そのスープを飲み干して (33)

リハビリがてら、自由にのびのび書いてみる。

気まぐれに安価とかコンマとかぶっこんだりはする。

設定は何にも考えてないので、後付けいっぱいありの異世界転生っぽい何か。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1570900910

――幸いにも口を糊する状態にはなった。訳もわからず、野垂れ死にはごめんこうむりたい。前世(まえ)がどう死んだかは知らないとしても。

「ではギルドメンバーに無事加入できました。この斡旋所にて、依頼(クエスト)を受領いただくことで、報酬をお支払いいたします」

どこかで聞いたような、読んだような言葉のせいで、既視感がある。前からこの場所にいたような気がするけれど、間違いなくこんな場所も周囲の服装も見覚えがない。

「…大丈夫ですか。ナシノ様?」

あぁ、多分と返した。いち早くこの状況に慣れなければいけない。それが自分の為で、前世(まえ)に戻る方法がわからないなら必要なことで。

何故かはっきり自覚できるのは、自分が死んだこと、自分はこの世界にいなかったこと。謎の既視感があるのは疑問としても、それは置いておく。今はきっと、必要のない事。受付嬢に背を向けて、依頼(クエスト)が張り出されたボードを目を通す。

職業訓練のようなものを受けさせられた結果、自分の能力は全て平均値だった。つまり、特出した部分がなければ、弱点となる部分もない。前世(まえ)の自分は余程、特徴がなかったのか。前世(まえ)の記憶が曖昧すぎて思い出せないのが辛いところだ。

依頼(クエスト)をあらためて目を通す。得手不得手がないなら、それはある意味なんでもできる。と考えていいはず。難易度が簡単なものなら、無理をしなければこなせるだろう。

出来そうなものとして目に付いたのは、近くの森で暴れるモンスターの討伐、近くの平地にある薬草の採取、指定荷物の運搬、要人の護衛。出来そうなものはこれぐらい。

さて、どれを受けたものか。どれをやっても同じような成果なら、危険性だけを考慮したほうがいいのか。少し悩ましく、口に手をやる。

「もし」

その声が真後ろから聞こえて、掴んでいた薬草の採取の任務(クエスト)の紙を落としてしまう。後ろを振り向くと、見たことがないのに見たような気がする、皮鎧と剣を持った少女がいる。身体的に特徴的な部分がないので、普通の人間に見える。

どうしたのかと聞いてから、落とした紙を拾う。少女はそれに指差した。

「良ければ、その任務(クエスト)を一緒に請け負わせてもらえませんか?」

少女の名前はリーテ、自分と同じように適正検査――さっき言った職業訓練のようなもの――が終わり、ギルドのメンバーとして活動を始めたばかりの新人とのことだった。自分も素直に新人であることを伝えると、すごくホッとしたような表情をしたのが、印象的に映える。

「あと、不躾ですが魔法は使えますか?」

自分が使える魔法のスキルを確認する。

火の属性を使えると答えた。リーテはそれを聞いて、更に安心したような表情を見せる。

「よかった。私はそちらの方は、全く才能がなかったものですから」

いつの間にか、自分と一緒に任務(クエスト)を受けることで話が進んでいる。その事を突っ込もうとも思ったが、自分にとって渡りの綱。知り合いを作っておくことは悪い事ではないし、もしそのままパーティーが組めるのも悪くない。

じゃあ、行きますかと声をかけると、リーテは本当に満面の笑みを浮かべて頷いた。

先ほどの受付嬢に2人で任務を請け負う旨を伝え、手続きを済ませる。さてこれからどうなるのか、いろいろな思い、不安が強めな気持ちの中で、リーテと共に斡旋所を後にした。

