鷹富士茄子「できる女」(53)
「――あ! お帰りなさーい♪」
「ただいま」
「お鞄、預かりますねー」
「ん、ありがとう」
「それとも私?」
「……」
エプロンを掛けた茄子はそれだけ言って、後はただにこやかに笑っていた。
ダイニングの方からは耳慣れた噺家たちの声が漏れ聞こえていて、
味醂と醤油の合わさった、何とも安心できる香りが重なるようにして漂ってくる。
いつものように可愛らしく笑みを浮かべる茄子に、何となく居住まいを正した。
「……まず、夕ご飯を食べて」
「はい」
「次に、お風呂に入って」
「はい」
「……それから、茄子かな」
「……ふふっ。はーいっ♪」
ご機嫌な声を零しながら、妻はダイニングへと俺の手を引いた。
できる女こと鷹富士茄子さんのSSです
http://i.imgur.com/Fmh1CpB.jpg
http://i.imgur.com/GSpfG6I.jpg
前作
モバP「楓さんも焦ったりするんですか?」
関連作
鷹富士茄子「不幸中の幸い」
鷹富士茄子のブーケトス
神崎蘭子「大好きっ!!」
直接的な性描写を含みます
具体的にはこの次のレスから
――びゅくっ……どくん。
「くぅ、っ……」
「ぁ、っ……出て……っ♡」
茄子の腰を両手で抱え込み、深く竿を差し挿れる。
膣内で脈打つ度に彼女の白い喉が薄く跳ねる。
柔らかな反応を目に焼き付けながら、幾度も射精を繰り返した。
「ふ、ぅ……っは……」
遠慮の無い脈動がようやっと治まった。
墨色の美しい髪を撫でると、指先に僅かな熱が灯るみたいだった。
俺の下でまだ息を荒げたままの彼女は、物欲しそうに俺の唇を撫でる。
断る理由なんて無かった。
「……ちゅ……っ、んっ……♡」
重ねた唇で柔らかな感触を味わった。
竿に流れ込んでいた血が勢いを落ち着けて、徐々に彼女の包容力に負け始める。
重ね放題だった身体を久方ぶりに剥がす。
俺達の肌を行ったり来たりしていた汗が珠になり、すかさず触れた空気が腹を冷やした。
「ぁ、んっ♡」
弾力を取り戻した竿をそっと引き抜くと、茄子が甘えた声を零す。
釣られるようにして、彼女を奪った証がとろり、とろりと零れ出した。
「……きもちよかった、ですか?」
「そりゃあ、もう」
「ふふ……何より、です」
組み敷かれるままだった身体を起こし、茄子が額に張り付いた髪を軽く流す。
それだけの所作に色香が見え隠れして、消えかけた火をびゅうびゅうと煽ってくる。
そんな気を知ってか知らずか、茄子は俺がこじ開けたばかりのそこに指を這わせ、
無遠慮に残った白を細い指先で掬い上げた。
「今度こそ、出来るかもしれませんね」
「……ああ」
頬も喉も桜色に染め上げて、茄子はいつものように微笑んでみせた。
>>1ひゃあとんでもねぇ!アンタのSSを待ってたんだ!
