【デレマス】望月 聖「かみさま」 (16)

デレマスの奴です。

・めっちゃモブ視点

・地の文あり

久々すぎて色々とガバるのでお願いします

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十二月二十五日、まだ真夜中。

誰もいない公園で、ずっとまつ毛に降り積もる雪を睨んでいた。

今日、私はアイドルを辞めた。

「今までお世話になりました。」

その一言だけ告げて、事務所を飛び出して、もう六時間は経ったかも。
スマホとか、誰にも会いたくないから電源切ってるし、わからない。
ただ、全部どうでもいい。

「はぁ」

思い返すと、我ながら酷い。

一週間前、私は後輩に呼ばれて事務所に顔を出した。
その子はとても優秀で、要は「才能のある子」だったんだと思う。

私の顔を見た瞬間、私に人懐っこい笑顔を見せて、一冊の台本を渡してきた。
人気ドラマシリーズの、まだ公開されていないシーズンのものだった。
覚えている、散々だったオーディションのことは思い出したくもない。

「センパイ、これ、私一番に見せたくて!」

 その表紙に、出演者として、後輩の名前が印字されていた。

 ――。

「はあぁ」

漏れ出した息が白く形を作って、落ちてくる雪の中に溶け込んで消えた。
私は、あの空気の塊に「ばかもの」と名付けた。

名付けて、髪やら鼻先に容赦なく乗っかる雪を感じながら、瞼を閉じる。

クリスマスの街は、とても居心地が悪かった。

別に、恋人たちが手を繋いでいたり、抱き合っているのを見るのは嫌ではない。
きっと、彼らにはそれが幸せで、天国にいるみたいな気分なんだ。
それは、素敵なことだと思う。

でも、今日はそれを眺めていると、骨の芯から凍らされるような気になってしまった。
僻みとか、妬みとかは考えていなかったのに。

慌ててホッカイロを買ってきても、マフラーを巻いても、足りなかった。
暖かいカフェに入っても、コーヒーを喉に流し込んでも。

これは、神様のせいだろうか。
そうだ、神様に見捨てられたから、こんなにも。

きっと神様は怠け者だ。

あんなに「みんなに奇跡を」みたいな顔をしてクリスマスを開いているくせに、ちゃんと幸せにするのはイルミネーションを見ながら手を繋ぐ恋人だとか、経済状況の良い子供とかばっかりだ。
ティッシュ配りに精を出すお兄さんだとか、独りで仕事に勤しむサラリーマンだとか、自分の才能のなさに全部を投げ出してベンチで呆ける元アイドルには見向きもしない。

適当に街全体に大雪を降らせて「あなたたちにも奇跡です」みたいな顔をしているが、冷たいし、視界が悪くなるし、道を歩き辛くするし、迷惑でしかないじゃないか。
きっと、作業の片手間で適当に空から雪を降らせるのはとっても簡単なのだろう。

――それでも、もし神様がこの雪を「平等な救済」のつもりで降らせているなら、それも案外悪くないかもしれない。

このまま、マフラーとか、コートの間も冷たい塊でいっぱいに満たされて。
どんどん色のないふわふわに埋もれて、自分の体温も、世界との境目も分からなくなって、雪と一緒に透明になって溶け出せたら。
ああ、どんなに奇跡的だろうか、なんて。

