楓「答えはいつも」武内P「風の中…ですか?」 (52)

【注】
武内Px高垣楓さんです

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楓『……』


…さん


楓『……』


……がきさん


楓『……』


『高垣さん』


楓『は、はいっ?』

楓『あ…』

武内P『……』

楓『プロデューサー…』

武内P『……』

楓『えと、その』

武内P『やはり、緊張していらっしゃいますか』

楓『う…』

武内P『……』

楓『…直球、ですね』

武内P『!』

武内P『あ、いえ、これは、その』

楓『してます』

武内P『!』

楓『私、緊張してます』

武内P『……』

楓『……』

武内P『……』

武内P『…無理も、ありません』

武内P『これから行われるのは、貴女の初めてのライブですから』

武内P『緊張するのは、当然のことです』

楓『……』

武内P『……もちろん』

楓『…?』

武内P『緊張しているのは、私も同じです』

楓『!』

武内P『あ、いえ』

武内P『主役の貴女が抱える不安に比べれば、私のこの緊張など些細なものです』

武内P『ですから、高垣さん』

武内P『貴方の不安を、私に教えてください』

武内P『どうぞ私にお分け…いえ、お話してください』

楓『…っ』

武内P『……』

楓『お話、ですか』

武内P『ええ』

楓『そう、ですね…』

楓『……』

楓『…やっぱり、不安です』

楓『緊張でいっぱいです』

武内P『……』

楓『ダンスの振り付けを間違えたらどうしよう、とか』

楓『歌の音を外したらどうしよう、とか』

楓『とってもとっても、不安です』

武内P『……』

楓『それに、アイドルとして』

楓『アイドルらしい私をうまく表現して…観客の方々を笑顔に出来かどうかも心配で……』

武内P 『……え?』

楓『はい?』

武内P『……』

楓『あの、プロデューサー?』

武内P『……アイドルらしい、ですか』

楓『え、ええ』

楓『美嘉ちゃんや、小梅ちゃんみたいに』

武内P『……』

楓『あの娘達みたいに……アイドルらしい自分を、アイドルらしい私を、観客の方々に伝え』

武内P『高垣さん』

楓『?』

武内P『私が見たいのは、アイドルらしい貴女ではありません』

楓『…え?』

武内P『ましてや、モデルらしい貴女でもありません』

武内P『私が見たいのは……高垣さん』

楓『は、はい』

武内P『私が見たいのは、貴女らしい貴女です』

楓『!』

武内P『いいですか、高垣さん』

楓『……』

武内P『彼女達は、アイドルらしい自分ではなく……自分らしい自分を、ファンの方々に伝えているのです』

武内P『そう』

武内P『高垣さん。彼女達と自分を比べる必要はありません』

武内P『彼女達は、彼女達』

武内P『貴女は、貴女です』

楓『……』

武内P『……』

楓『……私は私、ですか』

武内P『ええ』

楓『……』

武内P『…?』

楓『…ふふっ』

武内P『!』

楓『…わかりました』

楓『今のプロデューサーのアドバイス通り』

楓『私らしい私、せいいっぱいファンの方々に伝えて行きます』ニコッ

武内P『!』

武内P『…高垣さん』

楓『はい?』


武内P『いい、笑顔です』





楓『それでは』

武内P『はい、それでは』

『『お疲れ様です』』

…カチンッ

楓『んっ…』

ゴクッゴクッゴクッ……

楓『っぷはーーっ』フウッ

楓『あー……ふふっ』

楓『今日のビールは、また一段と美味しいですね』

武内P『……ええ』フッ

武内P『私も、そう思います』

楓『ふふっ』

楓『こうして大切な仕事が終わったあと…』

楓『行きつけの酒場に来るのは、いい気付けになりますねぇ』

武内P『そうですね…はい』

武内P『私も、そう思います』

楓『……』

武内P『?…あの、何か?』

楓『いえ、別に』

武内P『…?』

武内P『……と、とにかく』ゴホン

武内P『今日のライブは……高垣さん』

楓『?』

武内P『本当に、いい笑顔でした』

楓『!』

武内P『貴女の笑顔はもちろん、観客の方々の笑顔も素敵で』

武内P『会場に笑顔が溢れていて、はい』

武内P『とても素晴らしい、ライブでした』

楓『……』ジッ

武内P『…?』

楓『…プロデューサーは、どうですか?』

武内P『え?』

楓『プロデューサーは、笑顔になれましたか?』

武内P『……』

武内P『……』フッ

武内P『……ええ、もちろん』

楓『あらま』

武内P『はい?』

楓『うーん…』

武内P『あの、高垣さん?』

楓『残念です』

武内P『?』

楓『プロデューサーの笑顔はとても貴重なものですので』

武内P『えっ』

楓『見れなかったのは、とても残念です』

楓『そう』

楓『見れんかったので、ちょっと未練が残っちゃいました』

武内『……』

武内P『……高垣さん』

楓『はい?なんでしょ?』

武内P『酔われていますね』

楓『いえいえそんなことはないですよ』

ゴキュゴキュゴキュゴキュ

武内P『良い、飲みっぷりです』

武内P『……ではなく』

楓『ふんふんふーん♪』

武内P『……今日は早めに、上がるとしましょう』ハァ




ガラッ

ッザシター

楓『ふーーっ』

楓『夜風が気持ちいいですね』

武内P『ええ、そうですね』フゥ

楓『あの、プロデューサー』

武内P『?』

楓『ふふ、どうでしたか?先ほどの……私のパントマイム芸』

