【艦これ×クトゥルフ】鎮守府・オブ・ザ・デッド ハッピーエンド (53)

このSSは同名の安価SSのハッピーエンドルートを描いたものです

仮想卓のようなものとして考えて下さい

私の嫁が酷い目に!という事もあるかもしれません。そういうのが嫌な場合はブラウザバック推奨です

あまりグロくありません。というかまったくグロくないでしょう。

なお、安価SSの方は時間切れのゲームオーバーでした。

読んで下さったかたありがとうございました。そしてお待たせしてすみませんでした。

最初の方はこの安価SSと変わりありません。読み飛ばしてくださって結構です。

工廠にたどり着いてからの行動が変わります。(目安は半分くらいです)

それではよろしくお願いいたします。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1522441892

提督「何?大本営で祝賀パーティーだと?」

大淀「はい、大規模作戦での勝利を祝っての事だそうです」

提督「期間は?」

大淀「ちょうど三日後になります」

提督「行き来の時間を考えると都合一週間も開ける事になるのか…………断る事はできんのか?」

大淀「陸の方や、政治家、名士の方もいらっしゃるとの事で、提督には是非とも参加して欲しいとの事です」

提督「…………そうかぁ…………はぁ……」

大淀「それから、何名か失礼のない艦娘を連れてくるように、と」

提督「……スケベジジイどもめ……」

大淀「クスッ、提督がそれをお言いですか?」

提督「お、俺は愛があるからいいんだ!」

大淀「それで、メンバーはいかがいたしましょうか?」

提督「そう……だな。失礼のない様にということだから、レディーと呼べるような娘を連れて行くとしようじゃないか。なるべくあしらい方が上手いのを選抜してくれ」

大淀「はい、分かりました。それでは次の案件ですが……」

提督「それでは長門、俺の居ない間留守を頼む」

長門「了解した。提督たちは是非楽しんできてくれ」

提督「ゆっくり……か……。どちらかといえばコネを作りにいく場なのだから……いや、愚痴っても仕方ない。頑張って来るさ」

長門「ふふ、ご苦労な事だな。まあ、あまり気を張らないことだ。我ら艦娘が付いているのだからな。提督はどんと構えていればいい」

提督「そういってくれて嬉しいよ」

金剛「榛名、提督をしっかりとお守りするネ」

榛名「はい!榛名、精一杯頑張ります!ご安心ください!」

金剛「提督ぅ。離れていても、私の愛はいつも提督と一緒デース。頼りにしてくださいネ」

提督「金剛……そうからかうなよ。お前も頼りにしてるんだからな?」

金剛「ぶ~、冗談じゃないデスのに~」

熊野「金剛さん。貴女は常日頃からそういう態度ですから提督も信じにくいんでしてよ」

金剛「私はいっつも提督の事、バーニングラ~ブ!デスからネ」エッヘン

熊野「そういう意味ではなく、もっと慎みを持ってはいかがですの?という話ですわ」

金剛「しかし……私のラブは抑えきれないねー……」

熊野「そ……それは理解できなくもありませんが……」

提督「……出来ちゃうのか……」

榛名「まあまあ、熊野さんもお姉さまも。そこまでにしないと提督が困ってらっしゃいますよ」

提督「ここで俺に振らないでくれ」

榛名「うふふっ、冗談ですっ」

提督「まったく、かなわないな……。向こうでもそうやってあしらってくれると助かる」

榛名「はい!榛名、頑張ります!」

暁「司令か~~ん!!」

提督「ん?」

響「良かった、間に合ったね」

電「なのです!」

提督「おう、暁、響に雷と電か。見送りに来てくれたのか?」

暁「そう……だけど……」

提督「どうした、不満そうだな」

雷「司令官、どうして私を頼ってくれなかったの!?」

提督「いや、それは……」

暁「そうよ、暁はもう練度99よ。つまり立派なレディなんだからね!」

響「私も、パーティーに行ってみたかったな……」

電「み、みんな。あまりわがままを言って司令官を困らせては駄目なのです!」

提督「あ~、あんまり良い物じゃないぞ?パーティー何て」

暁「でもでもっ綺麗なドレスを着て、豪華なお食事食べて、優雅にダンスを踊ったりするんでしょ!?」

提督「まあ、上辺だけみたらそうなるな」

暁「む~~」

響「ずいぶん含みのある言い方だね」

提督「実際あるからな……一皮むいたら狐とタヌキ……妖怪悪鬼に魑魅魍魎の化かし合いだ……いかん、胃が痛くなってきた」

雷「だったら尚更私たちに頼って欲しかったわ」

提督「……出来る限りこんなことはお前たちには知ってほしくないな」

電「でも司令官さんはそこに行かれるのですよね?だったら電たちも司令官さんのお力になりたいのです」

提督「ありがとう、電。お前たちがこうして信じてくれるから私は腐らずにいられるんだよ」

電「そっそんな事は……///」

暁「とーにーかーくーっ、暁も行きたいっ!」

提督「欲望を隠さなくなったな……。とにかくダメだ。これは決定だからな」

暁「司令官のいじわるっ」

提督「いじわるで言ってるんじゃないっての。今は分からんかもしれんがな」

暁「む~~」

響「暁、司令官は暁を巻き込みたくなくていってるんだよ。それなのに……」

暁「だからよっ。だからなのっ!暁は立派なレディだもの!司令官の支えにだってなれる……ううん、なりたいのっ」

提督「暁……」

暁「だから、お願い司令官」

提督「……暁……帰ってきたら、みんなでパーティーしよう」

暁「ごっ誤魔化さないでよ」

提督「誤魔化してなんかいないさ。これから嫌な思いをするんだ。その後にご褒美でもなきゃやってられないだろう?」

暁「…………」

提督「踊っていただけますか、レディ。なんて少し気障かな?」

暁「うぅ~~っ……」

響「暁」

暁「もうっ、知らないっ」タタタ…

提督「……うーむ……どうしようか」

響「任せて、追いかける」タタタ…

提督「色々と頼んだ!」

響「ああ」

雷「でも、私も暁の言う事分かるわよ」

提督「すまん、こらえてくれると助かる」

電「電は何時でも司令官さんの事応援してるのです」

提督「ありがとう……それじゃあ行ってくるから暁の事……それから帰ってきたときのパーティーの事、頼めるか?」

雷「まっかせて!」

電「電もお手伝いするのです!」

提督「よろしく。それじゃあ行くとするかな」

提督「長門、そういうことだから計画よろしく」

長門「まったく、いきなり仕事を押し付けられるとはな」

提督「みんなで楽しい事をしたくないのか?」

長門「答えが分かっていることを聞くものではないぞ?」

提督「……だな。ああ、暁の事もよろしく頼む」

長門「それも言うまでもないことだが了解した」

金剛「……長門は小さい子が大好きデスからネー」

長門「うぉっほんっ///」

榛名「それでは、行ってまいります!」

金剛「榛名も頑張ってネー」

榛名「はいっ」

長門「熊野達もな」

熊野「もちろんですわ」

提督「それじゃあ……錨あげー!」


提督「さて……ようやく鎮守府が見えて来たか……やれやれ」

榛名「ご苦労様です」

提督「何言ってるんだ、榛名達の方が良くやってくれたじゃないか。感謝しきりだよ」

榛名「そ、そんな事は///た、大したことできませんで……榛名は力不足で……申し訳ありません」

提督「榛名が力になったは事実だ。それを卑下することは無いぞ。……そんな事を言ったら私なんて何もしていないに等しい」

榛名「そんな事……」

提督「ないんだったら、榛名は自分の功績を誇るべきだ。1の功績しかあげていない私が、たいしたことあるなら、10の功績をあげた榛名はもっと称賛されていいはずだ。……だから君が、君たちが誇らないと私も自分の功績を誇れない」

