僕はほたるちゃんを幸せにしてみせる。 (35)
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僕は何だってやってやる。あの健気で、努力家で、ちょっぴり不幸なほたるちゃんを救えるのなら。
ーー僕がほたるちゃんのライブを成功させるんだ。
今日は素晴らしい日だ。なんて言ったってほたるちゃんのデビューライブがある。練習生だったころから注目してきた僕はやっぱり間違ってなかったんだ。小さいステージだけど、長い間の努力が認められてほたるちゃんも喜んでいるはず。
チケットの抽選には漏れてしまったけど、1人のファンとして、推しの活躍は嬉しい。
ところでほたるちゃん、初めてのライブで緊張してたりしないかな。調子悪くてリハーサルで怒られたりしたら、ほたるちゃんは落ち込んでしまうかもしれない。僕が応援して励ましてあげないと。ライブに行けないんだからそれくらいのフォローはしてあげたい。
本当はダメだし、見つかったら確実に怒られるけど、リハーサル覗いてみよう。悪いことするつもりじゃないんだから、ほたるちゃんも分かってくれるはずだ。
やっと着いた。漏れ出てくる音からするに、もうリハーサルは始まってしまっているらしい。電車さえ遅延していなければ間に合っただろうに。
まあ過ぎたことは仕方ない。リハーサルが始まってステージ以外の人手が薄くなったからかえって好都合かもしれない。
何事もなく会場入りできてしまった。......ここの警備員大丈夫か? 見つかった時はヒヤッとしたけど、堂々としていれば案外部外者とは思わないものなのか?
流石にステージ袖まで行ってしまうと見知らぬ人間がいるのはバレてしまうだろう。観客席も所々に関係者がいるようだし、かといってロビーにずっといるのも警備員に疑われるかもしれない。とりあえずトイレで作戦を考えよう。
驚いた。トイレ内のスピーカーとステージのマイクが繋がっているらしい。ここなら誰にも見つからずにリハーサルの様子が伺える。姿は見えないけど、僕くらいになれば声だけでほたるちゃんがどんな顔をしてるのか想像できるんだ。
やっぱりほたるちゃんの声は素晴らしいな。気持ちが真っ直ぐに伝わってくる。でも、強いて言うなら......。
やっぱり声量が足りないと怒られてしまった。声が小さいっていうのは本人も分かってることなんだからもっと優しく指摘してあげればいいのに。
ほら、萎縮しちゃったじゃないか。さっきとはまるで違う。声量が足りないならマイクの音量を上げればいいだけなのに。なにもあそこまで怒ることもないだろう。
......あのプロデューサーには任せておけない。
どうすればマイクの音量を変えられるだろう。機材があるのは多分関係者以外は立ち入り禁止の場所。入り込んだら確実にバレるし、そうしたら面倒なことになる。
ん? なんだか外が騒がしいな。......そうか、ライブスタッフのアルバイトだ。アルバイトなら関係者も顔は知らないだろうから、あそこにうまく紛れれば侵入できるかもしれない!
うまく入り込めた。とりあえず怪しまれない程度に仕事を手伝いながらマイクの音量を調節する機械を探そう。
あった! 多分あれだ。後はライブ直前にマイクの音量を最大にして逃げればいい。それで誰にも迷惑をかけずにほたるちゃんのライブを成功させられる!
ライブ開始のアナウンスが始まった。きっとアナウンスが終わったら一旦真っ暗になるはず。その一瞬のうちに音響さんの目を盗むことができれば......。
よし、照明が落ち始めた。後はタイミング勝負。完全に暗くなった瞬間にマイク音量のゲージを......最大に!
よし出来た! 後は逃げるだけ! もっと速く! 見つかればライブ出禁になるかもしれない! ピンチになったオタクは強いんだぞ!
はあ、はあ。途中で靴紐が切れた時はもうダメだと思ったけど、追手がいなくて助かった。
ほたるちゃん大丈夫かな。いや、きっと大丈夫だ。マイク音量が上がればスピーカーからは大きな声が流れるし、それで自信もつくはずだから、きっといいライブになるに違いない。頑張った甲斐があったな。
一方、ライブ会場
「みなさん、はじめまし」キィィィィィィ---------ン!!!!!!
