モバP「飛鳥とこたつでゆっくりと」 (13)
年末 事務所
P「ただいまー」
飛鳥「おかえり。外回り、お疲れ様」
P「ありがとう。あー、部屋の中はあったか……くない?」
飛鳥「最近どうも暖房の効きがよくないね。さっきちひろさんに相談したところだ」
P「そうか……まあ、これでも外の寒さに比べればずっとましだけど」ハーッ
飛鳥「手が冷たいのかい」
P「一応、手袋はしていたんだけどな。もっと分厚いやつ買おうかな」
飛鳥「ふうん……なら、ボクがあたためてあげようか」
P「え?」
飛鳥「ほら。こうしてボクの手でキミの手を包み込むと――」
ぴとっ
P「つめたっ」
飛鳥「あぁ、そういえばボクは冷え性だった」
飛鳥「というかキミの手、十分あたたかいじゃないか。これはむしろボクがあたためてもらうべきじゃないか?」ニギニギ
P「ちょ、くすぐったいぞっ!? わかったわかった、ふたりであったまるためにアレを持ってくるから」
飛鳥「アレ?」
P「飛鳥も手伝ってくれるか?」
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P「よし、こたつのセッティング完了だ」
飛鳥「アレ、とはこたつのことだったのか」
P「今年は出さなくてもいいかなあと思っていたんだけど、暖房の調子が悪いなら仕方ない」
飛鳥「プロトタイプの出番というわけだね」
P「べつにこたつは暖房のプロトタイプってわけじゃないぞ?」
飛鳥「言葉のあやだよ。それより、せっかく協力して物置から運び出してきたんだ。早速、和の文化を味わおうじゃないか」
P「そうしよう」モソモソ
飛鳥「今冬、このこたつを味わうのはボクらが初めてか。少し特別な感覚だ」ヌギヌギ
P「ん? どうしてタイツを脱いでいるんだ?」
飛鳥「こたつは裸足で楽しむのがボクの流儀なのさ」
P「へえ……」
飛鳥「よし」
P(こうして素足の飛鳥を見ると……やっぱり綺麗な足してるよな。脚線美も十分売りにしていける)
飛鳥「……P。女性はキミが思っている以上に、男からの視線に敏感だよ」
P「!? ご、ごめん」
飛鳥「いや、いいさ。今の視線は、キミがボクのカラダに魅力を感じていた証拠だ」モソモソ
P「魅力……まあ、それはそうだけど」
飛鳥「誰にだって心に闇が潜んでいる。キミの闇が見られてボクはうれしい」
P「そこまで邪な感情じゃないぞ」
飛鳥「フフ、冗談だよ。少し見惚れていただけで、本気でそういう感情を抱いたわけじゃないことは理解っている」ニヤニヤ
P「………」
飛鳥「P?」
P「もし、本気だったらどうする?」
飛鳥「えっ」
P「俺が本気で、そういう邪な感情を飛鳥に抱いていたら、どうする?」
飛鳥「あっ……えっと。それは、困る。困るけど……それだけではなくて……」
P「…………」ニヤニヤ
飛鳥「…………はっ」
P「あくまで仮定の話だよ」
飛鳥「…………」
げしっげしっ
P「痛い痛い、こたつで足を暴れさせないで」
飛鳥「今さらキミに聖人君子を求めるつもりはないけれど、ボクの純情を弄んだ罪を受け取れ」ゲシゲシ
10分後
P「……あたたまるなぁ」ヌクヌク
飛鳥「あたたまるね……」ヌクヌク
P「こうしてゆっくりするのも、いいもんだな」
飛鳥「そうだね。静かで、暖かくて……とても落ち着く」
飛鳥「緩やかに流れゆく刻に身を任せるのも、たまには悪くない。怠惰は罪とは限らないというのが、ボクの持論さ」
P「…………」
飛鳥「どうかした?」
P「頬杖ついている飛鳥を見てたら、肌が柔らかそうだなと思った」
飛鳥「今日のキミはアレだな。いつもより本能に生きている」
P「飛鳥とふたりきりだから、いろいろと緩んでいるのかもしれない」
飛鳥「喜ぶべきか判断に迷うところだ」
P「あとこたつの魔力のせいかもしれない」
飛鳥「きっとそれだ。ともかく、そういう発言を梨沙とかの前ではしないことだね。セクハラロリコン罪で訴えられる」