榛名「……はい」

提督「だから胸をはってくれ、私の為に」

榛名「……くすっ。はい、分かりました。提督は優しいのですね。榛名にまで気を遣ってくれて。」

提督「女性に気遣いが出来なかったら男として終わりだよ」

榛名「提督……優しくしてくれても、榛名、十分なお返しできません……」

提督「いつも君たちは私を守ってくれているのに、お返しだなんて、罰が当たる。これでも私の方が返せていないんだから。君たちに頼りっぱなしの私が立つ瀬がない」

榛名「そんな、榛名の方が……」

提督「いやいや、私の方が……」

榛名「…………」

提督「…………」

榛名「くすっ」

提督「はははっ、また繰り返しだな、これは」

榛名「はい、そうですね」

提督「では、お互いに感謝して終わろうか」

榛名「はい!」

提督「ありが……」

熊野「よい雰囲気の所申し訳ありませんが、異常事態ですわ」

提督「どうした?」

熊野「鎮守府と連絡が取れませんの」

提督「……昨日は取れたんだよな?」

熊野「はい……ですが思い返してみれば、応答された長門秘書艦の様子が少しおかしかったような気がいたしますわ」

提督「……機械の故障は考えられるか?」

熊野「なんとも言えませんわ……」

提督「ふむ……榛名、双眼鏡はどこにあったかな」

榛名「は、はいここに」

熊野「どうなさるおつもりですの?」

提督「もうすぐ到着する事は伝えてあるんだから、出迎えくらいは居るはずだ。逆説的に、居たら機械の故障だと思ってな……っと」

熊野「何か見えまして?」

提督「どうやら長門が出迎えに来てくれているようだな。埠頭に長門の姿が見える」

熊野「そう……ですの……杞憂だったらいいのですが……」

提督「きっと大丈夫さ。きっとな……」


榛名「長門さ~ん!」パタパタ

長門「…………」

榛名「ただいま戻りました。何かあったんですか?通信が繋がらなかったようですけど……」

長門「…………」

榛名「長門さん?」

提督「お~い、どうした……?」

榛名「提督……。それが長門さんの様子がおかしくて……」

若葉「どうしたのだ?」

榛名「呼びかけても返事もしてくれなくて……」

北上「ん~~、おーい、長門、どしたん?」ふりふり

長門「…………」

北上「ダメだ、反応ないわ」

榛名「長門さん!長門さん!返事をしてくださいっ」

長門「…………」ピクッ

提督「……おい、何かおかしいぞ。離れろ榛名!」

榛名「はい?」

長門「あぁぁぁぁあぁぁっ」がぱぁ

榛名「え?きゃぁぁぁぁっ!!」

熊野「榛名さんっ!!」

提督「榛名!!」

長門「ぐぁっ……んぐっ……」

提督「長門、なにしてる!やめろ!!榛名から離れろ!」

長門「んぐっ……ごくっ……」

北上「……まさか……血を……飲んでる?」

熊野「そ、そんな……」ガタガタ

若葉「榛名さんが危険じゃないのか?」

提督「はっ!そ、そうだ長門を引き離さないと……」

北上「それっ」どーん

長門「があぁっ」ずでんっ

提督「榛名!榛名!……すまない、熊野は榛名の手当をしてくれ!」

熊野「わ、分かりましたわ!」

提督「北上、若葉は俺と一緒に長門を拘束するぞ!」

若葉・北上「了解!」


熊野「榛名さん!しっかりなさってくださいまし!ああ、血がこんなに……」

榛名「……ううっ……」

熊野「榛名さん!意識はあるんですのね!?今助けます!少々お待ちになって……」

榛名「うがぁぁぁっ」ばくっ

熊野「ひぎっ!?」

提督「は、榛名?」

榛名「んむっ……んはっ……」

熊野「あ……あああ……」

提督「おい、榛名……冗談はやめろよ、おい!」

北上「提督、下がって!」

長門「ぐぉぉっ!!」

若葉「危ないっ」どんっ

提督「くっ」

北上「どうする?どうすんのさ!?」

提督「これから……」

提督「……逃げるぞ」

若葉「三人を見捨てて逃げろと言うのか!?」

提督「今はそれしかない!ここで三人をそれぞれが拘束したとしてもどうする?長門がこんな状態なんだ……他の娘がどうなっているのか……」

北上「まさか……鎮守府全体がこうなってるっていうの!?」

提督「ああ、だから心苦しいが……。あの出血量なら高速修復材を使えば助けることも可能なはずだ」

若葉「…………了解した」

提督「そこの倉庫に逃げ込め!」

長門「ああぁぁぁぁぁぁ……」

榛名「おぉぉぁぁぁ……」

熊野「…………」

提督「急げっ!!」

北上「どこ?」

提督「その……左から二番目の倉庫だ!そこは確か、戦闘糧食が入っている!そこならいざという時立て籠もれるはずだ!」

若葉「分かった!」

北上「よいっ……?」ガツンっ

提督「どうした、北上?」

北上「開かない……鍵がかかってる!」

提督「何?」

若葉「いつもなら遠征の子たちが搬入できるように戸は開いてるはず……」

北上「でも開いてないんだよぅ……」

提督「くそっ」

――ダンッ!ダンッ!――

若葉「なんだ?」

提督「倉庫に誰か居るのか?」

北上「ああぁぁぁ……長門たちが追いかけてくるよぉ。どうすんのさどうすんのさ!」

提督「何か……何か拘束できそうなものとか武器になりそうなものはないか?」

北上「何にもない、無いよぉ」

若葉「そ、倉庫の中にならもしかして……」

提督「そうか、えっと左から二番目の所には戦闘糧食と……なんだっけ?」

北上「何があるのさ?」

提督「えっと……あれ……?なんだったか……。若葉は覚えていないのか?」

若葉「…………ない」

北上「じゃあ他の三つは?」

提督「……すまん。頭がもやがかっててどうにも思い出せん」

北上「ダメじゃん!ああ、あと少しで追いついてくるよぉ」

提督「くそっ」

提督「逃げろ!」

北上「逃げるったってどこへ?」

提督「それは……」

若葉「他の倉庫のカギはかかってないかもしれない」

提督「なら……一番左のに逃げ込めっ!」

北上「分かった!」

――ダンッダンッ――

提督「ふう……とりあえずは大丈夫か……?」

北上「一応ね~。鍵はかけるまでもないって感じかな」

提督「知能が低下してしまって戸すら開けられない、と考えていいのか?」

若葉「絶対とは言い切れない」

提督「そうだな、用心するに越したことは無い。さて――」



若葉「提督、これなんて使えそうじゃないか?」チャリ

提督「ソイツは……」

北上「ああ、村雨改二の腕に巻いてある鎖だね」

若葉「これで、一人くらいなら拘束できそうだ」

提督「一人か……今は三人居るんだよなぁ……。でも持ってないよりマシか、持っていこう」

北上「重くない?」

提督「大丈夫だ、鍛えてるからな」

北上「まー駆逐艦の腕に巻いてあるものを重いなんて言ったら笑っちゃうよねー」

提督「言ったな、この」

北上「へへっ」

提督「それで、どうする……?」

若葉「とりあえず戸を叩くのはやめたみたいだ」

北上「聞き耳を立てればもっと分かるかも」

提督「入口以外の脱出口は……?」

若葉「入口の反対側に窓が一つある」

提督「出られるのか」

若葉「二階からなら」

提督「飛び降りなきゃならないか……」

提督「次は……工廠なんかに向かうのが良いと思うんだが、どうだ?」

若葉「少し、早すぎると思う。外には長門たちがまだ居ると思うし……」

北上「とりあえず少し様子を見よ?あいつら戸を開けられないんだし、この鉄戸はちょっとやそっとじゃ壊れないよ」

提督「……そう……だな。長旅の疲れもあるし少し休むか」

※BGM 旧支配者のキャロル
https://www.youtube.com/watch?v=A3uLwmUSwHU

提督たちは精神的なショックも相まって、酷く疲労していたため知らず知らずのうちに眠ってしまった

そして彼らは夢の中で目撃する事だろう

鎮守府全体が赤く染まった姿を

更に、鎮守府の空にはすべてを吸い込んでしまうほどの大穴があいており、その大穴には大きな目玉がぎょろりと覗いている

その目玉はどうやら鎮守府に興味を持ったらしく、徐々に近づいてくることだろう


提督「……ううっ……はっ……」

提督「い、今のは夢だったのか……?嫌に現実味があったが……」

北上「ううっ……嫌だよぅ……」

若葉「……ああっ……そんな……そんな……」

提督「おい、大丈夫か?起きろ二人とも!」

北上「……あうー……おはよう、提督。……嫌な夢見た……」

提督「お前もか」

北上「もしかして提督も?」

提督「ああ……」

北上「…………」

若葉「やだっ……やめてくれっ……ああっ!」

提督「随分うなされているな……若葉!若葉!」

若葉「ダメッダメェ!!」

提督「若葉!」

若葉「いやぁぁぁっ!!…………は……あれ……?」

北上「おはようさんっと言っても夕方だけどね」

若葉「はぁ、はぁ……」

提督「若葉も嫌な夢を見たのか?」

若葉「……私は……もう思い出したくもない」

提督「賛成だ」


北上「それで、どうする?だいぶ静かになってると思うんだけど。さっきの若葉の声、結構大声だったのに誰も近づいてこないみたいだし。今が移動するチャンスかもよ」

提督「そう……だな。じゃあどこに移動する?」

北上「艤装保管所とかどうかな?そこなら武器が手に入るかもだし」

提督「なるほど。若葉もそれでいいか?」

若葉「……任せる。今は……目を瞑ればあの光景が浮かんできて……何かしないと落ち着かない」

提督「じゃあ、移動しよう」




すみません、忘れていたので
全体図

工廠

寮1F

寮2F

若葉「周囲に敵影なし」

提督「敵……とはあまり思いたくないが仕方ないか」

北上「さて、何事もなく入口まで来られたけど……」(左上の入り口です)

