穂乃果「季節」 (74)
ーーーーー春。
出会いの季節でもあり、別れの季節でもある。
世界の人々は桜色に染まっていく中、1人の少女が黒に堕ちていく。
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2018年4月
「………桜…」
ベッドで横たわる私の身体の上に一枚の花びらが舞う。
どうやら、春が来てるみたいだ。
「…穂乃果。ご飯ここに置いとくね。」
お母さんが私の部屋の前で喋っている。
「うん…ありがとう」
高校を卒業して3年目、私は部屋から出れずにいた。
所謂、引きこもりって奴だ。
「あははは!まてー!」
外から煩いほどに元気な子供の声が聞こえてくる。
今の私には、本当に少し煩さ過ぎるくらい。
「…最後に外に出たのいつだったっけな。」
不意に言葉を漏らしてしまう。
最後に外に出たのは確か、3ヶ月前にことりちゃんと会った時だった…ような気がする。
この冬の間はトイレ以外で一回も部屋から出なかった。
ただひたすらに窓から見える雪を眺めていた。
ピロン♪
…ケータイの通知がなる。誰からのメッセージだろう。
ことり
【穂乃果ちゃん。元気かな、今から会いに行ってもいいかな】
ことりちゃん?急にどうしたんだろう。
穂乃果
【ごめん、今は誰にも会いたくないんだ。】
…送信と。
それにしても、急に会いに行くなんて、どうしたんだろう本当に。
少し怖い。
ピロン♪
ことり
【そっか。また気が向いたら教えてね。いつでも行くから!】
…なんでこんな私を心配してくれるんだろう。
私は心配なんてされちゃいけない人間。
独りでこのまま生きて、死んでいくだけの人間なのに。
ーーー私はそれ以上の返信をしなかった。
「あんたが悪いのよ」
…やめて
「そうだよ、穂乃果さえ居なければ私達はずっと幸せに暮らしてたのに!」
やめてやめて
「どうやって責任取ってくれるん?」
やめてやめてやめて!
「なあ!穂乃果ちゃん?!」
やめて!!!!!!!!!!!!!!
ーーーーーーーーー
「…はぁ…はぁ…」
どうやらいつのまにか眠ってしまってたみたいだ。
明るかった外は静寂に満ちて暗くなっていた。
窓を開けていたせいか、少しお腹が痛い。
…それにしても、嫌な夢を見てしまった。
いや、夢というよりは、本当にあの人達が私に対して感じてる本音なのかもしれない。
考えがネガテイブになってしまい、余計に腹痛を促進させる。
「トイレ行こうかな…」
ガチャ
「…っ」
部屋の前には湯気が立ち込めているご飯と味噌汁と、鮭の塩焼きが置いてあった。
きっとお母さんが置いてくれたんだ。
そういえばお昼ご飯も食べてなかった。
「お母さん…ごめんね」
こんな私のために毎食作ってくれるお母さんを思うと自然と涙が溢れてくる。
トイレをしに一階へ降りると、玄関に見覚えのない靴が綺麗に揃えられて置いてあった。
「…誰が来てるのかな」
居間から話し声が聞こえてくる。
「ーーーー」
なんだろう、よく聴こえない。
少しだけ居間に近付くとお母さんの姿が見えた。
「本当にわざわざ来てくれてありがとうね」
…わざわざ来てくれてありがとう?
相手は誰だろう。
「いえ、でもやっぱり穂乃果が元気なら良かったです」
…この声ってまさか…!
「でも貴女が来てくれるなんて、きっと穂乃果も喜ぶわ」
…やばいやばいやばいやばいやばい!
どうして絵里ちゃんがここに?!
バタンッ
「ーーーやばっ」
足元に置いてある新聞紙の山を焦って蹴ってしまった。
「…誰かいるのー?」
やばい、お母さんにバレた!
どうしようどうしようどうしよう!
ガチャ
「…穂乃果!!!」
無慈悲にもお母さんに見つかってしまった。
実はお母さんとまともに会うのもこれが久しぶりだった。
今まで家族みんなが寝た深夜にトイレやお風呂とか入ってたから、こうしてお母さんに会うのも3ヶ月ぶりだ。
「あ、あはは…ひ、久しぶり、おかあ、さん…」
どうしようドア越しには喋れてたのに顔を見てだとまともに喋れない。
「本当に…!元気そうで本当に良かった…っ」
同じ家に住んでいるというのに。
なんておかしな会話なんだろうと自分でツッコミたくなる。
「そうだ、今ね、絢瀬さんが来てるのよ。貴女に会いたいって」
「そ、そうなんだ…」
「折角だから、会ってあげたらどう?」
絶対に無理。私は絵里ちゃんに会う資格なんて無い。
「ごめん、会いたくない…かな、」
お母さんは「そう…」と哀しげに返事をしていた。
のだけど、お母さんの後ろから
「久しぶりね、穂乃果」
絵里ちゃんが居間から出て来てしまった。
「………」
私は返事ができない。
「また会えて嬉しいわ。【元気そう】でなによりね」
「…!」
返事をしない私に絵里ちゃんは話を続ける。
「みんな会えなくて心配してるわよ。少しづつでいいからみんなにも連絡してね」
…そんな訳がない。
皆んなが私なんかを心配してくれる訳がない。
こんな事を言っておきながら、きっと私を嵌めるつもりなんだろう。
「…じゃあ今日は私はこれで帰ります。お母さん。急にお邪魔して失礼しました」
「あ、いえいえ!またよかったらいらっしゃいね!」
…良かった。帰ってくれる。
「あ、そうだ穂乃果」
…なにかまだあるの。出来れば早く帰って欲しいのだけど…
「にこも、穂乃果の事待ってるわよ」
…やめて。
その名前を出さないで。
また思い出してしまう。
「それじゃ、これで失礼します。」
ガチャ
絵里ちゃんは何が目的で来たんだろう。
きっと、きっと私に復讐をしに来たんだ!