楓『我ながら、パンッとした感じの上手い舞いだったと思います』

武内『……もう少し、改善の余地があると思います』

武内P『っ、ではなくっ』

楓『……』トテトテトテ…

楓『……』フラフラッ

武内P『あのっ、お待ちください、高垣さんっ』

武内P『そんな足取りで、一体どちらに…』

楓『んー?』

武内P『んー、ではありません』

楓『プロデューサーさん?』

武内P『はい?』

楓『腕を広げてみてください』

武内P『広げ…と言うと、貴女みたいに、ですか?』

楓『ほいそうです、私みたいに』

楓『そうすると……ふうっ、っと吹く風が気持ちいいでしょう?』

武内P『いや、その、高垣さん?』

楓『そう、この気持ちいい風が私の行き先です。答えです』

武内P『あの、ですね』

楓『どちらに行くのかと問われても……答えはこの風の中にあるんですよ♪』

楓『さ、そんなワケでもう一軒、行ってみましょうっ』

武内P『高垣さん!』

楓『むぅ』

武内P『今日はもう、お開きです』

武内P『……いえ、普通アイドルである貴女が、プロデューサーである私と、何軒も居酒屋を回ると言うのがそもそもおかしい話な訳ですけども……』

武内P『とにかく』

武内P『今日のライブで、貴女は相当にお疲れのはずです』

武内P『ですから、今日はお開きで……』

楓『あっ』

武内P『高垣さん?』

楓『あの、プロデューサー』

武内P『え、ええ』

楓『ライブの前、プロデューサーは仰いましたね、仰々しく』

武内P『はあ…』

楓『貴女は貴女だ、と』

武内P『!』

武内P『っ、ええっ』

楓『私、その言葉にとっても勇気を貰いました』

楓『ありがとうございます』

武内P『高垣さん……』ジーン…

楓『でもライブの直前も直前に私思ったんです』

武内P『?』

楓『貴女は貴女だ……私は私だと言われても……』

武内P『はい』

楓『私、私自身をよく知りません』

武内P『…え?』

楓『それでちょっと、困っちゃって』

武内P『……』

楓『うんうんうなって考えてみたんですけど、はい』

楓『考えているうちに、はい、ライブが始まりまして…』

楓『いつの間にか飛んでっちゃいました』

武内P『……』

楓『プロデューサー?』

武内P『え?……あ、はい』

楓『……』

武内P『…そう、ですね』

武内P『確かに、言われてみれば…』

武内P『……改めて、同じ問いを私にしてみても…はい』

武内P『私も…高垣さん。貴女と同じでした』

武内P『肝心の私も、私のことをよく知りません』

楓『ふふっ……でしょう?』

武内P『ええ…』

楓『なんというかもう、考え出したら訳がわからなくなって…』

楓『ぐるぐるぐるぐる、頭の中がこんがらがっちゃって』

武内P『うっ…』

武内P『それは、その…はい、申し訳…』

楓『ですので』ぴっ

武内P『え?』

楓『これからも、一緒に探してもらえますか?』

武内P『!』

楓『私も知らない新しい私を…一緒に、探してもらえますか?』

武内P『……』

楓『どうですか?プロデューサー』

武内P『……』

武内P『……はい』

武内P『…もちろんです』

楓『!』

武内P『それが、私の』

武内P『プロデューサーとしての、使命なのですから』

楓『……』

武内P『……』

楓『…ふふっ』

武内P『っ…』タジッ

楓『さてっ』

武内P『!』

楓『うまいこと話も一区切りつきましたし…』

楓『しょーいうことでもう一軒!行ってみましょー!』

武内P『高垣さん!』

楓『ふふっ♪』

武内P『あのっ、高垣さん!その、これ以上は!』

楓『ふふふっ♪』


ああー……楽しい


とっても、とっても、楽しい


楽しくて、楽しくて……


笑顔で、笑えていて……


……でも


……けれど


……そして


そして……どこかで




風船の割れる、音がする




楓「ん……」

楓「……」

楓「あ……」

楓「……」

楓「……夢?」

楓「……」

楓(時計……)

楓(時間は……朝)

楓(いつもより、早い時間)

楓(そして日付は……)


楓(6月、14日)


楓(……)

楓(……私の、誕生日)







武内P『高垣さん』

楓『?なんです?プロデューサー』

武内P『いえ、その……』

武内P『本日は誕生日、おめでとうございます』

楓『まぁ』

武内P『……』

楓『ふふっ、ありがとうございます』

武内P『……』ギクシャク

楓『緊張、していますか?』

武内P『その、すみません』

武内P『あまりこのような…女性の方の誕生日を祝うということは、その、慣れていないもので…』

楓『あら』

武内P『?』

楓『慣れて、いらっしゃらないのですか?』

武内P『え、ええ…』

楓『ふふっそんな様子だと、これから先が心配ですね』

武内P『心配、ですか』

楓『ええ、だって…』

楓『あなたはもっとたくさんのアイドルをプロデュースするんです』

楓『それで、もっとたくさんの娘達の誕生日を祝うんです』

楓『ですから、今みたいな調子だと…私、超心配です』

武内P『……』

楓『…』クスッ

武内P『…高垣さん』

楓『?』

武内P『その心配をする必要はありません』

楓『え?』

武内P『私は、貴女以外のアイドルの担当を務める気は毛頭ありません』

楓『!』

武内P『これから先もずっと…貴女だけをプロデュースし続ける』

武内P『私はそう、誓っています』

楓『プロデューサー……』


楓(……)


