アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙 2スレめ! (105)

現在、絢瀬亜里沙ルートの第五話を執筆中です。

↓が1スレめになります。
アラサーニートエリちとキャリアウーマン亜里沙 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518804924/)

11月22日更新分からこのスレッドを利用し、
多少容量を有している1スレめにはなにか書きます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1542800613

建て乙です
物語も佳境なところで2スレ目かぁ
別ルートにも期待せざるをえない!

つまらない

 南條さんと一緒に入った普段に私が近づくことすらできなそうな超高級ホテルは、
 空を突き抜かんばかりに建物が高くそびえ、踏み出す足が緊張を覚えた。
 秋も深まる中で夜になれば肌寒くなる季節に、
 冷えを感じることもなく、または汗ばむような暑さも覚えることもなく、
 徹底された空調管理とサービスの結果、酔いがどんどんと冷めてきて冷静になる。
 ここに来るまでの車内において、翌日からのイベント内容およびキャラ作りの必要性を説明され、
 すっかりお兄様大好きな妹に変貌した南條さんや、この度の機会を楽しみで仕方がない
 と言わんばかりにそわそわとしている金髪を模した私。
 傍から見ると滑稽極まりないんだけれど、周囲への波状効果は絶大なものがあったらしく、
 ホテルのスタッフや監視役として送り込まれている椎名関連のスパイ(南條さんにバレてる)には、
 ちょっと前まで酒を飲み干してたことは気づかれていない。
 部屋に戻ってもなお演技は続き、今日は睡眠を取るとなった時に南條さんの目つきが鋭くなり、
 誰かいるのかと思って振り返ったら、闇堕ちした東條希みたいな――
 確かに似ても似つかないのだけれど、一部分(オーラのこと、おっぱいじゃない)は
 彼女が希に似ているのか、希がこの人を模しているのか、
 私は判断つかなく、近づくたびに感じる得体の知れない空気――というより、嫌気。
 背中をツーっと指で撫でられているみたいな、えづきを覚えるような気持ち悪さに、
 ボロが出そうな気がして思わず顔を伏してしまった。

「ふふ、そんなに緊張せんといていいのよ?
 ウチには全部見えていたから――そのキャラ作りは」
「あなたは?」
「色欲の悪魔……あ、好色? ヒトの願望や欲望を力にしてる
 ――まあ、そんな、とりあえず人間じゃない程度に記憶してもらえればええんよ」
「絵里さん、まどマギのインキュベーターみたいなものです。
 邪悪極まりない――兄とは波長が合うんでしょうね、下劣さ加減で」

 南條さんのディスにもキュゥべえさん(仮)はどこ吹く風。
 耳に入っただろうけど、悪魔だと言うから年齢も重ねているであろうし、
 能力は多少衰えているかも知れない、どこまで外見通りの女性かは分からないけれど、
 恐らく精神的にはBBAと呼んでも遜色はないかも知れない、こういうヒトって
 初登場時には余裕を噛ましているけど、いつの間にかただの噛ませ犬になって、
 いつの間にか正義のもとに断罪されていなくなってたりするよね。

「エリー、親友に似ているからと言って、ちょっとディスが激しくない?」
「すみません、私嘘がつけない人間なので」
「心を読まれたことを少しは動揺しよう?」
 
 キュゥさん(仮)はやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
 私はそれを眺めながら、悪魔というのに俗世間に染まっていることに多少なりとも違和感を覚える。
 さして自分の障害にはなるまい、なったとしても多分誰かが助けてくれるはず――
 強気なのか弱気なのか判断がつかないけれど、最初感じた恐怖感はすっかり拭いだされた。
 南條さんが私の前に進み出て、私はひとまず部屋の中の椅子に着席。
 彼女が実はDとかの弟子で、目を離した隙に戦闘が終わってたら残念であるので、
 頑なにも目を離さずに動向を見守る、キャラ作りに疲れたわけではないのよ?

「不穏な動きをしているのをイオリが知ったらどうなるだろうねえ?」
「私もあなたに会えてよかった、これで一人残らず討ち果たせる」
「ん?」
「――あのシスコンがキャラを演じた妹が言うことを信用しないわけがないでしょう?
 そして迂闊にも希さんとつながりがある私の前に姿を現すとか。
 迂闊とか言いようがありません」

 南條さんの中ではもうすでに目の前の相手は死亡フラグが建っているらしく。
 私はポットの側に置いてあった、緑茶のパックを手に取りお湯を入れた。
 100円以下のどこにでもあるようなインスタントと違って、香りも上品で――うーん、マンダム!
 ひとくち口をつけたら火傷しそうなくらい熱くて、ふうふうとコップに息を吹き入れた。
 キさん(仮)はそんな私たちの態度に頭痛を感じたのか、悪魔も頭が痛くなることがあるのね?
 なんていう私の感想を読んで気分でも悪くなったのか。

「あんまり私に舐めた口を叩かない方が良いわよ?」
「その台詞がすでに死亡フラグ――三下は」
「少しは力を見せつけたほうが良さそうね……まず手始めに」

 建物が揺れ始めた、震度で言えば2くらい。
 確かに欧州では驚かれるかも知れないけれど、日本での暮らしが長い私や、
 純血日本人の南條さんにとっては、またかくらいの認識で。
 怒り心頭に発したことによって何かの超常現象でも引き起こすのかと思いきや、
 ちょっと部屋を揺らしてみました程度の力に、やった本人でさえ首をひねってる。

「哀れですね、今のあなたの力の根源である善子さんの不幸属性は
 もう意味をなさない、力を使えば使うほど――」
「嘘でしょう!? だってアレだけの……恨みや呪い、妬み嫉み……
 彼女を形作っていた、黒澤家の!」
「人は成長をする生き物です、過去のしがらみなど今には何の意味もない
 たとえ、過去に不遇で不幸であっても、今の彼女には関係がない
 人間の力を見誤った時点でもう――あなたにはフラグが建っていたんです」

 そろそろ絢瀬絵里が主役じゃなくて、南條さん主役のスピンオフ物になりそうじゃない?
 彼女は否定するかも知れないけれど、明らかにオーラが一般人を遥かに超えてる輝かしさ。
 二杯目の緑茶に口をつけながら、何パックか持って帰って亜里沙とツバサに飲ませてみようか、
 どうやって持ち帰ろう、そういえばお酒を飲む前に持ち込んだカバンは置いてきてしまった。
 まあいいや、お腹に溜めておいて後日自慢でもしてあげよう。

「く……覚えてらっしゃい!」
「お帰りはドアからどうぞ」
「ばっはろ~」

 手を振りながらキ(仮)さんを見送る。
 恐らくもう出会うことはないだろうけれど、寝るまでは覚えてることにする。
 あ、ちなみにばっはろ~はバイバイとハローを組み合わせた絢瀬絵里の造語。
 どっちかに統一しろというツッコミは受け付けません。



「く、原祖の悪魔が人間なんかに――!」
「テクノロジーを過信して、新しいハイテクに駆逐されるオールドタイプみたいやんな?」

 南條さんにお手洗いに行ってくださいとお願いされたのと、
 ユッキの導きによって、希に認知されないように陰ながら二人の戦いを見守る。
 ――絢瀬絵里の夜はまだまだ続きますが正直眠いです。
 希はボロボロの柔道着を身に着けていたとか、修行の末に超サイヤ人に変貌をしていたとか、
 ついにバストサイズが3桁の大台に乗ったとかそんなことはまったくなく。
 私が眠りこけている間には、仕事そっちのけでキ(仮)を探していたらしく、
 自分の手で必ず成敗すると息巻いていたとか。
 そういうことをされてしまうと非戦闘員の絢瀬絵里は戦闘の解説役にしかなれない。
 
「鞠莉ちゃんのツテで貰った、アガートラーム!」
「それはオーバーキルでしょ!」

 希がどこからか取り出した(明らかに異空間だった)聖剣に、
 隠れて見守ろうという私の魂胆は塗りつぶされて、ユッキが用意した(異空間から)ハリセンで
 おとぼけ紫おさげをスパーンとぶん殴る。
 あまりに予想外であったのかシリアスをやりたかったのかは不明だけど、
 もうすでに場の空気がギャグに傾いているので、アークインパルスの代わりに
 ボルテッカー! とか叫んでマイク壊しても良さそう。

「エリち! ――久しぶり、よく帰ってきてくれたね」
「あの血まみれの寝そべりぬいぐるみってお手製なの?」
「え、慈愛を込めて微笑んだ女神のんたんはお呼びじゃなかった?」

 いまさらシリアスに軌道修正したところで――
 女神と呼称できるほど、美しく思わず見とれてしまいそうな笑みは一瞬で消え失せ
 キョトンとした表情でおとぼけてみせた。
 敵であるキュゥさん(仮)も、目の前で始められたコントに目を見開いてみているだけだ。
 
「ええと、ごめん、考えてた台詞を言っていい? ベルちゃん」
「ベルちゃん!? いやいや、チョット待って、待って
 いい、私は宿敵。あなたが歪む原因を作った原祖の悪魔にして、欲望と好色を司る
 とんでもない邪悪極まりない存在なの、ベルちゃんはちょっと困るっていうか
 何のためにヤンデレたあなたを絢瀬絵里が見ることになったのか」
「津島善子ちゃんを誑かし、私の両親を死に追い込み、ウチをヤンデレにしたその罪!
 とか言えばよかったの?」
「――あ、うん。AKY(あえて空気を読まない)だったわ」

 なんだかなあという空気がホテルの敷地内に流れる中。
 敵意全開で睨み合っていた両名は無事に矛を収め、ほのぼのしたストーリーに軌道修正した。
 あと、さらっと東條家の両親がお亡くなりになってるって知って、私はどう反応すればいいのか。

「絢瀬絵里!! あなた! あなた!」
「ごめんなさいね――もう、私の前で誰かが不幸になるのは嫌なの
 身勝手でも、チートでも、なんでもいいけど、私は平和が好きなの――だから」
「ああ、もうわかったわよ! しばらくは矛を収めてあげるわ! 
 金輪際人間に手を出さないとは誓わないけど、お休みしててあげる!」
「よかったなぁベルちゃん」
「ベルちゃんはやめて」

 その後、南條さんを含めた4名でお酒を酌み交わした。
 悪魔はお酒が強そうなイメージがあったけれど、勝負した結果
 見事に絢瀬絵里が勝利した――その顔を見た東條希が私のことを、

「神にも悪魔にもなれるのかなあ」
 
 と、称したけれど。
 そんなマジンガーZみたいな扱いはやめて欲しい、
 私に光子力エネルギーは流れてない、ロケットパンチも打てない。

シリアスは死にました。

たぶん、今後シリアスに比重が傾くのは問題解消後の
ちかうみの会話だと思うんです――せめてそれまでには体調が戻っていて欲しい。
ではまた明日です!

ギャグパートで倒される悪役の悲惨さよ…
俺ガイルとかシンフォギアとかテッカマンブレードとか色々波長が合いそうな回だった

新スレ一発目でいきなり中ボスっぽいやつが見事なかませっぷり晒しててワロタ

 お酒を酌み交わし急激に仲良くなった結果。
 問題提起をして、その解消のために努力をするという行為がひどくバカバカしいものに感じ。
 もういっその事海外に逃げよう、アメリカンドリームを追いかけてみよう――
 ノリと希望だけで会議した結果、前日に花嫁衣装に身を包み、
 婚約イベントに参加するという目的は果たされることはなかった。
 私は一体何のために南條さん……ではなくメグに拉致られて、見たくない決闘を目撃し、
 結果グダグダでイベントが終了することになったのか?
 それでもなお今回多くの人間を巻き込んで、自分の意のままに世界を改めようとし、
 一部の人達には深い悔恨の意を持たせたことには報いを与えなければならないのだけれど。
 ベルちゃんのように、話せば結構面白い人という可能性は未だに残されているかも知れないけれど――
 幸せいっぱいの亜里沙(ツバサは最近不幸属性を身につけた)や
 復讐に燃えていたメグ(復讐なんかしても自分が損するだけじゃね? と思い始めた)や、
 その他シリアスに頑張ってた人たちも――人生割と、真剣に生きなくてもどうにかなるや肩の力を抜こう。
 でも、亜里沙にはぜひプロデューサー職に戻って貰わないと困る――キャリアウーマンでなくなり、
 ツバサと結ばれてしまって家庭に入って幸福な人妻と化してしまったら――
 なお、今回の婚約イベントの延期はメグの「あにさまおねがぁい(はぁと)」で許されることとなったので、
 本音を言えば延期ではなく中止としたいところではあるけど、そこらへんの感情の機微は
 読み取ってはくれないようである――とても残念なことに。

 いっその事みんなで住もう! 貞操の危機を感じたというツバサにより、
 希望者を募ってシェアハウスのような形で一つの大きな家に同居することになってから数ヶ月。
 なんか大事なことを忘れている気がすると家ではメグが首をひねり、
 ベルちゃんがここあちゃんの乙女ゲーのシナリオにだだハマりし(新感覚だったらしい)
 Re Starsの面々も、そろそろ進学か就職活動始めようかな、アイドルで食べていけないし――
 そして私自身も虹ヶ咲学園の講師とか、少なくともコーチングスタッフとしてどこかで拾ってくれないかな?
 でも、せつ菜ちゃんに就職を斡旋してもらうのも、なんかもうアレだな? なんて。 
 過去には毎日のように会っていたμ'sやAqours――スクールアイドルのみんなも、
 そうそう、穂乃果はハリウッドで本当に映画出演のオファーが来たとかで、以前帰国した時に、 
 英会話の腕前が絢瀬絵里(笑)-あやせえりがかっこわらいになる-レベルになっていてしこたま驚いた。
 ディズ○ーランドで遊んでいたばかりじゃなかったんだよ、とは彼女の談だけど、
 なら、メールで送られてくる写真がテーマパークの風景ばかりじゃなくてさぁ……。
 南ことりは10代後半から20代前半をターゲットにしたブランドから、
 子どもを大事にしよう! という思いからキッズ向けに路線変更してなんと大当たり。
 私がつい、子どももいないのに気持ちがわかるの? と問いかけてしまい、
 人間には想像力というものがあってねとコンコンと説明されてしまったのは自分が迂闊だった。
 そりゃそうだ、異世界転生する物語を書いているなろう作家が本当に転生しているわけじゃない。
 海未はスクールアイドル――虹ヶ咲学園での作詞の活動を中心に、多くの高校に歌詞を提供している。
 当人いわく、身体を動かすよりも歌詞を書いている率が高いと笑いながら話してくれた。
 なお、高校生スクールアイドルの面々には無償で作品提供するけど、
 芸能事務所からの依頼は高利貸しもびっくりの金銭を要求することで有名、レートは1文字5000円。
 それでも元が取れるっていうんだからね、なんとも言えないよね……。

 凛は最近バラエティー出演方面に舵を取り始めた。
 扱いに関してはにこを彷彿とさせるので、にこりんぱなでデビューでもしたら?
 と、ネタで言ってみたらほんとうに3人でデビューしてしまい、ラジオのパーソナリティを3人で務めているけど、
 なんで衣装がジャージなの? もっといい衣装なかった? ことりは提供するって言ってくれたよ?(子ども向けです)
 花陽はラジオでのパーソナリティとしての職と一緒に海未と一緒に数々の高校を巡り、
 自身の体験談であったり、アドバイスであったり、スクールアイドルを好きになって貰おう活動を始めた。
 おかげで中高生の女の子からは女神みたいな扱いをされていて、μ'sは小泉花陽を中心としたグループだった
 なんて称されることもあるらしい。
 暇だからスタッフの一員として花陽についていったら、悲しいことに元μ'sと言っても信じて貰えなかった。
 ほら、ここにいるの私! と指をさして説明しても現実を見ろみたいな顔をされて終わった、解せない。
 真姫は18禁ゲームの出演を続けながら、コスプレイヤーとしてもよくスタッフブログとかに顔を出している、
 さらには作曲活動も始めて、海未とタッグを組んでスクールアイドルに曲を提供しているけれど、
 その審査は恐ろしく厳しく、曲を貰えば勝ったようなものと評判。
 なお、それを乗り越えることが出来たのは虹ヶ咲学園のスクールアイドルの面々だけど――
 まだメンバーが揃っていないという理由で来年のラブライブの優勝を目指すとか。
 にこはラジオ出演と同時に、姉妹揃っての大学進学を目指し受験勉強に奔走。
 ここあちゃんは仕事が忙しいと断念してしまったけど、ここあちゃんと一緒に有名大学に合格。
 この春から大学生と言ったけど、つい口が滑って高校生と言われても遜色ないわねって言ったら、
 自分の顔を鏡で見てみなさいと真剣に告げられたけど、なんでだろうか。
 そして希。
 シリアスに傾いて自分のキャラを見失ってた――と、反応に困る台詞と一緒に、
 しばらく食っちゃ寝してストレスを解消する! エリちも手伝って!
 という有無も言わさぬお願い(笑)をされてしまい、悪乗りしたツバサ(亜里沙から逃げたかった)と、
 電車に乗りたいというベルちゃん(基本移動はテレポート)と、仕事ばっかしてて観光する暇がなかったメグ、
 そして、彼女の荷物に紛れ込んでついてきた亜里沙(ツバサ逃亡失敗)と5人で日本一周した。

 だいたいどこでも食べて寝て酒を飲み、テンション高く風景を褒め称え、
 有名なスクールアイドルがいる聞けば会いに行き、元A-RISEというと盛り上がる彼女たちなのに、
 元μ'sというと本当かよみたいな顔をするんだけど、そんなに絢瀬絵里って影が薄いの?
 ――気がつけば4月。
 そろそろ働き口を探そうとツバサと笑っていると、
 亜里沙がそろそろ子どもの名前を考えましょうと、楽しかった空気(というかツバサの顔面)が凍り、
 メグがそういえばハニワプロが経営難で――とどうでも良いことのように語り、
 ベルちゃんが希と一緒にダイエットに励む中(悪魔も太るらしい)で、
 けたたましい大きな音と一緒にぶち破られたドアがバタンと床に倒れ――

「無駄な抵抗をするな! 抵抗すれば容赦なく殺す!」

 え、あ? ドッキリ? とキョトンとした表情で顔を見合わせた私たちは――
 自分の問題というのは時間が解決するけれど、
 他人の恨みは積年の恨みとなって解決されることがないと身をもって体験することになる。

ラストエピソード!
――の前に、エリちが触れてくれなかったAqoursやSaintSnowの面々、
虹ヶ咲学園のスクールアイドルのメンバーとかに触れよう!