ここまで。

やっぱり書いてないとだめだね

渡りに船では

頼みの綱なのか渡りに船なのかはっきりして、どうぞ

>>7-8
なんだろうこの混ざり具合。間違いなので訂正と。

×その事を突っ込もうとも思ったが、自分にとって渡りの綱。
○その事を突っ込もうとも思ったが、自分にとって渡りに船。

町を出て、指定された薬草が自生する平地にたどり着く。土地勘、というよりこの世界を知らないことを思うと、リーテと組めたことは本当に運が良かった。

「私が薬草を探します。周囲の警戒をお願いします」

採取する薬草の大まかな情報は、任務(クエスト)を受ける時に聞いている。ただ、現物を知っているかいないかは、かなりの違いになる。間違えたものを持っていって、報酬を受け取れない方が死活問題。リーテが扱ったことがあるということで、採取は彼女がメインで行う。

周囲を警戒しているが、隠れられるようなところもないこの場所に、脅威があるようには見えない。

支給されたショートソードを抜くような事態がないだろう、不安な気持ちから少しそう思っている。

しばらくその状態が続いて、ふうとリーテが息を吐く。幾らか取れた薬草を、腰につけた小さなポシェットのようなものにいれて立ち上がる。

「このあたりはもうないようです、他を探しましょう」

希望されている量には満たず、他を探さなければいけない。わかったといって頷き、薬草を探し始めたリーテの後ろを着いていく。

「記憶がないと仰られてましたけど、どれぐらい覚えていらっしゃらないんですか?」

しばらく、薬草をとっては移動を繰り返して、小休憩をとることになった時、彼女はその質問をしてきた。少しだけどこまで言えばいいか言葉に詰まる。前世(まえ)の記憶があるというのは、多分この世界でも妙な話だろうからだ。

けれどそもそも、前世(まえ)の記憶は辿ろうにも、自分には――。

「すいません、言いづらいこともありますよね」

「……いや、大丈夫」

彼女のすまなさそうな表情と、自分が考え込んだ表情を見てそう言ったその言葉で、考えがかき消えていく。

「さて、薬草の採取も後少しですから。頑張りましょう!」

「わかった」

今は目の前のことに集中するだけ、まずはこの世界になれることから始めないといけない。

風が吹く、頬を撫でるそれが、懐かしいのかどうかも、今はもうわからない。

薬草の採取の依頼(クエスト)は無事終わり、報酬も受け取ることができた。採取した薬草は、ここのところ不作らしく、自生しているものを集めなければいけない状況、ということもあり、通常よりも報酬の入りがいい。と、一緒に食事をとっているリーテが教えてくれた。

「といっても、先輩にあたる冒険者の方が言ってたことなんですけどね」

「何もわからない自分からすると、そう言う話はありがたいよ」

ギルド協会に併設されている食堂で提供さえる、一番安い味の薄い雑穀スープを食べる。1杯、5サーク。今日の依頼(クエスト)が150サークの収入。本来なら50~100サーク程の収入という話からして、間違いなく入りが良い。

と言っても、このギルド協会にこれまた併設されている宿舎の部屋を借りるとなると20サークから。それを考えると、まだまだ稼げる依頼(クエスト)が出来るようにならなければいけない。

それに今回はたまたまリーテと組むことが出来たが、明日は別の冒険者と約束した依頼(クエスト)をこなすそうだ。

「(…明日は1人か。誰か一緒に組めそうな人を探さないと)」

今日はたまたま戦闘はなくても、魔物が存在する世界。1人でうろつくほどの実力はないから、もしどうしても誰とも組めなければ街中でできそうな依頼を探すしかない。それがもしなければ、街中でこの世界や町の周辺の情報を得る為歩き回るか。

「(ジッとしている余裕は、まだないから)」

何者かもわからないこの自分と、どこなのかもわからないこの世界(ばしょ)。暗闇の中を手探るように、知っていく必要が、自分にはある。

「(困ったな)」

翌日、受けられそうな依頼(クエスト)の張り出されていないか探したが、残念ながら見つからなかった。やれそうなのは、農作物を荒らす魔物の討伐。チームを組める相手がいればという前提もあり、魔物との戦闘に経験も実績もない自分には単独は無理だ。

身元もわからないような自分のような人間が、ギルド協会が審査を含め訓練を施し、結果問題ないと判断した人間を加入できる。それがギルド。ギルドメンバーは便利屋のようなもので、日々どこからかの依頼があって成り立つ職業。必ず、自分が望むような仕事がある訳でもない。あっても、それを受領できるのは早い者勝ちだ。