― = ― ≡ ― = ―
芸能界というのは基本的に年中無休な商売だと思っていて、実際その通りだった。
夏休みは学生組の皆さんが撮り溜めで大忙し。
年末年始は寝る時間以外ほとんどスカウトやサポートで動き回っていた。
過去形だ。
確かに以前は無茶苦茶な勤務形態だった。
が、それも俺が所帯を持つまでの話。
茄子と結婚したのを機に、俺の勤務時間は平日の九時五時に謎の大変身を遂げた。
『いいから今後あなたは早く帰ってください』
半ば投げ槍気味なちひろさんの台詞はそれだけだった。
特に反論できる手持ちの武器も無いし、何より必要だって無い。
ありがたくか不承不承かもよく分からないまま、俺は頷くしかなかった。
ともあれ、そのお陰で茄子と過ごす時間は多くなったし、
何はなくとも彼女に感謝すべきなんだろう。
夕飯時にその日の出来事を楽しそうに話してくれる茄子を見ていると、
思わず頬を緩めずにはいられないくらいだ。
あと、夜の営みも増えた。増えたと言うか、多い。
「男のひとって、こうすると気持ち良いんですよね?」
だとか宣う茄子に、俺は首を横に振る事が出来なかった。
抱きしめて、唇を重ねて、生で、中に出す。
気持ち良くない筈も無いが、それが毎週末ともなると流石に不安になってくる。
具体的には、その、できないか。
それとなく彼女に訊ねてみても、
「できるだけ、して頂いていいんですよ」
などと返されてしまって、結局俺は何と言えばいいか分からないままに頭を撫でた。
つまりは全部俺のせいなんだろう。
煮え切らないままに、気持ち良いからというだけで、愛する妻に、無遠慮に。
ただ、彼女の方だって満更でもないようにも見えて、幸せそうで。
つまり……ううん。
「――大魔導師ってばー」
気付けば、目の前にフリルの塊が居た。
今日も今日とて蘭子ちゃんは全力でお洒落を楽しんでいた。
「……あ、ああ……おはようございます、蘭子ちゃん」
「ふむ。ヒュプノスにでも魅入られていたのかしら?」
(やっと気付いたー。何度も何度も呼んだんですよ?)
「や、考え事をしていまして……」
「よい。邪魔をするわ」
(ま、いっか。失礼しまーす)
持っていたキャラメルラテをテーブルに置き、蘭子ちゃんが腰を下ろす。
ストローを小さな口に差し込んで、一飲み。
ふふぅ、という幸せそうな吐息とともに、彼女の顔が甘さに溶かされた。
いつ見ても楽しそうで大変結構な事だ。
「蘭子ちゃん、先日の夜はすみませんでした」
「気に病む必要も無いわ。我が器が神の雫を零れさせただけのこと」
(いえいえ。私が勝手に潰れちゃっただけですから)
蘭子ちゃんの成人祝いに招待したバーでの一席。
彼女はいっそ清々しいくらい酒に飲まれ、やむなく自宅へ持ち帰ったのが先週のこと。
茄子から抱き枕にされたりもしていたが、何だかんだで半日ほどの滞在を楽しんでもらった。
「我が器もまだまだ脆弱なものね。醜態を晒したわ」
(相談にも乗ってもらっちゃいましたし)
「蘭子ちゃんのためならお安い御用ですよ」
「うん。だから、今度は私の番ね」
蘭子ちゃんが唐突に微笑んで、たぶん俺は困惑の表情を浮かべていた。
「……え?」
「迷える子羊を、我が光で瞬く間に照らしてみせようではないか」
(神崎蘭子のお悩み相談室です)
「悩み、って」
「うむ。まずは話すがよい」
(悩んでましたよね?)
悩んでいるか。確かに悩んでいる。
だがどう話せというのか。
毎週のように妻と生でしてるけどこれいいのかな。こう相談したとしよう。
彼女が真っ赤になって脱兎ダッシュを決めるだけならまだ良い方だ。
最悪の場合は警察のお世話になったっておかしくない。
彼女はもう二十歳で、彼女はまだ二十歳なのだ。
「蘭子ちゃんは」
「うむ」
「……幸せって、なんだと思いますか?」
「幸せ、ですか?」
なので、ごまかした。
いや、特にごまかせてもいないか。
俺はいま幸せなのは間違いないが、茄子はどうだろう。
俺は彼女を、きちんと幸せに出来ているかどうか。
考えるより先に、それが口を突いて出てしまっただけの事だ。
俺の曖昧な質問に、蘭子ちゃんがむむむと首を傾げる。
うーん、と呟きながらキャラメルラテを三口飲んで、それから掌を鳴らした。
「大魔導師よ。そなたは世界に祝福されているか?」
(プロデューサーさんは今、幸せですか?)
