見渡す限りの砂・砂・岩石、動くものは何にもない。
やってくるのは夜と朝だけ、雨も風も最後に見送ったのはすごく前な気がします。
遠いところから時々、大きい物が落ちた音の欠片が飛んでくることもあるけど
きっと風化したビルの断末魔です。
私のお仕事は待つことなんです。誰かは存じ上げません。
生き残った方かもしれないですし、空から降りてきた方かもしれませんし、バラエティープログラム風に言うとそこの皆様かもしれません。
私は教えてもらったことを全てやってこられた方におつたえる。そのために待つんです。
年中無休で年中無給、福利厚生は燃料供給のみの24時間営業という、皆様にとってはかなり厳しいお仕事でしょうが
私はそんなにつらくありません。理由は簡単です。このお仕事をするためにうまれたのですから。
それに私は体が大きいので皆様より近くで太陽や月を見ることができます。
もしも私に手があったなら、それこそ掴めそうなほどにです。
キュムキュムという砂の擦れる音がしました。
音のする方を見ましたが、あたしの目は自慢の耳ほどよくはないようで音を出してる方を捉えることはできません。
とてもとても遠いところからですが、確実にこちらに向かってきています。
だからといって油断はできません。
こちらに着く前に気が変わったとUターンされてしまっては困ります。
私は父に教えられた通りに、あらゆる生き物が引き寄せられる希望の色をした灯りをともしました。
待ち人がこちらに来るのを無い首をながくして待ちました。
それから何度目かの朝、彼はたどり着きました。
ある程度の予想はついていましたが、やはりそうでした。
私のところまでたどり着いた少年はあたしの同胞でした。
いえ、この言い方だと誤解が生まれますね。少年の姿をした待ち人は私と同じ血の通わない生き物でした。
彼は私が知りうことを伝えつべき相手ではありません。
ですが現状の把握のためにも私の知らないここから見えない世界については聞かなければいけません。
「おおーいだれかいないかーい」
少年はその硬い手でゴンゴンとあたしを叩いています。どうやら生き残った方を探しているようです。
「いますよ」
彼はその大きな目をことさら大きく見開いた後に嬉しそうに笑うとキョロキョロと顔を動かしながら
「どこだーい」
と続けました。
「だからここにいますよ」
「建物の中なのか?どこから入ればいいんだい?」
「いや、だから目の前にいるんですって」
「いや、だから見えるところに出てきておくれよ!」
「いや、だからですねー」
「な、なるほど…この巨大な建物自体が君だったとは、とんだ失礼をした」
少年は私の設計時に後方部とされた、皆様でいうところのお尻に向かって丁寧なお辞儀をしました。別にいいんですけど。
「君があらゆる英知を記録しているのも、それを誰かに伝えようとここで待ち構えているのも分かったが、一つ質問をしてもいいかい?」
「どうぞ」
「君は僕のことを知っているかい?」
言われてみれば彼の外見は私の中に記録されている無機生物のどれにも該当しません。
「ごめんなさい。登録がなされていないみたいです」
「そうかい…ありがとう…」
目に見えて少年はシュンとしました。
「では私からは質問を二つ。どうしてそんなことを聞いて、ガックリと肩を落とされたのですか?」
「君は全ての英知を記録しているといったろう?僕はその真逆で何も知らないんだ」
「何も知らないと申しますと?」
「言葉の通りだよ。目が覚めたら瓦礫の上に寝転がっていたんだ。おぼえていたのは誰かを探さなくちゃって事だけ、それ以外は何もおぼえていないんだ。もしかしたら最初から知らなかったのかもしれないけど」
「そうでしたか。」
「あ、あとガッカリなんてしていないよ。僕のことを知らないのは残念だと思ったけど、こうやってしゃべれる相手が見つけられてうれしかったよ。ここに来るまでに本当に誰もいなかったから」
彼がどれだけ遠くからやってきたかは分かりませんがやはり生き残りがいる可能性は極めて低い。ということだけが分かりました。
「そうでしたか。もしかしたらですが、あなたは捜索救助用に作られたのかもしれませんね」
「え?僕について何か知っているのかい?」
少年は目を輝かせて私を仰ぎ見た。やはり私は彼を知らないです、こんなにもコロコロと表情を変える無機生物は絶対に登録されていません。
「いえ憶測です。誰かを探さなきゃという使命感だけが残っていたというからそれがあなたにとって一番大切な使命と考えたら可能性が高いかと」
そこまで言い終えると彼は、ほおーと感心したようにうなった
「ありがとう!君は素晴らしい人なんだな、賢くて人に希望を指し示すのが上手だ。フフ探索救助か…かっこいいな…」
私に感覚は無いはずですが何かがむずむずするのを確かに感じました。
その日の夜、彼は私の近くで眠りました。
