とある幻想の蜂蜜聖夜 (35)

(創約ネタバレ注意)
(IF展開ご都合展開注意)
(遅筆注意)

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____12/24 00:30 学園都市にて

「ふぅ…とりあえず離れられたわね」

「ぜぇ…はぁ… 相変わらず御坂さんは体力がゴリラ並みよねぇ…」

「あ? 喧嘩売ってる?」


 聖夜の夜真っ只中、突然火花を散らす少女二人。
この二人こそ学園都市の最高位能力者の第三位と第五位なのである!
現在一日中続く予定であった学校行事、清掃ボランティアをぶっちぎり、逃走生活が幕を開けた!

 と、学生として見本たりえない最高位能力者達であったが、その内心。乙女としては見本も見本。なぜなら彼女達はある男の為に抜け出してきたのだから!!!!!

(まぁ、私は彼と一目でも会いたいってのが優先力高いけど、御坂さんはなんだかんだ遊びたいだけかもねぇ… 粗暴力高いしぃ…)

「何よその顔、なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

「息を整えてただけよぉ… ふぅ…」

(まぁ、変なこというより計画力は考えているけどねぇ?)


 勿論冒頭の通り、彼女達は仲が良いわけではない。ただ目的の為に協力関係を結んでいるのである。当然、目的の障害となるのであれば切り捨てるのもやむない。
 そしてここはビルの屋上…ではなく、聖夜でちょっと気分が張り切ってしまった学生達で溢れた繁華街の真っ只中であった。

「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中ね… まぁしばらくは見つからないでしょう」

「ふふっ…ねぇ御坂さぁん?? 私がそんなことを考えてここを逃走先に選んだと思う?」

「……アンタまさか」

「はいポチっとな??」

 周辺を歩いていた学生が一気に御坂美琴を見つめ出す。勿論、御坂美琴が有名人であるから注目されているわけではなく、学園都市最上位能力者のうち第5位、食蜂操祈の力によるものであった。

「じゃっ、御坂さんが囮になるように足止め力よろしくねぇ??」

「ふっっっっざっけんなぁぁぁぁぁ!!!」

怒号と稲光が聖夜に鳴り響く。
しかし、黄金の蜂は風に流れるように消えていくのであった。

____

「はぁ…不幸だ…」

 同日朝。上条当麻は今日も不幸であった。最近あんまり言わなくなった台詞をつい吐いてしまうほどには。

別に昨夜に半裸幼女とランデブーしたとか学園都市統括理事長が自首したとかが(今はまだ)発生したわけではないが、それでもせっかくのクリスマスイブに補講があったし、その補講が電波障害のようなもので途中で切断されてしまったし、直接話をしようにも小萌先生は旅行中であった。というか旅行中ぐらい補講などせず旅行に集中して欲しいと上条は思うのだが、これが先生の愛なのか、それぐらいやらないともう自分はダメなのかとつい考えてしまう。是非とも前者であって欲しい。小萌先生ありがとう。

 しかしながらその先生の愛を不幸にも無碍にしてしまった上条当麻。現在一人でクリスマスイブの街並みを歩く。勿論インデックスも付いて来たがったのだが…

(なんか、アイツを倒して、右手を取り戻してからなんか違和感があるんだよなぁ…)

 神浄の討魔。自分が無意識に願った、自分よりうまく右手を使いこなす存在。それでいて、初めて生かしておけないと感じた存在であった。それを撃破してからというもの、何故かインデックスや土御門、青ピなど、所謂前の上条に関わりが深い存在と話していると、体が疼くような感覚が発生していた。

(記憶が戻る前兆かと思ったけど、別に何も思い出さないしなぁ…良い加減慣れないと…)

と思いつつ、インデックスから離れ一人街を歩いている辺り、まさしくいろんな意味で現実逃避の真っ最中なのであった。

みたいなやつ(とりあえずここまで)

