なぁ、なんだよこれ
僕は生まれたばかりの仔馬を思わせる内股で、ぼそりと呟いた。宇宙船・アポロ881号。881(やばい)ことが起こりそうな今回の海王星有人探査計画。案の定、ヤバイことが起こった。
早速だが、クルーを紹介しよう。僕の名前はデイビッド。デイビッド・ブラウン。右手の甲に内蔵してある小型PCで地球へ送る報告書を打っているナイスガイさ。
で、今僕の隣に立ってるヤツ……シラフでも赤ら顔のナッツ野郎。こいつの名前はテリー。テリー・インダストリ。宇宙船の操縦士だ。僕はこいつに500ドル借りている。返す気はないけどね。しつこいようなら、殴り倒す準備もできてる。こう見えて、僕はストリートファイトをかじったクチでね……
失礼。最後に艦長室でしかめ面して、好きでもないコーヒーを飲んでる爺さん。艦長のカーティス。カーティス・キャンディ。おっと、キャンディとついてるからってレディーみたいとからかっちゃダメだぜ。彼は少林拳を習っている。運が悪いと地獄行き。運が良くても天国で刺激のないクソ退屈な日々を過ごす羽目になる。くわばらくわばら。触らぬ神に祟りなし。
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拙者にも分からないでゴザルヨ。
テリーが瓶底眼鏡を中指で押し上げながら答えた。こいつ、ジャパンのサムライにハマってるらしくて、拙者とかゴザルとか気持ち悪い話し方をする。こっちで言う、ナードってやつ? いや分からんけどキモいことに変わりはない。
それ以上にキモいのが、僕達の目の前にある巨大なサンドバッグだ。比喩じゃない、ガチのサンドバッグが狭い船室を占領しちゃってるんだ。ファック。
しかもサンドバッグの表面は透き通っていて、中をサナダムシのような細長い生き物が物凄いスピードで、ウジャウジャ蠢いているんだ。ファック。
どうすりゃいいんだよ!
僕は叫んで宇宙船内をめたくそに殴ってまわった。なんか慣性の法則か作用反作用か詳しいことは知らんけど、僕の身体はまるでスーパーボールみたいに船室を跳ねた。そうそう、僕は幼い頃、ウンコの形をしたスーパーボールが好きで……
いや~はっはっは、デイビッド君は元気がよろしいですな~
艦長がコーヒーを噴き出しながら笑った。電気系がファックして辺りはたちまち暗闇に包まれた。シット。僕は手探りで自分の位置を確かめた。窓から見える地球は青かったけど、あの時の僕の顔はそれ以上に青ざめていたと思う。
おい! キモい物体どこに行きやがったんだよ!
僕は地元の高校で、触ったらアブナイ奴というレッテルを貼られていた。?きむしり過ぎて血の滲んだニキビっつーか、とにかくヤバイ奴だった。ギャングと繋がってるとか、クラスメイト全員孕ませたとか(失笑)あらぬ疑いかけられまくった。それでも僕は、ここにいる。努力して掴み取った栄光さ。ヤンキーでも努力すれば、どうにかなるもんさ。君達も、頑張りたまえよHAHAHA☆
そういえば、さっきの報告で訂正したいことがある。窓から見えていたのは、地球じゃなく海王星だった。色が似てるから間違えちゃうんだよな。iPhoneとAndroid間違えるくらいのミス。
デイビッド殿、懐中電灯を点けるでごじゃるよ。
あーよろしく。カチ。なんか点いた。テリーの痩せこけた顔が、ぼんやり闇の中に浮かんでいる。インキャ感増したね。っつーことで本題に戻ろうか。優雅にコーヒーでも淹れて、ハンバーガーをかじりながらね。
テリー、キモい物体がどこ行ったか分かるか?
うーむ、分からないでおじゃるなー。麻呂は近眼ゆえ、遠くの物体がぼやけて見えるのでごじゃるよー。
テリーの奴は宇宙船のドッキングなら天才的な腕を持つが、それ以外はからっきしなんだ。ファック。シット。僕はテリーの頬をビンタして叫んだ。
金は返さないからな! クソが!
え、えぇ~デイビッド殿ぉ~
う……うせやろ……?
まぁそんなセリフを吐きながら、艦長がこぼしたコーヒーを眺めていたわけだけど。拾ってくださいと言わんばかりの子犬みてーな目をしたテリー。誰もお前みたいなナッツ拾わないし、金も返さないから安心してスペースデブリになっていいよ。
おっと失礼。報告書、打つの疲れてきたから簡潔に〆るね。『僕達』は今、南大西洋沖約50kmのところに不時着し、漂っています。至急、救助ヘリを寄越してもらいたい。あ、キモい物体については気にしないで。かじったらなんか変な虫がうじゃうじゃ出てきたけど、あの程度なら環境に影響はなさそうだし。
ちょいデカめな外来種と思えば大丈夫だって。なんか指がボンレスハムみたいに腫れてきたけど、痛みはないし多分墜落時に指切ってそっから腫れたヤツだから問題ない。テリー? 知らん。艦長も姿がないな。とにかく救助ヘリ寄越してくれ。このままヤバい奴らと漂流なんてガチごめんなんで。
以上
デイビッド・ブラウン
終わり!
乙
意味わからんけど好き
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