楓(嘘だ)


楓(彼はこの時、こんな事は言わなかった)

楓(これは、私の妄想)

楓(私の、願望)

楓(……)

楓(…彼はあの時、どんな事を喋っていただろうか)

楓(……思い出せない)

楓 (そうだ…)

楓(この頃は…)

楓(あの頃は…)

楓(互いに…お互いに、相手の心を知っているものだと思っていた)

楓(私は、彼の)

楓(彼は私の心を知っている…)

楓(そう、思っていた…)

楓(……思い込んで、いた)

楓(心なんて、所詮……見えもしないものなのに)

楓(そんな見えもしない心を知っている……彼の心を、掴んでいると思っていた)

楓(そう思い込んで……天にも昇るような気持ちになっていた)

楓(彼の瞳には、私の知らない私が映っていて…)

楓(私の瞳には、彼の知らない彼が映っている)

楓(そんなことを毎日しながら……)

楓(そんな足し算を毎日しながら……二人で一緒に、ぐるぐる世界を旅している)

楓(……そんな気でいた)




武内P『高垣さん』

楓『はい、なんでございましょう?』

武内P『改めて、本日の撮影の予定を確認しておきます』

楓『ええ、お願いします♪』

武内P『本日は、お伝えしているように……こちらの漁港でのロケとなります』

武内P『まずは港の市場で、この地の特産の魚についての紹介を行い…』

武内P『それが終わりましたら、高垣さん』

楓『ええ♪』

武内P『漁船に乗り、貴女の漁体験が始まります』

武内P『もう一度確認しますが……船酔いの方は大丈夫ですか?』

楓『はい、問題ありません』

楓『酔いには慣れてますから!』

武内P『酒酔いと船酔いは別物です』

武内P『そして、その台詞は前にもお伺いしました』

楓『あら』

武内P『本当の本当に……船酔いは、大丈夫ですか?』

楓『ええ、本当です』キリッ

武内P『……』

楓『む、なんです?』

武内P『とにかく』

武内P『もし、万が一と言う際には……浅利さんに全てを託しています』

楓『これじゃどちらが保護者かわかりませんね』

武内P『……』

武内P『…続けます』

武内P『本日の撮影の見どころとして…』

武内P『釣り上げた魚は直ぐにその場で調理し、船上で召し上がることが出来ます』

武内P『と言うより、召し上がって頂きます』

楓『はい!いただきます!』

武内P『……いい、笑顔です』

楓『釣れたてのフレッシュなフィッシュを味わえる。なんてステキなことでしょう』

楓『これでその場にお酒もあれば…』

武内P『ありません』

楓『そうですか』

武内P『…本日の撮影は浅利さんもいらっしゃいますので、お酒は無しです』

楓『むぅ』

武内P『……と言うよりも、船上で出来上がってしまわれては大変困ります』

楓『安心してください。これは真剣な漁の撮影ですもの、お酒の量は控えます』

武内P『ダメです』

楓『うぅ…そんな』

武内P『……』

武内P『……ですが』

楓『?』

武内P『撮影の後でしたら、可能です』

楓『!』

楓『それはそれはそれは、まぁ!』

武内P『あー……その』

楓『?』

武内P『ちょっとした、誕生日プレゼント、だと、はい。そう思って、いただければ…』

楓『……』

武内P『……』

武内P『…やはり、慣れないことはあまり言うものではありませんね』

楓『…ふふっ』クスッ

武内P『ああ、その、ですので……高垣さん』

武内P『今回の撮影』

武内P『最高の笑顔を、期待しています』

楓『はい♪』








楓『では』

武内P『では』

『『撮影、お疲れ様です』』

カチンッ

楓『あら』

武内P『?』

楓『プロデューサー』

武内P『はい、なんでしょうか』 

楓『あなたが今、手に持っているそれは…』

武内P『ええ、と』

楓『それは、もしや』

武内P『…ウーロン茶、ですが』

楓『……』

武内P『あの、いかがなされましたか』

楓『いかがなされましたか?』

武内P『え、ええ』

楓『そうですね……』

楓『プロデューサー』

武内P『?』

楓『私と同じものを、持たれてはいかがですか?』

武内P『……』

楓『ほら、こちら』

楓『こちらで有名な地酒だそうです』

武内P『……』

楓『ほら、どうです?』

武内P『…帰りの運転がありますので』

楓『むぅ』

武内P『っ、とにかく、さぁ、召し上がりましょう』

武内P『本日の撮影で、貴女が魅力を語っていた魚達です』

武内P『こんなに美しく盛られて…貴女を待っていますよ』

楓『……じゃあ』

武内P『?』

楓『思いっきり、飲んじゃっても?』

武内P『……』

武内P『……車の揺れに、耐えられる程度でお願いします』

楓『はーい』


……。


楓『ん、これもとっても美味しい♪』

武内P『ええ、本当に』

武内P『……ああ、こちらの天ぷらもとても歯触りがよく、良いですね』

楓『あら、では次はそちらを頂くとしましょう』

武内P『ところで……高垣さん』

楓『?』

武内P『本日の撮影は、いかがでしたか』

楓『ふふ、それはもうとっても、楽しい撮影でした♪』ニコッ

武内P『……良い、笑顔です』

楓『すごく天気が良くて、太陽に照らされてきらきら光る水面が眩しくて…』

武内P『ええ本当に、今日はとても恵まれたロケーションでした』

楓『本当、一時はどうなるかと思ってたんですけど…』

武内P『確かに、そうですね』

楓『ええ』

武内P『つい昨日までは、雨風が吹き荒れ、海原の見通しも悪かったのですが』

武内P『今日はもう一変して…』

楓『雲ひとつない、快晴でしたね』

武内P『はい』

楓『これはいわゆる……"もってる"というヤツなんでしょうか』

武内P『……』

