りあむ「信じても、いいですか」 (48)


「待ってっ!!そこ……そこのスーツのひとっ!!」

「おねがいっ!!ぼ、ぼぼ……ぼくを。あ、アイドルにしてっ!!」


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待ち合わせは、1年前のここだった。

仕事中に突然舞台裏から現れたヘンな女の子。
今考えれば頭おかしいよね。
スタッフでも何でもない子が関係者席に突然入ってくるなんて。
即スタッフさんに呼びつけられて、出禁にされてもおかしくない。

けどさ。Pサマならわかってくれると思うけど、ぼくだって必死だったんだよ?
人生詰みかけてたって思ってるところに降ってきた、千載一遇のチャンス。
柄にもなく必死だった。ワンチャン来た!やるしかないし!!
大好きなアイドル放り出して、追ってくるスタッフ振り切って。
でも結局つかまって、それでも無理くりPサマのところまで追いすがって。
たしか無我夢中で叫んだな?よく覚えてないけど。喉潰れていたかったのは覚えてる。

今思えば無茶苦茶だよ。
けどPサマはそんな僕の話を聞いてくれたよね。
たった一言、「本気なのか?」って。まっすぐぼくをみて言ってたよね。
めっちゃ嬉しかった。こんなぼくの話をきいてくれるなんて。
「神様って人間だったんだ……」なんて、名刺を眺めながら何度も思ったよ。
まあでも今考えればPサマも頭おかしいな?

でもそんなのはどうでもいい。ここからはぼくのターン。
だってぼくはアイドルになれたんだから!
さようなら、これまでの冴えないりあむちゃん。
こんにちは、これからのきらきらしたりあむちゃん。
みんなに愛されて、みんなに必要とされて、みんなに大切にされる。
そんなアイドルに、ぼくはなれたんだから!

見たこともない考えたこともない幸福な未来に、ぼくのおっきな胸はいっぱいだった。


まあでも、そこからだよ。
ぼくの悪夢が始まったのは。

まずレッスンがきつい。めっちゃきつい。
家で1日10時間PCにかじりついてたぼくには、準備体操すら重労働。
ストレッチで息が上がってるのを見たときは、Pサマも頭抱えてたな?
……なに、その顔。気付いてなかったと思ってんの?
あのね、学校すらいけないやみちゃんは周りの視線だけには敏感なんだぞう!?
腹抱えて笑ってるけどさ、めっちゃやんでたからな?当時のぼく。

次に、声が出ない。
日常会話レベルも不自由なぼくに、一曲丸々歌えるはずもなく。
軽く歌っただけで息が上がって、声を出そうとするとお腹が痛い。
挙句喉が枯れてその場で病院に駆け込む始末。
そんなぼくの最初の目標は「きちんと話せるようになること」。トレーナーさんも呆れてたよ。
冗談みたいな話だけど、めっちゃやんでたからな?当時のぼく。


そうそう。最初のころ、アイドル舐めてたよね。ぼく。
今だから言えるけど、ぼくアイドルって楽なもんって思ってたよ。
可愛い服着てオタクどもに色目使って。あざとい声とチラリもあれば完璧。
そうすればみんなぼくのことすこるでしょ?

けど初めてPサマと事務所で話して、仕事からレッスンの話に移行した時、
ぼくの頭の中のお花畑は一瞬で枯れ果てた。
1日5時間のレッスンとか、読めない文字の大きさの契約書とか。情報量の多さに知恵熱で寝込んだね。
想定外のスケールのデカさに、しばらくめっちゃやんでたからな?当時のぼく。

まあでも。最大の誤算はPサマだったよね。
頭おかしいぼくの話を聞いてくれた人はやっぱ頭おかしかった。
もう何度抜け出して何度連れ戻されたことか。
いきなり投げつけられた石ころみたいなもんなんだから、ぼくのことなんかほっとけばいいのに。
でもこの人、って何があってもぼくを連れ戻すの。

ある時はレッスンが嫌で部屋を飛び出した。
けどあっという間に回り込まれて連れ戻された。Pサマ早すぎない?

ある時は知らない人と会うのが嫌で直前になって事務所抜け出した。
けど結局見つかって両脇固められた。Pサマ顔が笑ってなかったな?

ある時は少しでも行くのを遅らせるために学校に残った。
けど先生にもう事情が説明されてた。Pサマ外堀埋めるの早すぎない?

