男「それじゃあ――」

友人「悪い、オレってテレビ見ないんだよね～」

男「そうなんだ」

友人「もうここ数年、ほとんどテレビなんて見てねえや！」

男「……」

男（テレビ見ないのは個人の自由だけど、なんでそんな自慢げにいうんだ？）

―会社―

男「おはよう」

同僚「おはよ……ふぁぁ……」

男（さて、メールのチェックから……）

同僚「ふぁぁぁ……」

男「……」

同僚「ふぁぁぁぁ……」

男「おい、さっきからあくびしすぎだぞ。怒られるぞ」

同僚「あ、いや……このところ寝てなくてさ」

同僚「この一週間、平均3時間ぐらいしか寝てないわ～、マジつらいわ～」

同僚「ふぁぁぁ……」

男「……」

男（つらいつらいいいながら、どことなく誇らしげだよなぁ……）

男「……」ﾊﾞｻ…

男（○○党が躍進か……こりゃ今度の選挙で情勢が動くかもな）

男（日常会話であんまり政治の話はすべきじゃないっていうけど――）

男「おーい」

後輩「なんすか？」

男「今度の選挙で、日本の情勢がちょっと動くかもしれないな」

後輩「えー、選挙？　オレそんなもん行かないっすよ」

男「え」

後輩「政治とか全然興味ないですし。衆議院と参議院の違いもよく分かんねっす」

男「あ、そう」

男（いい年こいて政治に興味ないなんてことを得意げに話すなよ……）

男「……」ｸﾝｸﾝ

中年「……」

男「あの……なんか臭くないですか？　そこらをハエが飛んでますし」

中年「ホントだ」

中年「あ、もしかしたら……」

男「？」

中年「そういや、二日間風呂入ってなかったわ～、ワッハッハ！」

男「ワッハッハって……このニオイ、尋常じゃないですよ」

中年「すまんすまん！」

中年「なにしろ風呂に入るヒマもないんでね！　ワッハッハ！」

男（だーかーらー、風呂入ってないなんて自慢げに話すことじゃないだろ！）

OL「ふんふ～ん」ﾇﾘﾇﾘ…

男「すごいね、そのバッグ……ブランド物？」

OL「あっ、そうなんですぅ～！」

男「よく金があるね～、貯金してるの？」

OL「貯金なんてぜ～んぜんしてませんってえ！　キャハッ！」

男（ま～た“してない自慢”か）

後輩「お先に失礼しまーす！」

男「……」

男「あまりこういうことは言いたくないけど……」

後輩「？」

男「このところ仕事溜まってるだろ。少し残業してった方がいいんじゃないか？」

後輩「残業しない主義なんで！」

男（有能で残業しないならともかく、ちゃんと終わらせずに帰るのを得意げにいうな！）

「酒飲まないんで！」

「ファッションとか興味ないし！」

「自転車乗る時ライトなんてつけませんよ～！　めんどくさい！」

「恋人なんて作りませんよ～！　自分の時間が大事なんで！」

「カラオケとか興味ないんですよね」



男（なぜだ！？　なぜみんな“しない”“してない”を得意げに話すんだ！？）

男（そういや、勉強してない自慢をする奴もいたな……）



『ヤバイどうしよう！　全然勉強してないぜ～！』



男（といいつつ、実はやってていい点取るんだけどな、こういう奴は……）

男（それにしても、“○○してない自慢”する奴がうざすぎる！）

男（世の中間違ってる！）

男「……ってことを、このところずっと考えてるんだ」

友人「ふうん」

男「世の中、してない自慢する奴が多すぎる！　そう思うだろ！？」

友人「うん……」

男「ちゃんと聞いてんのか！？　聞いてない自慢するつもりか！？」

友人「聞いてる、聞いてるよ！」

友人「まあ、たしかに自分のことを思い返してみても、そういうところはあるな……と思うよ」

男「だろう！？」

友人「ところで……」

男「ん？」

友人「お前、ずいぶん顔色青くないか？」

男「そういや、事故ったあの日からちょっと青いかも……」

友人「ちょっと……手首さわってもいいか？」

男「いいけど」

友人「脈が……動いてない……」

男「たしかに俺は心臓も動いてないし、脈も動いてない。呼吸しなくてもへっちゃらだ」

友人「え」

男「だけど、そんなこと自慢するつもりはないぜ」

男「だって俺はもう生きてないんだから！　当然のことだろ？　ハーッハッハッハッハ！」








―終―