前川みく「膝枕上の猫チャン」 (10)
「……ねえ、Pチャン」
「ん?」
「猫チャンはね、あんまり撫でられすぎると嫌になっちゃうの。疲れちゃって鬱陶しくなっちゃって、ストレスになっちゃうのにゃ」
「ああ、そうみたいだね。だから撫でてると急に噛み付いてきたりとか」
「そーそ。撫でてもらえるのは大好きなんだけど、でも猫チャンは気紛れさんだから。構われ過ぎるのは嫌いなの」
「そんな気紛れなところも可愛いんだけどね」
「うむうむ、やーっと最近Pチャンも猫チャンの魅力を理解できるようになったみたいで良きことにゃ」
「みくにたっぷり教え込まれたからね」
「ありがたく思うといいにゃよ」
「感謝してるって」
「ならいいにゃ。……で、Pチャン」
「うん?」
「猫チャンはそんなふうに気分屋さんで、あんまり撫でられちゃうのは嫌なんだけど……でもさっきも言った通り、撫でてもらえること自体は大好きなの」
「うんうん」
「だから嫌がるまで撫でちゃ駄目なんだけど、でも嫌がるまでは撫でてあげなきゃいけないの。嫌だ、って思うまでは撫でて撫でてーって甘え猫チャンモードだから」
「なるほど」
「だから」
「うん」
「ほら」
「うん?」
「……」
「……」
「……Pチャン」
「……?」
「……」
「…………ああ、ってもうごめんって。そんなバタバタ足を暴れさせない。スカート捲れちゃってるじゃんか」
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「誰のせいだと思ってるのにゃ」
「だからごめんって」
「ふーんだ」
「そんな膨れて。……ほら、機嫌直してよ」
「……」
「みく?」
「……駄目。足りないにゃ。そんなのじゃぜーんぜん」
「お気に召さなかったかな?」
「気持ちいいし正解だけど、でもまだちょっと足りないの。機嫌を悪くさせた分もっとしてくれないと。……なでなで、頭だけじゃ足りないにゃ」
「そっかあ。それじゃあ、んー……」
「……」
「……」
「……Pチャン」
「ん?」
「Pチャン!」
「……何さね」
「分かってるでしょ!」
「いやー」
「あーもうまた! なんで直しちゃうの!?」
「なんでと言われても。……いや、普通それは直すでしょ」
「にゃんで!」
「それはこう……自分の担当アイドルでもある女の子が服を捲り上げてお腹出してたりしたら、それは、ね?」
「役得にゃ!」
「自分で言うのかな」
「だって本当だもん。……本当でしょ?」
「まあそうだけど」
「やーっぱり。……にゃふふー……Pチャンのスケベー」
「晒してる側のみくが言うかね。……とまあ」
「?」
「撫でてほしいのは分かったよ。頭だけじゃなくてお腹も、ってそれは。でも」
「でも?」
「服の上からね。素肌は駄目」
「えー」
「えーって」
「仰向けになってお腹を見せるのは信頼の証。肌を見せて晒すのは、もっともーっと信頼してるよーって証にゃのにー」
「信頼を示してくれるのは嬉しいんだけどさ」
「けど?」
「我慢できなくなる」
「……しなくていいのに」
「しなきゃ駄目。この話は前にもうちゃんとしてあるでしょ」
「そうだけどー……」
「成人するまでは我慢だよ」
「むー。……もう、Pチャンは本当に意地悪にゃ」
「ごめんね」
「いけずー。かいしょうなしー。みくのだんなさまー」
「それは罵倒なのかなんなのか。……それに」
「にゃ?」
「みくもまだ準備できてないみたいだしね。……顔、すっごく赤いよ?」
「……嘘。なってないもん」
「でもほら、おでこもほっぺもすっかり熱いし」
「平熱だもん」
「胸も物凄いドキドキしてるよ? こんな、お腹に触れてて分かるくらい」
「してにゃーもん……」
「みく」
「……何にゃ」
「お腹見せて興奮しちゃった? それで、恥ずかしくなっちゃった?」
「…………むー……」
「ほーら、みく」
「にゃ……?」
「ぽーんぽん」
「……Pチャン」
「ん? ぽんぽんしながら頭を撫でられるの、みく好きでしょ?」
「好きだけど……」
「だけど?」
「なんだかこれ、子供扱いされてるみたいで……」
「みくはまだ子供でしょ」
「ぶー」
「こーら、そんなふうに膨れないの」
「だってー……」
「子供扱いは嫌?」
「……うん」
「そんな背伸びなんてしなくていいのに」
「……Pチャンのせいだもん」
「?」
「Pチャン、みくが二十歳になるまでは駄目だーって許してくれないし」
「それは」
「それはいいの。前にも真剣にお話して、それはちゃんと……ちょっとだけ不満だし、待ち遠しくてたまらないけど……でも、それはちゃんと分かったから。だけど」
「うん」