提督「状況が好転するといいな」

若葉「しっ」

提督「…………」

北上「…………」

若葉「中から物音が聞こえる」

提督「どんな音だ?」

若葉「……艤装同士がぶつかってガチャガチャ鳴る音と…………たくさんのうめき声」

北上「あ~、最悪……」

提督「人数は分かるか?」

若葉「多分、二桁は居ると思う」

提督「……状況を整理しよう」

提督「この中には武器がある。恐らく使える状態だろう。だが使える状態の物は、異常行動の艦娘が装備しているものだけだ」

北上「そうだね~。出撃終わったら、わざわざ弾薬庫にまでもっていくからね。かったるいんだよねー……」

提督「爆発したら事だからな、それは仕方ないだろう」

提督「話を戻すぞ。艤装を装着した艦娘とそうでない存在の力の差は歴然だ。捕まったら逃れる事は出来ないだろう」

北上「それってつまり……」

若葉「あいつらの仲間にはならないぞ」

提督「だよな……さて、どうするか……」

提督「工廠や寮に行けばだれか生存者が居るんじゃないか?」

北上「でもそっちのがあいつ等も居る可能性は高いよね」

提督「むぅ……」

若葉「とりあえず他の建物も少し様子を見るのはどうだろうか?」

提督「……危なくなったらすぐに逃げるんだぞ」

北上「分かってるよ」

提督「いざという時はあの倉庫に逃げ込め。とりあえずは大丈夫なはずだ」

若葉「分かった」

提督「それじゃあ、まずは一番近い入渠場からか……」


提督「不気味なくらい静まり返ってるな」

北上「提督っあれ見て!」

提督「ん、どれだ」

若葉「あ……」

提督「……工廠の壁、か……。SOS……誰か居るかもしれない!」

北上「壁にあんな文字書くことはできないはずだもんね」

若葉「でも罠、もしくはもうやられてしまったかもしれない……」

提督「う~ん……」

提督「今の所、手掛かりになるようなものはあれだけだ。私は工廠に向かうのが良いと思う」

北上「あたしも賛成ってかそれっきゃないでしょ」

若葉「私もそう思う」

提督「だよな……じゃあ、アレを突破しないといけないわけだが……」

北上「うわ~、瑞穂、那智、夕立かぁ……あたし駆逐艦苦手なんだよね~」

若葉「しかし突破しなければどうにもならない。なら……!」

提督「……私に一つ考えがある。ここは私を信じてもらってもいいか?」

北上「いいよ」

若葉「もちろん」

提督「内容も聞かないのに即答か」

北上「そりゃ、信じてるからね」

若葉「ああ、右に同じ、だ」

提督「ありがとう。……それじゃあ、なるべく音をたてないように歩いてくれ」

北上「音?なんで?」

提督「あいつらは音に反応してるかもしれないんだ。……一番最初、北上が長門の目の前でヒラヒラ手を振った時、何も反応しなかった」

北上「そっか、榛名が大声で揺さぶったら……」

提督「そう、噛みついた」

北上「なるー。じゃあ、試す価値はありそうだね」

提督「じゃあ、いいか?」

若葉「提督が一番心配だ」

北上「図体でかいもんねー」

提督「ったく、こんな状況でも軽口叩けるお前らが頼もしいよ」

提督「…………」

若葉「…………」

北上「…………」

提督(よし、たどり着いたぞ。他は……)

若葉「…………」

北上「…………」

提督(よし、いい感じだ、そのままそのまま)

若葉「……」パキッ

瑞穂「おぉあぁ?」

那智「ぐるぅ……」

夕立「おあおぉ……」

提督(くっそ、気付かれた……)

北上「あーしんど!」バタバタ

提督(北上ぃ!?)

北上「いやー、なかなかしんどいよねー忍び歩きってさー」

提督「な……」

北上「しずかに!ほら、早く行きなよ。アタシはほら、倉庫辺りまで逃げれば助かるかもしんないからさ」

若葉「そんなっ」

北上「ほら早く行って!」

夕立「あぁあぁぁああ!」

北上「くっそ!これだから駆逐艦は!」ガシッ

若葉「うわっ」ズリズリ

北上「このっ放せ!」ゲシッ

提督(二人が夕立に捕まってしまった!)

提督(くそ、どうする?こっち側で音を出せば……いや、そんなことしたら目的地のこの場所にたどり着くことじたいが出来なくなってしまう!どうする?どうすれば……)チャリ

提督(そういえば……鎖を持っていたな)

提督(奴らは音に反応する、なら……)

