高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「鼻歌交じりのカフェで」 (38)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「…………~♪」

北条加蓮「……」ポチポチ

藍子「……」ボー

加蓮「これでオッケー、っと……。ごめんね藍子ー」シマイシマイ

藍子「ううん、いいですよ」

加蓮「……」ボー

藍子「……~♪」

加蓮「……なんか楽しそうだね?」

藍子「え?」

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レンアイカフェテラスシリーズ第87話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「曇天のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「9月5日のその後に」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「お団子のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「向かい目線のカフェで」

前々回のあらすじ:いつものカフェに、ちょっとずつお客さんが増えているみたいです。


加蓮「え? って。楽しそうにしてるからさ。何かいいことでもあったの?」

藍子「……?」

加蓮「それともそういう気分の日? ふふっ。今の藍子を見せたら、みんなも楽しい気分になっちゃいそうだね」

藍子「……??」

加蓮「……無自覚なんだね」

藍子「何がですか……? ……加蓮ちゃんは私の何を見たんですかっ。気になっちゃいますよ」

加蓮「気になる」

藍子「気になるっ」

加蓮「じゃあ――」

加蓮「そのまま明日まで気にし続けて過ごしてなさい♪」

藍子「!?」

加蓮「明日は私も藍子もレッスンの予定が入ってたよね。じゃあ、正解はその時に教えてあげるっ」

加蓮「ふふ。せいぜい悩みなさい。私何してたっけー? って。あははっ」

藍子「う~……。いじわるっ」

加蓮「意地悪じゃない加蓮ちゃんなんてこの世界に存在しませーん」

藍子「そんなことないです。他にも……例えば、素直な加蓮ちゃんと」

加蓮「いないいない」

藍子「ポテトが大好きで、よく食べに行ったり、事務所に持って来てみんなに分けてあげている加蓮ちゃん――」

加蓮「それは……いるね。そうそう。ポテトなんだけどさー」

藍子「あとは、レッスンを真面目に――あっ、はい。何ですか?」

加蓮「あー。いいよ。続きを聞かせて?」

藍子「いいですよ。加蓮ちゃんのお話の方が気になり――」

藍子「……き、気には、そんなにはならないかもしれませんけれどっ」

加蓮「予防線張り出してるー」ククッ

藍子「……」プクー

加蓮「あはははっ」

藍子「!」ピコーン

藍子「加蓮ちゃん。なんだか加蓮ちゃんがお話したそうにしているみたいなので、加蓮ちゃんのお話でいいですよ」

加蓮「へぇ? 藍子にしては頑張って考えた方だねー?」

藍子「…………」プクー

加蓮「ごめんごめん」

加蓮「でも真面目に、ちょっと気になるんだよね。藍子の中には、どんな加蓮ちゃんがいるのか……って」

藍子「私の中の加蓮ちゃん?」

加蓮「人からどう思われてるんだろ? って奴。気にならない?」

藍子「それは……確かに気になっちゃいますよね」

加蓮「少なくとも、ポテト大盛りで注文したら底の方がしなびてたー、っていうどうでもいい話よりはね?」

藍子「それ、さっきお話したかったことなんですか?」

加蓮「そうだよ。……あ、笑ったね? 笑ったでしょ」

加蓮「ポテトの底がしなびてるんだよ? 超大事な話じゃん。しなびてたんだよ?」

藍子「あはは……」

加蓮「ちなみにやっぱり食べきれなかったので、しなびた部分は奈緒担当となりました」

藍子「奈緒ちゃんに食べてもらったんですか?」

加蓮「すっごい嫌そうな顔して食べてた」

藍子「もう。嫌がることをしちゃ駄目ですよ」

加蓮「しなびてたから食べてもらった訳じゃないけどね。で、帰り道ずっと「奈緒はしなびたポテト担当だねー♪」って言い続けてたら、キレられた」

藍子「こらっ」

加蓮「トライアドプリムスのしなびたポテトを食べる担当、神谷奈緒」

藍子「うくっ……トライアドプリムスの……あはははっ……う、ううん。駄目ですよ加蓮ちゃんっ」

藍子「ほら、そういうことを言ったらまた凛ちゃんに怒られてしまいます」

加蓮「凛のいないところで言ってるから平気平気ー♪ ……こら。じゃあ自分から教えておこう、って考えるのはやめなさい」

藍子「ばれちゃうんですね」

加蓮「そういうことするんだったらもう藍子とは話さないからね!」

藍子「それは困りますね……。では、今のお話は凛ちゃんに言わないでおくので、私ともお話してくださいっ」

加蓮「しょうがないなー」

藍子「やったっ♪」

加蓮「って、ポテトの話じゃなくて。藍子の中にいる加蓮ちゃんの話でしょ」

藍子「そうでしたね」

藍子「私の中にいる加蓮ちゃん……。なんだかそう聞くと、こう、マスコットみたいなちっちゃい加蓮ちゃんが、私の中に住んでいるみたいに聞こえてしまいますね」

加蓮「マスコットみたいな?」

藍子「ほら、よくミニアニメや、子ども向けの番組とか……アイドルのグッズでも、あるじゃないですか」

藍子「これくらいの……」(人差し指と親指を小さく広げる)

