声をかける。
キャル「ひあっ……!」
キャル「……あんたさぁ。ビックリするからでかい声で話しかけんなって、あたし何回も言ってるわよね?」
キャル「まぁいいわ。あんた今時間ある? あるわよね。あんたの様子を見てればわかるわ」
キャル「なんでって? ふふん。いいわ、教えてあげる!」
キャル「まず、今の時間は日没直後。あんたがいっつもアルバイトを終える時間よね」
キャル「それからあんたの格好。いくつか掛け持ちしてるバイトのうち、清掃の仕事と運送の仕事のときにしかしない格好でしょ」
キャル「普段着てるマントを着てないし、更に運動靴に履き替えてる……その格好はさっき挙げた二つの仕事のときだけにしかしないはずよ」
頷く。
キャル「ふふ。けど、それだけだとあんたが暇な証拠にはならないわよね」
キャル「バイトを終えたあんたはいつも腹ぺこだもん、急いで帰ってご飯を食べようとするはず」
キャル「……いつもなら」
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キャル「でもね。おかしいのよ」
「なにが?」
キャル「もしあんたが腹ぺこなら、この道を通るはずがないの」
キャル「そう、わざわざ遠回りになっちゃうこの道は通らない」
「そんなの、他に用事があるからかもしれないよ?」
キャル「そうね。その可能性はもちろん考えたわ。この辺りに用事があるのかしらって思ってた」
キャル「……あんたの顔を見るまでは、ね」
キャル「ふふっ」
キャル「間違いなく気づいてないだろうから教えてあげるけど。あんた、口元にクリームがついてるわよ?」
慌てて拭く。
キャル「ま、その惨めに残ったクリームを見ただけでも、何かを食べた後なのはわかるんだけど……せっかくだからあんたの行動を全部当ててあげる♪」
キャル「ズバリ! アルバイトの帰りにペコリーヌとばったり出くわして、ペコリーヌのバイト先で一緒に食事をしたでしょ!」
「!!!」
キャル「どう? 当たってる?」
震える。
キャル「あははっ、簡単な話よ!」
キャル「この道、あんたのにやけ面、そして今まで挙げた数々の証拠……」
キャル「決め手は、クリームをつけっぱなしで歩いていたことね。例えばコロ助とかのまともな人間なら、普通気づいて拭くか教えるかするでしょうし」
キャル「いやいや、気づくから。めちゃくちゃ目立ってたわよ?」
キャル「……おほん! で。そんなアホみたいな見落としをするやつなんて、あたしが知ってる限りはペコリーヌくらいしかいないのよ!」
キャル「知らない人だったかもしれないけど……」
キャル「ともあれ。あたしの推理はこうして、見事に的中したわけよ。犯人は即死刑ね♪」
ガックリと膝をつく。
キャル「ふふ。このあたしに出会ったのが運の尽きだったわね。名探偵と呼ばれた、このキャルに……」
「ちくしょう……ちくしょうっ……」
キャル「ふっふっふ。これにて事件解決よ!」
キャル「ん? なんでこんなこと言うのかって? あはは、実は昨日、本を読んでたんだけど……」
キャル「それがもう、めちゃくちゃおもしろい推理小説でさ! 最初から最後まで夢中になって読んじゃって!」
キャル「……まぁ、影響されちゃったっていうか」
キャル「けどさ、なかなか様になってたと思わない? あたし、もしかして探偵の素質があるのかも?」
キャル「な、なぁんてね……あはは……」
キャル「あ~……呼び止めたのも特に用があったわけじゃなくて……。ちょっとはしゃいでたのよ……」
「楽しかった」
キャル「そ、そう? よかったぁ……♪」
キャル「あっ、ねぇあんた。どうせもうしばらくはお腹を空かせるためにプラプラ歩くんでしょ?」
