善子「イルカの涙」 (30)
ようよし
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――3月17日・バス車内――
曜「ねえ善子ちゃん、私の誕生日って覚えてる?」
善子「え~、いつだったかしら」
曜「分からないの?」
善子「ええ、聞いたことはあると思うんだけど」
曜「ヒントはね、今日の日付と少し類似点があるんだよ」
善子「今日の日付ね……」
曜「どう、分かるかな~」
善子「……もしかして、4月17日かしら」
曜「正解~、流石よっちゃん!」
善子「ふっ、この堕天使ヨハネにかかればざっとこんなものよ」
曜「きゃ~、ヨハネ様素敵~」
善子(もちろん、最初から分かっていたけどね)
善子(私が曜さんの誕生日を忘れるわけないじゃない)
善子「でも急にどうしたのよ、誕生日の話題なんて」
曜「それについて、ちょっと話したいことがあってさ」
善子「なによ、祝ってほしいとか?」
善子「言われなくてもそれぐらいはするわよ」
曜「いやぁ、そういうわけでもなくてさ……」
善子「ハッキリしないわねぇ」
曜「えっとね、実は誕生日、千歌ちゃんがパーティーを開いてくれるんだよね」
善子「へぇ、そうなのね」
曜「今年で2人共18歳になるから、お互いに盛大にお祝いしようって話してて」
善子「良かったわね、2人きりなんでしょ」
曜「お互いに家族ぐらいはいるかもだけど、一応ね」
善子(曜さんが千歌さんのことを好きなのは、私たちの中では公然の秘密)
善子(バスの中、2人だけの時に色々なことを相談されてきた)
善子(まあ、恋愛経験がほとんどない私も、たいしたアドバイスはできてないんだけど……)
善子「でも大好きな人と2人きりのパーティーなんて、ヘタレな曜さんは大丈夫かしら」
曜「ちょ、からかわないでよ」
善子「心配なのよね、緊張しすぎてまともに喋れなくなったり」
曜「うっ」
善子「変に暴走して、嫌われちゃったりして」
曜「もう、縁起でもないよ……」
善子「でもどうして私に誕生日の話を?」
曜「実はお願いしたいことがあってね」
善子「お願い?」
曜「私ね、誕生日に千歌ちゃんに告白しようと思ってるの」
善子「ほ、本当!?」
曜「う、うん」
善子(前から告白したいとは話していたけど、本当に)
善子「なになに、どんな心境の変化よ」
曜「私たち、もう高校三年生になるでしょ」
善子「ええ」
曜「きっと私と千歌ちゃんの進路は別れちゃう」
曜「だから一緒に過ごせるのは、今年で最後かもしれないの」
曜「誕生日、自分の特別な日なんて、特に」
曜「今ならまだ一年近い時間も残ってる」
曜「告白するなら絶好のタイミングだと思うの」
善子「なるほどね……」
善子(3年生もそう、卒業したらみんな離れ離れになった)
善子(確かに曜さんと千歌さんだって、同じことになってもおかしくない)
善子「つまり、私には告白の仕方でも一緒に考えてほしいってわけ?」
善子(告白なんて想像もできないけど、1人で考えるよりはマシでしょう)
曜「ううん、そうじゃないんだ」
善子「へっ」
曜「気持ちの伝え方はね、全部自分で考えるよ」
善子「いやいや、それは流石に心配なんだけど」
曜「自分で伝えなきゃ、意味がいない気がするの」
善子「そう……」
善子(実際、私じゃあんまり頼りにならないだろうしなぁ……)
善子「だけど、それなら私へのお願いってなに? 他に協力できること思いつかないんだけど」
曜「ちょっと面倒なことなんだけどね」
善子「ええ」
曜「もし告白が失敗したら、その後に慰めてほしいの」
曜「自信がないんだ、千歌ちゃんに受け入れてもらえる」
善子「なんでよ、2人は凄い仲良しじゃない」
曜「うん、確かに普通よりは仲良しかもしれない」
善子「そうでしょ」
曜「でも恋愛、それも同性となると話は別だから」
曜「それに……」
善子「それに?」
曜「ううん、何でもない」
善子「……」
善子(不安になる気持ちは分かる)
善子(実際、私はこうやって普通に受け入れているけど、世の中当事者になれば、拒否反応を示す人の方が大半だとは思う)
善子(そして千歌さんも、そちら側に属している可能性は、十分にあるんだ)
善子「まあいいわよ、慰めるぐらい」