藍子「2頭身くらいの、ちっちゃいキャラクター♪」
※つまりは「ぷちデレラ」ですね

加蓮「アニメグッズでもよくあるみたいだよね。その加蓮ちゃんが藍子の中に住んでるの?」

藍子「はい。私の中に、ちっちゃい加蓮ちゃんが住んで……それってなんだか、すっごく楽しそう♪」

藍子「朝起きたら、ちっちゃい加蓮ちゃんがあいさつしてくれるんです。おはよう、って」

藍子「にこっ♪ って笑ってくれる姿は、いつもの加蓮ちゃんよりずっと可愛くて――」

加蓮「む。いつもの私は可愛くないと?」

藍子「そんなこと言っていませんよ。どっちの加蓮ちゃんも、きっと可愛いですから」

加蓮「はいはい、ありがとー」

藍子「それから、学校や事務所、お仕事の現場に向かう時には、肩にちょこんと乗ってくれたりして……」

加蓮「退屈しなさそう」

藍子「はいっ。それに、ときどきは一緒に歩いたりもするんです。歩調が小さいから、いつもとは逆に私の方が早く歩いてしまいそう」

藍子「もしかしたら、遅刻しちゃうかも……? ついつい、加蓮ちゃんと色んなお話をしてしまいそうですね」

加蓮「一緒に歩くとよく喋るもんねー、藍子」

藍子「そうですか?」

加蓮「それも無自覚なんだ。ここでの10倍くらいは喋ってると思うよ」

藍子「10倍!?」

加蓮「……なんてね。藍子の話、聞いてて楽しいよ?」

藍子「今度は、加蓮ちゃんのお話も聞かせてくださいね」

加蓮「じゃあ次は、加蓮ちゃんがお散歩の風景を解説する回とかにしよっか」

藍子「ファンのみなさんに、面白い場所や、写真を撮りたくなる場所をお伝えしましょう♪」

加蓮「藍子みたいにうまく言えるかな」

藍子「きっとできますよっ」

加蓮「ふふっ。今度やろっか」

藍子「はい♪ では、まずは練習からしないといけませんね」

加蓮「そうやって次の約束を取り付けるなんて、藍子はしたたかだねー」

藍子「えへ」

藍子「私たちだけでやるんじゃなくて、本当に何かやってみたいですね」

藍子「モバP(以下「P」)さんに相談して、実際にどこか……テレビ番組は難しいかもしれませんけれど……スマートフォンで、配信とかしてみますか?」

加蓮「お、具体的な話になってきた」

藍子「お散歩のお話ですから。加蓮ちゃん、もう逃しませんよ~? なんてっ」

加蓮「こわいなー。とりあえずPさんに要相談だし、っと。取っ掛かりだけ送っとこ」ポチポチ

藍子「えっ、もう送っちゃっう……送っちゃったんですか?」

加蓮「うん。お散歩のことで相談したいことがあるーってだけ」

藍子「そ、そうですか……」

加蓮「……急に緊張しなくてもよくない?」

藍子「だって、お話が急すぎて。まだ、どこに行くとか、何をお話するとかなんにも考えてないのにっ」

