短めのお話です。
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ーーさて、今夜も始まりました。○○ラジオ、『あなたの本音』のお時間です。本日は、あの346プロダクションより松岡修造さんがお越しになりました。
松岡さん、今日はどうぞよろしくお願いします。
「はい、よろしくお願い致します。松岡修造と申します」
ーー松岡さんは、少し前まではタレント……として活動していらっしゃいましたよね?早速ですけど、一体、どういう経緯があってアイドル事務所のプロデューサーに?
「経緯です、か……これは本当に言うのが申し訳ないんですけど、全てが自分の意思によるものです」
ーー自分の意思、ですか?
「はい、唐突に決めたことだったので、他方の方々に迷惑をかけてしまったことは本当に申し訳ないし、謝らなければならないということも分かっています」
「ですが、僕はどうしてもこの事務所に来なければいけなかったんです。
どうしても、絶対にです」
ーーほう、話を聞いていると、なにかこう、とても強い思いのようなものが伝わってきますね。
…もしかすると、ただの理由ではない、特殊な事情……ですか?
「他の人からしてみれば……そうですね、僕にとっては、特殊中の特殊です。僕のこれまで歩んできた人生全てが……今にかけられているんです」
ーーそこまで明かすと言うことは……その事情を、教えてくれるんですね?
「…構いませんよ。元々、この話をするために、今日はこうして公の場に出たんです。何故僕が今、ここにいて、今この時にプロデューサーになっているのか。
全てを…打ち解けさせてください」
あれは、そう5年前のことです。
某旅番組のロケで、地方の方へと出向いた時。そこで僕はとある少女と出会いました。
『しゅ…しゅ、しゅしゅしゅ、修造さんですか~!!!!!!!!!本物の…あの、修造さん!?!?』
収録が終わり、帰りに近くのショッピングモールのフードコートで、えっと……そう、カレーライスを食べていたんです。そうしたら、驚くことに彼女は僕の右隣にいて、僕とおんなじお店のカレーライスを食べていたんですよ。
名前は、日野茜さんと言います。
彼女はアイドルでしたが、当時は、設立してまだまもない頃の346プロダクションアイドル部門だったので、まだ知名度はあまり高くはありませんでした。
ですが、偶然にも1週間後、僕は彼女と別の番組で共演する予定になっていたんです。そのため、僕も彼女のことを始めから知っていました。
『ひょっとして……日野茜さん、ですか?』
『は、はいっ!!!!あ、あの……あ、あああ握手、してもらえませんかっ!!!?』
『~~!!!!感っ激です!!!私、子どもの頃から、ずっと修造さんにあこがれていたんです!!修造さんのその心の中の信念だったり……こうしてお話しすることをずっと夢見てたんです!!!』
初めて会ったその時から思っていました。これほど、インパクトのある人に出会ったことはこれまでに数えるくらいだって。
どこまでも謙虚で、なんだけどがっつりと自分の意思を出してきて、素直で、パッションで、僕は感動したんです。なんと心が綺麗なんだと。こんなにも心が磨かれた人がいるのかと。
『1週間後を、もんのすご~く楽しみに思ってんですが……あ、あの!!よろしければ、このままここでカレーライスを一緒に食べませんか?あれも、これも……私、修造さんとたーっくさんお話ししたいんです!!!!!』
…これが、彼女と僕が初めて会った日のことです。でも今思うと、初めて会っただけじゃなくて同時に……僕の人生の分岐点となったところでもあると思います。
この後、彼女との一時の邂逅にて、彼女はもうずっと喋り続けていました。話題は一つに限りませんが、たまに周りが見えなくなりかけて声が大きくなり過ぎてしまうこともあって。そんな彼女の様子に、つい僕も盛り上がっちゃいましたね。
声が大きくなりすぎる、夢中になりすぎてしまう……もう大好きですよ、そういうの!!僕との会話で熱中してくれているんですから!嬉しいに決まってます!!