あんなことに、なったから
私があんなことをしてしまったから!
絵里ちゃんの恋人のにこちゃんに!
あんな風にしてしまったから!
2017年 4月
私は大学2年生に進級し、それなりに楽しく生活していた。
「おーい!穂乃果ちゃーん!」
向こうからことりちゃんが走りながらやってくる。
「もー、遅いよ~」
私は笑いながら彼女と話す。
「あはは、ごめんごめん!前の講義長引いちゃったー」
私はことりちゃんと同じ大学に通っている。
彼女は大学に入ると綺麗で長く透き通っていたロングヘアーを一新し、可愛らしいショートボブにしていた。
それでも可愛いことには変わらないのだけれど。
「それにしても、一年ぶりかぁ。海未ちゃん元気かな~」
「うんっ!きっと元気だよ!今日の飲み会楽しみだね♪」
今日は飲み会だ。
私とことりちゃんと海未ちゃんの3人。
実は高校を出て以来3人が揃うのは初めてだ。
「海未ちゃん、きっともっと綺麗になってるだろうなぁ」
ことりちゃんが空を見上げながら言葉を漏らす。
「うん、なってるに決まってるよ!」
私も期待しつつ、集合場所の音乃木坂高校前に向かった。
「あ、あれじゃないかな、海未ちゃん」
ことりちゃんが指差した先には確かに見覚えのあるストレートの長い髪の綺麗な女性が立っていた。
桜の花びらが舞っていて、ただ立っているというだけたのにすごく画になっていた。
「おーい!海未ちゃーん!」
私が遠くから大声で呼ぶと、漸くこちらに気付き手を振り返してくる。
私達は走って海未ちゃんのところへ向かう。
「久しぶりですね、穂乃果。ことり。」
ああ、久しぶりに聞く海未ちゃんの声。
凛としていて、ハリのあるカッコいい声。
「…やっぱり、カッコいいなぁ」
「…穂乃果ちゃん?」
ことりちゃんと海未ちゃんが私の顔を覗き込むように見てくる。
「あっ、やばっ、なんでもない!今の無し!」
思わず口に出してしまっていたのかもしれない。
「ふふ、相変わらず変な穂乃果ですね、それじゃあ行きましょうか!」
「もー、相変わらずってなんなのさー!」
「あはは!」
こんなやりとりも懐かしく感じながらお店へと向かう。
ちょっと、明日も仕事なんで寝ます。
読みにくかったりしたら言ってください!
多分長くなるので、改善して行きます。
良いぞ続きが気になるぞ
おつ
「貴方達は何飲みますか?」
お店の席に着き、ひと段落した海未ちゃんが私達に聞く。
「私はぁ…カシスオレンジかなっ」
…さすがことりちゃん。居酒屋でまでお洒落だ。
「私は生ビールかな」
「あのですね、貴方達まだ、19歳ですよね?」
海未ちゃんの放った一言に私とことりちゃんは少し焦った。
まあでも、今時の大学生なんて未成年でも飲み会ばっかりやってるものでしょ。
「ま、まあ、もうすぐで20歳になるし、いいんじゃないかな」
ナイスフォローことりちゃん。
「まあ仕方ないですね。大目に見ておきます。」
…居酒屋きた時点でお酒飲む事は分かっていたと思うんだけどなぁ。
「それじゃあ、生ビールとカシスオレンジとジンジャーエール一つずつ下さい」
さあ、楽しい女子会の始まりだ。
「それじゃあ…3人がまた無事揃った事ですし…かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
私の掛け声で二人も手を伸ばす。
「…ぷはぁっ、やっぱりビールは美味しいねえ!」
「あはは、穂乃果ちゃんなんかお父さんみたいだね」
「本当です。もう少し女の子らしく飲んだらどうなんですか」
2人は私にそう言いながらちびちびと《女の子らしく》飲んでいた。
「あ、そういえば料理頼んでないね。何頼もっか」
「まあ無難に焼き鳥とかでいいんじゃないですか?」
無難って…絶対海未ちゃんも普段からお酒飲んでるでしょ…。
無事に料理も来て、他愛もない話をして一時間くらい経った頃、急にことりちゃんが話を変えて来た。
「そういえば海未ちゃん」
「なんですか?ことり」
「海未ちゃんって確かお家継いで忙しいんだよね?最近どう?」
海未ちゃんは少し黙り込むと口を開いた。
「…園田家は無くなりました」
え…どういう…こと?
