平成最後の夏、好きな人と一緒に殺した。 (27)

ドッジボールに夢中だった小学生時代、いつか自分がストーカーになるだなんて夢にも思わなかった。

犯罪者はテレビや新聞の中に存在するものであり、決して自分自身がなるものではなかったはずだった。

しかし、僕はストーカーになった。

盗み見て、盗み聞いて、盗み取ろうとする、真っ当で正当なストーカーに。

不幸中の幸いだったのは。

あるいは、黒を灰色で塗り潰せたというべきか。

自殺を試みた彼女を、すんでのところで僕が救った。

ヒーローは、白馬に乗った王子様ではなく、ストーカーだった。

「僕も、君と一緒に死んだ方がよかったのかもな」

倒れた彼女にそう言い残して、去ろうとした時だった。

足首を掴まれ、言い渡された。

「その命を私に捧げてください。殺したい人がいるんです」

ヒロインは、城に囚われたお姫様ではなく、これまた凶悪な犯罪者であった。

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「胸とお尻、どっちにかけて欲しいですか?」

僕の奢りで買ったミネラルウォーターの蓋をあけると、紺色のワンピースを着た女の子が尋ねてきた。

「胸がいい」

「わかりました。さぁ、そんな離れてないで、もっと近くに来てください」

僕は彼女の正面に歩み寄った。

「いきますよー。はい」

彼女は腕をあげ、じゃばじゃばと自身の胸元に水を垂らし始めた。

冷たさが沁みたのか、堪えるような表情をした。

「僕にかけるのかと思った」

「自分に好意を抱いていてくれる人に、そんな愉しむような真似はしませんよ」

「ただのストーカーだけどな」

「ただのストーカーですけどね」

「なんでこんな真似をしたの?」

「何となく喜びそうだと思いまして」

「うん。今凄い喜んでる」

「よかったです。何せ、凶悪な犯罪者になって貰うのですから、もっともっと私を好きになってもらう必要があるのです」

「これ以上ないくらい君のことを偏愛してるよ」

「でもまだ心中はできないでしょう?あるいは凶悪犯罪も」

「まぁ」

「ほら、まだまだです」

「僕なら成果報酬型にするけどな。人を1人殺すたびに、ご褒美をあげるとか」

「やらしいこと考えてるでしょう」

「セッ。別に考えてないよ」

「残念ながら、私がお願いするようなことをしてもらったあとは、のこのこ宿を借りる余裕なんてないと思います」

「何をさせるつもりなの?銃の乱射でもさせるつもり?」

「それは被弾が怖いですね」

「セッ」

「乱射しないでと言っているでしょう。それこそ被弾が怖いです」

「人は人をどこまで好きになれるんだろうか」

「それを確かめる上で、その人が好きな人のためにどれだけ世界を敵にまわせるか、というのは良い指標になりそうですね」

「犯罪で気持ちを示せるの?」

「女優に振り向いて貰いたいがために、大統領を殺そうとした人がいたじゃないですか」

「本当に殺してたら、女優はその人を好きになったのかな」

「それはもうメロメロになったはずですよ。無我夢中です。腕を組んで、お風呂に入るときもトイレに行くときもずっと離れなくなるでしょう」

「またそうやって僕に犯罪をそそのかす」

「既にストーカーじゃないですか。立派な犯罪者です」

「そうか。僕はもう犯罪者だったのか」

「あなたが人類の半分程を消しとばしたあとに、ストーカーをしていたことを世間に公表します」

「余罪がいらない規模だよ」

「ところで、一緒にトイレに行きたいんですね」

「余罪の追求をしないで」

「愛と恋の違いってなんでしょうね」

「いきなり定番な問題だな」

「本当に定番なんでしょうか。高校や大学で友達とこんな話題をしたことがありますか?」

「ないけど、ネットによく名言みたいなの溢れてるじゃん」

「定番や常識は、実は自分が毎日考えているだけで、当然他の人も同じように考えているだろうと思い込んでるだけかもしれませんよ。独りよがりの時間を突き詰めたことによる常識の誕生です」