提督「二人とも静かに!」

提督「くら……え!」ひゅぅっ

那智「ぎっ!?」ジャラジャラ

瑞穂「ああぁぁぁ……」

提督「これで二人は……でも夕立はだめか、二人を掴んだままだ」

北上「このっ!放せって!」ガスガス

若葉「……せっ」ゲシッ

夕立「あううぅぅっ」

提督「よしっ、これで……こっちだ、速く!」

――ガチャリ――

明石「早く!入ってください!」

提督「あ、明石!なんで?」

明石「これだけ音がしてたら気づきますって。そんなことよりもっ」

提督「す、すまん!」ばっ

北上「ありがとねっ」ダダダ…

若葉「恩に着る」タタタ…

明石「もう居ませんね?」

提督「ああ、早く締めてくれ!」

明石「はい!」ガチャン

夕立「ううう……」ガリガリ

提督「……助かったよ、明石」

北上「ほんとだよねー。いやー死ぬかと思った」

明石「どういたしましてって、まだ終わってないんですけどね……」

若葉「……すまない、北上。迷惑をかけた」

北上「え、なんのこと?あたしはただ単に忍び歩きするのが疲れただけだよ」

若葉「でも……」

北上「いやーこっちの我がままにつき合わせちゃってごめんねー」

若葉「そんな事……!」

提督「……若葉、北上はこういう奴だから、素直に甘えておけ」

北上「なんの事かさっぱりだねー」

若葉「……」

明石「……なんか三人いい雰囲気ですねー」

提督「共に修羅場を潜り抜けた仲間だからな」

北上「いえー」

若葉「…………礼を言う」

北上「…………」

提督「それで……明石は一人なのか?」

明石「いえ、私以外には……」

暁「司令官っ!!」タタタ…

提督「おわっ」

暁「私、怖かったの。怖かったんだからね!」ぎゅぅ

明石「暁ちゃんと二人だけです」

提督「そっか」

暁「ふぇぇっ」

提督「とりあえず、何があったか話してくれないか?」

明石「…………はい」

明石「そうは言いましても、実は私はほとんど状況はよく分かっていないんです。……工廠に一人で籠って居たので……」

提督「ほう?」

明石「ですが、始まったと思われる時間帯は分かります。今日の深夜2時です」

提督「現在は19時だから、約17時間前か」

北上「随分正確に分かってるじゃん」

明石「ええ、その時間に放送がありましたから」

若葉「放送?」

明石「声から察するに、恐らく響ちゃんでした。異常事態が発生した。皆がおかしい行動をとり始めたから警戒しろ。決して近づいては駄目だ、と」

北上「……つまり発生源は寮って事になるの?」

明石「だと思います。その放送を聞いた後、私は急いで扉の鍵をかけ、ここを封鎖しました。それからしばらくして誰か来たみたいなんですが……」

提督「様子がおかしかった、と」

明石「はい、扉越しに声をかけても唸るだけで返事もせず……少し外に出た時に見かけたんですが、やはり明らかに変で……」

暁「うっ……ひっく……ひっく……」

提督「暁、大丈夫だ。もう私たちが居るからな」なでなで

暁「ぐすっ……しれいかぁん……」ぎゅむっ

若葉「外に出たと言ったな。その時に壁にSOSを書いたのか?」

明石「はい、こうすれば逃げ込んでくる娘も居るかと思いまして」

提督「いい判断だった、お陰で助かった」

明石「まあ、提督たちが始めてのお客さんなんですけどね」

提督「……そうか……」

明石「ところで提督、つかぬ事をうかがうんですが……」

提督「なんだ?」

明石「食べるもの、持ってませんか?丸一日何も食べて居ないんで、お腹空いちゃって……」

提督「あ~……すまん、何もない」

明石「うわぁ~……お腹空いたよぉ~」

暁「わ、私はレディだから平気だものっ」ぐー

提督「……体はそうは言ってないみたいだな」

暁「//////」

北上「てーとく~、今の発言おっさん臭いよ~」

提督「ん……?ご、誤解だ!!そんな意図はまったくない!」

暁「?」

若葉「?」

明石「とか言って、ここに入って来た時からずっと暁ちゃんをだっこしてるじゃないですか」

提督「こ、これは暁がだな……」

暁「あ、暁はレディだから大丈夫だし!し、司令官こそ何言ってるの!?」カタカタ

提督「……そう、だな。うん、私がだっこしたいからしている、うん、悪いか」

明石「……そう言う事に……」

北上「しておこっかねー」

若葉「……なあ、先ほどの意図が分からない。誰か説明してくれ」

提督「…………」

北上「……提督」

提督「……お前が最初に言い出したんだろ」

北上「女の子の口から説明させるとか、セクハラだよセクハラ」

提督「口火をきったのはお前だろうが。自分の尻くらい自分で拭け」

北上「あー、女の子に尻だなんて、セクハラだー」

若葉「……聞いてはならない事だったのか?」

明石「う~ん……もうちょっと大人になったら分かるわよ」

若葉「むう……分からない私は子供だという事か」

暁「あ、暁は知ってるもん!レディだから!」

若葉「なら教えて欲しい、どういう意味なのだ?」

暁「そ、それは……」

若葉「…………」ワクワク

暁「え~っと……」

若葉「…………」キラキラ

暁「その……えっと……」

提督「ほら、それよりもこれからどうするかを決めないか?」

北上「そだね~。助けられるひとは助けないと。響だってまだ無事かもしんないでしょ?」

提督「そうだな、しかし我々の様に食事が出来ない状態にあるかもしれない。そうなったら自体は悪化する一方だ」

明石「ですが……そろそろ暗くなってきます。こんな状態で襲われたらひとたまりもありませんよ?」

提督「そうだな……」

提督「……私は、早期に解決するべきだと思う」

北上「そりゃあ、早いに越したことはないと思うけど……」

提督「違う。私が言っているのは、一刻も早く、だ」

明石「そんな、危険すぎます!」

提督「それは分かっている、しかしだな、もしああなったあいつらが一般人を傷つけたらどうなる?」

明石「それは……」

北上「……運が良くてクビ、悪ければ銃殺刑もあり得るかもね~……」

提督「艦娘は人とは違う。力を持っている分、法的に縛られる存在だ」

北上「それは分かってるけどさぁ……」

若葉「法的不平等は仕方がない」

提督「ま、私としては一般人がどうこうよりお前たちを守りたい」

若葉「……///」

暁「//////」ぎゅっ

北上「……いっけないんだ~、提督ともあろう人がそんな事言っちゃって」

提督「本心だが、悪いか?」

明石「悪くありませ……///いえ、悪いですよ。…………個人的には悪くありませんが……」

提督「だから出来る限り早くに解決するべきだと思う。多少の危険は覚悟の上だ」

北上「いいよ、乗った」

若葉「私もだ」

暁「あ、暁もだもんっ。暁だって司令官の役に立つんだからっ」

明石「…………分かりました、分かりましたよもう」

提督「それでは今の状況を整理しよう。今この鎮守府に居るほとんどの艦娘は異常行動を起こしている。我々はこの問題をどう対処すればいい?」

北上「とりあえず、寮に響が隠れてるかもしれないんだよね?」

提督「そうだったな。じゃあ、寮に探しに行くか?しかし寮には沢山『奴ら』が居そうだが……」

明石「……日誌を見る、というのはどうでしょう」

提督「なるほど、私が居ない一週間の事が記録されているはずだな。という事は執務室か?」

明石「もしくは秘書室でしょう」

若葉「アレを治す事はできないか?」

提督「…………」

明石「…………」

若葉「なんだ?」

提督「治す、そうか、治すという手段もあるか」

明石「とは言っても、原因が分からないんじゃ手の打ちようも……って言ってる状況じゃないんでしたね」

提督「ああ」

明石「なら、私が調べてみます」

提督「調べるって……どうやってだ?」

明石「うっ……何かしら資料があれば……」

提督「となると、結局は寮に行かないといけないか……」

提督「選択肢は三つだ。一つ、日誌を取りに行く」

提督「これは執務室という非常階段近くの部屋に行く以上、もっとも安全かつ確実にできる行動だろう。そして何らかの情報が手に入る公算も高い」

提督「ただし、欲しい情報が確実に手に入るわけではないと思う」

提督「二つ目は治療方を探すために資料室などで情報収集を行う事だ。これも南東の非常階段を使えば比較的安全にたどり着くことが出来るだろう。しかし、確実に治療できる方法が見つかるとは限らないというのが……」

明石「見つけてみせますよ、絶対」

提督「……では見つけることが出来るだろう。しかし、根本的な解決ができるとは限らないという事が問題だ」

若葉「この事件を起こした黒幕が誰かが重要という訳だな」

提督「もしくは何か、だな。根本的に解決されなければ再び起こるとも限らんからな」

提督「そして三つ目。響を見つける。響は全体に警告を流した以上、かなり初期の段階でこの異常に気付いただろう。つまり、もっとも正解に近い情報を持っているのではないかと思う」

提督「ただし、捜索は非常に困難だろう。『奴ら』だらけの寮の中を探すんだから、相当にリスキーだ」

北上「最悪、響も奴らの仲間入りしてるかもしれないしね~」

提督「考えたくはないがな……」

提督「という事だ。我々が何を目的に動くかを決めなければならないだろう」

北上「全部ってのは?」

提督「確実に人数が足りないだろうな。そうなるとどれかが失敗してしまう可能性が高い」

北上「む~……」

明石「私は資料室に行きますよ」

提督「おいおい、随分積極的だな」

明石「誰が決心させたと思ってるんですか」

北上「提督ってさー、あくどいよねぇ~」

提督「人聞きの悪い事言うなっ」

若葉「女たらし」

暁「そんな司令官でも暁は大好きよ!」

提督「暁はいい子だなぁ……」なでなで

暁「ふふっ」

明石「やっぱりやめようかなぁ……」

提督「それは困る」

明石「……現金なんですから……。まあとにかくですね。どうせやらなきゃいけない事です。それが遅いか早いかだけ。ならいますぐやってもなんの問題もないはずです。違いますか?」

提督「ははっ、違いない」

明石「では決まりですね」

提督「ああ、頼りにしているぞ。……北上、若葉、暁」

暁「なに?」

提督「明石について行ってくれ」

暁「だめよ!」

北上「……正気?」

提督「もちろん正気だ」

若葉「一人でここに残るつもりなのか?」

提督「まさか」

明石「だったら認められるわけないじゃないですか。自殺行為ですよ!?」

提督「いや、囮役は出来る限り少ない方が良い」

暁「囮?」

提督「ああ、資料室に向かうんだろう?『奴ら』が寮の中にたくさんいると分かっている状態で向かうのはそれこそ自殺行為だ。だったら誰かがおびき寄せて外に連れ出した方が安全に調べられる」

明石「そんな事……」

提督「必要だ。絶対にな」

若葉「だが、そんな危険な事を提督にやらせるわけには」

提督「まあ聞け。一番適役なんだよ、私が」

提督「明石は調査に必須だろう。北上は戦力として何かがあった時に対処するには必須だ。そして若葉と暁は駆逐艦だ、やらせるわけにはいかない」

暁「そんなの感情論じゃない!」

提督「お前たちには未来があるだろう。これから先も深海棲艦と戦い続けて貰わないと困る。だが私は違う。深海棲艦とは戦えない。だから、最悪今ここでなくなってしまっても……」

暁「いや!いやぁ!!」

提督「だから、話を……」

暁「離れない!絶対離れないもんっ!!」ぎゅむっ

提督「あ~も~。私も死んだりするつもりはない。大体、少し大きな音を立てておびき寄せるだけだから、安全だって」

暁「やだぁ!」ガシッ

提督「ほら、この携帯のタイマーを使って誘導するだけだから、な?安心しろって。危険な事はほとんどないから」

暁「うぅ~~」

北上「そうなったら説得は無理だと思うよ」

提督「ずいぶん頑固だな……。おーい、暁ー。離してくれ~」

暁「いやっ」

明石「じゃあ、提督は暁ちゃんと一緒に行動してください」

提督「え」

若葉「でも無茶な行動は出来ない」

提督「あ~……まあ、始めからするつもりもないって」

北上「嘘でしょ」

明石「嘘ですね」

若葉「嘘だ」

暁「嘘つきっ」

提督「信用されないって辛い…………」

北上「信用されてるんだよ。絶対無茶をするって」

提督「むう……それは信用と言うのだろうか」

明石「はーいはい。それじゃあこれ、持って行ってください」

提督「スパナにレンチ……いや、私は部下を殴るつもりはないぞ」

明石「違います。これ、落とすと結構な音がするんですよ。金属でできてますし」

提督「なるほど、そりゃあ使えそうだな。ありがたく貰っておこう。」

明石「はい、みんなも」

北上「ん、さんくー」

若葉「感謝する」

暁「ありがとう」

明石「それからこれも持って行ってください」

提督「懐中電灯……これは心強いな。だが見た所一つしかないようだが?」

明石「地震用に備え付けてあるのはこれしかないんですよ。普通の地震なら探照灯を流用すればいいと思っていたので……」

提督「今後の課題だな。しかし、お前たちが使った方がいいんじゃないのか?」

明石「私たちは寮の中で活動する事が多いと思うので、最悪電灯をつければ何とかなります」

提督「そうか、では有難く貰っていく」

提督「よし、それじゃあまず私と暁が正面に回り込んで音を立てておびき寄せる。戸も開けて中の連中を連れ出すから、だいぶ中は安全になるはずだ」

北上「そしたらあたしたちが突入だけど……外を迂回して南東から入った方が良いのか……」

明石「南西のドアから入って寮中央を横切って資料室まで向かうのがいいか……」

若葉「様子を確認してから決めるしかないと思うが」

明石「ですね」

提督「私たちはそのまま北上して資材庫まで引っ張ったら、そこに携帯の音楽を最大音量にして置いてくる。そしてそのまま迂回してから北東の入り口から執務室へ向かおうと思う」

