【モバマス】ダーツ好きな男とあるアイドルのお話 (6)

アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です

Pは今回出ず、オリジナルの主人公視点から見た周子のSSです
このSSはオリジナル設定がありますのでご了承ください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1577970772

「店長、ここの店に今からTV番組の取材をしたいという依頼がありますがどうしますか?」

事務を担当してもらっている女性からそんなことを尋ねられる。

時間を確認し、特に問題もないことから了承の意を告げてもらいつつこんな場末のダーツバーに取材なんて物好きがいるもんだなと苦笑してしまう。

店ではまばらに入った客が思い思いにダーツを投げ遊んでいる。テーブルで軽食をつまみながら、軽いお酒を嗜みながら、そんな人の集う場所である。

趣味が高じて開いた店ではあるが元々金儲けが目的ではないのでただダーツを楽しんでもらえればと思っているのでこれ以上は望まない。

「あ、マスター。最近デビューしたアイドル知ってます?」

常連の一人でアイドル好きでもある男がいきなりアイドルの話題を振ってくる。

「アイドルなんて元々そんなに興味ないからなあ、なんで藪から棒に」

「それがね、この子なんだけど趣味がダーツってことで店長も好きになるかなって」

そう言って男が差し出してきた雑誌のとある1ページに目を落とす。そこに写っていたのは――

「塩見周子ちゃんって言うんだって、どう?」

ああ、知っている――

「なんでも実家から追い出されたところをスカウトされたのがきっかけでアイドルになったとか凄いよねえ」

そいつは和菓子屋で看板娘として手伝いながら夢も見つけられないまま暮らしていた。

「なんでも献血も趣味なんだって。見た目は今時って感じの子だけどいい子だよねえ」

そんな健気な理由ではなくお菓子が食べ放題だからちょうどいいんだって本人は言っていた。

「すいませーん、先ほど取材の依頼をした○○テレビの者なんですが」

常連さんの話を黙って聞いていたら入口の戸を開く音と同時にADっぽい青年が取材の準備をするために挨拶をしに来た。

「今日はよろしくお願いします。うちの出演者が番組でダーツしたくなったからって唐突に寄ろうなんて言いだしたもんで」

「いえいえ、こんな場末のダーツバーでよければ構いませんよ」

実際多少なりとも宣伝になれば通ってくれる人が増えるかもしれない。それならそれでラッキーだ。

「ありがとうございます。取材OKなんで現場入りお願いしまーす」

ADの指示でカメラマンが店の入り口で待機して入口から1人の女性が入ってくる。そいつは――

「……お久しぶり、師匠。今日はあの時の決着を付けに来たよ」

「え、塩見周子ちゃん!?本物の!?」

数か月前とは見違えるような瞳と表情、そして決意を見せている塩見周子だった。

数年前、まだ大学生で京都で一人暮らししていた頃。彼女とは出会った。

近所の中学校の制服姿で夜に神社の隅で一人立ち尽くしていた少女を当時の自分は見過ごせず、つい声を掛けてしまった。

「よう、こんな夜に一人でいたらあぶねえぞ。早く帰りな」

「……帰りたくない」

「親と喧嘩でもしたのか?どっちにしろこんな夜に女子中学生が一人でいると危ないだろうが」

図星だったのだろうか、無言で俯く少女。さすがに放っておくのも声を掛けた手前気が引ける。

「……なら仕方ない。これからちょっと遊びに行くけど一緒に来るか?」

思えば危ない誘いだろうに躊躇いもなくついてきた。後に理由を聞いたらあんな注意してくれる人が襲ってくるわけはないと思っただそうだ。


「何、ここ?」

連れてきたのは知り合いが経営しているダーツバー。とはいえ大して流行ってもいないので客などおらず独占状態である。

「ダーツバー。ダーツって知ってる?やったことあるか?」

ダーツを投げる仕草をしながら問う。少女は首を横に振り、やったことはないと呟く。

「ならちょうどいい、せっかくだから教えてやるさ」

暇そうにしている知人に飲み物と軽い食べ物を頼みながら少女を座らせ自前のダーツを用意する。