「定番と常識って何が違うんだろう?」

「絶望的なまでに興味がわきません」

「恋と愛の違いはなんだと思う?」

「うーん、あなたから教えてください」

「恋はいつでもどこにでもあるありふれた事柄のこと。愛は一般人が共通に持っている知識や思慮分別のこと」

「定番と常識から早く離れてください」

「恋は五日間洗ってない身体を喜んで舐めること。愛は嘔吐物をジョッキで飲めること」

「離れ過ぎです」

「俺はいつ人を殺せばいいの?」

「その時がくればわかります」

「わかった」

男はバッグの中からボールペンを取り出すと、肩を怒らせて揚々と女に向かって歩き出した。

「ストップストップ。間違いその1、今じゃありません。間違いその2、私じゃありません」

「ほら、こういう誤解が生じるかもしれないから、もったいぶらないで教えてよ」

「男の人は結論を急ぐというのは本当ですね。困ったものです」

「もったいぶって何の意味があるのさ。時間の無駄だろ」

「好きだと思った瞬間に好きだと言えましたか。うじうじうじうじ物陰から見ているうちに、言葉にしなくても好意は伝わっているだろうと思いませんでしたか。ストーカーこそ最ももったいぶった重たいぶちたいタイプだと思いたい」

「自分を省みずごめんなさい。でも最後のラップみたいなのはよくわからなかった」

「胸が乾いてきました」

「いる?」

「ミネラルウォーター差し出さないでください。喉じゃなくて胸が乾いたんです。また私を濡らそうとするんですから」

「あっ、ボイスレコーダー忘れた」

「どこの部分を録音しようとしたのでしょうか」

「それにしても夢みたいだ。長年ずっと追いかけてきた人とこうして話してる。それどころか、もっと好きになるように協力してもらってる」

「下心がありますけどね」

「僕の身体目当て?」

「殺人教唆です」

「できるかなぁ。ストーカーであること以外は真っ当な人間だからなぁ」

「私のこと殺したいって思ったことは?」

「ないよ。好きな人がいなくなって何の意味があるのさ」

「やっぱり真っ当なストーカーですね」

「胸が乾いてきました」

「いる?」

「ミネラルウォーター差し出さないでください。喉じゃなくて胸が乾いたんです。また私を濡らそうとするんですから」

「あっ、ボイスレコーダー忘れた」

「どこの部分を録音しようとしたのでしょうか」

「それにしても夢みたいだ。長年ずっと追いかけてきた人とこうして話してる。それどころか、もっと好きになるように協力してもらってる」

「下心がありますけどね」

「僕の身体目当て?」

「殺人教唆です」

「できるかなぁ。ストーカーであること以外は真っ当な人間だからなぁ」

「私のこと殺したいって思ったことは?」

「ないよ。好きな人がいなくなって何の意味があるのさ」

「やっぱり真っ当なストーカーですね」


「そろそろお開きにしましょうか」

「そうだね」

「次はいつ会いましょうか。連絡先を交換しておきたいのですが」

「もう知ってるから大丈夫だよ」

「それはよかったです」

「へへっ」

「いえ、よくないですよ。なんで知ってるんですか」

「ストーカーだから」

「そうですね。ストーカーですものね。それではあとで連絡ください」

「わかった」

「今日はありがとうございました。それでは、また」

「うん、またね」

男と女はお互いに手を振った。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……なんでついてきてるんですか」

