【モバマス】クジャクヤままゆ(31)

ヘッセの「少年の日の思い出」「クジャクヤママユ」のアイドル版っぽい何かです

アイドルの採集は、Pが小学生の時に始めた。
最初はさほど熱心にやっていたわけではなく、ただモバマスが流行っていたからやっていただけだった。

ところがしばらくすると、Pはすっかりアイドル達のとりこになってしまい、
それがやみつきになって、そのためにほかのことをも給料も何もかも投げ出してしまったので、みんなが何度もPにそれをやめさせねばならないと考えたほどだった。

ちゃんとした道具を買う余裕もなかったので、Pは自分のぷちデレラ達を古い潰れたボール紙の箱に保管する他なかった。
せめてアイドルが不自由しないようにと最低限の家具を自作し、衣食住に困らないようにしてPは潰れかけたボール紙にアイドル達をしまった

そうか、そうかつまり君はそういうやつだったんだな期待

はじめのうち、Pはこのアイドル達を喜んでたびたび仲間たちに見せた。
しかし他の連中は、アイドル達が住む専用の女子寮や、ライブを開催できるミニステージや、その他贅沢な品々を持っていたので、Pは自分の粗末な道具を自慢するわけにはいかなくなってしまった

あるとき、Pは排出率の低いSSRアイドルを入手した。
専用の衣装を着せてそのアイドルがなついてくれた時、誇らしい気持ちになって、それをせめて自分のアシスタントには見せてやりたくなった

そのアシスタントというのは、Pと同じ事務所で働く女性だった。
この女性は癒されボイスとさりげなくいいスタイルの完璧な守銭奴で、Pたちの間でも人一倍恐れられていた

彼女は、わずかばかりのアイドルしか入手していなかったが、それはレア度の高いことと、ゆきとどいた世話のために宝石のようにすばらしいアイドルになっていた

そのうえ、彼女は破れたりほつれたりした衣装を裁縫で修復し、さらには全く新しいコスプレ衣装まで制作するという、非常に難しく珍しい技術を持っていた。

ともかく彼女はあらゆる点でPより上にいて、Pはねたみと感嘆の思いで彼女を見ていた

このアシスタントにPはSSRアイドルを見せた。

彼女はそれを専門家みたいに鑑定し、それが最上級レアリティであることを認めてくれ、確実に入手するには75000ジュエルはするだろうと判定してくれた

ところがそれから彼女はあら探しを始めた。

そのSSRアイドルが、ポテンシャルの振り方が悪いとか、きちんとしたケアをしてもらっていないから髪が傷み始めているとか言い、さらにさらにもう1つのもっともな欠陥を発見した。

このアイドルは専用衣装の装飾が1つ欠けていたのだ

Pはそんな欠陥はたいしたことではないと思っていた。が、「1500ジュエルで修復しますよ」と言うこのあら探し屋のために、PのSSRを当てたという喜びはかなり傷つけられてしまった。

それからもう、彼女にはPはアイドルを見せなくなってしまった。

時が経ってもPの情熱はまだ全盛期にあった。

その頃、あのちひろがクジャクヤままゆを「まゆのまゆ」から羽化させたという噂が広まった。

このニュースは、今のPが例えばPの友人の一人がデレステの宝くじで1等を当てたとか、限定SSRアイドルの二人を両方納税で入手したとかいうニュースを聞くよりもはるかに刺激的なことだった。

クジャクヤままゆは、Pの仲間のうちでまだ誰も入手していなかった。Pは古いスマホの画像検索でそのアイドルを知っていたに過ぎなかった。

Pが名前を知っていて、まだ入手していないアイドルのなかで、このクジャクヤままゆほど熱れに欲しいと思ったアイドルはいなかった。

たびたびPはGoogleに頼ってあのアイドルを眺めたものだった。

ある仲間がPにこんな話をしてくれた。

「この紅のアイドルを、ナンパや柄の悪い男が攻撃しようとすると、このアイドルは身に付けていたリボンを使って、美しい躍りを舞う。そのダンスがとてもきれいな、美しい様子に見えるので悪い奴はこのアイドルをそのままにして行ってしまう」と。

