強盗「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
強盗「ここまで来れば、もう安心なはずだ」
強盗「とりあえず、一休みするか……。お、ちょうどいいところに自販機があるじゃねえか」
≪あったか~い≫ ≪つめた~い≫
チャリンチャリン…
強盗「こんだけ走った上カイロ持っててもまだ寒いからな……温かいのを」ポチッ
強盗「ん?」ポチッポチッ
強盗「なんも出てこねえじゃねえか、この自販機!」
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ウーウー… ウーウー…
強盗「やっべ! 警察来た!」
強盗(どこかに隠れないと! ――ん!?)
ギィィ…
強盗(……この自販機、中身空なのか! どうりでなにも出てこないわけだ!)
強盗(よし、この中に隠れよう!)
バタンッ!
強盗(どうやら行ったみてえだな……)
強盗「よし、出るか」グッ
強盗「……!?」
強盗「くっ! くっ!」グッグッ…
強盗「で、出れない……!?」
強盗「やべえ……やべえぞ! どうすりゃいいんだよ!」
強盗「自販機の中に閉じ込められたなんてシャレに――」
強盗(誰か来た!)
強盗(閉じ込められるのはまずいが、隠れてるのがバレるのはもっとまずい!)
強盗(なんとかやり過ごすしかない……!)
強盗(ん? ここにある小さな隙間から、うっすら外を覗けるが――来たのは女か)
女「あら、自販機。こんな時は温かい飲み物を……」チャリンッ
女「えいっ、えいっ」ポチッポチッ
女「あらぁ……?」
~
強盗(いくら押しても飲み物なんか出てこねえよ!)
強盗(この自販機は空っぽ……それどころか中身は強盗なんだからな!)
女「このっ、このっ!」ポチッポチッ
~
強盗(いくら押しても無駄だって)
強盗(なかなか粘るな……もう諦めてとっとと帰れよなぁ)
女「うっ、うっ……」
女「うわぁ~~~~~ん!」
女「そうなんだわ! 私はやっぱり自販機にも嫌われてるんだわぁ~~~~!」
~
強盗「!?」ギョッ
強盗(なんだこの女!? いきなり泣き出しやがった!)
友達自販機
女「あの人……こっちは散々尽くしたのに、遊んでただけって……愛なんかなかったって……」
女「あんなの……ひどすぎる……」
女「うえっ、うっ、うううっ……!」
女「私……もう生きてけない……」ヒック…
~
強盗「……」
ボトッ
女「?」
女「下にある取り出し口から何か出てきた……」
女「これは……ホッカイロ?」
女「あったかい……あたたかいわ……」ホカホカ…
女「ありがとう……自販機さん……」
~
強盗(ケッ、おかげでこっちはすっかり寒くなっちまったぜ!)
強盗(ま、泣いてる女を放っておくわけにもいくまいよ)
強盗「さて、あの女はどこか行ったみたいだし……今度こそ!」グッ
強盗「くっ! ……ぐっ!」グッグッ
強盗(くそぉ~、開きそうで開かねえ! もう少しなんだろうけどなぁ……どこか引っかかって……)
強盗「!」ピクッ
強盗(やべっ、また誰か来た!)
強盗(今度の客は……おっさんか! なんか酔っぱらってやがるなぁ……)
中年男「ウイ~……」
中年男「会社リストラされて昼間から散歩しながらビール……終わってんなぁ俺……」
中年男「でもそれでいいのだぁ~!」チャリンチャリン
中年男「おーい、自販機! ビール出してくれ、ビール!」ポチッポチッ
~
強盗(ビールだぁ!? ナメてんじゃねえぞ!)
強盗(こっちだってすぐ自販機脱出して安全なとこまで逃げてビール飲みたいんだよ!)
強盗「……う!?」モジ…
中年男「ビール♪ ビール♪ ビールを出してちょ~らいなぁ~♪」
中年男「神様、仏様、自販機様~♪」
~
強盗(まずい……もよおしてきた!)モジモジ…
強盗(スーパーで店員脅して強盗してから、トイレ行くヒマなんかなかったもんなぁ)モジ…
強盗(しかもおっさんのヘタクソな歌が、余計尿意を刺激する!)モジモジ…
中年男「ビール出してよぉ~~~~~ん!」ポチポチポチポチポチ
~
強盗(うるせえええええっ……!)
強盗(そんなに出して欲しいなら、出してやる!)
強盗(下の方にあるこの取り出し口から……)ジョロロロロロロ…
強盗(あぁ~……ぎもぢいい……)ジョロロロロロロ…
ジョロロロロロロ…
中年男「お、黄色い液体が出てきた出てきた……」
中年男「自販機の神様、どうもありがとぉ~♪」グビグビッ
中年男「……!」
中年男「ぶはぁぁぁぁぁっ!!!」
~
強盗(そりゃこうなるわな)
中年男「まっず……」
中年男「自販機の神様……なんつービールを出してくれたんだ……」
中年男「おかげで俺は目が覚めたよ!」
中年男「昼間からビール飲んでる場合じゃない! 仕事探さないと!」シャキンッ
中年男「うおおおおおおおっ!」タタタタタッ
~
強盗(よく分からんが、俺の小便も捨てたもんじゃないんだな)
強盗(……って、また誰か来やがった! 今度は……二人組か!?)