口に糊をすることができるようになったと言っても、安定している訳ではない。これからを考えれば、やれることを増やしていかなければいけない。

「(まずはこの街に何があるか、知っておかないと)」

ギルド協会を後にして、今日は街中を散策すると決めた。

街を散策すると、それなりの賑わいを見せている。白い石が壁となっている建物を主流に、大きな広場まで道沿いに伸びている。その多くは酒場や宿屋、武器や防具を売る店といった、ギルドメンバー向けのものが立ち並んでいた。

横切る人々も、皮の鎧と剣。あるいはローブと杖といった、ギルドメンバーらしき人が多い。ここの住人、という人間は商店にいる店員ぐらいだろうか。

見慣れたとは思えないものの、どこか知っているという感覚が、どうしてもざわつく。いつか、どこかで、自分を知っている人間が、声をかけてきそうな。

「あんた、ちょっといいかい」

そんな想像をしていたからこそ、普通以上に驚いて振り向いた。

ここまで。何にも決まってないから未だにふわふわしてるねぇ。

声をかけてきた相手も、自分の様子に驚いていた表情をしている。

「おっと、どうしたい?」

「いえ、少し考え事を…」

気まずい状況ながら、相手を見る。大柄で、肌が出ている部分を見るに隆々とした筋肉が見て取れる。そして、そこにいくつかの刀傷や、何らかの傷跡もあり、それは顔にもあった。その傷のおかげで、男らしい顔つきが増している。

「そうかい。わりぃんだが、薬屋は知らねぇかい。北ばかりで右も左もわからなくってな」

「自分も、この…。この街は着たばかりで詳しくは知りません。ただ、ギルド協会から大まかな案内は聞いているので、それでよろしければ」

「おう。まったくわからん俺からすれば上等よ」

頼むなと、豪快に笑って肩を叩かれた威力は、本音で言うと痛んだ。

男の名前はヴェルズというそうだ。各地を放浪しながら腕試しをし、日銭の為に依頼(クエスト)をこなすギルドメンバー。これからこなす魔物討伐の準備の為、薬屋を探していたとのことだ。

「ふーん、記憶がないねぇ」

「えぇ、まったく」

「ギルド協会は、適性さえありゃ入れるところではあるからな。あんたみたいなのは、珍しくないっちゃないが、何も覚えてないってのはあれだな」

納得している様子にも見えるし、自分に対して何か不審さを感じているようにも見える。

「おっと、ここだな」

目的のお店について、ヴェルズは考える様子はなくなった。

「ありがとよ。おっと、あんたの名前聞いてなかったな」

「ナシノ…、ナシノといいます」

「あいよ。ナシノ、またどっかであったらよろしく頼むわ」

会った時と同じように、豪快に笑い、手を振って店内に入っていくのを見守る。けれど、その事より自分の中で反芻していたのは、その名前。自分の名前。

「(…ナシノ)」

覚えているというには何も覚えていない。その自分にある名前。それは自分を表すものであるが、そもそも。

「貴方、お店の前で突っ立っているのは、あまりよろしくないわね」

「あ、すいません」

お店から出てきた女性にそう声をかけられて、慌てて店から少し離れる。自分で思ってるより、長くその場にいたのかもしれない。ちゃんと女性に挨拶もできないまま、逃げるようにその場を離れようとした。