「えっっ」
ことりちゃんもびっくりしているようだ。
「私のお母様がどうやらギャンブルにハマって居た様で、闇金にも手を出していたようです」
闇金…でも海未ちゃんの家ならお金いっぱいあるんじゃ…
「母も自分事で流石に家のお金は使えないと思っていたのでしょう。それで借金が膨らみに膨らんで…」
「…」
ことりちゃんは凄く気まずそうに話を聞いている。
「最終的には家も財産も全部売ってしまいました」
「……」
どうすんのさこの雰囲気…
「…いきなりこんな暗いお話して申し訳ありません」
「あっ、ううん、いいの、私が聞いちゃったから…ごめんね」
ことりちゃんは申し訳なさそうに答えている。
「海未ちゃん、辛かったね、気付いてあげられなくてごめん」
「…ありがとうございます穂乃果、ことり。でも私は大丈夫。この通り元気に過ごしてます!」
…こんな話を聞いた後だと、どれだけ笑顔でもその笑顔の下には闇を抱えていると思ってしまう。
私が考えすぎなだけなのかな。
「なんかあったら私達に連絡してね?海未ちゃん全然メール返してくれないんだもん!」
「あはは、確かに海未ちゃん返してくれないよね~」
私とことりちゃんでなんとかこのやばい雰囲気を明るい方向へと持って行く。
「ごめんなさい、中々ケータイ見ないものですから…」
「もー、そんな事言ってたら恋人に嫌われちゃうよー?」
おっとことりちゃん、強引に恋話に持っていったね。
「なっ、こ、恋人?!」
海未ちゃんは赤面した顔を両手で覆うように隠した。
可愛いなぁ。
「そうだよ、恋人。海未ちゃん可愛いんだから恋人くらいいるでしょ?」
「い、いませんそんな方は!」
「ええ~?本当かな~?」
ことりちゃん…こういう話になると滅法強い。
「そ、そういうことりはどうなのですか!」
「わ、私はぁ~」
と、ことりちゃんは目を泳がせながら私の方をチラッと向く。
しょうがない、私が言うか。
「海未ちゃん、ことりちゃんはね、私と付き合ってるの」
海未ママェ……
よっしゃことほのやんけ
「えっ?!そうなのですか?!」
海未ちゃんが机をバンッと叩き立ち上がる。
相当びっくりしているようだ。
「そ、そうなのー…実は…半年前から、かな?あはは」
そう、わたしとことりちゃんは半年前から付き合っていた。
「そ、それこそ私に一言くらい連絡くれてもいいじゃないですか!酷いですよ!」
うん、全くもってその通りだ。
「なんか…凄く言いにくくて…」
うんうん、ことりちゃんの気持ちもよくわかる。
「それにしても、2人が付き合ってるだなんて…なんだか置いてけぼり食らった気分です」
「そんな事ないよ!私達が付き合ってるからって、この3人の関係は今まで変わらない!」
あれ、お酒入ってるからかな、いつもより感情的になってるな、私。
「穂乃果…ありがとうございます」
納得…してくれたかな。
とは言っても海未ちゃん、寂しいだろうなぁ…
「あ、そうだ。付き合っていると言えば、にこちゃんと絵里ちゃんも付き合ってるって聞いたよ!」
「えっ、ことりちゃんそれほんと?!全然知らなかった!」
私が大げさに話に反応すると続いて海未ちゃんも口を開いた。
「なんか…意外といえば意外ですね。てっきり、絵里は希と付き合って、にこは真姫と付き合うかと思っていたのですが…」
…あの海未ちゃんでもそんなこと考えるんだね。
私ちょっとびっくりしてる。
「確かにね、でもやっぱりそこら辺の関係で一悶着はあったみたいだよ」
海未ちゃんは「へぇ~」と言わんばかりに頷いている。
…女子はいろいろありますね。
「あ、そろそろ日付変わっちゃうね。終電とか大丈夫?」
「…もうこんな時間だったんですね。貴方達といると楽しくて時間がすぐ過ぎてしまいます」
「じゃあそろそろ行こっか!」
私がそう言って席を立つと、みんなも後について来た。
「それではお客様のお会計18,000円になります!」
うーん、結構飲んだな…
「じゃあ、1人6千円ずつだね!」
ことりちゃんが素早く割り勘金額を伝えると海未ちゃんも素早く答えた。
「あ、いえいえ、今日は私が出させてもらいます。久し振りに貴方達とお話しできて楽しかったですから」
「いや、流石に悪いよ、海未ちゃんも今いろいろ大変だろうし、なんなら穂乃果が全部払うよ」
「いや、ここは私に任せて♪最近バイト頑張ってるから!」
「いいえここは私が」
「私が!」
「私が!」
ううん、始まってしまった。女子特有のこれ。
どうにかならないものか。
私達がレジ前で一悶着してるとお店の玄関がガラガラと勢いよく空いた。
「うぃー!まだお店やってるぅー?!」
うわっ、凄い酔ってるな…ハシゴしてるのかな…って
「あれ、穂乃果とことりと海未じゃない、久しぶりね」
にこちゃんと、絵里ちゃん…
なんてタイムリーなんだ…
乙
幼馴染が付き合いだし恋人が居ないのは自分だけ
実家も家族も消えた海未に残されたものは
にわか乙
仕事忙しくて投稿できなかった
また仕事終わったら続き書きます~
いつまで仕事してんだ
「絵里!にこも!こんなところで何をやっているのですか?!」
「何をって…久々に2人の都合が合ったから朝まで飲もうとしてるだけよ…」
絵里ちゃんは海未ちゃんの問いに答える。
絵里ちゃんは顔は少し赤くなっているけれど、多分まだ大丈夫。
問題は隣にいるにこちゃんだ。
「にこちゃん…少し飲み過ぎじゃない?」
私がにこちゃんに話しかけると絵里ちゃんが答えた。
「あはは、ごめんなさいね。にこも今色々あって、お酒を飲みたいお年頃なのよ」
どんなお年頃…
「どーんなお年頃やねん!!!!」
何故か関西口調のにこちゃんが私の気持ちを代弁してくれた。
「と言うか、皆んなもう帰るんじゃないの?」
「はっ、そうでした。終電に乗り遅れてしまいます!」
絵里ちゃんが言うと、海未ちゃんは思い出したように答えていた。