楓『……』

武内P『……』フム

楓『あの、そこで黙られると……その、照れます』

武内P『……そうですね』

楓『?』

武内P『貴女は間違いなく、"もっている"人間だと、そう思います』キッパリ

楓『……』

武内P『何か?』

楓『……いえ、何も』

武内P『?』

楓『……っ』

楓『…っ、とっ、とっ、とっ』

楓『っと、するとっ』

武内P『はい?』

楓『もっている私を見つけたプロデューサーも…もっている人、ということになりますね』

武内P『…え?』

楓『そういうことに、なります』

武内P『……』

楓『なります』

武内P『……そう、なんでしょうか』

楓『はい』

武内P『……』

楓『そうです』

楓『プロデューサーが疑問に思うのなら…その疑問を、私が消し払って見せます』

武内P『…え?』

楓『みせます』ムンッ

武内P『……』キョトン

楓『……』

楓『…そ、そう言えば、ですね』ワタッ

武内P『え、ええ』

楓『今日の、船での撮影ですけど…』

武内P『はい』

楓『ようそろーって声を出す七海ちゃんが可愛かったですね』

武内P『ああ…』

武内P『貴女もつられて、言っていましたね』

楓『ええそれはもう、ノリノリで言っちゃってました』

楓『あ、ようそろーと言えば、ですね』

武内P『はい』

楓『私、そろそろ酔いそうです』

武内P『いえ、もう酔われていると、そう、思いますが』

楓『あら、そうですか?』

武内P『私としては…そろそろ貴女に懲りていただきたいものです』

楓『む、それはまた、酷いことを…』

楓『あ、そうです』

楓『酔い、と言えば…』

楓『船酔いは私、全然平気でした』

武内P『船酔い、ですか』

楓『はい♪』

武内P『確かに、船上の貴女はとても楽しそうで…』

武内P『心配が杞憂になり、とても安心しました』

楓『あ、そうです』

楓『船、と言えば…』

武内P『…と言えば?』

武内P『……いえ、少しお待ちください、高垣さん』

武内P『貴女の話の枝葉が、手当たり次第に繋がって行く形になっています』

武内P『やはり、かなり酔われているのでは…』

楓『まあまあ聞いてください』

楓『今日乗った船は、とっても素敵な船でした』

武内P『はあ…』

楓『快適な船旅でしたね』

武内P『そう、でしたか』

武内P『では船長の方に後日、伝えておきます』

楓『それで…あの船を見て、思いました』

楓『いえ、あの船と言うより…』

武内P『……』

楓『あの船にある……錨を見て、思いました』

武内P『錨、ですか』

楓『ええ。錨、です』

楓『……』モジッ

武内P『…?』

武内P『その、それで』

武内P『何を、思われたのですか』

楓『そうですね…』

楓『ぎゃりぎゃりと音を立てて登り、下る錨を見て、ふと思いました』

武内P『はあ…』

楓『まるで、プロデューサーみたいだな、と』

武内P『……え?』

楓『……』

武内P『……私が、錨?』

楓『ええ』

楓『黒くて、ずっしりして…』

楓『水面に浮かぶ船がどこかに流れてしまわぬよう、留めてくれる』

楓『まるで貴方みたいです』

武内P『……』

楓『でしょう?』

武内P『……』

武内P『……』

武内P『……ええ』フッ

武内P『確かに…そうですね』

武内P『海に浮かぶ船は…貴方は、放っておいたら何処かへふらふらと、流れて行ってしまいそうです』

楓『はい♪流れて行ってしまいます♪』

楓『……』

楓『……ですので』

楓『プロデューサーは……』

楓『海底で、船を繋ぎ留め』

楓『船出の時は、底から引きあがり……船と共に、大海原を旅してくれる』

楓『そんな、錨のような方なんです』

武内P『……』

楓『……』

武内P『……』

楓『あら、いかがなされました?』

武内P『…やはり、かなりお酔いになられているようです』

楓『ええ、当然です』

楓『しらふじゃこんなこと、言えませんもの』

武内P『……っ』

楓『ふふっ』

楓『……』

楓『ああー…本当に』

楓『今日は、楽しかった』

楓『プロデューサー、知ってますか?』

武内P『え?』

楓『今日はアイドルになって、初めての誕生日です』

武内P『…!』

武内P『はい、もちろん』

楓『そんな一日を、こんなに楽しく過ごせることが出来て……私は幸せです!』ムンッ

武内P『!』ハッ

楓『プロデューサー、ありがとうございますっ』

武内P『……』

武内P『……』

楓『…プロデューサー?』

武内P『高垣さん』

楓『?』

武内P『……』ジッ

楓『…えっ、と…?』

武内P『来年は…』

楓『……』

武内P『貴女のバースデーライブを、開いてみせます』

楓『…え?』

楓『バースデー…ライブ、ですか?』

武内P『ええ』

楓『……』

武内P『もっと、もっと多くの方々に祝福される』

武内P『そんなアイドルに、貴女はなれるはずです』

武内P『…いや』

武内P『そんなアイドルに、貴女はなります』

武内P『これだけは、確信しています』フッ

楓『プロデューサー…』

楓『……』



楓(…そう言って、貴方は笑った)


.

楓(事実…)

楓(それから私は、たくさんの人に誕生日を祝ってもらえるようになった)

楓(暗闇の中に浮かぶ、蝋燭の中で……ではなく)

楓(暗闇の中、数多の歓声と…小さな光溢れる空間の中で)

楓(沢山の方々が、私の誕生日を祝ってくれた)

楓(その祝福の中に包まれる私は、天にも昇るような気持ちでいて……)

楓(とても幸せで…感情の奔流に飲まれていて…)


楓(……)


楓(……だけど)


楓(私が)


楓(私が一番…)


楓(一番、祝って欲しい人は…)