「…。待ちなさい」

声をかけられ、振り向く。

女性は先ほどの渋い表情と変わり、品定めするようなものに変わっている。滑らかな動きで、自分に近づいてきて、まじまじと全身を見た後。

「…。均整の取れた…。悔しいほど穏やか」

それは独り言だが、何に対してかがまったくわからない。

「貴方、ギルドメンバーよね? 魔法の適性は?」

「火の属性があると言われました」

「……。決めた、ついてきなさい」

なぜか苛立たしい様子で、女性は自分を横切り先に歩いていく。もちろん、状況を理解できず、それを見ることしかできない。

「悪い話じゃないわ。早く来て」

「は、はい」

その勢いと剣幕で押されるように、女性の下に駆け寄る。そうしないと、何やらひどい目に遭いそうな気がしたのは、気のせいではないだろう。

女性。ヘカルテ・サルバートに連れられ、たどり着いたのはギルド協会内にある訓練場。今は、貸し切りの状態になっている。

「ナシノ。何でもいいわ、その適正があったと言われた火を発現しなさい」

「は、はい」

ヘカルテが促すままに、ナシノはその火を灯す。場所は自分の掌、少し上の虚空。そこに握りこぶし大の炎の球が出現した。

時間は数秒ほどではあるが、ナシノにとっては倍程度の時間は経過したように感じられたのは、ヘカルテのその目つきの鋭さだろう。

「…。ねぇ、ナシノ。“熱く”はない?」

「そう、ですね」

言われてみればそうだ。それでも、熱くないことが当然だと、ナシノはどこかで思っていた。

「火は熱い。基本的な認識があると言っても、記憶を失ったことで反射的な認識はあるものなのに…、その火は熱くない。そうね?」

前半は呟くように吐き出し、後半はナシノに再度問いかける。改めてナシノは頷いて答えた。

「発現させるだけなら、誰でも出来る。でも、発現させたものを改変させるのは、才か常識外れか。その意味で貴方はどちらかはまだ不確定な訳だけど」

ヘカルテの視線は当然、ナシノへ注がれている。好奇のようでもあり、品定めのようでもあり、自分が何者かを探るようでもある。それでも、威圧感や恐怖感は、あまりないと言ってよかった。

「魔法の根底は、それが出来て当たり前という認識。息を吸えば吐くような当たり前さが必要。だから、素養がある人間とない人間がいる。でもまだは、基本も基本、選定をしたぐらいのもの」

ツカツカと歩み寄り、胸に差し出した人差し指を軽く触れながら。

「貴方を育てさせなさい。悪い話じゃないというのは、そのことよ」

一息ついて、借りた部屋のベッドに横になる。軋む音とそれなりの肌触りのシーツが、安物であると感じさせる。利用して二日目で、その感触にまだ慣れないが、1人でいられる空間は、今のナシノにとってはありがたかった。

ヘカルテ、彼女の素性は彼女自身から簡単に聞かされた。ギルド協会の臨時教官で、ここへ赴任したばかりとのことだ。それ以外は、何も言う気はなさそうに去っていったので、質問する余地もなく、育てさせろということに対して、彼女はナシノの返答も聞いていない。

あの常に怒っているような目つきで、美人さも相まってそれが鋭い刃物のような視線を感じさせる。髪は耳が出る程度に短く、身長はこの世界で恐らく平均よりやや高いぐらい。服装はローブに杖ではなく、ロングスカートに白いブラウスのようなもので、シンプルな装いだった。

自分の中にある魔法使いのイメージとはどこか違う。けれど――。

『魔法は突き詰めれば、理(ことわり)を自由にすること。それは、創造主になるのと同じ』

その言葉ではなく、彼女の背後に見えた、陽炎。それがあらゆるイメージをナシノの中で爆発させ。

――魅せられている。

魅せられる感覚から抜け出す為に、夕食をとることにした。

雑穀スープを口に運び、明日はどうするか考える。ヘカルテの施しを受けるのは、今のナシノにとって魅力的でも、現実的な問題としてこの場所で生活する必要がある。明日は早めに起きて、出来そうな依頼(クエスト)を早く請け負わないといけない。

「あ、ナシノさん。お疲れ様です」

リーテも夕食をとりに来ていて、見かけたナシノに声をかけてきた。座るように促すと、彼女はナシノと対面する位置で座る。今日の依頼(クエスト)は上々だったのか、自分が食べている雑穀スープと一緒にパンも頼んでいた。

お互い新米同士ということもあって、今日がどうだったか教えあう。彼女は先輩と言っていた冒険者と、魔物討伐に出ていたそうだ。期日内に既定の数を討伐すればいいらしいが、倒した数に応じて追加報酬もあるそうで、引き続きその依頼(クエスト)をこなすそうだ。

