男「異“学”力バトルゥ?」 (20)

担任「これより新入生“実技”実力テストを行います。これより自分の得意教科を“発動”して戦いなさい」

担任「では、始め!」パン!



メガネ「僕の得意科目は数学! 特に図形!」

メガネ「見よ! 僕自身の手刀を切れる角度、刺さる厚みに変化させる能力! 角度は30度 厚さは0.4センチ!」シュバッ!

おさげ女「私の得意科目は歴史! 特に幕末誌!」

おさげ女「幕末四大人斬り、河上彦斎の片山伯耆流を模倣したこの剣術を食らいなさい!」ズバ――ッ!

[ピザ]「[ピザ]の得意科目は家庭科! 特に調理実習[ピザ]!」

[ピザ]「酸いも甘いも知り尽くした、[ピザ]の料理は完全食! この机でさえミシュランも驚く激ウマ料理にしてみせる[ピザ]!」スパパーッ!


男「なんだこれ」

友「おい男! お前戦わないのか?」

男「ちなみにお前の能力は?」

友「保健体育。特に”心の健康(メンタルヘルス)”。自分の精神状態を常に一定に保ち続けることで、あらゆる精神攻撃を無効にするんだ」

男「……なんだこれ」

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――4月 とある進学校 入学式

「続いて、生徒会長挨拶」

生徒会長「新入生諸君、入学おめでとう。私がこの学校の催事を取り仕切る生徒会長だ」

生徒会長「これから我が校で良い学校生活を送ってくれたまえ」

生徒会長「――さて、ここで新入生諸君らに質問がある」

生徒会長「より良く、充実した学校生活を送るためには何をすべきであろう? 分かるかな」

ザワザワ エーナンダロー キニナルネー


男「……」ボケー

幼馴染「ねえ、男くんはなんだと思う?」

男「知らねー」ホジホジ

幼馴染「もうっ、男くんたら」

友「こういう時くらいピシっとしとけよなー」

男「おー」

生徒会長「教えよう。充実した学校生活を送るためにすべきこと。それは――」

生徒会長「勉学であるッ! 1に勉学、2に勉学! 34も勉学、5に勉学!」

生徒会長「学ぶ姿勢を常に忘れるべからず。これは全てに通じること」


男「アホくさ」ホジー


生徒会長「勉学を極めることで高校を卒業した後、新たな道へ進むための足掛かりを作ることができる」

生徒会長「全てを極めなくても良い。何か一つでも極めることで諸君らの武器になるのだからな」

生徒会長「そう! この私のように!」

ジジ…


男「お?」


バチバチバチバチッ!

ワアアアア… スゲー ナンダコレー


生徒会長「私の手から放たれる光が見えるだろうか」

生徒会長「私の得意科目は化学! 特に電気分野に自信がある。私はこの分野に以前から興味があり、毎日これについての知識を深めた」

生徒会長「そして、その分野を極めたと思った時! このように身体に溢れる静電気、生体電気の流れを操ることができるようになっていた」


男「そうはならんでしょ」

生徒会長「諸君らにも私のような能力が存在している!」

ザワ… エーウソー ソンナワケナイヨー

生徒会長「この能力は自覚が必要だ。自分がどんな能力を持っているか気づかなければ発動することはない。現に自らの能力を死ぬまで知らないまま暮らす者もいる」

生徒会長「だが、己が何者か知らずに生きていくことに何の価値がある?」

生徒会長「我が校の方針は生徒の勉強を支援し、自身を知り能力を伸ばすことにある!」

生徒会長「――自分の能力を知るためには、自分の能力を知る必要がある」

ドウイウイミダロー ワケワカンナイ

生徒会長「ははは、少し難しく説明をしてしまったようだな。もっと簡単に言おう」

生徒会長「自分の能力を知るためには、自分の得意な教科や分野を知ることだ」

生徒会長「性質上、能力の内容は勉学の延長線上に存在する。得意分野を自覚し伸ばすことで発動が可能だ」

ワー ホントダー デキター! オレニモデキター! ワタシモー!

