【FGO】マシュ「協会からの、査察……ですか?」【レンタルマギカ】 (37)

レンタルマギカのクロスと称して主に魔神柱について振り返ったり振り返らなかったりするSSです。

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 人理修復を果たしたカルデアに、一本の連絡が入る。

「協会からの、査察……ですか?」

 内容を受けてマシュ・キリエライトの声には僅かばかりの不安が混じっていた。

「ああ。世界がやっとこさ元に戻ったばっかりで、まだ魔術協会も混乱してるものだと思っていたんだけどねぇ」

 ダ・ヴィンチちゃんも、口調こそいつもと変わらないものの戸惑いを隠せないようだ。
 人理継続保証期間カルデアは、魔術王を名乗るモノを倒し、焼却された歴史を元に戻したばかりである。
 1年間、消失していた世界が元に戻ったということで、どこもかしこも大慌てである。
 一方で、消失した1年を知るこのカルデアは外部からの手が入ることが予想されていた。

「まぁ、魔術協会の人間が直接来るわけじゃないみたいだけどね。あくまで先遣隊と言うか、前座の前座ってとこかな」

「……どういうことですか?」

「どうにも、さてどう動くかと決めかねている協会で、さる魔術結社の首領が手を挙げたらしい。
 そしてその上げた手をそのままぐいと隙間に突っ込んだとか」

「では、その結社の方がいらっしゃる、と」

「そそそ。だから横合いから殴られた気分で、協会側も難色を示しているとかななんとか。
 外と連絡とってるスタッフからのまた聞きだけどね」

「しかし……いったいなぜそこまでして」

「その魔術結社の由来が由来だからね。一番早く動けたんだろうし、一番早く動きたいんだろう。なにしろ――」

 そこに一人の少年が駆けつける。
 世界を救った立役者。
 多くの英霊と絆を結び、最後まで戦った少年。

「――すんません!遅れました」

「おはようございます。先輩」

「ちょうどよかった。これからカルデアに来る魔術結社と、その首領の話をしようと思っていたところでね?」

「へ?」

「カルデアに査察に来る結社の名は〈ゲーティア〉。首領アディリシア・レン・メイザース率いる、ソロモン王の魔術に特化した魔術集団だ」

ssじゃなかったら三田がまた無理やりねじ込んで来たんだろうなぁと思って素面で見れないだろうから期待

「"王の魔術"と言えば悪魔を派手に喚起・使役することを思い浮かべるだろうが、それは一側面に過ぎない」

 これは、ある日の話。
 諸葛孔明――少年に対し講義をする今は「ロード・エルメロイⅡ世」と言った方が正しいか。
 人理焼却を企むのが、魔神と、それらを封印した王を名乗る者であると判明してから、注釈程度に彼は語った。

「かつて彼の王が振るったのは、俗な悪魔と言う分かりやすいカタチではなく、
 用途別に生み出された72の術式だという話はドクターから聞いたな?」

「あー、聞いたような」

「世間一般で悪魔と称されたそれらは、本来は神殿にて崇拝された諸地域の神々であったとされる。
 術式として体系化する際に、変質したんだろうと予測できるが……。
 マスター、72柱の魔神について記された魔導書の名を知っているかな?」

「えっと……ゲームか何かで聞いた、待って……あ、そうだ〈ゲーティア〉だ!バルバトス!ゲーティア!」

「私も初見でとんでもない名前だと思わず突っ込んだ記憶があるが……ひとまずはそれで正解だ」

「ひとまず?」

「72柱の魔神について納められたのがゲーティア。しかし、これは全五部からなる魔導書"レメゲトン"の一冊に過ぎない。
 レメゲトンの内、ゲーティアのほかには天使など善なる精霊について書かれたものや、黄道十二宮について記されたものがある。
 あるいは、魔神を支配する惑星から力を汲み取って行使する護符魔術などもな。
 それらすべての術を含めて、「王の魔術」と称するのが本来は正しいのだがね」