あっ、星が??になってしまった…

wktk


「なん…だと…」

 上条当麻の不幸は絶好調!最近魔人とか上里とかアレイスターとかのせいで全然寄れてなかった、この記憶をなくしてからの半年間でスーパー以外で数少ない行きつけと呼べたラーメン屋がまさかの閉店。最近流行りの胡散臭いドーナツ屋に変わっていたのであった。久々に味わおうと意気揚々とたどり着いた上条もこれには呆然。彼の数少ない思い出の地がさらに少なくなったのだから然もありなんというところではあるが、それはだんだんその場所を占拠したドーナツ屋への怒りへと変わっていく。

「ふざけんなよこの胡散臭ドーナツ!写真映えとか占いとかを食べ物に求めてるんじゃありません!!ちゃんと味と栄養と価格で勝負しろよ!!」

 なお、上条行きつけのラーメン屋も味も栄養もろくなものではないことを今は忘れている。

「はぁ…まさかこんなことになるなんて…ちょっとショック受けてるぞ…」

 このショックは位相が違う世界で青ピに刺された時とか、自分に神浄みたいな自分でもよくわからない力があったことが判明した時並みだ。いくら記憶喪失を隠そうとしなくなったとはいえ、記憶喪失だからこそ上条当麻は思い出にこだわる。そのためになかなかなショックを受けており、そして周囲への注意が散漫していた。

「神浄といえば… あの金髪の子大丈夫かな?結構ひどい怪我してたし、傷のこってなきゃいいけ」

「ゔぇ」

 べちゃ、と上条当麻の一張羅から音がなる。ぎぎぎぎ、となるかのようにゆっくりと首を動かすと、なんとそこには憎きあのドーナツがベッチャリと!!!!


「ぬわあああ!? ななな何しやがりますかこの服を上条さんの一張羅とごぞぞぞゾゾ!?」

 途中で言語中枢がバグったのは訳がある。憎きドーナツをふるい落とそうと服を脱ぎバサバサとしながらお得意の説教をし始めた矢先、その腕の中に滑り込み金色の毛玉が抱きついてきたのであった!むにゅぅ、と胸のあたりに感じる柔らかな感触から、目の前の金色毛玉が少女ということを示している。それも…

(で、でかい…!? ちょっと信じられないぞこれ!?何が起こってるんだ!?)

 と、パニックになった一瞬。

「食蜂はどこだ!?」
「自分の目を信じるな!カメラを使え!」
「絶対この辺りにいるはずだ!とっとと見つけて連れもどせ!!!」

 ダダダダダ、と見覚えのある制服の生徒や見覚えのある警備服が駆け抜けていく。あれは確か土御門に騙された時の…

「学舎の園…というか、常盤台…?」

「あ、あははは…ごめんなさいねぇ。上条さぁん」

 ドーナツぶつけ犯もといたわわな金色毛玉の正体は、あの時の金髪の子、食蜂操祈なのであった。

>>7 魔人→魔神


  上条当麻は食蜂操祈についての記憶を覚えられず、思い出せない。これは食蜂にとってどうしても変えられない現実であった。それがどうでもいい人間相手なら、食蜂はその能力上全く気にすることはなかったであろう。しかし、それが誰よりも愛しく、誰よりも恋しい相手からであればどうだろうか。

 食蜂操祈は上条当麻に恋をしている。出会いは一年前。恋をしたのも、存在を認識されなくなったのもその頃である。その恋は冷めるどころかこの半年で四度も助けられ、ますます燃え上がる始末。もはや他の男など目に入らない。

「こんな美少女力の高い女の子をずっと独り身にするなんて、上条さんも罪な男よねぇ」

 とは食蜂談。中学二年生にて既に覚悟が決まりすぎている。もし自分のことを思い出すことができたなら、身も心も全てを捧げてもいいとすら考えている。しかしそれは…

(…あり得ないのはわかってたけどねぇ)

 不可能、夢物語であった。実際ウィンザー城にて、それはもうひどい目にあったし、周囲にいた人々やイギリスの女王陛下、御坂美琴にも、何より上条当麻に迷惑をかけた。そのことが今、食蜂の足を動かしている。

(…とりあえず、一目でも会って、謝りたいなぁ…)

