――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「わ、ぬくーいっ。まだ11月だけど、すっかり冬のカフェって感じ。こうなると、カイロをぜんぶ持ってきちゃったのが邪魔かなー」
<加蓮ちゃ~ん
高森藍子「こっち、こっち♪」
加蓮「あぁ、今日はそっちなんだね。ストーブの前のくつろぎスペー……、なんか藍子がこたつに入ってる」
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レンアイカフェテラスシリーズ第142話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「緑色と紅色のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「人から離れたカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「見てあげているカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「何度だって言うカフェで」
加蓮「いやいやいや。いくらなんでも……。一応ここ、カフェなんだよ? どっから持ってきたの、そのこたつ」
藍子「私が持ってきたのではなくて、お借りしたんですよ。ほらっ。もこもこで、気持ちいいですよ~」
加蓮「猫柄……」
藍子「加蓮ちゃんも、ほら」
加蓮「それどう見ても1人用でしょ。私が入ったら狭いよ?」
藍子「ぴったりくっつけば、一緒に入れますよ。それに、外の寒さで冷えちゃった加蓮ちゃんも、あたたかくなれます♪」
加蓮「……」
藍子「ほら、こっちこっち」ペシペシ
加蓮「……もう。せめて向かい側でいい?」
藍子「しょうがないですね~」
加蓮「よ、っと。……わ、ぬくい。器具がなくても、布団をかけてるだけであったかいんだ」
藍子「でしょっ? ポイントは、暖炉ストーブの側のお布団を、ちょっとだけめくっておくことです。こうすれば、あたたかい風がほどよく入ってくるんですよ」
加蓮「なるほどー」
藍子「……ひゃ」
加蓮「?」
藍子「加蓮ちゃん、足がすごく冷たくなってる……。靴下越しにも、冬の冷たさが伝わってきますね」
加蓮「まぁ今来たばっかりだもんね。……ほれほれーっ」
藍子「きゃ~っ。つめ、冷たいっ。それに、くすぐった……わ、やめてっ。スカートのすきまから、侵入してこようとしないで~っ」
加蓮「フットネイルで鍛えた、加蓮ちゃん必殺のテクニックをくらえっ」
藍子「ん、やっ。も、もおっ。それ、フットネイルと関係ないっ……もう!」
加蓮「よし。藍子を追い出すことに成功した。私の勝ちだね!」
藍子「……………………」ジトー
加蓮「たははっ。先に1人であたたまりやがってー」
藍子「……私だって、ここに来る時は、寒い道を歩いてきましたよ」
加蓮「しらなーい」
藍子「もう。……満足しましたか? 今度は一緒に、ゆっくりあたたまりましょうね」
加蓮「はーい」
加蓮「で、このこたつは何なの?」
藍子「はい。メニューの……あった。これ、これっ」
加蓮「季節限定の……えーっと、『こたつに入って食べるみかん』。……なにこれ?」
藍子「こたつに入って、食べるみかんです」
加蓮「……それはカフェのメニューなの?」
藍子「ちなみに、1日5名さまで限定みたいですよ。お布団を綺麗にしたら、また注文できるようになるみたいです」
加蓮「確かに、誰が使ったか分からない後のこたつはちょっと嫌だけど……。いやいやいや。こたつに入って食べるみかんって……」
藍子「こたつと言えば、みかんですから」
加蓮「ええぇ……」
藍子「それに、猫ちゃん型のクッキーも、一緒についてくるんですよ」
加蓮「ホントだ、書いてある。それで500円かぁ。安っ」