「魔術王の名前は伊達じゃないってことか……」

「彼の王が残した多くの書物により、体系化された魔術が生まれた……もっとも、現代に伝わるソレと原典には大きな隔たりがある。

 ――改めて問うぞ、マスター。ここまで踏まえたうえで、大英図書館にも保存されている魔導書であるゲーティアを執筆したのは誰か?」

「? ソロモン王じゃないのか?」

「原典はな。少々意地の悪い問いかけだったが、王が執筆したとされるゲーティアは現代には存在しない。
 あれば、それこそ宝具クラスだろうな。大英図書館に代わりにあるのは、
 彼の王に迫ろうとした魔術師向けに"翻訳"されたものだ。そこには省略と最適化が含まれていて当然だ。
 悪魔の印章も、英語やラテン語が含まれていることからもわかる通り、"翻訳"された時代向けにアレンジされたものだろう」

「あー、そっくりそのまま言葉のニュアンスが伝えるわけないよな。洋画とかでも地の利を得たりネビュラ星雲するわけだし」

「もっとマシな例があるだろ。……ともかく、王の血を継いだ家系などは原典に近い知識を持っているだろうが、
 それでも欠落は避けられない。有名どころではメイザース家だな。そのまま〈ゲーティア〉の名で魔術結社をまとめている。
 表向きに有名な血筋のものだと、サミュエル・リドル・メイザース。分かりやすく言えばマグレガ-・メイザースか。
 レメゲトンを翻訳した一人だが……その辺は、ブラヴァツキー夫人の方がよく知っているだろうな」

「……へー」

「……ついてきてるかね?」

「なんとか。学校の勉強よりは面白いんで」

 もっとも、この時は、少年は知る由も無かった。
 人理焼却を企む敵の首魁が、まさか"そのもの"だったなんて。

レンタルマギカとか俺得

「どうぞ。お茶です――先輩も」

「どうも。いただきますわ」

「ありがとな、マシュ」

 マシュ・キリエライトの淹れた紅茶を飲むのは少年と、それに相対する少女。
 金髪に碧の瞳。漆黒のローブに身を包んだ〈ゲーティア〉の首領。

「改めまして、自己紹介させていただきます。
 このたび、協会よりカルデア査察の任を受けてまいりました、〈ゲーティア〉の首領、アディリシア・レン・メイザースですわ」

「どうも……それで、査察ってのはどういうことをなさるんで?」

 すでに状況を理解しているカルデア最後のマスターは、緊張した面持ちで訪ねる。
 まだカルデアに残っているサーヴァントたちは、代わりに相手をしようか?と声をかけてきてくれたものもいたが、
 〈ゲーティア〉側からの指名もあり、こうして直接話をすることになってしまった。
 傍にマシュが控えているものの、マスター共々腹芸は得意ではない。
 スタッフも色々と手を尽くそうとしてくれたみたいだが……なにしろ急な来訪であったため、対応は追いついていない。
 だれもが警戒や不安といった感情を抱きながら見守っている状況だ。

「ご存知の通り、今回の査察は強引にねじ込んだようなものです。
 正式にこの施設や状況に関する調査はまた協会が態勢を整えたのちに来るでしょう。
 私の目的は、あくまで個人的なもの……査察の結果の報告は一応体裁を整えて提出しますけれど」

「個人的な目的……」

「貴方たちは彼の王がかつて使役した魔神と戦ったのでしょう?
 そこを詳しく聞かせていただきたいのです」

「……そういうことか」

 うすうす予想は付いていた。
 ソロモン王の魔術を用いる集団にとって、実際にその御業のオリジナルを目にしたというのならば調査をせずにはいられない。
 ただ、事を急いだ理由としては少し弱い気もしたが。

