【モバマス】家出娘のお話 (13)

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです

一人称、地の文主体。独自設定ありです

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実家を追い出されたのはアイドルにスカウトされたのを一旦断ってからそう遠くない日のことだった。

きっかけは些細なことだったような気がする。気が付いたら父親に説教され、売り言葉に買い言葉、家を飛び出していた。

持ち出したのは数日分の着替えや生活用品、幾ばくかのお金に

「シンデレラプロダクション……か」

実家で和菓子を売ってた私をスカウトしてきたプロデューサーを名乗る男が置いていった名刺だ。

ご丁寧にプロダクションの住所やら自身の所属部署、連絡先などが記されている。

正直行くあてなどなければ、これからどうするのかなんて決まっていない。

とりあえずこのままだとどうしようもないし、喧嘩した父親にすぐ頭を下げるのも癪だ。

そう思った私は早速京都駅にまで向かい、夜行バスのチケットを探す。幸い平日、それもシーズンオフならば格安で東京に行くバスは存在する。

「ま、なんとかなるでしょ」

そう呟いた私は深夜バスで一人、行ったこともない東京へと出発するのだった。

ちなみに深夜バスというのはあまり寝心地がよくない、割とどこででも寝られる自信はあったが朝起きてみるとあまり寝心地はよくなかったようだ。

目が覚めた私は既に明るくなり始めている窓を見て、身体を起こす。窓から外を眺めると見たこともないような景色が広がっていた。

とりあえず東京に到着したらまずは何かを食べてから名刺の住所に向かうことにしよう。

ほどなく色んなバスが停まっているターミナルみたいなところに到着し、皆ぞろぞろと降りていく。私もそれに倣い、降車し手荷物を受け取る。

18年間生きてきて京都から出て東京に来たのは初めてだが、出てきた理由が理由だけにあまり高翌揚感とかは感じない。

むしろ考えないようにしてきた不安とかの方が少しずつ強くなってきているかもしれない。

思いつめると怖くなってくると判断した私はとりあえず何か食べられるような場所はないかと周囲を見渡してみる。

駅付近ではスーツに身を包んだ人達が慌ただしく駅から出てきたり、駅に入っていったりしている。

実家でぬくぬくしながら看板娘として生きてようとしていた私には考えられない世界で生きている人達だ

結局こんな朝早くから食べられそうな店なんてチェーン店ぐらいしか見つからないので諦めてコンビニに立ち寄って軽めの朝食を買うことにした。

駅のそばにあるベンチに腰かけてそそくさと食べることにする。近くを歩くサラリーマン達はそんな私のことなど気にも留めず慌ただしく歩いていく。

腹も膨れたところで住所に記されたプロダクションへと向かうことにしよう。ここからだと電車で向かうのが一番手頃でよさそうだ。

そしてよくテレビとかで見るような通勤ラッシュ、見るのと実際に体感するのでは想像以上だったのをほどなく私は実感することになる。

「ごめんなさい。○○は本日出張で不在なんです」

駅から出てすぐに見つかったプロダクションに入った私は受付にいる女性に例の名刺を見せ、スカウトされたことを伝えた。

受付嬢はすぐに電話で担当を呼びますのでお待ちくださいと答え、私はそのまま待っていた。

ほどなくエレベーターから蛍光色みたいな緑色の服を着た女性が掛けてきて、受付嬢の人と話したかと思うとこちらに向いてそう言ってきた。

「遅れました、私は○○のアシスタントをしております千川ちひろと申します。えっと……」

「塩見、塩見周子と言います。そうですか、○○さんは今日いないんですね」

「あいにく地方にスカウト活動に行ってまして早くても明後日になってしまうんです」

弱った、一応数日分程度なら滞在する路銀は持っているとはいえあまり遅いようだとここがダメだったとき困ることになる。

「塩見さんは何日かこちらに滞在する予定はありますか?」

「えっと……実は今日京都から来たばかりでまだ何も決まってないんです」

「それでしたらプロダクション関連の宿泊施設で○○が戻ってくるまで待ってていただけますか?もちろん費用はこちらが負担します」

渡りに船な提案に私は二つ返事でOKし、ちひろさんの案内でプロダクションのそばにあるホテルへと向かう。

フロントで待つように言われ、待っていると話を付けたのかルームキーを持ったちひろさんが戻ってきた。

「それではこれがルームキーです。○○が戻り次第ここに連絡するようにしますのでそれまではゆっくり東京観光でもしていてくださいね」

笑顔でそう告げたちひろさんはそそくさとホテルを出ていく。なんだか忙しそうな人だった。

案内された部屋は1人で泊まるには快適で、しっかりとした部屋だった。ホテルに泊まるなんて修学旅行以来かもしれない。

実家から持ち出した荷物を置き、とりあえず備え付きのベッドに横になる。夜行バスで寝たとはいえまだまだ眠り足りない。

とりあえず私をスカウトしてくれたプロデューサーさんが戻ってくるまでの間の生活はなんとかなりそうだ。あとは

「アイドルになれるのかな、本当に」

そもそもアイドルって何をすればいいんだろうか、そんな簡単になれるんだろうか、もしアイドルになれなかったら……

ぐるぐる悩んでいる間に私は襲ってきた睡魔に勝とうともせず、意識を手放すのであった。

プロデューサーさんが帰ってくるまでの間、ちひろさんの勧めもあって東京を散策してみることになった。街を歩けばこのプロダクションのアイドルの活動が見られるだろうとのことだ。