ちひろがこんな魅力的なアイドルを持っていると聞いた時、Pはすっかり興奮してしまって、そのアイドルを見るのを待ちきれなくなってしまった。

食後、家を出るとすぐにPは事務所に走っていった。そこにちひろは、Pがとても羨ましく思っていた自分だけの小部屋を持っていたのだ。

Pは途中誰にも出会わなかった。ドアをノックすると返事がなかった。ちひろは留守だったのだ。

ドアノブを回してみると、入り口が開いていることがわかった。

Pはせめてあのアイドルを見たいと思って、中へ入った。

そしてすぐにちひろがアイドル達を住まわせている2つの大きな女子寮を眺めた。どちらにも見つからなかった。

やがて、クジャクヤままゆは衣装合わせなどでまだ別の場所に住まわせているのかもしれないと思い付いた。

はたしてそこにいた。アイドル用のミニ布団に包まれてクジャクヤままゆはすやすやと寝ていた。

Pはその上に身を屈めて、全てを間近で観察した。

眠っていても充分にわかる整った顔立ちや、撫で心地のよさそうなふわふわの、光沢を放つ髪などを。

ただ、よりによって専用衣装を着た全身を見ることは叶わなかった。掛け布団に覆われていたからだ。

胸をドキドキさせながら、Pは見てみたいという誘惑に負け、掛け布団をめくった。

するとクジャクヤままゆが目を覚まし、きょとんと首をかしげながら、優しげなたれ目でPを見た。

画像で見たよりもはるかに美しく、素晴らしかった。

見ているうちにこのすばらしいアイドルをどうしても入手したいという抵抗しがたい欲望を感じて、Pは生まれて初めて盗みを犯してしまった。

Pはそっとクジャクヤままゆを手に乗せた。クジャクヤままゆは突然の見知らぬ男にもニコリと微笑んでくれた。

Pは手のひらをくぼめてそれを持ち、部屋から出た。そのときは途方もない満足感以外は何も感じなかった。

そのアイドルを隠して、Pは階段を下りていった。その時、下から誰かが上がってくるのが聞こえた。

その瞬間、Pの良心が目覚めた。Pは突然知った。盗みを犯してしまったことを。自分が卑劣な奴だったことを。

同時に発覚するのではないかというまったく恐ろしい不安に襲われて、Pは本能的に、クジャクヤままゆを包むように持っていた右手を上着のポケットに突っ込んだ。

「ひゃんっ」というクジャクヤままゆの声を聞きながら、Pは自責の念と恥辱との冷たい感情を抱いて、下から上がってきた他のプロデューサーとこわごわすれ違った。

そして胸をドキドキさせながら額に汗をかき、途方にくれて、自分自身にあきれ返りつつ玄関に立ち尽くしていた。

このアイドルを持っていることはできないし、許されないことだ。

もとにもどしてできるだけ何事も起こらなかったようにしておかなければならない、ということがすぐにわかった。

それでPは、誰かに出会いはしないか、見つかって早苗さんにシメられはしないかとひどく恐れたけれど、すぐに引き返し、階段を上がって、1分後にはふたたびちひろの部屋の中に立っていた。

Pはポケットから手を引き出して、クジャクヤままゆを机の上に置いた。そして、あらためてそれに目をやるよりも早く、大変なことをしでかしてしまったことを知って、泣き出しそうになった

クジャクヤままゆが傷ついてしまったのだ。

リボンが千切れ、衣装が所々破れ、ほつれてなんだかイケナイことになっていた。そしてちぎれたリボンを用心深くポケットから出して見ると、それはボロボロになっていて、もうどんな修理も考えられなかった。