生徒会長「おお。さっそく能力が発現し始めたようだな。まだ発現していない諸君らも自身を知り、能力を磨いていきたまえ」

生徒会長「以上で挨拶を終わる」

男「手品だろ」

友「幼馴染ちゃんはできた~?」

幼馴染「うん、できた!」

友「どれどれ~」

~♪ ~♪

幼馴染「わたしねわたしね、教科の中で特に好きなのは~やっぱり音楽!」

幼馴染「そう気づいたら、これができるようになってたの!」

友「おおっ! 鍵盤もないのに指を動かすだけでピアノの音が!」

幼馴染「えへへ~」

友「何だか癒される~」

幼馴染「だよねだよね! だからわたしは~この能力を“音楽療法(アンビエント・ヒーリング)”と名付けることにしました!」

男「へー」

友「男は?」

男「俺? まだ、分かんない」

友「え~っ、分かんないってこたあないだろ」

男「ま、そのうち出るだろ」スタスタ…

友「おい~」

期待

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男(なんだこれ)スタ…

男(おかしいだろ、おかしすぎるだろ。なんだよ能力って。漫画かよ。あり得ない。あり得ないだろ)スタスタ…

男(あり得ないだろ!!)スタスタスタ…!

男(なんだよなんだよみんななんでそんなに順応性高いんだ!? 驚くだろフツー)スタスタスタスタ

男(あんなの知らねえ! あんな超能力世間が知ったらぶった曲げること間違いなしだってのに何でみんなこんなにフツーにしてるんだ!?)スタスタスタスタスタ

男(何でだよ!!)スタスタスタスタスタスタスタスタ――

ゴツン!!

男「あイッ――たァ!」

保険の先生「あらごめんなさいっ! 私ったら前みないで歩いてたから……」

男「いたたぁ……」

保険の先生「あ、たんこぶ! あ、あらどうしましょう……そ、そうだわ!」

保険の先生「”いたいのいたいの~とんでけ~っ(マジカル・プラセボ)”」シュワワワワ…

男「あ、痛みが引いた」

保険の先生「良かったぁ。キミ、先生がよそ見しながら歩いてたってことは他の先生にはヒミツよ」

保険の先生「みんなに私がドジってバレちゃうから!」

男「あ、はい」

男(教師まで能力使えるのかよ)

――教室

男(ま、どうにかなるだろ。そのうち勝手に能力が出るはずだ)

男(テキトーで良いんだよテキトーで。流されるがままに、楽~に行こうぜ)

男(力抜いてだらーっとやってた方が人生うまくまわるってもんよ)

幼馴染「また男くんがだらだらしてる~」

友「ったくもー。お前、自分の能力分かったのか?」

男「その内分かんだろ」

友「むう」

男(実際能力が使えなくてもフツーに学校生活は送れた)

――次の週

友「能力そろそろ分かったか?」

男「分かんねーよまだ」

――また次の週

友「能力」

男「まだだよ」

――またまた次の週

友「能」

男「まだ」

――またまたまた次の週

友「n」

男「まだ」

男(5月になった)

男(4月中、俺と同じく能力を発現できなかった同級生達もだんだん減っていった)

男(……マズいのかな)

友「おい男。能力は?」

男「――それって本当に必要なものなのか? 生徒会長だって自分の能力を知らないまま暮らしてる人だっているって言ってたし」

友「そりゃあまあ絶対に必要なものとは限らないかもしれないけど」

幼馴染「でもでも~あれば楽しいと思います! 自分に何ができるか気づけるってことは自分を知ることにもつながるし!」

男「自分を知るって……そんなことしてどうなるってんだ?」

幼馴染「それは……」

男(なんだ、二人とも分かってねーじゃん)

男「俺、このままでいいや」

男「いいんだ」タッ

幼馴染「あっ、男くん!」

友「大丈夫かな、アイツ。新入生実力テストが近いってのに勉強もしてないみたいだし……」

男(自分の得意分野なんか知らなくたって生きていける)

ホラ! コレガオレノノウリョク! オレノモミテクレヨー! オレモオレモ

男(なんだよ、みんなして能力使って遊びやがって)

男(つまんねー)

男(次の日、俺のクラスでは俺以外の全員が能力を使えるようになった)

男(そこから数日後、事件が起きた)

男(いや、他の奴らから見れば事件と言うほどのことでもないのかもしれないけど)

男(とにかく、俺にとってあの出来事はケッコーな事件だった)


――体育の時間

体育教師「――ところで、お前らの中でまだ能力を発現してない奴がいるらしいな」

体育教師「職員室でも話題になっていてなあ」ガハハ

友「!」

男「……」

体育教師「誰なんだ?」

シーン

男(俺に視線が集まってる)

体育教師「そうだ、お前ら。ここで自分の能力を俺に見せてくれないか?」ニヤニヤ

男「……」

男(俺は頭の中が真っ白になった)

男(ここで俺は気づいたんだ)

男(口では『このままでいい』と言っておきながら、自分が能力を持っていないことに焦っていたんだってことに)

男(クソ……クソ……)