「その間、不安なの。その約束の日が来るまで……どうしようもなく不安なの」
「不安……?」
「うん。……Pチャンが、みく以外の女の人に取られちゃうんじゃないかって」
「そんなの」
「分かってる。いっぱいスケベでたくさんえっちな変態さんだけど……でも、Pチャンが浮気をするような人じゃないっていうのはちゃんと」
「……うん」
「でもね、それでもやっぱり不安なの。Pチャンはみくが大好きになったくらい素敵な人で……Pチャンの周りに居るのはみくの憧れでライバルで、みんな本当に素敵な人たちで……だからやっぱりどうしても、不安だって思っちゃう」
「……」
「だから繋ぎ止めておかなくちゃ、って。恥ずかしくっても頑張って、離さないようにしなくちゃって」
「……そっか」
「うん。……だから子供扱いはイヤ。Pチャンにとって、確かにまだみくは子供なんだと思うけど……でもね、大人として見てほしい。大人として意識してほしいの」
「ん……」
「だから」
「うん」
「無理に見たり、扱ったりはしなくていいの。……でも、背伸びするのは許してほしい。頑張って背伸びして、大人としてPチャンの傍に居たいって……それは」
「みく」
「……何にゃ」
「ごめんね、そしてありがとう」
「にゃっ! ……えっと……Pチャン、顔……近い……っ」
「嫌?」
「イヤじゃ、にゃいけど……」
「良かった」
「うー……」
「……ね、みく」
「……?」
「みくはさ、やっぱりまだ子供だよ。可愛くて仕方なくなるような、そんな愛おしさを抱く相手」
「……」
「でも大人でもあったんだね。思っていたよりもずっとずっと、魅力的な大人の人」
「大人でも……?」
「そう。子供で、でも大人で。みくはもう、子供だけじゃなくなってた」
「……」
「だから」
「……だから……?」
「まだ子供として見ちゃうときもあるけどさ。でもちゃんと、大人としても扱うよ。……こんなふうに」
「……あ」
「……嫌だったらごめんね」
「……バカ。嫌なわけ……そんなの、あるわけないのに……」
「そっか、なら良かった」
「……ねえPチャン」
「うん?」
「ほっぺだけ?」
「他にも欲しかった?」
「……うん」
「じゃあ」
「んっ……」
「……ん……ほら、どうかな」
「おでこー……」
「駄目だった?」
「そうじゃないけど……」
「?」
「んー……んー……」
「みく?」
「……Pちゃんの意地悪」
「怒られた」
「分かってるくせに」
「まあね。でも、みくも分かってるでしょ」
「ここも二十歳になってから?」
「なってから」
「むー……」
「ごめんね、でもそこは特別だから」
「やっぱりいけずにゃ」
「ごめんって」
「……仕方ないにゃ。みくは出来た大人だから許してあげる」
「ありがとう」
「いいにゃ。将来の旦那様のわがままを聞いてあげるのも大事な務めだし。……でも代わりに」
「代わりに?」
「みくがPチャンのお嫁さんになれたら、その時はいっぱいしてもらうからね。いっぱいいーっぱい、それまで我慢してた分いっぱいしてもらうから」
「そのときはもちろん。こちらこそ」
「ならいいにゃ」
「ん」
「あと」
「?」
「お嫁さんになるのは我慢するよ。二十歳になるまで、Pチャンが許してくれるようになるまで頑張って我慢する。でも」
「でも?」
「さっきも言った通り、不安になっちゃうのはどうしようもないから……だから、Pチャン」
「うん」
「みくね、Pチャンのペットになる。Pチャンに飼われる猫チャンになるにゃ」
「……猫?」
「そーにゃ。……お嫁さんはまだ駄目だけど、ペットの猫チャンならなれるでしょ? ペットが居れば独身のPチャンも寂しくならなくて、浮気したりしないはずにゃもん」
「ペットか……」
「……駄目にゃ?」
「いや……なんというかこう、ペットっていう響きもなかなか……」
「……」
「……いやうん。まあ、そうだね。ペットならべつにいい、のかな……?」
「ほんとっ?」
「んー……うん」
「良かった……。……にゃふふ、それじゃあ今日からみくはPチャンの飼い猫チャンにゃ」
「飼い猫みくかぁ」
「そうにゃー。……ふふ。絶対目移りなんてさせないからね? Pチャンのこと、ずーっとみくで夢中にさせてあげちゃうから」
以上になります。
高垣楓「キスマーク」
高垣楓「キスマーク」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513327549/)
以前に書いてあげたものなど。
よろしければ。
おつおつ、
おつおつおつ
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