不良「テスト勉強したかぁ?」
不良女「するわけないじゃん。アンタは~?」
不良「するわけねえだろ?」
不良女「だけど今度のテストでもオール赤点だったら、あたしら留年確定だよ?」
不良「いんじゃね? 二人揃って留年しようぜ~!」
不良女「だね~、いざとなったら中退しちゃえばいいし!」
~
強盗(なにが中退しちゃえばいい、だ)
強盗(お前らの学費出してる親のことも考えやがれ!)
強盗(俺でさえ高校卒業するまではわりとマトモだったんだから……)
不良「おい、こんなとこに見覚えのない自販機があるぜ」
不良女「ホントだ~? ボタン二つしかないけどなにか買う?」
不良「買うまでもねえよ。こういうのは……」
~
強盗(そうそう、金入れてももう小便も出せないから、さっさと失せろ!)
不良「蹴ればなにかしら出てくるもんよ!」ドカッ
不良女「やだ、ウケる~!」
不良「オラァッ! オラァッ! オリャアッ!」
ドゴッ! ドカッ! ドカァッ!
不良女「もっと強く蹴らないと~!」
不良「おう!」
~
グラグラ… グラグラ…
強盗(こ、このクソガキども! なに考えてやがる!)
強盗(もう怒った!)
強盗「ゴラァァァァァッ!!!」
強盗「いてえだろうが、クソガキどもォォォォォ!!!」
強盗「とっとと帰って勉強しねえと、自販機ん中閉じ込めちまうぞォォォォォ!!!」
~
不良女「きゃあああっ! 自販機がっ!」
不良「ひええええっ! しゃべったっ!」
不良「べ、勉強しようぜ!」
不良女「うん!」
不良&不良女「失礼しましったぁぁぁぁぁっ!!!」タタタタタタタッ
強盗(ったくぅ~……)
強盗(――ん?)
~
幼女「ねえねえ! さっき、じはんきさん、しゃべったよね!」
幼女「しゃべってたよね!?」
強盗(子供か……)
強盗(怒鳴りつけて追い払ってもいいが、なぜかそんな気分にもならねえ)
強盗「ああ……しゃべってたよ」
~
幼女「やっぱり!」
幼女「ねえねえ、じはんきさん。おうたをうたってちょうだいな!」
強盗「……」
強盗「いいよ」
~
幼女「わーいっ! やったーっ!」
強盗「ぞ~うさん、ぞ~うさん、お~はながながいのね♪」
強盗「もしもし亀よ、亀さんよ~♪」
強盗「真っ赤なお鼻の~、トナカイさんは~♪」
~
幼女「キャハハ、おもしろい! おうたおじょうず~!」パチパチパチ
母「なにやってるの!? 勝手に走り回らないの!」
幼女「あ、ママだ!」
幼女「じはんきさん、どうもありがと~!」トテトテ…
~
強盗「バイバイ……」
強盗「……」
強盗(ったく、なんで……歌なんか歌っちゃったんだろうな)
強盗(俺は高校出てからやることなすこと上手くいかず)
強盗(らしくもなく他人に親切したら詐欺にあうわ、ヤバイ商売に巻き込まれるわで……)
強盗(俺は、自分が社会から見捨てられたと思って、ヤケクソになって、強盗をやった……)
強盗(だけど……)
強盗(女を励ましたり、おっさんの目ぇ覚まさせたり、不良どもを叱りつけたり、歌って拍手されたり)
強盗(こんな俺でも、たまには役に立つことができるんだな……)
強盗(なんか……ちょっと嬉しいぜ。俺だってまだまだ捨てたもんじゃない)
ギィィ…
強盗「お……!?」
強盗「自販機が勝手に開いた……」
強盗「……」
強盗「そういや、この自販機って結局なんの自販機だったんだ?」
強盗「どこかに書いてないか……」キョロキョロ
強盗「お、あったあった。目立たないところにラベルが貼ってやがる。これじゃ分かんねーよ」
≪心の自販機≫
強盗「ぶはっ!」
強盗「な~るほど!」
強盗「俺は≪あったか~い≫を押したから、心があったまることができたってわけかい!」
強盗「まったく冗談みたいな話だ!」
強盗「おっと、そろそろ日が暮れる。一度決心したら、とっととやった方がいいな」
強盗「さぁ~て、自首しに行くかぁ~!」
― 終 ―
世にも奇妙な物語っぽかったな…
おっさんの件はきっと放送コードすれすれだろうが…
乙
面白かった
乙
つめたーいを選んでたらどうなったんだろう
乙
イイジハンキダナー
面白かった
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