「あ、あの……、風邪、引いちゃいますよ……」

鈴の鳴るような声がした。
私に投げかけられているようだった。

雪がいつの間にか、頭に落ちるのを止めている。

「天使、ですか」

目を開けると、そこに女の子が立っていた。
暖炉の灯りみたいに煌びやかな金髪をした、揺れる炎のように赤い瞳の少女。

そんな綺麗な子が、神秘とは程遠いコンビニの袋を片手に提げて、私に傘をさしている。
小さな赤いサンタ帽と、しっかりと着込んだ赤いケープがどこか外国を思わせた。

その子はとても不思議そうな表情を見せて、私の髪に付いた雪を払う。

「えっと……、望月 聖って、言います。天使じゃないです……。」

聖さんは演技っぽく頬を膨らませると、私の隣に腰を掛けた。
ふわりとケープの端っこが、私のコートの左袖を撫でる。

それから、冷たくないだろうか。温くて一回り小さい手が、私の左手を握った。

「お姉さんは、何をしているんですか……?」

何って。

思わず溜まっていた感情が言葉に変わりそうになって、どうにかグッと呑み込んだ。

「いろいろ、かな。聖さんは何をしてるの、もう夜中だよ?」
「私は、お姉ちゃんとサンタさんをしてます……」

左手で頭にちょこんと乗ったサンタ帽を撫でて、彼女は誇らしげに口元を緩ませる。
赤らんだ鼻先と、肉付きの良い頬が、彼女の人並みな子供らしさを思わせた。

きっと、大切な思い出の最中なのだろう。
お姉さんとお菓子を買って、お祝いをして。
この子も大切な日を祝っている途中なんだ。

「じゃあ、楽しんでね」

邪魔をしてはいけない。
そう思って立ち上がろうとしたが、聖さんは手を放してくれなかった。

「あの、プレゼント……、なにか貰ってくれませんか……?」

慌てて彼女は提げていたビニール袋を広げると、とても熱がりながら、中から肉まんの包み紙を取り出した。
まだ買いたてらしく、湯気がもくもくと立ち込めている。

「イヴさん……お姉ちゃんのですけど……、たぶん、あなたが貰ってくれれば喜びます……」

サンタさんなので。
そう言って彼女は肉まんを半分に割ってみせた。

ジューシーな茶色い餡が覗いている。
なんだか物乞いみたいで申し訳なくなって、断ろうとしたが――。

「私も、お姉さんと分けっこしたい、です……」

 純粋そうな視線を向けられて、断ることが出来なかった。

「今日は、クリスマスなんですよ……」

熱々の肉まんを小さな口に運びながら、彼女は幸せそうに目を細める。
肉まんの湯気と吐息が合わさって、彼女の口元には白いもやが浮かんでいた。

それから彼女はもぐもぐと口を動かして、小さな身体で精いっぱいに呑み込んだ。
それが天使なんかではなく、生きるために食べ物を食べるという。彼女を人間たらしめる証拠のようで、思わず見とれてしまっていた。

「私の寮では、今日はみんなで集まってお菓子を分けっこしあいました……」

聖さんは肉まんを膝のあたりに下ろすと、それをキラキラした視線で見つめながら話を続ける。

「神様への祈りも、そうですが……。みんなが、一緒に居られることをお祝いしたいって……、シスターのお姉さんが考えてくれたんです……」

小さな手が温かい食べ物を包み込みながら、零れ落ちそうなくらいに喜びの表情を見せる。

その横顔は、聖母、敬虔に祈る信徒、迎えの天使、イノセント。
そんな神秘的な印象を与えつつ、どこまでも人間らしい暖かみを放っている。

年頃の、一人の女の子。

「みんなで歌を歌うとき、本当は神様じゃなくて、みんなのために歌ってました……。今日は、その方がいいと思ったから……。」

少し伏せて語るその言葉は、誰に向けられて紡がれているのだろうか。
私にはその一つ一つの息継ぎの裏側に、彼女と同い年くらいの子供たちの姿が想像できた。

「そうしたら、胸がポカポカして……、寒いのも平気になったんです……。面白いですよね……。大切な人に気持ちを伝えるって、こんなにも……。」
 
その瞳は遠くの雪に向いているが、きっと、もっと大事なものが映っている。
まるで一生添い遂げる恋人に向けるような、熱い。

「だから、お願いして私もサンタさんをすることにしたんです……」

今日はお試しですけど。
彼女は照れ臭そうに笑った。

――クリスマスは、一緒に居られることが奇跡。

聖さんの赤い瞳が、じっとこちらに向けられている。

「お姉さんは、大切な人と過ごせましたか……?」
「……まだ」

「あのね、だから、今から、会いに行かなきゃ。」

十二月十五日、深夜。

スマホを起動したら、案の定、不在着信の嵐だった。

情けない。
情けないし、申し訳ないけど、そんなに悪い気はしなかった。

一番上にあった番号に、とにかくコールする。
何度もレッスンを共にした、可愛い後輩の十一桁。

「ぜ゛ん゛ば゛い゛」

さっきの子とは打って変わって、ざらざらの声が飛び込んできた。
そいつがついに私の涙を押し出した。

それから身体のあちこちがドンドン熱くなってきて、心臓は高鳴って、鼻水も出ちゃって、

「な゛ん゛て゛」

「――あの、あっ、グスッ。……あ゛の゛ね゛っ!」

思い切り出した声には息が混ざりすぎてたみたいで、だいぶ白い煙が漏れ出した。

まずは、この暖かい息に「かみさま」と名付けた。

「聖ちゃん、探しましたよ~」

「えっと、ごめんなさい……」

「寒くなかったですか~」

「大丈夫です……。あ、あの……!」

「プレゼント……。イヴさん、歌を聴かせてあげたい人が出来たの……」

「おお、それなら途中でその人のところにも行きましょうか~。夜は長いですからね~♪」

トナカイが、力強く雪を蹴り上げて、鈴を響かせた。
 
「さあ~、メリークリスマスです~!」



短すぎて自分でビビってる。

クリスマスと、望月聖へ。
誕生日おめでとう。メリークリスマス。

おつ
よき

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