出来ることなら、それに加わらせてほしいとナシノは思う。けれど、まず才を見出されている魔法も最低限使いこなせないうちに、それを言い出すのは配慮が欠ける。そこは我慢することにした。

「ヘカルテさんですか。新しく赴任された教官の方ですよね。受付の方が話していたのを聞きました」

彼女からヘカルテのことをもう少しだけ詳細を聞くことができた。古くから続く魔法使いの家系の出身で、その力は相当なものがある。ただ、あまり性格はよろしくない。というところは、すでに実体験しているナシノの方がよく知っていて、ギルド協会自体はそのせいで評判自体はよろしくはないのも、理解できた。

実力を持っているのは間違いなく、ある程度のわがままが通せるのは家系だけではなく、その実力も評価されているかららしい、とのことだった。

ナシノから彼女の話を振ったということもあり、当然リーテは何かあったのか聞いてきた。今日の一日について話すと、驚ろかれる。

「え、ナシノさん。ナシノさんが使える火の属性って、そこまで凄いんですか?」

「わからない。それならすごく助かるんだけど…」

今日は教えられたというより、見られただけ。実践的なことも何も一つない。わかるのは、自分の魔法に特異性を見出されたということだけだ。

「…。だとすると、私はナシノさんが羨ましいです」

落ち込んだ様子で話す彼女を、不思議そうにナシノは見る。その視線に気づいた彼女はぽつりと、欲しかったスキルが人を癒すスキルだったものですから、とそれ以上は答えなかった。そこに理由があるとナシノも思った。けれど、それが聞けるほど信頼を得てはいない。

「そうなんだ。癒す力があるかまではわからないけど、でも、うまく使えるようになったら一緒に依頼(クエスト)をまたやろう」

「えぇ、その時はまたよろしくお願いします」

冷めて、一口ほどになっていた雑穀スープをナシノは飲み干す。リーテに部屋へ戻ると伝えて席を立った。

部屋に戻り、眠りの間胸にあったのは、少しだけ薄まった見せられる感覚。それが渦巻いていた。

訂正

×今日は教えられたというより、見られただけ。実践的なことも何も一つない。
〇今日は教えられたというより、見られただけ。実践的なことは何も一つない。

早朝。ナシノは目を覚ました。

眠りに落ちるまで時間がかかった割には、目覚めはそこまで悪くない。早速身支度を済ませて、依頼(クエスト)が張り出されるボードがある集会所へ向かう。

思いのほか、ほかのギルドメンバーの姿はない。依頼(クエスト)も、昨日なかった新しいものが張り出されていた。その中から自分ができそうなものを探していくと、薬草の採取の依頼(クエスト)、それもリーテと一緒にこなした依頼(クエスト)と同じものだった。

前に受けた時よりも報酬額は少し下がっている。というより、リーテが言っていたことを考えると、適正な報酬に戻ってきているということなのだろう。しかし、そうだとしてもナシノの1人でもこなせそうなのはこれぐらいだ。

もちろん、向かう平地は運が悪ければモンスターがいる可能性がある場所。戦闘経験のないナシノが対処できるか、経験がない以上未知数だ。

この間とは違う受付嬢に依頼(クエスト)受領の手続きを行い、食事は取らず平地へと向かう。そのままいるのは、どこかまずい気がした、それに従って。

外にまだ残る肌寒さが、逆に体を目覚めさせる。意識もよりはっきりして、まどろみのように残るあの感覚から解き放たれていく感じがする。そして、それが正しいのだともナシノは思う。恐らく、自分の炎に特殊性があるのは、間違いはないとしても、それを使いこなす力はない。

あの感覚は、言葉を換えれば偽りの万能感。何の修練もない自分にそれがあるなら、さっきの依頼(クエスト)ですら悩む必要はない。それが答えだとして、街の外へ出るナシノの顔は。

「……」

その背中に向けられている視線に気づかない程度に、すっきりとしていた。

訂正

×部屋に戻り、眠りの間胸にあったのは、少しだけ薄まった見せられる感覚。それが渦巻いていた。
〇部屋に戻り、眠りの間胸にあったのは、少しだけ薄まった魅せられる感覚。それが渦巻いていた。

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