P「はは、だろうな」
飛鳥「あと、心さんの前でも控えたほうがいいな。若さへの嫉妬が待っている」
P「だろうな」
飛鳥「目が笑っていないね、P」
飛鳥「そういえば、実家からみかんが送られてきたんだ。おすそわけするよ」
P「おっ、ありがとう。さすが静岡出身だな」
飛鳥「こたつといえばみかんだからね。ちょうどいいタイミングだった」
P「こたつ、みかんとくれば、あとは」
飛鳥「日本茶はノーサンキューだ」
P「エスパーか、君は」
飛鳥「お茶は苦手だからね。ボクはコーヒーでいい」
P「みかんとコーヒー、絶対合わないだろう」
飛鳥「それは固定観念というものさ。まあボクも合わないと思うけど」
P「おい」
飛鳥「こたつで身体の外側をあたためた後は、温かいコーヒーを飲んで身体の内側に熱を与える。贅沢だけど心地よいね」
P「結局コーヒー淹れるんだな」
飛鳥「みかんは後で堪能するよ」
P「なら、俺のぶんも淹れてくれないか?」
飛鳥「なんだ、キミもコーヒーの気分なのか」
P「せっかくふたりきりなんだし、一緒に飲むのもありかと思って」
飛鳥「フフ、そうか。なら、しばしお待ちを」
飛鳥「おまたせ。コーヒー、淹れてきたよ」
P「ありがとう。いただくよ」
飛鳥「うん」
P「まずは砂糖を一杯」サッ
飛鳥「一杯」サッ
P「そして飲む」
飛鳥「飲む」
P「うん、おいしい」
飛鳥「うん、苦い」
P「一緒に飲むからって砂糖の量まで同じにしなくてもいいのに」ハハ
飛鳥「その通りだ」サッサッ
飛鳥「……ただ。いつか、キミと同じ分量で味わいたいものだ」
P「どうして」
飛鳥「さぁね。乙女心ってヤツじゃないかい?」
P「みかん、ごちそうさま。おいしかったよ」
飛鳥「どういたしまして。残りは他の子にあげよう」
P「にしても、飛鳥は皮剥くのうまかったな」
飛鳥「それはそうさ。幼い頃から手慣れているからね」
P「手先の器用さはそうやって培われたのか」
飛鳥「それは関係ないと思うけど……まあいいか。おやつも食べたし、ボクは冬休みの宿題でもやろう」
P「真面目だな」
飛鳥「学校での成績が悪くなると、キミがボクの親に怒られるだろうからね。それは避けたい」
P「飛鳥……よし、俺も手伝おう!」
飛鳥「いや、べつにひとりで解けるから問題ない」
P「そう言わずに、ちょっと見せてくれ」ズイズイ
飛鳥「そこまで言うなら……数学、やってみる?」
P「任せてくれ。えっと、図形の問題か」
飛鳥「そう」
P「…………」
飛鳥「…………」
P「あれ、中学生の数学ってこんなに難しかったか……?」
飛鳥「オジサンみたいなことを言うね、キミ」
P「お、オジサン……待ってくれ、もう少しだけ考えさせて」
飛鳥「それはいいけど……ちょっと、顔が近い」
P「あっ、ごめん! つい熱中してしまって……」
飛鳥「ヒゲがボクの頬に刺さるくらい近かった」
P「ちゃんと剃ってるからそれはない」
飛鳥「バレたか」フフ
P「ちゃんと毎日丁寧にシェーバーをかけてるから」
飛鳥「ふうん」サワサワジョリジョリ
飛鳥「…………」サワサワジョリジョリ
飛鳥「面白い感触だ。ぷちぷちの中毒感と似たものを感じる」
P「こらこら、人の顔で遊ぶな」
飛鳥「今日はこんなものでいいかな」
P「勉強終わったのか。お疲れ様」
飛鳥「ありがとう。さて、次は何をしようか」
P「そうだな……もうすぐ今年も終わりだし、これまでの日々を振り返ってみるなんてどうだ」
飛鳥「ボクが生まれたのは静岡の産婦人科だった。3203グラムの元気な赤ん坊で」
P「生い立ちから話すのはさすがに長すぎないか?」
飛鳥「ジョークさ」
飛鳥「この一年の振り返り、か。数えきれない思い出があるのに、終わってみればあっという間な日々だった」
P「それだけ毎日が忙しかったってことじゃないか?」
飛鳥「違いない。だからこそ、今この時のような静寂を愛おしく思うのだろうね。キミと過ごす、憩いの時間を」