「……私が、ですか?」
「うん」
考えようとして、その必要も無かった。
「幸せですよ」
「何ゆえ?」
(どうしてですか?)
「茄子がそばにいて、茄子が笑っていて、毎日が楽しいですから」
言ってしまった後になって、これはノロケだなと気付く。
良い子で有名ななさしもの蘭子ちゃんにも流石にこれでは茶化されてしまうだろう。
そう思って蘭子ちゃんの顔を伺って、俺の心臓は小さく跳ねた。
彼女の表情は、あまりにも優し過ぎて。
「フフ……何たる暗愚。女神の慈愛とて掬い得ぬ魂よ」
(プロデューサーさんってば、変な所でおばかさんなんだから)
「そ、そうでしょうか」
「この世の理は往々にして明快なもの」
(すっごく簡単だよ?)
「……つまり?」
「幸せになってほしい人が幸せだと、自分も幸せでしょ?」
蘭子ちゃんの言葉はいつだって難解で大げさだ。
だが、物事の本質を鋭く貫く。
「参りました。その通り、ですね」
「飛鳥ちゃんにはトロトロジーだ、って笑われちゃいそうだけどね」
「……トートロジー、ですか?」
「……そうとも言うわ」
唇を尖らせる彼女に、抑えきれぬ笑いを零しながら俺のパウンドケーキを勧めた。
途端に悪姫の表情はご機嫌を取り戻し、幸せそうに糖分を堪能する。
「蘭子ちゃん」
「む?」
「幸せそうな貴女を見ると、私も幸せです」
「……」
口に運びかけた一欠けもそのままに、彼女は目をぱちくりとさせた。
それを皿の上へ静かに戻すと、ポッケから取り出したハンカチで指先を拭う。
そして次に取り出した携帯電話へ何かを素早く打ち込み始めた。
「……蘭子ちゃん? どうかしましたか?」
「ううん、別に」
「ならいいんですが」
「懲りる事無く甘言を紡いでいると、堕天使が女神に囁いたまでのこと」
(また女の子を口説いてますよー、って連絡しただけです)
「……えっ」
直後、ものすごい勢いでスラックスの右ポケットが震え出した。
これは、まずい。
新品に替えたばかりの携帯電話を慌てて引っ張り出す。
しどろもどろする俺の様子を、向かいに座る小悪魔はさも楽しそうに眺めていた。
― = ― ≡ ― = ―
「――あ! お帰りなさーい♪」
「ただいま」
「お鞄、預かりますねー」
「ん、ありがとう」
「それとも私?」
「うん」
鞄を受け取った茄子が小さく首を傾げた。
あれっ、と呟きながら、俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「茄子がいいな」
靴を脱いで揃えてから、茄子の細い腰を抱く。
「……え」
「いい?」
背中へ手を回し、耳の後ろを指先で撫でる。
茄子の肩がぴくりと跳ねた。
「あ、あのっ」
「うん」
「今日は……煮物が、とっても美味しく、出来て」
「じゃあ、先に夕飯にしようか」
額に軽く口づけて体を離した。
「それから、お風呂で」
「はい」
「茄子がいいかな」
― = ― ≡ ― = ―
「筑前煮、美味しかったよ」
「ふふ、今日の自信作でしたから♪」
率直に言って、茄子は非常にスタイルが良い。
胸もお尻も大きいのに、脚も腰も程よくくびれている。
現役アイドルの時の絞られた身体も人目を引いてはばからなかったが、
今の少しだけ丸みを帯びたプロポーションだって堪らない。
「……もう、膨らんでますね」
「うん」
脱衣所でお互いの服を一枚一枚脱がせあって、すっかり下着姿に。
茄子の手が遠慮がちにトランクスを下げて、張り詰めた竿が勢いを付けて反り返る。
お返しにブラのホックを後ろ手で外し、窮屈そうだった膨らみを解放してやった。