加蓮「別にこの後すぐ何かやる訳じゃないし、だいたい藍子はどこか歩く度にそんなに色々考えるの?」

藍子「それは――」

加蓮「それにPさんとのミーティングの時には私もいてあげるから。って、私も参加する話なんだから当然なんだけど……」

加蓮「今すぐ本番です、MCをお願いします、なんて無茶振りでもないの。ほら、肩から力を抜いて、いつもみたいにアホっぽい顔してなさい」

藍子「加蓮ちゃん……。うん、そうですよね。つい、緊張してしまいましたっ」

藍子「カフェでのんびりしている時に、準備する時間もないままいきなりお仕事なんて……。まるで、パジャマでのんびりしていたら、急に学校に行かないといけなくなった時みたいです」

加蓮「寝坊したのかな?」

藍子「寝坊しちゃったのかもしれませんね。……って、加蓮ちゃんっ。誰があほですか~っ」

加蓮「……」

藍子「無言で指ささないでっ」

加蓮「っと、返信来た♪」

加蓮「なになにー?」

加蓮「……」

藍子「?」

加蓮「…………」スッ

藍子「……Pさんが首を傾げている姿が思い浮かべられる、そんなメッセージですね……」

藍子「って、加蓮ちゃん……。"お散歩のことで相談がある"ってそのまま送ったら、Pさんも何のことかわかりませんよ……」

加蓮「えー。分かってくれないかなぁ……」

藍子「……気持ちは分かりますけれど、もうちょっと伝わるように言いましょうね?」

加蓮「はいはい。藍子との撮影ってアイディアが出たんだけど、っと――」ポチポチ

藍子「……」ジー

加蓮「んー……。えーっと、藍子の出てる番組に出たいとかじゃなくて私と藍子でやりたくて、あーっと、テレビじゃなくてもうちょっと小さめの企画の……」

加蓮「どうやったら成程って思ってくれるかなー。どう送ったら、面白そう、って思ってもらえるかな?」

加蓮「むむ……」ポチポチ

藍子「……♪」ニコッ

……。

…………。

加蓮「送信っと。つっかれたー」グデ-

藍子「お疲れ様です、加蓮ちゃんっ」

加蓮「なんかすごい悩みまくっちゃった。結局3行だけ開いたのにね。……うわ、結構時間使っちゃってる。退屈じゃなかった?」

藍子「ううん。ぜんぜん。加蓮ちゃんを、ずっと見ていましたから」

加蓮「……変な顔してなかったよね、私」

藍子「……ちょっとだけ」

加蓮「藍子」

藍子「はいっ」

加蓮「スマホを出しなさい」

藍子「撮ってませんっ」

加蓮「いいから」

藍子「撮ってませんからっ」

藍子「そうではなくて……加蓮ちゃん、自覚がなかったかもしれませんけれど、途中から、どうやったらPさんに興味を持ってもらえるか、とか、どうやったら面白いって褒めてもらえるか、とか……」