曜「ありがとう」
善子「でも駄目よ、そんな弱気じゃ」
曜「そうかな」
善子「もっと自信を持って、ずっと大切にしてきた気持ちなんでしょ」
曜「……うん、そうだね」
善子(本当に自信なさげ)
善子(けど、なんとか上手くいってほしいな)
すみません、一度寝ます
――4月17日・某喫茶店――
花丸「善子ちゃん」
善子(曜さん、大丈夫かな)
ルビィ「善子ちゃーん」
善子(結果がどうなっても、すぐに報告するとは言ってたけど)
花丸「よーしーこーちゃーん」
善子(気になって仕方ない。これならついて行けばよかったかも)
ルビィ「おーい、ヨハネちゃん」
善子「ヨハネよ!」
ルビィ「そう言ってるよ」
善子「あ、そうね……」
善子(駄目だ、ちゃんと聴いてなかった)
花丸「もう、自分から誘っておいてボーっとしてるなんて」
善子「悪かったわよ」
善子(1人でいるのが落ち着かないから2人を誘ったけど、結局曜さんの事考えてる)
ルビィ「何かあったの? 今日はずっとそんな感じだけど」
善子「えっと、特には」
善子(曜さんの事を話せるわけないし)
ルビィ「もしかして、曜ちゃん関係?」
善子「なっ」
花丸「その反応は図星ずら」
善子「ど、どうしてわかったのよ」
ルビィ「だって今日、曜ちゃんの誕生日だもん」
善子(あっ、そりゃそうか)
善子「2人はちゃんと曜さんの誕生日覚えてたのね」
花丸「うん、当たり前だよ」
ルビィ「学校でちゃんとプレゼントも渡したんだよ」
善子「私、全然知らなかったんだけど」
ルビィ「だってほら、善子ちゃんは別に渡したいのかなって」
花丸「これでも気を使ったんだよ」
善子「いらないわよ、そんな気遣いは」
ルビィ「ちゃんとプレゼント渡せたの?」
花丸「善子ちゃんのことだから、途中でヘタレちゃった?」
善子「そんな曜さんみたいなことはしないわよ」
善子(確かに渡してないけど、別に明日でもいいし)
ルビィ「えー、曜ちゃんがヘタレ?」
花丸「善子ちゃん、一緒にしたら失礼だよ」
善子「いやいや、ヘタレといえば曜さんでしょ」
花丸「何言ってるの、ヘタレとは対照的な人に対して」
ルビィ「そうだよぉ、あんなにイケメンなのに」
善子「イケメン……」
善子(そっか、2人は千歌さん絡みの部分を知らないんだ)
善子(千歌さん関係さえなければ、普通に格好いい先輩にしか見えないもんね)
花丸「さっきから変なことばかり、やっぱり怪しい」
善子「な、なんでよ」
花丸「何かを誤魔化そうとしてるようにしか見えないずら」
善子「疑り深すぎよ」
ルビィ「あっ、もしかして曜さんに告白されたとか?」
善子「なんでそうなるよの」
ルビィ「違うの?」
善子「そんなわけないでしょ」
ルビィ「でもぉ、2人は仲良しなイメージがあるし」
善子「ないない、お互いにそんな気持ちは微塵も抱いてないわよ」
ルビィ「えー、つまんない」
花丸「あと一年で離れ離れになる関係、その前に告白――みたいのを期待したのにねー」
ルビィ「ねー」
善子「勝手に期待して、ガッカリされても困るんだけど」
善子(よく考えたら、私もあと一年で曜さんとお別れなのよね)
善子(帰る方向が一緒だから、なんとなく始まった関係)
善子(人見知りの私は、最初はグイグイくる曜さんに辟易していたけど、慣れてくるとどんどん仲良くなって)
善子(その頃はまだ駄目な曜さんを知らなくて、恋愛経験豊富そうなリア充みたいに思っていた)
善子(それが段々、本性が分かってきて、それに応じてさらに仲も深まって)
善子(お互いに他の人には話せない愚痴を言い合ったり、くだらない話をしたり)
善子(年上の先輩のはずなのに、気兼ねなく接することができる関係)
善子(一緒にいて、一番楽な人になって)
善子(考えてみると、付き合っていると勘違いされても仕方ないぐらい近い距離感なのかも)
花丸「善子ちゃん、またボーっとしてる」
善子「あ、ごめん」
ルビィ「やっぱり曜ちゃんのことを考えてたんでしょ~
善子「違うって言ってるでしょ」
ルビィ「そんなこと言ってさ~」
善子「しばくわよ」
ルビィ「うぇぇんマルちゃん、善子ちゃんがいじめる」
花丸「駄目だよ、ルビィちゃんをいじめちゃ」
善子「どう見ても嘘泣きでしょ」
