男「世界が崩壊したので旅に出る」 (4)

オリジナル。地の分ありです。

ポストアポカリプスっぽい世界を旅する話です。

遅筆ですが最後までお付き合いいただければ幸いです。

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男「ああ、クソ」

這う這うの体で逃げ込んだ、元は酒場だった廃屋の朽ちたカウンターの陰に座り込み、俺は荒い呼吸を整えた。
手持ちの拳銃の弾はマガジンの中に10発。13発入りの予備の弾倉がポーチの中に5個。
あの数の盗賊を相手にするには弾数が少ない。
背中に背負った狙撃用のライフルのほうはたっぷり弾が残っているが、そいつはボルトアクションと呼ばれる作動方式の銃だ。
つまり一発撃つたびにボルトを操作する必要があるから、盗賊どもに見つかって肉薄された今は無用の長物と考えていいだろう。

深呼吸。鼻から息を吸い、肺の中で少し止めてゆっくりと口から吐く。
何度か繰り返すと少しだけ気分が落ち着き、思考を巡らせる余裕ができた。

もうすぐで日の入りだ。そこからさらに待てば夜になるから、こちらは暗がりに紛れて盗賊連中の縄張りから脱出しやすくなる。縄張りの外には「怪物」どもがいるだろうが、奴らはのろまだし、頭が悪いから盗賊に比べればまだマシだ。
散り散りに逃げた仲間たちはどうなったんだろう?何人かはまだ生きているかもしれない。だが今から合流するのはリスクが高すぎる。彼らには申し訳ないが、まずは俺自身の身の安全を考えるべきだ。
まあいい。とにかく夜まで隠れ続けて逃げるチャンスをうかがえ!

建物の外から何人かの足音と話し声が聞こえた。

「俺とワシーリイはこっちを探す。お前たちは向こうを探せ。お互いから離れるなよ」

「わかった」

盗賊の何人かは通りの向こう側に消え、二人分の足音がこっちに向かってきた。
奴らが来る。俺は拳銃を握り直して、最善の行動は何か考える。

死ぬ覚悟はできていない。だが殺す覚悟はできた。

入口の扉を開けて盗賊二人組が静かに酒場に入ってきた。
二人で付かず離れずの距離を保ち、一人は拳銃を、もう一人は大型の散弾銃を持ってお互いの死角をカバーしながら室内の捜索を始めている。

酒場はそれほど広くないから、この分だと彼らはすぐにこのカウンターまでやってくる。

俺は床に腹這いになり、音をたてないように気を付けながらゆっくりと厨房に入った。
奴らが来るまでは少し時間がある。その前に準備を済ませておかなければ。
バックパックからお手製のペットボトル製サプレッサーを取り出し、拳銃の銃口にビニールテープで固定。
そしてバックパックとライフルを厨房入口から見えやすい、調理台の上に下ろす。これで準備完了だ。

二人組はカウンターの捜索を終え、今まさに厨房に入ろうとしているところだった。慌てて厨房入口からは死角である大型冷蔵庫の陰に身を隠す。
調理台の荷物に気を取られた散弾銃の男が先頭になり、続いて拳銃の男が入ってきたその瞬間、俺は冷蔵庫の陰からほんの少しだけ身を乗り出し、散弾銃の男の胸めがけて素早く三発撃ちこんだ。

撃たれた男はひっくり返るようにして床に倒れこんだ。
相棒の死に動揺し、一瞬だけ拳銃男の反応が遅れた。
ほんの一瞬だけだったが、俺が相手につかみかかり、銃口を逸らせて、左肩の鞘から抜いたナイフで終わらせてやるには十分すぎるほどだった。

鳩尾にナイフの一撃を受け、喉の奥からごぼごぼと嫌な音を出しながら相手は死んだ。さほど長くは苦しまなかったはずだ。

厨房の床に出来上がった二人分の死体を見下ろし、彼らのうちどっちがワシーリイで、もう一人はどんな名前なのか、どうでもいいはずのことがひどく気になった。

妙なことを考えてないで、必要なことをやれ。ほかの盗賊はしばらくやってこないとは思うが、念のために死体は隠す必要があるぞ。

二つの死体はさっきの冷蔵庫に隠した。苦労はしなかったが嫌な作業だった。
再びバックパックとライフルを背負い、拳銃を構え、酒場の裏口から外に出た。

明日の夕方、また投下します。

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