明石「無理しないでくださいね」

提督「ああ、無理だと思ったらここに引き返すさ。もしくはどこか適当な場所に籠城でもしよう。そういえば私の私室には多少食べ物があったな」

北上「あー、ずっるー。あたしにも頂戴よ~」

提督「これが終わったらいくらでも奢ってやるさ」

北上「へっへー、やったー」

明石「私、ちょっと気になる工具があるんですよね」

暁「わ、私も欲しいものがありゅにょ……///」

提督「お前らな……。はぁ……まあ、功労者ならいいだろう」

明石「やたっ!」

暁「!」

提督「私が出来る事には限りがあるからな。そこには留意してくれよ」

明石「もちろんですよ~」

明石「……買い物をする時には全て私を通されるんですから提督の経済状況は把握済みですよ……」ボソッ

提督「……なんか怖い言葉が聞こえた気がするんだが」

明石「いえいえ、何でもありませんですのことよ?」

提督「…………。若葉は何か欲しい物とかないのか?」

若葉「……?そもそもやらなければならないことをやるだけなのに特別な褒美とかもらってもいい物なのか」

明石「はうっ」

提督「あ~……まあ、私からの感謝の意味も込めてだ。若葉は良くしてくれているからな。それじゃあダメか?」

若葉「いや、それならば問題ない」

提督「なら何か欲しい物とか考えておいてくれ。帰ったら教えてくれよ」

北上「提督ー、それ死亡フラグじゃない?」

提督「ははっ、そんな物どうってことないさ。そんな物ごときで私はやられてやらない」

北上「ひゅー、言うねぇ」

提督「……これが終わった後、故郷の幼馴染と結婚するんだ」

北上「ぷっ、何そのベタな……」

暁「なにそれっ!!私知らないっ!!」

明石「あ、暁ちゃん……?」

暁「そんな事になってたのっ!?じゃあ私たち捨てられるのっ!?答えて司令官っ!!」

提督「あ、暁落ち着け。ただの冗談だから……」

北上「そうだよ、だから声を抑えて」

暁「……冗談?」

提督「そうそう、冗談冗談」

暁「じゃ、じゃあ、故郷の幼馴染は?」

提督「そんなの居ないって」

暁「良かったぁ……」ふぅ…

明石「…………提督」ぼそっ

提督「なんだ?」ぼそ

明石「人間は極限状態に置かれ続けたりストレスがかかり続けると嘘を嘘と認識できなくなるそうです」

提督「暁はそれだけ追い詰められているということか」

明石「ええ」

提督「分かった、出来る限り注意する」

提督「……それでは暁、そろそろ出よう」

暁「う、うんっ。ごめんなさい、大きい声出しちゃって……」

提督「大丈夫だ、変な事を言った私も悪いのだしな」

提督「北上、私たちはこれから10分後に騒動を起こす。そっちは任せたぞ」

北上「おっけい。あ、時計合わせいいかな?」

提督「……19時55分まで残り10・9……2・1・0」

北上「よしっと。じゃあ提督達が出て10分後にここを出ればいいね」

若葉「ああ、任せる」

明石「はい、お願いします」

提督「見つかればいいな、治療法」

明石「ですから、見つけますよ」

提督「だったな……いくぞ、暁」

暁「う、うん」

提督「……さて、誰に見つかる事もなく寮玄関までたどり着いたわけだが……今何時だ?」

暁「20時7分……あと三分ほどで北上さんたちが出る頃ね」

提督「ならちょうどいいか。私はこれから玄関をこの工具で叩く。私に寄って来る奴が居ないか周囲を見張っておいてくれ」

暁「わ、分かったわ」

提督「ある程度集まってきたらドアを開けて倉庫まで誘導するからな」

暁「任せて、戦場に居るのだもの。大声を出すのは慣れてるわ」

提督「よし、では……いくぞっ」

――ガンガン!!ガンガン!!

提督「お~い、お前ら!提督の帰還だぞ!!誰か居ないのか!?」

――ガンガン!!ガンガン!!

――ああ……おあぁぁ……

提督「よしよし、寄って来たな。しかしこう暗いと何も見えないな……」

暁「大丈夫、近くにはまだ来てないわ」

提督「暁!隠れてなきゃダメじゃないか」

暁「嫌よ。暁だって司令官のお役に立てるもの!」

提督「しかし暁を危険な目に合わせたくは……」

暁「夜戦が得意な駆逐艦は夜目がよく利くのよ。絶対絶対司令官を守ってみせるわ」

提督「~~もう来てしまった以上仕方ない。絶対に私から離れるなよ」

暁「もちろんよ」

――ガンガンガンガン!!