加蓮「げぇ」

藍子「ずっとPさんのお話をしていたんですよ。ううん、最後の方は……もうずっと夢中になっていた時は、ときどき、私のことも言ってくれてて」

加蓮「うぁー……」

藍子「"藍子にとっても、楽しい時間になればいいな……"って! ふふっ♪」

加蓮「……」ゲシ

藍子「痛いっ」

加蓮「…………」ゲシゲシ

藍子「テーブルの下から蹴らないで~っ。けっこう痛いです。もうっ!」

加蓮「……」プクー

藍子「ふふ。ごめんなさいっ。Pさんも、きっといいお返事をくださると思いますよ」

加蓮「あー、返信は後にしてもらうようにしたから、今日はもう大丈夫だよ」

藍子「後にしてもらうということは、Pさんはお忙しい感じですか?」

加蓮「ううん、別に。今お菓子食べてるんだって」

藍子「お菓子……」

加蓮「何食べてるんだろーね」

藍子「何を食べているんでしょうね~」

加蓮「今やり取りばっかりしてると、目の前の女の子が拗ねちゃいそうだし? だから返信は夜にしてもらうことにしたよ」

藍子「……それって、誰のことですか?」

加蓮「誰のことだろうねー?」

藍子「加蓮ちゃん。もしかして……スマートフォンをずっと見続けていたから、目の前の女の子が自分のことだって気づいていない、なんて……?」

加蓮「へぇー? 言うね。言ってくれるねー? 何をマジ顔で言ってるのかなー? んー?」グニグニ

藍子「いひゃい、いひゃいっ」

加蓮「っと」パッ

加蓮「今やり取りばっかりしてると、目の前の藍子ちゃんが拗ねちゃいそうだし? だから返信は後にしてもらうことにしたよ」

藍子「あはは……。言い直さなくても」

加蓮「藍子が認めないからはっきり言わなきゃ」

藍子「私、別に拗ねたりしませんよ?」

加蓮「いーや藍子は拗ねる。そして私を満足させろとか言って私にあれこれ注文させるんだっ」

藍子「注文?」

加蓮「私の気に入る物を持ってこーい! 下僕共ーっ。はい復唱」

藍子「私の、気にいる物を持って――」

藍子「何言わせようとしてるんですか~っ」

加蓮「くくっ。残念。敢えて最初じゃなくて最後に下僕ってつければ気付かれずに行けるって思ったのに。それに、店員さんは向こうのお客さんのところにいたみたいだね」

藍子「ほっ……」

加蓮「私は諦めないよ。店員さんの中の藍子ちゃんを、藍子様に変化させることを!」

藍子「そんなの今すぐ諦めてください!」


□ ■ □ ■ □


藍子「さっきのお話になりますけれど、それが加蓮ちゃんの中にいる私なんですか?」

加蓮「マスコットの話?」

藍子「あっているような、違うような……?」

加蓮「2頭身のミニマム藍子ちゃんが、キリッとした顔で女王様みたいに言うの。あれが食べたいから持ってきなさい、みたいに」

藍子「ふんふん……ん……?? あの……。私が言うのも何ですけれど、想像できないんですけれど……」

加蓮「うんうん、想像しにくいねー。やっぱりここは実物の藍子ちゃんにやってもらわないとね?」

加蓮「じゃあ藍子、復唱! クッキーが食べたいから持ってきなさーい!」

藍子「言いませんっ」

加蓮「ちぇ」

加蓮「マスコットの藍子ちゃんと、女王な藍子様の話は置いといてさ。そろそろ聞いてみたいな。藍子の中にいる加蓮ちゃんのお話」

加蓮「そういうの、たまに確認した方が安心できるっていうか?」

藍子「え? ……もしかして、何か不安になるような――」

加蓮「違う違うっ」

加蓮「そうだね……ちょっと極端な例えになっちゃうけど、私の知らないうちに藍子の中の加蓮ちゃんが、いつの間にか"頑張り続けれるドジっ子"とか、"ギラギラ眩しい体力バカ"って思われてたら嫌でしょ?」