「人理の焼却と修復に関する、大まかな報告は私も確認いたしました。
 7つ時代の特異点。それらに呼応する魔神たち……」

「正確には、全部の特異点で魔神柱と戦ったわけではないけど……」

「結局、最終特異点では、全ての魔神……魔神柱と戦ったのでしょう?それらも含めて、貴方の観測した結果を教えていただきますわ」

「魔神柱たちと戦ったのも、俺自身じゃないしな……ほとんどが、それまで戦ってきた英霊たちが、あの場で俺に力を貸してくれたんだ」

「御託はいいのです。なんなら、実際に戦ったというサーヴァントがいれば、彼らからも話を聞きたいところですが……
 まずはすべてを見届けた人類最後のマスターである、貴方から話を聞かせていただきます」

「はいはい、っと……最初に戦った魔神柱は……あー、いきなり思い出としては強烈だな」

 思い出すことが苦痛、とまではいかずとも"彼"の所業を思えば苦い表情になるのは避けられない。
 僅かにためらったところで、代わりに声を出したのはマシュだった。

「魔神柱フラウロス。……かつてこのカルデアの顧問をしていたレフ・ライノールの正体でした」

「……グランドオーダーは、ある意味、あの人から始まったんだよな」

「レフ・ライノール・フラウロス……その名を耳にしてはいましたが、まさか"本人"だったとは――」

 いくら"ソロモン王の魔術"に詳しくとも想像できるわけがないだろう。
 例えばキング・オブ・ポップと大天使の名前が同じだからと言って、同一視する人間がどれだけいるだろうか?

「フラウロス……あるいはハウレス。ソロモン王の魔神の名は、魔導書ごとで微々たる部分に違う事がありますけれど――
 そう名乗った魔神柱が貴方たちにとっての転機と言うのならば、これ以上の皮肉はありませんわ」

「?」

「いえ、こちらの話です。私にとっても、その魔神を扱うことが得意な魔術師が、
 少々思い出に残っているというだけの話ですわ。
 話を戻しましょう。
 ――序列64位、フラウロス。赤き炎の豹。36の軍団を従える侯爵……。
 過去、現在、未来を見通しそれらについて真実の答えを授けます。
 もっとも、三角形の中でなければあらゆることに嘘をつき、偽りを述べますが」

「ゲーティア……っていうか、ソロモン王は過去と未来を見通す千里眼を持っていたけど……」

「ひょっとすると、王が持っていた力を術式として再現して付与したのかもしれませんわね。
 ああ、そういえばカルデアにくる以前、ミスタ・ライノールは過去と未来と、現在に干渉する研究をしていたとか。
 もっとも、ある時期から近未来観測レンズ「シバ」の研究一本に絞られたそうですけれども」

「……なんだかんだでマシュの事も気にかけてたみたい……なんだよな。
 アイツの事、許しはしないし、結論も変わらないだろうけど、
 もう少しだけレフ教授とは喋ってみたかった、かもな。
 マシュはどうだ?」

「あの人とは……いえ、なんでもありません。夢の事など話しても仕方のないことです」

「第三特異点、海と孤島の世界に現れた魔神柱は、報告書によればフォルネウス、だとか?」

「ああ、そうそう。あん時はイアソンが確か無理矢理魔神柱に変えられたんだっけか。
 アレもろくでもない奴だったけど、一瞬だけ同情したかな」

「――序列30位、大いなる海の怪物として現れます。姿は時々や魔導書によってまちまちですが、
 修辞学や言語に関する知識と、名声を与える魔神ですわ。
 私が最も使役を得意とする魔神でもあります」

「名声、か……王になりたかったイアソンにとっては、ある意味ドンピシャだったのかもしれないな。
 しかし……ソロモン王の魔術が得意だって聞いてたけど、やっぱ召喚とかできるのか」

