菜々「私はウサミン」 (15)
司会が口を開く。
「...それでは早速、第七回シンデレラガールのウサミンこと、安部菜々さんから受賞のコメントをいただきましょう!」
ワー...パチパチパチ...
菜々が壇上に上がる。
「ン゛ン゛ッ...歌って踊れる声優アイドル目指してウサミン星からやってきました、ウサミンこと安部菜々です!」
パチパチパチ...
「...この挨拶をはじめてから、いくつ経ったでしょうか。ようやく...ようやく...この場に立つことができました。
何度もくじけそうになりました。何度アイドルを諦めようと思ったか。何度枕を濡らしたか。辛いこともいっぱいでした。
そんな菜々を救ってくれたのは、ファンの皆さんであり、プロデューサーであり、そして、ウサミンでした。
地下アイドル活動に限界がみえた頃、手をさしのべてくれたのはプロデューサーでした。
いつも元気でいられるのは、ファンの声援のおかげでした。
菜々がアイドルでいられるのは、ウサミンがいたからでした」
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「菜々が地下アイドルをはじめたばかりの頃は、ファンも少なく、先の見えない闘いでした。
時にはヤジも投げられ、ある日ふと思いました。
もう、やめよう、と。
先の見えない努力をするより、周りのみんなのように幸せな家庭を築く方が、親孝行にもなるんじゃないかって。
一度そう思ってしまうと、そこから涙が止まりませんでした」
「そうやって、ひとりステージ裏の隅でないていると、誰か来たんです。
同僚かと思って振り向いたら、違いました。
ステージから光が差していて、誰なのかはよく分からなかったんですが、
その人は笑って
『菜々ちゃん、今日もLIVEとメイドさん、頑張ったね!』
と褒めてくれました」
「誰かは分からないけど、褒めてくれたことがとにかくうれしくて、また涙が溢れました。
その人は
『いつか報われるから頑張って。』
と言うと、ステージの光のむこうに消えていきました」
「今思うと、あれはウサミンだったんじゃないかと思うんです。
私の中のウサミンが、自分への鼓舞をしてくれた。要するに心が見せた錯覚、ですね。
でも、次の日から菜々はどんなことがあっても頑張れました。
ウサミンの言葉が私を支えてくれたからです。
今があるのは彼女のおかげです。
ウサミンに、感謝の言葉を伝えたいです!!
本当にありがとう!!菜々、がんばったよ!!ウサミン!!見てる?? 」
ワーッパチパチパチ...
授賞式を終えた菜々の元にPがやってきた。
「菜々さん、おつかれ。いい、授賞式だったよ」
「へへ...喋りすぎちゃいましたかね...?」
「シンデレラガールになったんだ。あれくらい問題ないさ」
「シンデレラガール...そっかぁ」
「おいおいどうしたんだ?さっきまであんなに喜んでたんじゃないか」
「夢じゃ...ないんだ...って」
「...ああ」
「どうする?このまま事務所へ帰るか?」
「あっ!その前に!寄りたいところがあるんです!!」
「寄りたいところ?」
二人の車が目的の場所に付く。
「うわぁ...変わってないなぁ...」
懐かしそうに菜々は呟く。
「なるほどな...地下アイドル時代の劇場か」
「はい。シンデレラガールをいただいた今、ここに来ることに意味がある気がして」
「そうか...思えば、ここで俺達もであったもんな」
「はい...プロデューサーさんから名刺をもらったあの日から、プロのアイドルとしての菜々は始まったんです。
振り返れば、いろんな思い出がよみがえってきます」
「俺も...感慨深いよ...」
プルルルル...
「っと、ちひろさんからだ。ちょっと外で電話に出るけど、菜々さんの気が済むまでいて良いからな」
「分かりました!」
菜々はステージ上で辺りを見渡している。
「ステージも何も変わってないなぁ...!ここから見ると、むこうの辺りに手作りの団扇振ってくれる人がいて
あっちには曲の感想をうれしそうに言ってくれる女の子がいたっけなぁ...」
「ステージ裏も...ん?」
誰かがうずくまっている。
泣いているのだろうか。
時折嗚咽が聞こえる。
やけに目になじんだ衣装を着ている。
ああ...なるほど。
あれはあの頃の菜々だ。
何もかもが嫌になって、不安になって、くじけそうになっていた菜々だ。
そして...あの頃のウサミンは、今の私だ。
そうか...私は私に励まされ、手を引かれていたんだな...
菜々はそっと泣いている女の子に近づくと優しい笑顔でこういった。
「菜々ちゃん、今日もLIVEとメイドさん、頑張ったね!」
終わりです
菜々さんのことを振り返っていたら思いついたので、短いですが書かせていただきました
好き
おつ
乙
最後のところで泣けた
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