P「……スケジュール、詰め込みすぎちゃった日もあったよな。ごめん」
飛鳥「謝る必要はないよ。静と動は表裏一体。どちらが欠けても意味を成さないものだ」
飛鳥「なにより、キミはボクにたくさんのものを見せてくれた。様々な仕事を通して、ボク自身が知りえなかった可能性までも示してくれた。それは、とても価値あることだ」
P「……そう思ってもらえるなら、本当に光栄なことだよ」
飛鳥「また、季節をともに巡ろう。春は桜を眺めて、夏は夜空を見上げて、秋は紅葉に思いを馳せて」
飛鳥「そして次の冬も、こうしてこたつで語りあおう。その日が来るのを、ボクは心待ちにしている」
P「……うん。俺もだ」
飛鳥「その時は、きっと。もっと……」
飛鳥「……いや。その先を口にするのは、野暮かな」
P「そこで止められると、気になるな」
飛鳥「そう言わないでくれ。今は理解らずとも、いずれはキミも答えを知ることになるんだから」
P「?」
飛鳥「これから、キミとボクとで創り上げる未来さ」
帰り道
P「やっぱり外は寒いなー」
飛鳥「手袋とマフラーが手放せないね」
P「冬は辛いなぁ」
飛鳥「まったくだ。けど、夜空が透き通っているのはいいところだね」
P「夜空? おー、本当だ。オリオン座がよく見える」
飛鳥「キミ、星座に詳しいの?」
P「いや、オリオン座以外はどれがどれだか」
飛鳥「フフ、そうか」
P「飛鳥は詳しいのか?」
飛鳥「詳しいというほどではないけど、関心はある」
飛鳥「星は天然モノだけど、そこから星々を繋ぎ合わせて星座を創り上げたのは人間だ。何千年も昔に生きていた人々も、ボクらと同じ空を見上げていた。彼らの思想が、願いが、あの星座たちに秘められているのさ」
P「なんだか、ロマンチックだな」
飛鳥「キミもそう思うだろう?」
P「時間があれば、少しだけ勉強してみるよ」
飛鳥「うん、それがいい」
P「星か……俺もいつか、飛鳥達をスターアイドルに育て上げないとな」
飛鳥「ボクらを、夜空に輝く星にしてみせると?」
P「それくらいの存在にしたいと思っているよ」
飛鳥「そうか」
飛鳥「……太陽に近づきたイカロスは、己の翼を溶かされ地に堕ちた。ボクの翼は、いつまでもつだろうか」
P「もし翼が溶けてしまったら、落ちる前に生やせばいいさ」
飛鳥「スパルタだな、キミは……まあ、頼んだよ。ボクの飛翔が、短命でないことを祈っている」
P「10年以上はもたせるようにしないとな」
飛鳥「それはまた、先の長い話だ」
P「10年なんてあっという間だぞ?」
飛鳥「それはキミが年寄りだからじゃないか?」
P「そこまで年は食ってない! 飛鳥も言うようになったなぁ」
飛鳥「生意気なのは昔から変わってないだろう?」
P「それ、本人が言うことか……?」
飛鳥「確かに……なら、そうだな。たまには、殊勝な言葉でも」
P「ん?」
飛鳥「少し早いけれど……一年間、お世話になりました。来年もよろしくお願いします」ニコ
P「…………」
P「飛鳥に敬語を使われるの、すごい違和感あるな……」
飛鳥「やっぱりキミの前では絶対に生意気でい続けてやる」
P「ははは」
飛鳥「次のバレンタインで渡すチョコのグレードがダウンした」
P「いや、それは困る。楽しみにしてるのに」
飛鳥「そう思うなら、名誉挽回してみせることだ」
P「何をすればいいんだ?」
飛鳥「そうだな。まず手始めに、初詣を一緒に――」
おしまい
おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
飛鳥とこたつに入りたい
おっつおつ
今年一年(何本お世話になったか知らないですが)ありがとうございました。
しーぶいつーさんもよいお年を
おつ
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