と、思ったんですが、
Aqours3年生組は悪役の打破に奔走中
2年生組は千歌ちゃんがテレビで出ずっぱりなこと以外は書くことがない
1年生組は善子に髪の毛がシニヨンと一緒に返却されたくらいしかエピソードがない。
SaintSnowの二人は海未ちゃんに顎で使われ(理亞ちゃん歓喜)て、
おかしい、ちかうみの和解エピソードと、ダイかなまりの悪を成敗するシーン、
理亞ちゃんのエリちやツバサを見て自分も本気出すとシリアスに言うシーンは絶対に書こうと思ったのに
機会があればいつかは書ける、多分。

でも、今回更新分のエピソードで一番不遇なのは
昇天フラグが回避されたユッキ(希とベル公の戦闘は相討ちで終わる予定でした)
で、エリちの内面には未だにいるのに触れられなかったことかもしれない。

今日の夜から明日の昼くらいまでゆっくりお休みして、
物語上はグダグダでも、フラグやイベントは回収できるようにがんばります……。

いよいよラストか……今度こそ強敵の予感だ
えりちは相変わらず若々しいままで元μ'sって全然信じてもらえないのね

 私たちを拘束するために用意された部隊は総勢30名。
 相手がどのような想定をして人数を集めたのかは不明だけれど、
 両手を上げて、囚えられた宇宙人みたいな顔(?)をしながら
 ズルズルと歩くのは総勢6名。
 大の男が揃いも揃って襲いかかるには対象がか弱すぎるのではあるまいか?
 なんて感じているのは私だけみたいで。
 古来から様々な災いを招いて来た悪魔(最近太った)や、
 現代に蘇った安倍晴明と評判のスピリチュアルガール(最近太った)とか、
 日常を戦闘モノに変貌させてしまう人外めいた(ひとり人外)人間は両方とも空を見上げながら。
 私(ウチ)って拘束される必要なかったんじゃない? みたいなことを呟いていたけど。
 その点に関しては自分は悪くないし、ワゴン車の乗り心地が思いのほか良くって
 もしかしてこれラブワゴンなんじゃね? って考えてたらユッキに
 絵里姉さん、命の危機です。もう少しシリアスな空気を出しましょう――と忠告された。
 さすがにもうお亡くなりになっている相手に命の心配をされてしまうと、危機感も覚えてしまうよね……。

 連れてこられたのは山奥のコテージのようなところ。
 木製の建物に、リア充がバーベキューでもやっていそうな庭、
 ちょっと日本にはそぐわない――ジェイソンとか、海外映画の殺人鬼が活躍しそうな。
 少なくとも私たちの見た目はか弱い乙女(という年齢でもない)なので、
 殺しあいでも始まってしまったら誰一人生存しそうもない、私は真っ先に死にそうな気がする。
 いかんせん金髪の致死率が高すぎる、カップルとかだとほぼ100%死ぬし。

 なお、先ほどからベルちゃんを無線親機、ユッキを無線子機にしてのテレパシーのやり取りをしていて、
 ツバサがビリーズブートキャンプを指導するビリー隊長のマネをするボビー・オロゴンのマネを披露し
 こちらとしては笑いを堪えるのが大変、声は似てないんだけどすごく特徴を捉えている――
 生きて帰ってこれたらぜひともお茶の間の前で披露して欲しい、きっと爆笑の渦が巻き起こる。
 緊張感のない我々に気がついているのかいないのか、テロ組織とかにも通じているという部隊は
 物々しい雰囲気のままに建物の中に入り、銃を突きつけながらこちらを睨みつけながら護送中。
 見た目的には死亡フラグが建っているのに、頭の中はビリー隊長でいっぱい。
 やがて辿り着いたコテージの深奥には、妹にすらその存在を忘れかけられていた(私も忘れてた)
 椎名伊織氏が不機嫌そうな面持ちで座っていた。
 部隊の隊長と思しき筋肉隆々でサングラスを掛けた日本人(おそらく)の男性は、
 ハスキーボイスで(ボビーオロゴンそっくり)作戦の終了を報告した。
 もうすでに拘束されている面々の半数が半分笑っていて、震え始めている――
 ややもすると恐怖で震えて泣き出しているようにも見えるけれど、
 ひとり真似をやり続けているツバサだけはすごくシリアスな表情で椎名伊織を睨みつけていた。
 まさかあいつも頭の中ではビリー隊長やってるとは思うまい、聞いている私だって疑わしい。

「なにか言いたいことはあるか、メグミ」
「どっ、どちらさっ、まっ、でしょうか……」

 せっかくビリー隊長に慣れ始めたのに、今度はもののけ姫の曲を歌う米良美一のマネをする美輪明宏とかいう
 どういう組み合わせだよ! っていうモノマネを披露し始めた東條希によって、ほぼフルメンバーが撃沈。

 呼吸困難になるレベルで笑っているメグもつい小ボケを披露してしまったけど、
 かの男性は恐怖で正常な判断ができなくなっていると勘違いした――正直助かった。
 俯瞰的に状況を確認すれば私たちに勝ち目はない、恐らく理亞さん大好きなゲームだったら、
 もう10クリックすると目も当てられないシーンがおっ始まることは確実。
 着ている服はビリビリに破けて、高らかに悲鳴をあげてから殺されるのだろう。
 いや、闇堕ちして他のμ'sの面々の前に現れるとかするのかな? ことりあたりに私は容赦なく殺されそうだけど。
 やめるのです穂乃果! あれはあなたの知っている絵里ではありません! と海未が言った瞬間に
 わかった! って言って、八つ裂き光輪とか発射するね、文字通り八つ裂きになる絢瀬絵里(笑)

「俺に逆らわずにいれば良かったものを――賢く生きなければ家畜のように処理されるだけだと、
 その生命を持って知ることになったのは、ある意味幸福だったかもしれんな」

 冷酷な発言を噛ましているけど、対象のメグは、え、そのマネどうやってやるんですか?
 と、熱心にツバサにモノマネのコツを聞き続けている、どうあがいても生きて帰られると思ってるらしい。
 ――いや、まあ、ここにいる面々の共通認識として命の危険はまったく感じてないんだけど。
 だけども、そんなことを露程にも知らない椎名伊織氏は、
 笑いを堪えていて前を向けない私たちを、恐怖のあまりに涙をこらえている(ツバサも俯いちゃった)とか、
 怯えている表情を見せたくない頑なな態度と認識している模様、そのまま勘違いしていて欲しい。
 
「だが……お前たちが助かる方法がある、聞きたくないか?」

 無線親機はもう職場放棄して家に帰りたいと言い始めたし、
 子機のユッキは健気にもテレパシーを広め続けている。
 ここでツバサがとっておきの「エリチカおうちかえる!」を披露し、笑ったユッキが
 私たち以外にもついついテレパシーを送り込んでしまい、廊下の方からグッ! という声が聞こえた。
 「黙れ小僧!」と言った絢瀬絵里のマネをする
 美輪明宏氏のマネをする東條希の破壊力は抜群だった模様、私もちょっと鼻水出そうになった、汚い。

「誰か一人の命を俺に捧げろ! そうすれば寛大な俺はお前らを許してやらんこともないぞ!」

 恐らく椎名氏は困ったように動揺する我々を見たかったものと思われる。
 が、そんな空気を露にも読まない(みんな読んでない)一人の行動によって、
 シーンはやっと動き出すことになる、そろそろものまねショーはやめてほしい、お腹痛い。
 あと、健気なユッキが必死になって手を上げているけど、あなたには捧げる命がない。

「ほう……お前は見ない顔だな――報告にも旅行の際に食べすぎて太ったとあるが
 惨めな女だ! 少しはあの絢瀬絵里を見習え! あいつはお前以上に食べても変化がないぞ!」

 ディスるのか尊敬しているのかどっちかにして欲しい。
 さすがに今の発言は破壊力が大きかったらしく、私たちに銃を突きつけていたシリアスな人たちが
 身体を揺らして笑いを堪えているのが見て取れた、リーダーの人だけ頑張ってるけど、
 恐らくもう人揺らぎしたらぶって行くね、確実にぐはっ、って何もしないのに倒れるね。
 ちなみに私の近くにいる綺羅ツバサも二人以上に食べていたけど
 触れて欲しいみたいな目で羨ましそうに私を見るのはやめて、笑っちゃうから。

「まあ、そんなみすぼらしい外見のまま死にゆくのは哀れだろう――
 そうだな、俺に逆らい続けた絢瀬亜里沙! お前が死ねば他の奴らは解放してやろう」

 だったら最初からそう言えよ、というメグの素のディスが各面々に広まり、
 テロ組織に精通(疑わしい)しているという人たちも、たちまち震え始めた、あなた達に罪はない(たぶん)
 しかしながら、空気の読めない(ある意味読んでる)伊織氏は、激情がこみ上げてきたと
 勇猛果敢な兵士を称賛するような目でシリアスな彼らを見ているけど、
 一部の人達は笑って銃口が椎名伊織氏に向いていて、発砲されれば彼に直撃するんだけどだいじょうぶ?
 
「なるほど……私が死ねば許して頂けるんですね?」
「だがその前に、跪け! 命乞いをしろ! 哀れに泣き叫べ! クク……
 当然ながらできるよなあ? 俺に同じことをさせたくらいだからな!」

 黒歴史の白状は絢瀬亜里沙というより、その行為を知らない(私も知らなかった)面々に大きなダメージを与えた。
 ベルちゃんが知らない(伊織氏自身に元から興味がない)のはともかくとして、
 メグ自身も知らなかったことらしく、嘘でしょ? みたいな顔をして私の妹を見てる。
 亜里沙や他のメンツに粛清された時でさえ、必ず帰ってくるとか言ってたくらいだし(迷惑にも本当に帰ってきた)
 プライドの塊みたいな人間を亜里沙が(当時の妹は高校生)跪かせて、命乞いさせて、
 哀れに泣き叫ばせたとか、何、ちょっと親近感抱いちゃうんだけどダメ? 
 私も何度かやったことあるから! あとこの発言をユッキはテレパシーで拡散しなくていいから!
 せっかく空気がシリアスになりかけたのに、ツバサと希がうわぁみたいな顔をして私を見てるから!
 
「分かりました――あの時のあなたのように、哀れに、情けなく、恥ずかしげもなく、
 顔面を泥のついた足で踏まれ、涙を流しながら、雨も降り、気温が低い中で、
 その場で放っておかれ、後日歩夢に助けられたあなたのように!!」
「そうだその通りだ! クク……同じことをさせると思うと、あの時のお前のように
 冷徹極まりない、虫けらを見るような目で見てやろう!」
「彼女にママと言って泣きついて、セクハラかました結果、罪が重くなったところまで再現しましょう――歩夢!」

 はーい、という声が、私たちがこの部屋に入るため使用したドアから、
 岐阜に帰って米作りに精を出していたはずの上原……じゃなかった、月島歩夢その人が
 フッツーに家にお邪魔するみたいに入ってきた。
 頭に特大のハテナマークを浮かべながら彼女を見やる面々(伊織氏以外)に、にこやかに手を振りながら
 
「いやいや、熱烈な歓迎ありがとうございます。
 お久しぶりです、椎名伊織さん。あの時に鼻水を胸元につけられた恨みまだ忘れてませんよ」
「何故貴様がここに!」
「安心してください、あなたに恨みを持つ人間は――今ここに勢揃いしていますから」

 ドタドタドタ! と、あらゆる罵声や入れろ入れろ痛い痛い! 様々な声が後ろから聞こえてくる。
 さっきまで私達に銃を構えていた人が揃って、交通整理を始めている。
 変装を解いた面々の中に津島さん(ダイヤちゃん配下)とか、
 スタッフとして紛れ込んでいた鞠莉ちゃん配下のマフィ○のヒトとか、
 よく考えてみればちょっと前に一緒に仕事してた人間が、揃いも揃ってこの場に集結した。

「哀れですね椎名伊織、生憎と私は人徳があるんです。
 こんなにもたくさんの方々が、私たち姉妹!  じゃなかった。
 ええ、ツバサさんと絢瀬亜里沙の結婚を祝福してくれました! ハラショー!」

 おおぉぉぉぉ!!! という声を上げてツバサが頭を抱えている。
 恐らくこのドッキリみたいな仕掛けのことは知っていた様子だけど、
 英玲奈やあんじゅには、復讐譚として物事は解決すると約束されていたらしい。
 裏切り者ォォォ!! と伊織氏よりも悲痛な声を上げた彼女が痛々しい。

「ククク……哀れなのは貴様の方だ! 絢瀬亜里沙! 今の俺に付いている人間がどれほどいるか……!
 日本で俺に逆らえる人間なぞ誰もいやしない!」
「なるほど、それなら世界のオハラだったら――ちょっとは逆らってもいいのかしら?」

 窓を突き破って突入した果南ちゃんにお姫様抱っこされて登場するという、
 何だその扱いみたいな感じで世界でも有名な企業の一つにまで成長した(鞠莉ちゃんの手柄)
 オハラグループのご令嬢(会長職みたいなものらしい)小原鞠莉ちゃんが登場。
 なお、窓の近くにいた椎名伊織氏は破片が直撃して痛そう。

「ずいぶん好き勝手に持ち上げられてチヤホヤされていたようですが、
 ベルがすでに自分の手元に無い時点で、暗示は解かれていたって気づかなかったんですか?」
「あいつがいなくなって半年は経つが変化は……」
「無いように見せかけていたんです、もうとっくのとうに私たちに対する悪評は解消されています」

 亜里沙の発言を聞いてもなお疑わしいという顔つきをする彼に対し、
 特大のため息をついた妹はとっておきとばかりに、彼に付き添い、悪事に加担してきた様々な――
 さり気なく私の父親もぐるぐる巻きにされてるんだけど、あの人は何したの? ついでに縛られてない?
 いや。まあ、ちょっと私の気持ちはすっとしたからいいんだけどさ。

「お、おお……ゆ、許してくれ……! 悪気はなかったんだ!」
「知っていますよ、そんなことは。悪事をはたらく際に悪いと思って加担する人なんて
 滅多にいやしません、同情すら覚えますよ」
「情をかけてくれ! 頼む! 俺は騙されていたんだ! あの、好色と欲望を司る悪魔に!
 操られていたんだ! 俺は正気に戻った! 二度とお前たちの前には現れないから!」
「お姉ちゃん、どうしますか?」

 妹がこちらを向いて問いかける。
 声を上げて泣いているツバサの肩をポンポンと優しく叩きながら、
 希と一緒に、亜里沙はいい子だから! 幸せになれるから! と励ましていたので、
 正直会話は聞いていなかったけど、ユッキが補足説明してくれた、いい子!

「ふうん、じゃ、許せばいいんじゃない?」

 え? みたいな目をして亜里沙以外の人たちが視線を向けた、
 ぐるぐる巻きにされて縛り付けられている悪人の方々でさえ、嘘だろみたいな顔をしている。
 妹だけはしょうがないなあみたいな顔をして――

「さすがだ! さすが絢瀬絵里は違う! どのような悪人でも見逃す!
 クハハハハ! これで俺は無罪放免ということだな!」
「そうですね――ですが、あいにく――

 姉に発言権はないので――」

 分かってたよド畜生!!!! どうせオチに使われるってことくらい!!!