提督「周りにはまだ居ないんだな?」

暁「ええ、大丈……」

――ドサッ

暁「……え?」

提督「なっ!?」

霧島「うあ……うぅぅ……」ガシッ

暁「きゃぁぁっ!!」

提督「あ、暁!くそっ、上からだと!?」

――ドサッ、ドサッ

提督「そうか、上はテラスになっていたな。そこから……」

暁「いや、いやぁ!」

提督「このっ、暁を離せ!!……すまん霧島!」ガスッ

霧島「あぁぁ……」

提督「暁、大丈夫か?噛まれてはいないか?」

暁「大丈夫!」

提督「逃げるぞ!」

暁「ドアはどうするの?」

提督「開けなきゃならんが……」

――バンッ!メリメリッ

提督「……必要はなくなったみたいだな、走れ!」ゲシッ

暁「うんっ」

北上「……時間だね、行こう」

若葉「ああ」

明石「くっ、わ、私だって……」ブルブル

北上「落ち着きなよ、明石。明石は私たちで守るからさ……というか明石に戦闘力とか求めてないし」

明石「ですよねー……」

北上「でも調査に関しては頼りにしてる」

明石「……落としてあげられるとプレッシャーがかかるわね……」

北上「肩の力、抜けたっしょ?」

明石「プレッシャーかかったって言ったじゃない」

北上「そう?手の震えは止まったみたいだけど」

明石「あ……」

北上「じゃ、行こっか」

若葉「偵察は任せてくれ」ガチャッ

北上「よろしくー、あたしたちは少し後ろをついていくから」

若葉「……前方に人影が見える」

北上「人数は?」

若葉「詳しくは分からない、だが5人を下るという事はないだろう」

明石「位置的には玄関から遠いですから陽動が効果なかったようね」

北上「中を通ろう」

明石「寮の中を?」

北上「うん、建物の中は音が響いてるはずだよ。二階は分からないけど、一階は少なくなってるはず」

明石「……それしかないかなぁ……」

若葉「先行する。二人はついてきてくれ」

北上「了解」


若葉「…………」キィ

若葉「……居ない」

明石「よしっ」サッ

北上「…………電気点けよう」

明石「不味いわよ、バレたら襲われるかもしれないし……」

若葉「問題ない、あいつらは眼が見えない……おそらく」パチっ

明石「ちょっ」

北上「大丈夫、それは提督と確認済みだから……多分だけど」

明石「二人とも怖くなるような事言わないでよ~」

若葉「幸い、階段まで誰も居ない、急ごう」



明石「後少しで資料室ね……こんなに廊下が長いなんて思ってもみなかったわ」

若葉「まだ気を抜いてはいけない。特にドアが開いていたら注意しろ」

――コンコンコン

北上「しっ」

――ガリッガリッガリッ

明石「やっぱり近くにいるみたいね」

北上「しー……」

明石「…………」コクコク

――コンコンコン

若葉「……資料室、開けるよ」

北上「おーけー……」

若葉「……」キィ

明石「どうですか?」

若葉「……三人いる」

北上「チッ、こっちより一人多いね」

明石「私戦力外?」

北上「よく分かってるじゃん」

明石「うぅ……事実だけどぉ……」

若葉「私が東側のドアで音を出して引き付けるから、あいつらが居なくなったらドアを閉めてくれ」

北上「りょうかい、明石はこっち側のドアで待機して、若葉が入ったら閉めて。あたしは東側のドアを閉めるから」

明石「分かったわ。若葉ちゃん、廊下の奥にも気を付けて」

若葉「ああ」

若葉「行くよ」

――コンコンコン

伊8「うあ?」

――コンコンッ

初雪「…………」

北上「明石、お願い」

明石「はい」

若葉「よし、こっちだぞ……ついでだ」パチッ

明石「電灯……これで私にも見えるように」

若葉「こっちに来い。ほら、私はこっちだぞ」

香取「おぉぉ……」

若葉「くそっ、二人は出たけど……まだ初雪が奥に……。これ入口付近で以上引き付けるのは無理がある」

北上「…………」バンッカチャリ

若葉「北上?」

北上「一人なら何とかなる!早く入って!」

若葉「了解!」ダダダ…

明石「……はい、閉めました!」ガチャン

北上「じゃあ明石は他のドア施錠して、若葉は援護!」

明石「はいっ」

若葉「ああ!」

北上「ほら、初雪!こっちに来ればお前の好きなゲームが出来るよ~」

初雪「あうあ~……」ふらふら

北上「そーそー、こっちにおいでー……」

若葉「…………」そー

北上「いいね~いいね~」

初雪「あぉ……ぉ」

若葉「はっ!」ガシッ

北上「ナイスッ」

初雪「ああっ!あおぅっ!」ブンッ

若葉「どうする?」

北上「あちゃー……縛る物とか何ももってないよ……」

若葉「このまま拘束し続けるのはさすがに難しいぞ」

北上「外に捨てちゃう?」

――ドンドンッ

北上「――は難しいかな?あんまり音立てるとヤバいことになりそうだし」

明石「それなら私にいい考えがあります。確か図書室にはセロハンテープがありましたよね」

北上「テープ?そんなのすぐ切られちゃうよ」

明石「それがですね、テープというのは意外と引っ張り強度は強いんですよ。ですからこれを……ねじって……やんっ」

北上「お、色っぽいねぇ」

明石「ロープつくるの手伝ってください!」

北上「おっけーおっけー。ちょっと時間かかるかもだけど、若葉は大丈夫?」

若葉「ああ、もちろんだ」

初雪「あうっあうっ」カツッカツッ

北上「よーし、これで大丈夫そうだけど……初雪歯が悪くなりそうだね」

明石「こんな時にそんな事を気に出来る神経はすごいと思うわ」

若葉「高速修復材で何とかならないか?」

明石「……まあ、細胞再生するから出来ると思うけど……」

若葉「なら問題ない」

北上「そだね」

明石「そうかなぁ……」

北上「まあとにかく早く調べないと。どうするの?」

明石「そうね……。とりあえず想像できる原因はウィルス、薬、深海棲艦……といったところかしら」

北上「あとはお化けとか?」

明石「科学の塊である私たちがそれを言いますか?」

北上「だね」

明石「ではそういう関係の本を集めてちょうだい。中身の検分は私がするから」

若葉「分かった」


北上「ん~……ウィルスウィルスっと。こっちにはこのくらいしかなかったかな」

明石「…………」ペラペラ

若葉「深海棲艦についての資料は隣室だから一緒に行った方が良いだろう」

北上「そうだね。…………ん~……」

若葉「どうした?早く行こう」

北上「いや、えっとね。そういえば来るときに階段付近で音がしたじゃん」

若葉「ああ、何かを叩くような音がしたな」

北上「それから引っ掻くような音も」

若葉「それがどうかしたのか?変質したあいつ等が出しそうな音じゃないか」

北上「…………にしては少し規則的すぎる気がしたんだよね」

若葉「偶然じゃないのか?」

北上「……そうかもしれないんだけどさぁ。うあ~どんな音だったか思い出せない……」

若葉「今そのドアの所で鳴ってる音とは違うんだな?」

北上「たぶん。……絶対の自信はないけどさぁ」

若葉「なら行こう」

北上「若葉は迷わないのね」

若葉「難を逃れた者が居るのなら、合流した方が互いに安全になるからな……それに響かもしれない」

北上「だね。明石、そういう訳だから少し行ってくるよ」

明石「……待って、私はその間初雪ちゃんと二人になるわけ?」

北上「あそっか。でも縛ってあるし大丈夫じゃない?」

明石「自慢じゃないけど、私は駆逐艦の子に力で負ける自信があるわよ?速力ではそれこそ絶対にかなわないわ」

北上「自信満々で言わないでよ……」

若葉「確かに、明石をこの部屋に一人残すのは不安があるな。万一ドアが破られでもしたら危険だ」

北上「むぅ……じゃあ、言い出しっぺの私が行くよ」

若葉「分かった。では私が明石の護衛をしよう」

北上「んじゃあどうする?」

若葉「東側のドアにおびき寄せた後に西側から出る」

北上「それだよね。うん、なんかこんなに簡単すぎていいのってくらいな作戦だけどさ」

若葉「音による誘導が効果的なのだから仕方ない」

北上「だよねー。じゃ、やろっか」

若葉「私が音を出して引き付ける。その隙に向かってくれ」

北上「よろしく」

若葉「おい、お前たち。私はこっちにいるぞ」

香取「うぅぅ……」

伊8「あぇ……」

北上「よぉ~し……」そろそろ

若葉「気を付けて」バタンッ

――ドンッドンッ

北上「…………」



北上「…………階段近くで聞こえたと思ったんだけど……今は聞こえないな」

北上「どうする?声をあげるわけにもいかないし……」

北上「この近くには……私室……誰の部屋だっけ?」

北上「それから視聴覚室と……階段下に小さな物置があったけ」

北上「隠れるなら物置だよね」

北上「いきなり開けるのは危ないかな、やっぱり」

北上「なら戸を……」トントン

北上「…………もっかい」トントン

北上「…………外れ?」

――コンコンコン

北上「!」

北上「そうだ、戸の隙間にスマホのライトを……んで」トントン

?「…………」キィ

響「北上……さん……」うるっ

北上「やあ、ちみっこ」

響「助けに……来てくれたのかい?」

北上「まあ、そうなるね」

響「良かった……」

北上「とりあえず話は後。そこの図書室に行くよ」

響「ありがとう」

北上「どういたしまして」

提督「…………」こそっ

暁「…………」

提督「……よしっ、誰も居ないな……」キィ

提督「執務室……よし。暁」

暁「うんっ」ぱたん

提督「ふぅぅ……」

暁「へふぅ……疲れたぁ」

提督「強制マラソンの上に途中からは足音を立てないように、しかも呼吸を抑えなきゃいけなかったからな」

暁「でもやりとげたわ!レディだもの、当たり前よね」

提督「そうだな」

暁「ふふっ」

提督「ん?どうした?嬉しそうに笑って」

暁「だって、いつもはレディだって言ってもまともに相手してくれなかったのに、今はすぐにそうだなって言ってくれたんだもの」

提督「あ~、いつもは茶化してるかもしれんが、内心はきちんと認めてるんだぞ?」

暁「ホントッ?嬉しいっ」だきっ

提督「おいおい、なにかいつもよりテンション高くないか?」

暁「そ、そうかしら?」

提督「まあ、こんな状況だからな。多少感情的になっているのかもしれんが……」

暁「……」

提督「暁、私の机右側の一番下にチョコレートがあるから出して食べるといい」

暁「あ、ありがとう。司令官は?」

提督「もちろん貰うさ。だが先に日誌だ……と、見つけたぞ」

提督「一週間前一週間前……」ペラペラ

提督「と、あった。なになに?」

○月×日 〇曜日 記入者:長門

提督代行一日目

予定していた通り演習と遠征をこなす。問題なし。

パーティーの準備は青葉に任せる。

提督が居なくなって寂しいのか、暁が明らかに気落ちしていた。

暁の遠征を響が肩代わりすると申し出て来た。すべてではないが許可を出しておく。

何か気を紛らわせる良い方法はないものか……。



提督代行二日目

一日目と同様に問題なし。

作戦によって大幅に戦力を減らした深海棲艦が、進行を計画するとは考えづらい。

大本営も同様の考えなのだろう。

しかしながら油断は許されない。一層気を引き締めるべきだろう。
 
鳳翔に相談した結果、下手に小細工を弄さずとも私なりの気遣いを見せればよいという結論に達した。

明日あたり、暁と共に書でもしたためて精神修養でもしようと思う。



提督代行三日目

パーティーをすると聞きつけた金剛4姉妹が張り切りだした。

中でも比叡が料理をするといって聞かない。よって、わざと出撃をさせて準備から遠ざけておくことにしよう。

資源の消費が多少増えるが問題ないだろう。

始めは興味がなさそうにしていた暁だが、手本にと用意していた経典に興味がわいたようだ。

私の目論んでいたこととは違う結果になったが、暁の気が紛れたのならばよいだろう。


提督代行四日目

パーティーのためだと那珂が歌の練習を始めた。

うるさいとの苦情が来たため、対策を考えなければならないだろう。

比叡の対処はうまく行ったようだ。このまま出撃を続ければ、変な料理が入り込む余地はないだろう。


提督代行五日目

明石が特殊な食材を仕入れる当てが出来たとの事。何か欲しいものがある場合は明石まで希望を出すようにと放送を入れた。

パーティーだからターキーをという意見が出たが、暴れ出した空母が居たため却下と言う事になった。

なお、備品の花瓶が割れたため、該当艦娘の給料から天引きすることにする。

これらの処理は大淀に一任する。

それ以外は問題なし。平和な毎日が出来る限り長く続いて欲しい物である。


提督代行六日目

明石に頼んだ食材は明後日届くとの事。多少足が出たが、部下の喜ぶ顔は上司にとって喜びである。

但馬牛を食べて喜ぶ駆逐艦たちの顔を早く見たいものだ。

明日は提督たちが帰ってくる日だ。だというのに比叡の奴めがカレーに余計な手を加えてしまった。

どうやら珍しいスパイスが手に入ったらしい。

手が空いている者全員でカレーを処分することになった。そのため、少し腹が苦しい。

まだ食べられる味だったから良かったものの、もしそうでなかったらと思うと背筋が寒くなる。

遠征要員の者たちの為に、ちょっとした物を作っておくように鳳翔に頼んでおこう

また、響が相談があると言うので話をしにいくつもりだ。

場所は小会議室でいいだろう。

提督「……ふむ」

暁「何かあった?」

提督「残念だがこれといって有益な情報はなさそうだ。いつも通り、騒がしくも平和な鎮守府だったみたいだ」

暁「ふ~ん。はい、司令官チョコレートよ。あ~ん」

提督「ありがとう、後で貰うからソコに置いておいてくれ」

暁「…………そう」

提督「他に何か……う~む……無いか?」

暁「ところで司令官、私、お菓子と一緒にこんな物まで見つけちゃったの」

提督「それは……」

――ドンドンドンッ!