「今日のPさん、何だかえっちです」
「駄目かな」
「私以外には絶対ダメです。茄子にだったら、いいですよ~♪」
ショーツから長い脚を抜きつつ、茄子は悪戯っ子のようにウィンクを飛ばしてきた。
「お背中、流しますね」
「ありがとう」
家の風呂はそこそこ広い方だが、それでも二人でとなると少々手狭だ。
浴室に敷いたマットの上でやや疲れ気味の背中を茄子に晒す。
わしゃわしゃとスポンジを泡立てる音がしばらく続く。
柔らかい感触が二つ、油断しきっていた背中へ押し付けられた。
「っ、わ」
「ふふ♪ 正直なあなたに免じて、今夜はサービスしちゃいます♪」
ぬるぬると泡にまみれる、たっぷりとボリュームのある胸が背を撫でた。
抱き着くような格好のまま茄子の指が俺の胸板をなぞる。
んっ、んっ、と茄子が身体を揺らす度に、温かな吐息が耳朶をくすぐった。
「Pさん、大好きですもんね~。わたしのおっぱい♪」
「いや、大好きと言うか、何と言うか」
「ん~?」
「……これ程までだと、触らない方が無礼だと申しますか」
「ふふっ……何ですか、それぇ」
大きくて、良い形で、柔らかい。
今や90の大台に差し掛かってるんじゃないかと思うような、見事な巨乳。
数多のファンが夢に見た、ビキニの布地一枚の向こう側。
そんな二つの膨らみを揉みしだいてやらないのは、雄として失礼だと思う。
そんな茹だったことを考えていると、竿もまた柔らかな感触に包まれた。
胸板を撫でるのは左手にお任せして、
空いた右手が寂しがるように脈打つ竿を包み込む。
そしてゆっくり、ゆっくりと摩り始めた。
「う……っく」
「いつもお仕事……お疲れ様です」
攻め立てるような激しさは無く。
どこまでも優しい、溶かされるような手つきが脳内に靄を掛けていく。
「たくさん、気持ち良くなってくださいね……♪」
竿も、耳も、背までもが呆気なく溶かされていく。
煮え立つような射精感が湧き上がってくる。
魅力的な誘いを断ち切って、俺は砕けかけの腰を上げた。
「Pさん……?」
茄子の手を取り、立ち上がらせた。
壁に手をつかせて、背中から覆い被さるようにその手を押さえ付ける。
期待するように振り向いた唇を捕まえる。
何度か舌を撫でてから放し、耳元で囁いた。
「……出したい」
素直過ぎる欲望をぶつけられて、茄子が小さな口を丸くした。
少しだけ目を閉じると、笑みを浮かべながら、緩やかに頷いた。
「あ……っ♡」
焦らす手間も惜しんで、一息に秘所へ竿を潜り込ませた。
滑らかに埋まりきった先端が奥を小突くと、茄子の髪が揺れ、視線が僅かに下を向く。
息を上げて感触を受け止める姿はあまりに扇情的だった。
「……ん♡ や、ぅ……♡ 」
離した両手を茄子の腰にしっかりと添え、俺も呼吸を整える。
添えた手を確かめ直し、強めに抽挿してやった。
「っ!? あ、いきな、っ……♡ つよ、ん……♡」
彼女の抗議もかき消すように、ぐいぐいと茄子を突き上げる。
塗られていた泡が飛び散って、弾ける音が浴室に響き渡る。
すぐそこまで迫ってきているそれが、早くしろ、ここから出せとせがんでくる。
言われなくとも、そう保つ筈が無いだろうに。
「Pさ、ぁ♡ ん……もぅっ……!」
「茄子……茄子っ……!」
何度味わっても挿れ飽きない感触が竿を擦り上げて、その度に射精しそうになる。
抑えていた筈の息があっという間に乱れていって、抽挿の音に混ざり込む。
「――んぅ、やぁっ……♡」
不意に、茄子が甘えた声を零す。
男を粉々にする響きに中てられて、俺は誘うように揺れる胸を揉みしだいた。
――どくっ。どくんっ!