永遠の眠りとかではなく皆様と同じように休息という意味での眠りです。
私も皆様と同じ思いです。無機生物の癖に眠るんだです。
いい大きさの岩を枕にすーすーと一定のリズムの寝息をたてています。
どういう理由かはわかりませんが、その日の月はとても遠く高いところにある気がしました。
「というわけで君を探索救助の拠点にしたいんだ」
「そうですね、私の中には記録と共にそれなりの非常食が保存されていますし、能動的に待つことができますから反対する理由はありません」
「そういってくれてよかった、僕は誰かと同時に記憶を探すこともできるし、
君に帰って来た時に色々な事を教えてもらえるし一石いっぱいだ」
「一石二鳥です。昨日教えたでしょう?」
「そうだったかい?まあ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
数日後、彼は一枚の鉄の板を持って1人で帰ってきました。
「お帰りなさい。どうでした。」
「近くに街があったんだ。砂の浸食は始まっていたけど建物もかなり残っていたんだ」
「近くに街が残っているなんて知らなかったですね。誰もいなかったのは残念ですが」
「そうなんだよ…だけどこの板を見ておくれ」
「何かと思えば記憶媒体ですか。エネルギーが切れているのか壊れているのかわからないですね。」
「記憶媒体?何故か分からないがこれを拾わなきゃと思ったんだ。」
「あなたの記憶に何か関係があるかもしれないですね。
ょっと右側に歩いて下さい。そうそうその辺りです。そこにそれを入れて下さい。」
彼は素直に私の中にそれを入れてくれました。うーん充電はできる。だけど殆どの回路が潰れていてアクセスできるのは…画像データが少しだけ無傷で残っています。
「画像?データというやつが残っているのかい?それはどんなものなんだい?」
「こんなものです」
残されていたデータを表示すると少年は小さくおおっと驚いて見せた。
画像はロウソクを立てたケーキを笑顔の人たちが取り囲んでいるものでした。おそらくケーキの正面で一際嬉しそうに笑う女の子の誕生日を切り取ったものでしょう。
「誕生日?とはうれしい物なのかい?」
「そうですね。年に一度生まれてきた日を誰かと祝えるというのはうれしい事なんでしょう」
「そうか…そうなのか…」
彼はそうか…と繰り返しながらうなずいていた。
その日の夜、少年がこっそりと起きだしてどこかに行きました。
彼が帰って来たのはやはり数日後でした。写真に写っていた女の子のような大きく輝く笑顔と曲がったバケツを抱えていました。
「おかえりなさい。それもあなたの記憶に関係のあるものですか?」
「ううん。違うんだよ」
そういいながら彼はバケツを私の目の前に置きました。バケツの中には砂がたっぷりと入っていて真ん中に針金が刺されていました。
「今日を僕らの誕生日にするんだ!ケーキとロウソクは見つからなかったけど、似たものはあったから」
「フフそうですね、誕生日祝いましょうハッピーバースデー」
「あ!」
「どうかしました?」
「ううん。君も笑うんだなって…うれしくなったんだ」
「どういう意味ですか?」
「どういう意味だろう?」
それからも彼は一人で誰かと記憶を探し続けて、私は彼と誰かを待ち続けました。
「誕生日についてもっと教えておくれよ」
少年はどこかに行って私に帰ってくるたびに遠くに行っているのでしょうか。
「そうですね、おいしいものを食べたりとか」
帰ってくるまでに時間がかかるようになりました。
「ぼくらは日の光で動けるから食べ物はなあ」
だけど、二人で決めた誕生日には必ず帰ってきてくれました。
「歌をうたったりもしますね」
誕生日だからといって特別な事をするでもなく二人で一日中、
ケツに針金の刺さったケーキの前でしゃべるだけですが。
「歌というのは君がときどき、ぼくがいないと思ってる時にするリズミカルな独り言であってるかい」
いつからか私も儀式的なそれが楽しみになっていました。
「盗み聞きは感心しませんね。もう教えてあげません」
「どうして怒るんだい?ごめんよ」
「別に怒っていませんよ。あとは…贈り物をしていたようですね」
「おくりもの?なんだいそれは?」
「相手が欲しい物やもらったらうれしい物を上げる事みたいです」
「なるほど…あ!君の欲しいものは何だい?」
「そうですね、欲しいというより見たいものですが花ですかね」
「それは何だい?」
「まだこの世界が今みたいになる前に生息していた植物の仲間で
色んな色があってきれいなんですって」
「ふうむ…植物か…むつかしいな…」
「いいですよ。探さなく誕生日はあなたが帰ってきてくれるだけで十分ですよ」
17本目の無機質な針金が刺さるべき場所には、その針金で作られた造花が刺さっていました。
「これは…どうしたんですか?」
