ホロウ世界をイメージしました
初めて投稿するので至らない点もあると思いますが、よろしくお願いします
士郎「ヘヴンズフィール 大ヒットを祝して乾杯!」
全員 「乾杯!」
ここは、我が家の居間。俺たちが出演した映画が随分とヒットしたようで、セイバー、桜、ライダーに加え、遠坂を呼びささやかなパーティーをすることになったのだった。
士郎「今晩は俺と桜が腕によりをかけて、作ったからな。たんと食べてくれ」
桜 「昨日から準備してたんですよ」
セイバー「これは、なかなか豪勢ですね。流石、士郎と桜だ」
凛「本当ね。もうちょっとした料理屋開けるぐらいじゃないの。中華なら私も得意なんだけど、和食に関しては完敗ね」
ライダー「私は本来食事をとる必要がないのですが、こんな手の込んだ食事を用意してもらっては食べないわけにはいきませんね。食べてばかりいるセイバーの気持ちも分かります」
セイバー「それは聞き捨てならない、ライダー。私はサーヴァントとしての使命を果たしている。それをまるで怠惰な牛のように言われるのは看過できない」
ライダー「……牛の方がまだ牛乳を出すだけ役に立つかもしれませんね」
セイバー 「……そこまで言うのなら私のサーヴァントとしての力を見せるしかないですね」
士郎「まあまあ。二人とも落ち着いて。ほら。料理が冷めちゃうだろ。さあ、食べて食べて」
桜「先輩の言う通りです。ライダー、ご飯中に喧嘩はしないで」
そう注意された二人は不承不承といったように矛を収めたが、料理に手をつけるうちに機嫌を直してくれた。
ふうとため息。セイバーとライダーは仲が良くない。顔を合わせるとなんかしら小競り合いをする。本来は敵同士だから一つ屋根の下で暮らしてることの方がおかしいのかもしれないが。
遠坂は我関せずといったように黙々と食べている。まあ、いつものことだからな。
どうやらみんな料理はお気に召したようで、瞬く間に皿から料理が減っていく。
桜「よかったですね。先輩」
士郎「ああ。頑張った甲斐があった」
凛「これで、上等なお酒でもあればよかったんだけどねー」
士郎「おいおい、遠坂。俺たちはまだ未成年だろ。それにそんなことしたら藤ねぇにぶん殴られる」
凛「もちろん、冗談よ。料理が美味しいから、ちょっと欲しくなっちゃっただけ。それに藤村先生はそういうのに厳しそうだものね」
紅蓮の炎を背負った虎が眼に浮かぶ。今日の宴には仕事があるらしく参加していないが、変なことしちゃダメよと幾度となく釘を刺されている。俺がそんなことするわけないって言っても、切嗣さんの息子だからねと返された。親父、何してたんだよ……。
セイバー「確かに、宴には酒はつきものです。ですが、酔っ払って料理の味も分からなくなってしまうことになれば、本末転倒です」
実にセイバーらしい。でも、セイバーはうわばみだからなあ。酔っ払う姿なんて想像できない。遠坂も酒は強いっぽいし……。
士郎「桜とライダーは酒飲めるのか?」
桜 「私はあんまり……。でも、ライダーはたくさん飲めるみたいです」
ライダー「私は酔っ払ったことはありませんね。ですから酩酊の心地よさは知らないのです。日本では蛇に飲ませることがあるようですが」
士郎「蛇に飲ませる?そんなのあったか?」
桜 「どうでしょう?」
凛 「ああ」
一人納得した声を上げる遠坂。
凛 「なるほど。八岐大蛇ね」
士郎 「……あは、は」
そういうことか。笑っていいのか微妙だ。
セイバー 「凛。八岐大蛇とはなんですか?」
凛 「日本の神話でね。それはそれは悪い蛇がいたのよ。それを退治するために酒をたくさん飲ませて酔っ払わせたっていう話があるのよ。酔っ払った蛇は頭を切り落とされちゃったんだけどね」
セイバー 「なるほど、面白い」
ライダー「私の故郷でも同じやり方をした者もいましたが私に効果はありませんでした。日本の神話はその点、運がいい」
味噌汁を啜りながら言う。なんでもない顔をしてるが、ライダーに酒を飲ませるのはやめといた方がいいのかもしれないな。あはは……。
食事が終わり、食後の茶を入れて一息つく頃になると話題は自然と映画についてとなった。
士郎「それにしてもあのセイバーとバーサーカーの殺陣のシーンはすごかったな」
凛「ほんとよね。大迫力だったわ」
セイバー「ええ。もう思いっきりやっていいと言われましたので、少々本気を出しました。ですが、なんといっても素晴らしいのはバーサーカーです。あのバーサーカークラスであれほどの技量を誇っているのですから」
ライダー「あの戦いの中に身を投じるのは嫌ですね。まるで、神話の中でした」
桜「お城、ボロボロになっちゃいましたけどね」