展開的には変わらないのですが、
シリアスをすぐに打ち切りました。

シリアスに偏れなかったのはひとえに作者の力不足です。
申し訳ないです。

明日からエピローグに入り亜里沙ルートは完結となります。
エピローグは書くことだけ決めていて、分量はいかほどになるかは分かりませんが。
ツバありの結婚式は出ません。
一回すでに押し倒していて、お互いに満更でもないという設定がありますが、
披露されることはないと思います。そういうのは海未ちゃんルートでやる(予定)

展開的にやっぱりグダグダになったので、読んでくださいとはとても言えませんが
頑張ります……。

うーん、悪役にしても哀れすぎな最期
同情は…しなくてもいいな

周囲が必死で笑いを堪える中イキり続ける御曹子()とかなかなかギャグセン高い

絵里ちゃんはCV北都南系ヒロインだよねとこのss読んでてなんとなく思った(唐突)

 ラスボス(笑)の息がかかっていた社長を中心とした経営陣が揃って放逐され、
 かと言って現場上がりの人間で、会社の運営や従業員(主にアイドル)のリーディングに
 向いている人間は他の事務所で仕事をしてしたため――
 業績の傾いたハニワプロはその歴史を終了することにあいなった。
 所属していた芸能人であるとか会社のスタッフは他の事務所に移ったり、
 別の職業に就いたり、手放しで大団円とは言えないけれど一通りの決着はついた。
 一概に旧経営陣の人間が悪いとも言えないし、私たちが善だったともはっきりとは言えないけれど、
 それでも自分たちは前を向いて歩いていかなければいけない、生きている限り。 

 Re Starsの面々も芸能活動を終了したり、他の職業に就くという人間がいた。
 私もそのひとりとして数えられたかったけれど、あいにくそう上手くは行かないらしい。
 アイドルとして活動を終わらせたのは朝日ちゃんで、
 自分であんまり能力は高くないんですけど、かといってやりたいこともできることもないんですよねえ、
 と相談され、今まで頑張ってきたからのんびりしてからしたいことを探せばとアドバイスを送ったら、
 もうちょっと具体的にお願いしますとダメ出しをされひねり出した答えが、
 子どもの頃にやりたかったことをすればいいのでは? だった。
 この答えは彼女にとって目からウロコだったらしく、目を輝かせながらさすがは腐ってもエリーチカですね、
 と、ディスってんのか、褒め称えているのか判断に困る答えを頂いた。
 朝日ちゃんと同様にアイドルとしての自分を終わらせたのは津島善子ちゃんだった。
 もともと、Aqoursを復活させたい、高海さんに戻ってきて欲しいという目的でアイドルを始めた彼女は、
 その目的は達成できたとして芸能活動に終止符を打つことにしたみたい。
 社会人として仕事が出来て、かつ優秀だった過去を活かして花丸ちゃんの芸能事務所に潜り込み、
 今は多くのアイドルたちや花丸ちゃんから仕事を任せられていて、あんたは先輩でしょ! と
 よしまるコンビが漫才する姿が芸能関係者に評判――でも、本当に花丸ちゃんは仕事ができない。
 統堂朱音ちゃんは英玲奈の希望や、真姫のアドバイスに従って高校卒業後には大学に進学し、
 芸能活動は一時休養することになった――ベルちゃんの協力でユッキとも再会を果たし、
 高飛車でワガママな性格も改められ素直でいい子に変貌したけれど、
 落ち着いた彼女は英玲奈の姉にしか見えない。

 迂闊な判断して困っている姉を朱音ちゃんが嗜めていたりアドバイスを送っているけれど、
 10も年上の姉を嗜める妹というのがどういった構図に見えるのか、
 嬉しそうな顔をして妹がしっかりした、素晴らしいと褒め称える英玲奈に分かって頂きたい。
 エヴァリーナちゃんことリリーちゃんはユッキとの再会を果たしたのち、
 自分にはやることがあるので、と説明していずこかへとふらりと消えてしまった。
 超常現象めいた不思議な力で皆の記憶から存在自体が抹消されたのか、
 彼女のことを覚えているのは私とユッキだけで、Re Starsも最初から4人グループとなっていたし、
 妹やツバサに彼女のことを話すと、不憫な人見る目で妄想は大概にして欲しいと言われてしまう。
 たまに私の枕元に置かれている手紙には、身体を大事に、そして友達と仲良くと言った旨が書かれていて、
 未来を予測するかのような内容が含まれていて――。

 桜内梨子ちゃんが始めたお店にたまに行くと、
 だいたい元μ'sとか、元Aqoursの面々が働いていたりお酒を飲んだりしている。
 出会う確率が高いのは真姫だけど、なんでも私が来ることを事前に察知して真姫を呼んでいるらしく、
 七面倒臭いお嬢様のお世話は私の仕事だと認識している様子、どこが地味なタイプなのか問いかけたい。
 渡辺曜ちゃんはことりのパートナーとして、最初は支えられながら店長職なり仕事をこなしてきたけど、
 いつの間にかブランドのブレーンとして活躍を始めた。
 思いの外に地頭が良かったみたいとは彼女の談だけど、器用で優秀だった彼女が
 いつの間にかことりを蹴り落とさないことを祈りたい、いや、仮に蹴落とされてもことりはたくましく生きるだろうけれど。
 ダイヤちゃんは体面上の理由で結婚式を開き、私やツバサも出席したけれど、
 Aqoursとして一緒に活動していた面々で出席したのは妹のルビィちゃんだけで、
 何故なのか問いかけたら自分なりのけじめだと語ってくれた。
 箝口令が敷かれていて、ルビィちゃんや私も本当に口を滑らせなかったんだけれど、
 果南ちゃんと鞠莉ちゃんには後日に式で渡せなかったからとご祝儀袋を頂いたらしく、
 私はずいぶん疑われてしまった――来るたびに胸を揉んで帰るのはそういった理由らしい、改めていただきたい。
 果南ちゃんと鞠莉ちゃんの二人は休養ののちに世界中を飛び回り、
 オハラグループがいつの間にかにAmaz○nとかGo○gleとかと同列の世界的な企業へと成長したけれど、
 彼女たちの経営が優秀だったからだと思いたい。
 ゲームやってるだけでいいからとベルちゃんを連れているからではないのだ、たぶん。

 椎名伊織の策略に巻き込まれた高海さんは芸能活動を続けている。
 以前もラブライブで優勝することになった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(長い)のインタビューをしていて、
 理想のスクールアイドルは誰ですか? と優木せつ菜ちゃんに逆質問され、穂乃果の名前を出すかと思いきや、
 海未のことを語っていた。
 二人はひと悶着あったらしく、その現場にいた理亞さんがトラウマになるレベルで恐怖を感じたとかで
 海未が言うには分かって貰えないので言葉で本気出しただけだそうだけど、 
 作詞した曲が売れたCDシングルの数がそろそろギネスに載ることも考慮しなければいけないとネタにされる彼女が、
 言葉で本気出したらどうなるのか想像に難くない、理亞さんの気持ちもよく分かる。
 そうそう、聖良さんはそんな高海さんのサポーターとして、自身の芸能活動と並行して活動中。
 ただ、仕事でつまらないものですが、と渡してくるのが「岐阜の特別品 歩く夢」というお米。
 歩夢ちゃんを未だに操っている亜里沙の意のままに聖良さんも動いているらしく、
 そろそろ独り立ちして貰いたい、無理かな……。

 アメリカで活動している穂乃果は日本ではまったくニュースにならないけど、
 地元ではかなり評判のアイドル(アメリカでは高坂穂乃果を指すらしい)として、映画やテレビに出演を重ねている。
 ディーン・フジオカさんみたいに逆輸入アイドルとしてデビューしちゃおうかなーと冗談めかしてLINEを送ってきて、
 それを目撃した雪穂ちゃんが目を吊り上げて怒り散らしたのを絢瀬姉妹が止める羽目になった。
 実家のために経営の勉強や穂むらのサポートにあたっていた雪穂ちゃんは、
 高坂家のご両親の説得で親友関係にある亜里沙が立ち上げた……いや、まあ、表に立って起業したことになっているのは
 メグなんだけど、実質亜里沙の事務所みたいなものだから、姉は今も発言権がないから。
 それはともかく芸能事務所「ネームレス」のエグゼクティブアドバイザーとして活動中。
 穂むらは店を閉めることとなり、最後の日には姉妹揃って接客をする姿が周囲の涙を誘った。 
 この際のエピソードが矢澤ここあちゃんの一般文芸のデビュー作として披露され、
 私やツバサも映画(発売された時点で決まっていた)に出演することになっているけれど、
 何役なのかは聞いていない、当人として出るんじゃないかと言い合っているけれど詳細は伏せられている。
 なお、主演の高坂姉妹の片割れ雪穂ちゃんを演じるのは、なんだか知らないけれど本気だすと言って
 そのポテンシャルを発揮し始めた鹿角理亞さんが務める。

 当初ルビィちゃんと一緒に芸能活動を再開した彼女が、どういう経緯で独り立ちし、
 大好きだった聖良姉さまや、亜里沙のアドバイスすら借りずに成長を果たしたのかは知る由もないけれど、
 かなりストイックに活動しているとかで、なんとエロゲーもプレイしていないとか。
 また聞きの情報では、余暇を悠々と過ごしている時間はないと休日の設定すら断ったみたいで
 さすがに身体を壊すのでやめて欲しいと、私以外の人間がフォローに回ったとか。
 私も心配になって顔を見せたかったけれど、丁寧な文字で書かれた直筆の手紙で、
 いつか成長した自分と会って欲しいとやんわりと断られてしまった。
 
「絵里さんはいつだって罪作りです」

 手紙を渡してくれたのは他ならぬルビィちゃんだったけれど。
 その際に、実は私のことが苦手だったことを吐露して、今はって尋ねたら
 尊敬している気持ちと嫌いだっていう気持ちが同居していると説明してくれた。
 複雑な感情を抱かれるいきさつは私には分からないけれど、
 誰も彼もから好意を寄せられることは、私には過ぎたモノであるから文句が言えるはずもない。
 はっきりと言ってしまえば、私の中ではルビィちゃんの好感度はダイヤちゃんよりも圧倒的に高い、
 常々黒澤姉妹の二人には伝わるように言っているんだけど、逆に姉の方からのアプローチが強くなった。
 引けば引くほど追いかけたくなるらしく、選択肢を誤ったのではないかと後悔しつつある。

 そして私――の前に。
 今日は久しぶりのオフなので、ちょっとのんびりしたいなー
 何をしようかなー! ちらっちら! と、誰も遊ぶ相手がいないアピールを事務所でしてたら、
 同じくオフ(コンビで活動しているから当然)のツバサが、仕方ないわねぇみたいな顔をして

「飲みに」
「あ、ツバサさん!」

 先日まで事務所所属のアイドルの仕事のブッキングに励み、
 社長(仮)のメグと一緒に北海道まで遠征していたはずの妹が、
 何食わぬ顔をして疲れ切った表情をした社長(笑)と一緒に事務所に現れた。
 最近の深夜バスというのは優秀ですね、ほぼ定刻通りに都内に到着しますと
 聞かれてもいない感想を漏らし、ツバサはズルズルと亜里沙に引きずられて行った。
 なにか口にしようとするとユッキがダメです! と止めるので賢明な私はノーコメントを貫いた。
 次の仕事が妹たちの結婚式でないことを祈りたい。

「絵里さん、暇なら仕事しませんか」
「……あれ、オフって聞いたんだけどな、おかしいな」
「奇遇ですね。私は今10何連勤の途中です」

 芸能事務所は労働者じゃないから労働基準法は適応されない――!
 アイドルみたいな活動をしている傍ら、メグにはパシリに使われ、
 プロデューサーの亜里沙にも顎で使われ、雪穂ちゃんにも手下として扱われ、
 ツバサには部下として認識され、事務所の後輩には自分をオフにしたい時の代打要員の私が、
 一番偉い人に逆らえるはずもなく。

 過去に理亞さんとお茶して以来行っていない、エトワールにもほど近いクローシェは
 相も変わらず人で溢れていた。
 ここでネームレスに引っ張り込みたいらしい子たちをスカウティングするとかで、
 失敗したら分かってますね? という脅迫も手伝って微妙に私は緊張をしていた。
 私とは顔見知りの二人だけれど、
 どうせなら同じグループにいた優木せつ菜ちゃんをスカウトすればいいのに
 と言ったら、余計なことを言って話が頓挫しないことを祈ると言われちゃった。

「ええと、確か……一番奥の席に」

 店内に入り忙しそうに働いている従業員さんを横目で見ながら、
 相席しているのにひとっつも目を合わせない、微妙過ぎる距離感を保っている二人を見つけた。
 虹ヶ咲学園にいた頃から同じ年なのに基本的に相容れない二人は、
 卒業後数年経っても似たような関係だったらしく、私が近づいても自分の世界に没頭し
 スカウトをしに来ているはずの私がスルーされる事態に泣きそうになったけれど。

「ええと、桜坂しずくさん、中須かすみさん。おはようございます、絢瀬絵里です」
「え、今昼ですけど」
「かすかす、知らないんですか? 業界での挨拶は丁寧語のおはようございますを使うのが普通なんですよ?」

 来て早々ディスりあいが始まる。
 お互いに違う方向を見ながら罵り合いが始まり、お店の人から騒がしいのでなんとかしろ
 みたいな目で見られたのでまあまあ、となだめて、とりあえず落ち着いて二人両並びで席についてもらった。
 窓際がいい、廊下側がいいで喧嘩することになったけど、デザートを一品奢るの言葉で静かになってもらう。

「まず、中須かすみさん。ネームレスではあなたのアイドルとしての資質を高く評価しています」
「優木せつ菜よりもですか」
「当然です」

 これは紛れもなく本当。
 完璧で近づきがたい印象すらする優木せつ菜ちゃんと違って、
 親しみを込めた同じ目線で応援できるアイドルとして彼女は高く評価されている。
 もう少しおべっかを使うなら、矢澤にこや栗原朝日ちゃんも行けるんじゃないかみたいなことを言っているので
 いざとなれば沢山の人の評価の声で押すつもりだ。
 
「次に桜坂しずくさん。ネームレスで推す女優枠一号としてあなたには期待をかけています」
「優木せつ菜さんよりもですか」
「はい」

 スクールアイドルとして過去に前例がないレベルで評価されている優木せつ菜ちゃんは、
 高校卒業後に芸能界へのスカウトを全て断り、今は勉学に励んでいるらしい。
 しかしながら、彼女の押し倒された回数校内最多というのはまだ頷けるんだけど、
 胸ぐらをつかみあげられた回数校内最多、ラッキースケベ率校内最多という評価はなんなんだ。
 ええと、演技力でも類稀なる才能を発揮したせつ菜ちゃんではあるけれど、
 いかんせんお高く止まって見えるので高級感溢れる彼女はお呼びではないらしい、
 事務所で受付とかお茶汲みでもやってくれれば癒やされると主張したら、
 じゃあお前が囲ってろみたいな目でみんなから見られたので渋々意見は取り下げた。

「桜坂さんが校内で披露したロミオとジュリエットはとても素晴らしかったです。
 私がやったときとは雲泥の差でした」
「演技ですか?」
「いいえ、人に与える印象が。共演した優木せつ菜さんも上手でしたが、
 桜坂さんのほうが断然輝いていましたし」

 ツバサと一緒に見に行った際には、ロミオ役が桜坂さん、ジュリエット役がせつ菜ちゃんで。
 舞台を見上げながら、え、逆じゃないの? みたいなことを漏らしたツバサに、
 適役じゃないと言ったら、あなたにはそう見えるのねと特大のため息を吐かれてしまった。

「こうしてお二人を同時にスカウトしに来ましたが、コンビとして組んで頂く必要はありません」
「聞きたいんですが、仮に私がアイドルではなく女優としてもやりたいと言えば、対応してくれるんですか?」
「ネームレスでは一番発言力があるのは事務所に所属する芸能人です」

 私? 口を開くとだいたい静かにしてって言われるけど?

「かすかすが女優として成功するなんてありえないです、私がアイドルをやったほうがまだまし」
「優木せつ菜を背負投げして放り投げた挙げ句、膝蹴りを腹に入れたあなたがアイドル? 寝言は寝て言って」
「一週間に三回回し蹴りを背中に入れていたあなたが女優とかありえません、プロレスラーに転向してください」
「このフラれんぼ!」
「あなただって同じでしょう!」

 今度ばかりはなかなか静かになってもらうのに時間がかかってしまったので、
 頭痛を感じながら、何か食べたいものとか欲しいものはありますか? と問いかけたら
 二人同時して高級焼肉! といい笑顔で言って
 よもや私はからかわれているのでは無いかと疑問を浮かべ始めてしまったけれど。
 ともあれ、私の財布は軽くなってしまいそうだけれど、スカウトには無事成功したものであるらしい。
 今度事務所に顔を出してくれることを約束してくれた両名とお別れし――

「ん?」

 ぐにゃり。
 目の前の風景がねじ曲がる。
 粘土を手で工作するみたいに視界がぐにゃぐにゃになり、
 最近仕事しすぎだからちょっと疲れてるのかも、エヴァちゃんにも身体に気をつけるように言われていたし。
 どのみち、今度目を覚ます時には病院で点滴でも打って貰ってるかな――?

「絵里お姉さん、安心してください。次は――私もいますから」

~絢瀬亜里沙ルート Fin(?)~



 =鹿角理亞ルートが選択されました=

思わせぶりなラストではありますが、
この作品はまだまだ続きます。

お付き合い頂ければ幸いです。


とりあえずμ’sとAqoursが一応の和解をして良かった
この終わり方、トゥルールートがありそうだ

亜里沙ルート完結おつおつ
みんな収まるところに収まった感じだね
次は理亞ルートなのか、こっちも期待して待ってる

亜里沙ルートなのにツバありエンドという新種のNTR感が斬新だった
他ルートも怖いけど気になるから読んじゃうわ

 季節は春。
 ようやく最近は暖かくなったかな? と思いつつ、
 夜になれば薄着でいると肌寒いので、
 風邪など引かないように一枚多く寝具を羽織ったら、
 あまりに寝苦しくて妙な夢を見てしまった。
 暗い暗い道の先に自分を待っている女の子がいる。
 ”小学校高学年”くらいの西園寺雪姫と名乗る少女が、こっちこっちとしきりに呼びかけてくる。
 足が竦みそうなほど暗い道をおっかなおっかな歩き、辿り着いた場所はひとつの光。
 なぜだか私はその先に行くのが怖くて、身体が粟立つような恐怖を感じて思わず前に進むのを躊躇ってしまったら。
 今は一緒にいるからと春の陽射しのような温かい笑みを浮かべながら、 
 私の気持ちをすっと安心させて、怖じ気ついていた足を前へ前へと一歩ずつ進ませた。
 なぜだか雪姫がもっと小さい手をしていたような気がして首を傾げたけれど、
 だんだんと自分の意識は朝の訪れと一緒に覚醒していく――
 どのみち、たかが夢なのだ。
 これからの日々は、亜里沙の頼みでハニワプロの落ちこぼれアイドルの面倒を観る――
 エトワールという場所の管理人を務める自分を想像し、なんだか懐かしい気がして、
 μ'sの面々に世話を焼いていた頃を思い出すからかな? と頭によぎったけれど、
 考え過ぎは良くないよね、と思い直して私はまぶたを開いた。

「ああ、変な夢を見たなあ……」

 独り言を呟いた私は、
 やれやれ誰もいないのに寂しい寂しいと思いながら伸びをした。
 朝陽が昇り始めて少し時間が経った春の日。
 以前までは起床するのにためらってしまうほど暗い時間だったけれど、
 暖かくなるにつれてベッドから抜け出すのが早くなってきた。

 慌てて掛け布団の中で電灯のスイッチを探さなくてもいい季節になり、
 私としてもスッキリ、亜里沙にとっても余計な電気代を食わずにスッキリ。
 そんな時、どこからかおはようございますという声が聞こえてきて、
 妹とは違う声がしたけれど来客でもあったかな? なんて思考して振り返ると、
 全体的に薄い色調をした先ほど出会った女の子が、ふわふわふわふわと浮かびながら、
 にこやかに挨拶をして、ああ、まだ夢の中にいるのかと思った。

 私にしか見えない精霊のようなものと説明してくれた雪姫ちゃんは、
 なんでも迂闊な私をサポートしてくれるらしい。
 確かに油断大敵とか、百戦負け続きという言葉がよく似合う私にとっては、
 これ以上にない強い味方ではあるけれど。
 いざとなれば身体を乗っ取りますのでと説明されたところで、安心していいのか嘆いていいのか。
 彼女は説明もそこそこに本日のタイムスケジュールを披露してくれる。
 起床して朝食を作り、妹と一緒にそれを食べたら私はこのアパートからお別れだ。
 そのために中古屋や清掃業者から、絢瀬絵里の痕跡をこの場所から消すために苦労した。
 どうしても処理したくなかったパソコンだけはツバサに預かって貰ったけれど、
 さっさと引き取りに来ないと承知しないと脅かされてる。
 前日に作ったボルシチをイタリアンに変化させ、
 朝から胃がもたれそうな料理を作ってしまったなと、自己判断していると。
 眠たげな亜里沙がこちらに顔を出した。
 いつもシャッキリしていて、起床から5秒でキャリアウーマン化する妹にしては珍しい。
 眠りでも浅かったのか、それとも仕事が忙しいものであったのか。
 そういえば北海道から帰ってきたとか言ってたような……そうでなかったような?