終いには逆方向の電車に飛び乗って、降りたこともない駅に降りてみた。
家にも学校にも行先は言ってないし、この場所を知ってる人はいない。ぼくだってわかんないし。
今人生で一番頑張ってる時期なんだもん。たまには休んだっていいっしょ!

けど改札口にはPサマが待ってた。まってまって、なんでわかんの??

流石にこの時ばっかりはおっぱいから心臓飛び出すかとおもったからな??
なんなんだこいつ。ストーカーってこういうヤツのこと言うんじゃね?
それ以降事務所でも家でもおふろでも常に見張られてる気がして、毎日めっちゃやんでたからな?当時のぼく。

そんなヘンなPサマもちゃんとプロデューサーだった。
尊敬しちゃったよ。だって色んなアイドルにつながってるんだもん!
生衣装にステージの詳細なセトリ、販売されてない写真や映像。
なんとそれらが資料という名目で見放題!たまんねーな?
練習中の生アイドルなんて日常風景だし、舞台裏まで見放題。
やべえよアイドル……こんなところまで見せちゃっていいのかよ……

おまけにぼくが研修生だからってアイドルのみんなと話までできた!!!
響ちゃんでしょー、まつりちゃんでしょー、ピエールきゅんでしょー、ユッキーでしょー、
肇ちゃんに翼くんにめぐるちゃんに唯ちゃんに次郎ちゃんに……あ、美希ちゃんと旦那さんもいた!
あーもう、両手じゃ数えきれないよー!
Pサマってすげえな?やっぱ神だな?P神サマだな?……これはださいな。

事務所に行ってはPサマとお話して、アイドルの子たちを拝んで。
それでレッスンで打ちのめされて、Pサマに連れられて帰っていく。
研修生時代はそんな毎日。
まだ『アイドル』じゃなかったけど、そんな毎日がぼくにはたまらなかった。
みんなぼくのことかまってくれるし。案外悪くない?なんて思ってた。


でも、ある日気付いちゃった。
ぼくには、何もないことに。

レッスンルームには目もくらむようなイケメンがいて、
雑誌やテレビでにしかいないようなカワイイ子がいて、
いつもはステージにいるアイドルたちが目の前にいて、
そんな人たちがビビっちゃうほどおっかない顔してレッスンしてた。

それに比べてぼくには何がある?
ダンスもダメ。歌もダメ。表現力なんてあるはずない。
トークどころか、まともに話せもしない。
ニヤニヤしてるだけで、笑顔なんてない。
Pサマならなんとかしてくれる。あるのはそんな甘い考えだけ。

周りの子に胸を張ってアイドルとして言えるものが、
アイドルとして必要なものが、ぼくにはなにもなかった。

ぼくを見る目は次第に変わっていった。
期待から困惑、困惑から呆れ、呆れから哀れみ。
いつの間にかぼくの耳には、聞きなれた声しか聞こえなくなってた。
これまでとはぜんぜん違う世界にいるはずなのに。

惨めだ。
みんなはキラキラしてるのに、ぼくはくすんで騒いでいるだけ。
事務所のみんなの目が、トレーナーの人の声がどんどん変わっていって。
ぼくはぼくのよく知るりあむに戻っていった。

なのにPサマは、いつもぼくのことを見てたよね。

失敗すれば「大丈夫だ、次はできる」そうぼくを励ましてた。
もたもたしてれば「落ち着いて、少しずつやればいい」そうぼくを落ち着かせた。
たまにできれば「よくできたぞ、頑張ったな!」そうぼくを褒めてくれた。
毎日毎日、ぼくに声をかけてくれてたよね。

今ならわかるけど、その時のぼくにはわけわかんなかった。

「なんでこの人、こんなに必死なんだろ」

ぼくのために遅くまで働いて、ぼくのために毎日汗を流して、
ぼくのために一日歩き回って、ぼくのために下げなくてもいい頭を下げる。
こんなぼくのために一緒にいてくれるPサマのことがわけわかんなかった。

ぼくには、何もないのに。

そうしてその日がやってくる。
オーディション。ぼくの、初めてのステージ。
その日のことはよく覚えてるよ。
ぼくの手を握ってPサマ大喜びだったよね。

「やっとりあむの頑張りが認められたんだ!」

「ようやくりあむをアイドルにしてやれる!」

「みんなにりあむを好きになってもらえるんだ!」

子どもみたいにはしゃぐPサマ。
けどぼくには、そんなPサマの姿が遠くにしか感じられなかった。

みんなの前に立つ。みんなの視線に晒される。
今のぼくには恐怖でしかない。
失敗したらどうしよう。出来なかったらどうしよう。
嫌われたらどうしよう。いられなくなったらどうしよう。