 上条当麻は食蜂操祈を認識できない。そのため謝ったとして自己満足にしかならないのだが、だとしてもどうしても謝りたかった。昔の彼と今の彼に差などないと判断した矢先、自分を覚えている方の彼を手助けしてしまったのだから、それはもう手ひどい裏切りだろう。それを謝らなければ、自分は上条当麻を好きでいる資格がないとまで考えて、そのためになら学校行事だって抜け出すのも当然であった。(それがなかったとして、あんな苦行は抜け出していたはずだが)


 それはともかくとして、

「…あらぁ?」

 それは所謂おまじないドーナツであった。色とかトッピングで願掛けする系の。いつもだったらデマカセだと言い切り、ネタで帆風あたりにすんごいのを注文させているところであるが、今日はちょっと違った。なぜなら、イギリスにて本物を見てきた食蜂操祈。こういうのがまるっきりデマカセだと言えなくなってしまったのだ。あと、ちょうど小腹も空いていた。

「…まぁ、たまにはこういうのも悪くないわねぇ」

 早速注文。おまじないは勿論ツンツン頭のアイツ関連。もう少しで完成だという時に、聞こえてくる足音。

「脱走者を探せ!」
「さっきあそこのカメラに写っていたぞ!」

「まずっ… ごめんなさぁい、やっぱりテイクアウトでお願いねぇ 」

 ドーナツを受け取り、そそくさと店内を出る。そしてどこに隠れるかを見回して、ちょうど良いツンツン頭を発見し、少しにやけながら近づいて…

 乙女らしくない声を発しながら思い人に激突するまで残り一秒だぞ食蜂操祈!!!!

今日はここまで

☆出せるんかい!?

期待


____

 時は現在に戻る。場所はお嬢様らしからぬフードコート。元々人が多いところにクリスマスイブで更にと言った混雑具合だが、そちらの方が都合がいいとのこと。

「で、常盤台のお嬢様がなんであんな追われてる訳?」

「それは海より深く山より高い理由力があるのよぉ。 具体的にいうとウチの学校はクリスマスぶっ続けで清掃ボランティアって言う肉体労働力を強いてくるというか」

「おーけーわかった。つまりサボりなわけね。 御坂とかアンタのお陰でお嬢様のイメージがだんだん崩壊しているよ。 …いやまて、むしろ今時のお嬢様的にはそれがスタンダードなのか…?」

 上条がお嬢様の現実を知りかけたあたりでどこか上の空だった食蜂が真顔に戻る。

「『はじめまして』、とは言わないのねぇ?」

「? なんで?別にイギリスで既に会ってるだろ? あっ、もしかして覚えてない?」

「………っ、確認なんだけど貴方どこで私と会ったのかしらぁ?」

「ウィンザー城で死にかけてた所。 無事なようで何よりだよ。 間に合ってよかった」

「…なるほどねぇ」

 イギリスの時とは違う。あの時のように全てを覚えているわけではない。しかし自分のことを認識し、記憶できている。その時点で既に泣きだしそうになったが、それこそまた『違う』上条当麻であったらもう立ち直れない。ので

「…本物、なの?」

「あぁ… えっと、まぁあの場に居たってことはアイツを知ってるんだよな… 俺はアイツじゃないし、アイツが出てくるようなことは起こってないよ。 まぁ、証明はできないんだけどさ。 …そういえば、なんでアンタイギリスにいたんだ? あん時はバタバタして気づかなかったけど、学園都市の生徒だったんだろ?」

「…ふふっ、わからないの?」

「…? あぁ、そういえば御坂も常盤台か。アイツが呼んだとか?」

「まぁ、御坂さんについていったのはそうだけどぉ、理由については考えないわけぇ? そんなんじゃいつか背中を刺されちゃうんだゾ☆」

「?? それってどういう?」

「もぅ、このニブチンさん! 貴方っていつまでたっても理解力が低いのねぇ」

「…なぁ、もしかして初対面はウィンザー城じゃなかったりするのか?」

「………っ!?」


 上条当麻、ここにきて豪速球。勿論慎重に反応を確認しようとしていた食蜂操祈に取れるはずもなく、思わず作っていた表情が崩れる。そして

「その反応、そういうことだよな…」

「…あっ」

 それを見逃す上条当麻ではない。過去の上条当麻であればどうにかして記憶喪失をごまかそうとしていただろう。しかし、今は違う。

「悪い。ちょっと色々あって、今年の夏以前の記憶を全部失ってるんだ。だから俺は君との思い出はウィンザー城のことしか覚えてない。 …そんな泣きそうな顔をさせちまうぐらいには結構深い仲だったらしいな」