「あ……っ、くぅ……っ!」
「ん、~~っ♡」
掌を満たす柔らかさを堪能しながら、茄子の膣内に射精した。
堪え切れずに声を漏らして、何日かぶりに味わう快感を飲み込んでいく。
そのまま幾度かの脈動を繰り返す度に、腿の辺りが聞き分けなく震えた。
「はぁ……はぁっ……」
「……んっ……」
注ぎ終えてからしばらく経ったところで、挿れっぱなしだった竿をゆっくりと引き抜く。
張りながらもやや力を失った竿が垂れ下がって、茄子の内腿を白い筋が伝い落ちる。
彼女を征服した証は、何回見ても俺の興奮を煽った。
「もう……乱暴なんですから」
「……ごめん」
「……でも、いつも優し過ぎるくらいですから。許してあげちゃいます」
秘所を撫でながら無邪気に笑ってみせる茄子は、ひどく美しかった。
― = ― ≡ ― = ―
「――うんうん、また元気になってきましたね~♪」
寝室のベッドへ腰掛けた俺の前で、茄子がご機嫌そうに呟く。
跪くような格好は髪を撫でるのにちょうどいい。
弛緩しきっていたところへ新たな刺激を加えられ、再び竿に血が巡ってきた。
茄子が両手で寄せ上げているご自慢の双丘。
たぷりと心地良い重みが俺の両腿へとのしかかってくる。
埋もれた竿は半分も見えなくなって、ただくすぐったいような肌触りだけが感じられた。
「いつもより、おっきくないですか? これは久しぶりだから、興奮してたり?」
「それも、っ……ある、かも」
会話を交わす間も攻め手が緩む事は無い。
左右から挟み込むように押し付けたり。
互い違いにじっくりと擦り上げたり。
覗いた鈴口を濡らした舌先でつついたり。
保っていた余裕がじわじわと削られて、滲むように先走りが漏れてくる。
不規則に打ち震える竿を愛おしそうに見つめられるのは未だに少し恥ずかしい。
「んっ……ふ……ふぅ……♡」
左右の膨らみをいっぱいに押し付けながら、茄子が鈴口にキスを見舞う。
俺の背がぶるりと震え、すんでの所で衝動を抑え込んだ。
「ガマン、しなくていいんですよ?」
息を呑んだ俺を見上げ、茄子が浮かべたのは楽しそうな笑み。
一も二も無く頷きたくなる誘惑に首を振った。
「茄子」
「出そう、ですか?」
「今日は……全部、茄子の中がいい」
動き続けていた手つきがようやく止まった。
お互いの視線がぴたりとかち合って、それから茄子は小さく息をついた。
「えっち♡」
どちらの台詞だ、それは。
そう言いたくなるくらいの妖艶な眼差しを細め、茄子が腰を上げる。
伸ばした腕を見せつけるように俺の背へ絡めて、後ろで結ぶ。
向かい合うようにして俺の腰へと跨ってきた。
「ぁ……あんっ……♡ 硬い……♡」
先端へ秘裂を宛てがい、そのまま真っ直ぐに腰を沈めていく。
何度も味わった温かさに再び包み込まれた。
思わずされるがままになってしまいそうなのをぐっと堪える。
「茄子」
綺麗に染め上がった頬を撫でて、俺は彼女の名を呼ぶ。
「はい。あなたの、茄子ですよ」
「茄子は今、幸せか?」
金の瞳が瞬いた。
ややあって、雪解けのように眉尻を下げる。
「……プロポーズの時のお話、ですか?」
「ああ」
――君を幸せにする。
いっそ古典的なくらいありきたりで、けれどこれ以上は無いと思った言葉。
初めて見た茄子の涙は今でも目に焼き付いている。
今まで彼女に幸せにしてもらった分の、せめて百分の一だって。
俺は、茄子を幸せにしてやりたい。
「幸せです。あなたのおかげで」
「いいや。俺の方が幸せだ。だから、まだ足りないんだ」
「だから……?」
蘭子ちゃんの名を出しそうになって、慌てて口を抑える。
慈しみ合う最中に他の女性の名を語るのはご法度中のご法度だ。
頭の中を整理して、伝えるべき言葉だけを棚から抜き出す。