Pサマに見捨てられたらどうしよう。


「…………こわい」

オーディションまでは時間がない。当然これまで以上に熱も入る。
やらなきゃ合格できない。合格しなきゃアイドルにはなれない。
そう考えると、身体が全然動かなくなった。
出来たはずのことが出来なくなって、いつもの時間に起きれなくなって、
Pサマの言葉も遠くに聞こえるようになって、周りの視線に敏感になった。

やらなきゃならない。Pサマに嫌われたくない。
せっかくぼくを見つけてくれたのに。でも、できない。
それの繰り返し。

やれることがわからなくなって
やりたいことがみえなくなって
色んな事がぐるぐるまわって。
ぼくはぼくを見失った。


辛い。しんどい。なんでぼくがこんな目に。
もういい。もういいや。もういやだ。
こんな目にあうのはたくさんだ!


Pサマが用意してくれたオーディションを前に、ぼくは逃げ出した。

これでもうイヤな思いは終わり。
疲れないし、しんどくないし、人の目にやむこともない。
散々迷惑かけて裏切ったんだ。普通の人なら見捨てるに決まってる。
……Pサマを裏切ったことだけは、少し心が痛んだけど。
でももう耐えられない。だからぼくは逃げ出したんだ。

けどぼくは忘れてた。
ぼくのプロデューサーは、とんでもなく頭のおかしい人だってこと。


「やっと見つけた。心配したんだぞ」


たった一言、そういって。物陰に隠れて丸まっていたぼくのてを引いた。

なんで??

なんでこの人は怒らないの?

なんでこの人はぼくを見つけるの?

なんでこの人はこんなうれしそうなの?

こんなぼくなのに。

ぼくにはなにもないのに。

ぼくにはなにもできないのに。


「…………やだ」


ヘンだ。

こいつヘンだ。

わけわかんない。

いみわかんない。

りかいできない!

きしょくわるい!!