「………」


 勿論、この告白は食蜂操祈にとっては見当違いである。今年の夏以前どころか、ほんの少し前まで上条当麻の思い出に食蜂操祈の場所は存在しなかった。しかし、これはまるで食蜂操祈が今まで願い続けてきた小さな奇跡が叶ったかのようではないか。

 上条当麻はふと右手を見る。何も生み出さず、ただ壊すだけであったその右手から声が聞こえたような気がしたのだ。いつまでも女の子を泣かせているんじゃないこのクズ、と。

(お前なら、きっとこの子を俺以上に簡単に笑顔にさせてやれるんだろうな)

 しかし

(でも、俺はもう『過去の俺』には願わない。俺自身の手で救ってやりたいんだ)

 決意を胸に、右手を強く握りしめる。もう二度と、迷っているうちに間に合わないなんてことが起きないように。

「なぁ、よければ教えてくれないか? どんなことがあったとか、君の…名前を」

 何度も繰り返された自己紹介。きっと忘れられてしまうという諦観が常に付きまとい、嫌になることもあった。しかし、それもきっとこれで終わりだ。差し伸ばされたこの右手を握り返せば、きっと全てを打ち砕いてくれる。そして


「…私の名前は『食蜂操祈』。 話をしましょう。大切な、二人の話を」

「何でも教えてあげるし、何度でも話してあげるから」

「…もう二度と、私の手を離さないでね☆」


 少女は一滴の涙を流す。
 それはきっと蜂蜜のように甘く、幸せな味がしたことだろう。

とりあえずここまで。もうちっとだけ続くんじゃ(蛇足)

ええぞ!ええぞ!
上食少ないんじゃ……

待ってる

____


「デートをしましょう☆」

「でっ、ででででで、デート!?」

 食蜂さん曰く。例の上条当麻分裂事件の際、あのクソ野郎は自分が持ち得ない食蜂操祈の記憶を巧みに操り、彼女を協力者に仕立て上げたとのこと。それが何であのクソ野郎の目の前で死にかけることになるのか、そもそもなんで自分はそのことを覚えてないのか等不思議なことは多数あれど重要ではなく、重要なのはまた騙されているのではないかと正直不安とのこと。上条当麻ではそれをどうにかするような証明ができず、さて困ったとなった時に彼女から出された案がこれだ。何でもしばらく一緒にいればわかると思うとのこと。しかしこれに困ったのは上条であった。

「あわわわクリスマスイブに可愛い女の子とデートとかやばいよ絶対何かの前兆じゃんあとでインデックスに噛まれるか御坂にビリビリされるのは確定プラスアルファできっとなんか事件が起こるね俺は詳しいんだ」

「可愛いって思われてることに喜べばいいのか嫌がられてることに悲しめばいいのかわからないんですけどぉ?」

(ちょっと早急力すぎたかしら? 彼にとって私は死にかけてたから助けた女の子でしかないんだものねぇ… でも不安力があるのも事実だし…)

 何より、思い出が残るかもしれないのだ。しかもちょうどクリスマスイブに。これはもう恋する乙女として逃すわけにはいかないタイミングである。それこそ忘れる生き物である上条当麻に一生忘れられない思い出を作りたい。まぁこの人はなんだかんだ女の子からの押しに弱いところがあるし、このままゴリ押せばきっとデートが出来るだろう。

 だがしかし、そううまくはいかないのがこの男。なぜならこの男を狙う乙女はざっと星の数。たとえ周りに誰もいなかったとして油断はならない。物理的にいつでも一緒の妖精などが見守ってたりするからだ!