その後1週間が経ち、ローカルテレビのロケで僕はまた彼女と再会しました。その時は彼女だけではなく、本田未央さんと高森藍子さんも含めた3人とのロケで、僕はそこで346プロさんに集まっている人の空気感がなんとなくどういうものかを知ったんです。
ロケ内容は、僕と彼女たち3人の4人がバスを乗り継ぎ、途中ご飯屋さんに寄ったりしながら、秘境にある温泉地を目指すというものでした。
テレビで放映されてるところは、全撮影時間から見たら、ほんのごく僅かで、あの番組ってものすごく時間のかかる体当たりロケなんですよ。でも、それと同じ分だけ、彼女たちと一緒にいる時間も長くて。
彼女たちは、いくら歳が離れていようと嫌がったりせずに僕と仲良くしてくれて、すごい優しかったんですよね。それに、とってもお互いに仲が良くて、途中山道を登っている時なんかも、誰かが疲れれば嫌がる表情一つ見せずにペースを合わせたり、僕は彼女たちと過ごす中で、様々なことで毎回驚かされてました。
それから、僕自身がすごい346プロさんのことを気に入っちゃって。それが伝わったことで、色々な方々と共演する機会ができました。もちろん、未央さんや藍子さん、それに茜さんともまたロケやラジオなどで、ご一緒させていただきましたしね。
『うわぁ~!すごい、綺麗ですね……それに、いい匂いです……!』
『ひとくちにバラと言っても、色とりどりなんですね。よく見ると、形もビミョーに違いますし……あ、ここには蕾もあります!それに、奥の方には、まだ葉っぱだけのものも……』
…僕が初めて彼女に会ってからちょうど4年後。あれからとても長い時間が経ち、プライベートで会う際に訪れたバラ園でのことです。
この時の会話は、今でも絶対に忘れられません。
「…なんだか、私たちアイドルをみているみたいですね」
「それは、どういうこと?」
「…どれも、一生懸命に花を咲かせようとしてるじゃないですか。花が咲いたものも、まだ蕾の状態のものも、まだ芽が出たばかりのものも。それに、このバラ園にはきっとこんな場所が他にも、たっくさんあると思うんです」
「見た目だけなら、たくさんのバラがあるだけですけど……すこし葉っぱをかき分けてみれば、そこにはきっと、もっといっぱいの種たちがいるはずなんです。そう考えると……咲いている花は、ほんの僅かな数に過ぎないって」
「…キミは、その咲いた花の中の一つなの?」
「それは……どうなんでしょうか。少なくとも、自分では咲き誇れているつもりですよ?こう……ぶわぁぁっと!!えへへ…」
「…その笑顔は、間違いなく本物だね。大丈夫、キミは花として、立派に咲き誇れているよ」
「…はい……!ありがとうございますっ!!」
「そういえば、修造さん……覚えていますか?今日が、なんの日か」
「もう、覚えていないかもしれませんけど……今日は、私が初めて修造さんと会った日なんです。あれから……もう4年も経ったんですね」
「…そうだったんだ……僕は、とても楽しかったよ。346プロさんのみんなと、それにキミとも、こんなにも話し合うことができて。本当によかった……僕は、本当にそう思ってる」
「…私もです!私が、今こうして花を咲かせられたのは……ずっと小さかった頃からの憧れで…そして、自分の目指すべき目標として、常にあり続けてくれた貴方のおかげでもあるんです…!」
「……今日という特別な日を、未央ちゃんに藍子ちゃん…それに、プロデューサーや大切な仲間たちの隣で笑い合えること」
ーー無数の種の中から、こうして花を咲かせられたこと。
「この奇跡が……私たちの走ってきた軌跡なんですよね」
「…ありがとうございました、修造さん!これまでも……そして、これからも、私の目指すべき目標として側にいてください!!