藍子「注文した後は、帰るまでこたつをお借りしていいそうです。自分の家と同じように、くつろぐことができちゃいますね」
加蓮「……ほほう。つまり、こたつのはしっこにクッキーの食べかすがあるのも自分の家みたいなものだからなんだ」
藍子「えっ? ……あ、本当だ。こぼれちゃったのかな」
加蓮「あははっ。こたつだもん、しょうがないよ」
藍子「しょうがないです」
加蓮「私もみかんを注文しようかな。けど、これ普通の、いつも座る席で注文したらどうなるの?」
藍子「その時は、みかんと猫ちゃんのクッキーと、あとはショートケーキがついてくるみたいですよ」
加蓮「へぇー……。それで500円」
藍子「やっぱり、お手軽です」
加蓮「掘りごたつみたいにすればいいのに。さすがに難しいか」
藍子「暖房器具を揃えれば、できるかもしれませんけれど……。こたつはお布団だけでいいけれど、暖房器具は、ちょっぴりお金がかかっちゃいますから」
加蓮「そこは1日2名様限定! みたいな?」
藍子「お~」
加蓮「なんか、だいぶ前にストーブを借りたこと自体はあった気がするけどね。藍子に水をぶっかけられた時とかに」
藍子「……あ、あはは。その説は、ごめいわくをおかけしました……」
加蓮「え? あ、あー。いいっていいって。ちょっと思い出しただけだし」
藍子「ストーブのかわりに、カイロとか……」
加蓮「カイロを配るカフェ? ……なんかもう、カフェってなんなんだろ。ホントになんでもアリだよね」
藍子「ふふ。なんでしょうね、カフェって」
加蓮「それ藍子が言うー?」
加蓮「すみませーんっ。……やっほ、店員さん。こんにちは」
藍子「加蓮ちゃんも、こたつを気に入ったみたいですよ。ほらっ、あったかくなって、こんなにゆるんだ表情になって♪」
加蓮「こら。余計なこと言わない。……店員さんも。何ニヤニヤしてんのっ」
藍子「……作戦は成功した、ですか? なるほど~……。加蓮ちゃんのことを想っていたら、考えついたメニューだったんですね」
加蓮「余計なお世話ー」
藍子「そんなこと、言わないであげてくださいよ~」
加蓮「みかん……みかんを食べたい気分じゃないから、代わりにみかんジュースってある? いや、せっかくカフェなんだしみかんの紅茶とか……は、ある訳ないっか」
藍子「ありますよ?」
加蓮「え?」
藍子「あ、いえ……。このカフェにではなくて、みかんの紅茶。フルーツティーの1つですね」
藍子「フルーツジュースに似ているけれど、味がぎゅっと凝縮されていて、果物のおいしさがそのまま出る飲み物なんです」
藍子「確か……加蓮ちゃんがよく行くショッピングモールにも、専門店がなかったかな?」ポチポチ
藍子「……あった♪ ここ、いつか行きたいな~って思っていたんです」
加蓮「へぇー……。フルーツティーって、なんだかオシャレな響きだね……って、こら。店員さん、何一緒になって覗き込んでんのっ」
藍子「ふふ。顔をくっつけてお話していると、2人で作戦会議って感じがしますね。私も、混ぜてくださいっ」
加蓮「え、やだよ」
藍子「え~」
加蓮「2人で会議して、藍子に美味しいフルーツティーを飲んでもらうの。だよねー♪」
藍子「あはは、店員さんも一緒に笑って頷いてる……。加蓮ちゃん、注文はどうするの?」
加蓮「みかんジュースー。……え、ないの? じゃありんごでいいや。お願いねー」
藍子「お願いしますね。……フルーツジュースにはまっているんですか? よければ今度、事務所でも作りますよ」
加蓮「そういう訳じゃないけど、なんとなくね」
藍子「なるほど……。おいしいですよね、ここのジュース。すうっと飲みやすくて、ほんのり甘い味で。子どもみたいな気持ちになれます」
加蓮「この前も言ってたね。子供みたいな味かぁ……」
藍子「こたつでのんびりしながら、今日だけは、もうちょっとだけ子どもに戻っちゃいましょう♪」