「それには及ばないぞ人間。私がいることが何よりの証拠となる」

 よっこいしょ、とポケットから顔を出す様はまるで上条当麻がこの歳になって人形を持ち歩く痛い奴に見えてしまうのはご愛嬌。いつでも頼れる解説役、オティヌスの登場であった。


「どわぁ!? オティヌス! こんなところで出てくるな!?」

「ふん。お前のことだからちょっと役得って考えていたのはわかるが、証拠があるのに隠そうとするのは良くないぞ、人間」

「そもそもお前をこんな公共の場で出す選択肢が普通の高校生にはないってわかっていただけませんかね!?」

「それもわかってるよ、バーカ」

 この妖精さん、ちょっと不機嫌だぞと上条当麻はようやく気づく。理解者とはいえ万能ではないのだ。特に色恋関係には。

 ともかく、出てきてしまったのはしょうがない。如何にかこうにか科学サイドの食蜂操祈に言い訳をしないといけないと思い向き直すも、そこにはなぜか物知り顔の彼女。

「お久しぶり、よねぇ? …そういえば何で人形サイズ?新しい『工科標本』?それにしては何で上条さんが??」

「なんかとんでもない勘違いをしてないかこいつ」

「まぁまぁオティヌスさんや。別に勘違いでも騒がれないなら上条さん的には問題なしですよ」

「安心して全肯定する流れはやめろ、人間。お前『工科標本』について何もわかってないだろ? もしこれが限りなく人間に近いダッチワイフとかのアレだったらお前の信用大暴落だぞ」

「ぜんっぜん違う!! 話すととても長いし具体的には単行本10巻ぐらいかかっちゃうんだけどこれはそんな科学技術の産物じゃなくてマジもんの妖精さんなんだって思って欲しいなぁ!?」

 テンパって大声でそんなファンシーなこと言っちゃう頭お花畑系男子上条当麻。今周囲に座っていた客の数名が頭おかしいものを見る目でこちらを見て、離れるように席を変えていった。南無三。


 それに対し、卑猥な単語に対しちょっと顔が赤くなってしまったむっつり系美少女食蜂操祈は、存在自体にインパクトがありすぎて今までの話の流れを思いっきり変えられてしまいそうな現状に面白くなかった。というか、めちゃめちゃ仲が良くないかこのコンビ。この、何というか打てば響くような関係は、果たしてあの頃の私たちにはなかったものではないか??このままでは良くないと直感が囁き、話を強引に戻すことにした。

「それで、何で貴女の存在力がこの人が本物だっていう証拠力になるのかしらぁ?」

「それはこいつと私が互いに隅々までわかり合ってるからだよ。なぁ人間」

「はァ!!??」

「おいおい。あんまり誤解を誘うような発言はやめろよな、オティヌス」

「ん? 何も間違ったことは言っていない。そうだろ『理解者』」

「まぁ、そうだけど」

「ごはァ!!??」

 とんでもないカウンターだ。話を戻したのは裏目だったかもしれない。お互いに隅々までとはつまりそういう関係ということか。こんな人形サイズと??

「か、上条さんの性癖力がおっぱいの大きい年上のお姉さんからド貧乳好きのとんでもないロリペド野郎に変わっている…?」

「おっと、とんでもない風評被害が来たな!? というかなんてことこの子に吹き込んでるんだ過去の俺!?」

「面白い話が聞けそうだ。もう少し掘り下げてみないか?」

「そういうところまで理解しないでくれ『理解者』!」

 もし本当に記憶が失われたとともに性癖まで変わってしまったというなら、この1年ほどで誰がみても信じられないほどの劇的ビフォーアフターをしてしまったのは完全に失敗だったのでないか?そういえば最近のこの人の周りにいる人は銀髪シスター然り気に食わない電撃少女然り貧乳だらけでは?