私も……貴方に追いつけるように、精一杯頑張ります!!!!!」
「…分かった!約束、しよう!!」
「はい!……約束です!!」
軌跡が、奇跡になった。
たったそれだけの短い言葉でしたが、僕の胸にはどんな言葉よりも、とても深く染み込んだんです。
最後に交わしたあの約束……僕は、なんとしてもそれを守り抜こうと思いました。茜さんを…あの子を、応援してあげたい!!いつまでも、あの子が花を、自分を咲かせ続けられるように。
ですが、
2ヶ月前にあった、大型テーマパークでのイベント。僕と彼女は再びそこで……出会うことは出来ませんでした。
向かう途中で、走行中の彼女を乗せた車に、スリップした大型トラックが倒れ込むようにして衝突したんです。何倍もの大きさのものに押しつぶされるようになったため、当然、車は跡形もなく潰れました。
中にいたのは、何回かお会いしたことのあるプロデューサーさん、そして茜さんを含めた数人で、そのほとんどが即死だった、と後に語られました。
僕は思ったんです。一生懸命に頑張って、ようやく咲いた彼女の花を枯らしてしまったのは、この僕なんじゃないかと。
目標として、始めからあの子の中に自分が存在していなければ。
あの日、自分があの子と出会っていなければ。
自分が、この346プロさんとの関わりを持たなければ。
ひょっとすれば、彼女には今のこの現状とは違う、もっと明るい未来が待っていたのかもしれない。その未来を奪ってしまったのは、自分なんじゃないか。
そう思ったんです。
「…でも、せめて約束は守りたかったんです。『あの子を……一緒にいた346プロさんをいつまでも応援する』という形で」
ーーそれが……松岡さんが346プロダクションのプロデューサーになった訳。ですか?
「…茜さんが言っていたバラの話は、『自分は、咲くことのできなかった多くの種が多くある中で、どうにか咲くことができた』
というニュアンスだったと思うんです。
…でも、このバラの話を別の解釈で考えてみると、
『咲いた自分の下には、今か今かと蕾をつけ、咲くのを待ち続ける多くの種たちがいる』
とも、考えられるんです」
ーー咲くのを待ち続ける種……違いは、その種が生きているか、死んでいるかということですね。
「はい。茜さんが、軌跡から奇跡を生み出して、花を付けることが出来たように、他の種たちにも同じことが絶対に出来るはずだ。
だったら、自分に出来ることはもうこれしかないと……そう決めたんです」
ーーそれに……そうしてポジティブでいることで、もう一つ約束を果たせますからね。『貴方がこれまでの貴方らしく、茜さんの目標であり続ける』という、一番大事な約束を。
「……」
「…はい……僕は………茜さんの思いを………忘れるなんて、できないですから…」
ーー松岡さんのその思いが、茜さんに届くといいですね……
ーーそろそろ終了のお時間になります。本日は、どうもありがとうございました。
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「…失礼します」
「茜さん……」
…茜さんは、あの事故の中で唯一の生存者でした。しかし頭に強い衝撃を受け、2ヶ月もの間、昏睡状態が続いていて、この病室でいまだに眠り続けています。
「今日も……まだ目を覚ましてないんだね」
「……」
ごめん……彼女の手を両手で掴み、祈りますが、そんなことしても意味ない。そんなことは……分かってます。
自分がポジティブでいることが……彼女との約束を果たすことになる。
さっきの収録で、あんなことを言いましたが……正直なところ、そんな明るくなれる自信なんてありません。
慣れないプロデューサーとしての活動も、上手くいかないことが多く……少しずつ、追い詰められているんです。
「もっと…」
「もっと……熱くなれよ……!!!」
皮肉にも、過去の自分が言ったこの言葉は、今の自分に何よりも当てはまりました。
「…………………っ」
そして……その言葉は、彼女にも……。
これにて、終わりになります。
松岡修造と日野茜のとにかくシリアスな話として走り書きしたものです。
見ていただき、ありがとうございました。
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