キャル「わかるわよ。夕飯前に無断でお腹を膨らませてきたってことがコロ助のやつにバレたら、『めっ』て怒られちゃうのよね?」
キャル「それならさ、このままあたしに付き合いなさいよ。一緒にお散歩しましょ♪ ねっ、いいわよね?」
おとなしく連行される。
キャル「……それは騎士団の仕事。探偵は事件を解決したらそのまま姿を消すの。謎を解き明かすことにしか興味はないのよ」
キャル「仕方ないからあたしが色々教えてあげるっ! ふふっ、今からあんたはあたしの助手よ! 探偵のイロハ、みっちり叩き込んでやるんだから♪」
数日後──
キャル「うーん……。武器屋に剣を見に来たのはいいものの……似たようなのばっかりでよくわかんないわね~」
キャル「ただの冷やかしだし、お店の人に聞くのも気まずいのよね……どうしよう……」
キャル「……あれっ? ねぇ、ちょっとあんた」
振り向く。
キャル「あっ、やっぱり! ふふ、こんにちは。こんなところで会うなんて奇遇ね~。ねー♪」
キャル「こらこら、ちょっとずつ離れていくんじゃないわよ。別にイジワルしたりしないから」
キャル「実は、剣について教えを請いたいんだけど……。ほら、あんたって普段から剣を使ってるでしょ?」
キャル「弱っちいから、あたしたちといるときはほとんどあたしの隣で突っ立ってるだけだけどさ。知識はあるわけじゃない?」
キャル「あはは、ヘソ曲げないでよ。この通り、あんたに頼ってるんだから。ね?」
キャル「え? 何を教えればいいのかって? ん~とね。あたしにも扱えて、強くて頑丈で、値段も手頃なやつはどれかな~って」
キャル「ちょ、ちょっと……! そんなに呆れた顔しなくたっていいじゃない!」
キャル「あるかな~、見てみたいな~って思っただけで……。さすがに、ど素人のあたしが剣で魔物と戦えるとは思わないし……」
キャル「だってさ、かっこいいじゃない……。あんたはともかく、ペコリーヌとかコロ助とか前衛で戦うタイプって」
「魔法使いもかっこいい」
キャル「そ、そう……? ありがと……」
キャル「……じゃなくて! 武器にはロマンがあるって話よ! 例えば剣とか!」
キャル「ん? 槍? 今はいいかな。剣の気分なのよね」
キャル「……また何かに影響されたんじゃないかって? ま、まぁそうなんだけど……」
キャル「冒険もののお話を読んだら、すっかりハマっちゃって。体がウズウズして居ても立っても居られないのよ!」
キャル「煌めく剣でバッサバッサと魔物を蹴散らしてさ! 時には巨大なドラゴンなんかとも対決するの!」
キャル「苦難の先にはキラッキラの財宝が待ってたりして……! あぁ、あたしも冒険の旅に出たいっ!」
キャル「…………」
キャル「変、よね……?」
キャル「……え? わかってくれる? そ、そうよね……! わかるわよね!」
キャル「ふふっ。あたしは最初から、あんただけは理解してくれるんじゃないかって思ってたのよ~♪」
キャル「そういうの、ペコリーヌたちは全然理解してくれなさそうだし……。あいつらって、ご飯だとか主さまだとかにしか興味ないじゃない?」
キャル「ギルドの活動でも冒険に出てみたいんだけど、なかなか言い出せなくてさ。もし言ってみたとして、グルメツアーになるのは目に見えてるし」
キャル「それもまぁ、楽しそうではあるんだけどね……? やっぱり、ほら……」
「ドキドキとワクワク!」
キャル「それよ! やっぱりあんた、最高に『わかってる』じゃない♪」
キャル「つーわけで、せめて気分だけでも楽しみたくて本を読んで……そしたら気分だけじゃ収まらなくなっちゃって」
キャル「で、こうして剣を見に来たってわけ! あたしにぴったりな剣をねっ!」