「おはようお姉ちゃん」
「……ん?」

 昔懐かしい言葉の響きを聞いた気がした。
 甘えたがりだった妹の過去を彷彿とさせるほわほわとした口調と声色に、
 まだ寝ぼけているのと笑いながら問いかけたら、

「え? あ……ん? そういえばなんでわたしはこんな口調で?」

 前日までの”姉なんて見下すモノ”くらいに考えていそうな冷徹ぶりとは打ってかわり、
 醸し出すオーラさえもプリティーな感じに変貌しキャリアウーマン(笑)状態。 
 さんざっぱら首を捻りながら、必死に冷たい声を出そうと努力した挙げ句、
 お姉ちゃんの朝ごはんが待ち遠しいです! と誤魔化されてしまい、
 朝から疲労感でいっぱいになった私も深く追求することなく姉妹の朝食は続く。

「そういえばお姉ちゃん、ハニワプロの所属のアイドルの管理のことだけど」

 過去に戻ったかのような口調のままで話し出す妹。
 今まで表情を変えることすら珍しかった彼女が、なぜかニッコニコ笑いながら美味しい美味しいと
 連呼しながら食事を重ね、昼食も作ってあるからと説明するとハラショーと言いながら喜んでくれた。
 違和感は多少なりとも感じるんだけれども、昨日までの妹と同時に
 記憶の中にそんな妹をついこの前見たような気がしたから、そこまで変とは思わない。

「でもね、だいじょうぶ。私も手伝うし、気軽にやってくれれば平気です」
「手伝う? あなた昼間は働いているんでしょう?」
「え? あれ? 知らなかったっけ? 私はハニワプロで働いてるって」

 姉妹で顔を見つめ合い、二人の記憶の出来に差異があるのは仕方がないとしても、
 あたかもその事実を知っていたかのように話されてしまうと、
 あれ? そうだったかも? なんて思って深くは考えない。
 ただ亜里沙の方は難しい表情をしながら、自分自身にあるまじき記憶がある気がします、
 と、よく分からない発言と怪訝そうな表情をしながら首を傾げている。
 雪姫ちゃんに心のうちに問いかけてみると、恐らくそれは記憶の混濁があるものと教えてくれた。
 何の記憶? って問いかけてみると、過去に体験した行為が世界を変遷しても
 何となくそうだった程度で残っているのかも知れないと話してくれた。
 世界の変遷とか、過去の記憶とか、まるで中学二年生時の朝日ちゃんの妄想みたい――
 ん? 朝日ちゃん? 朝日ちゃんって誰? 記憶を掘り起こしてみても、
 そんな人物と過去に出会ったかもしれないくらいしか思い出せないのに、
 何故仲の良い友人であったかのように振り返ってしまったんだろう?

「うーん?」

 疑問は解消されなかったけれども、時間は過ぎていってしまうので。
 私も亜里沙も深く考えないことに決め、それはそのようなものなんだろう程度で置いておくことにした。
 部屋に戻って身だしなみを整えて、相手に失礼のないようにしないとと気合を入れ、
 雪姫ちゃんのアドバイスのもと、原始人レベルだった私のファッションセンスは
 雑誌をコピーすることしかできなかった高校時代まで改められた。
 妹にも、すごくまともに綺麗な格好してます! と褒められているのか
 ディスられてしまっているのか分からない励ましを受け、アパートから退室した。
 姉妹揃って前日まで住んでいたというのに、なぜか懐かしい気がする建物を観て、
 今生の別れであるような切ない気持ちをお互いに抱えながら、
 なんだかもう帰ってこない気がすると亜里沙が呟き、
 そんなわけがないでしょう、と姉である私が嗜めた。
 しっかりしなさいと妹の背中を押す自分というものを久しく経験してなかった気がして、
 きっとループモノの物語の主人公ってこんな気持ちなんだなと、
 思いの外しっくり来る感想を抱いて最寄り駅へと到着した。

「じゃあ私は仕事に行くね?」
「ええ、気をつけて。なんだかお互い変みたいだから。事故とかに遭わないように」
「そうだね、重々承知しておきます」 

 電車に揺られて十数分ほど。
 都心にほど近いハニワプロから徒歩で30分ほどにあるエトワールに行く前に、
 鹿角理亞さんが迎えに来るというのでコンビニで飲み物でも買おうかな? 
 でもちょっと口に直接つけて飲むのはみっともないかな? なんて逡巡していると、
 周囲が騒がしく、人の声で溢れ始めたのでなんだろうと思って振り返ると、
 とんでもない美少女が私に向かって近づいてくる。
 髪質はストレートで、目つきは少々鋭いけれど気が強そうなのかな? で片付けられるレベル。
 エトワールから私を迎えに来ると伝えられたのは、たしか鹿角理亞さんだったはずで、
 似ても似つかないと言っては彼女にも、近づいてくる方にも失礼かもしれないけれど、
 余計な記憶がこびりついているのに、その中に入っていない美貌の女性に、
 ちょっとした警戒感を抱いてしまうのは致し方ないことかも知れない。

「絵里先輩」

 にこやかに私に呼びかけて来て、明らかに相手は自分のことを知っていると理解した。
 写真やまた聞きとかで、私をμ'sの絢瀬絵里と知っている人間はいたとしても、
 外に出れば悲しいほどにスルーされてしまうので最近は自己主張をすることもやめたけれど。
 キョトンとして顔をしげしげと覗き込んでしまったことに気がついて、
 咳払いを一つしながら記憶にない人だと素直に認めて謝罪しようとすると。

「――ああ、こうすれば分かります?」

 目の前の女性は頭の左右に髪の毛でふたつくくりを作り出し、
 世の中に対して敵意満載の飢えた狼みたいな釣り上がった目をして見せて、
 ようやくそこで、彼女が鹿角理亞さんであると気がついた。
 つい先日まで顔を合わせていた彼女とは髪質も、目つきも、
 背筋を伸ばして凛としているせいか身長さえも変化したように見える。
 何か悪いものにでも憑かれてしまったか、新作のエロゲーに魅力的なヒロインでもいたのか、
 別人だと呼称しても良いほどに変化してしまった。
 外見をちょっと取り繕って見せたとか、今まで見ていた彼女が実は双子の妹であったとか、
 奇想天外な結論をしなければいけないほどに――

 喫茶店クローシェに赴いた私たちは、
 お互いに正対するようにソファーに座ってメニューを注文した。
 陽射しが眩しいとポツリと呟き、寝不足だからいけないと結論づけた理亞さんMk-IIは
 紅茶とスイーツのセットという女子力の高そうなメニューを頼み、
 予想外の注文に慌てた私は同じものでいいです、と怪訝そうな表情をする店員さんの視線をスルーし、
 私は最初からこれを食べたかったんですが何か? と表情を作ってみせた。
 今まで真姫に指導されたくらいしか演技の経験がなかった自分が、
 しっくりと来るほどに表情を作れたので首を傾げながら、
 困ったように視線を這わせる理亞さんと顔を突き合わせた。

「そうですね……困りました。確かに、先日までの鹿角理亞とは
 別人だと判断されても仕方がないとは思います」

 徹夜でプレイしていたとある新作ゲーム(18禁)の途中で寝落ちしてしまい、
 ふと気がついて、私を迎えに行かなければと思い至り――
 あまりに破廉恥な場面をパソコンが映していて思わず甲高く悲鳴を上げ、
 驚いてやって来た面々が鹿角理亞さんの変貌ぶりに同じレベルで悲鳴を上げてしまい、
 朝から結構な騒ぎになったみたいで、ただまあ気持ちはよく分かる。
 髪質も気がついてたらサラサラの真っ直ぐになっているとか、
 表情も気が強そうな感じを作らないと柔和な印象を改められないとか、
 先日までの口調を試してみても、おとぼけた感じになって似つかないとか。
 なぜこんなことにと問いかけてみても、誰一人返答することなど出来ず。
 仕方がないのでお風呂に入り、身綺麗にして、部屋に置かれていたものが女子力が低すぎたので
 同居人のエヴァリーナちゃんに化粧水やら美容液やらを借り、
 散々自室の掃除を重ねてからここまでやって来たとのこと。
 以前までならば身の回りの整理整頓すら出来なかった面々が手を貸し、
 あまりにも優秀過ぎる自分たちに頭に特大のハテナマークを浮かべながら、
 ゴミ袋複数と中古品行きの物品を仕分けし、
 あとの処理を津島善子ちゃんと栗原朝日ちゃんの二人に任せて出発。

「なにか変ですが……どうあれ、敬意を払って絵里先輩を迎えるとみんな張り切っています。
 ただ以前までなら、そういう気の使い方が逆効果になっているはずなのに」
 
 深刻そうな悩みでも抱えて疲れ切ってしまったと言わんばかりのため息が耳に届き、
 掛ける言葉も見当たらなかった私は、気分を改めて食べましょうとフォークを持ち上げて微笑む。
 何はともあれ改善策は見当たらないので、時が流れるままに状況に慣れるしかない。
 その行為を世間一般では思考停止と呼称することは知っていても、
 次から次へと不可解な状況が続いたので、そろそろ脳内がパンクしてしまいそう。
 先ほど朝食を採ったばかりだと言うのにカロリーをたくさん摂取してしまい、
 1日に必要なカロリーの3分の2を突破していますという雪姫ちゃんの忠告を、
 どこか遠い場所から聞こえてくる声のように感じながらひたすらスイーツを食べた。

一文目に鹿角理亞ルートを開始します!
みたいな文章を入れ忘れました! 投稿後変な悲鳴を上げそうになりました
申し訳ないです!

というわけで鹿角理亞ルートが始まりました。
長くはならないと思います、来春公開のサンシャインの劇場版までには
完結させたいと思うので、読んで頂ければ幸いです。

始まってたか!
若干強くてニューゲームなシステムな
のね

生意気ツインテじゃない理亞ちゃんなんて……

申し訳ないです。
今日の更新はお休みさせて頂いて翌日以降に変更なります。
風邪が治ったと思ってもぶり返すこともありますので、気をつけて頂ければ。
油断なりませんね……。

映画までには完結ってことなんでまったり楽しませてもらうよ
体調第一でお大事に

 久方ぶりに職場に行くような気分になり、
 デデンとそびえ立っているハニワプロのビルを、
 建物自体に負けフラグが立っている気分で見上げ、
 体験していない過去の記憶が自分にこびりついている感覚が、
 どう足掻いても拭うことができずに、妙な焦燥感と違和感に気持ちが粟立ってしまいそう。
 建物の中に入り、いつものように各アイドルたちのスケジュールを確認して、
 ”違和感が残っている人と””残ってない人”がいることに気がつきました。
 おそらくハニワプロのスタッフで前者なのは南條さん――いや、もっとフランクに彼女を呼んでいた気がしますが、
 プロデューサー間で私情を持ち込んで仕事をするわけにも行かないので、名字での呼び名で統一します。
 残ってない人というのは彼女以外のスタッフ、そして多くのアイドル。
 社員の方や、私の上司にあたる方々もそうでしょうか? 
 ただ、上に立つ人は何食わぬ顔をして自分の敵に回りそうな気がして、
 その想像を首を振って払いました、問題を想定することは大事ではありますが、
 雁字搦めになって行動に差し支えになればまったく意味がありません。
 そんなことになるならばもとより問題など放り投げたほうが良い、弱気は敵です。

「絢瀬プロデューサー、その、どうしてもお会いしたいという方が」

 困ったような顔をして私に問いかけるのは、スタッフの一人の古田さん。
 得意なことはプレーイングマネージャー、それって違う人じゃないですか?
 ただ、面会とか懇談の予定は入っていなかったはずなので断ってしまっても良かったんですが、
 彼は基本的に優秀で仕事ができる人なので、取るに足らない相手ならスルーしてくれます。
 わざわざ問いかけてきて下さったということは、無視できない相手であるということ。
 どこかのえらい方が娘の面倒を見てくれとお願いでもしに来たのかと思い、
 仕事をしていた手を止めて古田さんと一緒に待って頂いているという方に会いに行くと――
 正直魂が抜けてしまいそうなほどに驚いてしまったのでした。

「古田さん……って、いない!?」

 先ほどまで一緒だった古田さんは息苦しいような苦しさを覚える状況に耐えきれなくなり、
 何も言わずに私を生贄に捧げて会議室から出て行かれました、薄情者です……。
 部屋の中にいたのは、園田海未さん、高海千歌さん、そして――黒澤ルビィさん。
 午後から仕事の打ち合わせがあり、会社に来るのはそれでいいと言っていたはずなのに。
 
「失礼しました、ご用件は?」
「正直会って頂けるとは思っていませんでした――アポイントすら取っていませんでしたからね」

 おそらく、私の前にいる方々は私と同じ状態のはずです。
 海未さんはともかく、ルビィさんと高海さんは醸し出している空気の中に、
 こちらに対する敵意が見て取れます、裏切り裏切られの芸能界ではありますが、
 面持ちからしてこちらの敵に回りますと言わんばかりであるのは、自分を憂鬱にさせます。
 電話した際に同一人物か怪しい程に透き通るかつ落ち着いた声を出し、
 穏やかで柔和な態度を見せた理亞が関わっているのか、それとも別のなにか――

「”園田さん”ご用件は」
「はい、本日は顔見せと――そうですね、”宣戦布告”をしに」

 来たるべき時が来た――と言うのは、自分の勘を見誤りすぎでしょうか。
 落ち着いた雰囲気の中に3人の中で一番こちらに対して暗い感情を持ち、
 有り体に表現すれば憎悪にも似た感情を抱えていることを読み取れてしまう――
 ただ、それは今後対立するであろう関係を感じて、自分自身がネガティブになってしまっているから。
 正直頭を抱えたいほど気分が落ち込んでしまいそうでしたが――絢瀬姉妹は見栄を張るのが得意なんです。

「私はただの彼女たちが歌う曲の作詞担当というだけではあるんですが」
「要件は単刀直入にお願いします」
「――この二人はECHO所属のアイドルとして天下を取る心持ちです」

 ”園田”さんはついに私に対して――いや、姉に対してでしょうか?
 自分を確かに見ているような気もするんですが、誰か違う人間に対して”宣戦布告”をしているように思います。
 その事が読み取れてしまうのは以前まで仲が良好であったからであるのか、
 言外に相手が伝えているのかまでは判断が付きませんが。

「そのことを姉は知っていますか?」
「……いいえ」

 相手の態度が揺れたことが分かります。
 彼女は存外……というより、μ'sの中でおそらく一番姉に対する好感度が高いので。
 度々口にしていた尊敬の念と言うよりも、恋愛感情と表現したほうが私にはしっくり来ます。
 ただ、控えている二人はそんな”海未”さんの心境を知ってか知らずか――いや、恐らく分からないんでしょう。
 彼女を矢面に立たせて居丈高な態度を取っている二人が、急にとても可哀想な子に見えてきました。
 心の中に沸き上がる苛立ちを出さないように――いえ。

「黒澤さん」
「はい」
「他の事務所に行っても頑張ってください」
「はい」
「それから――社交辞令でも今までお世話になりましたくらいのおべっかは
 使えるようになったほうが良いですよ? いくら私に敵意を持ち合わせていても」

 姉であるダイヤなら私の敵に回ると宣言するようなことがあれば、こんなつまらないヘマはしません。
 海未さんも痛い所を突かれたと言わんばかりに苦笑し、ルビィさんのこちらに対する視線は悪意が強くなりました。
 どのみち――彼女はさしたる障害になることはないでしょう。
 事務所から出るのは自身の意志でありましょうが、出ることに心を砕いたのは恐らくダイヤ。
 高校時代から善子さんとかの後ろにひっついていてそのままアイドルになった彼女が、
 模範的な行動を社会で取れるとは思いません、無視しても構わないでしょう。

「高海千歌さん」
「はい」
「今度は逃げて周囲の人間に迷惑など掛けないよう――
 二度同じ過ちを繰り返したりしないよう――
 もし、私の大事な人たちの心を傷つけるようなことがあれば
 ”今度こそ”私はあなたを許しません」
「……に、逃げませんから」

 高海さんは社会人として数年仕事をして来て、
 酸いも甘いも噛み分けられる人間に成長したかと思いましたが、
 元々が親のコネで入った場所で働いていた以上、立場的には甘かったのでしょうか?
 根拠のない自信を二人して持ち合わせているのは滑稽ですらありますが、
 それよりも姉に対するダメージがいかほどになるかが心配です。
 海未さんが真正面から絢瀬絵里に対して敵に回ると宣言すれば覚悟を決めるかも知れません。
 ただ、おそらくそれを要求するのは無理でしょう。
 わざわざ回りくどい手段を用いて、姉に言って欲しいと言葉の裏に示していますから。
 と、私は思い当たることがあり、問いかけることにしました。

「穂乃果さんは海未さんのことを知っていますか?」
「――何から何まで教えるわけには行きません」
「態度がすでに言っています」

 園田海未さんが姉や穂乃果さんに対して対立関係を取るということは、
 おそらく苦渋の選択――なにか目的があるのは確かでしょうが、それを教えては頂けないはず。
 推測ではありますが、ルビィさんは理亞に対して腹に据えかねる思いを抱えて離反したのでしょうが、
 高海さんが動いているというのはいったい誰の意志なんでしょう?
 自分でこんな事する自信はないでしょうから誰かにせっつかれたか、そのような状況に追い込まれた?
 どのみち自分の力でなんとかしようとする意志がない二人が、
 海未さんを自由に使おうとするのは許せないので、もう少しだけ喧嘩を売っておくことにしましょう。

「覚悟を決めました――では、私は徹頭徹尾。
 プロデューサーとして全力を尽くしましょう――理亞と、姉には頑張って貰って
 ”あなたたち”が陽の光を浴びることでさえ恥ずかしいと感じるほど惨めになって頂きます」
「亜里沙……あ、いや――こちらも覚悟の上です」

 海未さんを眼中から外し、後ろの二人だけを見て宣言する。
 ぐいっと前に出て二人をかばうように海未さんが前に立ちますが、
 さも当然と言わんばかりに胸を張っているおふた方には微塵も伝わってはいないでしょう。
 ――もうすでに海未さんは私が自由に動かせていることには。



 他の事務所の方々には退室して貰って、古田さんには塩でもまいておいてとお願いしました。
 お客様の迷惑と嗜められましたが、私を身代わりにしてさっさと逃げた人間の言う台詞とは思えません。
 いや、でも、本気出した海未さんの怖い視線とか、私も震え上がりますけどね……。
 おそらくではありますが、絢瀬亜里沙には遠慮をしてくれたのだと思います。
 それが、姉に対する配慮であるのは心が痛いですが。

「なんでかしらね、プロデューサーに近づくのが怖いわ……」
「ツバサさん!」

 思わず抱きつこうとしてしまい、仕事中であるのが周囲の視線で理解し、
 咳払いを一つしながらクールで格好いいプロデューサーを演じます。
 ええ、それがいかほど出来ているかは私の責任ではありませんが! もう、心がウッキウキですが! 