「それでは皆さん、折角会えたのですが、明日も仕事がありますので私はこれで失礼します。お休みなさい」
「海未ちゃん!私達駅まで一緒に行くよっ」
ことりちゃんが海未ちゃんに話しかける。
うんうん、折角だからもうちょっとだけでも一緒に居たいしね。
「いえいえ、お気持ちだけで結構です。ありがとうございます。穂乃果、ことり」
海未ちゃんは相変わらず堅いなあ。
「そんなこと言わずにっ♪ほら!」
「あぁっ!ことり!待ってください!」
ことりちゃんが海未ちゃんの手を引いて店の外へと出て行ってしまった。
「あはは、じゃあ絵里ちゃん、にこちゃん、私達はこれで、また今度時間があったら一緒に飲もうね!」
「待って、穂乃果。どうせなら私たちともう少し飲んでいかない?」
え、えぇ~、私2人追わないといけないんだけど…
「そーよそーよぉ!こんな可愛い先輩2人を置いて先に帰るつもりぃ?!」
にこちゃん、本当に酔いすぎじゃないかな…
可愛い先輩なのは確かだけどさ。
「まぁ、無理にとは言わないけれど、ほら、積もった話もあるじゃない?」
私の方は特にないんだけど、なんだか帰るのも失礼な気がしてきた。
「あ、じゃあことりちゃんに連絡だけしてくるね!」
「流石穂乃果、じゃあ先に席で待ってるわね」
絵里ちゃんは千鳥足のにこちゃん連れて席へと歩いて行った。
さてと。ことりちゃんに電話だけしないとね。
ピポパポピ
「あ、もしもしことりちゃん?」
『穂乃果ちゃん、どーしたの?早く来なよ』
「実はもうちょっと2人と飲んでくことになっちゃったからさ、海未ちゃん送ったら先帰ってて!ごめん!」
『えー…、わかったよぉ、じゃあ先に帰ってるね!』
「本当ごめんね!それじゃおやすみ!」
『うんっ!おやすみ!』
ピッ
さて、女子会第2部の始まりだ。
「おまたせ~!」
って、もうお酒飲んでるし…早すぎる…
「おかえり、先に飲んでるわ」
にこちゃんは最早泥酔して寝かけてる…
「ぅえり…まって…よぉ~むにゃむにゃ」
というかこれ寝てるね。
「にこちゃん、寝ちゃってるよね?大丈夫?」
「折角付き合わせたのにごめんなさいね、まあにこは寝かせておきましょ」
まあ、大丈夫ならいいんだけど。
「穂乃果は何飲む?」
「じゃあ私は芋のロックで」
「また渋いの飲むわねえ~」
なっ…そういう絵里ちゃんだって日本酒飲んでるくせに…
「そういえば気になってたんだけどさ、どうして2人だけなの?希ちゃんとかは一緒じゃないんだね」
「穂乃果…貴方中々やるわね」
…意味わからない。
「実はね、私とにこは付き合ってるのよ」
「どぅえええ?!そーなの?!?!」
私は机をバンと叩き立ち上がる。
まるでさっきの海未ちゃんのモノマネだ。
「いだっ、あんた急になんなのよぉ~!」
机に突っ伏して寝ていたにこちゃんが起きてしまった。
「あ、ごめんねにこちゃんっ!でも2人が付き合ってるだなんて…!」
「あ~…なに…?絵里付き合ってる事バラしたの?」
「別に隠す事じゃないじゃない」
おおお、本当に付き合っているんだ…
>>35ごめん
絵里とにこが付き合ってる事ことりから聞いてたねちょっと前に、忘れてた。
穂乃果
「そういえば2人は付き合ってるって本当?」
絵里
「ほんとよ!」
にこ
「あ、絵里バラしたの?!」
絵里
「なによおきてたの」
穂乃果
「おー、まじなんや!」
的な文に代えておきます!
「ねえねえ!いつから付き合ってるの?!」
「なにをそんなに興奮してるのよ、ふふ。去年のちゃうど今頃だったかしらね、ねえにこ」
絵里ちゃんは嬉しそうに話してる。
「えー…そうだったかしらね…」
「そーよ!にこが私の学校の前で待ちぶせしてt…」
「ぬわあああああストップストップ!」
にこちゃんなにをそんなに慌てているのか。
「それ以上言ったらぶっ飛ばすわよ!」
「えー、それは嫌ね、ごめんね穂乃果、この話はここまで」
そりゃないよ…最後まで聞かせてほしいよもう!
「いいじゃん!最後まで聞かせてよ!どうせなら!」
「…だって、どうする?にこ」
「……はぁ、仕方ないわね。喋ってもいいわよ…ちょっと私は外に出て夜風浴びてくるわ…」
そういうと、にこちゃんは照れたような顔を手で隠しながら店の外へと歩いていった。
「それでそれで?!にこちゃんが学校の前まで来てどうなったの?!」
「少し落ち着きなさいよ穂乃果…ちゃんと話すから」
そ、そんなに落ち着いてないかなぁ…?
「にこがね、私の学校の前に来て、チケットを私にくれたのよ」
「チケット?」
絵里ちゃんは机に頬杖をしながら話している。
「そう。遊園地のチケットでね、いきなり渡されて」
《はい!これ!今週の日曜日空けといてよね!それじゃ!》
「とだけ、言われてにこは走って行っちゃったの」
なんかにこちゃんっぽいなぁ。
「まあそれで日曜日に集まるんだけど、私とにこと希もあると思ってたのよね」
ほうほう…
「でも、私とにこだけの2人だけだったの」
「私はね、にこに『私達2人?今日希はこないの?』って言うとね『ぬわぁによ!私と2人じゃ不満なわけ?!』とか怒り出すからさあ、それはもう大変で大変で」
「まあ、それで遊園地デートしながらまさかの観覧車に乗ってる時に告白って言う甘々な告白を受けたわ」
っひゃあああああああなにこれ!胸がキュンキュンするよ!!!
おつ
なんて青春してるんだろうこの人達は…
「それで、希ちゃんは2人が付き合ってること知ってるの?」
「勿論知ってるわ、ただまぁ、少し揉めたりはしたけどね」
そういえばことりちゃんもそんな事言ってたような気がした。
もしかして私とことりちゃんと海未ちゃんも揉めたり…それはないか。
「でも今は希も私達のことを応援してくれてるわ。そんな事より」
そんな事より…なんだろう。
「穂乃果はことりと海未、どちらと付き合っているのかしら」
きゅ、急に私の話?