キャル「でも、あんたと話をして改めて痛感したわ……。あたしに一人旅は無理だ、って。剣もきっと重くて持てないし……」
キャル「力もない、知識もない。できるのは後ろの方で魔法を使うことくらい……。そんなあたしが一人で冒険の旅に出たところで、あっさりガイコツになっちゃうのがオチよ」
キャル「…………ちらっ」
目をそらす。
キャル「あたし一人じゃ厳しいのよね~……。魔法で攻撃するのはもちろん、援護したり回復してあげたりもできるんだけど……はぁ~~……」
キャル「…………」
キャル「じーーっ……」
キャル「いいわよいいわよ……どうせあたしは一人寂しくガイコツになるのがお似合いなのよ……」
「まだ取り分の話をしてない」
キャル「取り分……? あっ、見つけたお宝をどう分配するかね!!」
キャル「あたしが9割であんたが1割よ。……と、言いたいところだけど。特別に山分けでいいわ。半分ずつにしましょ」
「6割欲しい」
キャル「ぐっ……意外と吹っかけてくるわね……。普通は半々で納得するもんでしょ……?」
キャル「ん? 今お金に困ってるって? どうしたの? 何かあったの?」
キャル「……剣の修理にかなりお金が掛かっちゃったんだ? ふぅん。大して戦ってるようには見えなかったけど、剣にガタが来ちゃったんだ?」
キャル「あぁそっか、それで武器屋に来てたのね、あんた。それで? 剣はちゃんと直ったんでしょうね?」
「今から試しに行くところ」
キャル「…………冒険ね」
キャル「あたしとあんた、二人で始める冒険の序章よ! ってわけで、あたしも一緒に行くわ! もちろん、今日の報酬は全部あんたが持ってっていいから」
キャル「い~の、い~の。あたしたちはもう相棒なんだから。遠慮なんてしないでよ」
キャル「まぁ、どうしてもって言うんなら今度ご飯でも奢ってもらうわ♪」
キャル「それとさぁ……? ちょっとだけ、あたしにも剣を持たせてくれない? ちょっとでいいから……!」
キャル「……危ないから駄目? ちぇー」
キャル「…………」
キャル「一瞬だけ……」
キャル「えっ? 鞘から抜かなければいいって? ほ、ほんとっ!? うんうん、危ないことはしないって約束する!」
「そなたに剣を授けよう」
キャル「ふふっ、やったっ……♪ 憧れの剣~……♪」
キャル「……おっ、うわっ」
キャル「やっぱそれなりに重たいわね……。あたしの杖より重たいくらい。これを振り回すのはキツいかも……」
キャル「でもかっこいい~……♪ 振り回した~い……♪」
キャル「ありがと、貸してくれて。返すわね」
キャル「実際に持ってみたらいろんなアイデアが浮かんできちゃった。必殺技の構想とか!」
キャル「刃にあたしの魔法を纏わせてみたりしてさ、二人で協力して最強の技を繰り出すとか……いいと思わない?」
キャル「いつもあんたとは息が合うし、きっとあたしたち相性もピッタリだもん。最高のパートナーになれるはずだわ♪」
キャル「さっ、早いとこ町を出て魔物を退治しに行きましょ。さっそく出発よ、相棒♪」
更に数日後──
キャル「う~……すっかり遅くなっちゃったぁ……。辺りは真っ暗だし、人っ子ひとり歩いてないし……」
元気よく挨拶する。
キャル「ぎゃあぁあああ!? ででで、出たーーー!!!」
キャル「うぅぅぅ……取り殺される~……呪われて死んじゃう~……ひぃ~~……」
物陰に隠れる。
キャル「…………」
キャル「…………あれ? き、消えた……?」
キャル「よかったぁ……助かったのね……。見逃してもらえたのかしら……あ~怖かった……」
物陰から飛び出す。
キャル「いやぁあああっ!!!」
バチーン!