「ああぁぁ、私の怠惰力ぅ! ちゃんと運動しなかったバチが当たったっていうのぉ!?」

「なんかよくわかんないけど俺としてはそのままの君でいて欲しい」

「人間。視線が斜めになっているが、どこをみている?」

「…っふ」

「おい人間。お前今こっちみて笑ったな??」

 妖精、テーブルに降り立ち、聖剣ツマヨウジ片手に欲深い悪竜を征伐す。これに関しては上条当麻の完全なる自業自得であった。ちなみに上条当麻が金髪好きになっているっぽいのはちょっと食蜂操祈的にポイント高かった。



 話を戻そう。今回のヒロインは食蜂操祈なのだから。

「まぁ、簡単にいうとアレは俺の右手から分裂したみたいなやつでさ、だいたい外出るときはオティヌスは俺のポケットとかフードとかに入ってるから、アイツの方にオティヌスが入り込むことがないんだよね」

 誤解をどうにかこうにか解いた後、もっともらしい説得力を持った説明ができたと上条当麻は自慢げ。オティヌスとしてはそんな事実がなくとも一瞬で見分けがつくといいたいところであったが渋々口を閉ざす。食蜂操祈としては新たにもたらされたいつでも一緒という事実が面白くないが、こんな人形サイズにかっさわれることはないだろうと落ち着く。裏を返すと人間サイズに戻れれば最もメインヒロインに近いということなのであるが、そこまで気がついたかは神のみぞ知る。すぐそこに魔神がいるが。閑話休題。

「さて、ともかくこれでデートとやらの口実は失われたな?」

「ぐぬぬ」

 今現在、二人の間には火花が散っていた。このツンツン頭を好いているもの同士、譲れぬものがある。今の所優勢なのは妖精か。

しかし、

「…はぁ、おい人間。お前からはっきり言ってやれよ」

「あぁ、デートってのはちょっと上条さんにはレベルが高いと思うけど、頑張ってエスコートさせていただきますよ」

「…えっ?」

 呆然とした顔を見せる食蜂操祈。それに対してわかっていたかのような呆れ顔をするオティヌス。

「まぁ、何で俺なんかとデートをしたがるのかはちょっとわかんないけどさ、そんな熱心に求められて断れる男はいねーよ」

「…っ!」

 今まではどうせ記憶に残らないからと彼に対して大胆な態度をとってきて、現在進行形で好意を全く隠さない態度をとっていたが、今更になって恥ずかしくなってきた。一瞬にして顔を赤くし、言葉ももつれる。

「ぅぁ…ぇと、それは…その…」

「それに、前の俺のこと、教えてくれるんだろ? 記憶を失ったこと、今更後悔なんてしないけど、昔の俺のことを知ることが今の俺には必要だと思うんだ」

 もうアイツに頼らないためにもな、とは内心でだけ思っておく。その内心すら、この妖精には筒抜けなのだが。

(こいつはデートそのものより、昔の自分について知れる機会が訪れたことに喜んでいる。 何というか、枯れているというか、まさしく女の敵だな)

 しかしながら、確かに彼にはそのような機械が必要だとも思う。つまりはこれはしょうがないのだ。神にもどうにもできないことはある。


なので、

「(…おい、お前。少し耳をかせ)」

「(…?何かしらぁ?)」

「(正直、私はお前に興味がない。何度か会っているが、再会するたびに初対面みたいな挨拶するのには違和感を感じたが、何か事情があるんだろうとしか思ってないし、別にどうにかしようとも思わなかった)」

「(…っ)」

 思い出されるのはイギリス。まだ戦争が終わっていない頃。上条当麻の右手を抱えた彼女は、違和感を感じ口に出そうとした彼女に口封じをしている。というか、オティヌスは食蜂操祈のことを右手の件然り、ウィンザー城でのこと然り、厄介ごとをさらに厄介にさせる面倒な女だとも思っていた。

「(…まぁでも、あの人間はお前と話したいらしい。勘違いするなよ、色恋の話じゃなく、過去の上条当麻についての情報を求めている。私はアレの『理解者』を自称しているが、その点については力になれない)」