加蓮「……なるほど。うりうりー」
藍子「わひっ!? ち、ちょっと加蓮ちゃん、つま先で足をつつかないで~っ」
加蓮「子供に戻るんでしょ? ほらほら、ほらほらっ!」
藍子「もう。そんなことするなら、しかえしでっ――」
……。
…………。
加蓮「あ、店員さん。ジュースありがとね」
藍子「」チーン
加蓮「藍子? あぁうん、1人用の狭いこたつの中でドッタンバッタンしてたら脛を思いっきり打って悶絶してるとこ。アホだよねー」
藍子「」チーン
加蓮「……2人用のこたつも用意しましょうか、って。あははっ。いいよいいよ。っていうか、私達以外にこのスペースでのんびりする人、あんまりいないでしょ。滅多に見たことないし」
加蓮「それに、この方が……ちょっぴり密着できるし? なんてっ」
藍子「」チーン
加蓮「うん。また何かあったら呼ぶね」
加蓮「……さてと。藍子ちゃーん? そろそろ起きなさーい。……朝ですよー」
藍子「お母さん、あと5分だけ~……」
加蓮「アンタの言う5分は50分でしょっ。ほら早く起きなさい!」ツンツン
藍子「つま先でつんつんしないで……。うんっ、と」オキアガル
藍子「うぅ、痛かった~。赤くなってないかなぁ……」
加蓮「大丈夫?」
藍子「……うんっ。ちょっとだけ腫れちゃっているけれど、大丈夫。もう、痛くもありません」
加蓮「そっか」
藍子「お恥ずかしいところを、お見せしちゃいました」フカブカ
加蓮「いえいえ。藍子の恥ずかしい所を見せて頂きました、ありがとうございます」フカブカ
藍子「……」ペシ
加蓮「あははっ。痛いよー」
加蓮「……ふうっ。さっき誰かさんが暴れたせいで、こたつの中、少しだけ冷たくなっちゃったね」
藍子「少し、暖炉ストーブの方に寄せますか? でもそうしたら、お布団が燃えちゃうかな……」
加蓮「燃えたりはしないと思うけど、いいよ。あたたかくなるのも、のんびり待てるしっ」
藍子「……うんっ。のんびり、あたたかくなりましょう♪」
加蓮「んー」ゴクゴク
加蓮「とか言ってたら逆にもわもわしてきた……。上、脱いじゃお」ガサゴソ
藍子「ふにゃ……。こたつに入ってると、つい、力が抜けちゃう……」
加蓮「少し疲れちゃったからかもね? ほらほら、ぐんにゃりしてるとほっぺたつつくよー?」プニプニ
藍子「加蓮ちゃん、やめて~……」グンニャリ
藍子「外、やっぱり寒かったですか?」
加蓮「そこそこね。息も白くなっちゃうし……」
藍子「今年は、アイドル活動がいろいろと忙しくて、まだ冬支度ができていないんです。手袋もニット帽も、まだ買ってません」
加蓮「私は逆かな。冬支度、させられてる」
藍子「させられている?」
加蓮「うん。……梅雨の時期に、タオルを大量に押し付けられた話、したじゃん」
藍子「しましたね」
加蓮「冬が近付くと、今度はカイロを大量に押し付けられるようになりました」
藍子「そういえば、タオルのお話をした時に、加蓮ちゃん、そんなことを言っていたような……?」
加蓮「加蓮ちゃん的には、それより焼き芋がほしいんだけどねー」
藍子「焼き芋っ。でも、前々から準備していたら冷えちゃって、おいしくなくなっちゃいますよ」
加蓮「撮影現場に電子レンジがあればいいのに。今度から持ち歩こっかな?」
藍子「……レンジを?」
加蓮「レンジを。なんかウケそうじゃない? 持ち歩けるのがあるかは知らないけど」
藍子「う~ん……。でも、どうして準備しているのかお伝えしたら、面白いって思ってもらえるかもっ」
加蓮「ラジオの収録とかでも、レンジであっためて、チンって言ったら食べて」
藍子「加蓮ちゃんが食べている様子が、ラジオで流れるんですね」
加蓮「食レポラジオ……腕が鳴るね!」
藍子「聞いていたら、お腹が空いちゃいそう。加蓮ちゃん、聞いている人に想像してもらうお話が、すごく得意だから……」
加蓮「藍子もじゃない? 一緒にやる? 食レポラジオ」