「ルールは簡単。ダーツをこうやって持って投げてあの的に当てるだけ」

右手で矢を構え、狙いを付けて投擲する。ただそれだけだ。

「な、簡単だろ。ルールは色々あるがとりあえず投げるだけでも楽しいもんだ。やってみるか?」

矢を少女に差し出すと、おずおずと少女が受け取りながら先ほどの自分の見よう見まねで投げる。

「……うまく飛んで行かない」

「意外と重いからな、金属の矢は。まあでも高さが足りないだけで真っ直ぐには投げられているから悪くない」

少女に手を添えてこういう風に構えて投げるんだと指導しながら二投、三投と練習して行く。

徐々にコツを掴んで行ったのか少女はだんだん的へと当てられるようになっていく。

「うん、悪くないな。どうだ、面白いだろ?」

「……楽しい。もっとやりたい」

「なら今度はちゃんと親御さんの許可を取ってからな?」

諭すように伝えながら知り合いに持ってきてもらったサンドイッチを差し出す。

モグモグと食べながら家の連絡先を教えてもらい、知り合いに頼んで迎えに来てもらうように連絡をつけさせる。

「毎週土日の昼間なら稽古してやるから今度はちゃんと来いよ」

こうして塩見周子との出会い、そして奇妙な付き合いは始まることとなった。



「……ルールは?」

「あの時と同じ501ゲーム、ダブルイン、ダブルアウトで」

お互いにダーツボードの前に立ち、自前のダーツを準備する。

ADやカメラマン、常連客が見守る中お互い無言で左手で矢を持ち一投目を投じる。

「ふーん、どうやら腕は鈍ってないようだね」

「そういうお前は上手になったな」

投じた矢はお互い20のダブルリング内へと刺さっていた。

周子が中学を卒業し、高校も卒業する頃。既に腕の差はほとんどなく、お互い切磋琢磨するような関係へと変化していた。

自分は大学を卒業し、そのまま知り合いのダーツバーへと就職もせずバイトとして手伝いながら毎週周子とダーツの腕を競っていた。

後からわかったことだが少女は実は左利きであり、左で投げるようにさせたところめきめきと上達し今ではたまに自分を負かせるまでになっていた。

そんなある日、いつものような軽装ではなくリュックサックに色々持った姿で店に来た周子は突然こう言ってきた。

「師匠、アタシと勝負して。アタシが勝ったらしばらく師匠の家に居候させて」

理由は聞かなかった。短くない付き合いでこの子が意味もなくそんなことを言いだす性格ではないことはわかっていた。

勝負は一進一退のまま、お互い残り1投で決まるところまで進む。

「なあ、どうして急に居候なんて言いだしたんだ?」

「……親にさ、このままだらだらと暮らすだけなら出ていけって言われちゃって追い出されたんだ」

「……そうか」

以前、尋ねたことがあった。将来何かやりたいことはあるのかと。

その時周子はどうせあたしの人生このまま家を継いで適当な職人さんと結婚して和菓子売って終わるんだなあって思えててさ、

特にやりたいこととかってないんだよねー。と少し悲しそう、そして寂しそうな顔で語っていたのを覚えている。

ああ、それならいっそのことこのままこいつを――

「……あたしの勝ちだね」

「ああ、そうだな。何もない家だが来ると言い。その代わり家事とかは手伝ってもらうぞ」

最後の1投、わざと外したのか、外れたのか。自分でもわからないまま周子を居候させることになった。


「師匠とこうやって本気で勝負するのは三回目だね」

「……そうだな」

ここで本気の自分を見せるのは初めてかもしれない。だからか左がとか、本気だとすげえとかそういう声が観衆から漏れ聞こえてくる。

奇しくも勝負は最初の時と同様お互い残り1投で決められる範囲まで進んでいた。


「アイドルにスカウトされた?」

ある日、バイトから帰ってくると家でそんな突拍子もないことを周子から聞かされた。

「うん……なんか、寂しそうに見えたとか、キミならきっとアイドルになれるとかそんな感じ」

「胡散臭い奴だなあ……名刺貰ったんだ?」

「そう、一応本物っぽい感じだよね。興味があったら今度オーディションがあるから来てくれって」

「ふーん、で、どうなんだ?」