キャル「うひゃあっ!? た、叩いちゃったぁっ……! ごめんなさいごめんなさい……! 祟りとかほんとやめてください……!」
キャル「……って! オバケじゃなくてあんたじゃないのよっ! ふざけんな殺すぞ!? マジでぶっ殺すぞっ!?」
キャル「……ったくもう、信じらんない! 夜道で女の子を驚かすとか、マジで頭おかしいわよあんた!」
キャル「……どうせ怖い本でも読んだんだろうって? それがなによ。つうか、それがわかってて驚かすとかいい度胸してるじゃない」
キャル「ふんっ、あんたみたいな不審者は、逮捕されて冷たい牢獄の中で自分の愚かさと向き合うといいのよ。当然、反省しても死ぬまで牢屋の中。ざまぁみろ」
キャル「それで? あんたはこんなところで何してんの?」
キャル「は? 迷った? こんな見知った町の中で迷ったの、あんた? 言葉に詰まるくらいアホね……」
キャル「ま、ちょうどいいし、あたしと一緒に来なさいよ。知ってるところまで連れて行ってあげるから」
「もう少し一人で頑張ってみる」
キャル「…………」
キャル「待って……! 待ちなさいっ! 待ってってばぁ……!」
キャル「もう無理なの……あんたと会ったらホッとしちゃって……。今更一人じゃ歩けないわよ……」
キャル「…………怖くて」
キャル「う、うるさいわね……! あたしみたいな幼い女の子をこんな時間に一人で出歩かせるんじゃないわよ!」
キャル「……あたしが大人? 普段はそうだけど……今は子供なの。ねぇ、お願い……」
キャル「一緒に来てくれる……? ほんと……? ほっ……」
キャル「とりあえず大通りを目指しましょうか。夜でも人が多くて、尚且つ明るい道に出たいわ……一秒でもはやくね……」
キャル「ねぇ、絶対置いていったりしないでよ? あと、おどかすのもなし。いい?」
「声が聞こえる……」
キャル「ちょっ、ちょっとぉ……! おどかさないっでって──え? マジで聞こえるの?」
???「ふえ~~ん……うえ~~ん……」
キャル「んん? 子供の声……? 迷子かも……! 行ってみましょ!」
キャル「……あんたが先よ。あんたは前衛、あたしは後衛。そうよね? わかったらほら、はやくはやく」
たたたたっ──
キャル「見て、あそこ!」
女の子「え~~ん……」
キャル「ねぇ、大丈夫? 迷子になっちゃったの?」
女の子「ふぇ……? お姉ちゃんだぁれ……?」
キャル「あたしはキャル。こっちのお兄ちゃんは護衛よ」
キャル「こんな遅い時間にひと気のない道を歩いたら駄目じゃない。今は治安も良くないんだから気をつけないと」
女の子「ごめんなさい……。おうちに帰りたいけど道がわからなくなっちゃって……グスッ……」
キャル「……ったく。お姉ちゃんたちが送ってあげる。だから泣かないで? もう大丈夫よ、よしよし…♪」
女の子「えへへ……ありがと、お姉ちゃん……♪ じゃあ、わたしのおうちの住所なんだけど──」
キャル「……ふんふん。へぇ~、ずいぶん寂れたところに住んでるのね。……って、そんなこと言ったら失礼か。ごめんごめん」
「ここからならすぐだね」
キャル「そうね。5分くらいで着いちゃうかも。ここから更に細くて暗い通りを進まなくちゃいけないけど……」
キャル「……足が震えてる? うっさい……! 今はそんなことで立ち止まってる場合じゃないんだから!」
女の子「お姉ちゃん、おてて繋いでもい~い?」
キャル「あっ、うん。いいわよ、手ぇ繋いで行きましょ」
ぎゅ
キャル「ひゃっ……冷たっ……!」
女の子「お姉ちゃん……?」
キャル「う、ううん、なんでもない……」
キャル「…………」
ーーーーーーーーーー
キャル「住所はこの辺りのはずなんだけど……ねぇ、そろそろお家の場所わからない?」
