔。自分で説明するのもねだるのも、凄い恥ずかしいけど。今だけは、この浮かれた雰囲気ののせいにできるから。



私は目を閉じて、少しだけ上を向いた。

一応続きは書いたんですが、自分でなんか納得がいかないので、書き直したいと思います。

今日はここまでです。こんなとこで終わって申し訳ないですが…

多分後日、2パターンのエンディングを掲載します。ではまた。

確信犯だったか、飲み物のことも併せて百合子やるじゃないか
エンディングも楽しみにしてる、乙です

>>3
七尾百合子(15) Vi/Pr
http://i.imgur.com/bNzxvub.png
http://i.imgur.com/lZ6eO6P.jpg
http://i.imgur.com/HVaj4LG.png

SS速報のスレがSS速報Rに立つバグが発生中。立直し前にSS速報Rを確認してください。 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1540611256/)

めっちゃよかった
続き楽しみにしてる

お疲れさまです。

書き終えましたので、2パターンのエンディングを掲載します。

では、本ルートから。

結果から言えば、私は撃沈した。

キスを乞う私を見て、プロデューサーさんはなんと

「なんだ真っ赤になって口突き出して。タコの真似か?」

と言い放ち、自分の部屋に戻っていった。

寝る前の挨拶にタコの物真似を始めるアイドルがどこにいるというのだろう。プロデューサーさんは恋愛経験がないんだろうか。私も初めて好きになった人がプロデューサーさんだから、あまり人のこと言えないけど…

私は自室のベッドに倒れ込み、足をパタパタと叩きつける。行儀が悪いなんて知らない。傷ついた乙女心の前に、行儀なんてものは存在しない。

いっそ、プロデューサーさんのことなんて放っておいて、別の男の人を好きになってしまおうか。そんなことを考えるけど、やっぱり浮かぶのはプロデューサーさんのことばかり。私をからかうときの妙に真面目ぶった顔、仕事先の人と話すときの真剣な顔。そして、私が仕事やライブで上手くいったときに一緒に喜んでくれるあの笑顔。別にイケメンってわけじゃないけれど、一緒に過ごしてきた時間が、プロデューサーさんのことを王子様に変えてしまう。これが、「惚れた弱み」っていうのかな。

ブーッ、ブーッ。

ベッド脇に置かれた携帯が着信を教えようと震えている。今の気分からして電話なんて出たくないけれど、杏奈ちゃんからの電話だったら話を聞いてもらえるかな、なんて打算もあって画面をのぞき込む。

発信者の名前はプロデューサーさん。なんで、どうして、プロデューサーさんが?頭の中は急に動き出す。だけど、突然の稼働に脳内の歯車が噛み合ってないから思考は一向にまとまらない。

出たくない。仕事のこと?声が聞きたい。なんで電話?プロデューサーさんは…



私がこんなに想っていること、知っていますか?

プロデューサーさんからの電話に出ないなんて選択肢は私の中にはなくて、結局散らかった頭のままコールに応えた。

「…もしもし」
『いつか、俺のほうからするから、それまで待っていてくれないか』
「…えっと、はい?」

やっぱりまとまらない頭で出るんじゃなかった。変な声が出る。

『さっきのことだよ。百合子が求めてくれたのは分かってたし、気持ちにも気づいてた』
『応えたいから、いつか俺のほうからするよ。それまで、待っててくれないか』

女の子はフシギな生き物で、愛や恋が絡むと途端に計算が上手になる。私も、その計算機関は備えられていたようだ。嬉しいきもちとなんだか泣き出したいきもちを隠すために、こんなイジワルなことを言ってしまう。

「いつかっていつですか」
『いつかはいつかだよ』
「なんですか、それ」
『俺が適当なのはいつものことだろ』
「そうですね」

思わず笑みがこぼれる。さっきまで私の心は深い海の底にいたのに、今でははるか雲の上。いつも通りの会話が出来ちゃう。こうやって女の子は恋愛上手になっていくんだろうな。

だから、ちょっと成長した私から一言だけ。いつもからかわれてるプロデューサーさんにやり返してやるんだ。

「私、待ってますから。できるだけ急いでくださいね」

電話の向こうでプロデューサーさんがまいったな、なんて苦笑いしている様子が浮かんだ。

本ルートは完結です。

では、ifルートを投稿していきます。

>>18の続きからです。

~ifルート~

◆◆◆◆◆◆◆

ドクンッ、という音が耳から聞こえた。それは1回じゃ終わってくれなくて。繰り返す心臓の音がうるさくて、意識をハッキリとさせてくれない。高鳴る鼓動を止めたくて、なにか支えてくれるものが欲しくて。俺は百合子の肩に手を置いた。

一瞬。それでも、それと呼ぶには確かな行為。

じゃあ、おやすみ。

おやすみの挨拶を終えて自室に戻る。この言葉が口に出ていたかは分からない。百合子の耳に届いていたかも知れないし、自分の中に留まっていたかもしれない。でも、今はすぐに去るのが正しい。




じゃないと、もっと百合子を求めてしまうから。


◆◆◆◆◆◆◆◆

自分の部屋に戻って、朦朧とした頭でベッドに倒れ込む。

一瞬ではあったけど、確かに彼のぬくもりを感じた。一瞬ではあったけど、彼の決意を感じた。

アイドルとプロデューサー。未成年と社会人。私たちの間にある障害は、乗り越えられるなんてものじゃない。

でも、そんな障害がどうでもいいくらいの達成感と多幸感と。最初の不可侵領域を踏み入れてしまったら、もう際限なく求めてしまう。まとまらない頭を休ませたくて、百合子は瞼を閉じる。そして、意識を手放す直前にこんなことを思った。




エッチな下着、つけてたんだけどなぁ。


本編には関係ない読まなくてもいい前作

【ミリマス】P「あの子と待ち合わせ」
【ミリマス】P「あの子と待ち合わせ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1553598334/)

ということで、有川浩『県庁おもてなし課』をよろしくお願いします。

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