……コンッ


楓「!」


…コンコンコンコンッ



「楓ちゃーん?」



楓「あ…」

「楓ちゃん?」

楓「……」

「ちょっと楓ちゃんー?入るわよー?」

楓「っ、は、はいっ!」

ガチャッ

「お邪魔するわ」

「今日は一日よろし……あら?」

楓「……?」

「……」


楓「あの、瑞樹さん?」


瑞樹「……」ジッ


楓「どうか、しまし…」

瑞樹「…ちょっと、楓ちゃん」

楓「…?」

瑞樹「あなた今…酷い顔してるわよ」

楓「!」

瑞樹「……」

楓「ひ、酷い顔、ですか?」

瑞樹「……ええ」

楓「えと、その」

楓「それは一体、どう言う」

瑞樹「そうね」

楓「!」

瑞樹「あなたがそんな顔をする時は…」

瑞樹「決まって、彼のことを考えているときね」

楓「…!!」

瑞樹「……」ジッ

楓「……」

瑞樹「……」

「「……」」

瑞樹「……楓ちゃん」

楓「…はい」


瑞樹「あなた、ふざけてるの?」

楓「え…?」


瑞樹「楓ちゃん」

楓「!」

瑞樹「あなた、今日がどんな日かわかってる?」

楓「それは…っ」

瑞樹「自分の誕生日よ?」

楓「は、はい」

瑞樹「そして、これから……あなたのバースデイライブがあるのよ?」

楓「…!」

楓「それは…っ、はい、わかってます」

瑞樹「ファンの人たちが目一杯、楓ちゃんの誕生日を祝ってくれる」

瑞樹「それなのに肝心の楓ちゃんの頭の中は……ひとりの男の人のことでいっぱい」

瑞樹「……」

楓「……」

瑞樹「そんなの……ファンの人達に失礼よ」

瑞樹「侮辱してるって思われても、仕方ないわ」

楓「…っ!」

瑞樹「……」

瑞樹「……ねぇ、楓ちゃん」

楓「……」

瑞樹「錨みたいなのは、今のあなたのほうね」

楓「え…?」

瑞樹「ほんと、重たいったらないわ」

楓「錨…?」

瑞樹「ええ」

楓「!…あのっ」

楓「その話、どうして瑞樹さんが知って」

瑞樹「あのねぇ、これでもかってぐらい聞かされたわよ、貴方に」

楓「へっ」

瑞樹「誕生日が近づくと、酔っぱらった時いっつもあなたその話をするんだから」

楓「う…」タジッ

瑞樹「アイドルになって初めての誕生日の話です、って」

瑞樹「とっても幸せそうにね」

楓「……ぅ」

瑞樹「楓ちゃん、今の貴女の方が錨みたいよ」

瑞樹「ズーンって沈んじゃって、まぁ」

瑞樹「そんな様子じゃ……私、今日のライブにゲストで出る意味がないじゃない」

楓「っ…それ、は…っ」

瑞樹「まるで、袋のネズミよ」

瑞樹「自分で自分を追い込んでる」


楓「……」

瑞樹「……」

「「……」」


瑞樹「……」


瑞樹「……」フゥ


瑞樹「…ねぇ、楓ちゃん」

楓「……」

瑞樹「今のままじゃ、ダメなことぐらい、あなた、自分でもわかってるでしょ?」

楓「……」

楓「……」コクリ

瑞樹「……」

楓「でも、でも、ですね…」

瑞樹「行動に移せないのね」

楓「…はい」

瑞樹「…」ハァ…

瑞樹「いい?楓ちゃん」

楓「は、はい」

瑞樹「人間、誰もが大人になってくものなの」

瑞樹「いつか、そうなっちゃうものなの」

瑞樹「わかる?」

楓「はぁ…?」

瑞樹「あっちこっち行ったりしない、まともな大人になるものなの」

楓「まとも、ですか」

瑞樹「それなのに、あなたはまだまだ子供のままで…」

瑞樹「……」

瑞樹「…ああもうっ」

瑞樹「…あのね、楓ちゃん」ズイッ

楓「…!」

瑞樹「あなたはねぇ…もっとちゃっかりしちゃっていいの」

楓「え?」

楓「ちゃっかり…ですか?」

瑞樹「ええ」

瑞樹「…ああ、でも、楓ちゃんは普段はちゃっかりした性格してるわね」

瑞樹「良い感じに」

楓「……むぅ」