藍子「…………」ジトー

加蓮「さぁ? 誰と誰のことだろうねー」

藍子「……褒めたいのなら、素直に褒めてあげてくださいね?」

加蓮「絶ッ対やだ。ちょっと隙を見せたら、すぐにするするって入り込んでくるんだから」

藍子「そんな言い方しなくても……。そういえば私、ときどき相談を受けたりするんですよ。もっと加蓮ちゃんと仲良くなりたい、って」

加蓮「加蓮ちゃんは気難しいクールガールなので無理だよ、諦めて、って返しておいて」

藍子「…………」ジトー

加蓮「何その、どこがですか? って顔」

藍子「それもありますけどそうじゃないですっ」

加蓮「じゃあさ藍子。私がもし歌鈴や茜とすごく仲良しになったら、このカフェで2人でのんびりする時間も減っちゃうかもしれないよ? 藍子ちゃんはそれでいいのかなー?」

藍子「うぐっ……」

加蓮「ふふっ」

加蓮「……前は、そういうの藍子ばっかりの話だったと思ってたけど、なんか最近逆になっちゃってる感あるね」ボソ

藍子「?」

加蓮「なんでもない。ね、あの2人のことはともかくさ。話、戻そうよ」

加蓮「藍子の中で加蓮ちゃんがおかしいことになる前に、認識の確認……。なんて言っちゃったら、ちょっと重く聞こえちゃうね」

加蓮「不安になることはないけど、安心を得たいっていうのかな? うーん、それもちょっと重いか」

加蓮「じゃあ心理テストみたいなものってことで」

藍子「心理テストなら、気軽に答えられそう」

加蓮「それで意外とドンピシャで焦っちゃったり?」

藍子「あります、ありますっ」

藍子「心理テストでは、あまり直接聞かれることってありませんよね。あなたは私のことをどう思っていますか、なんて」

加蓮「何かに例えたりするよね。目の前の友達を料理に例えてみてください、とか」

藍子「ふんふん」

加蓮「普段作っている料理なら、あなたはその人をすごく身近に感じています。逆に作ったことのない料理なら、無意識のうちに少し引いて接してしまっているかも……? 的な?」

藍子「わ……すごくそれっぽいっ」

加蓮「ちなみに私は料理しないしできないから答えようがないね」

藍子「あ、ずるいっ。私だって加蓮ちゃんの気持ちを知りたいのに!」

加蓮「心理テストとして?」

藍子「心理テストとして、ですっ」

藍子「加蓮ちゃんの中の私が、もしこういう風になっていたら嫌だなぁっていうの――」

藍子「……う~ん。例えは、あんまり思いつきませんね」アハハ

加蓮「えー。そこ聞いてみたかったのに」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「自分が思われてほしくない性格とか、性質? って、要するに自分の好きじゃない物とか、好きじゃないところってことでしょ?」

加蓮「なら、藍子から"思われたくない自分"を聞いたら、間接的に藍子の嫌いなものが分かるかなーって」

藍子「あ~……」

加蓮「藍子、そういうの隠したがるし?」

藍子「隠しているんじゃなくて、あんまりないんです。嫌いなものや、嫌いなことが」

加蓮「分かってるけどさ。だからこそー?」

藍子「もうっ。ないものは、ありませんからっ」

加蓮「残念。せっかくだし、聞いた内容がもし藍子に該当しそうなことなら」フリカブリ

加蓮「アンタはいつまで自分のこと卑下してんのよ!」ベチ

藍子「痛いっ」

加蓮「って、どついて直してやろうって思ったのに」

藍子「加蓮ちゃんっ。言ってないのにどつかないでくださいっ」

加蓮「ひひっ」

藍子「加蓮ちゃんの中にいる私……。う~ん――」

加蓮「あれ、まだ考えるんだ」

藍子「加蓮ちゃんに言われたら、気になっちゃって。それに、加蓮ちゃんが聞きたいって言いますもん。それならもう1回、考えてみようかな……って」

加蓮「……ふふっ。じゃあ、考えてる間に私は注文してようかな」

藍子「う~ん……」

加蓮「すみませーん。私はホットココアで、藍子には……。悩んでる子に合いそうな飲み物っ」

藍子「う~~~ん」

加蓮「――それならホットココア2人分がオススメ? そっか。じゃあそれでお願いねー」ヒラヒラ

藍子「う~~~~~ん」

加蓮「……」チラ

加蓮(……えー何それ、もっと面白いこと言ってよー。なんて言う程じゃないよね)

加蓮(でも、店員さんからは私がそういうこと言う子って認識されてそうだけど……)

加蓮(今度試してみよ)

藍子「ん~~~~~」

――数分後――

藍子「」プシュー--...

加蓮「……たまに思うけどアンタって結構アホっていうか、変なところでパッションだよね」(ココアを啜りつつ)