「おい! ステージマイク最大にしたの誰だ!?」
「ほたる! とりあえずマイクでお客さんに謝ってくれ!」
「は、はい......! あの、みなさん、すみませ......あれ?」
「駄目です! ハウリングしすぎてマイクが壊れました!」
「代わりのマイクは!? ないのか?」
「探してきます!」
「あ、あの......すみません......」
ーーこんなところはほたるちゃんに相応しくない。
ほたるちゃんのテレビ番組出演が決まったらしい。しかもプロダクションで一番の売れっ子アイドルと一緒に。つまりプロダクションはこれからはほたるちゃんも売り出しにいこうとしてるってことだ。
よかった。前のプロダクションは、ほたるちゃんのデビューライブで音響のベテランさんと揉めたことで干されて潰れたけど、このプロダクションにいればほたるちゃんは安泰だろう。
さて、スタジオ観覧席の抽選に応募しなくては。せっかくのほたるちゃんの晴れ舞台。ファンである僕が見届けなくて誰が見るっていうんだ。
抽選が外れてしまった。やはり全国ネットのテレビ番組ではそう簡単には行けないか。仕方ない。あの売れっ子とペアを組んでラジオやイベントに出るらしいし、そちらに行って我慢しよう。
まずは1週間後のトークイベント。同じ事務所の先輩と話すだけだからのびのびやれるだろう。今から楽しみだなぁ。
さて、やっと待ち望んだトークイベントの日だ。席は最前列を取れたし、ここならほたるちゃんの動きを一つも見逃さないで応援できる。天気が悪いから残念だと思っていたけど、人も少ないからいい場所取れて逆にラッキーだった。
よし、本番が始まる前にトイレに行っておくか。ほたるちゃんが登場してから便意を催したら集中できない。
ふぅ、スッキリした。早く席に......
「おい、うちの〇〇の出演を止めることだったできるんだぞ!」
何だ? 揉め事か? 〇〇はあの売れっ子の名前だよな。出演を止めるってどういうことだ?
「そんなこと言われても無理ですって! 元々は〇〇ちゃんと△△ちゃんのトークイベントだったんです。当日に白菊ほたるなんて人と変更しろだなんて! もう△△ちゃんはスタンバイしてるんですよ!?」
「△△なんて知るか。所詮は知名度もカケラもない底辺地下アイドルじゃないか。そんなやつに〇〇の株を下げられたら困る。うちの白菊を使った方がいいに決まっている。現に△△のファンよりも白菊のファンの方がたくさん来てるしな」
「それはそちらが無断で嘘の宣伝を大々的にしたからでしょう! こちらの確認不足も悪いですけど、こんな勝手なことは普通ありえないですよ!?」
どういうことだ? 本来はあの売れっ子と組むのは△△という子で、それをあのプロデューサーがほたるちゃんに無理やり変更させようとしてるってことなのか?
そんな汚い真似して取った仕事をほたるちゃんにやらせようとしているのか? 許せない。それがバレた時、真っ先に叩かれるのはほたるちゃんなんだぞ。
ちょっと待て、もしかして前にたくさん発表されてた売れっ子とほたるちゃんのペアの仕事は全部こうやって他のアイドルから強奪したものなのかもしれない。
こんな汚い手を使わなくてもほたるちゃんの魅力があれば十分仕事なんて取れるはずなのに。せっかくのいい事務所だけど、あのプロデューサーには力量が足りないのだろう。ならば僕の手でアイツをほたるちゃんの担当から外してやる。
まずは証拠を残さないと。録音機はないけど、スマホの音声メモなら使える。これでいいか。
「いいか、このイベントが成功するのは〇〇にかかってる。正直△△だろうが白菊だろうが〇〇なファンは気にしない。だったらいいだろ? そっちの連絡ミスって伝えれば全部丸く収まるんだぞ?」
「でも△△ちゃんは前からこのイベントを楽しみにしてて、たくさんエピソードトーク準備してきてるんです! 今更間違いだったなんて......」
「分かった。そういうことなら〇〇と白菊は帰らせてもらう。せいぜい存在しないトーク相手にその準備させてたエピソードトークとやらをやらせておけばいいさ」
「ちょ、ちょっと! 待ってくださいよ! 分かりましたから! △△ちゃんには帰ってもらいますし、代わりに白菊ほたるって子を使えばいいんでしょう!?」
「分かったならいい。ただ、△△にはくれぐれも運営サイドの連絡ミスということを伝えておけ。もし俺が無理やり変更させたなんてバラしたら......分かってるな?」
「分かりましたよ......。じゃあ白菊ほたるのスタンバイを急いでください。その間に△△ちゃんにキャンセルになったと伝えておくので......」
「ああ。話の分かる人で良かったよ。イベントは成功させてやるから安心しろ」
......もういなくなったかな? まったく、とんだ悪徳プロデューサーじゃないか。まるで脅迫だ。
とりあえずこれを週刊誌の記者に売ろうか。これが記事になったらあのプロデューサーはもう終わりだ。ほたるちゃんの風当たりも少し強くなるかもしれないけど、そこは事務所がちゃんとフォローしてくれるはずだ。
数日後、白菊ほたる所属プロダクション
「プロデューサー君。君に話がある。ちょっと来なさい」
「社長? いきなりどうしたんです?」
「今朝、週刊誌から連絡が来た。君の行動をスクープしたそうだ」
「一体何のことです?」