「絵里は……あの子たちのところ?」
「はいっ! ――あ、いえ、はい」
「じゃあ、私が言ってくるわ。プロデューサーは絵里や理亞さんのプロデュースに集中して」
「……ツバサさんにはアイドルとしての仕事があります、そのようなことをさせるわけには」
「いいのよ。海未ちゃんには、すごくお世話になっているし――
 あんな辛い顔をされたら亜里沙さんも私情が混じってしまうでしょう?
 それに、なんかこういう役回りでもしないと自分が目立てない気がしてね……」
「ツバサさんは……その、対立するようなことは?」
「あら……して欲しいの? いやでも、勝ち目がない戦いに挑む度胸はないわよ」

 くすくすと笑いながら、こちらに笑みを浮かべる。
 ただ、微妙に距離が遠いのは何故でしょう、近ければ何食わぬ顔をして抱きつくのに。
 ああ、でもそういう態度がいけないのかな? 押せば押すほど押し倒せそうではありますが、
 ここは一歩退く態度を示すのも従順な妻の務め――
 ん? しかしなぜ、ツバサさんへの好感度がこんなにえらい高いのでしょう?
 首を捻りながら彼女を見送り、私は南條さんと一緒にスケジュールの調整を始めました。
 あ、いや、まだ姉はハニワプロ所属ではないんですが、もう、扱い的にはそうでいいですよね?
 どのみち拒否権はありませんし、どうせしょうがないなあって顔をしながらお願いは聞いてくれます。

「南條さん……なぜ、私と距離が遠いんですか?」
「なんだか亜里沙さんといると労働基準法という言葉が遠いものに感じて怖いので」
「安心してください、ハニワプロのプロデューサーは会社員みたいなものです」
「アイドルに適応してくれることを願います。絵里さんはともかく、理亞さんは人間です」
「ナチュラルに姉を人外扱いするのはやめてください、多少人間は辞めてますが」 

 周囲がドン引きするような会話をしながら――そういえば、お昼はお姉ちゃんが作ったご飯でしたね。
 今度、様子を見に行くと称して姉の作るご飯でも南條さんとたかりに行きましょう。
 いえ、これもよき妻として妻の好む食事を作るために必要なことなんです――くすくす。

-亜里沙視点- 
と、注意書きをするのをまたも忘れました。

今回の話は前回の亜里沙ルートとは違って、
かなり登場キャラクターが絞られてきます。

割りを食っているのは希ちゃんと真姫ちゃんが筆頭ですが。
他のμ'sで出番がありそうなのは穂乃果ちゃんくらいで、
レギュラーはほぼほぼ海未ちゃんオンリー。

エリちに辛辣だった面々が揃って出てこないので苦しい……あれ?
体調が万全なら夜に、もう一度更新をする予定です。

いきなり波乱の予感だあ…
うみちかルビィって珍しい組み合わせだね

申し訳ありません。
作者です。

家庭の事情でもしかしたらしばらく更新が滞る可能性がありますので、取り急ぎ報告します。

これツバサルートは修羅場不可避なんじゃ…
>>62
待ってるから早めに頼むぞ!

 エトワールという建物は――なぜか私の聞いていたイメージと、
 実際の外観と雰囲気が異なっていた。
 一般住宅街に紛れていても芸能関係者がいることすら気が付かれない、
 そんなこじんまりとした建物である――などと勝手に思っていて、なぜだか自信もあったんだけど。
 数年前に一度リフォームされたという建物は、新築の雰囲気そのままに綺麗で、輝いていて、
 いや、輝くと言ってもイルミネーションは燦然と輝いているのではなくて。
 おそらく、この建物が自分の家の周囲にあったなら、この家には誰が住んでいるんだろう?
 と疑問に思うほど目立つ、とにかく目には入る、白を基調としたややもすればホテルみたいな、
 少なくともアイドル候補生が――その上パッとしない人間ばかりが集った、
 明日の仕事も心配になるほど売れていない芸能人が住んでいる建物のようには見えない。
 大きな犬でも飼っていそうな、私達お金持ちですみたいなオーラで
 ででんと建っているエトワールに入ることしばらく、一人ひとりの面々と挨拶を交わすことに成功した。
 絢瀬絵里だと名乗ると、若い! 変わってない! すごい! 映像のまんま!
 という反応で尊敬されているのか、化物扱いをされているのか怪訝に思うほど。
 正直、自分のことなんてネットに情報が溢れていて、
 高校時代の所業から光堕ちしたキャラ扱いされている(ピ○シブ百科事典参考)のに
 それが今に至っては元ニートであるのだから、お前なんていらねえ扱いされても、
 不思議じゃないし、罵声の一つや二つ飛んだところで文句など言えようはずもない。
 ――でも、光堕ちしたキャラに理亞さんとか、果南ちゃんとかは入っててもしょうがないな~って思うんだけど、
 ニコとダイヤちゃんはどうなの? それなら聖良さん入れても良くない?
 一応体面ではエトワールの管理人であり、それに加えて新人アイドル兼トレーニングコーチ、
 学力面のフォローから、日々の生活の模範となるよう立派な人間たるべし――。
 ニートにはハードルが高すぎる気もするんだけれど、雪姫ちゃんからは
 だいじょうぶ! できます! となぜか太鼓判を押され。
 アイドル候補生の住民たちにも、やれます! 模範となってください! と、
 なぜか期待をされているので、単純な私は案外できるのではと思って、
 ひとまずまあ、期待を裏切らない程度には頑張ってみようと思う、フォローはきれいな理亞さんに任せる。

 この寮に住んでいるのは合計五人。
 アイドルとして仕事があり、でも現在はルビィちゃんと仲違いしているとかで、
 基本的にエトワールにいて一人でレッスンに励んでいる鹿角理亞さん。
 過去には私に対してツンツンしていたと思うし、
 なにか口を滑らせれば蹴りがかっ飛んでくるはずだったし、
 ストイックで他者との交流も拒んじゃうようなガチアイドルだったような気もするんだけど。
 自分でも驚くくらい心に余裕があるらしく、もしかしたら死亡フラグでも建っているのかも知れない
 と、真顔で言ってしまうほどに優秀で有能で何でもできる。
 演技から歌から踊りまでエトワールの中では二番目以内をキープ。
 生活力だけは下の方かも知れないけれど、エトワールに住んでいるみんなは
 おそらく一人暮らしをしたらゴミ屋敷になっちゃうレベルなのでそれでも上位なのかも知れない。
 もともと得意だったと吹聴していたお菓子作りは、他アイドルをゲロインにさせてしまうレベルらしく、
 お菓子作りどころかどんな料理を作っても涙を流させる凛といい勝負。
 ご飯を残すと凶悪な視線を向ける花陽でさえ、え、あ、しょうがないよね! みたいな顔して
 私に残りを押しつけてくる、おかげで凛の料理くらいでは胃も荒れない。
 二人目の住人は英玲奈の妹である統堂朱音ちゃん。
 自分でも歌くらいしか取り柄がなくて、と困った顔をした彼女に演技や踊りを見せて貰ったところ、
 体力面で他のメンバーに比べて劣るけれど、優秀な結果を残してくれた。
 おかしい、英玲奈に比べて私は――という自己判断はともかく。
 10以上年上の姉を呼び捨てで呼ぶ度胸は買ってあげないといけないかも知れない。
 ――私? オトノキの学生からポンコツって呼ばれてるみたいだけど?
 ただ、歌声は別次元レベルで優秀。なにせマイクがいらない。
 声量も大きく、高音も低音も私なんぞが手も足も出ないほどに空間に響き渡る。
 私もっと出来ない人間じゃなかった? と親友同士だというエヴァリーナちゃんに訪ねていて、
 彼女は流暢な日本語と、綺麗でおしとやかな声色で、あなたは雪姫と同じくらいできるわ。
 と説明されていた。私の中にいる雪姫ちゃんのことらしいけど、詳細は不明。
 いや、聞いてみても今は知らなくてもだいじょうぶです! とサムズアップされるばかりで。

 三人目の住人はエヴァリーナちゃん。
 銀髪の妖精かっていうくらい浮世離れした外見で、最近妖精から妖精王にランクアップした――
 と、説明されたけど意味はよく分からない、美人さ具合が向上したみたいだけど……。
 その外見と同じようにどこか違う視点から物事を見ていて、
 やたら私にベタベタとしてきては、今度は上手に行く、だいじょうぶ、と励ましていた。
 中にいる雪姫ちゃんとタッグを組んで褒め称えてくるので、まあ、そんなものかと思いつつある。
 ダンスが得意でEXI○Eかってくらい、踊りに関してはアイドルの中で別次元レベル。
 私もそれなりにダンスができるかなあっていう自負があったけれど、彼女のレベルと比べてしまうと
 チキとバヌトゥくらい違う、驚きの性能差――反面、声は透明感があって綺麗だけど声量には欠ける。
 あと、コミュニティスキルは最底辺で、相手が目上だろうがなんだろうが、面倒くさいときはスルーする。
 彼女のフォローにあたるのは栗原朝日ちゃん、自分はなんにもできないからと自嘲気味に笑うけれど、
 アイドルの中で実力が劣っているからではなく、他の面々が恐ろしく優秀だから。
 今までのレッスンのおかげで最低限アイドルとしてのメンツは保っていると言うけど、
 明らかに現在の絢瀬絵里と同格レベルなんですが、なんでこの子達売れないアイドルなの?
 最後の住人は津島善子ちゃん。
 髪の毛が前日と比べて何十センチも伸びたと語り、嘘は吐かなくていいのよ? 
 って言ったら、他の面々が本当なんです! びっくりしたんです! このヒト人間じゃない!
 と、さんざっぱら説明してくれて、信用はしたいけど気分的には複雑。
 エヴァリーナちゃんの妖精王と比べてしまうとまだ人間レベルだけれど、
 理亞さんと比べても同じかそれ以上の美少女っぷり、おかしい、もっと私は――
 と言っていたけど、ここのみんなそんなこと言ってばっかりだね?
 元Aqoursというのは伊達ではないらしく踊りや歌も高ランクなのに
 むやみやたらにできてしまう人間がいるので、結局平均点レベルだと自嘲する。
 夢の中にベルちゃんなる人物が出て、好色と欲望を司る古代の悪魔と名乗ったそうだけど、
 いやあ、気軽にベルちゃんって言ってくれていいから! とやけにフランクに話しかけられたらしい。
 困ったときは希と一緒にそっち行くと宣言され、何故に? と私も疑問に思い、
 彼女にLINEを送ったら、もう今後バトルはしませんという土下座の写真が送られてきて
 頭の上にある疑問符が更に増えた。

-園田海未 視点 (前回更新分よりも多少未来のお話です)-

 かねがねから人は行動をする時には何かを失うことを覚悟せねばならない。
 などと自分に言い聞かせているフシがあります。
 このたびの出来事のように、かつての友人たちの意思に背いてさえもやり遂げたい何事かの想いを抱えている。
 まるで言い訳のようではありますが、苦しさを覚えても、卑しさを感じようとも、
 自分が正しいと思った行動を取る――
 どのように反応をされようとも構わない、気をつけていたつもりではあったのですが。
 こと、何故そのようなことをしているのかと怪訝そうな視線を向けられると、
 精神的苦痛を覚えてしまうのは、私の心根もまだまだ幼かったということなのでしょうか?
 私達は現在エニワプロという芸能プロダクションでデビューの準備をしています。
 ハニワプロのバッタ物のようではありますが、実際産まれた経緯はその通りであり、
 一時期無くなる寸前まで追い込まれたかの事務所と同じ道を巡るように、
 現在プロダクションとしての立場は下降の一途を辿っています。
 V字回復したハニワプロと同じように状況を変えるアイドルを心待ちにしていて、
 その期待が私達に寄せられているというのは――
 半分は千歌の、半分はルビィのプロモーションによる弊害と言えば良いのでしょうか。
 私自身が迂闊であった側面はあるのでしょうが、自分は作詞活動に専念できると思ったのです。
 それがよもや作曲担当者とか、自分たちをプロデュースしてくれる相手を探さねばならないとは、
 なんとも辛いところではあります、まるでマネージメントをする経営者のようです。
 一番始めに、芸能界の先輩に挨拶に行くとともに、
 売れっ子タレントである星空凛に協力を仰ぎ――
 自分が彼女から慕われていることを重々承知しているという心根の卑しさは当然あって、
 話題にしてくれるだけでも良いからと根回しをしに行ったら、
 そんなことは絶対にできませんと断られてしまいました。
 エニワプロと敵対関係にある事務所であるから、とか分かりやすいできない理由でもあれば
 断られるのも致し方ない部分はあるんですが。

 凛は私一人が頑張るのであれば協力は惜しまないと言ってくれて、
 自分自身の評価はそれなりであったと認識はしたのですが――
 穂乃果が傷つく出来事の原因の一端を担っている千歌を連れて行ったのはやはりまずかったでしょうか?
 ただ、誤魔化して協力を仰いで評価が奈落へと転落すれば困るのはこちらです。
 最終的には、同情を誘うように食い下がって事務所には話してみるとまでは凛も言ってくれましたが、
 どこまで積極的に行動をして頂けるかまでは分かりません。
 私のAqoursを終わらせるために活動をしているという目的を話せば、もしかしたら――
 そこまで考えて私は首を振りました、しがらみにとらわれていて苦しんでいるのは私も、
 穂乃果も――そして何より高海千歌という人間が前に進むためには、一度スクールアイドルとしての
 自分自身を捨てなければならない。
 穂乃果が言っていたように、過去は置いていかなければいけない、終りを迎えなければいけない。
 いつまでも高校時代のようには過ごしてはいられないと、誰かが言わなければならない。
 絵里に敵対するようなマネをした時点で心が折れそうですが、きっと誰かが分かってくれるはず。
 自分が生きている間には悪評ばかりが先行しようとも、きっと、誰か一人くらいは私の気持ちを慮ってくれる。
 それが絵里であるならばすごく嬉しいのですが、
 よもやそのようなことはないでしょう、もしかしたらダイヤやことりや真姫と言った面々から、
 私達の行為が伝えられているかもしれない、そうでなくても亜里沙やツバサと言った人間から、
 園田海未が敵対していることくらいはもうすでに把握しているかも知れません――心が折れそうです。
 凛からの協力は断られてしまいましたが、花陽は微力ながらも力を尽くしてくれると言ってくれました。
 結論的には私達に協力してくれると言ってくれたのは彼女一人であり、
 ルビィがいるからダイヤも協力してくれるだろう、幼なじみだからことりも協力してくれるだろう、
 親友関係にある真姫ももしかしたら作曲くらいはしてくれるかも知れない
 ――などという想像は見事に意気消沈する結果しか産みませんでした。

 真姫のところにも行きました。
 千歌やルビィと言った面々を見てもネガティブな反応をしなかったのは彼女くらいで、
 仕事と友人関係は別物とクールに反応してくれる真姫らしい出来事ではあるのですが。
 最初は私が前に立ってアイドル活動をすると言ったら応援してくれました。
 反応も好意的で、これは曲作りも期待できるのではと判断し話題を出してみたら、
 それはできないと断られました。
 真姫はたとえ園田海未が正しいことをしていると分かっても協力できませんとはっきりと宣言されました。
 絵里と敵対するからという理由ではなく、そこまで協力する義理はないと。
 凛と同じように海未だけが頑張るのならば私もやるとは言ってくれましたが、
 千歌やルビィを苦手にしているからやらないなどという単純な理由ではなく、
 話題を向けた時に園田海未だけが矢面に立っているのが許せないと、
 珍しく怒気を含んだ視線で千歌やルビィを睨みつけて、本気で憤慨している様子でした。
 誰かの根回しがあったのかはさすがに彼女に聞くことは出来ませんでしたが、
 そばにいた西木野和姫さんにはこっそりと、あれはお嬢様の意志ですと教えて頂きました。
 ただ、凛も真姫も中立を守って絵里や亜里沙にはつかないとフォローはしてくれました。
 ハニワプロの後ろ盾があり、亜里沙やツバサと言った面々が協力する絵里が困り果てる姿は、
 本当にこれっぽっちも想像できない事象ではあるのですが……。
 この時点でことりやダイヤの所に行くのは控えるべきだったのですが、
 エニワプロに上の二人の支援も受けられそうと千歌やルビィが話題にしてしまった手前、 
 挨拶や顔見せだけでも行かねばなりませんでした。
 ことりは無理でも曜はだいじょうぶという千歌の魂胆も手伝ってのことです。
 先ほどの失敗から学び、千歌やルビィにも前に立って活動することを宣言すると、
 絵里に対する態度みたいにハァ? みたいな顔をしました。
 別に絵里のことをことりが嫌っているとかそういう理由ではなく、私や亜里沙といった人間が
 彼女を甘やかすから! 誰か厳しい顔をしないと! と無理をしているんだと説明してくれた過去がありますが、
 ことりのサンドバッグが絢瀬絵里であることを私は知っています。