藍子「それも、いいかもしれませんね」
加蓮「今度、モバP(以下「P」)さんに話してみよっと。……で、どうせだしこたつに入りながら収録させてもらう?」
藍子「ふにゃふにゃになっちゃいそう……。眠たくなる前に、収録を終わらせなきゃっ」
加蓮「あー……それならやめとこ。藍子のゆるふわ空間で、いつまでも終わらなくなっちゃうし」
藍子「なりませんっ」
加蓮「スタッフさんに寝顔を晒しちゃうのもなー」
藍子「だから、なりません!」
加蓮「加蓮ちゃんがただ寝ているだけのラジオ」
藍子「それは、もうスマートフォンの配信か何かだと思いますけれど……」
加蓮「あきらちゃんに協力をお願いする?」
藍子「……スマートフォンの配信でも、眠っているだけのラジオって無いような」
加蓮「うん。なんか、私も迷走してる気がしてきた。……こたつって、怖いね」
藍子「こわいですね……」
□ ■ □ ■ □
加蓮「メニュー、いい?」
藍子「はい、どうぞ」
加蓮「さんきゅ。……んー、コーヒーかなぁ。ほどほどの眠気をこう、ばっ、と散らすのって楽しくない?」
藍子「私は、それなら逆に、思い切ってうたたねしてしまう方が好きかな……?」
加蓮「眠い時には寝ていいからね。せっかくのこたつだし」
藍子「ううん。今は、加蓮ちゃんとおしゃべりしていたいから」
加蓮「そっか」
藍子「私は……紅茶を、ストレートで。残念ながら、みかんじゃありませんけれどね」
加蓮「すみませーんっ。コーヒーと紅茶、お願いします」
藍子「コーヒーは、加蓮ちゃんにですっ」
加蓮「ん? ……あぁそっか、味」
藍子「うん」
加蓮「藍子好みの味ってのもいいけど、今日はいつも通りにしちゃおっか」
加蓮「どうしよっか。次に来た時、季節限定メニューにフルーツティーが追加されてたら」
藍子「もしかしたら、ありえるかもしれませんよ。今、店員さんがすごく真面目な顔をしていました。ひょっとして、裏で考えていたのかも……?」
加蓮「有り得るかも?」
藍子「そうなったら、ぜひ、一緒に注文しましょうね♪ 今度、一緒に!」
加蓮「ふふっ。今度、一緒にね」
藍子「今度、また一緒に」
加蓮「…………、」
藍子「……? 加蓮ちゃん、どうしましたか? 店員さんが歩いていったのを、じっと見て……」
加蓮「ううん。店員さん、すごいなーって思っちゃった」
藍子「はあ」
加蓮「今もこんなにメニューがあるのに、いつ来ても……いつ来てもっていうのは大げさだけど、来る度に限定メニューが増えてたりするじゃん」
藍子「はい。いろんなアイディアが、集まっていますね」
加蓮「内装だって、暖炉ストーブってだけで十分オリジナル性があるのに、みかんとこたつのメニューが増えたりしてさ」
藍子「私も、最初に見た時はびっくりしちゃいました。えっ、こたつ? って♪」
加蓮「なるなる、それ絶対なるよー」
藍子「あっ……。加蓮ちゃんがメニューを見つけた時の反応、見てみたかったなぁ。ちょっぴり、惜しいことをしちゃったかも」
加蓮「絶対2度見するよね。で、こたつって何!? カフェなのに? ってなって、つい注文しちゃって。そこまで狙ってのメニューなのかな?」
藍子「カフェのメニューに、こたつって書いてあったら、きっとみなさん注文しちゃいます」
藍子「みんなが気になっちゃって、みんなが注目する……私も、そんなアイドルでいたいですね。……なんてっ。ちょっぴり、大げさに言っちゃったかな……?」
加蓮「おぉー。藍子ちゃんの口からそんな言葉が出るとはー」
藍子「……加蓮ちゃん。ぼうよみです」
加蓮「ふふっ。逆逆。本気でびっくりしたからだよ」
藍子「はあ……」
加蓮「こんなにオリジナルのものがあって、それに……言い方は悪くなっちゃうかもしれないけど、常に新しい物を用意したり、みんなに見てもらったり、ここってそういう場所でもないよね。アイドルと違って……」