藍子「……」ヨロヨロ

加蓮「もしかして、心理テストを答える時も10分くらいかけちゃったりする?」

藍子「それはさすがに……ないと、思います……」オキアガル

加蓮「はい。ココア」スッ

藍子「ありがとう、加蓮ちゃん……」ズズ

加蓮「ん……」ズズ

加蓮「……ふうっ」コトン

加蓮「ま、藍子ちゃんが嫌なとこ探しを始めるような、嫌な女の子になるよりはよっぽどいっか」

藍子「……」ズズ

加蓮「でも世の中には悪い人もいっぱいいるんだからね? 気をつけなさいよ」

藍子「……ほわ……♪」

藍子「ふふ。加蓮ちゃん。それ、前にも聞きましたよ?」

加蓮「何回も言いたくなるくらいアンタが危なっかしいからってことなんだけど!?」

藍子「わ」

藍子「……」ズズ

藍子「ふう~……♪」コトン

加蓮「てりゃっ」ベチ

藍子「痛いっ。え、なんでですかっ」

加蓮「飲んでる途中にはたいたら、ココアがこぼれるでしょ。だから飲み終わるのを待ってはたいた」

藍子「そういうところ加蓮ちゃんっぽいけどその優しさをもっといい感じに活かしてください!」

藍子「もし本当に悪い人がいっぱいいるんだったら……加蓮ちゃんが見つけて、私に教えてくださいね」

藍子「そうすれば、私も安全で、私が安全なら加蓮ちゃんも安心できるハズですから!」

加蓮「ボディーガード? まぁいいけど」

加蓮「とりあえず手始めに、病院で白衣を着ている大人が言うことは全部嘘だから耳を傾けちゃ駄目だよ」

藍子「……加蓮ちゃんに任せるって言ったの、撤回してもいいですか?」

加蓮「駄目です」

藍子「…………」ジトー

藍子「……」ズズ

藍子「私、ときどき思うんですけれど――」

加蓮「?」ズズズ

藍子「……」

藍子「……、ううん、なんでもないです。それより加蓮ちゃん」

加蓮「??」

藍子「加蓮ちゃんは、私のことを楽しそうって言いましたけれど、加蓮ちゃんの方こそ、なんだかごきげんみたいですね♪」

加蓮「……え、そう?」

藍子「いつもより、ずっと口数が多かったり、声が楽しそうだったり……。べちべち叩いてくるのも、ごきげんって感じっ」

加蓮「そういうこと言ったらもっと叩いちゃうよ?」

藍子「ふふ。それはやめてくださいっ」

藍子「私のことを自覚がないなんて言ったのに、加蓮ちゃんだって、自分のこと分かっていないじゃないですか~」

加蓮「分からないものだよね」

藍子「でしょ?」

加蓮「1人でいる時なら、自分の機嫌がいいとか悪いとかって気付けるけど、誰かといると……ね?」

藍子「そうです、そうです。でも……他の人が、それに気づいてくれるんですから。それで、いいじゃないですか」

加蓮「……」

藍子「ねっ♪」

加蓮「……でも私は藍子ほどには惚けてないから」

藍子「そうですか~? 加蓮ちゃんだって、けっこう意外なことに気づかなかったりしてますよ?」

加蓮「藍子ほどじゃないってば」

藍子「私だって、ときどきうっかりはしてしまいますけれど、加蓮ちゃんだってそうですよ~」

加蓮「藍子ほどじゃない!」

藍子「どうしても、そこにこだわるんですね……」

加蓮「べーっだ!」ゴクゴク

藍子「……もう、加蓮っちゃんったら」ズズ

加蓮「さっきの、イメージの話だけどさ」

加蓮「どう思われたら嫌っていうのが思いつかないなら、どう思われててほしいかな、って……好きの方で考えてみたら良くない?」

藍子「どう思われていてほしいか――」

加蓮「今なら藍子の希望を1つくらい受け入れてあげる。藍子は、どんな風に思われていてほしい?」

藍子「う~ん……。どんな風に思われていてほしいか、ですか……」

加蓮「希望を受け入れてあげるのは今だけだよー? ほらほらっ」

藍子「……」

藍子「…………」

加蓮「あれ……こっちも思いつかない?」

藍子「思いつかない、というよりは……。加蓮ちゃんは、加蓮ちゃんでいてほしいなって」

加蓮「へぇ?」

藍子「確かに、加蓮ちゃんの直してほしいところとか、嫌だなって思うところとか――ない、って言ったら嘘になってしまいます」

加蓮「……ふふっ。ちゃんと悪いところ、見つけてくれるんだ」

藍子「あはは……。駄目だよって言うのは、Pさんや他の方に任せることになってしまいそうですけれど」

加蓮「それでもいいよ。それに、藍子なら――」