 ――話はズレましたが、真姫や凛のように頑張ってとも言ってくれることもなく、
 逆になんでそんなことをするのと問いかけられ、亜里沙と同じように穂乃果はこのことを知っているのかと
 真剣な面持ちで疑問を呈されました。
 私自身への言葉ではなく、ルビィでもなく、千歌に対しての態度でした。
 千歌が穂乃果さんには会えませんと言うと、ことりは本気で怒った様子で、
 もし売れっ子になった時にまた穂乃果のおかげだと持ち上げるのかと声を荒げ、
 イエスかノーかとも言えなかった千歌に対して、そんな態度だから! と腕を振り上げようとし、
 ――結局、癇癪を起こした子どものように絵里ちゃんのところに行く! と言って会談は終わりました。
 すみません絵里……顔を見せる機会はおそらくないですが、ほんとうに申し訳ありません……。
 ただ、千歌をフォローするならば、
 ”ラブライブの優勝者である高海千歌が穂乃果を持ち上げた結果、高坂穂乃果がどんな想いをしたのか”
 は、まったく知らないのです、Aqoursの三年生組も伝えるべきではないと判断して箝口令すら敷いているほど。
 知らないことで情状酌量の余地があるとは、私自身さえも思わないのですが……。
 悲しいことにことりがあんなに憤慨した理由は、千歌はわからないのです。
 その後に曜にも会いに行きましたが、協力するのは絶対に嫌と断られました。
 ことりの影響があるのかと思いましたが、Aqoursの活動を彷彿とさせることはもう二度としたくない、 
 絶対に嫌だと繰り返し宣言されてしまい、焼け出されるように気分は盛り下がりました。
 今日はダイヤに会うので最後にしようと言い泣きそうな千歌をなんとか説得し、
 元よりアポイントを取っていたから誰かしら行かなければならなかったのですが、
 用事があると断ってでも私一人で行けばよかったと後悔する結果となりました。

「ようこそいらっしゃいました」

 と、最初こそ和やかなムードで交流は始まりました。
 緊張していた千歌も不安そうだったルビィも微笑むダイヤと同じように笑って見せ、
 ひどい結果は生み出すまいと安心してしまい――結果、それが故意に安堵させる手段であったと、
 したたか過ぎる黒澤家の長としての実力を目の当たりにし、私自身の甘さを知りました。

 何をしにここに? と問われたので、アイドル活動をするために協力は仰げないかと
 はっきりということにしました。
 要は私達を宣伝して欲しいというお願いに伺ったわけですが彼女はニッコリと微笑みながら、
 なぜかと理由を問われました。
 その時点で薄ら寒い気配を私は感じたんですが、気が緩んでいたルビィや千歌が、
 誰一人自分たちに協力してくれないと愚痴のように言ってしまい、迂闊にもダイヤを褒めてしまいました。
 他の面々に断られたとしても、ダイヤならばやってくれるんじゃないかという魂胆を白状したのも同じ、
 私は肝を冷やしましたが、それでも「事情は理解しました」とこちらを安心させるように微笑んでみせました。
 
「ルビィ、何故ハニワプロを離れて活動をするんですか?」

 何気ない調子でルビィは問われて、
 彼女もそう聞かれたらこう答えようと思ってたかのようにすらすらと、
 理亞ちゃんが頑張っているから、私も頑張りたいと思って! と説明。
 千歌と一緒に活動する時にルビィが協力すると言ってメンバーに加わった時にも
 そのように言っていたので、私もそうなんだろうとは思っていたんですが。

「嘘をつくのはやめなさい」

 最初は何を言ったのかと思ったんです。
 ダイヤは先ほどまでの和やかだった声色を捨てて、冷淡な反応をして、
 これはなにかおかしい、明らかに何かを把握されていると気がつきました。
 
「私がアイドルとして理亞ちゃんよりも実力はないのはわかってるし、
 いつまでも一緒にいるために」
「言い訳は控えなさい、それでも黒澤家の人間ですか」

 この時点でルビィを止めるか、私自身が矢面に立てば、
 今後黒澤家の敷地に足を踏み入れることは許さないと宣言されずに済み……
 いや、おそらくダイヤは最初からルビィを切り捨てるつもりだったんでしょう。
 それでもなお顔を合わせてくれたのは最後のチャンスだったんです。
 私という人間はいつも気がつくのが遅い。

「あなたの活動の理由は嫉妬です」
「誰に?」
「理亞に……いえ、違います。
 絢瀬絵里に嫉妬しているんです、敵愾心すら抱いている」

 ピンときました。
 愚かな感情だとは思いません、私自身も抱えることがある思い。
 それは――

「原因の一端が私にもあるのは理解します
 確かに、ヨハネや理亞や私……あなたと仲が良い人間は
 揃って絵里を評価して尊敬している――ただ、銃爪はマルちゃんですか」
「……」
「人間誰しも暗い感情は抱えています。
 でも、だからといって無意味に相手を恨んでも意味がありません、
 それは逆恨みという感情です。あなたにはちゃんと教えていませんでしたね」
「……」
「ルビィ、あなたは自分自身よりも絢瀬絵里を評価しているのを聞き
 憤慨する思いを抱えた、愚かだとは思いません。
 私も、誰しもがあるような感情です、嫉妬するのは当然――」
「ち、ちが……」
「ですが、わたくしは以前警告しました。
 相手を変えることよりも、自分自身を戒め、努力を重ね、
 成長すればよいではないかと。
 卑しい心根を抱えてしまうのは誰しもある、光があれば闇もある、
 なにより絵里は評価されるような行動をされていないから当然ではあるんです――
 思いもよらない評価をされて、それを羨んでしまうのも」
「そんなこと思ってない!」

「――認めなさいとはいいません。
 わたくし自身も言葉足らず、努力が不足している。自分もまた卑しい
 本来なら! 本来なら! ルビィのやることなら認めてあげたいのですわたくしは!
 高校時代に辛く当たってあなたがどれほど苦しんだか知っているから!

 私はよき姉ではありませんでした――後悔しかありません。
 でも、そんな不出来な姉でも妹にできることがある。
 今後この屋敷の敷居をまたぐことを禁じます、もう、姉でも妹でもありません
 千歌、ルビィと一緒に出ていきなさい、話は以上です」

 梃子でも動かないと言ったルビィではありましたが、
 私が退席しようとすると渋々と言った面持ちで立ち上がり、
 酷く怒った様子で部屋から抜け出たんです。
 でも、それよりもダイヤが、
 私達に背中を向けて黙り込んでしまってから――本当に小さく、小さい声ではありましたが
 泣いているようでした。
 後日、真っ赤な目をして私に会いに来てくれた彼女は感動する映画を見て泣きはらしたと言っていました。
 表立って支援はできないけれど、フォローはする。
 協力はできませんが、困った時には相談して欲しい――そう約束してくれました。
 あと、中立を守り絵里たちにも協力しないと言ってくれましたし、果南や鞠莉にも伝えてくれると。

 ――失ったものは多く、傷ついたことは事実です。
 ですがもう私達は前に進むしか無い。
 何もしないと言ってくれた人たちのためにも、頑張るしか無い。
 ただ、ルビィの目的は分かりましたが、千歌は何故アイドル活動を始めようとしたのでしょう?
 たしかに私に同調して、Aqoursを過去にするために活動はしてくれると言ってくれましたが――。
 いえ、疑ってはいけませんね、同じ志を持つ仲間なのですから。

ここまで逆境だと海未ちゃん応援したくなってしまう人の性

 ウォーミングアップのつもりで身体を動かし続けていたら、
 朝日ちゃんにちょっと待ってくださいと忠告をされてしまい、
 強制的に休憩時間を入れられて、途方に暮れる絢瀬絵里がここにいます。
 仲良しの面々に喜び、管理の仕事もできそう! と、 
 やたらハイテンションになりながら先頭に立って運動を重ねていたから、
 いつの間にかに視野が狭くなっていたみたい、いけないいけない。
 ただ、この中のメンバーって、私と年齢の近い理亞ちゃんと善子ちゃんでさえ、
 妹である亜里沙の2個下であるから……ええと……うん! 前を向こう!
 私から距離をとって飲み物を飲んでいる朱音ちゃんに、
 おっかなおっかな近づいてみると、彼女は思いのほか嬉しそうな表情で
 どうしたんですか? と問いかけてくれたので、
 質問を質問で返すのは失礼だと思いながら、尋ねたいことを聞いてみる。

「歌もすごい上手だけど、昔から得意だったの?」
「昔から観察するのが得意で、上手な人を見て聞いて――
 歌だけはうまくいきました」
「ダンスもすごく上手じゃなかった?」
「自分の理想通りに体が動いて……不思議なんですけど」

 いかにも不思議と言わんばかりに首を傾げながら、
 朱音ちゃんは過去に人の指摘ばかりして嫌われたということを話す。
 どこ吹く風だったのは親友関係にあったエヴァちゃんくらいで、
 とても嫌味な子だったと苦笑しながら話してくれた。
 過去の自分を思い出すのは苦しいけれど、
 確かに自分にもそういう部分があったから理解できる。
 間違いや失敗を指摘するのは簡単で、
 相手の不備をあげつらえば自分の気持はスッキリとする。
 ただ、改善策も指摘をしないと、言われた相手も困り果ててしまうし、
 何より、口ばかりで行動できなければ信用なんて得られない。
 高校時代の私が仮に、すごくダンスとか運動が苦手な人物であったら、
 おそらくμ'sのみんなは私を放逐かなにかしていると思う。
 優しいからそれとなくではあって、未来の自分がバカなことをしたと気がつくのだ。

「なんで英玲奈みたいに動けないんだろうって思う時もありました」
「そりゃ、朱音ちゃんは英玲奈じゃないし」
「ええ、そうですね。でも、そういうのってできなくて焦燥している
 人間だったりすると気づかないものじゃないですか?」

 なるほど。
 気がついてはいるけれど、改善する余裕がない。
 問題点は把握していても、矯正する時間がない。
 焦燥感はたえず膨らんで行き、イライラになり、ストレスにもなり、
 いずれ周囲に辛く当たっていき、だんだんと孤立していく。
 まるで絢瀬絵里のよう! ハラショー!
 なお、ラブライブ! というμ'sの軌跡を辿った物語があり、
 アニメでも放送されたけれど。
 DVD・BD特典に付いてきたスクールアイドルダイアリーという小説は
 μ's一年生組からエピソードを聞いたライターさんが、
 μ'sの監修と許可もなく発行されていて、
 絢瀬絵里の過剰なる装飾が施されている。
 なにせヒナが書いたし。
 海未には穂乃果穂乃果ばっかり言ってるじゃないですか! と不評で、
 ことりも凛のエピソードばっかり読んでいるとの話。
 なお、まきりんぱなの話のうち、真姫のエピソードだけは装飾がやたら強く、
 彼女いわく高校時代の話は恥ずかしいそうだけれど、
 ならば私の黒歴史を楽しそうに脚本家に言うのはやめて欲しかった、ダメージが大きい。

「今はみんなの問題点も分かりますよ。もちろん絵里先輩のも」
「お手柔らかにお願いね」
「考えておきます。ですが、今はわかってもらえるように行動しようと思うんです
 自分の不出来さが本当によく分かるようになってきたので」

 黒歴史は掘り起こされてしまうけれど、
 そのことに文句を言ってもどうしようもない、身から出たサビであるし。
 ただ、それを戒めにして改めて行くのは誰しもができること。
 自分自身を省みて前進していく、朱音ちゃんはいい笑顔だ。
 穏やかさと精神的な余裕を持ち、気持ちも晴れやかになった様子。
 理亞ちゃんに言わせればもうちょっとツンケンしていたらしいけれど――是非は問わない。

 そういえばと朱音ちゃんが何かを思い至り、
 私に昔のことは覚えていますかと問いかけてくる。
 一部一部にモヤがかかったみたいにどうしても思い出せないエピソードがあるというと、
 すごく残念そうな表情をされてしまい、不出来な記憶回路に文句を言いたくなった。
 ほら、最近流行じゃない? ノコギリヤシとかイチョウなんたらとか。
  
「私には友人がいました、友人だった期間はそれほどでもないですが
 驚くくらい良い子で、性格が悪い私にも気長に付き合ってくれました。
 歌が得意だって気づけたのは彼女のおかげなんです」

 名前を聞いてしこたま驚いてしまった。
 だけども、その子なら今は私の心の中に居て、
 慌てふためいて動揺しきっているとか、やーめーてー! と叫んでいるとか。
 朱音ちゃんが恋心を語るみたいに連々と雪姫ちゃんを褒め称えるのを、
 心の中で叫び声みたいな悲鳴と一緒に聞きながら、
 雪解けをするみたいに何かを思い出しそうになり、首を振った。
 あんまりいい思い出はないような気がしたし、過去にはそれほど意味はない。

「雪姫と比べるまでもないですが、
 私は彼女みたいになりたい。みんなから好かれるような
 そんな素敵な人に」
「私になにかできることはあるかしら?」
「自分に至らない点でがあれば指摘してください、
 できれば改善できるものであると嬉しいですが」

 舌を出しながら微笑む朱音ちゃん。
 明るく前向きな姿になぜだか私は安堵をしてしまって、
 どこかで会ったことがある彼女とは違う気がしてならなくて、
 そんなこともあるかなと気分を一新した。

 朱音ちゃんとの交流を果たして、次の目的はきれいな……いや、
 なぜか性格が変貌してしまった鹿角理亞ちゃん。
 以前までさん付けで呼ばないといけない空気感があったけれど、
 慇懃無礼な感じがする! と涙目で訴えられてしまい現在に至る。
 遠慮せずに仲良くしましょうと言われても、どこまで踏み込んで良いのかは極めて疑問。
 先ほどの自分のパフォーマンスに納得の行かない部分があるのか、
 鏡を見ながら常に自分の動きを確認している。
 元から能力は非常に高いのに、やる気が持続しないと問題視されていたから、
 理由はわからないけれどモチベーションが高いのは歓迎できる。
 ただ、いまさら過去の理亞ちゃんに戻っても戸惑うばかりなので勘弁願いたい。

「ああ、絵里先輩」
 
 先輩に対する敬意と一緒に、おちゃめな感じで周囲を観察をしないとと嗜められてしまう。
 問題があるのは自分ばかりであるので、
 真っ当な指摘を羞恥心と一緒に自分の腑に落とし、噛み砕いて納得する。
 ただ、今後何度も改善のために失敗するケースもあるので、
 できれば見捨てないで頂きたい。

「エトワールのみんなは、以前は本当、吹き溜まりと言うか……
 かなり問題があるアイドルで、私のことも戸惑っていますが、
 成長具合が解せないんです」
「自分の中のイメージと違うということ?」
「私一人ではなく、みんなもアレ? っていう感想があるみたいです
 なんだか怖いですね」

 誰かに都合の良いシナリオのようというので、
 思い当たる人はいないのと聞いてみたら、自分自身を指差して
 まるで物語の主人公になったみたいな気分だという感想を残す。
 あまり嬉しくない様子なので、何があったのか聞いてみると
 今のような自分になってから、アンリアルで行動をともにしていたルビィちゃんと
 連絡が取れなくなってしまったみたい。
 既読すらつかないLINEや電話やメールをしてもなにもないので、
 しばらくしたら事務所に問いかけてみたいよう。
 そんな心配な心持ちでありながら、私を迎えに来るのを優先しれくれたあたり、
 本当に申し訳ない気分になってくる。

「朝日、慌てないで冷静にね。
 パフォーマンスができる下地はあるから――この人別格だから
 気にしないでいいの」
「ええ、わかってるんですけど……今までニートだった人より
 動きが劣ってることを自覚していると少々焦りも」
「だいじょうぶ、朝日ならできる」

 絢瀬絵里というイレギュラーのせいで焦慮が湧き上がるのなら、
 連れてきたプロデューサーに文句を言ってください。
 ――手前勝手な理由ではあるのだけど、ほら、
 やっぱり、調子に乗りがちな人生送っているからね、私。
 そこを改めろというツッコミは改善には至らないのでアドバイスをお願いします。
 二人の距離感は近く、感心するほど指導も適切であり、
 私の出番はないと思われたけど、一応年上の人間を顔を立ててくれたのか、
 とりあえず言わんばかりに何かありますかと聞いてくれた。
 多少緊張を覚えながらも、考えられるうる限りのアドバイスを出しておく。 

「ルビィはどうしたんでしょう? こんなに交流が途絶えたのは
 高校時代から通算してもなくって」

 私のアドバイスは常人にはこなせない任務だったらしく、
 相手を見て指導はしてくださいという、酷く当たり前な指摘を受け、
 朝日ちゃん強化人間化計画は実行されずじまいだった。

「メッセージも残されていないの?」
「はい、仮に何かあれば、ダイヤさんから連絡があります……いや、 
 あると思うんです。あっちから連絡が取るのは嫌かもしれませんが、
 社会人ですからね、仕事上必要であれば」

 見えないかもしれないけれど、
 ダイヤちゃんも真っ当な社会人らしく、
 仕事と私情は切り分けて考えられるみたい、本当かしら?
 多少解せない部分があるとは言え、
 それ以上にルビィちゃんの行動も分からないので、
 想像で判断せず、経緯が分かるまで動かないことを言ってみた。

「分かりました、確かにルビィの目的がわからない以上
 こちらから行っても仕方ないです
 不安ではありますが、時が解決するのを待ちたいと思います」

みんなな強くてニューゲーム状態じゃないか!
改変の影響が良いことばかりなら良いんだが…

 考え込むように腕を組んで静かになってしまった理亞ちゃんが
 一人で考えてみたいふうであったので場を離れた。
 黙々とトレーニングや動きの確認を続けている朝日ちゃんに手を上げて挨拶したら、
 ちらっとこちらを見て。