藍子「そうですね。今日も、お客さんは私たちの他に何人かいるだけみたいです」
加蓮「ね。だから生真面目だし、勉強熱心っていうか、いつもよく考えてるなーって。……あ、これは皮肉とかじゃないよ。本気で褒めてる」
藍子「うんうんっ」
加蓮「都会に大きなカフェとか開いたら、それこそ人気アイドルみたいに毎日お客さんがたくさん来てくれるでしょ。なんだかもったいな――」
藍子「……加蓮ちゃん。あっち」チラ
加蓮「あ。……店員さん、聞いてた?」
藍子「聞こえちゃっていたみたいですね……」
加蓮「……なんかゴメン。あ、コーヒーと紅茶、ありがと。その……別に責めてるとか、余計なお節介を言いたかったんじゃなくて……」
加蓮「ほら、店員さんには、店員さんの考えと、好きなものがあるんだよね。私も藍子も、そこは分かってるから大丈夫で……えっと……」
加蓮「……ごめん、聞かなかったことにして!」
藍子「加蓮ちゃん。店員さん、大丈夫だって言っています」
加蓮「ほっ……」
藍子「それに、なんだか嬉しそう。……自分のことを、話題にしてくれたから?」
加蓮「って言っても、私達結構話題にしたりするよね? そうでもないっけ……」
藍子「店員さんがいない時は、あんまり……? ときどき、働いてらっしゃる姿を、遠くから見ているくらい……えっ、それはだめなんですか!?」
加蓮「そっちは顔を赤くするって……どーいう基準なのっ。それとも藍子が言ったから?」
藍子「じゃあ、できるだけ見ないようにしま――」
加蓮「それはそれでダメなの? もうっ。なんなのよ!」
藍子「ふふ。ひかえめにしますね」
加蓮「あ、それが正解なんだ」
藍子「私だって、アイドルだからといって、じろじろ見られたら恥ずかしいですから」
加蓮「それと同じかな。なんとなく分かるけどさ……」ズズ
加蓮「……ん。あったかくて、おいし」
藍子「さっきまで、ちょっぴり子どもみたいにはしゃいじゃってましたけれど、心が落ち着きますね♪」
加蓮「ねー」
藍子「うんっ」
加蓮「いつ来ても変化する場所……。……ん……そういえば、ずっと気になってることがあるの。ちょっと言いにくかったんだけど……」
藍子「?」
加蓮「でも、こういうのって言ってもいいのかな」
藍子「……大丈夫。店員さんは、また厨房に向かいました。他には……誰かいても、聞かないでいることがカフェですから」
加蓮「……」
藍子「話してみて? 私だけが聞いている、今だからこそのこと」
加蓮「ん……。あのさ……最近、あの2人を見てなくない? ほら、藍子のファンで、カフェが好きな子」
藍子「……そういえば?」
加蓮「忙しいのかな。それとも、もうここに飽きちゃったとか……」
加蓮「っていうか、普通に考えたら私達の方が変わってるのかな。何回もここに来ちゃうくらい……いや、それだけ好きな場所だし、もうただいまって言っちゃう場所なんだから、別にいいんだけどね」
加蓮「藍子は? 握手会でもLIVEでも、トークショーとかファンミーティングとか……なんでもいいけど、最近あの2人と会ったりした?」
藍子「……ううん。見てないかも」
加蓮「そっか……」
藍子「でもっ。加蓮ちゃんの言う通り、お忙しいのかもしれません」
藍子「何か他に、夢中になれることや、楽しいって思えることを見つけられたのかもしれないから、私は……」
藍子「……」
加蓮「……どーぞ。他に誰も聞いてないのが、カフェなんでしょ?」
藍子「…………正直に言ってしまうなら……ほんのちょっぴり、寂しくて……悔しいかも……」
加蓮「ん」
藍子「私が、魅了することができなくて……力足らずだから、なんて。どうしても、考えてしまいます」
藍子「で、でもっ。それは本当にちょっぴりだけですから。きっと、またいつか出会って、カフェのお話をしたり、一緒に写真を撮ったりしますよ!」
加蓮「……、」
藍子「加蓮ちゃん……」
加蓮「……うん。そう、だね……ううんっ」