「ええ、当然ですわ。王の魔術の極地はソコにありますから。
 もっとも、その姿は先にも伝えた伝承通り。夥しい眼球の付いた肉の柱などではありませんけれども」

「実際ソッチの姿も見てみてえなぁ。いかにも悪魔って感じの。」

「所謂"悪魔"と術式として使役する魔神は別物ですが……でしたら、ご覧になりますか?」

「あん?」

「こちらも噂に聞く英霊とやらの実力を、一度確認しておきたいですし……」

「ミス・メイザース。流石にそれは危険かと……」

「英霊ってみんな強いしなぁ……キャスタークラスあたりなら、加減とかしてくれるかもしれないけど」

「神秘もあまり高くなく、戦闘に関して常識があるキャスタークラスなどなら……」

「……エジソン?」

「流石にそれはちょっと待っていただきますか?」

 仕方がないと、諦めようとしたときドアが開く。

「おう、坊主。邪魔するぜ」

「あ、クー・フーリン……キャスターの」

「クー・フーリン……アイルランドの光の御子」

「ほう、流石に知ってるか。いやさ、ちょいと腕試しをしてみたいって話が聞こえてきてな」

「いや、だから――」

「槍なし、ルーン無しの俺がドルイドとして戦ってやる。そんぐらいハンデがありゃ、大丈夫だろ?」

「どうだろうか、マシュ?」

「どう、と言われても……」

「――ケルトの大英雄に、そこまで誘われてしまっては断るのも無礼と言うものでしょう?
 ご安心を。こう見えても多少の修羅場はくぐっているつもりですわ」

「うーん、お互いに了承してんなら俺に止める権利は無いなぁ」

「先輩……わかりました。じゃあトレーニングルームの使用許可をとってきますので、皆さんは先に向かっていてください」

 ――トレーニングルーム

「多少は暴れても大丈夫なようにできてる、んだったっけ?」

「なるほど。呪波汚染の対策もしてあるようですわね」

「ああ。元はここまでじゃなかったんだが、俺たちキャスタークラスが暇つぶし……
 というか血気盛んな連中の暇つぶし用にちょっと細工をしてな。
 神霊手前の連中がちょっと暴れたぐらいじゃなんともないぜ」

 間もなく、マシュも駆けつける。

「先輩。許可取ってきました。大丈夫だそうです」

「よーし、じゃあ。互いに構えて、はじめ!」

 掛け声を聞くと同時に、アディリシアは真鍮の壺を取り出し、呪文を唱え始める。

「……I do strongly command thee, by Beralanensis,Baldchiensis,――
 来たれフォルネウス!二十九の軍団を支配する侯爵!」

「へぇ、あれがフォルネウスか。如何にも悪魔っていうか化け物ってか。
 キマイラとか、特異点に出てくるエネミーたちみたいだな」

「はい。確かに伝承通りの銀色の……サメのような姿をしています。
 完全に霊体で構成されている使い魔ですね。クー・フーリンさんに向かっていきます!」

「うおっと、喚起から即攻撃とは、気前がいいなぁお嬢ちゃん!さぁて、ドルイド式の闘い方っつーと……
     ハ イ ル
 ――我は命ずる!」

 クー・フーリンはどこからともなくヤドリギを取り出し、投擲する。
 それはまるで意志あるかのように、フォルネウスへと向かっていった。

「フォルネウス!」

 だが、アディリシアが一声かけるだけで魔神はその軌道を見切り、躱す。

「ほほう?慣れないなりに本気を出したつもりだったが、どうやら甘く見ていたらしいな」

「生憎と、その手合いは慣れておりますので……」

 クー・フーリンは、続けて幾度かヤドリギの矢を投擲するも、フォルネウスは器用によける。
                             ハ イ ル
「なるほど、まだまだイケるってことかよ!――我は命ずる!」

 同時に繰り出したヤドリギの数は十。すべてが異なる軌道を描き、物理的にフォルネウスが対処しきれない角度から迫る。

「――来たれサブナック。五十の軍団を統治する、強壮なる大侯爵!」

 次に現れたのは獅子の頭部をもつ、白銀の武具を身にまとった戦士。
 不可視の壁を作り出し、飛来するヤドリギを全て弾く。

「――来たれフールフール。二十六の軍団を従える、偉大なる侯爵!」

 更に現れたのは炎の尾を持つ、真紅の牡鹿。
 激しい雷鳴がクー・フーリンを襲う。

「はっ!」

 投げられたのは石に穴を穿った円石(サークルストーン)。
 張られた簡易結界が、稲妻を退ける。

(なるほどな。人間の魔術師としては天才ってレベルではあるが……
 こんなもんか――ッ!?)