女の子「えっと、えっとぉ……」
キャル「焦らなくてもいいわ。ゆっくり、落ち着いて見回してみて? きっと見覚えがあるはずよ」
女の子「うん……」
女の子「……あっ! あそこ! あの青い屋根のおうち!」
キャル「青い屋根……? 暗くてよく見えないけど……」
女の子「あははっ、お姉ちゃんたちー! はやくーっ!」
キャル「あーあ、あんなに嬉しそうにはしゃいじゃって。せっかくだしあの子が中に入るまで付き合ってあげましょ」
「見つかってよかったね」
キャル「そうね~。あの子の親に思うところがないわけではないけど……よその家庭のことに口を出すのも良くない気がするし」
女の子「おかあさーん! ただいまー!」
母親「よかった……! 心配してたのよ……? どこに行ってたの、もう……」
キャル「……ま、今日のところは一件落着ってことで。あんたも付き合ってくれてありがとね」
女の子「おかあさん、あのお姉ちゃんたちが一緒におうち探してくれたの! だから帰って来られたんだよっ!」
母親「あぁ、なんとお礼を言ったら良いか……本当にありがとうございました……!」
キャル「いえいえ、お礼なんてそんな……ねぇ?」
「放っておけなかっただけですから」
母親「後日必ずお礼をしに伺います。本当に、本当にありがとうございます……」
キャル「ほんとにお礼なんて結構ですから。それじゃあ、あたしたちは帰ります。……またね♪」
女の子「うんっ! またね、お姉ちゃん♪」
キャル「……ふぅ。ちゃんとお家に帰っていったわね。何事もなく終わってよかったぁ……」
キャル「実はさ、あの女の子……オバケなんじゃないかなって思ってたのよ」
キャル「だって。こぉんな遅くにあんなちっちゃい子供が一人で出歩いてるなんておかしいじゃない? オマケに、手を握ったら氷みたいに冷たいし」
キャル「……けどまぁ、もし生きてる人間だったらかわいそうだもん。見捨てるなんてことできないわよ」
キャル「結果的に普通の親子だったわけだから、逃げ出さなくてよかったわ。あんたが一緒じゃなかったら結果は違ったかもしれないけど」
キャル「ともあれ。家の場所は覚えたし、今度また明るい時間に遊びに……あれ?」
キャル「い、家が……ない……? あの子のお家、あそこにあったわよね……? い、今まであそこにあったわよねぇっ……!?」
「空き地になってる……」
キャル「…………」
キャル「あ……腰が……」
へなへな……
キャル「…………ぐすっ」
キャル「抱っこ……」
抱き上げる。
キャル「ふぇ~ん……もうやだぁ……! せっかく親切にしたのに、どれもこれも正体はオバケだったなんて~……」
キャル「…………」
キャル「…………必ずお礼に行くとか言ってなかった?」
キャル「う~……帰ったら絶対塩まいてやるんだから……! つうか、怖くて一人じゃ帰れないわよぉ……」
キャル「ねぇ……? このまま抱えて家まで送ってよ……。嫌って言ってももう離さないから……」
キャル「ぎゅ~~~……」
キャル「ちゃんと守ってよね……。頼りにしてるんだから……」
「こんなところに長居はできない。はやく家に帰ろう」
キャル「そ、そうだけどさ……今それ言うとなんか怖い感じになっちゃうからぁっ……」
翌日──
キャル「あ、いたいた。お~い」
キャル「偶然よく出くわすわね、って言いたいところだけど。今日はあんたを探してたのよ」
キャル「探してたっつうか、待ってた、かしら?」
「また推理小説の影響?」
キャル「ううん、昨日は違うのを読んだわ。現実的な話が読みたい気分だったし。ほら、あんなことの後だったから……」
キャル「なにを読んだのかは内緒。教えてあげない」