見た感じまんざらでもなさそうに見えなくもないが、どうしたものかと迷っているように感じられる。

「悩んでるんだ、このまま師匠と一緒にダーツをしながら過ごすのも嫌いじゃない。けれどもこんなアタシを誘ってくれたのも興味がないと言えば嘘になるんだよね」

「……なら決めようか。ダーツで」

「ダーツで?」

「俺はせっかくお前が興味を示したアイドルってのをやらせたいと思っている」

「……うん」

「だから俺が勝ったらオーディション受けてこい。というかここを追い出す」

「えっ」

「そもそも年頃の女の子を居候させてること自体よくないことだしな。いい機会だ、ここでお前を追い出すことにする」

「ちょ、そうなったらどうすりゃいいのさ」

「実家に頭下げて帰ればいいだろ」

「無理だって!」

「なら負けなければいい。簡単だろ?」

「わかった、そうだよね。もう師匠に負けないってところを見せてあげるよ」

「ずるいよねえ、あの時まで本当は左利きだってことを隠してたなんてさ」

「隠してたわけじゃない。リハビリが終わってなかったから左手より右手の方が確実だっただけだ」

「事故で夢を諦めた……最近知ったよ。世界大会も含めた将来を嘱望される学生だったんだってね」

「おかげで今じゃ知り合いの店を継いでこんな場末のダーツバーの雇われ店長だけどな」

「あの時互角だと思い込んでたアタシを完膚なきまでに負かせておいて?」

そう、あの夜周子を追い出すかという勝負でリハビリをしていた左手で勝負に挑み、周子を負かせて家を追い出した。

その後どうなったのかは知らなかった……知ろうともしなかったけど無事アイドルになれたようで安心したのも事実だ。

「……アイドル、楽しいようだな」

「そのことは感謝してる……けどまだ未練があるんだ。アイドルだけじゃなくてダーツの道も」

「だから番組を利用してまで俺と勝負を?」

「今度さ、事務所で一番を決めるライブバトルがあるんだ」

「ほう」

「けどこのまま未練を残してアイドルの道を進めるとは思えない。だからさ」

「真剣勝負がしたかったと」

ラスト一投。ここで決めればきっとこいつはアイドルとして駆け抜けていくだろう。

だがもしここで俺に勝てばそのうちアイドルを辞めてダーツの道へと行く可能性もある。

「愚問だな……」

あんなに楽しそうな瞳で雑誌に写る姿。中学生の時初めてダーツを教えた時のような瞳。そうだ、こいつは……

じゃあな、周子。いつかトップアイドルになってくれよ。

そう願いを込めた矢は寸分違わずダブルブルへと刺さり、周子の敗北を決定づけた。

「負けちゃった……か」

「これでお互い道は決まったな」

「うん、アタシ、アイドルとして頑張るよ」

「こっちも決めたさ」

「何を?」

「世界大会、目指してみるさ……だからお互いトップを取ろう」

「そう……だね。今度こそ負けないから」


半年後、アイルランドのダブリンで一人の男が注目を集めていた。

決勝にこそ残れなかったものの彗星のように現れた男は周囲から青い矢を投げることからブルースターと呼ばれ、参加者から注目を集めていた。

男は現地のマスコミの取材で、負けたくない奴がいたけど先に行かれてしまった。だけどいつかは優勝して追いついてやるとコメントを残したが

この大会の優勝者は誰も男を知らなかったことでちょっとした謎となっていた。

その頃日本ではとあるアイドルがシンデレラの座を得て、ガラスの靴を履いて表彰されていた。

取材では負けたくなかった人がいたからこそここまで頑張れた。次は師匠の番ですとコメントをし、師匠とはいったいとワイドショーを少し騒がせることとなった。

終わりです。
周子がダーツってどこで覚えたのかなってのと、モバマスだと家を追い出されてからスカウトされたという設定なので
デレステと合わせてダーツの師匠がいて、そこの家で居候してからアイドルになったってのは面白いかなと思って書いてみました
将来周子は和菓子屋を継ぐと思いますが、ダーツバーみたいな店を開くのもありかもなんて思ってます

ダーツで和菓子を刺すお店?(混乱中)

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