「家事も、笑顔も、愛情も。いつもありがとう、茄子」
「あら。どういたしまして♪」
「それに、こんなに気持ち良くしてもらって」
「ふふっ。あなたの妻ですから♪」
茄子と繋がったそこは、相変わらず熱くて。
「前に言ったと思うんだ。しばらくは二人きりでイチャイチャしたいなぁ、とか」
「言ってましたねー」
「もう、充分だよ。これからは――家族で、もっと幸せになりたい」
細い腰を撫でる。
「茄子の子供が欲しい」
茄子の中が狭くなる。
視界が揺れそうになって、でも真っ直ぐに茄子の瞳を覗き込んだ。
「もう、俺だけを気持ち良くしてくれなくていいんだ」
「……」
「二人で一緒に、気持ち良くなろう」
頬の熱化粧が一段と濃くなって、茄子は静かに結合部へ視線を落とす。
確かに俺と茄子は繋がり合っていて、少しの隙間もありはしなかった。
長いまつ毛が微かに震えていた。
「……できちゃうかも、しれませんよ」
「うん」
「……本当の、本当に……できちゃうかも、ですよ」
「うん」
「できたら……しばらく、できなくなっちゃいますよ」
「うん」
押し付けられたままの膨らみ越しに、茄子の鼓動が聞こえる気がした。
頬どころか首も肩口も色付いて。
俺の目を見つめたまま、茄子は表情を崩した。
「Pさん」
「ああ」
「ひょっとしたら……私も、えっちかもしれません」
「どうして?」
「何だか……あなたと、初めて一つになれた夜みたいに……ドキドキが、止まらないんです」
「うん。実を言うと、俺も止まらなくて」
一度は満足した筈の竿が、茄子の中でどんどん硬さを増していく。
何かの拍子にびくりと跳ねると、茄子は小さく高く喘いだ。
「かわいい子供が、いいな」
「は、い」
「これは……何となく、だけど」
「……はい」
「茄子を気持ち良くできればできる程、かわいい子が生まれてくれそうな気がする」
血色の良い唇を奪う。
それだけでは全く足りやしなくて、舌を絡め合った。
最初は静かだったのが、時間が経つにつれ、少しずつ水音を立てるように。
「ちゅ……ん、ちゅ、ぅ……んんっ……♡」
飴玉でも転がすみたいに、舌を舌で探り合う。
何故だか本当に、飴玉みたいに甘い。
舌がふやけそうになる頃になってようやく唇が離れた。
お互いの唇ははしたなく唾液にまみれて、どっちがどっちのだか分からない。
「茄子」
「P、さん」
「茄子は、どうされると気持ち良い?」
茄子が目を泳がせたので再び唇を啄んでやる。
何度か緩く抽挿を繰り返すと、耳まで染めて首元に抱き着いてきた。
「……奥、が、気持ち良い……です」
「分かった」
「あと……ぎゅー、ってされるのも」
「うん」
「それと……それとです」
「ああ」
「愛してる、って……たくさん、言ってください」
「愛してる。茄子」
茄子の身体をぎゅっと抱き締めて、背中からベッドへ倒れ込んだ。
仰向けになった視界の中に、茄子の整った顔だけがよく見える。
「――っ♡ あっ、あんっ♡ や……ぁ……♡」
すっかりお預けにされていた抽挿を再開し、潤んだ柔肉の感触を堪能する。
茄子を気持ち良くしようとすると、結局俺だって気持ち良くなってしまう。
幸せにしてやりたいのに、幸せになってしまう。
……参った。
「あっ♡ あっ♡ や、ぅ……んっ♡ 」
ぎゅっとされるのが好き。
そう言っていた癖に、茄子は自ら柔らかな身体を押し付けてくる。
滑らかな腕に捕らえられて、逃してくれそうもない。
秘所だけじゃなく、身体ぜんぶで繋がり合おうとしているみたいだった。
「っぐ、ぅ……茄子、っ……茄子……っ!」
今まで何度も、遠慮無く、膣内に出してきた癖に。
茄子の意思を汲み取っただけで、俺はかつてないぐらいに昂っていた。
茄子を攻め立てる勢いは先程よりも更に強い。