士郎「イリヤは、老朽化してるから丁度壊すところだったっていってたぞ。普段過ごしてるところは大丈夫だそうだ。バーサーカーにも、壊してもいい場所を言い聞かせてたとかなんとか」
凛 「ちゃっかりしてるわね」
士郎「最初は渋ってたらしいんだけどな、なんでも撮影しているところが文章つきの絵を売るだけの商売で儲かってるらしくて、随分と撮影費をもらったそうだ」
凛「なんですって!? 一体いくら貰ったのかしら。元々お金になんて困ってないでしょうに!」
遠坂は頭の中のそろばんを弾いている。
士郎「さあ。どうだろうな。一応、映画はヒットしたみたいだし」
セイバー「それは喜ばしいことです。本当は映画なんていうものに出るつもりはなかったのですが」
そう言ってじろりとこちらに目をやる。
士郎「まだ言ってるのかセイバー。もう納得してくたんじゃなかったのか」
セイバー「……理解はしていますが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのです」
セイバーは最後まで首を縦に振らなかったが、我が家の家計状況を説明したら渋々受け入れてくれた。
というのは、ここ最近同居人が急に増えたせいで家計が圧迫されていたのだ。特に食費。ライダーは骨董品の店でバイトをしているが、セイバーは……まあなんというか働いてはいない。
そこを突かれると痛いようで、最後には出演することになったのだった。
セイバー「まあこれで、士郎が助かるというのですから、サーヴァントの務めの一つなのかもしれません。それにしても、どうしてヒットしたのでしょうか。急激に人気が出たような気がするのですが」
士郎「それは、うーん……。なんというか……」
桜と目が合う。桜は顔を赤くして俯いてしまい、思わず俺も赤面する。
ライダー「士郎と桜の濡れ場のおかげではないでしょうか」
士郎「!!」
桜「ライダー!」
流石ライダー。ズバッと仰る。
凛「確かにねぇ。あれは中々すごかったわよねぇ、桜」
猫のように、にやりと笑う。
桜「姉さんまで……」
士郎「あれは映画の演出の一部だからな……。ちゃんと前貼りもしてたし。そんなやましい事は……」
桜「先輩。あれは全部演技だったんですか? ただ映画のためだって……」
士郎 「うっ」
上目遣いでそう言われると言葉に詰まる。
士郎「いや全部演技ってわけじゃないぞ。そのなんていうか……。色々と嬉しかったし」
しどろもどろに言う。
桜「よかった。ちゃんと反応してくれたのも演技じゃなかったんですね!」
笑顔で爆弾を落とす桜。その瞬間、居間の空気がぴきりと音を立てる。
セイバー「なるほど、士郎。映画に出るというのはこれが目的で……」
目を細めるセイバー。
士郎「違うぞ、セイバー! ああいうシーンがあるっていうのは知らなくてだな」
凛「ふーん、衛宮くん。そうなんだ。そんなに嬉しかったんだ。桜、大きいものね。どことは言わないけど」
遠坂は恐ろしいほど綺麗に笑う。
士郎「遠坂まで! 」
ライダーは静かにお茶を飲んでいるが、その口元の笑みは隠しきれていない。
士郎「その話は置いておいてだな……、そういえば桜の爺さんもあの歳で随分頑張ってたな!」
桜「は、はい。そうですね」
半ば強引に話題を変える。セイバーと遠坂のじとりとした視線を受けたが、この話を続けるのは地雷原で踊ることと等しいのだ。
桜「若い時にも映画に出たことがあるみたいで、血が騒ぐのうとか張り切ってました。そのせいで、兄さんは遅くまで台詞の練習に付き合わされたって怒ってましたけど」
士郎「想像に難くないな」
慎二ならあのクソじじい早くおっ死んじまえとかいってそうだ。
セイバー「そういえば今日の昼にランサーと会って映画の話をしましたが、随分と拗ねているようでしたよ」
ライダー「今回は一切出ませんでしたからね」
凛「ああ。あいつこういうお祭りみたいなもの好きそうだものね」
セイバー 「それもあるのですが、アサシンに負けるようなことになったことが気に入らないと」
桜「そういうことですか。ランサーさんはアサシンさんのこと嫌ってそうですもんね」
士郎「あれ、桜、ランサーとアサシンと知り合いだっけか?」
桜「ランサーさんとはお魚を買いに行く時によく会うんですよ」
士郎「なるほど」
思わず苦笑いをする。そうだった。ランサーは魚屋でアルバイトをしてるんだった。恐らく、一番世俗にまみれて現世を謳歌しているのはランサーだろう。
桜「いつも行く度に、お嬢ちゃん後で遊びに行こうよって言われてたんで、すごい印象深いです」
士郎「ランサー……」
やっぱりあいつが一番楽しそうだ。
凛「ちゃんと断ったの?」
桜「はい。しつこかったので笑顔でやめてくださいって言ったら、全然声掛けられなくなりました」
桜の笑顔が怖い。英霊すらたじろがせる桜が容易に想像できる。