「足をうまく動かすためにはやっぱり筋力なんでしょうか?」

 さきほど的外れなアドバイスを送ってしまったので、
 評価が転落してしまったかと思いきや、それでもなお指導を受けてくれることが嬉しい。
 テンションが跳ね上がってしまった私だけど、ここでこうすればいいと言うと
 普通の人にはできませんで終了してしまうので、
 相手にあったアドバイスを送るためにちょっと考えてみる。
 自称能力値が低い彼女だけれど、他のメンバーが優れているのと、 
 自分自身の評価自体が低いせいで客観性に欠ける部分があるのだと思う。
 UTXの出身だったせいか、基本的に自分よりもできる相手ばかりが周囲にいたため、
 自ずから出来て当然と判断してしまうのでしょう。
 はじめて見た動きや、振り付けや、トレーニングメニューを難なくこなせるというのは、
 元からの下地があってできることなので、見た通り、考えたとおりにこなせないからと言って、
 何ら落ち込むことはないと思う。

「リズム感や柔軟性、もちろん何回も同じ動きを繰り返して身体に覚えさせるというのも必要ね」
「うう、私に足りないものがいっぱいあるということでしょうか?」
「いいえ、誰しもそうなのよ、最初からスマートにできるなんて、
 私の知る限り綺羅ツバサくらいしかできない所業よ?」

 ちびっこい外見のくせにオリンピックアスリート相手にも渡り合う運動能力で、
 あいつは人間じゃないのではないか(英玲奈)
 基本的に比較対象にすらならないわね(あんじゅ)
 なんであんなすごい人が絵里ちゃんの友達なの?(凛)
 最後の凛のコメントは、一緒に居て恥ずかしくない? という台詞が言外に含まれている。
 自分にできないのは恋人くらいと自嘲気味に笑い、
 人生基本的に9割方勝利してる綺羅ツバサにも実はちゃっかり弱点がある。
 優れた観察力と身体能力の高さのおかげで順応性が果てしなく高いので、
 努力する気が失せてしまうこと。
 やがて努力する相手に追い抜かされてさらにやる気が失せるとは彼女の言葉だけど、
 アイドルだけは続けているわねと問いかけてみると、追い抜かせない相手が居て悔しいから
 と教えてくれた、そりゃすごい人間がいるものねと言ったら、バカじゃないの? 
 みたいな顔をされたので、あ、地雷踏んだなって思って賢明な私は黙った。
 
「絵里さんにできないことってあるんですか?」
「たくさんあるけど……え? そんなにデキる人みたいなイメージある?」

 確かに恋人はできないし、赤ちゃんもできないけど! 
 と、小ボケをかまそうとしたけれど真剣な面持ちでこちらを見上げる彼女を見て、
 咳払いを一つして発言を回避する。
 空気を読まずに迂闊に本能のままに発言する癖は、
 長年の経験で披露される機会はずいぶん少なくなった。
 私を知らない人からするとあの橋! 本で見たことがある! がえらい有名。
 なんであんなにテンション高かったの? 海外初めてじゃないでしょ?
 と、よくネタにされるけど、私だってわからない、嬉しかったのかも知れない。

「いえ、もちろん何でもできるわけじゃないっていうのは知っています
 こう、踊りとか、動作とか……身体を動かすことに関しては
 かなりレベルが高いんじゃないかなって、なにせ姉の歌声も成長させましたし」

 歌うのは大好きだったけれど、歌唱力が低レベル過ぎて泣けるヒナを
 彼女が泣け叫ぶレベルの指導で実力を向上させたのは――まあ、お互いに黒歴史。
 最近会ってないからわからないけれど、やられたらやり返す! 倍返しだ!
 とか言われたら、もう、どんな酷い目に遭うかわからない、
 魔法少女が敵役にやられたときみたいなことになるかも知れない、
 あ、もう、ダイヤモンドプリンセスワークスではそうなってたけど、あれは絢瀬絵里じゃない。

「うーん……成長する人間はすごいかもしれないけど
 アドバイスする人間はすごくなんかないわよ?」
「世の指導者全否定ですね」
「指導してお給料を貰っている人はまた違う世界があるんだろうけど、
 私みたいな素人が相手にできるアドバイスなんて、
 せいぜい一緒に頑張りましょうくらいなものよ?」
「姉にはなんて説明するんですそれ」

 私は朝日ちゃんの目を真っ直ぐに見られなかった。
 彼女の指摘に恥ずかしいやら、消したい過去を思い出すやら、
 一つも反論もできないし、言われたままの刑を受けるしか無いし。
 私がしどろもどろする様子を見て、多少気分も晴れたのか、
 朝日ちゃんは先ほどよりも和やかな雰囲気の笑みを浮かべて、

「私は、絵里さんみたいになりたいです」
「なれそうだから?」
「それもありますけど」

 ボケてみたら、それを上回る言葉のナイフで私の心はズタズタ。
 凹む私にコロコロと育ちの良さそうな小さな声で笑い、ハっとした。
 地声はハスキーというか見た目に反して低めだけれど、
 驚いたときとか、衝動的に出る声はヒナに似て、ロリっぽいと言うかキーはかなり高め。
 鼻に掛かる感じで声の出し方を矯正してみたら、ちょっと面白いことになるかも。

 ボケてみたら、それを上回る言葉のナイフで私の心はズタズタ。
 凹む私にコロコロと育ちの良さそうな小さな声で笑い、ハっとした。
 地声はハスキーというか見た目に反して低めだけれど、
 驚いたときとか、衝動的に出る声はヒナに似て、ロリっぽいと言うかキーはかなり高め。
 鼻に掛かる感じで声の出し方を矯正してみたら、ちょっと面白いことになるかも。
 
「ねえ、朝日ちゃん、ちょっと尋ねてみたいんだけど
 なんでアイドルになろうと思ったの?」
「うーん? なんででしたかねえ? 
 気がついたらそうなりたいと思ってたフシもありますけど……」

 天井を見上げながら思案する朝日ちゃんを見て、
 以前ヒナに聞いた話を思い出していた。
 子ども時代はアニメ好きだったという朝日ちゃんが憧れたというのが、
 きらりんな感じの月島さん。
 同じアニメを見て、妹はこうして芸能プロダクションに入り、
 姉はエロゲーを作るという微妙に差異のある結果になったけれど。
 金髪に心を惹かれる結果になったのはアレのおかげと言われても、
 私としてはなんて反応をしていいのか分からない、胸を張ればいいの?

「ああ……もしかしたら、アイドルが姉妹の会話の種になったからかもしれないですね」
「アイドルは好き?」
「現実を見て諦めようと思うことも何度もありましたが
 それでも続けているってことは好きなんじゃないでしょうか?
 嫌いはともかく、好きって長年続けてるとよくわかんなくなるものじゃないですか?」

 そう言われてみれば、そのような気もする。
 人に対する感情は別にしても、私の料理好きはしてないと違和感があるとか、
 身体を動かすことも習慣化しているから勝手にやってしまうという感じだし。
 長年好意的な感情を持ち続けていると、それが自然になってしまって、
 いつの間にかにやめてしまうとかいう話も聞いてしまうし。
 
「ヒナのことは好き?」
「ああ、うん、尊敬はしています。好意的であるのは確かですが
 ……ええ、言葉にするのは恥ずかしいですね」
「ふふ、さっきのお返し」
「年甲斐を考えてください」

 暗に子どもみたいなことをすんなよ、と殴り返されてしまい。
 ちょっと拗ねてしまった私は、笑みを浮かべながら彼女に背を向け、
 亜里沙のことを思い出していた、ここにいる面々って妹ばっかりで、
 さっきからついついμ'sの憧れていた彼女のことを考えてばかりだ。

 μ'sに対する憧れと言えば、Aqoursのことも思い出す。
 不運にも両者の交流は上手くは行かなかったけれど、
 こうして一部では一緒に同じ仕事をしていたりとかもして、
 何もかもうまく行ったわけではないけれど、何もかも失敗したわけじゃない。
 以前真姫が信者とアンチの違いは、
 一つの事実をネガティブに見るか、ポジティブに見るかの違いしか無いと言っていた。
 同じものを見ているのに受け取り方が違うというのは、面白さでもあり、
 大変でもあることではあるんだけれど。

「よし……ヨハネちゃんて呼んだほうがいいの?」
「あー……どうなんだろう? 千歌以外のメンバーはヨハネって呼ぶけど……」
「じゃあ、よっちゃんで」
「気がついたら善子ちゃんって呼んでるオチじゃないですか?」

 クールに髪の毛をかきあげながら、長い髪が煩わしいと言っているよっちゃん。
 短髪だった過去は高校時代にまで遡り、経緯は忘れてしまったらしいけれど、
 朝起きたら短くなっていて、視力も大変悪くなったそう。
 ただ、その出来事の後から他の面々は必ずヨハネと自分のことを呼び始めたらしく、
 高校時代は喜んだけど、今となっては気恥ずかしいだけみたい。
 なんと統合先の高校で生徒会長も勤め上げ、
 仕事もAqours1年生組だけでこなしたせいか、
 デスクワークには絶対の自信があるらしい、ルビィちゃんと花丸ちゃんは戦力外だった模様。
 
「たぶん、AqoursのメンバーでAqoursであることで得したのって誰も居ないんですよ
 でも、私はAqoursとして活動した過去を後悔なんかしない、Aqoursが大好き。
 できればもう一度Aqoursとして活動したい、曜とか梨子は絶対に嫌だって言うだろうけど」
「そうなんだ、一年生組では?」
「マルは賛成してくれると思います。ルビィはどうだろう? 最近、私達3人で集まってないし……」

 過去のことで振り返ることはないかと問うてみたら、
 敏い彼女はAqoursとして活動していた自分のことを話してくれた。
 私や穂乃果は……まあ、μ'sとして活動していたことを後悔する時代もあったけれど、
 それでもその時の出会いや経験はかけがえのないものになっている。
 おそらくμ'sが揃ってこれから同じことをする機会というのは、 
 ほぼ可能性としては0に近いんだろうけれど。

「ルビィは……さっきちらっと理亞の話が耳に入りましたけど
 私ともマルとも連絡を取ってないみたいで。
 知らないアドレスからメールが入ってて、誰かと思ったらマリーだったんですよ」

 どこでどうアドレスを調べたのか、と苦笑しつつ口にしながら文面を見せてくる。
 内容を見てもいいのかと聞いてみたら、どうしても見てほしくてと。
 一人で抱えられない事実があったみたいで、私なんかで力になれるのかなとは思うけど。

「ええと……海を見ています?
 最近和菓子にハマってあんこに飽きたと二人して言ったら怒られました。
 理想の人は居候にも厳しいのです
 姉妹喧嘩は犬も食べないと聞いたので、
 姉に会ったら宜しくお伝え下さい……?」
「理想の人というのは、高坂雪穂さんのことなんですよね
 だから日本にいるみたいで、海って言うには東京湾?
 あんこに飽きたって、果南ちゃんがそんな事言うかなぁ……」

 雪穂ちゃんが理想の人というのは、
 何でもAqoursがラブライブの優勝に貢献したからであるみたい。
 なんとか静岡県予選を突破した彼女たちは、
 ラブライブ本戦の一回戦の前に雪穂ちゃんと亜里沙が顔を見せて、
 Aqoursの欠点や改善点をアドバイスした結果浦の星女学院の優勝に貢献。
 今から考えれば、あの指摘がなければ初戦で姿を消していた弱点だったらしく――

「私達の身の丈に合わない優勝という結果、
 目標を達してもなお廃校を回避できなかったおかげ……いや、せいで
 千歌は努力は実らない、μ'sみたいになれないと絶望し
 姿を消す訳にはなるんですが……あ、ごめんなさい」
「え?」
「すごく怖い顔をしてました、絵里さんも表情を変えることがあるんですね……」

 よっちゃんが恐怖に感じてしまうくらい、
 恐ろしい顔をしてしまっていたみたいで、私は慌てて頬を上げ
 笑顔を作ってみせる。
 多少なりともうまくは行ってないのか、やや距離は広がってしまったけれど。
 
「いえ、ちょっと、ちょっとね、
 知り合いにμ'sに入りたいっていう子がいたものだから
 差異がね?」
「千歌が身勝手なのは知っています
 ただ、私はそんな千歌が好きなんですよ、とても残念なことに」

 口を開こうとして辞めてしまった。
 どんなに言葉を重ねたところで議論は平行線になる。
 世の中には優れているから好きという人もいるし、
 面倒極まりないから好きという人もいる。
 好意的な感情を寄せるのは、好意的な人間であるからばかりが理由にはならない。
 蓼食う虫も好き好きというように、評価の基準は人それぞれ……
 ではあるのだけれど。
 個人的な感情で言わせて貰えば、彼女が穂乃果を持ち上げたおかげで、
 穂乃果がどんな目に遭ったか知っている人間としては、
 一概に好意を寄せられることや理想だと崇められることが
 いい結果を招くとは限らないと知ってしまったので……いや、ほんとう、
 なんて言っていいのか分からない。

「私も、μ'sみたいにみんなで仲良くしたいです、
 ありえないですよ? 数年経ってもなお9人揃う機会があるとか」
「こう……スケジュールを調整してくれる有能な人がいて
 たまたま集まっているだけという言い訳はなし?」
「奇跡ですよ、Aqoursが今後9人揃うとしたら。
 もう、千歌という欠けたピースは元に戻らない。
 もしかしたら彼女には会う機会はないのかも……」

 とても寂しそうな表情を浮かべる善子ちゃんに、
 幸運にも私とお付き合いがあるμ'sのみんなの事を考えながら、
 私自身にも身勝手な部分があって、それで彼女たちを嫌っている側面があるとすれば
 なにかできることがあるかもしれないと思い至った。
 
 なんとなく物別れしてしまった感のあるよっちゃんとの交流を終え、
 ひとりボーッとしながらエトワールの住人を遠巻きに見ているエヴァちゃんに話しかけてみる。
 なんとなく楽しげである表情から花咲く表情に変化し、
 やたら私に対する好感度の高い面々の中でも、飛び抜けて評価が高いのが彼女である。
 エヴァちゃんの中では空気! 水! 絢瀬絵里! みたいな感じで、
 必須栄養素か! と言ってしまったけれど。
 見てないと禁断症状が出るというのはもはや金髪中毒と言って良いんじゃないかと。

「みんなの輪に入れば良いのに」
「仲良くしたいです
 でも、私って思わず言ってはいけないことまで言ってしまうみたいで」
「そうなの? 例えば?」
「---------」

 ん?
 あれ、おかしいわね? 
 エヴァちゃんが何事か言っているはずなのに耳に入ってこない。

「ええと?」
「物語で言うところのネタバレというものなのでしょう
 禁則事項です――みたいなものですね」
「----------」(残念ながらバストサイズが)

 ん?
 あれ、おかしいわね?
 口にしようとした言葉が耳に入ってこない。
 
「-----------」
「--------」(だいじょうぶ、胸のサイズは成長するものよ!)
「-----------」
「--------」(亜里沙も高校卒業後に大きくなったし! 胸も背も!)
「-----------」
「どうしたの? なにか悲しいことでもあった?」

 あ、声が出た。
 胸の大きさに関するフォローは
 矢澤にこ、星空凛、園田海未に関してはまったく成功しなかったものの、
 後に下がいるから油断していた、思ったよりも大きくなかったと述懐する
 西木野真姫に対しては一定の成果を収めた。
 なお、バストサイズに対する励ましは亜里沙も上手じゃないし、
 希が酔ったニコに白々しい! と怒鳴られたエピソードもあるので、
 胸が大きいと苦労するみたいな話はμ'sでは禁句。

「もし……これは仮の話ですが」
「んー?」
「今がもし、今より未来の延長線上にあるとすれば
 私はどうすれば良いのでしょう?」
「創作の話?」
「はい。似たようなものです。
 だって、目にしたもの以外、聞いたもの以外を知る時、
 想像に頼るしか無いのであれば、
 自分が知る事象以外は、ありとあらゆるものが
 想像に委ねられる創作物であると仮定すれば、
 たとえ現実世界に存在するものであろうとも、
 その人自身が空想する創作物であるとは思いませんか?」
「残念ながら、想像と想像を形にした創作物は違うものだわ」

 ソースはなろう系小説を読んだり、
 自身が演じる機会もあり、自分でも書けるんじゃないかと想像(妄想)を重ね
 実行性が高い計画(笑)を持ってしても物語を完結させられなかった西木野真姫。
 その際の悔恨の句は「口にする言葉と手で書く文章は違う」であり、
 聞いたツバサにも目に入るモノと耳に入るモノが同じワケがないでしょと突っ込まれたり、
 海未にも妄想と文章化され世に出た作品が同じものではないと断言されている。
 ただ、海未に関しては頭の中にあることがだいたい歌詞として表現されていて、
 ことりからムッツリとネタにされたり、希から耳年増なんじゃない? と言われたり、
 凛からも頭の中にある妄想をシロップ漬けにして現実に出したらμ'sの曲の歌詞ができると評され、
 穂乃果の歌詞は素直なのにどうして口下手なの? という言葉は海未にクリティカルヒット。

「未来は未来、過去は過去……生き方論としては
 今をきちんと生きるしか無いんじゃない? 問題は時間が解決してくれるわよ」
「生きていくのは私一人では怖いです」
「だったら一緒に行ってあげる、まあ、役に立たないかもしれないけれど」

 自嘲気味に笑ってしまったので、苦笑しているようにも見える自分の顔を鏡で見ながら。
 エヴァちゃんはくるりと振り返り天井を見上げて、

「……いえ、一緒にはいけません」
「ええ? 頼りにならないから?」
「それもありますけど」
「あるんだ」
「でも、もし、今よりも未来――そして、今よりも過去にその必要があれば
 一緒に行ってもいいかもしれませんね」

 そして彼女はこちらを見て。

「今日はボルシチにしましょう」
「え? 作ってくれるの?」
「スープの赤い色が血液でよろしければ」
「……作らせてください」

 食べ物トークで盛り上がっていると、
 ハラペーニョ(お腹すいたの意)なみんなが食べたい! 食べたい!
 とやたらボルシチを褒め称えるので嬉しくなった私は
 エトワールのみんなで一緒に買物に行き、ビーツがないことに愕然とし、
 これから来ると電話してきたツバサにビーツ持ってきて! とお願いし、
 ふざけんな! ロシア料理とか飽きたわ! と返答されたものの。
 優秀な彼女の手腕でビーツは用意され無事にボルシチは完成された。
 なお、ボルシチと言う言葉は知っていたものの見たことがない面々は、
 ロシア料理が数多く置かれた食卓を見て、
 コトレータを指さしながらボルシチ美味しそう! と言ったので、
 ツバサが大受けして、ロシア料理の知名度ってそんなものよ、怒らない怒らないとフォローしてくれた。

「やっぱり、帰ってきた時に食べるものといえばこれですね」

 エヴァちゃんの言葉の意味はよく分からないけれど。
 とにかくまあ、みんな嬉しそうなので良かった。

エヴァちゃん黒幕説……流石にないか

みくるちゃん好きだったな~

 ボルシチを中心としたロシア料理を囲み、
 そういえばなんでツバサはここに来たのと問いかけてみると、
 まあまあ、それは後にすればいいじゃないと
 話をごまかされてしまったので、
 特に何を追求するわけでもなく、ちびちびとお酒を飲む。
 未成年者がいる手前、遠慮しようかなって思ったんだけれど、
 いいから飲め、とりあえず飲め、遠慮せず飲め、
 と異様なほどみんなから勧められてしまったので、
 酔いすぎない程度に日本酒を飲む。
 結構量を出したとは思うけど、胃袋が宇宙らしいツバサや
 私自身の努力によって作りすぎた料理はみんなお腹におさまった。
 摂取したカロリーがやばいのでは? と冷静になった面々は
 一目散に地下のレッスン場に向かい、今はトレーニング中。
 残っているのはカロリー? 知ったことか! なツバサと、
 食べる量をセーブしていたらしい理亞ちゃん。
 カロリーどころか肝臓の出来も心配になるけれど、
 と、私が言ったら、お前が言うなみたいな顔をされてスルーされた。

「すごい変わったわね、理亞さん」
「はい、何故だかこう……しなければならないと言いますか
 こちらのほうが自然で」

 おしとやかさかげんではエトワール随一に変わってしまったのは、
 エロゲーのプレイしのしすぎで3次元と2次元が混同されてしまったのではなく、
 普段からさらさらヘアでおしとやかさんな自分のほうが自然だったからみたい。
 どちらかといえば、そうでない自分のほうが違和感があるらしく、
 異様なほどエロゲーにハマっていた過去は消し去りたいほど恥ずかしいよう。
 人としては真っ当ではあるのかも知れないけれど、
 しかしながら、そんな鹿角理亞ちゃんのほうが違和感があるというと、
 怒られてしまうだろうか?