 雷光が収まった刹那、クー・フーリンの視界に飛び込んできたのは巨大な剣であった。

「我は定義する――」

 魔神を新たに喚起した気配は無かった。
 それもそのはず。すでにその魔神は最初からそこに居たのだから。

「すなわち、我こそは至高の刃なり!」

 アディリシアの腕はその身の数倍はあろうという大剣となっていた。
 だけでなく、その腕の途中から肩口まで鱗と毛に覆われていた。
 その剣が振り下ろされる。
 一瞬の衝撃。

「――つまり、俺の負けってわけだ。瞬間的で不安定とはいえ、英霊を超えるとはな」

「どの口がおっしゃいますの?これを私の勝利と言うのなら、屈辱以外の何物でもありませんわ」

 アディリシアは座り込んで、クー・フーリンが杖を突き付けている。

「えーっと、マシュ?思ってた以上にすごすぎて何が起こったかよく分かってないんだが、説明頼めるか?」

「はい……アディリシアさんの腕が剣になったのは、見えましたか?」

「それぐらいは。でも、そこに驚いて、気づいたらこうなってて……」

「アレは……魔神そのものでした。そもそもアディリシアさんは魔神と一体化していたようです」

「魔神と一体化って、それこそイアソンとかみたいな?」

「それとはまた別だと思います。詳しくはクー・フーリンさんに後で聞くのが良いかと。
 ただ、あの剣を防ぐのにクー・フーリンさんは――」

「悪ぃな。思わずルーンを使っちまった。だから俺の負けだ」

 咄嗟に懐から出した小石に刻まれていたのはアルギスのルーン。
 ヘラジカの角、庇護を象徴するルーンはその一文字で強力な防護をもたらす。

「最初にルーンは無し、っつったからな。
 ゲッシュでなかろうと、男が口にしたこと違えてたら価値が下がるってもんだ」

「だとしても、こんな勝ちなど拾えませんわ」

「横から口挟むけど、だったら引き分けでいいんじゃないか?
 クー・フーリンは負けたと思ってるし、アディリシアさんは勝ったと思ってない。
 なら引き分けで良いだろ?」

「無難だが、ま、妥当な落としどころだわな。お姫サマもそれで構わねぇか?」

「納得がいかない部分もありますが……意地を張っても仕方ありません」

「んじゃあ決まりだな。――しっかし、王の魔術とやらも随分な領域に来たもんだ。
 柱になったかと思えば、人の手で人を魔法そのものにするとはな。
 もうちょっとちゃんと使えるようになれば、槍の俺とも小競り合いぐらいはできるかもしれねぇな」