「(…つまり?)」

「(1日だ)」

「(今日1日だけ、こいつを貸してやる。こいつが求める以上を求めるなら、今日1日で進めてみせろ)」

 それは神としては非常に珍しい譲歩であった。少なくとも気に食わない女にこの男を貸し与えることなど、意外と嫉妬深いこの女神には信じられないことである。

「(…随分と上から言うのねぇ)」

「(当然だ。私は魔神でありこいつの『理解者』だからな)」

 実質的な周回遅れ宣言に、食蜂は笑みを浮かべる。事実であったし、むしろリタイア組だと思っていた。周回遅れでも、復帰できたことが奇跡だ。それが気に食わなかったのかオティヌスは口をへの字に曲げ、背を向ける。

「…ふんっ。人間、私は帰る。あとは自分一人で何とかしろ」

「えぇ!? 本気かオティヌス!?」

「あぁ。朝帰りは許さんからな。少しでも遅れたら全部禁書目録に話す」

「サー!必ず帰宅しますサー!」

「じゃあな。全く…」

(楽しそうにしやがって。嫉妬で怒り狂いそうだ)

 本当のリタイア組とは誰のことか。そんなこと、誰よりも自分がわかっている。自分は決して『理解者』以上にはなれないのだと。そしてそれが、自分の罰なのだと。妖精は一人、溢れる雫を帽子で隠すようにして立ち去るのであった。

「…さて、どうやって帰ろうか」

 
___

「アイツどうやって帰るつもりなのかな…?」

「? その、魔術とやらでどうにかならないんですかぁ?」

「あぁ…そう言うのは今は出来ないんだよ…今からでも追いかけようか」

「いえ、そう言うのはやめてあげたほうが…」

「そうか? というか何で敬語?」

「えっ、あぁいや、上条さんは先輩ですしぃ?敬語力上げた方が後輩っぽく見えませんかぁ?」

「あぁそういえば中学生だった…ほんと今でも信じられん…」

「ふふっ、でも昔のあなたには陳腐力な胸って言われたんですよぉ☆」

「ちょっと待って、昔の俺最低すぎない??俺より幻想殺しをうまく使えるかもなんて幻想がぶち殺されそうだよ??」

 勿論、1年前の食蜂の胸はそれはもう御坂美琴並みなので間違いではないのだが。まぁ普通に考えてそれを女子中学1年生に言うかという話だ。

 それはともかくとして、

「でもまぁ、さっきの様子からして敬語が無い方が素だろ?別に気にしないから、話しやすい方で話してくれよ」

「………上条さんって、ほんと無遠慮に距離力詰めてくるわよねぇ」

「あれ!? なんか間違えた!?」

 こんな調子じゃ心臓が耐えられそうに無い。せっかくこの人の周りにいなそうなわんこ系後輩キャラで印象付けようとしたのに、だ。そんなことしなくても金髪キラキラお目目巨乳女王様系中学生で属性過多なのだが。食蜂はとっさに首元のホイッスルに触れて落ち着こうとする。

「…それも、俺が関わっているのか?」

「…えぇ。私にとって、一番大切だった思い出の」

 安っぽいホイッスル。全身高級品で身を固めた彼女には全く似合わず、だからこそ昔の自分があげたのではないかと推測できる一品。

「思い出、だった?」

「…今日、その思い出を超えてくださいねぇ、上条さん☆」

「げっ、ハードル上げてきやがった」


 別に特別なことをしなくても、きっと超えていただろう。しかしそれは食蜂操祈に罪悪感がなければ、の話だ。

 ウィンザー城の傷跡は大きく、相手は過去の自分だ。お姫様はまだ、完全には救われていない。

 だからこそ、今の自分が救ってみせろ上条当麻。
 彼女はお前の手を待っている。



「…よし、んじゃ行くか」

「………はい!」


 差し出された右手をぎゅっと握り返して、
 蜂蜜の甘い香り漂う、幻想的な聖夜が始まった。


とりあえずここまで。
誤字脱字、口調の違和感等あれば教えていただけますと幸いです。

>>26 機械→機会

おつんつん

おつ
待ってた甲斐があった

待ってるんやで

まだかな……

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