藍子「……私なら?」

加蓮「……」フルフル

加蓮「続けて? 今は、藍子のお話を聞きたいから」

藍子「……?? じゃあ……」

藍子「こうなってほしいっていう希望や願望って、心の中で思っても、直接言うことではないって思うんです」

藍子「それよりは……加蓮ちゃんには、加蓮ちゃんでいてほしいですから」

藍子「うんっ。自然体の、そのままの加蓮ちゃんでいてほしいですっ」

藍子「だから、こう思っていてほしい――こうなってほしい、っていう希望は……ちょっともったいないですけれど、無しってことで!」

加蓮「……あーあ。もったいないの」

藍子「くすっ。では、その分を他のお願いに回してもいいですか?」

加蓮「そんなことする訳ないじゃん。そんなに世の中甘くないよー?」

藍子「それは残念っ」

加蓮「っていうか何大真面目に喋っちゃってんのよ藍子。これ、心理テストの話なんだよ?」

藍子「そういえば……そうでしたね。心理テストのお話でしたよね」

加蓮「ちょっとしたお話だったのに、昔話になったり、急にシリアスモードになっちゃったり、そういうのって加蓮ちゃんのやることだったでしょ? 悪い影響を受けちゃってるんじゃないの?」

藍子「……え~っ。そういうことを言うなら、私、もう加蓮ちゃんとお話なんてしませんからっ」

加蓮「え」

藍子「……」

加蓮「……って、それさっき私が藍子に言ったことじゃん!」

藍子「おかえしっ」

加蓮「あ、あははー……。……えーっと」

藍子「……」ジトー

加蓮「な、何。藍子だって、ちょっとマジな話したらすぐ泣きそうな顔になる癖に!」

藍子「もしかしたらそれも、加蓮ちゃんに影響を受けてしまったかもしれませんね」

加蓮「ぐぬぬぬぬぬ……!」

藍子「……♪」

加蓮「ハァ……。この話は終わろっか」

藍子「はい、終わりにしましょう――あっ、そうだ。こういうのはどうでしょうか?」

加蓮「?」

藍子「私たちで、心理テストを作るんです。お題は――お散歩の心理テスト!」

加蓮「お散歩の……。あ、もしかしてそれ、今度配信するからってこと?」

藍子「はい♪ 加蓮ちゃんは、何か思いつきますか?」

加蓮「やっぱり、定番は"持っていく物"とか?」

藍子「いいですねっ。あっ、天気はどうでしょうか。晴れているって答えた人は……今日はきっと、すっごくいい1日になりますよ♪ なんてっ」

加蓮「天気もいいね。じゃあ雨って答えた人は?」

藍子「そうですね~……。雨と答えた人は……きっと、今まで見つけられなかった物が発見できます!」

加蓮「雪って答えた人!」

藍子「初めての発見や体験ができるかもしれませんね♪」

加蓮「分かる分かるっ。なんかいい感じだね」

藍子「他にもいっぱい作っちゃいましょう♪」

加蓮「食べる物とか、買った物とか!」

藍子「公園に寄った時の出来事、というのはどうですか?」

加蓮「いいねいいね。最初に見たのは子供が遊んでいる所か、それとも大人が――」

藍子「待ってください加蓮ちゃん。1つ1つ、ノートに書いていきましょうっ」ガサゴソ

加蓮「オッケー。あ、一緒に歩いてる人と話題が切れた時にどうしますか、みたいなのは?」

藍子「ふんふん。その時の選択肢は――」

加蓮「やっぱり4つくらいがいいよね、まずは――」

――数時間後――

藍子「……………………」

加蓮「…………藍子」

藍子「…………はい」

加蓮「Q.気付いたらもうこんな時間! それは何時ですか A.夜遅く ……この場合の結果って、何になると思う?」

藍子「……お母さんに怒られるので、覚悟しましょう、とか……?」

加蓮「それ心理テストじゃなくない……?」

藍子「時間を忘れるくらい熱中していました、とか……」

加蓮「ただの事実じゃん……」

加蓮「もう! 藍子が大はしゃぎするから! ただの心理テストの話なのに!」

藍子「かっ……加蓮ちゃんこそ、すっごく楽しそうだったじゃないですか~っ」

加蓮「時間を忘れてたのは藍子の方でしょ!」

藍子「いつも教えてくれるのに教えてくれなかったのは加蓮ちゃんっ」

加蓮「藍子!」

藍子「加蓮ちゃん!」


【おしまい】

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