キャル「でさ。あんたって今日は暇なはずよね? 調べはついてるわ。……ふふっ、これは推理小説の影響かも」
「新技の開発で忙しい」
キャル「あぁ、一太刀で二回斬りつける奥義の特訓中なんだっけ? それならあたしが魔法でなんとかしてあげるから」
キャル「ふふん、絶賛開発中よ! その他にも、かっこよさに特化した魔法をいくつか考案してるの♪ 期待してくれていいわよ♪」
キャル「……っと、話が逸れちゃったわね。事件解決も新技開発も、もちろん幽霊対策も後回しにして……今から少しあたしに付き合ってよ」
キャル「えーっとね、昨日のお礼がしたいの。恐怖でパニックになったあたしに、あんたはすごく良くしてくれたし……」
キャル「ね? お茶でもしない? たまにはいい雰囲気の喫茶店でのんびりしましょ」
キャル「喫茶店の場所、ここからちょっと歩くんだけど……いいかしら?」
キャル「うん、じゃあ案内するわね。えっと……」
キャル「…………」
キャル「う、腕とか……組んでみる……?」
キャル「こんな風に……ぴったりくっついてさ……」
むぎゅ
キャル「こうすれば案内しやすいし、だからその……変な意味は無くて……」
キャル「いや、ほら、変な意味っていうのは、だからぁ……」
「恋人みたいだね」
キャル「こっ……!?」
キャル「…………」
キャル「…………うん」
キャル「嫌だったら正直に言ってよ……? すぐ離れるから……」
キャル「でもね? あたしはまだこうしてたいな~……なぁんて……えへへ……♪」
離れる。
キャル「チッ……!」
ーーーーーーーーーー
キャル「どう、このお店ー。素敵なお店でしょー。あたし気に入ってるのよーあははー」
「あの……」
キャル「なによ。別にあたし怒ってなんかないし。機嫌だって過去最高にいいわ」
キャル「組んだ腕を振りほどかれたくらいで機嫌を損ねるようなちっちゃい人間じゃないから」
キャル「は? あたしのどこが怒ってるってぇのよ。なに? ケンカ売ってんの? フーッ!」
キャル「…………じょーだん。怒ってなんかないってば。マジマジ。ちょっとイジワルしただけ」
キャル「ほんとはすっごく楽しいの。あんたといるとね、自然と笑顔になって……」
キャル「いつまでも一緒にいたいって思っちゃうの……♪ 変よね、あはは……」
「変っていうより、恋?」
キャル「…………」
キャル「もし、恋だったら……?」
キャル「あたしがあんたに恋してるって言ったら……どうする?」
キャル「……は? よくわかんない? チッ……こいつが赤ちゃんレベルのガキだってこと、すっかり忘れてたわ……」
キャル「すいません店員さーん。カップル専用ドリンクをひとつくださーい」
キャル「……お子ちゃまのあんたに恋愛ってものを教えてあげるわ! 今日一日は……こここ、恋人同士って設定であんたに接するからっ!」
キャル「あ、ドリンクが来たわ! ほらほら、あんたはそっち側のストローで飲むのよ。あたしは──」
キャル「こっち側のストローで……ちゅ~」
キャル「……ち、近っ! 顔が近っ……! げほっ、げほっ……!?」
キャル「はぁっ、はぁっ……」
キャル「…………今のがカップルの飲み方よ」
キャル「へ? もっと飲みたいの? 早くストローを咥えろって?」
キャル「……ごくっ」
キャル「じゃあ……もうちょっとだけ……」
キャル「ちゅ~……」
キャル「……んふふ♪」
キャル「は~、美味しいわね♪ ふふっ♪」
キャル「ねっ、手ぇ出して。テーブルの上に手を置くのよ。両手とも!」
キャル「そうそう。そうしたら……ギュッ、と」
キャル「こうしてお互いの指を絡め合って、二人の間にできたテーブル分の距離を埋めるの♪」
キャル「……さすがに調子に乗りすぎかしら?」
