画家「いつも贋作ばかり描かされてるけど、俺だって本当は……」 (17)


画家「……」サッサッ

画家「よし、できた!」





画家「頼まれてた絵の模写、終わりました」

商人「ありがとうございます。きっといい値がつきますよ」


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画家(俺は画家だ。無名を通り越して名無しの画家だ)

画家(ラジオもテレビも新聞もないこの部屋で、誰かの絵の模写をする日々を送っている)

画家(俺が描いた絵は、きっと商人さんの手によって贋作として売られていくんだろう)

画家(絵を描くのは好きだから、与えられた環境に関して全く不満はない)

画家(だけど――)


商人「やぁ、こんにちは」

画家「仕事の依頼ですか?」

商人「はい、次に模写していただきたいのはですね――」

画家「あの……」

商人「なんです?」


画家「俺が描いた絵……本当に売れてるんですか?」

画家「ただ、あなたに指定された絵を模写しただけの絵なのに……」

商人「そりゃもう! 売れてますよ!」

商人「見て下さい、この札束を! あなたのおかげですよ!」ペラペラ

画家(売れてるんだ……)

商人「それがなにか?」

画家「あ、いえ……売れてるんならなによりです。仕事の話に戻りましょう」


画家(いつも俺が模写してる絵の作者は、きっとものすごく有名なのだろう)

画家(そして、その作者の作品として売られるのだろう)

画家(だから俺のような名無し画家の模写でも、高値で売れるのだ)

画家(絵画の世界とは、えてしてそういうものである)

画家(“どういう絵か”よりも“誰の絵か”が重要なのだ)

画家(俺は仕事がもらえる。商人さんは金を儲けられる)

画家(この関係になんの問題もない。あるはずがない)


画家(だけど、俺だって本当は……)

画家(本当は――)





画家(“自分の絵”を描きたい!)


商人「やぁ、こんにちは」

商人「次の仕事なんですけど――」

画家「商人さん!」ガバッ

商人「なんですか、いきなり!? 土下座なんかして!」

画家「お願いがあるんです!」

商人「お願い?」


画家「俺は行き倒れていたところをあなたに助けられ、こうして衣食住と仕事を与えてもらいました」

商人「ええ、その通り」

商人「あなたは自分の絵が売れないことを悔やみ、自殺を図った売れない画家です」

商人「私はそのあなたを助け、その見返りとして、あなたは私のいうとおりに仕事をする」

商人「そう説明しましたし、そういう約束をしたはずです」

画家「おっしゃる通りです。本当にありがとうございます」

画家「ですが、ですが……」


画家「俺は模写ではなく、“自分の絵”を描いてみたくなったんです!」

商人「!」

画家「ワガママをいっているのは百も承知ですが、どうか自分の絵を描かせてくれませんか!」

画家「お願いしますっ!」

商人「……」

画家(やはり、ダメか……?)


商人「いいですよ」

画家「本当ですか!?」

商人「あなたもここで仕事をしていくうちに、色々と思うところがあったのでしょう」

商人「ぜひその気持ちを、キャンバスにぶつけて下さい」

画家「は、はいっ! ありがとうございます、ありがとうございますっ……!」


画家「……」サッサッ

画家「や、やった……完成だ!」

画家「誰かの作品の模写なんかじゃない、真の自分の作品が完成したんだ……!」

画家(売れなくてもいい……! 自分の絵を描いたことに意味があるんだ!)

画家(俺は“名前”じゃなく、“絵”で勝負するんだ……!)


画家「どうぞ、受け取って下さい!」

商人「おおっ、これは素晴らしい絵ですね!」

画家「ありがとうございます」

画家「とはいえ、俺のオリジナル作品では、きっと大した値段はつかないと思いますが……」

商人「いえいえ……ものすごい値がつくと思いますよ」

商人「私が保証します」

悪徳商人でもない限り、贋作はちゃんと贋作として売られるんだよなぁ
展示用レプリカとかそういう用途で需要がある


翌日の新聞記事――



≪現代最高の画家A氏、新作絵画を発表!≫

『自殺未遂をし、記憶喪失になっていた人気画家・A氏が、このたび新作絵画を発表した。
 A氏は“みんな俺の絵じゃなく、俺の名を買っているだけだ”と遺書を残し、
 飛び降り自殺を図り、自分の名前や経歴すら忘れてしまうほどの重傷を負っていた。
 その後しばらくは、自身の作品の模写の発表に専念していたが、ついに……』










END

名無しになっても名前からは逃れられなかったか…乙

いいオチだった乙

おおー!これはなかなか面白い話だね!

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