善子(全く、この2人は)
善子(だけど意識したこともなかった、曜さんへの恋愛感情なんて)
善子(曜さんが好きなのは千歌さんだって、早い段階から分かっていたから)
善子(もしそれを知らなかったら、私は――)
善子(いや、考えても仕方ないことよね)
善子(きっと今日の告白は上手くいく。それで曜さんは千歌さんと恋人同士に――)
『ブブブ』
善子「んっ、メール?」
花丸「善子ちゃんにメールなんて、珍しいね」
善子「私だってやり取りする相手ぐらいいるわよ」
ルビィ「相手は誰? 曜ちゃん?」
善子「流石にそんなタイミング良く――」
『新着:渡辺曜』
善子「着たみたいね」
ルビィ「どんな内容?」
花丸「気になるずら~」
善子「あんたたちが期待するようなことじゃないわよ」
善子(たぶん告白の報告)
善子(でも連絡が早すぎる、どうしたんだろう)
善子「ごめん、私ちょっとお手洗いに」
ルビィ「はーい」
花丸「いってらっしゃい」
善子(曜さんからのメールの内容は――)
『今から会えるかな』
善子(!)
善子(駄目、だったのかな)
善子(いや、分からない。ヘタレて告白できなかっただけかもしれない)
善子(成功したけど恥ずかしくて飛び出してきちゃった可能性もある)
善子(どっちにしても、早く行かないと)
善子「ごめん2人共、用事ができたから私帰るわね」
花丸「えー、誘っておいてそれは――」
ルビィ「だ、駄目だよマルちゃん。きっと今のは曜ちゃんからの」
花丸「あー、そっか。それなら仕方ないね」
善子「悪いわね、この埋め合わせは今度するから」
ルビィ「ううん、気にしないで」
花丸「頑張るずらよ」
―渡辺家前―
善子「曜さん!」
曜「あ、善子ちゃん」
善子「待ったかしら」
曜「ううん、私もさっき着いたばかり」
善子「それなら良かったわ」
曜「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
善子(曜さん、笑ってる)
善子(これはもしかして)
善子「告白は、どうだったの」
曜「駄目だったよ、やっぱり」
善子「えっ……」
曜「わかってたんだ、フラれることぐらい」
曜「千歌ちゃんが私のことを好きじゃないって、知ってたから」
善子「そ、そんなことないわよ、千歌さんは曜さんを――」
曜「重荷なんだって、私は千歌ちゃんにとって」
曜「疲れるらしいよ、私といると。何かと比較されたり、言動が重かったり」
善子「そんなの、嘘でしょ」
曜「そうだね、後腐れのないように気を遣ってくれた嘘なのかもしれない」
曜「でもね、本音も少しは入ってるのは分かるんだ」
曜「私はずっと傍にいた、幼馴染、だったから」
善子「曜さん……」
曜『それに……』
善子『それに?』
曜『ううん、何でもない』
善子(あの時、曜さんが言いかけたのはこれだったんだ)
善子(今さら気づいても、もう手遅れ)
善子(私が気づいてあげなきゃいけなかった)
善子(気づいて、止めてあげなきゃいけなかった)
善子(止めてほしかったんだ、曜さんも)
善子(そうすれば二人はずっと、仲良しの幼馴染でいられたかもしれないのに)
曜「善子ちゃん……」
善子(曜さんが私の胸に顔をうずめる)
曜「少しだけ、このままでいさせてくれるかな」
善子「いいわよ、このぐらい、いくらでも」
曜「……ありがとう」
善子(胸は徐々に湿り気を帯びてくる)
善子(きっとここまで、泣かないように我慢してきたんだろう)
善子(声を殺して泣くその姿が、とても愛おしく見えてくる)
善子(私は包み込むように、曜さんを抱きしめる)
善子(守ってあげないと)
善子(私が傍にいて、今にも崩れ落ちそうなこの人を支えてあげないと)
善子(この感情の源泉は、母性的なものなのか、友情的なものなのか)
善子(それとも、考えたこともなかった感情から来るものなのか)
善子(分からないけど、今は考えない方がいい)
善子(それだけは、確かだった)
完
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました
悲しみのようよし
おつ
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