「……やだ。やだよぉっ!」

「大丈夫だよ、今から急げば間に合う」

「お前意味わかんないんだよっ!!気持ち悪い!!」

「なんでぼくにそんな構うんだよっ!!」

「ぼくなんて……ぼくなんて、ただ仕事中に押し掛けてきた迷惑な女じゃないかっ!!!」

「迷惑なんて、いつ俺が言ったんだ」

「いうわけないだろ!!!お前はプロデューサーなんだから!!!」

「けど迷惑に決まってる!!関係ない人に頭下げて、遅くまで付き合って、いつもいつも歩き回って!!」

「迷惑だと思ってやってるってのか、俺が」


「そうだよ!そんなのぼくがいなきゃやらないことだろ!?」

「だからぼくなんてほっといて、あいつらのこと見てやればいいだろ!!」

「あいつらのことを見るのは俺の仕事じゃない。俺が見るのはりあむの方だ」

「もう見なくていいよ!!!ぼくはもう、アイドル辞める!!!」

「Pサマはぼくなんかに付き合ってないで、他の子のこと見てやればいいじゃないかっ!!!」

「……本気で言ってるのか」

声色が変わった。今まで聞いたことのないような怖い声。

「りあむ。本当に、アイドル辞めるのか」

「……そう、だよ」

ぎりぎりと、腕をつかまれる手に力が籠められる。
痛い。
痛いのに、目はこの人の目から離せない。


「ならなんで、今まで俺についてきた」

「レッスンで散々な目にあっても、りあむは事務所に来たじゃないか」

「何を言われても、どんなに時間がかかっても、りあむは最後までやりきったじゃないか」

「だから……りあむが本当にそう思ってるとは、俺には思えない」

「なんで、アイドル辞めるだなんて言うんだ」


「………………だって」

「…………………………だってぼくには、なにもないから」

震える口から、やっとそう言葉が出て。
それが耳に届いた瞬間、綺麗なはずのPサマの顔が歪んだ。


「何度もPサマは応援してくれてるけど……ぼくにだって、わかるよ」

「学校にさえ満足に通えない。人とちゃんと喋ることすらできない」

「そんなぼくがアイドルなんて、ちゃんちゃらおかしい話だって」


「でも……でも、そんな嘘みたいな話をちゃんと聞いてくれる人がいて、すごくうれしかった」

「こんなぼくの話をきちんと受け止めてくれる人がいるんだって、そう思えて嬉しかった」

「でも…………それだけだった。ぼくには、なにもないんだもん」


「卯月ちゃんのような笑顔も、千早ちゃんのような歌も、冬馬くんのようなカッコよさも」

「輝くんのような熱さも、美嘉ちゃんのようなカリスマも、美希ちゃんのようなキラキラも」

「蘭子ちゃんのようなキャラも、智香ちゃんのような応援も、咲耶ちゃんのようなクールさも……」

「みんなみんな、何か持ってる!でも、ぼくにはなにもない!!」


「なにもないぼくにアイドルなんかできっこないっ!!だったら―――」

やらないほうがいい。
そう出るはずだった言葉は、無茶苦茶な声でかき消された。

「なにもなくない!!!」

「りあむには、俺がいるだろ!!」


「え……」


時間が止まったみたいだった。

視界はぐちゃぐちゃに歪んで、喉はカラカラ。
頭の中はまっしろで、胸の中には言葉にできない気持ちが渦巻いてる。
そんな中で、今のPサマの言葉だけがはっきりと頭の中で響いてた。


でもこの人、何言ってんだろ?


「りあむはちゃんと持ってるだろ!『アイドルになりたい』って気持ちを!」

「みんなに好きになってほしい、尊いアイドルになりたいって、俺に言ってくれたじゃないか!」

「今日のオーディションが決まったのは、りあむのその気持ちがあったからだよ!」

「最初は確かにびっくりしたよ。けどその時のりあむの目は本物だった!」

「ここにこれたのも俺の力じゃない。りあむの頑張りがあったからなんだ!」

「俺がプロデューサーとしていられるのも、二人でここにいられるのも、全部全部りあむのお陰なんだ!」

「りあむが頑張ったから、りあむがそう思ったから、今日ここに来れたんだ!」


「だから!!アイドル辞めるなんて言うな!!」

「やってみたい気持ちが、なりたい気持ちがあるのに!アイドル諦めるなんて言うな!!」

「今日までりあむがやってきたことを、『何もない』の一言で全部なかったことにしないでくれ!」

「俺は嫌だ!そんなの!せっかくここまでこれたのに!」

「りあむがアイドルになる姿を見れないなんて嫌なんだ!」


「一人で無理なら俺を頼れ!りあむには、俺がついてる!」

「これまでのりあむの頑張りも、りあむがアイドルになりたいって気持ちも、俺が一番よく知ってる!」

「周りの目が気になるならほっとけ!!どう思われてるかなんて後で考えりゃいい!!」

「そんな気になるなら俺だけ見てろ!!俺がお前の頑張りを一番知ってる!!俺のためにオーディション頑張れ!」

「そしたら俺が証明してやる!!ここに世界一のアイドルがいるってな!!」

「ほかの子じゃない。りあむじゃなきゃダメなんだ!!」

「りあむのアイドルは今日、ここからなんだよ!今日の先に、アイドル『夢見りあむ』が待ってる!」

「俺は、俺は……ほかの誰でもない、アイドル『夢見りあむ』が見たいんだよ!!!」


「はぁっ……はぁっ……」

「―――」

「えっと、その……だから!」

「―――ば」

「何だよ。言いたいことあるなら、この際全部言え!」



「バカなの……?真顔でそんなこと言えるとか、恥ずかしくないの?」



「………………お」

「お前のために言ってんだろうがあああああああああああああああああああああああ!!!」


それで終わり。
しんみりしてた空気は、Pサマの叫びと一緒にどこかへ飛んで行った。


「……ねえ、Pサマ」

「なんだよ」

「怒ってる?」

「怒るだろ」

「……なんかさ、さっきと逆だな?」

「お前のせいだろうがっ!!!」

「ひいっ!……な、なんでぼくが怒られるんだよう」

いじけるPサマと慌てふためくぼく。
なんだよこれ、さっきとは逆じゃないか。
泣き叫んで暴れていじけてたのはぼくの方なのに、顔真っ赤にして興奮してるのはPサマのほう。
これじゃどっちが怒ってるのか、慰めてるのかなんてわかりゃしない。