「ストーカーだから」

「もう」

殺ったぜ。 投稿者:変態糞ストーカー

孤独の共有。

それは勘違いされがちなものである。

それは無理があるものである。

限りなく黒に近い灰色の青春を過ごしてきた人生で。

それを乗り越えて、自分に優しくしてくれる人達に出会ったとしても。

あの時、独りぼっちで過ごした時の感情は、誰にも伝えることはできない。

他人は愚か、未来の報われた自分さえ、本当の意味で当時の負の感情を呼び起こすことなどできない。

この人だけは自分の孤独をわかってくれる。

そんな人は、いないのだ。

心揺さぶる音楽は、私のために奏でられたものではない。

切ない物語は、私に向けて書かれたものではない。

やさしいあの人は、私のために生まれてきたのではない。

共有できないが故に、孤独なのである。

掟その1「ストーカーは、好きな人に触れられない」

孤独を持つが故の恩恵があるとすれば。

私は、あなたの気持ちをわかってあげられないという、理解者との出会い。

いい感じに狂ってやがるぜ

「3億円くらいでしょうか」

「生涯賃金の話?」

「殺人の依頼料の相場です」

この前と同じ夕方の公園に着くと、女はブランコに乗りながら尋ねてきた。

「何か理にかなった算出方法はないでしょうか」

「どうしてそんなの知りたがってるのさ」

「あなたにお支払いしなくてはならないでしょう」

「君が俺に数億円くれるってこと?」

「お金を集めるのは無理なので、それ相応の対価を払おうと思いまして。あの、どうして急に前屈みになったのですか」

「セッ。やましいことを考えたから」

男は慌ててとなりのブランコに座った。

「でも、確かにそれは的外れな考えではないかもしれません」

「というと?」

「アメリカでモデルをしていた女性が自分の処女をオークションに出したことがあるんです。3億円で落札されたと聞いたことがあります」

「すっげぇ金額」

「そのオークション行為が全世界に知られてしまうというデメリットもありますけどね」

「おかげで納得もできたわ」

「何がですか?」

「童貞であることをどうして男は卑屈に思うのかだよ。中高大学と、同い年の男達が数億円の価値を手に入れてる一方で、自分はいつまでも孤独なままなんだから」

「単純換算はできませんよ。あなただってアメリカのモデルの処女よりは、3億円の方が欲しいでしょう?」

「ちら。相手にもよるからな。ちらちら」

「はぁー。普段は目も合わせてこないのに」

「3億円相当の処女の依頼で僕が人殺しをする話に戻そうか」

「さりげなくそうやって、私が処女であるか確認しようとするところが童貞らしいですよね」

「さりげなくそうやって俺が童貞であることを確認しようとする」

「確認ではなく確信です」

「…………」

「卑屈に思う必要なんてないですよ。安心してください、私も童貞ですから」

「えっ?ついてるの?」

「エイプリルフールの冗談です」

「もう7月なんだけど」

「友達で稼いだお金を全部性産業に費やしてる男がいてさ」

「その話題気になります」

「この前聞いた時はさ。ソープランドで1回3万円、キャバクラで3時間2万4千円、レンタル彼女で3時間2万1千円使ったって言ってた。細かい追加料金も他にあったらしいけど」

「さすがにその分野には明るくないのでよくわかりませんが。何か気になるところがありましたか?」

「女性のレベルもそれぞれ異なるんだろうけどさ。それにしても、値段に大差ないなって思ったんだよ」

「確かに金額差は少ないですね」

「キャバクラで大金注ぎ込んで本番まで持ち込もうとする人は、高級ソープにでもいけばいいのにって思っちゃうよ」

「求めてるものが違うんじゃないですか。レトロゲームを2千円出してやってる人を見て、あと4千円出せば高画質の最新ゲームが出来ると言ってるようなものではないでしょうか」