藍子「?」
加蓮「えーっと。どう言おっか……。ほら、藍子はさ……」
藍子「私は……」
加蓮「……魔女だし?」
藍子「え」
加蓮「1回知ったら逃げられない魔性の雰囲気と、相手を閉じ込めるゆるふわ空間、目を惹きつけて離さない笑み――」
藍子「あ、あの、なんだかお話が、だんだんおかしな方向へ……」
加蓮「うんっ。藍子は魔女だから大丈夫!」
藍子「なにが!?」
加蓮「私も犠牲者だからっ」
藍子「だから、なにがですか!」
加蓮「何がってそういうことよ、なんで分からないのよ!」
藍子「な、なんで加蓮ちゃんが怒るの……!?」
加蓮「えーっと。つまり……藍子は今でも自分で気付いてないとこあるけど、1回知っちゃったら……さ。ずっと見ていたいなぁって思えるところがあるの」
加蓮「アイドルだけど日常的で、自分と似てるなって思う所とか、自分との共通点をつい探しちゃって……」
加蓮「気付けばファンになってる、って感じの。まぁ最近は、良い意味で偶像的になってるのかもしれないけどさ」
加蓮「人間関係が簡単に消えないのと同じで、藍子のことも、1回でも目に入ったらそう簡単には忘れられないよ。あの2人も――特に片方は、藍子の大ファンだったワケだし?」
藍子「私のこと……。忘れちゃって、いないのでしょうか」
加蓮「うん。絶対。……って、藍子の為にも言い切ってあげたいんだけどさ。私って……その辺がちょっと複雑っていうか、人間関係がプツプツになりがちな人生だったっていうか……」
藍子「……」
加蓮「自分でも言ってて、どこか嘘っぽいって思っちゃって……。真面目に励ましてあげたいけど、うまく言えないの。えっと――」
藍子「……そっか。それなら、安心ですねっ」
加蓮「は? え、なんで? どこが!? なんで今ほっとしたの!?」
藍子「加蓮ちゃんも、昔からの縁がありますよね。加蓮ちゃんにとっては嫌いな相手でも、相手はずっと覚えてくれている――」
加蓮「……それ、病院の人達のことを言ってる?」
藍子「はい、そうですよ?」
加蓮「いやいやいやいや……。あいつらは……きっと私があまりにも鬱陶しくて、生意気な患者だったから印象に残ってるだけ、」
藍子「もう。まだそんなこと言ってるっ」
加蓮「だって嫌いだもん! あいつら!」
藍子「……」ジトー
加蓮「……そんな目で見てきても、嫌いな物は嫌いなのっ」
藍子「はぁ……。そのお話は、また別の日に、じっくりしましょうね」
加蓮「やだ」
藍子「人間関係のことや、アイドルとしての私のことは、きっと、加蓮ちゃんの言う通りだと思います。あの2人と、私がどうなのかは……少し、自信はないですけれど」
藍子「でも、ちょっとだけ元気が出ました。あの2人も、どこかで私のことを応援してくれていますよね」
加蓮「……藍子が忘れなければ、また会えるよ。それがアイドルとしている途中か、ここでかは分かんないけどさ」
藍子「はい。……ふふ。逆に、楽しみになったかな。いつ会えるかな、今度は会えるかな……なんてっ」
加蓮「そういうのは、逆にしんどくなるかもしれないけどね……。期待は、失望に変わったら心に突き刺さるから」
藍子「……、」
加蓮「あ。……ゴメン」
藍子「ううん。……もし、いつかそうなったら、私に突き刺さってしまった杭を、加蓮ちゃんが杭を抜いてください。そして、私のことを励ましてください」
藍子「約束してくれれば……私は、安心して期待していられますから」
加蓮「分かった。その時は、またここで。……ううん。閉店時間が来たら、私の家でも、藍子の家でもいいや。事務所でもいいよ。どこか落ち着く場所で、藍子の心の穴が埋まるまで、一緒にいてあげるね。できるだけの事はするから……」
藍子「……」
加蓮「……、」
藍子「……ありがとうっ」
加蓮「ちょ、……何だったの、今の間は」