けれど彼女の口から不平が零れる事はなく。
むしろ、零れ出す声はどんどんと蕩けていく。
ぱんっ、ぱん、ぱちゅっ。ぱん、ぱんっ。
ぎし、きゅっ、ぎしん。ぎしっ。
「っ、ぁ♡ んっ♡ ああ……っ♡」
叩き付けた肌の震え合う音。
ひっきりなしに軋むダブルベッド。
今の俺には、どちらも理性を削ぎ落としていくカウントダウンだった。
「はぁっ……♡ あ♡ あなた、っ……♡」
「……っ! 愛してる……っ!」
「んっ、ぁ……ふぁ♡ んぁ……♡」
わざとなのか。それともたまたまなのか。
乱れきった茄子の声が輪を掛けるように耳を濡らしてくる。
いつもご機嫌な調子を崩さない茄子。
彼女のあられもない声を聴いているだけで竿が猛る。
夢中になって茄子の身体を貪り続ける。
極上の快楽を浴びせ続けられ、竿の方も黙りこくっているままではなかった。
一度は解放してやったにも関わらず、再び押し通ろうとやって来る。
「茄子、っ! もう……っあ……」
「はぁっ、ぁ……んぅ……はぁ……♡」
聞こえているのかいないのか。
突き上げられっぱなしの茄子は額に珠の汗を浮かべている。
ときどきしゃくり上げるように腟内が遠慮がちに締まる。
俺はその度に情けない声を上げるしかなかった。
「茄子……出、っ……! も……っ」
「やぅ♡ あなた、っ♡ あなた……!」
ふ、と限界が見えた。
残された数秒足らずの猶予。
幸あれかし、とどこか遠くの自分が叫ぶ。
「……ください……♡」
囁かれた瞬間、茄子の背へ回した腕に力を込め、竿を茄子の奥深くに押し込んだ。
――どくっ……どくんっ!
「……ひゃ……んぁ……っ♡」
待ちに待った感触が噴き上がった。
声にならない程の快楽が喉を抜けて脳に突き刺さる。
茄子の中を白く染め上げてやった。
達成感と征服感をない混ぜにして、また茄子の膣内へと流し込む。
びゅっ。どく、どくっ……。
「……あい、してる……っ」
「ん、んぅっ……♡」
ぐずぐずになったアタマがそれでも約束を果たそうとした。
尚も竿を脈打たせ続けながら、抜けかけた力で、妻の身体を精一杯抱き締める。
何度も何度も繰り返す射精に幕引きが見え始める。
すると、俺の首元に顔を埋めていた茄子ががっつくように唇を重ねてきた。
去っていく熱を引き止めるみたいに舌を絡めて、柔らかな身体を揺らしてくる。
「ぅ、ん……!」
勝てっこなかった。
吐息一つで震えそうな竿に、甘えるような感触を被せられて。
一度。二度。しばらく間を置いて、三度。
最後の一滴まで、茄子に搾り取られていった。
「は、ぁ……♡」
唇を離すと、熱い吐息に鼻先をくすぐられる。
すっかり一つになってしまっていた身体もゆっくりと剥がれていく。
肩で息をする俺を見下ろして。
茄子は、今まで見た事も無いくらい満面の笑みを浮かべていた。
「ねぇ……あなた?」
「……茄子……?」
「私、自分でも知りませんでしたけど……結構、欲張りさんみたいです」
茄子の身体から不意に力が抜け、俺へ向けて倒れ込んでくる。
離れたばかりの身体がまたくっついてしまう。
そして、耳元で囁かれた。
「――もっと幸せになっちゃっても……いいですか?」
― = ― ≡ ― = ―
「いてて……」
出勤したはいいが、やはりどう考えても働けるような調子ではなかった。
午前を切り抜けられたのが奇跡みたいだ。
最近担当し始めたばかりの娘にも終始怪訝そうな顔をされていたし。
ともあれお昼だ。
だが、今日は諸事情により茄子お手製の弁当も無い。
社内のカフェへお邪魔し、サンドイッチを手に空いていたテーブルへ着く。
そこで根が生えてしまった。
駄目だ、もう動けない。いっそ早退させてもらおうか。
「ててて……」
「む。禁呪に手を染めし代償か?」
(あれ。筋肉痛ですか?)