北上「というわけで響が居たよ。いや~運が良かったよ、ホント」

響「いや……」

――ダンッ!ダンッ!

明石「ですねー。響ちゃんも助かってよかったわね」

響「あの……」

――ガンガンッ!!

若葉「そうだな。無事でよかった」

響「いや無事じゃないよね?この状況!」

北上「いいBGMとは言えないよねー」

響「あの後図書室に入ってすぐに彼女達が群がって来るだなんて……あのまま物置に隠れておけばよかったよ……」

明石「ドアを叩いてた香取さんとはっちゃんを放置してたのがまずかったわね」

若葉「あれで近くの連中がおびき寄せられてしまったな」

北上「まあ、叩いてるのが廊下に面してるドアだけだから大丈夫っしょ」

明石「そうね。これだけ音が出ていても隣の資料室からは全く音がしませんから」

響「ず、ずいぶん慣れてるんだね」

北上「慣れてるというか……なるようにしかならないし」

若葉「それに提督が居るからな」

響「司令官?そうか、司令官も帰ってきているんだな」

明石「ええ、今は……囮が終わったので執務室か秘書官室に居るはずよ」

響「そうなのか……」ほっ

明石「……暁ちゃんと一緒に」

響「……え?」

明石「日誌を調べているはず……」

響「司令官が危ない!!」

北上「な、なになに?いきなり」

明石「なんで提督が危ない……の……?まさ……か……」

響「この事件を起こしたのは暁なんだ!執務室だったよね、急ごう」

提督「それは……ケッコンカッコカリ用の指輪か」

暁「ねえ、司令官。この指輪どうするの?」

提督「……まあ、この事件が終わったら落ち着いて考えるさ」

暁「私は今知りたいの、教えて」

提督「暁、今はそんな我がまま言ってる暇は……」

暁「教えてっ!」

提督「……おい、暁。さっきから思ってたがお前……」

暁「いいから、教えてよ、ねえ。それとも私には言えない事なの私に話せない事なの司令官は私に隠し事するの司令官は私の事信じてないの私の事どうでもいいって思ってるの私は司令官の事こんなに想ってるのに司令官は司令官は司令官は司令官は…………」ブツブツ……

提督「お、おい……」ゾッ

暁「お・し・え・て」

提督「…………」ゴクッ

提督「あ……そ、その指輪は貴重なものだし、装備者の燃費を向上させる効果もある。だ、だから……」

暁「だから?」

提督「大和や武蔵、アイオワなんかに……優先して……配備……しようと……」

暁「………………そうなんだ」

提督「…………」

暁「ねえ司令官、チョコレート、食べて」

提督「いや、その、な。後で貰うよ。だから……」

暁「さっきまでお腹が空いたって言ってたじゃない。ねえ、食べて」

提督「あ~、そのチョコレート、実はあまり好きじゃなくて……」

暁「嘘、たくさん買いだめしてるじゃない。どうしてそんな嘘をつくの?」

提督「う、嘘じゃないさ。安かったからたくさん買ったらあまり好みじゃなかったのさ」

暁「でも状況が状況だわ。少しでも体に何か入れた方が良いわよ」

提督「…………そ、そうだな。じゃあこっちの新しいヤツを丸ごと一個もらおうかな」

暁「…………そう」

提督「うん、疲れている時に食べる甘い物はやはりうまいな」ポリポリ

暁「……ねえ司令官、食べさせて欲しいわ」あーん

提督「は、ははは……ず、ずいぶんと子供っぽい事をするんだな」

暁「あら、レディだってする事よ。テレビで素敵なレディが素敵な男性にされていたわ」

暁「だから、ほらぁ」あー

提督「あ、ああ……あーん」

暁「ふふっ、美味しいわ」

提督「そうか、良かったな」

暁「じゃあ、お返しね」

提督「いやいや、いいって」

暁「司令官、嫌なのかしら?」

提督「あ~そのなんだ……嫌ではないが……その気恥ずかしいというか……」

暁「大丈夫よ。私たちしかいないわ」

提督「そ、そろそろ行こうか。北上達の事も心配だ」

暁「ねえ司令官……どうして食べてくれないのかしら」

提督「……な、なんで暁はそんなに食べさせたいんだ?」

暁「そんなの、司令官に食べて欲しいからに決まってるじゃない」

提督「は、話が繋がってないと思うんだが……」

暁「どうして?」テコテコ

提督「どうしてって……あ、暁……近い……ぞ……」ジリジリ

暁「あら、司令官の傍に行くのに理由が居るのかしら?」

提督「いや、それは……」

暁「ねえ、食べて」スッ

提督「…………あ、暁……」ドッ

暁「食べてよ食べましょう食べなきゃ食べて欲しいの食べないと食べればいいのに食べて食べなさい食べるべきよ・・・・・・」

――ダンッ!

暁「た・べ・ろ」

提督「う……あ……」

――バンッ!

響「司令官!だいじょうぶかい!?」

暁「……あら、響居たの?」

響「暁……」

若葉「提督……?」

提督「み、みんなか……」

北上「何々?何がどーなってるの?」

明石「は、速い……わよ……待って……はぁはぁ……」

暁「何って、ただ司令官にチョコレートを食べさせてあげようとしただけよ?」

北上「……ホント?提督」

提督「……確かに、そうだ……」

暁「ほら」

提督「だが、あの様子はただ事では済まない様子だったが……」

暁「そうかしら?」

響「暁、長門さんをあんな風にして……何をしたんだ?」

響「遠征が終わって小会議室に向かったら……長門さんが他の皆を襲ってて……暁はそれを見て嗤ってて……」

響「そしたら他のみんなも……」

響「暁がさせたんだろう!」

暁「…………」

提督「あ……かつ……き……?」

暁「司令官はどっちを信じるのかしら?」

提督「…………ここで、お前の態度がおかしいからって響に味方するのは簡単だな」

暁「あら、司令官。それなら私を信じてくれるのかしら?それとも……やっぱり信じてくれないの?」

提督「違う。判断できる材料が無いからどちらが正しいか分からないだけだ」

暁「そう、じゃあ、司令官は私を信じてくれるかもしれないの?」

提督「まあ……そういう事だな」

暁「嬉しいっ!」だきっ

提督「…………」

暁「うふふふ…………」

提督「…………」パチパチ

北上「……!」

提督「暁……お前はどこにいたんだっけ?」

暁「?工廠に居たじゃない。私たちはそこから来たんでしょ、忘れちゃった?」

提督「いや、そんなことは無い。でもな、思い出したことがあるんだ」

提督「明石は一人で作業をしていたと言った」

暁「そうね、その後私が逃げて……」

提督「……明石はこうも言ったんだ。提督がはじめてのお客さん、と」

北上「若葉は明石を抑えて!」ダッ

若葉「了解!」

明石「ふえ……?えぇぇ!?わ、私何もありませんよ!?」

若葉「とりあえず疑いが晴れるまでは大人しくしていてもらう」

明石「はい……」

北上「覚悟するんだね、ちみっ子」ガシッ

暁「…………ふふっ」

提督「…………暁…………」

暁「…………あはははははっ!」

響「暁、今すぐこんなことはやめるんだ」

暁「あ~あ、残念。せっかく司令官を私の物に出来たのに……」

提督「だが分からない。なんで暁はこんなことが出来たんだ?」

暁「ああ、それはね、長門さんがくれた魔法の本のおかげなの」

提督「日誌にも書いてあったな……。だがそんなものが存在……するんだろうな。でなければこんなことにはならないだろうし」

暁「うん、書の手本にって持ってきてね。始めは興味なかったんだけど、断るのも悪いからって何となくその経典、ああ、妙法蟲聲經(みょうほうせいちゅうきょう)っていう本を眺めていたの」