手を握り返す。
キャル「んにゃっ……」
キャル「うっわ、変な声出ちゃった……。あはは、ごめんごめん」
キャル「あはは……なんか緊張しちゃうわね……。心臓がめちゃくちゃドキドキいってるわ……」
キャル「……あんたは平気そうね。ケロっとしちゃってさ、あたしじゃ物足りないっての?」
キャル「ほらほら、想像してみなさい。あたしみたいなかわいい女の子がカノジョなのよ?」
キャル「手を繋いだり肩を寄せ合ったり、暇さえあればイチャイチャできて……そのうち、だ、抱き合ったり……キス、とかも……」
キャル「…………」
キャル「……えへっ♪」
キャル「心配そうにすんなぁ! ただのかわいさアピールよ! あんたはただデレデレしてりゃいいの!」
キャル「あぁもぉ~……あたしがせっかく勇気出してるっつうのに、あんたときたらさぁ……」
キャル「はーあ、アホくさ。も~いいわ、やめやめ。ほら、手も引っ込めていいわよ」
手を引っ込める。
キャル「……はぁ」
キャル「ほんとに引っ込めちゃうんだ? もしあたしが本物の彼女だったら、今のでなにもかも終わってたわよ。破局ね、破局」
キャル「あんたはもっと女心ってものを勉強しなさいよね! そんなんじゃ、あたしくらいしか恋人になってくれないわよ?」
キャル「……えへっ♪」
キャル「だから不安そうな顔すんなっつってんのよ! くっそぉ……!」
キャル「こうなったら意地でも……」
キャル「え? 顔が赤い? 様子もおかしいし、熱でもあるんじゃないかって?」
キャル「…………好きな人といるとね。こんな風に顔は真っ赤になっちゃうし、心臓もドキドキしっぱなしで……」
キャル「ちょっとおかしくなるのも、まぁ普通なんじゃないかな。器用に立ち回る奴もいるんでしょうけど、あたしには無理」
キャル「ねぇ、覚えてよ。これがあたしの『恋』。恋の相手は、あんたなの」
キャル「……こんなこと素直に話せるの、相手があんただからなのよ? 特別なんだから」
キャル「……んん? あんた、なんかニヤついてない?」
キャル「もしかしてあたしのことバカにしてんの? さすがに傷つくわよ……?」
「なんだか嬉しくて」
キャル「はぁ? うれ、嬉しい、の……? ふ、ふ~ん? なんでかしらね? ふふふ……♪」
キャル「あっ、じゃあさ。あたしと手を絡めてたときは? 内心嬉しかったり……したのかしら?」
キャル「特になんとも思わなかったんだ? なによもう……」
キャル「散々アピールしても全然手応えないし、なのに『好き』って言ったらニヤニヤしてるし」
キャル「……」
キャル「…………好き」
キャル「あ、また嬉しそうにしてる! え? なんなの? どういうこと?」
キャル「一個ずつ確認させなさい! まず、あたしに好きって言われると嬉しいのよね?」
頷く。
キャル「んふ……♪ じゃ、じゃあ、次。あたしと手を絡めるのは別に嬉しくないの?」
頷く。
キャル「……よくわかんないけど、まぁここまではさっき聞いた通りね」
キャル「嬉しくないのはわかったけど……ドキドキはした? それすらなかったのかしら?」
「ドキドキした」
キャル「へ、へぇ~? それならなんでさっさと手を離しちゃったの? ずっと握ってくれててよかったのに」
キャル「はぁっ!? て、照れ隠し!?」
キャル「ドキドキして、恥ずかしくなっちゃったから手を離したの!? な、なぁんだ……てっきり脈ナシなのかと思ったわ……」
キャル「あっ、もしかして最初に腕を組んだときも? すぐに離れちゃったけど、あれも照れ隠し?」
頷く。
キャル「は~……マジかぁ……。そんなことなら無理にでも腕を組んで歩けばよかった……」