「……あ。ど、どうもこんにちは、蘭子ちゃん……ちょっと、腰がね」
「煩わしい太陽ね。我が手には余るわ」
(こんにちは。今日も良いお天気ですねー)
今日の蘭子ちゃんはちょっとシックに決めているようだった。
引いた椅子にハンカチを添え、しずしすと腰を下ろす。
今日のお昼はベーコンエッグサンドのようだ。
食べ零して服が汚れたりしないか、ちょっとだけ不安になった。
「霧は晴れ渡ったようね」
(もう大丈夫そうですね)
「え?」
「渦を巻き淀んでいた魔力も見えぬ。アネモイの吐息か」
(この前より、ずっとスッキリした顔になってますよ?)
いただきまーあっ、贄どもへささやかなる祈りを。
きちんと手を合わせ、蘭子ちゃんがベーコンエッグサンドにかぶりつく。
幸せそうにもぐもぐと頬張って、その頬には少しケチャップが付いていた。
「……そうですね。蘭子ちゃんのお陰です、ありがとうございました」
「ククク……悪姫との契約は相応の対価を求めるものよ」
(お役に立てて良かったです)
「デザートは何がいいですか?」
「プリンっ!」
「かしこまりました」
えへへ、とご満悦な表情を浮かべる悪姫は、まだ頬にケチャップを付けていた。
「ごちそうさあっ、我が血肉の糧となるがよい」
「ご馳走様でした」
契約の代償をぺろりと平らげ、蘭子ちゃんが再び手を合わせる。
ほっぺたにはまだケチャップが付いていて、紙ナプキンでそっと拭い取ってやった。
「今日はこの辺りで失礼しようかと思います」
「帰還か?」
(あれ。お帰りですか?)
「ええ。少し……その、体調が優れないもので」
「ほう……約束の女神に祝福を」
(ふぅん……茄子さんによろしく伝えておいてくださいね)
「ええ」
立ち上がりかけたところで蘭子ちゃんが何か気付いたように手を叩く。
きょろきょろと辺りを見渡すと、俺に耳を貸すように手招きをした。
首を傾げながらも、彼女の手筒へテーブル越しに耳を寄せた。
「赤ちゃん、抱っこさせてね?」
年甲斐も無く頬が熱くなった。
慌てて身を離せば、彼女は落ち着いた様子でカフェラテにミルクを追加していた。
「……蘭子ちゃん」
「なに、女神が堕天使に囁いたまでのこと」
(お話してあげて、って言われただけですけどね)
思えばタイミングが良すぎた。
二人のお泊り女子会。
蘭子ちゃんのお悩み相談室。
やけに献身的だった茄子。
机に突っ伏して頭を抱える。
まだ赤いままだろう耳を隠しながら、悪姫へ精一杯の呪詛をぶつけてやった。
「……紛れも無い、堕天使ですね」
「知らなかったのかしら? 堕天使からは逃れられぬ事を」
(ふふ。女の子のネットワークを甘く見ちゃダメですよ)
蘭子ちゃんがカフェラテを傾ける。
小さく舌を出して、甘過ぎたわ、と呟いた。
ふぅ……おしまい。
茄子さんはえっち
出切る女 なんてね。
ちなみに微課金なのでプラチナスカウトチケット本当に助かりました
ありがとう千川さんえっ 限定SSRおかわりしてもいいのか
おっつおっつ
(子供が)できる女
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