 ツバサは興味深そうにしげしげと彼女を眺めたのち、
 自分が持ってきた大量の度数の強い酒をストレートで口にし、
 
「なにか隠してるでしょ」
「公式プロフィールが詐称されていたのは知ってますが」
「いや、そうじゃなくて、
 なんでそうなったのか自分では分かってるでしょって話」

 何気ない風ではあったけれど、
 的確に心を貫いてくる指摘に理亞ちゃんは苦笑いしながら、
 私の方をちらりと見て、首を振る。
 なお、ツバサも私をちらりと見て、
 なんで気づかないかなこのポンコツはと言いたげだったけれど、
 あいつの洞察力がチートレベルだって言うのは指摘してはダメかしら?

「心の中では負けたくない相手がいると思っているんです」
「その人ってすごいの? そうならなければならないほどに」
「……正直な話、負けたくないと思ったのは事実ではあるんです
 強い憤りを持って、過去の自分を改めたいと願ったのは記憶しています」

 理亞ちゃんの能力値は私から見てもかなりのレベルにあると推測される。
 才能はあるけどやる気がないとか、
 もうちょっと努力すればいいのにとか、
 明日から本気出すと言っていつの間にか死んでいる人扱いな彼女が、
 躊躇いもなく全力を出して何かに取り組んでいる姿というのは、
 過去の理亞ちゃんを見るに異様過ぎる案件だ。
 本気出すと言ってどうにもならない人間はこの世にたくさんいるけれど、
 全力を出すと、周囲が困るほど成長してしまうのは良いんだか悪いんだか。

「そいつには勝てそう?」
「どうでしょう? 今のところは勝っているとは思いますが」
「気をつけなさい、そいつは本気だすどころか、
 ちょっとやる気出すで追い抜いてくるから」
「……経験済みですか」
「ええ、何度も何度も」

 私には関係無さそうな話であるので、
 まったく聞いていない風を装っていたら、
 脛を高らかに蹴り飛ばされた。
 クリティカルヒットしてしまったために悶絶するほど痛く、
 飲んでいた酒をつい勢いよく飲み込んでしまい。
 鼻に逆流してしまってけふけふ言ってるけど、
 二人はまったく意に返さずに分かってないなあこの人って目で見下ろした。
 なんということでしょう、私はいつだってフツーでありたいというのに。
 いつも空気読めないで嫌味な態度見せてるみたいじゃん……。

 特に意味もなく脛を蹴り飛ばされたり、
 みんながお腹を痛めているから来て欲しいとお願いされたから行ってみたら、
 食べた後ですぐに動いたから苦しんでいるだけだったので、
 慌ててくる必要もなかったと安堵していると。
 一人フツーに過ごしているエヴァちゃんが、クニクニと私のわき腹を引っ張る。
 結構そういうことをされてしまうと太ったかなと勘違いしてしまうので勘弁して欲しい。

「動けるからと言って、調子に乗ってはダメよ
 急いで何かをしようとするとね、人間死ぬのが早くなるだけだし」

 私が忠告してもあんまり効果がないのに、
 ツバサの言葉は真剣に聞いているだけに、
 あれ!? 私の信頼度低すぎ……!? みたいに
 手で口を抑えながら驚いた顔をしようと思ったけれど、
 そんなことをするから尊敬の度合いが下がると思ったので自重。
 なお、ツバサの言葉がクリティカルヒットしたのは存命の面々だけではなく、
 私の心の中に居て同調してばかりの雪姫ちゃんにも。
 生き急ぐとろくな事にはなりません! と亡くなった人間に言われてしまうと、
 なんでだろう、色々と自重してしまいたくなるね?

「朱音さん、あなた自分が売れっ子になれると思ってるでしょ」
「はう!?」
「善子さん、もうすでにサイン会で行列が出来て困る想像してるでしょ」
「うあ!?」
「朝日さん、さっきデザートもう一個食べられたかなって思ったでしょ」
「私をオチに使わないで良いんですよ、当たってますが」

 綺羅ツバサさん心を読解している疑惑。
 どういう人生を歩めば、もうすでに人気が出た自分自身を想像している――
 人間の表情からその事実を読み取ることができるのか。
 あ、でも朝日ちゃんがちょっと食べ足りなさそうなのは分かったよ?
 お腹痛いのかなって心配して駆け寄ったら、
 あと3個は食べられたって頭抱えてたし、もうちょっと健全に心配させて?

「この中に、売れている人間はみんな実力があるって思ってる人!」
「はーい!」

 高らかに手を上げたのは私だけだった。
 お前には聞いてないみたいな顔をしてツバサに見られたのと、
 すごく優しい目でエヴァちゃんがこちらを見たので、
 空気読めてなかったなって反省する。
 ちょっとノリでおとぼけてしまったけれど、
 エトワールにいるみんなも、売れているアイドルなり歌手なり、
 声優だったりする人間がみんな優れた歌唱力とかを持っているかどうかは、
 分かっているものであるらしい。
 仮にみんながみんな優れた部分があって、優れているからこそ仕事をしているのなら、
 実力派〇〇なんて言葉はおそらく存在しないものであるだろうし。
 
「はい、みんなもお察しの通り、歌が上手い人が歌手をやってるわけでもなく、
 当てるのが上手い人が声優をやっているわけでもなく、
 演技が上手な人が俳優やっているわけじゃありません。
 ただ、9割は上手な人がやってます」

 何故こんな話をツバサがしているかと言うと、
 今までほとんど上手く行ってなかったのに、急にいろんな才能に目覚めて、
 やればやるほどできるようになるんじゃない?
 みたいになってオーバーワークを起こすのを防ぐため。
 私もそのあたり一家言持ってるけど、説得力がないからやめてって言われちゃった。
 反論しようとしたら理亞ちゃんに優しい声で、やめてくださいって念押しされたし、
 中にいる雪姫ちゃんにさえ、やめたほうがいいですって止められたし。

「何より大事なのは、売れてない人たち。
 もちろん、実力がないから人気がないという人たちも数多いけれど、
 事務所に所属している人間の大多数は、
 売れている人と同程度かそれ以上の実力を持っていても
 売れていないという現実です」

 頑張るなというわけではなく、
 頑張りすぎてはだめだ――という忠告。
 上手くいっているとついつい調子に乗りがちではあるけれど……
 そういえば調子に乗りがちな人生であったなあ、と勝手にたそがれる絢瀬絵里(笑)
 なお、みんながみんな、オチはあいつだなって目で私を見てる。

「はい、みんなもお分かりですね、
 μ'sで羽目を外して頑張った挙げ句、
 数年間ニートとして過ごし、妹のスネカジリを続け、
 今はその人のコネで仕事しているあの人みたいになります」

 パラパラと沸き起こる拍手。
 それはツバサの発言が的を射ているから?
 すごく分かりやすい説明だったって納得した拍手?
 ちょっと扱い的に不遇であったので、唇尖らせて拗ねてみると、
 綺羅ツバサさん(笑)がさらに、

「くだらない話を聞いてくれたみんなに
 ああいう人を意のままに操る方法を教えます」

 えー!? と深夜の通販番組の商品紹介の時みたいに
 みんながノリよく高らかに驚いてみせる――雪姫ちゃんも言ってる。
 
「これは別に絢瀬絵里オンリーに使える技術ではなく、
 自分では頭が良いと思っていてそれなりに仕事はできるけど、
 言われたことしかできないやつと、褒めれば動いてくれる人にも利用できます
 なお、仕事ができない人間にやってもこっちが損するだけです」

 ツバサが私と正対して、やけに真剣な面持ちでこっちを見る。
 ふざけた態度から一点、謝罪の意でも示すみたいに殊勝な表情をして、
 責めるべきはこちらなのに、なんか悪いコトしたかなと罪悪感が揺さぶられる。

「はい、今の通り、こちらが下手に出て申し訳なさそうな風を示すと
 ああいう人は心が揺さぶられます、
 今あの人、なんか悪いコトしたかな? って考えました」
「か、考えてないし……」

 心を読解されたのでしどろもどろになる。
 観察眼と言うよりニュータイプレベルの所業、
 おそらくファンネルは使えるね? ハイパー化するかもしれない。
 いくらこっちがハンブラビで頑張ってもビーム全部弾かれちゃう。
 
 こちらが反抗的な態度を示したことで、
 相手は第二の作戦を取る。
 死んでも屈するもんかと思って気合を入れていると、

「絵里」

 その台詞と一緒にこちらに潜り込んでくるツバサ。
 正拳突きでも決められるかと思って身体をくねらせると、
 なんと私の手を取り、せつなそうな瞳でこちらを見上げ、
 愛おしい人に甘えるみたいにボディータッチを重ねながら
 なんかいい匂いがすると同時に心が揺さぶられた。
 あかん、これは孔明の罠やんなと希の声が聞こえてきた。
 そうよ私、こいつは一度弱みを見せたら最後、
 死ぬまで罵倒をしてくるやつだと思い直し、ぐっと一声漏らして、
 鼻息荒く相手を睨みつけてやると、

「ごめんなさい、許して絵里」
「だ、騙されたりしないわよ! そういってェェェ!?」
 
 寄せられる唇、撫でられる身体、鼻には絶えず甘い香りが届く。
 なんでこの人さっきまで酒にまみれてたのにこんな匂いがするの?
 との冷静な思考回路は一瞬で吹っ飛び、
 熱量高く、ガチで女性の方が好きみたいな態度を取られ、
 まるでイケないことをしているみたいな気分にだんだんと落ちていく。
 的確に身体がハネてしまいそうな部分を刺激されてしまうと、
 抵抗虚しく陥落してしまいそう。
 恋人つなぎで手を重ねられ、潤んだ瞳と湿った唇を寄せられてしまうと、
 あ、こういうのもアリかな? と――

「はい、いざという時はこうしてボディーランゲージで何とかしましょう
 ああいう人は感情に飢えているので、距離が近づくと動揺します」
「うえ……?」
「何してんの絵里、発情してるの? 肉の加工会社に売るわよ?」
「こ、この! またダマ……!」
「ごめんね……」

 騙されていると分かっていても、
 人恋しい気持ちを埋めるような的確なボディータッチに、
 為す術もない絢瀬絵里なのでありました。
 断じて発情しているわけでもなく、相手に性欲を抱いているのでもなく、
 あくまで綺羅ツバサさんが上手なんです、あとエヴァちゃん写メ取らないで
 どこに送ったのそのメール。亜里沙じゃないよね?

 絢瀬絵里を意のままに操る方法を体得したエトワールの住人は、
 扱いやすい金髪の発言は右から左に流すようになり、
 カリスマ性を高めた綺羅ツバサさん(笑)の演説はヒートアップの一途をたどる。
 これがもしジオンだったらハマーン・カーンかシャア・アズナブルレベルの所業、
 おそらく私だったらよくてグレミー、下手するとゴットン。
 でも、ゴットンさんはちょっと感情移入しちゃうよね、上司に恵まれなくて。
 でもガンダムシリーズってだいたい上司に恵まれない人か、
 部下に恵まれない人しかいない気がするけど、現実ってそんなものなの?

「さて、統堂朱音さん、エヴァリーナさん、栗原朝日さん、津島善子さん
 あなた方のデビューが企画検討されています」

 今のがもし、私の発言だったら本当かよみたいな顔をされるだろうけれど
 あいつの信頼度は今や亜里沙レベル。
 ボルシチを作るために呼ばれたやつレベルから、
 神と崇めてもいいレベルにまでジャンプアップを重ねたあの人は、
 そろそろハウツー本でも出せばいいと思う、売れそう。

「今は4人揃ってということになりますが、
 望むなら単独でも、売れてからの話になるとは思いますが」
「質問があります」
「はい、朝日さん」
「絵里さんはともかく、理亞さんは私達とセットになる話でしたよね?」

 うん、そこは理亞さんは一緒じゃないんですか?
 で、良いと思うの。私をオチに使わないで良いんですよ。
 エトワールで一緒に過ごしている以上、
 アンリアルとしてはパッとしない売れ行きだった彼女を
 グループのセンターとしてという意図はあったのか、
 みんながみんな、え、私達だけ? みたいな顔をしている。

「うん、ネタばらししてしまうと、元々、そこの金髪の代替要員が理亞さんでした」
「あ、どうも、私が変な金髪です」

 ボケてみるとみんながスルーした。
 雪姫ちゃんだけが面白いですよ! とフォローしてくれる。

「元々、この場の管理人として絢瀬絵里が来なければ、
 理亞さんをまとめ役としてみんなをデビューさせて、いずれ一人くらいは当たれば
 という魂胆でした。
 みんなを軽んじているのではなく、その程度の実力だったと冷静に判断した結果です。
 が、ハニワプロの意図とは異なり、理亞さんはみんなと一緒に堕落する方向に向かい、
 どうしようかねこの人達扱いされていたのは……まあ、分かりますね?」

 顔を見合わせながら苦笑いする面々。
 何故かは分からないけれど実力が向上したみんなは、
 ハニワプロの困りモノから、推すべきアイドルへとレベルアップに成功し、
 グループとしても行けるよね? 扱いになったのは――分かりますね?
 英玲奈の妹として審美眼があって、歌唱力に優れていた朱音ちゃんや、
 外見では誰にも太刀打ちできないレベルの美少女であるエヴァちゃん、
 Aqoursとして活動し、頭脳明晰で仕事もできる善子ちゃんや、
 とりあえずグループにはちっちゃい子を入れとけみたいな扱いの朝日ちゃん。
 プロデュース業でも優れているヒナのおべっか取りだった側面があったのは
 ここだけの秘密、本人も分かってるだろうけど。

「エトワールは使えないアイドルの隔離場所から
 金の卵の育成所に変化しようとしています。
 ただまあ、そういう会社の意図はね、ほんとう、クソくらえなんだけどね?」

 冷静な口調から本音が漏れ始めたツバサ。
 アイドルを管理するような上の立場での話は、
 アイドルであることにプライドを持っている彼女からすれば許せないのだろう。
 
「私達はハニワプロを有名にさせるためだけの商売道具じゃない
 ううん、アイドルは――芸能事務所を潤すための使い捨ての駒じゃない
 みんなに希望を与えて、夢を与えて、理想とされるもの
 ――悔しいことに、私にはまだその実力がない。

 だから言える、あなた達はできる、もっともっと奇跡を起こせる
 隠居みたいな私なんかを越えて、有名なアイドルになってください

 でないと、そこの金髪とか、そこのおしとやかさん使って
 私が下剋上するから」

 だから私をオチに使わないで?
 せっかくちょっといい話だったのに、
 みんなの表情があーあ、みたいな感じで終了するのは、
 なんていうかやるせない気持ちにさせるからさ。

少し更新が不定期になっていますが、
ちょっと忙しくて。
ただ忙しいと言っても。自分の用事ではないというのが悲しく。

こっちの方を最優先して更新しますので、
できれば毎日。できれば一日二回……二回は無理かな……。

なお、ハーメルンの方で更新している作品は、
アラ絵里の共通ルートの分岐から産まれた世界という設定を把握すると
この後に続く、共通ルートからの分岐である海未ルート、ツバサルートが
どんな感じになるか――というお話もしたいんですが、忙しいので自重。

なお、海未ルートの分岐で真姫ちゃんのルートが入り、
ツバサルート分岐で誰かもうひとり攻略ヒロインを入れたい!
と思ってるんですが、考えるだけはタダなので――
やると決まってはいるので、ボルシチ……じゃなかった、ボチボチ。

鹿角理亞ちゃんルートは、このあともう一話絢瀬絵里視点の話が入り、
鹿角理亞ちゃん視点の話が挿入されて一話が終了します。
楽しみにして頂ければ幸いです。

理亞ちゃんの真意そういうことだったのね
北海道だけにめんこいのう

>>100
う~ん。。。これはレズ!

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