瑞樹「ま、とにかく私が言いたいのは…」

瑞樹「もっと恋愛でも、ちゃっかりしなさいってことよ」

楓「恋愛でも?」

瑞樹「そっ」

瑞樹「ちゃっかりと、プロデューサーくんを手に入れてやる」

瑞樹「それぐらいの気持ちでいかないと……彼、他の娘に取られちゃうわよ」

楓「えっ!!!」ビクッ

瑞樹「あらま、ずいぶんと大きい声ね」

瑞樹「……いい?楓ちゃん」

楓「…はい」ゴクッ

瑞樹「他の娘に彼を取られて、昔の自分に悔やんだとしても…」

瑞樹「そんなの、後の祭りよ」

楓「う…」

瑞樹「ほら、自分に怒ることも出来ない錨みたいな楓ちゃん?」

楓「それ、私のネタです」

瑞樹「いいから聞きなさい」

楓「はい…」

瑞樹「貴女は今日が誕生日」

瑞樹「そう、そんな今日こそが船出の時…旅立ちの時よ!」

楓「…!」

瑞樹「重ったい自分を引き上げなさい!」

瑞樹「心の中で悪戦苦闘したって意味ないの!」

瑞樹「わかった!?」

楓「~~~~!!」グスッ

瑞樹「……」フゥ

瑞樹「…楓ちゃん」

楓「……はい」

瑞樹「貴女は独りじゃないわ」

瑞樹「だから、頑張りなさい」

楓「…はい!」

瑞樹「……」

瑞樹「……良い、笑顔ね」

楓「あ、でも」

瑞樹「?」

楓「ちゃっかり手に入れるって、どうやったら良いんでしょうか」

楓「瑞樹さんの今の話で…私の心が着火されたので、このままちゃっかりとプロデューサーを…」

瑞樹「ああもう、貴方は本当…」ハァ…

楓「うーん…」


瑞樹「……」

瑞樹「……」

瑞樹「……そうね」

楓「?」

瑞樹「まずは、今日のライブを頑張りなさい」

楓「!」

楓「っ、ええっ、確かにその通りですね!」

瑞樹「楓ちゃんらしい楓ちゃんを、精いっぱいファンの人達に見せればいいの」

楓「はい、私らしい私を精いっぱい…」

楓「……あら?」

瑞樹「あ、最初のライブの話も貴女に嫌と言うほど聞かされたわ」

楓「……」

瑞樹「……」

瑞樹「……それと」

楓「…?」


瑞樹「彼、今日のライブを観に来るそうよ」


楓「えっ」

瑞樹「……」

楓「……えっ?」

楓「……」

楓「観に…ですか?」

瑞樹「ええ」

楓「……聞いてないです」

瑞樹「でしょうね」

楓「っ、その…」

楓「瑞樹さんは、どうしてそれを…」

瑞樹「もちろん、本人から聞いたわ」

楓「えっ」

瑞樹「……」

楓「プロデューサーから…ですか?」

瑞樹「そうね」

楓「その…いつごろ」

瑞樹「そうね…1週間ぐらい前に、彼と飲んでる時に聞いたわ」

楓「へっ」

瑞樹「?」

楓「飲んでるとき…ですか?」

瑞樹「ええ」

楓「……」

楓「……聞いてないです」

瑞樹「……あのねぇ」ハァ

楓「プロデューサーからも、瑞樹さんからも聞いてないです…」

楓「二人で飲みに行った、なんて…」

瑞樹「……」

瑞樹「……ああもう!」

瑞樹「楓ちゃんっ!」

楓「は、はいっ!」


瑞樹「携帯、取り出しなさい」


楓「携帯、ですか?」

瑞樹「ええ」

楓「そんなけったいなこと、いきなり言われても…」

瑞樹「いいから出しなさい」

楓「はい」

ゴソゴソ…

…スッ

楓「ええと、それでいったい何を?」

瑞樹「いったい何を?」

楓「はい」

瑞樹「楓ちゃん…あなたそれも分からないの?」

楓「はぁ…」

瑞樹「電話に決まってるでしょ」

瑞樹「愛しの彼に、電話するのよ」

楓「えっ!」

瑞樹「ほら、早く」

楓「いや、その、でも…」

瑞樹「そんで、言いなさい」

瑞樹「今日、私のライブが終わった後…一緒に食事でもどうですか、って」

瑞樹「ああ…もっと直球でもいいわね」

瑞樹「私の誕生日、祝ってください。とかでもいいわ」

楓「うぅ…」

