男「色褪せた世界で君の名を呼ぶ」 (2)

「いつか一緒に死のうね」


 そんな約束をした。
 本当なら、そんな言葉はすぐにでも否定するべきなのかもしれない。
 でも僕だって彼女だって、生きる目的を持っていなかった。生きる時間だってなかった。

 今は高三の五月、散り損ねた桜の花びらが地に舞い落ちていく様子を見ていた。
 僕らは病人。病院の屋上から、高い位置から地上を偉そうに眺めている。

 憂鬱げな彼女の横顔を、僕は眺める。
 結局「そうだね」と僕は答えた。彼女の言葉を否定する気力がなかったし、どうだってよかった。

 生きるとか、死ぬとか。
 約束を守るとか、守らないとか。
 興味がなかった。

 うん、と彼女は答える。僕の返事になんの意味もないみたいに。
 ――死期が迫っている病人がするべきことはなんなのだろうか、と彼女を見ながら考える。やはりそれは、個人の裁量によって決められるべきなのだろう。
 刺激的な日々を送ろうが、いつもと同じ日常を送ろうが、どちらでも構わないはずだ。

「きちんと正しく死にたいね」と彼女は言う。それもまた、死期が迫る病人が取れる選択の一つなのかもしれない。

 僕は軽く頷く。きちんとした死に方なんて、僕にはわからないが、彼女には彼女なりの死に方が思い描かれてるはずだ。僕が関わる余地なんてない。

 予想ばかりを立てている。聞けばすむものを問い詰めたりしない。そういう現状に満足して、完結している、それが僕という人間。

 夕暮れ時が迫って来ていた。赤い光が彼女を照らす。長く、整えられた黒い髪。ほっそりとした手足。ぱっちりとした目と、伏せられたまつ毛。僕と同学年である彼女は、はっきりいって容姿は優れているように思えた。僕のような価値のない人間と違って、生きる価値があるように思われた。

まだか

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