ビルの看板で化粧品とかの宣伝をしているのもこのプロダクションのアイドルらしい。言われてみれば実家にいる時に見たことがあったかもしれない。

アイドルだけじゃない、東京という街は京都とはまた違った意味で色んな人がいて新鮮な感じがする。

小さなライブハウスらしき建物に入っていく人もいれば、路上でギターを手にライブしている人もいる。同じ音楽活動でも全然違う。

人種も様々だ。浅黒い肌色に綺麗な眼をした明らかに日本語じゃない言葉を話してる女の子もいれば、肌の色が私より遥かに白い人もいる。

京都でも観光客として色んな国の人がいたけどもここはもっともっと多種多様な人がいるような感じがする。

そんな中一人どこへも向かわずただ立っていると私はこの中で取り残されたように感じていく。

父親に言われた言葉についムキになって反論して家を飛び出したけども、実際自分でもわかっていたのだ。

とはいえ何かやりたいことも見つからないままこのまま実家の和菓子を売り続ける人生なのかなあと思っていただけに、

結局のところアイドルになったとしてもこのまま空虚な感じで消えていっちゃうのかな。

なあんて、柄にもなくセンチメンタルな気持ちになっていても何も変わらない訳で。

とりあえずホテルにでも戻ろうかなって駅に戻ろうとした時、ふと路地の方で何やらおかしい様子の少女が目に入る。

何だろう、観光客って感じでもないような恰好をしているのに歩きなれてない気配と言うか、違和感を覚える。

何か思いつめているような様子にも見えなくはないし、それでいて何かを探しているようにも見えなくはないと言うか。

ちょっぴり興味を引かれた私はその少女をしばらく観察してみることにする。どうせ時間はあるんだ、問題はないでしょ。

しばらく観察しているとどうやら少女はあまりお金がない様子だ。しきりに財布を眺めては何かを計算するようなしぐさをしている。

それからどうもスマホなどの類は持ち歩いてないようだ。時折公園にある時計を見ては時間を確かめている。

何で、興味を持ってしまったんだろう。自分でもわからないがついつい観察してしまう。

ふと、そんな少女が見るからにちゃらそうなナンパ男に捕まってしまったのがこの状況を変える切欠だった。

明らかに困っているのはわかるがどうも対処の仕方がわからないのか逃げ出せない感じとでも言うべきか。

そんなのを見てると助けたくなるってタイプでは

「柄でもないと思うんだけどなー」

と言いながら私は少女と知り合いを装う感じで

「お待たせ、ごめんな、お兄さん。この子私と約束があるんだーじゃあねー」

といきなり見ず知らずの私に腕を引っ張られて連れて行かれている少女共々きょとんとした感じで呆けてる男から離れる。

「え、ちょ、あの、え?」

「いいから、このままここを離れるまで付き合って」

と小さな声で伝えると少女も理解したのかそのまま私に合わせて歩き出してくれる。とりあえず近くの喫茶店にでも入っておこう。

「えっと、その……ありがとうございました」

喫茶店に入り、席に座ると落ち着いたのかきちんとお礼を言われる。

「気にしない、気にしない。困ってるのを見たら放っておけなかっただけだから」

さすがにずっとあなたを見てましたなんて言えるわけもないよね。

「で、こんなところに一人でいるなんてなにかあったん?」

「……実は両親と喧嘩して家を飛び出してきたんです」

ああ……私が彼女に興味を持ったのは仲間だったからか。きっと同じような空気を持っていたのだろう。

「ふーん、なら私と同類だね。私も親と喧嘩して家を飛び出してきたんだー」

予想もしてないことを聞いたのだろう。きょとんとした顔でこっちを見つめてる。

「ま、どんな事情があったのかは人それぞれだから。いろいろあったんでしょ」

「そう……ですね」

「それより見た感じ家出してきたって割には荷物とかも少ないけど大丈夫なん?」

「かさ張る荷物なんかは駅のコインロッカーに預けてあるから大丈夫です。ただ……」

あまり深入りするつもりはなかったのだけど少女は次から次へと事情を話していく。

曰く、夢があったけども両親がそれを認めてくれないし大ゲンカになってしまい、東京に来て両親を見返してやろうと思って家出したこと。

とはいえ現実はそう甘くはなくて結局何も進まないまま手持ちのお金もなくなりかかってしまったということ。

せめて明後日まで東京に居られれば最後のチャンスに挑戦できるから滞在したかったが手持ちのお金がもうないということ。