なのにそんなPサマの前で、ちょっとだけ心が軽くなってるぼくもいた。


ホントに頭おかしいよね、Pサマは。
なにもないぼくのことに、こんなに熱くなるんだから。

ぼくには何もない。
誇れるようなビジュアルも、自慢できるような歌声も、驚かせるようなダンスもない。
でも、ぼくにはこのプロデューサーがいる。
意地悪されることも、連れ戻されることも、無茶苦茶することもあるけど、
でも、いつもぼくの隣にいて、ずっとぼくのことを見てくれる人。
これまでぼくがみた中でも、とんでもなく熱くて、大真面目で、大馬鹿な人。

……ちょっと鬱陶しい時もあるけれど。


「Pサマ」

「今度は何だよ……」

「ぼくはホントに、アイドルになれると思う?」

「…………。ああ」

「みんなに好きになってもらえる、尊いって思ってもらえる、とにかく売れる、アイドルになれると思う?」

「ああ」

「信じても、いいですか」

「もちろんだ」


さっきまでは信じられなかったけど。あんな言葉を聞いてしまったら信じざるを得ないかな。
だってこの人は、ぼくよりもとんでもない奴なんだから。

「戻ろう、りあむ」

「うん」

さっきまでぼくを逃がさなかった手に引かれながら、
ぼくはPサマと一緒に、アイドルへと戻っていった。


スポットライトが当たる。みんなの視線がぼくに集まる。
……ま、驚くよね。目は真っ赤に腫れてるし、髪はぐちゃぐちゃ。
なれないメイクも直す暇なんてなかったし。
おまけにさっきので喉だってヘン。全身だるいし、これキツイな?
……周りの人もひそひそ声で言うのやめてよね。聞こえるんだぞ。
審査員の人までなんか言ってるしぃ……めっちゃやむ。

こわい。
ここからいなくなりたい。逃げ出したい。
でも出来ない。なにもしないのは、もっといやだ。
舞台袖で、こんなぼくのことを心配してくれてる、Pサマが見てる。


いいよ。
だったらこれだけは、みんなに言ってやる!


震えるお腹と足に力を込めて、ぼくは胸いっぱいに空気を吸い込んだ。



―――――――――



―――――――――


そうして、1年が経った。

結局あのオーディションには落ちた。あれだけ発破かけられたのにこの結果……。めっちゃやむ。
けどおかしかったのは、ぼく以上にPサマがやんだこと。

「なんでりあむのよさがわからないんだぁ!!」

そう餃子パーティしてる最中に言ってきて、いやそれぼくに言われても……てなったけど。
でもPサマがいるなら、もうちょっと続けてもいいかなって。そう思えたよ。


そこからが、アイドル『夢見りあむ』とプロデューサーのスタートだった。
たくさんのオーディションを受けて、みんなより何週も遅れてスタートしたけれど。
アイドルになってからも炎上して、Pサマに怒られることもあったけど。
今ようやく、こうしてここに戻ってきた。
Pサマとぼくが出会った、はじまりの場所。
遠い遠い遠回りをしたけれど、ようやくここにこれたんだ。

……お互い住所が分からなかったから、最初の待ち合わせがここになったのは、ちょっと秘密の話だけど。



「りあむ」

「どしたの?」

「このステージはりあむの味方だ。安心して、行って来い」

「……そんなこといってさ?緊張してるのは、案外ぼくよりもPサマの方だったりして?」

「なんだとお!?」

「へへ。……まあ、見ててよ。Pサマ」

「Pサマご自慢のアイドル、夢見りあむがここにいるってこと、みんなに見せてくるから」


Pサマがしっかりと後ろにいることを感じながら。
ぼくは、光の海へと飛び出した。


ぼくには何もない。何もなかった。
でもPサマがいて、Pサマに手を引かれるままに走って。
いつの間にかたくさんの物がついてきた。

なら今度は、それをPサマに見せる番。

あの日オーディションで叫んだこの言葉を始まりにして、
夢見りあむの全てを、あなたにご覧入れよう。


「…………みんなーっっっ!!!」


「ぼくを、すこれ――――っっっ!!!」


以上でおしまいです。
ここまで読んで下さいましてありがとうございました。

りあむはとにかく「自分を認めてほしい」って思いが先走ってるような気がしたので、
こうして壁にぶつかって、でもプロデューサーと一緒に乗り越えて、
アイドルとして一皮むけていくのかなあ、と思います。
とても魅力あふれるアイドルなので、早く次の展開が見たいです。

おつ、とても良きだった

すこすこ
おつー

アツゥイ! 乙でした

ウルっと来たわ
おつおつ

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