「どうしてもそのカテゴリーじゃなくちゃ嫌だってことか」

「個人的にはレンタル彼女が気になります」

「時給7千円くらいなんだよな。そういえば人殺しの相場は3億なんだっけ?」

「そうと決まったわけではないですが」

「君とのデートが1時間1万円だとしても、3千万時間必要な訳だ。こりゃあ参ったな」

「手っ取り早くオークションにでも売った方が良さそうですね」

「待って。待ってって。殺すから。夜に親の顔に似た蜘蛛が現れても殺すから」

「それ縁起が良くなるだけじゃないですか」

「結局下らない話をしてしまいました」

「下る話でしょ!!下ネタなんだから!!」

「よくわからないポイントで怒らないでください。溜飲を下げてください」

「真面目な話をするとさ」

「真面目な話をすると?」

「命の値段は相対的なものなんだろうな」

「というと?」

「その命を救うのに、どこまで払って貰えるかなんじゃないかな」

「そうでしょうか。貧しい家族が精一杯出した手術費用100万円よりも、富豪が出した200万円の手術費用の方が気持ちが強いということですか?」

「うーん、違うかぁ」

「簡単に答えなんて出せません。命の話題に結論を下すなんて傲慢ですよ」

「よく言うよ」

「よく言ってやります」

「ならさ。どこまでお金を出してもらったら、死ねる?」

「えっ?」

「君はさ、俺なんかに殺人を依頼しないで、殺したい本人にこう言うんだ。私があなたに何を差し上げたら死んでくれますか、って」

「……何も差し上げたくない相手だから、殺すのではないでしょうか」

「そっか」

「大富豪が現れてあなたの命が欲しいと言ったとして、男さんならなんて答えますか?」

「あの子との時間をくれ。そしたら死んでやる」

「1mほどの距離で指でさされるとは。お金じゃ死なないんですね。どれくらい欲しいですか?」

「一夏」

「あら、意外に短いですね」

「平成最後の夏だから」

男がそう言うと、夕焼け小焼けの音楽が流れ始めた。

「時間になりました。良い子はお家に帰りましょう」

「僕達はここで寝泊まりか」

「私達もお家に帰るんですよ。お家に帰るのが良い子で、お家に帰らないのが悪い子になるんです」

「今日も一つの夏とさよならだ」

「ええ。防災行政無線が告げる別れの時です」

「堅苦しい名前。夕方のチャイムって言ってよ」

「それではまた。夕方のチャイムが鳴る前にお会いしましょ」

「ああ。またな」

「はい、また」

「よお」

「別れた1秒後に再会しないでください」



夏休みの宿題を、夏の終わりに慌ててまとめてやるように。

2人は、向き合わねばならぬ課題を、今はまだ見て見ぬ振りをして過ごしていた。

>>14
3万時間では?

>>18
3万時間でした。ご指摘ありがとうございます。




Q.どうすればいいんだろう。

A.どうしようもないんだろう。



諦めの自己完結。

とじる とじる。わづかにも見ず心も得ず心許なき今日も今日とて、無感動に涙を流す。

それは比翼の鳥の片想いかもしれないし、おしどり夫婦の家庭内暴力かもしれない。

もしかしたら不死鳥の自殺かもしれない。

何度も何度も書き損じた手紙を開いてみれば、愛と憎の文字列が。

期待を裏切られて殺し、希望が潰えて自殺するのなら。

諦めと、絶望こそ、生存のための絶えぬ糧だ。





「ズブリ」

「うわっ」

「うなされていましたよ。ひどい汗です」

女は心配そうに顔を覗き込んできた。

「エッチな夢でも見てたんですか?」

「……表情とセリフを一致させて」

「危うく、サキュバスから精力を抜き取られるところでしたね。私が起こしたおかげです」

女が小指を突き立てながら言った。

指の先端がテカテカと光っていた。

「気のせいじゃなければ、鼻から凶器を刺されて殺されるところでもあったと思う」

「止むを得ずです。人工呼吸と一緒です」

「他に起こす方法は思い浮かばなかったのか」

「肩を叩く、声をかける、腕をつねる、身体を揺さぶる、他には、えーと…えーと…鼻の穴に小指を差し込む」

「それだけの選択肢からよく最後を選んだな」

「どうしましょう。異性とお付き合いをしたこともないのに、殿方の鼻の穴に指を入れてしまいました。将来私が昭和気質の大地主なんかと結婚することになったら、契りも結んでいない男の鼻に小指を入れた女として、破談になってしまうんでしょうか。大変です」