「君、ほたる君の仕事を取るとき、〇〇君の名前を使ってイベント責任者を脅迫しただろう。それを録音したデータが匿名で送られてきたそうだ。その音声は私も聞いたが、これは言い逃れできないぞ」
「何で......? 何でバレたんだ......?」
「すでに週刊誌には口止め料を払っている。これが世に出たら、知らなかったとはいえ〇〇君とほたる君は大バッシングを受けるだろうからな」
「自分はどんな処分になるのでしょうか......」
「今すぐにクビだ! と言いたいところだが、その必要も無くなったよ」
「どういうことですか?」
「週刊誌の口止め料が中々高額でね。もううちには借金しか残ってないんだ。要するに倒産だな」
「そんな!? そこまでして口止め料を払わなくたって良かったでしょう!」
「彼女たちには未来がある。汚い大人のせいで名誉を傷つけるわけにはいかない。それに、君のような人間をプロデューサーに採用した時点で俺には人を見る目が無かったんだ。倒産して正解だろう」
「そんな......」
ーー僕はほたるちゃんを幸せにしてみせる。
ほたるちゃんの新しいプロダクション、中々ほたるちゃんの使い方を分かってるな。前のプロダクションが突然倒産しちゃったのはびっくりしたけど、今度こそほたるちゃんもちゃんと活躍出来そうだ。まだまだバーターとしてだけど、テレビ出演の回数も増えてきたし、鼻が高い。
今日もテレビの収録があったはず。観覧席の抽選は外れちゃったけど、出待ちくらいならしても大丈夫だろう。よし、そうと決まれば早く行こう!
ちょっと早く来すぎちゃったな。いつもは電車遅延で間に合わないくらいなのに今日に限って何もないなんて。収録終わるまであと2時間くらいあるだろうし、暇だな。
......ん? あれはほたるちゃん? もう収録は始まっててもおかしくない時間だけど......。何かアクシデントでもあったのかな。少し悲しそうな顔してるし、心配だから後をつけてみよう。
公園に入ったぞ。何をするつもりなんだろう。あれ? もしかしてほたるちゃん、泣いてる? きっと収録で何かあったんだ。慰めてあげなきゃ。......ん? 知らない男がほたるちゃんに声をかけたぞ?
「どうしたの?」
「......ちょっとだけ、つらいことがあって」
「収録のこと?」
「どうして、それを......?」
何話してるんだろう。公園の外からだとよく聞こえないな。でも近づいたら話変えちゃうかもしれないし......。
何話してるんだろう。公園の外からだとよく聞こえないな。でも近づいたら話変えちゃうかもしれないし......。
何話してるんだろう。公園の外からだとよく聞こえないな。でも近づいたら話変えちゃうかもしれないし......。
連投失礼しました。こちらのミスです。
「私なんかがアイドル目指したら、ダメだっんですね」
「ダメじゃない」
「ダメですよ......。私は人を不幸にしちゃうんです。呪われてるんです。そんな人は、アイドルにはなれないんです。きっと」
「アイドルになりたくない?」
「そんな......スカウトですか? 私はもうアイドルにはなれません! 私は疫病神なんです。関わったら、あなたも、あなたのプロダクションも不幸になるかもしれないんですよ」
「幸せになりたくない?」
「幸せに......。アイドルの、私に......」
「なろう」
「ぐすっ......。な、なりたい......です......!」
おい、さっきよりひどく泣き始めちゃったじゃないか! 悲しんでいる子をさらに泣かせて、あの男は一体なにがしたいんだ! 何を言ったんだか知らないが、ほたるちゃんを泣かせる奴は僕が許さない! 今すぐあいつをぶん殴ってやる!
ブ------!!!!!
......クラクション? どこにそんな車が......後ろ!? もうすぐそこまで来て......危な
ガシャァァァァァァン!!!!!!
イテテ......。僕としたことがトラックに引かれるなんてついてない。でも、早くほたるちゃんからあの男を引き?がさないと。
あれ、立てない。どうして? 脚はちゃんと動いてるはずなのに......ああ、右脚が無くなってる。あそこに転がってるのがそうだろう。あんなに飛ばされたのか。
トラックのおじさんが降りてきた。何か叫んでるみたいだけど、何も聞こえない。
僕はこのまま死ぬのかな。だったら最後にもう一度、遠目でもいいからほたるちゃんの顔を眺めておきたい。ちょっとおじさん、どいてよ。おじさんが間に入るもんだからほたるちゃんの姿が見え...な......いじゃ.........ない............か...............
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「道で転んだり、電車に乗り遅れちゃったり…。最近、そういう小さな不幸が減った気がして」
「プロデューサーさんが…フォローしてくれるおかげです…。いつも、頼もしいな…」
「[一輪の幸せ]白菊ほたる」より
以上です。ありがとうございました。
途中書き込めていないと思って連投してしまいました。すいませんでした。
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