明石「その本!」

提督「何か知っているのか?」

明石「ネクロノミコンって言えば分かりますか?」

提督「なっ!」

明石「超有名も有名な魔導書、その写しというか仏典版ですよ、妙法蟲聲經は」

暁「その本、最初は意味が分からなかったのよ。でも、だんだん不思議な気持ちになって……それで、どうしたらいいか分かっちゃったの。司令官を、私の物にする方法」

響「そんな方法で司令官を手に入れても嬉しくないだろう!暁はそんな事する人じゃなかったはずだ!そんな事、私が一番知ってる!」

暁「あはっ、うれしー……。でも、しちゃった」

響「くっ……」

北上「どちらにせよ、もう終わりだよ。暁にはどうする事も出来ない。観念して皆を元に戻すんだ」

暁「どうすることも……ね」

暁「ねえ、ゾンビってどんなものか知ってるかしら?」

提督「ゾンビって言うと……バイオハザードとかか?死体が生き返って人間を襲う」

暁「ええ、私もそう思っていたの。でも実は、罰だったの」

提督「罰?」

暁「罪を犯した人間に薬を飲ませて術を施し、魂を抜いて命令に従うだけの意思のない人形にするの。もちろん、刑期が終わったら元に戻してあげることもできるのよ」

北上「……という事は、みんなを元に戻せるんだね」ほっ

暁「ええ、そうね」

提督「良かった。じゃあ今すぐ戻しなさい」

暁「なんで?」

提督「もうどうすることも出来ないだろう!早くこんなことはやめ……」

――ダンッ

暁「あはっ、きーたー♪」

暁「意味もなくお話してたと思う?どうしようもないのは、あなたたちの方よ?」

提督「響っ!若葉もっ!扉を抑えろ!」

若葉「明石は?」

明石「大丈夫ですっ!というか私も押さえます!」

提督「って事だ!」

若葉「~~~分かった」

――ガンガンガン!!

提督「……暁、止めろ。やめてくれ」

暁「……司令官が悪いんだよ?指輪を渡さない、なんて言うんだもの……。だったら司令官をゾンビにしちゃうしかないよね」

北上「このっ……」

暁「私を殺してみる?そしたらみ~んな、元には戻らないよ?」

提督「……明石、本当か?」

明石「……いいえ、確かゾンビを作るのには抜いた魂を壺などに封印しておく必要があります。その壺を壊すかすれば……」

提督「よしっ……いや、良くない。だからといって暁を傷つけるのは駄目だぞ、北上」

北上「あまいね~砂糖よりもなお甘いね~」

提督「暁頼む、止めてくれ。本当のお前はこんな事する娘じゃなかったはずだ。響を最後まで守り通した優しい娘のはずだ」

響「……そうだよ、暁……だから戻ってきてよ……姉さん」

暁「くっ……やめ……て……」ヨロッ


提督「暁?」

暁「うるさいうるさいっ、もうすぐ司令官は私の物になるんだから!不倶隷(ふんぐるい) 目楼那訶(むぐるなふ) 朱誅……(くとぅ……)」

北上「やらせないよっ!」

暁「むぐっ」

提督「……明石、やはり暁は普段と違う。何か心辺りはあるか?」

明石「魔導書は読む者の心を蝕むといいます。変わった原因はそこにあるかと」

提督「治療は出来ないのか?」

明石「時間をかければ可能でしょう」

北上「その時間が無いんだよなぁ」

暁「ん~~!ん~~!」

明石「……暁ちゃんの心を強化できればあるいは……」

――ダンダンッ!!ダンダンッ!!

明石「きゃっ!」

若葉「もう持ちそうにないぞ!」

提督「……暁を……強化……」

北上「どうすんのさ!」

提督「暁をそのまま拘束しておいてくれ」バッ

北上「おーけー」

暁「ん~~!」

提督「……暁……すまなかった……」

提督「お前をずっと子供扱いして、それが嫌だったんだな……」

提督「こうなった責任の一端は私にもある。だから……一緒にその責任を負おう」

提督「暁……書類はあとで書いてくれよ」

暁「…………」

北上「……ケッコン……カッコカリ?」

若葉「…………ずるい」

提督「どうだ……?」

暁「……………」

暁「…………あ……あ……ああぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」

――ドンッ!ドンッ!

北上「ダメじゃん!」

提督「くっそ、駄目か」

暁「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

若葉「いや、そうでもないみたいだぞ」

暁「なんで……ひっぐ……こんな……ごめんなさいごめんなさい……」

響「……おかえり、暁」

明石「和んでないで~~扉壊されちゃいますよ~~」

提督「良かった……って北上はそっちの扉押さえてくれ、こっちは私が……」

北上「ほっ、と」

提督「暁は戻ったのになんでこいつ等は戻らないんだ?」

明石「多分まだ命令されたことを続けてるだけ……暁ちゃん早く止めて~」

暁「ううぅぅぅ……うあぁぁぁ」

提督「まだ少し無理そうだな。まあ、万が一入ってこられても、あの仲間に入るだけだ」

北上「それ嫌なんですけどぉ!」

提督「いや~、ゾンビの仲間入りをするのもめったに出来ない経験だぞ?」

明石「したくありませ~ん」

提督「じゃあ暁が泣き止むまでもう少し耐えるしかないな」

明石「ふぇぇ~ん、私が泣きたいですよぉ」

提督「じゃあ、解決した時のご褒美、上乗せしてやる」

北上「あ、じゃあ私にもケッコン指輪頂戴」

若葉「ふむ、それならば私も頼む」

提督「はぁ!?」

明石「じゃあ私にも下さい。というか全員分買ってください。私発注で」

提督「いやいやいや、そんな手に入らないだろ!?希少品だぞ?」

明石「時間かかってもいいですから。そうしたらもうこんな事件起こりませんよね?」

提督「~~わ、分かった。どんだけ仕事量増えるんだろう……」

響「ふふっ……責任は負うって言ったじゃないか」

提督「~~!クッソ、やってやるよ!」

後日談

暁が正気を取り戻した後に、ゾンビたちに止まるよう命令することで事態は一応の収束を見せた

そして魂を入れた器、艤装を破壊することで全員元に戻ることができたのは幸いだっただろう

暁は被害にあった艦娘一人一人に泣きながら謝って回った。そんな暁を、みんな快く許していたのは暁の感情が少なからず理解できたからであろうか……


暁「毎日毎日遠征遠征で休む間もないわ!こんなのレディのすることじゃないじゃない!」

響「壊れた艤装の修理にかかる資材は全て暁の遠征で取り戻す、それが暁の罰じゃないか。文句言わない」

暁「それは……そうだけどぉ……司令官に会う事も出来ないなんて……」

雷「私たちも手伝ってあげてるんだから、頑張りなさい!」

電「なのです」

響「ちなみに後燃料3万、鋼材2万、バケツが183個だよ」

暁「ひ~~ん」


提督はパーティーで出来た人脈を使ってこの事件をもみ消した。資材の被害は大きかったが、起きてすぐ解決した事が良かったらしい。

明石に指輪代(×人数分)を請求され、頭を悩ませているようだ。

しかし全員とのケッコンの意思は固い。


提督「なあ、大量に買うから値引きとかされないのか?」

明石「そんな制度はありません」

提督「ポイントカードとか……ほら、ロ〇ソンとコラボしたんだからポ〇タポイントとか……」

明石「ありません!」



若葉と北上は、あれから二人で組む事が多くなったようだ。

共に安心して背中を預けられる戦友が出来た事は、二人にとって何よりもの至宝となるだろう。


北上「あ?駆逐艦と?ないない」

若葉「…………」

北上「まあ、若葉は他の駆逐艦と違ってうるさくないし?一緒に居るのもやぶさかではないかなぁって」

若葉「…………ふっ」

北上「……何笑ってんのさ」


北上が認める事はないだろうが……。



??「さて、めでたしめでたしのカーテンコールと行こうじゃないか……なると……いいねぇ……」

暁が持っていた魔導書は、あの後忽然と姿を消していた。

あなたが深淵をのぞく時、深淵もまたあなたをのぞいているだろう

以上で終了でございます。
最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。
実は(自分で管理している本数的に)40本目の艦これSSでして、何か変わったことがやりたいなと思ってやり始めた事でございます
私の不手際から色々と描写に問題があり(提督+NPCという構図に近い描写になっております)力不足を痛感しております
それでもお付き合いいただいた方、本当にありがとうございました。

これを書きながらだんだん若葉に愛着がわいてきた不思議(北上様は元からわが軍のエースです)
元々は、グレート・オールド・レディ?ウォー様は旧支配者だったのか…という思い付きからです
普通のゾンビっぽい物にした方が面白そうだったので没になりましたが
なのでレディを求める暁はレディ教の狂信者()という妄想の名残があります

それでは皆様また次の作品でお目にかかれたらなと思います
皆様も良い駆逐ライフを~

つまんね
ss書くの辞めたら?

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