キャル「あぁ、でも腕を組んだところで、あんたは嬉しくもなんともなかったんだっけ。なら別に──」
「あのときは嬉しかった」
キャル「あれっ? そうなの? う~ん……?」
キャル「あんたちょっと難しすぎない……? 意味わかんないんだけど……」
キャル「ま~いいわ。ドキドキしてくれるってことさえわかれば、あとのことは些細な問題よね」
キャル「さっきも言った通り、今日一日あたしたちは恋人同士の設定よ! 恋愛の心地よさを徹底的に叩き込んで、あたしの虜に……って、あれ?」
キャル「急に残念そうね。デートをするのは嫌?」
「デートがしたい」
キャル「ん? だからこれからデートを……」
キャル「…………」
キャル「…………『設定』?」
キャル「あの、あのっ、あたしの勘違いだったら笑い飛ばしてくれていいんだけど……!」
キャル「……ほ、ほんとの恋人同士になりたかったり、する?」
キャル「でもほら! さっきあたしが『あんたに恋してたらどうする?』って聞いたときは、よくわかんないって……!」
「どうしたらいいのかわからなかった」
キャル「どうしたらって……。そんなの、いつも通り正直な気持ちを伝えてくれればいいのに」
「好き」
キャル「!」
キャル「えへっ、あは……♪ んふふふ……♪」
キャル「……」
キャル「……も、もしまたわかんないことがあったら教えてあげるし、しんどくなったら元の関係に戻ってもいいから──」
キャル「恋人同士に……なってみる?」
「恋人同士になりたい」
キャル「あっ、ぅ、あ……」
キャル「う~……」
キャル「えっへへへ……♪」
キャル「そ、そうだ! 手! 手ぇ出して!」
キャル「もう一回…………ギュッ」
キャル「あーーっ! あんたっ、ニヤけてるっ! 喜んでるわね!? ちゃんと嬉しいのねっ!?」
キャル「ちょ、ちょろいわ~っ! あたしの魅力であっさり堕ちちゃったじゃない! 単純な奴~!」
キャル「…………そんなあんたが大好き♪」
キャル「んじゃ、さっそくお店を出ましょうか。なんで、ってデートよデート」
キャル「付き合い始めたからって、それで終わりじゃないのよ? もっとお互いのことを知って、もっと親しくなって、もっと……好きになって……」
キャル「か、かわいがってほしいし……イチャイチャしたりも……したいし……♪」
キャル「む。その顔、よくわかってないって顔ね。あんまりピンとこないんでしょ?」
謝る。
キャル「いいのよ。あんたの気持ちはちゃんと聞けたし。焦らずいきましょ」
キャル「でも、そうねぇ。あたしが一つずつ、手取り足取り教えてあげるのも悪くはないんだけど……自分でも少し勉強してみなさいよ」
キャル「そのための参考書を貸してあげる。はい、これ。時間があるときに読んでみるといいわ」
「恋愛小説?」
キャル「そ~よ。今ランドソルで大人気の恋愛小説なの。蕩けるくらい甘くてロマンチックな話なんだってさ。あたしはまだ読んでないけどね」
キャル「こういうのは実際に恋人ができてから読んでみようかなーって。……一生読めないんじゃないかと思って焦ったけど」
キャル「ともあれ。今日のデートはあたしがリードしてあげるから心配いらないわ♪ 退屈なんて絶対させないんだから♪」
キャル「さぁ、遊ぶわよー! あたしたちの初デート、最っ高の想い出にしてやろうじゃない!」
キャル「……腕は組まないからね? 誰かに見られたら恥ずかしいし……」
キャル「その代わり、二人きりのときは……ねっ♪ ふふっ♪」
おしまい
キャルちゃん一回デレたらこんな感じになりそうなイメージある
乙
このSSまとめへのコメント
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