盗みを犯してしまったということよりも、自分が傷つけてしまった美しい、かわいいアイドルを見ていることのほうが、Pはずっと辛かった。

Pは「ふぇえん」というクジャクヤままゆの泣き声を聞いた。肌を隠しつつ予備のリボンを巻く彼女を見た。

彼女に償えるならPはどれほどのモバコインも、スタージュエルも喜んで投げ出していただろう。

悲しい気持ちでPは家に帰り、その日の午後はずっとうちの小さな庭にすわっていた。

やがてPはすべてを桃華に打ち明ける勇気を起こした。

桃華はびっくりして、悲しんだけれど、この告白がすでにあらゆる罰を堪え忍ぶことよりもPにとって辛いことだったと感じてくれているようだった

「Pちゃまはちひろさんのところへ行かねばなりませんわ」

桃華はきっぱりと言った。

「そしてそのことを自分でちひろさんに言わなければなりません。それがPちゃまができるただ1つのことです。ちひろさんに、Pちゃまが持っているもののなかから償いとしてなんでも探してもらうように申し出るのですわ。そして、許してくれるようちひろさんにお願いしなければなりません」

これが他の仲間たちの場合であったなら、あのアシスタントの場合よりPにはずっと気が楽だったろう。

Pはもう行く前からちひろがPの言うことをわかってくれないし、おそらくとてつもない額の課金をさせられるだろうと、はっきり感じていた。

ほとんど夜になっても、行く決心がつかないでいた

中庭にいるPを見つけて、桃華は小声で言った。

「今日のうちでなければいけません。さあ行きなさい!」

それでPは出掛けていき、ちひろがいるかどうか確認した。

ちひろは出てくるとすぐに、「誰かがクジャクヤままゆを傷つけてしまった」「悪い奴がやったのか、あるいは心無いアンチがやったのかわからない」と言った。

Pは、そのアイドルを見せてくれるように頼んだ。Pたちは上に上がった。

ちひろは部屋の電気をつけた。Pは机の上に、破れてしまった衣装があるのを見た。

ちひろがそれをなんとか元通りに修理しようと努力したことがわかった。けれどもそれは直らなかった。リボンもちぎれたままであった。

そこでPは、それをやったのはぼくだ、と言い、詳しく話し、説明しようとした。

するとちひろはたけり狂ってPを怒鳴りつけるかわりに、ヒューと歯笛を吹いて、Pをしばらくの間じっと見つめ、それからこう言った

「そうですか、そうですか、つまりあなたは、そういうプロデューサーなんですね」

Pはちひろに、自分の今月の給料をすべて課金する、デレステも天井まで課金すると言った。が、ちひろは以前として冷ややかな態度を続け、相変わらずPを軽蔑的に見ていたので、Pは自分のアイドルを全部あげると言った。

けれど、ちひろはこう言った。

「ありがとうございます。あなたのアイドル達はすべて知っていますよ。それにあなたがアイドル達をどんなふうに扱うか今日またよく見せてもらいましたしね」

でもせっかくですから今言った課金はしてくださいね、と言われた瞬間、Pはもう少しでちひろの喉元目掛けて飛びかかりそうになった。

もうどうしようもなかった。Pは悪党であったし、悪党であり続けた。

そしてちひろは冷ややかに、軽蔑に満ちた黄緑の衣を纏って、ガチャ率そのもののようにPちゃま前に立っていた。

ちひろは罵りさえしなかった。ただただPを見つめて、軽蔑していた。

そのとき、Pは一度失ったアイドルは復刻まで入手できないのだと、初めて悟った。

Pは立ち去った。

桃華が根掘り葉掘り聞き出そうとしたりせず、Pを抱きしめて、そっとしておいてくれたことが嬉しかった。

もう遅い時間で、Pは床につかなければならなかった。

けれどその前に、Pはこっそりと食堂に入って大きな茶色いボール紙の箱を取ってきてベッドの上に置き、暗がりでふたを開けた。

それからPは次から次へとアイドルを取り出して、手のひらでぎゅうと抱きしめた。

終わりです。

モバとデレが混じってたり色々強引ですまん。ぶっちゃけクジャクヤままゆって言いたかっただけです。

読んでくれた人ありがとう

最後アイドルを握りつぶすのかと思ってハラハラしたww乙

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