藍子「ふふ。あの2人、元気にしているかなぁ……。寂しい気持ちになるよりも、どうしてるだろ? って、思い浮かべる方が、いいですよねっ」
加蓮「こういう時はもどかしくなっちゃうよね。アイドルとして、ファンは贔屓し過ぎることはできないし。当然、連絡先も知らないワケだし……」
藍子「聞いておけばよかったかな……?」
加蓮「藍子なら、それでもよかったかも」
藍子「…………いつか……」
加蓮「?」
藍子「いつか、いろいろなものが、このカフェの内装のように変わっていって……」
藍子「よくお話していた2人と、会わなくなってしまったように」
藍子「店員さんもいつかいなくなって、違う人に変わっちゃうのかな……。ずっといてくれるって思っている人も、いつか……」
加蓮「……」
藍子「……ごめんなさい。ちょっと、悪い想像をしすぎちゃいました」
加蓮「違うよ――って言いたいけど、絶対大丈夫とは言えないことだよね……。こっちは連絡先は一応知ってるけど、だからって――」
藍子「うん……」
加蓮「……大丈夫。藍子は、そういう運命というか、これから先のことをどうにかできるくらいに、魅力的だから」
藍子「……うんっ」
加蓮「ほらっ。アイドルとして、そういう悪い運命的なのを捻じ曲げちゃおうよ! 今の藍子なら、絶対できるからっ」
藍子「…………」
加蓮「……。……うりゃ」
藍子「わひっ!? ……も、もうっ。励ましてくれるなら、もうちょっと別の方法にしてください!」
加蓮「だってー。辛気臭い顔で、ずどーんってなってるし? じゃあ笑わせた方が楽じゃん。うりゃうりゃっ」
藍子「わ、もっ……こら~!」
加蓮「あはははっ」
藍子「……ふふ♪ ありがとう、加蓮ちゃん。消えない不安も、今は楽しいことで埋めちゃいますね」
加蓮「もしまた言い出したら、その度に私がくすぐってあげる」
藍子「あの。それは、もっと別の方法で……」
加蓮「えー。じゃあ――」
加蓮「藍子がずっと一緒に付き添ってくれていたように……私はずっと、藍子の側にいるから。大丈夫だよっ」
藍子「……!」
加蓮「さーてとっ。ね、なんだか身体がぽかぽかしてきたし、ちょっとこたつから出ていつもの席に座らない? ずっとここにいると、また後ろ向きになっちゃうかもしれないし……ほら、さっさと行くよ? 5秒以内に出ないと、今度はスカートの中まで足突っ込んじゃうからっ。5、4、3……」
藍子「わ~っ! 出ます、出ますっ。お布団と小机を、店員さんにお返ししなきゃ。クッキー、もうこぼれていませんよね?」
加蓮「大丈夫でしょー。店員さーん! こたつありがとっ。いつもの席に座らせてもらうねーっ」
藍子「店員さん、あの……」
藍子「……、」
藍子「……いつも、……いつもありがとうございます。もしよければ……これからも、ここにいる間はずっと、ここにいてくださいね……」
加蓮「……何言ってんだかって顔で行っちゃったけど」
藍子「あはは……。伝わりきらなかったでしょうか?」
加蓮「うん、店員さんからしたら何言ってんだろって話になっちゃったかな?」
藍子「うぅ……」
加蓮「ほら、いじけてさっさと靴を履けっ。まだ気になるならちょっとお散歩でもする? ネガティブなことを言っちゃったのは私だし、今日は藍子の言うこともやりたいことも、全部付き合ってあげるから」
藍子「靴を、とんとんっ♪ えっ。加蓮ちゃん、それって……ほんと?」
加蓮「できる範囲でね」
藍子「やった♪ それなら、やりたいことを探すために……いつもの席で、話し合いをしましょうっ」
加蓮「はいはい。そのまま夜8時ルート入りましたー。言っとくけど。日を跨いだら無効だから」
藍子「……もう1日くらいっ。まけてください!」
加蓮「はぁ。しょうがないなー」
藍子「……♪」
【おしまい】
このSSまとめへのコメント
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