「な、なんで海未ちゃんとことりちゃんなのさー!あ、あはは!」
私は下手な口調で質問を質問で返す。
「あら、貴方は絶対その2人のどちらかと付き合うものだと思ってたのだけれど…」
まあ、実際ことりちゃんと付き合ってるし…
「もー、それでもし他の人と付き合ってたりしたらどーするの!」
「そーなの?それは申し訳ない事言ったわね」
「いや…ことりちゃんと付き合ってるけどさ…」
私はしょうがなくカミングアウトした。
「ふーん、そうなのね」
あれ、意外に微妙な反応。
予想通りだったのかな。
「なんで、『海未』とは付き合わなかったの?」
「え?それってどういう…」
「そのままの意味」
「ごめん、意味がよくわからないんだけど…」
「言い方を変えるわね、何故「ことり」と付き合ったの?」
…
「それは…同じ大学で…ずっと一緒にいる内に…」
…あれ?
「へえ、じゃあ例えば同じ大学にいるのがことりじゃなく、海未だったら付き合ってたの?」
「そ…れは」
…なんだろうこの気持ち
「高校まで3人でずっと一緒にいたはずなのに、大学入ってからの一年でことりだけ好きになっちゃった訳?」
「…何が言いたいの?私がことりちゃん好きなのは本当の気持ちじゃ無いとか言いたいの?」
「そんなんじゃないわ。きっと貴方は本気でことりが好きなんだと思うわ。でも同様に海未の事も好きなんじゃないかしら」
頭を直接叩かれたような衝撃を受けた。
いや、きっと自分でもどこか分かっていたのだとおもう。
それでも、幼馴染2人を好きになってしまうなんて許されないと、少しだけ離れていた海未ちゃんへの気持ちを心の奥底にしまっていたのかもしれない。
「まあ、あくまでこれは高校まで見てきた私個人の観点だけどね。違ったらごめんなさい」
「いやっ…きっと、違く、ない、とおもう…」
ことりちゃんにだけ向けてきた感情を一気に海未ちゃんにも向けてしまいそうになる。
「私…どうすればいいのかな」
「まあそんな暗くならないでね、ほら、お酒でも飲みましょうとりあえず!」
人の気持ちを乱しておいてなんでそんなこと言えるんだろう。
店のドアが勢いよく開く。にこちゃんのお帰りだ。
「ただいま。外にいたら少し酔い冷めたわ。で、どこまで話した訳?」
さっきまでとは別人のように落ち着いてる。
「にこが、もう甘えてきてしょうがないのよねー、って話をしてたの。ね、穂乃果」
「えっ?!あ!うん、もー、にこちゃん可愛いよね~」
「は、はぁ?!甘えてなんかいないじゃない!寧ろ甘えてきてるのは絵里の方じゃ!」
「あら、そうだったかしら。てへぺろ」
「てっ、また古いわねあんたはー!」
「あはは」
急に始まる夫婦漫才…まあ面白いからいいのだけど。
「あ、すいませーん、ウーロン茶ください」
「あれ、にこちゃんお酒もう飲まないの?」
「流石にもう飲まないわよ。明日休みとはいえもうアルコールはたりてるわ。」
「そうなんだ、じゃあ私は生一つください!絵里ちゃんは?」
「うーん、私も生でいいかしら」
店員さんに生2つと伝えるとにこちゃんが口を開いた。
「穂乃果…そんなに飲んで大丈夫なの?顔めっちゃ赤いわよ」
えっ、にこちゃんに言われるほど?
「そうかなあ?」
「まあ、明日土曜日だし、学校ないとおもうからいいと思うけど。それより」
…またそれよりだ。この2人は逆説が好きなのか。
「それより、なに?」
「海未とことりって付き合ってるの?」
「うええ?!どーして?!」
「だって、さっき仲よさそうに外へでてったじゃない。あれはねー、只の幼馴染の関係じゃないわね!」
にこちゃんが得意げに推理している。
…そっか、にこちゃんからはそういう風に見えてたんだ。
「違うわよにこ。あの2人が付き合ってるんじゃなくてね、ことりと穂乃果が付き合ってるのよ」
「えっ?!そーなの?!」
「う、うん…まあ、あはは」
…確かに側から見ればあの2人が付き合ってる方がお似合いなのかもしれない。
「ま、まあーでもあれよね!ことりも穂乃果と付き合ってるのに少し海未とベタベタしすぎだわね!」
「にこちゃん…励ましてくれるのは嬉しいけど語尾変になってるよ」
「い、いいじゃないそんなのどうでも!」
「でも、確かにことりちゃんいちゃつきすぎだよね…ちょっと嫉妬しちゃうなぁ」
「…」
あっ、やば、この雰囲気まずいですよ!
「あ、あはは!でも海未ちゃんとも仲良くしてほしいし、穂乃果的には全然いいんだけどね!」
口ではそう言ったものの、考えきれない程複雑な感情が私の心を痛めつけていた。
エリーチカうざいぞ
「まあでも、なにがあるか知らないけど、今はことりと付き合ってるんだから、ことりの事を信じてあげて、精一杯愛してあげるのが、筋じゃない?」
「え、絵里ちゃん。なんだか大人っぽいアドバイスだね!」
見た目もすごい大人だし、対してにこちゃんは…言うのはやめておこう。
「ちょっと!あんた今なんか失礼なこと考えてないでしょうね?!」
「ぎくっ」
「ぎくってなによ!」
「あはは、ごめんにこちゃん!あはは!お腹痛い!」
「まあでも、絵里ちゃんの言う通りだね。なんか気持ちが楽になった気分。ありがとう!」
「そんな大したことしてないわよ。それじゃあそろそろ行きましょうか」
「そうね。もう3時だし。穂乃果は家この辺なの?」
「穂乃果は実家から通ってるよ、だから歩いて帰ろうかなって」
「実家って…バカ遠いじゃないの!私達の家くる?」
「え、いいの?!」
って、え、2人は一緒に暮らしてるの?