友「先生、やめません? そういうの」ギロ

体育教師「あ、ああ」

体育教師「しかし、入学して一か月も自分の得意分野を見つけられずにいるなんてそんな奴いるんだなあ」ガハハ

男「……」

体育教師「俺が高校生だった頃は既に能力も開花してラグビー部創設初の花園まで連れて行ったもんなんだが」

――その後の帰り道

男「……」スタスタ…

友「なあ男……」

男「ほっとけよ」

友「なあ……」

男「思ってるんだろ」

男「お前も幼馴染もクラスメイトの奴らも思ってるんだろ。俺の事”能無し”って」

友「そんなワケねえだろ!! 俺は……幼馴染ちゃんだってお前のことずっと、ずっと心配して」

男「……」ダッ

友「おい! 待てよ!!」

男(クソ。まただ。自分が疎外感を感じているからってその場から逃げちまった)

男(このままじゃいけないってことぐらい分かってる)

男(こんな、こんなはずじゃなかったのに)

男「――ッ!!」ダダッ

努力しててダメなら同情出来るが、この男は最初から
現実逃避してなんにもやってなかったから同情出来ないな

――ゲームセンター

ピピッ ピコピコッ バシューッ

男「……」

ピコピコッ ピコピコッ

男「……」カチカチッ カチッ

ピピ―ッ

ゲームクリアー!!

男「……」

男「つまんね」

男(いいのか? テスト前にこんなことしてて)

男(良いワケ……ないよな)

男(でも、やる気が起きねー)

男(俺の、俺の得意なこと……俺の得意なことってなんだ……なんなんだ……?)

男(そんなもん、分かんねーよ)

男(だって――)

ピコピコ…

――前年度 3月

中学担任「男、指定校推薦受かったそうじゃないか。おめでとう! さすがだな!」

中学生男「はあ、ありがとうございます」


男(俺は小学校の頃、”神童”と呼ばれていた)

男(テストは満点。それを取る度、周りを俺を褒め称えてくれた)

男(小学校の勉強は大して難しくは感じなかった。教師の話を聞くだけで満点を取るのは簡単だった)

男(この程度で褒められるのは不思議だったけど、まあ悪い気はしなかったし俺はその神童の称号にどっかりと座ることにした)

男(校内では頭がいいキャラってことで通っていた。それだけで周りは俺に対して都合よく一目置いてくれていた)


男(『褒められるから』それくらいしか勉強する理由がなかった)

男(中学になって状況は変わった)

――男中学1年生 夏

「期末の順位張り出されるってよ!」「見てみようぜ!」

友「緊張するなあ」

幼馴染「ちょっと怖いよ~」

男「怖いなんてこたねーよ」

幼馴染「だって初めての期末試験だよぉ。良いスタートダッシュきりたいじゃん~」

男「まあ、どうにかなるさ」

友「お前は”頭イイ”から良いとこいるだろうけどさあ……」

男(楽勝だろ、と内心思っていた。1位はムリでも5位以内には入ることができる。そう踏んでいた)

男(普段通り勉強した)

男(周りの奴らのテストに対する焦りの言葉には何の感情も抱かなかった)

男(その結果がこれだ)


1年1学期期末試験結果 /120人

9位 男

12位 幼馴染

19位 友


男「あ」

男(神童は死んだ)

男(1位を取ったのは同じ小学校出身の奴だった。名前も顔も覚えていない隣のクラスの知らないアイツ)

男(俺はそいつらに負けた)

男(アイツはテストに備えて、テスト範囲が発表されてからその教師に分からないことを質問したり、授業のノートをさらにまとめたりしていたらしい)

男(なるほど。違いはそこか)

男(努力って、そーするもんなんだな)

友「おおっ、すげーじゃん。10番以内だぜ、男! ほら!」

幼馴染「すごいねぇ~!」

男「え?」

友「嬉しくないのかよ」

男「ああ、まあ」

男(嬉しくなかった)

男(家に帰って親に成績のことを教えた)

男(勉強のことに関しては少し厳しめの親だ)

男(小学生の頃は俺が”神童(笑)”だったから何も言わなかったが今回ばかりは何か言われるかもしれない。そう思った)

男母「まあ、そうね。よくやったわね」

男父「1位じゃないのか」

男(怒られもしなかった)


男(褒められもしなかった)


男(そもそも中学に入ってからというもの、俺のアイデンティティだった”頭イイ”キャラというものは消えてなくなってしまっていた)

男(褒められることもなくなった)

男(当たり前だ。勉強ができるということが学校生活を送る上での全ての前提になっていたからだ)

男(俺が勉強する理由はなくなってしまった)

男(だが、だからといって勉強をやめるのは癪だった)

男「”頑張る”……か」

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