女はそう言って水道場まで走り、小指を洗い始めた。

「はぁー」

意味が不明だ。

だが。

こうやって、また、彼女に救われてしまう。

自分の身に纏う不可解や理不尽を、彼女の混沌や不条理が覆い尽くしてくれる。

それこそ、灰色を白で塗りつぶすかのように。

彼女に報いるためなら。

「大変です!早く来てください!蛇口をひねると水が流れ出しました!シャーシャーと、文明開化の音がします!!」

僕はきっと、この世界を黒で染めるのだろう。

「あのー」

公園のベンチに再び座って休み始めた男に、女は言葉をかけようとしていた。

「ええーっと」

「心配しなくていいよ。君を待ってる間にちょっと寝ちゃってただけだから。熱射病とかでもないよ」

時刻は17時過ぎだった。

「待ち伏せ中に寝てしまったんですね。ストーカーなのに」

「待ち合わせ中の間違いではなくて?」

「マッチング中の間違いでした」

「それも違うような」

「男さんは女性と手を繋いだことがありますか?」

「ちゃんとしたのは無いと思う」

「ちゃんとしてないのは有るっていうんですか?」

「無いと思う」

「ふーんだ」

「そっちは?」

「ちゃんと勉強したことはないと思います」

「いきなり学生の勤めに対する怠慢について自白されても」

「でも、ちゃんとしてない勉強はちゃんとしましたよ」

「どんな?」

「男の子が地獄の青春を送る方法とか」

「全然ちゃんとしてない勉強じゃん。でも聞きたい」

「とても簡単で、次のいくつかのステップを踏めばいいだけです」

「はい」

「まず、中学生時代からタイプの異性には話しかけない」

「はい」

「次に、タイプの異性からふとした時にやさしくされる」

「はい」

「最後に、こんな僕にやさしくしてくれたこの人と結ばれるために自分は生まれてきたのだから、この人だけに自分を捧げようと誓う」

「はい」

「以上です」

「はい」

「以上です」

「はい」

「異常です」

「はい」

「ある冬の日、ひとりの女性は街中でとある占い師と出会いました」

「突然何の話?」

「ある冬の日ひとりの女性が街中でとある占い師と出会った話です」

「ごめん。うんざりした顔しないで。続けて」

「占い師の男性は、あなたにまつわることを全てあててみせようと言いました。女性はそんなことができるものかしらと思いながら、占い師の前に座りました」

「えっ、えっ、ちょっと待って。その座ったって言うのは、体育座りのこと?それとも正座かな?あるいは……」

「聞き下手ですか。椅子とかですよ。もう体育座りでもいいです」

「続けて」

「それで、男はいきなりこう言いました。あなたには年のあまり離れていない妹がいますね。それに、趣味は旅行で、北海道に行くのが好きだ。学生時代はテニス部に所属していた。趣味はカラオケで、興味の無いものはスポーツ観戦だ」

「当たったの?」

「全部当たっていました。興奮した女性がさらに質問をしようとすると、彼は言いました。実は、今日が占い師の力を使える最後の日だった。そして魔力は今の占いで使い果たしてしまった。もう普通の人間に戻ってしまった僕でよければ、今夜一緒にご飯にでも食べに行きませんか。女性はハイと答えました」

「そして?」

「2人は付き合うことになったとさ。おしまい」

「ふむふむ」

「男はどうして女性のことをあてられたと思います?」

「そんなのストーカーだからに決まってるでしょ」

「何を当たり前のことを、という表情で言わないでください。違います。2人は初対面です」

「不思議だよなぁ。広く解釈できる質問をしてるわけでも無いし。洞察眼があるって言ったってさすがにあて過ぎだし」

「ヒントを差し上げます。付き合ってデートをしていく過程で、女性は彼が占い師だったというのは嘘だったと気付きました」

「わかった!彼は記憶を作り変える力を持った超能力者だったんだ!!女性の記憶を捏造し、あたかも自分が占ったことが……」

「もう答えいいますね」

「彼は、毎日無数の女性に同じ内容で占い続けてきたんです」

「どういうこと?」

「100人、200人。あるいは1,000人、2,000人に同じ占いをし続けてきたのですよ」

「何のために?」

「彼は自分と似た女性とお近付きになり、交際したかったからです。年のあまり離れていない妹がいる。趣味は旅行で北海道が特に好き。学生時代はテニス部に所属してい趣味はカラオケで興味の無いものはスポーツ観戦」

「頑張り過ぎだろ」

「はい、彼は頑張りました。そして手に入れました」

「運命の出会いは確率論だって話がしたかったんだっけ?」

「あなたが私から逃れたいと思ったら、たくさん女性とお会いすればいいという話です」

「それは無理だよ」

「どうしてですか?」

「足が痺れてるから」

「あら、いつの間に正座してたんですか」

「運命の人っていると思いますか?」

「何十億という人間が住んでいるこの星のどこかにはいるんだろうな」じーーー

「私を凝視したまま地球規模の話をされても」

「ディスティニーの人かぁ」

「なぜ英訳したんですか」

「ディアゴスティーニの人」

「運命の人を組み立てたんですか」



『こちらは、……』

「夕方のチャイムの時間です。お開きにしましょうか」

「ああ、それではまた明日」

「はい、また明日」

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