今日はなんだか色々驚くことが沢山ありますなぁ。
「別にいいわよ、ね、にこ」
「私も構わないわ」
「ありがとー!じゃあお呼ばれしちゃおっかな!でも2人が一緒に住んでるなんてびっくりだな」
あれ?でもさっき『2人の都合が偶々合ったから飲んでる』って言ってたけど…
「まあでも、私もにこも色々あって家にいることは殆ど無いんだけどね、今日は偶然よ本当に」
そういうことか。納得。…納得?
「じゃあ行きましょう。お会計は私とにこでするから先外出てて穂乃果」
「えっ、悪いよ、私も出す!」
「いいのよ、引き止めた私達が悪いんだからこれくらい出させて頂戴。それにいろんな話できたし」
「ええー…でも…」
「ほら!絵里が出してくれるって言ってるんだから!先輩に甘えなさいよもう!」
「うん…ありがと!じゃあそうするね!外で待ってる!」
「…にこ?貴方も出すのよ…?」
「ひ、ひい!すみません!」
あはは、絵里ちゃんはやっぱり、怒ると怖いね。
お言葉に甘えて私は外で待ってるとしますか。
ガラガラ
うっ…さむ…四月って言ってもやっぱ夜中は寒いなぁ…
星はーーーー………見えるわけないか。
はあーさむい。
こんな夜なのに車いっぱい走ってる…すごいなぁ…
ってか眠くなってきた……
ガラガラ
「お待たせ穂乃果、行きましょうかって、凄く眠そうね」
ん…あ、絵里ちゃんか。
「うん…大丈夫…眠くないよ…」
「そう…家着いたらすぐ布団敷いて上げるからもう少しだけ我慢してね」
「流石絵里ちゃん…頼りになる…」
「じゃあ、にこ、穂乃果行きましょうか」
ああ…眠いなぁ…。
どんどん思考回路が停止していくのがわかる。
お酒ちょっと飲みすぎたかなぁ。
「穂乃果、歩ける?おんぶする?ってもまあ、私じゃ無理だけど。」
「あはは…大学生にもなっておんぶは恥ずかしいよにこちゃん…」
おんぶかぁ…懐かしいなぁ…
「あれ、穂乃果」
「なあに?絵里ちゃん」
「あそこの反対側の道路の公園にあるのって、ことりと海未…じゃない?」
…え?ことりちゃんと、海未ちゃん…?
「どこ…?」
「ほら、あそこよ」
…暗くて見えないが目をじーっとこらす。
…確かに2人の人影が見える…けど、暗くてよく見えない。
車道を走っている車のライトを頼りに判別するしかないけど…
改めて、目をこらす。
……!
本当にことりちゃんと海未ちゃん…だ!
こんな所でなにをやっているの…?
海未ちゃんは電車で帰ったんじゃないの?
なんで2人でベンチで座っているの?
たっ
たったったっ…
「あの馬鹿ッーーーー
ブオオオオオオオオオオオオオオオッッッ
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
目が覚めたら私は見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
身体が重い…横に目を流すとお父さんとお母さんと雪穂が泣きながら座っていた。
「穂乃果…!穂乃果ッ!!!よかった!」
お母さん…?どうしてそんなに泣いているの?
「お姉ちゃん!!!もう!!心配したんだからね!!!!」
「雪穂…どうしたの?」
「…覚えてないの?」
「…ごめんなんにも」
「…お姉ちゃんがね、急に道に飛び出したの。それで車に轢かれそうになった所をμ'sのにこさんがお姉ちゃんを、庇ったんだ」
頭がいたい。
思い出ししまう。
あの夜見たものすべてを。
「にこ…ちゃんは」
「…幸い命は取り止めたけど、意識が戻ってないって…」
「そ、そんな…」
私のせい…?
いや、私のせいだ。
私が道路に飛び出してすらいなかったら!!!
仕事行ってくるンゴ
……なにも考えられない。
ガラガラ
「雪穂ちゃん!穂乃果の意識が戻って本当?!」
「………みんな」
病室…の玄関を勢いよく開けた先にはにこちゃんを除くμ'sの7人が居た。
「穂乃果ちゃん…っよかった…っ、よかったよ本当に…」
…ことりちゃん、ありがとう。
「貴方って人は…なんでいつもみんなに心配かけるのですか!でも…無事でよかったです…っ」
海未ちゃん…いつもごめんね。
花陽ちゃんも凛ちゃんも真姫ちゃんも希ちゃんもごめんね。心配かけて。
「………絵里ちゃん…あの…」
「お父様、お母様、雪穂ちゃん。少し私達だけで話しさせた貰っても宜しいですか?」
「…わかったわ。じゃ、お父さん、雪穂。行きましょう」
ガラガラ
「…えりち、どうしたん?急に」
「…穂乃果」
きっと私を憎んでいる。多分それはもう怖いほどに。
そう、私はこの人の恋人を酷い目に遭わせた。
みんなから心配される資格なんてない。
「…ごめん、やっぱり出てって…」
「穂乃果、聞いて」
「申し訳ないけど、今はみんなの顔をまともに見れない」
何言ってるんだ高坂穂乃果、折角みんなが来てくれたのに。
「穂乃果、私はね」
「早く出てってよ!!!!!本当は誰も心配なんてしてないくせに!!!」
やめて、何を言ってるの私!皆んなはそんなこと思うような人じゃない!