瑞樹「ほら、早くダイヤル回しなさい」

楓「言い方に年齢を感じます…」

瑞樹「はったおすわよ」

瑞樹「……」

瑞樹「ねぇ……取られちゃっても、いいの?」

楓「…っ!」


楓「わ…わかりました…!」


楓「電話、します…します…!」


瑞樹「あ、今ロック解除したわね」

楓「え?」

瑞樹「はい、ちょっと貸して」

ヒョイッ

楓「ちょっ」

瑞樹「えっと……ああ、これね」

タンッ

瑞樹「はい」

スッ

楓「あの、えっと…」

瑞樹「ほら、早く耳に当てなさい」

瑞樹「彼、電話に出るのとっても早いわよ?」

楓「うっ…」



プルル…


プルルルル……




……ピッ









ガラッ

ッザシター

楓「ふーーっ」

楓「夜風が気持ちいいですね」

武内P「ええ、そうですね」フゥ

楓「あの、プロデューサー」

武内P「?」

楓「ふふ、どうでしたか?今日の……私のライブ」

武内P「ええ、それはもう本当に…すばらしいライブでした」

楓「ありがとうございますっ」

楓「…あ、そうですそうです」

武内P「?」

楓「ライブでした、あのパントマイム…どうでしたか?」

楓「我ながら、パンッとした感じの上手い舞いだったと思います」

武内P「そうですね…以前お見せして頂いた時に比べると、格段に上達していらっしゃいました」

楓「でしょう?」

武内P「はい、二度とやらないでください」

楓「えー」

武内P「あれはもはや、ただの宴会芸です……」

楓「……私らしい私を観客にみせろ、と言ったのはどちらさまでしたっけ?」

武内P「うっ…」

楓「ふふっ♪」

楓「……」

武内P「…?」

武内P「あの、高垣さん…?」

楓「プロデューサー」

武内P「…え、ええ」

楓「どうですか?これ」

武内P「!」

楓「私に、似合ってますか?」

武内P「……」

武内P「……ええ」

武内P「本当に、似合っています」

楓「ふふ、当然です」

楓「だって貴方が、選んだものですもの」

武内P「……!」

楓「あ、今のセリフちょっと幸子ちゃんっぽかったですね」

武内P「そう、でしょうか」

楓「……」

武内P「……」

「「……」」

楓「…さあさ!」

武内P「!」

楓「次のお店に行きましょう!」

楓「~~♪」トテトテトテ…

楓「~~♪」フラフラッ

武内P「あのっ、お待ちください、高垣さんっ」

武内P「今日はもう、お疲れでは…!」

武内P「そんな足取りで、一体どちらに…」

楓「んー?」

武内P「んー、ではありません」

楓「プロデューサーさん?」

武内P「はい?」

楓「いったいどちらに、ですか?」

武内P「え、ええ…」


武内P「…!」ハッ

楓「……」クスッ


楓「いったいどちらに行くのかと聞かれても……」


武内P「……ええ」



武内P「答えはこの風の中……にあるんでしたね?」フッ



楓「…はいっ♪」



楓「ですから、さぁ…行きましょうっ♪」

武内P「……」

武内P「…い、いえ!高垣さん!」

武内P「やはりその、これ以上は…!」

楓「ふふっ♪」

武内P「あのっ、高垣さん!本当に、これ以上は!」

楓「ふふふっ♪」



楓(ふらふら漂う、私は小舟)


楓(たまには錨を投げ入れて…)


楓(海原の中で、ちょっとお休み)


楓(あてどない船旅…)


楓(気分はまるで、流浪人です)


楓(そんな私の船旅が、どんな最後を迎えるのか…)


楓(そんなことは、誰も知らない)



楓(けれど……)



楓(今、私が向かう水平線の向こう側…)



楓(その空には…七色の…)



楓(……いえ)





楓(……無限大のグラデーションで、輝く虹が架かっています♪)




.








