夢現の愚か者 (7)
ん、此処は何処だ?
……あぁ、私は旅に出ていたのだったな。
そう、旅に出たのだ。
何処かへ行きたくて旅には出たが、困ったことに行きたい場所がない。
よし、まずは目的地を決めることにしよう。
この森を抜けて山を越えるか、この先にある川を渡るか……
いやいや、目的とはそうそう簡単に決めるものではない。
じっくり考えた後で、今日はこの森で寝ることにしよう。
旅とはいえ無理に行き先を決める必要はないのだ。
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考えるのも面倒になり横になると、私の目の前を鼠が横切った。
とても急いでいる様子、あの鼠にも目的地はあるのだろうか?
そうだ、目的地は鼠にしよう。
あの鼠が向かう先を、私の目的地にしようじゃないか。
幾ら悩み抜いても出て来なかったものが、たかが鼠の現れによって生じるとは面白いものだ。
目的と厄介者は意外と簡単に見付かるらしいことが分かった。
どうしたものか。
森を抜けたところまでは追い掛けることが出来たが、見失ってしまった。
しかし、山火事に巻き込まれずに済んだのは幸運と言うべきだろう。
何が火元なのかは分からないが、鼠に気を取られて焚き火の始末をするのを忘れてしまった。
今から戻って始末しようにも、あの大火だ。あれに向かえば、あっという間に消し炭だ。
薪を一つくべるようなものだ。
とにかく、あの森には戻らない方が良いだろう。
私は再び当てもなく歩き出した。歩きながら、先の鼠を考えた。
礼を言おうにも居場所が分からない。また横になれば現れるだろうか?
そうだ、あの鼠の足跡を捜してみよう。
鼠は火事の予兆を察知すると言うが、どうやら本当のことらしい。
鼠の足跡を捜していると、火がそこまで迫っていることに気が付いた。
物事に熱中するのは大変良いことだが、熱中するにも限度があるようだ。
あの鼠のせいで、とんでもない目に遭った。次に会ったらどうしてくれようか。
窮鼠は猫を噛むと言うが、あの鼠は至って健康であったし、私は猫ではない。
物思いに耽っていると、周囲の熱気が高まってきた。
どうやら、火が迫っているのを忘れていたらしい。
私は慌てて走りだした。
火に追いかけ回されて疲労困憊だ。
まったく、あの鼠のせいでとんでもない一日になってしまった。
こんなことになるなら、あのまま森で一夜を明かした方が良かった。
しかしながら、火事とは大変恐ろしいものだ。
今後何があるとも分からない、今日は川辺で眠るとしよう。
そう思って横になったのだが、目の前で魚が跳ねた。
散々走り回って腹が減っている。晩飯はあの魚にしよう。
しかし、魚を捕まえる道具がない。
何もしなければ、あの魚が逃げることもないはずだ。
どうやって捕まえるかを考えながら、今日は眠るとしよう。
期待
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