「ほーん、そんな頑張って叶えたい夢ってなんなの?」

「実は……アイドルになりたいたんです」

「えっと……本当にいいんですか?」

「へーき、へーき。何かあったら私が怒られるだけだし」

きちんとちひろさんに事情を話して許可は得ている。とはいえそれを言うつもりはなかった。

まさか彼女が明後日まで残りたい理由がオーディションがある日であって、そのオーディションの主催がこのプロダクションだなんて。

偶然にしてはできすぎている。そんな少女を見捨てられなかったのはどこか後ろめたい気持ちでもあったのかね。

「そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。私は……」

「ん、ああいいっていいって。こういうのはさ、お互い知らなくていいと思うんだ」

実際のところは知りたくなかったのかもしれない。下手に深く知りすぎてしまうと何かあった時後悔しそうだ。

もし私が家出してここに来たのがなんとなくアイドルになりに来たなんて知ったら彼女に失礼な気がして。

「それにしてもアイドルかー。どうしてアイドルに?」

「子供の頃テレビで見たアイドルに憧れてって普通ですけどね」

憧れて……か。私にもそういうのがあればよかったのかもなあ。

それから彼女はアイドルについていろいろ語ってくれた。聴いてるうちに私なんかが本当になれるのかなって不安になっていく。

けれどもアイドルについて話してる彼女はとても楽しそうだったし、こんなに一生懸命になれる姿は私には羨ましくもあった。

話しているうちにうつらうつらし始めているのを見て、早めに寝るように促す。すぐに彼女のベッドから静かな寝息が聞こえだす。

「アイドル……か」

なんとなくという気持ちでアイドルになりに来たという自分からしてみるとこんな熱意のある子がまぶしくて仕方ない。

「寂しそうだったから……ね」

それは実家でスカウトしてきた時にどうしてと聞いた時に言われた言葉。

高校を卒業した時に周囲の皆は大学やら就職でそれぞれの道へと歩いていった。

そんな中一人私だけはどこへにも向かわず実家で和菓子を売りながら変わらない日々を送る。

そんな変化のないまま私の人生は終わるのかなってどこか諦めた気持ちでだらだらとしてたんだろう。

そんな時スカウトされて、少しだけワクワクした。けれども堅物な両親がそんなのを許してくれるわけもないし、

私自身どこか無理に決まっているって思っていた。だからこそその時は断ったんだ。断ったのに……

「なんかカッコ悪いな、私」

次の日は彼女にアイドルについていろいろ教えてもらうことになった。歌って踊るというのはやってみると意外と難しい。

看板で化粧品の宣伝をしているアイドルはカリスマJKとして有名なアイドルだとかそういう今のアイドルについても教わる。

そんなこんなで翌日のオーディションに備えるべきなのに私に付き合ってくれた彼女に感謝の意を伝える。

彼女は助けてもらった上に泊めていただいたこちらこそ感謝しなきゃですよとお互いがお互いに感謝をする構図の出来上がり。

どこかおかしくて吹き出すと彼女も笑い出す。どこか似た者同士なのかもね、私たち。

翌日、オーディションへと向かう彼女を送り出すとホテルのフロントから電話が掛かってくる。

ちょうど私をスカウトしたプロデューサーさんが今日戻ってきて、ぜひ話をしたいとのことだ。


「どーも。あたし、シューコね。覚えてる? いやー、あのときはアイドルになるつもりなかったんだけど、アレからいろいろあってさ。
 実家から追い出されちゃったら、仕方ないよねー。ま、成り行きってヤツでさ。とりあえずよろしくね。プロデューサー。」

なーんて、冗談めかして言ってみるけど実際のところは違うんだ。

昨日まで一緒に過ごした彼女に影響されたのかもしれないな。とりあえずレッスンは真面目に頑張ってみようかね。

終わりです。アイドルになるために家出してきた忍と実家を追い出されたからアイドルになりに来た周子。
周子はなんだかんだでアイドルを目指してた訳じゃないけどレッスンとかは真面目に受けるのはそういう影響もあったら面白いんじゃないかなってことで閃いたネタでした

乙おつ
アイドル前夜物(なんていうか詳しくは知らん)好き
またなんか書いて

乙、もう少し続き書いてもいいのよ?

乙、とても面白かった

こういう繋がり方すき

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