「……絵里。穂乃果も今は不安定です。1人にさせてあげましょう」
「…わかったわ。」
…絵里ちゃんのあの目……
「じゃあ、穂乃果。また日を改めて来ます。おやすみなさい」
ガラガラ
………
一週間後
ーーーー
「…雨」
外は雨が降って居た。
私は退院し、部屋で安静にしていた。
少し気持ち的にも落ち着き、今日は海未ちゃんとことりちゃんと絵里ちゃんが真姫ちゃんが面会というか、話をしに来る予定になっている。
「穂乃果、皆さんがいらっしゃったわよ」
「…わかった」
階段を降り、みんなが待っている玄関へと足を運ぶ。
「…久しぶり、みんな…この前は怒鳴ってごめんね」
私がずっと心に留めていた謝罪の気持ちを皆んなはスッと受け止めてくれた。
「いえ、私達も少し時間を置くべきでした。こちらこそすみません」
「そ、そんな!顔あげてよ海未ちゃん!心配して来てくれたって事分かってるからちゃんと」
…うん。わかっている。
「まあここで話すのもあれだし、早速部屋上がってよ、お菓子とかお茶持ってくからさ」
そう私が伝えると「お邪魔します」と一礼してから足を揃えて私の部屋へと向かって行った。
台所に置いてあるお客さん用のお饅頭と、麦茶を人数分用意して、部屋へと向かう。
「みんな、お待たせ。お饅頭持って来たよ」
皆んなはテーブルを囲うように正座で座っていた。
「お饅頭だって!良かったね、海未ちゃん!」
ことりちゃんがそういうと全員の視線が海未ちゃんに集まった。
あぁ、そっか。穂むらのお饅頭、好きなんだっけ。
「こ、ことりやめてください!はしたない人だと思われるじゃないですか!」
「別に思わないわよ…好きなんだから仕方ないデショ」
真姫ちゃんが髪の毛をくるくるさせながらバッサリと言う。
「ありがとう穂乃果。じゃあ…座ってくれるかしら」
「……うん」
…沈黙が続く。
話をしに来たんじゃないのかこの人達はと思いはしたものの、言うのは流石に辞めた。
3分くらい沈黙が続いた後、口を開いたのは絵里ちゃんだった。
「…にこは」
……聞きたくない話。
「ごめん絵里ちゃん、その話はまた今度でいいかな」
……私のせいで、事故にあって、どんな辛い目にあったか。
ーーーーーーパシンッ
「いつまで逃げるつもりなんですか!」
一瞬何が起きたのか分からなかった。
周りを見回しても口を開けてポカーンと拍子抜けしてる感じ。
?が痛い。
でも、どこか懐かしいような感覚。
「穂乃果、お願いですから、しっかりと今回の件に向き合って下さい。じゃないと、にこは報われないじゃないですか…」
海未ちゃんは消え入るような声で私に訴えかけた。
…そうだよね。
絵里ちゃんだって、皆んなだって辛いはずなのに、私が逃げてちゃいけないよね。
「…ごめん、皆んな。私がダメだった。絵里ちゃんもごめん」
「いいのよ」
「じゃあ続きを話してもらえますか?」
海未ちゃんの催促で絵里ちゃんはまた話を再開した。
「…にこは、一昨日意識を取り戻したわ」
…ほんと?!よかった…!
真姫ちゃんもことりちゃんも、海未ちゃんも安堵の表情。
「…でも」
「でもね、麻痺からか、まだ分からないけど、喋れない状態。」
「……っ」
思わず言葉を飲む。
「もしかして、全身麻痺?」
真姫ちゃんが絵里ちゃんに質問した。
「…まだ検査の結果は届いてないからわからないけど、恐らく…「下半身不随」…だって」
下半身不随…?
もう足が動かないってこと……?
「そんな…」
口から言葉が漏れる。
だってそうだ。にこちゃんの夢を考えれば…
「じゃあもうアイドル活動は…」
「…出来ないでしょうね」
ことりちゃんの質問に絵里ちゃんは淡々と答える。
「で、でも、まだ決まった訳じゃないのでしょう!?」
「いいえ、もう分かるわよ。あれじゃアイドル活動は出来ない」
海未ちゃんの質問にも淡と答える。
ガタンッ
「なんでアナタがそんな事決めるのよ!アナタにこちゃんの恋人なんでしょ?!」
「だったらなによ!」
「恋人だったら信じなさいよ!怪我は必ず治るって!」
「私だって信じたいわよ!!!でも無理なの!!!!」
……
「目の前で…好きな人が轢かれたのよ…?もう、無理なの、私だって、信じてあげたかったわよ…!!」
そうだ。私なんかより、この人の方が何倍も何十倍も何百倍も辛い思いをしている。
絵里ちゃんは今まで我慢していたのか、その目には涙が浮かんでいた。
「ごめん、感情的になっちゃったわね」
「いや、私の方こそ言い過ぎたわ。ごめんなさいね」
重いけど面白い
海未とことりはなにしてたんだろ
ーーーーピロロロロン♪
「…私の電話だわ。少し席外すわね」
絵里ちゃんは携帯を手に部屋の外へと出る。
…部屋に残された私と海未ちゃんとことりちゃんと真姫ちゃん。
誰一人として口を開こうとはしない。
「ーーーー?!ーーーー…わかりました。」
部屋の外から絵里ちゃんの声が聞こえてくる。
にこちゃんに関する新たな情報なのかな。
ガラガラ
「みんなお待たせ」
「今の電話は…」
「…にこのお母様からだわ」
…にこちゃんの御母さん。
そうだ、私のことを憎んでいるのは絵里ちゃんだけじゃ無い、にこちゃんの家族…。
「にこが喋れるようになったって」
「本当ですか?!」
海未ちゃんが1番に反応する。
「ええ、でもね」
…また逆説。
もうこれ以上悪い情報は聞きたく無いの…
「…記憶が……無くなってるって」
…え?記憶が、ない…?