ライダー「さすがです。桜」
ライダーは変なところに感心してるし。
桜「アサシンさんとは、弓道部の子達と遊園地に行った時に会ったんですよ」
士郎「遊園地?」
セイバー「アサシンと遊園地。奇妙な組み合わせですね」
桜「お化け屋敷で働いているみたいですよ。なんでも、絶対に気配を悟られず脅かすことができるみたいです」
士郎「アサシンもか……」
英霊ですら難しいアサシンの気配を感じるのとなんて普通の人間には無理だもんな。それにしても、ランサーにせよアサシンにせよサーヴァントの矜持みたいはもんはどっか行ってしまったのか……。
凛「暗闇からあのお面が出てきたらそりゃびっくりするわよ」
桜「はい。だから今、新都の遊園地では一番人気のアトラクションなんですよ」
士郎「あはははは……」
そんなこんな話しているうちに夜は更けていき、宴はお開きとなった。といっても、みんな我が家で下宿しているのでお開きって感じはあんまりしないが。
洗い物を手早く片付け、それぞれ風呂に入った後、自分の部屋に戻る。
いつも俺は最後に風呂に入る。大体、俺が風呂からでて、部屋に帰る頃にはみんな寝てるのだが、今晩は桜がまだ起きていた。
月の光を浴びて縁側に腰掛けている。
士郎「桜、湯冷めするぞ」
桜「あ、先輩」
ぼおっと庭を眺めていた桜はこちらに顔を向けた。なんだか夢を見ているような表情をしている。
士郎「隣、いいか?」
桜「もちろん。どうぞ」
士郎「なんか考えごとをしてたみたいだけど、悩みでもあるのか?」
桜「悩みってわけじゃないんですけど、映画についてちょっと……」
士郎「やっぱあのシーンのことか?」
桜「違いますよ!先輩!からかわないで下さい!」
顔を真っ赤にしてぶんぶんと手を振って否定する。からかったつもりはないんだけどなあ。
桜「その、まるで映画が現実のような気がして」
士郎「映画が現実?」
桜「ごめんなさい。分かりにくかったですね。映画の内容がすごい現実感があるから、もしかしたら映画みたいな世界になる可能性もあったのかなって」
桜「私はたまたま幸せな世界で生きてるだけで、他の世界の私はもっとつらい気持ちなのかなって」
言いたいことは理解できた。実はそれは俺もなんとはなしに思っていたことだった。映画の中の台詞も光景もどこか知っているようだった。経験なんてしたことはないのに。
桜「だから、今、この時は夢を見てるんじゃないかって思ってたんです。これからベッドで寝たら、今とは全然違う世界で目覚めるのかも、映画の中みたいな。って考えたら眠るのが怖くなっちゃって」
桜「やっぱりちょっと変ですよね」
そう言って無理やり笑顔を作る。
桜は不安なのだ。この世界が幻なのではないかと。朝起きれば忘れてしまうような儚いものではないかと。
でも、さっきまでの賑やかで楽しい空間は本物だ。夢や幻が入り込む余地なんてなかった。それは疑いようのない現実。
だからどうにか桜の不安を取り除いてやりたくてこう言った。
士郎「変なんかじゃないさ。本当に今の世界は夢で、もしかしたら目覚めたら別の世界かもしれない」
桜が大きく目を見開く。
桜「……そしたら…」
士郎「そしたら、俺がついていく」
桜「え?」
士郎「もし、別の悲しい世界に行ったって俺がついていくさ。俺だけじゃない。セイバーとか遠坂とかライダーとか他の連中も連れて行く」
士郎「それで悲しい世界をこの世界みたいに変えるんだ。さっきみたいに楽しい空間も持って行ってさ。塗り替えるんだ」
士郎「そしたら、別の世界に行ったって安心だろ」
士郎「だから、なんも不安になることなんてないぞ、桜」
桜「先輩……」
目を潤ませながらこちらを見上げる。夜中に二人きりの時には、少々刺激が強すぎる。
士郎「……ほら。だから、風邪ひかないうちに寝ろ」
桜「ありがとうございます、先輩。なんだか元気が出ました」
そう言って立ち上がった。
桜「じゃあ先輩の言う通り、もう寝ますね」
士郎「ああ。おやすみ」
桜「おやすみなさい」
どうやら桜の不安を拭うことができたみたいで一安心だ。
桜はそのまま廊下の角を曲がっていくように見えたが、こちらを振り返ってこう言った。
桜「夢で逢いましょうね、先輩」
月より艶やかな満面の笑みだった。
見とれて言葉を失う。
桜は満足げな足取りで部屋に戻っていった。
確かについていくっていったけどなあ。
俺は大きく息を吐いた。俺の息は月の揺蕩う夜の空に静かに、けれどどこか楽しげに浮かんでいったのだった。
ヘヴンズフィールの映画を見て、こんな世界があったらいいなと思って書きました。
ホロウのアニメ化はいつですかね……。
乙
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