瑞樹「……」

…カランカラン

瑞樹「…あら」

「やっほ」

瑞樹「ちょっと早苗ちゃん、遅刻よ」

早苗「や、ゴメン、ちょーっと撮影長引いちゃってね」

瑞樹「もう…」

早苗「…あらっ?」

瑞樹「?」

早苗「ちょっと、楓ちゃんは?」

瑞樹「ああ、楓ちゃんね…」

早苗「今日の主役なのに、まだ来てないの?」

瑞樹「ええ、それが…実はね?」

早苗「?」

瑞樹「実は…」

早苗「……」

瑞樹「実は……」

早苗「…もったいぶらずに早く言ってくれない?ねぇ」

瑞樹「……楓ちゃん、今日は、彼とお食事なの」

早苗「へっ?」

瑞樹「……」

早苗「彼…って言うと」

早苗「楓ちゃんの話に出る、彼って言うと…」

早苗「…あの彼?」

瑞樹「ええ、その彼」

早苗「はあ~~~~」

瑞樹「だから今日は、主役の楓ちゃんはいません」

早苗「…愛しの彼と、誕生日にディナー、ね」

瑞樹「ええ」

早苗「なんと、まあ!コングラチュレーションじゃない!」

早苗「やー、やるねぇ」

瑞樹「ディナー、急に決まっちゃってね」

瑞樹「二人とも、私たちに謝ってたわ」

早苗「いーわよいーわよ、気にしないわ、そんなの」

早苗「……ま、後から根掘り葉掘り聞いてやるけどさ」

瑞樹「ふふ、私もその時は一緒に掘ってやるわ」

早苗「ま、それはともかく……ほんと、楓ちゃんもこれで少しは…」



ピリリリリリ…



早苗「ん、電話?」

瑞樹「あ、私ね」

瑞樹「…!」

瑞樹「……噂の彼からね」

早苗「えっ!」

瑞樹「…もしもし?」ピッ


瑞樹「……」

瑞樹「…ええ」

瑞樹「…そう、プレゼント、喜んでくれたのね」

瑞樹「……」

瑞樹「…いえ、いいのよ相談のお礼なんて」

瑞樹「ええ、本当。いいのいいの」

瑞樹「……」

瑞樹「……ええ」

瑞樹「……」

瑞樹「そうね……」

瑞樹「……じゃあ」

瑞樹「じゃあ、これだけは言わせて」

瑞樹「……」

瑞樹「…あの娘を、幸せにしてあけげてね」

瑞樹「……」

瑞樹「…よし」

瑞樹「そう」

瑞樹「その意気よ、プロデューサー君」

瑞樹「……」

瑞樹「……え?」

瑞樹「楓ちゃん、酔いつぶれそう?」

瑞樹「どうすればいい?」

瑞樹「……」

瑞樹「…バカね」

瑞樹「そんなの、プロデューサー君の好きにしちゃっていいのよ」

瑞樹「楓ちゃんも、期待してると思うから、ね」

瑞樹「ん?」

瑞樹「いや、ふざけてないわよ」

瑞樹「とにかく、頑張りなさい?」

瑞樹「はいはいはいはいはい」

瑞樹「とにかくもー、切るわ」

瑞樹「はい、それじゃあ…ね、っと」ブツッ

瑞樹「……」

瑞樹「……ふぅ」

早苗「……」


早苗「…ええ、と」

早苗「それで、向こうはどんな状況なの?」

瑞樹「ん?」

瑞樹「そうね、楓ちゃんずいぶんはしゃいでるみたいよ」

早苗「まー、そりゃそうよね」

瑞樹「はしゃぎすぎて…酷い事態になったりしないか、私心配だわ」

早苗「あー…」

早苗「もし上の口からぶちまけたりでもしたら、最悪ね」

瑞樹「まぁさすがにそんなことは起こらないでしょうけど」

早苗「いや、楓ちゃんよ?何が起こるかわかったもんじゃ…」

瑞樹「まったく…」グイッ

早苗「わ、派手に飲むわね」

瑞樹「……」カランッ

早苗「あたしも負けてらんないわ」

瑞樹「……」

早苗「さて、最初は何飲もうかし……」

瑞樹「……」

早苗「……」

瑞樹「……」

早苗「……」

早苗「ちょっと…瑞樹、ちゃん?」

瑞樹「え…?」

早苗「……」

瑞樹「え、ええ……なに、かしら」

早苗「あなた……」



早苗「……泣いてるの?」

瑞樹「…!」



瑞樹「い、イヤね……泣いてるわけないじゃない」

早苗「……」ジッ

瑞樹「……」

早苗「……」ジッ

瑞樹「……」ハァ

瑞樹「…はい、はい」

瑞樹「わかりましたよ、刑事さん」

瑞樹「確かに……ちょっと、泣いちゃったわ」

早苗「…そう」

瑞樹「……」

瑞樹「…はーーーー……」

瑞樹「……」

瑞樹「…ねぇ、早苗ちゃん」

早苗「んー?」

瑞樹「この世界って…」

瑞樹「誰かが喜べば、その裏側で…誰かが泣いてるものなのねぇ…」

瑞樹「お姉さん、改めて実感しちゃった」

早苗「あー…それ、ね」

早苗「それ、あたしも…」

瑞樹「あたしも?」

早苗「……」スッ



「「…わかるわ」」



早苗「……」

瑞樹「……」

瑞樹「……ふふっ」

早苗「……あはっ」



瑞樹「……」


瑞樹(……)


瑞樹(ああー……)


瑞樹(そう、ね…)


瑞樹(もう…)



瑞樹(もう、こんな気持ちには…手を振りましょう)



瑞樹(そして…)



瑞樹(そして楓ちゃんに…)




瑞樹(…あの娘に、歌ってあげましょう)



.










瑞樹(祝福の、ファンファーレを)








.










瑞樹(祝福の、ファンファーレを)








.

おしまい
……一番やってはいけないミスしました。すんません

そして物凄く大変遅れましたが高垣楓さん、お誕生日おめでとうございます

それでは、また




fanfare/Mr.Children

乙。歌詞が物語でとてもよかったわ。

いいシャレだった

おつおつ

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