「どういうことですか…それは」
「詳しい事は分からないけど、家族のことは覚えてるみたい」
家族のこと…それってつまり
「ただ、あの事件の事や、私達μ'sの事…」
嘘だ…嘘だと言ってよ
「忘れたっていう事…?」
「…そう、なるわね」
「どーして?!私達あんなに濃い時間を過ごしたのに?!」
やめてことりちゃん…
「…でもあるのよ、唐突な事故で大切な人との関係だけすっかりと記憶から消されちゃうこと」
真姫ちゃんが言った。
…もうどうしたらいいの?
私のせいでにこちゃんの夢まで奪って
挙げ句の果てには私達の存在までも消させて
私はこれからどんな顔して生きていけばいいの?
「…とりあえず、明日面会できるみたいだから私は行くけど、行く人は?」
明日面会…か
「私とことりは行きます、真姫はどうしますか?」
「もちろん行くわよ」
…私は…にこちゃんに合わせる顔なんて…
「穂乃果は…?」
「私は…行けない」
「………穂乃果、先も言いましたがいつまでも逃げててはいけません。にこもきっと会いたがっている筈です」
「……ごめん、わかった。じゃあ明日私も行く」
「わかったわ、他のμ'sのメンバーにも聞いてみるわね」
…にこちゃんが会いたがってる?記憶がないのに?
…適当なこと言うのはやめてよ海未ちゃん…
翌日 病院内
「…ここがにこの病室ね」
昨日のメンバーの他に花陽ちゃんが加わった。
他の二人はどうしても外せない用事があるらしい。
「…じゃあ、開けるわよ」
ガラガラ
絵里ちゃんが勢いよく扉を引いた。
その先にはベッドに横たわる可憐な少女が横たわっていた。
「…にこちゃん」
「あ、皆さん、いらしてくださったんですね。どうぞこちらに」
にこちゃんのお母さんも一緒に座っていた。
「にこ、みんなが来てくれたわよ」
「…ごめんなさい皆さん、私、皆さんのことはお伺いしてるんですが、覚えてなくて…」
…本当に記憶…無いんだ。
「じゃあ皆さんだけで話したいこともあるだろうし、私は一旦席を外します」
にこちゃんのお母さんはそう言うと席を立ち部屋の外へと向かう。
「…あ、穂乃果さん、ちょっとこっちへ来てくださいな」
……私だけが部屋の外へと呼ばれた。
ど、、どうしよう、とりあえず土下座した方がいいのかな
「あ、あの!今回は本当に!」
私が謝ろうとするとにこちゃんのお母さんに遮られた。
「穂乃果さん、貴方が今回の事件に責任を感じているのなら、大丈夫です」
「どう言う…事ですか?」
「昨日絵里ちゃんから色々聞いたのよ、穂乃果があの事件は自分のせいだって言って塞ぎ込み始めてるって…」
…絵里ちゃんから…そんなこと…
「穂乃果さん、私達はもちろん貴方を責めるつもりなんてないし、憎んでもいない」
「むしろ、穂乃果さんが居たからにこはまたアイドルという夢を追いかけるようになったの」
「一人の親として、貴方に感謝するわ。ありがとう」
「だから、もう負い目を感じなくていいのよ、穂乃果さん」
「…うぐっ…ひぐっ、うう…うわああん」
私は安堵の気持ちからか、泣き崩れていた。
「でもね、1つだけお願いがあるの」
「…はい…なんでしょう」
「こんなになってしまったにこでも、友達でいてあげて」
【友達でいてあげて】
この言葉がどんなに今の私を救ってくれることか。
「…はい!もちろんです!」
「ふふ、ありがとう。じゃあ中に入ってにことお話ししてあげて」
…感謝しても感謝しきれない。
私がくよくよしてても仕方ない。私もにこちゃんも一緒に頑張るんだ。
仕事落ち
乙
マイペースでよろしく
おつ
この海未はちょっと面倒というかイライラするな
エタ?
にこちゃんのお母さんと話を終え、私は病室の前に立つ。
呼吸をする…
「ーーーー…………よし」
ガラガラ
病室をドアを開けると皆んなが楽しそうに話している様だった。
「あっ、おかえり!穂乃果ちゃん!」
一番はやく私の存在に気付いたのはことりちゃんだった。
「……」
私が入ってきたからか、皆んな一斉に黙ってしまった。
そりゃ気まずいか。
でも私はにこちゃんに謝って、にこちゃんと一緒に頑張っていくんだ。
「………あのね!」
「待ってください!」
私の発言を早々と遮ったのはにこちゃんだった。
「穂乃果さん、きっと今私に謝ろうとしてくれたんですよね」
「…え?」
「それなら謝らなくていいです!貴方達の事をまだ思い出せては居ないけど、私が身体をかけて貴方を守ったのなら、それはきっと貴方が心の底から大事な仲間…だったのだからだと思います」
仲間…にこちゃんの口からそんな言葉が出てきた。
「それならば私は私のした行動に誇りを持てます!だって仲間を身体を張って守れるなんて素敵な事でしょう?」
にこちゃんは笑顔でそう言った。
「…うっ…ひぐっ…にこぢゃんんん!ごめんねええ」
私は気がつくと泣きながらにこちゃんに抱きついていた。
「もう、謝らなくていいって言ったのに」
にこちゃんは笑って囁いてくれた。
コンコン
「にこさん、診療のお時間ですよ~」
「あっ、はい!今行きますー!」
どうやら検診の時間らしい。
「じゃあ、私達は帰るわ。にこ。安静にするのよ」
絵里ちゃんがそういうと
「どうも。ご心配なく」
と、可愛く微笑んで見せた。
…心のどこかでまだ罪悪感のある自分がいた。
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