「前回探索に出かけた街にこれの大きいやつ、そう銅像があったんだ、それで君の言ってた花に似ていると思ったんだ。こういう形の方が君が喜んでくれるかなって思ったんだよ」
「そうですね、とても…とてもうれしいですね。」
「よかったよ!何回か前の誕生日に花を見てみたいって言ってたから、偽物だけどよかった…うん…よかった」
彼の顔から気の抜けた笑顔が消えました。とてもとても真剣な眼で私の事を見上げていました。
「この前さ、北にすごく大きな崖を見つけたって話しをしたろう?」
「ええ、おそらく海があったはずの場所ですよね。」
「うん、それを越えたらもっと遠くに行けて、探している誰かも見つかるかもって思ってるんだ」
「……………ええ、その通りだと思います」
「しばらく帰ってこれないと思うんだ」
「……………ええ、その通りだと思います」
「でも、誕生日には帰ってくる。うん、これは絶対に約束するよ」
「フフどうしたんですか?あらたまったりして、大丈夫ですよ。あなたは必ず帰きます」
「そうだよな。いつもみたいに勝手に出て行って勝手に帰ってくればいいのに。
ごめんよ。変に心配させてしまって」
「本当です。あなたは寂しがりですね。
帰ってこなかったらこっちから探しに行きますからね」
「フフ、君はここから動けないんだろう。絶対に帰ってくるから。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
18本目の針金は刺さりませんでした。
19本目の針金は刺さりませんでした。
20本目の針金は刺さりませんでした。
30本目の針金は刺さりませんでした。
50本目の針金は刺さりませんでした。
100本目の針金は刺さりませんでした。
214本目の針金は…二人じゃないので刺しませんでした。
あたしは罪を犯しました。アクセスを許可されていない情報に不正に侵入し
動かせる体の設計図を盗み出して
あろうことか長期の記録保持の為に作られた人類の英知を守るためだけの、私の体のパーツを無断で流用してあたしは動かせる体を作ったのです。
エネルギー源はそのまま頂きましたが無理矢理作り上げたこの体がどれだけの時間持ってくれるかわかりません。
あたしは英知の残骸を置いて北へと向かいました。
彼の見ていた空はこんなにも高く彼の見ていた大地はこんなにも荒廃していたのかと思い知らされました。
どこまで行っても砂・砂・がれき
焦げた建物の残骸の群れの中をただ一人、彼は歩いていたのです。
この小さな体ではビルの崩壊に巻き込まれたらひとたまりもありません。
遠くに聞こえていた大きい物の落ちる音の欠片がこんなにも大きいとは思いもしませんでした。
永遠に続くように思える太陽と月と星しかない世界をあたしはただただ北へ向かいました。
長く歩きましたが本当に誰もイません。いいえ名にもいません。小さなむしはおおおろか一本の雑草さえも砂の間には存ざいしていません・
でん子系統に以上をはっけんしました。ですが同市用もありません。
バグが生じただけならジコシュウフクもかのうでしょうですますが、物理的な破損破損はんんそです。
あい。た。い彼にあいたい
ああハンダンヲ間違えました。
い動距離をへらすTTMMに
たかいビルのあるエリアをとおったけっか
いたいめをみました
供給用のケーブルのがはキズが入ったようですですですですです。
時折 意識がとぎ れるようになりました。全人類を裏切った罰が下っているのでしょうね。
キロク系統およびkI憶系とうがおかしくなていないならば今日は2p11さや6回目の誕生日、まるまる3んカ月も眠っていたようで。
たたつたttkk
視覚KEITTTTTTTTTまでおかしくなtったようだす。。。。
あの日の姿のままの彼が寝っ転がっています。
彼はあたしに気が付くと、その大きくて綺麗な目に一杯涙を貯めました。
やはりカメラが壊れたようです。潤んで彼の顔がぼやけます。あたしたちは泣けるようになんて作られていないのですから
でもそれでもいいと思いました。あたしは彼に抱きつきました。
「やっぱり君なんだな、どうやってここまで?」
涙声というんでしょうか。震えてはいますが彼の声です。耳もおかしくなってくれているようです。
「うん。うん」
話したい事がいっぱいあったのになにもでてきません。多分心がいっぱいなんです。
熱くて痛くて苦しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて
「約束守らなくてごめんよ。」
「ううん。いいんです。いいんですよ」
「あたしのお仕事は待つことですから」
おわり
すごくいい
乙えがった
他にも何か書いてる?
>>37
興味を持ってくれてありがとう
ガール「あたし」で検索してくれたらいくつか見つかります。
一つはずれが混じってるけど
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