「お褒めにあずかり光栄ですわ。世辞としても、それだけの評をいただければ十分です」

 アディリシアの輪郭がブレて、雄牛や山羊の頭が肩に浮かぶように見える。

「つっても、短時間でも相当に無茶をしたみたいだな。ほれ、パナケアだ。
 その度胸に免じてくれてやる。使い方とかは、分かるだろ?」

「ええ。自前の呪物では少々心もとなかったところです。助かりますわ」

「ミス・メイザース。その、大丈夫ですか?なんならメディカルルームにでも」

「そこまでの心配は必要ありません。慣れていますので、自分で処置ぐらいできます。
 少し休憩をしたら、またお話を聞かせてくださいますか、カルデアのマスターさん?」

「はいはい、んじゃあちょっと休憩したら、特異点の話の続きをさせていただきますよ、っと」

「魔霧の街、ロンドンが第四特異点で、戦った魔神は……アレ?なんだっけ」

「……まぁ確かにあの時は魔神柱どころではない事態が続きましたからね」

「報告書によれば、バルバトス。とありますが……」

「もし2016年にガンダムのアニメが見れたらきっと有名になっていた気配がするんだよな、この魔神」

「何の話かよくわかりません」

「そうじゃなくても終局特異点であの時次元を超えて集まってくれた英霊たちが
 何故か気合入ってて真っ先に倒されて、なんか印象深い魔神柱なんだよな」

「やたら、素材がどうとか声が聞こえて来たりしましたね……」

「――序列8位、バルバトス。狩人や射手の姿をしてらわれる魔神ですが、能力は比較的温厚で動物の声を理解し、
 隠された財宝を見つけると言われています」

「動物……獣の声、か。あの魔霧計画の中心にいた魔術師は、英霊じゃなくてあの時代の人間だったんだよな。
 あの特異点で魔術王が出てきたのは、案外只の気まぐれじゃなかったのかもな」

「魔術王……我らが祖を名乗った者、ですか。
 彼の王の持つ指輪も、獣の声を聞くという伝説があります。
 動物行動学者がそんなタイトルの本を書いたので、有名かもしれませんが」

「俺がソロモンの名前を最初に聞いたのは宮部みゆきだけどな。読んでないけど」

「先輩。面白いミステリなので今度お貸しします」

「ありがと、マシュ。――ついでに、その時戦ったのはバルバトスだけじゃなかったな。
 4柱同時に襲ってきて……名乗ってないから全部は覚えてないけど、確か1柱はベリトっつってたか」

「――序列13位、ベレト。楽器を携え、青白い馬に乗った王。男女問わず愛を取り持つ魔神ですが……」

「獣のクラスは愛を知らないって触れ込みだってのに、皮肉な能力を持った魔神が居たもんだ」

「感情を自由にする魔神も多くいますわ。もっとも、人間の感情を自由にできることと、理解できることを
 同等に扱うのは愚の極みですけれども」

「アメリカ大陸横断はきつかったけど、俺の知らないとこで28柱と戦ってた皆は
 もっときつかったんだろうなっておもいました、まる」

「一番行動範囲が広かったのは確かですけれど、投げやりにならないでください。
 あの地で私たちが直接戦ったのは……クー・フーリンさんが変化したハルファスでした。
 もっとも、その時のクー・フーリンさんはオルタ化していましたが……」

「そのあたりの話も興味深いですが――序列38位、ハルファス。
 掠れた声で話す野鳩の姿で現れます。塔を建て、武具で満たし、武装した兵を戦地へ送る。
 マルファスとは混同され、能力も似通っていますが
 ハルファスの方がより戦に特化した魔神と言えるでしょう」

「あん時のクー・フーリンはマジで戦闘機械って感じだったからな。納得だ」

「全身にゲイ・ボルクの素材となったクリードの骨を纏っていました……
 冬木では助けてくれたクー・フーリンさんとまさか敵対することになるなんて、
 予想だにしませんでした」

「あら、人間も英雄も、敵味方がいつも一定しているとは限りませんわ。
 あらゆる事情で肩を並べることも刃を交わすことも、可能性はゼロではありません」

「まー、そうだな。次の特異点ではモードレッドが敵だったし」


「次は……エルサレムの地に作られたキャメロットが特異点だったそうですわね」

「それ以外はほとんど不毛な大地で、移動も大変だったけどな。
 あそこでは直接魔神柱とは戦ってないけど
 ――ああ、オジマンディアスがアモン・ラーになってたか」

「そこまでいくと、どちらかと言うと祖神回帰(プロトコールゴッド)みたいなものですわね。
 ――序列7位、アモン。蛇の尻尾をした狼、あるいは頭部は鳥類のようだともいわれ炎を吐く魔神ですわ。
 この魔神も過去と未来を見通し、不和と和解を司っています。
 しかし―― 一番語るべきは先述のアモン・ラーとの関係でしょう。
 72柱と語られる魔神の多くは、土地や外部の神々がとりこまれています。
 アモンも、エジプトの最高神であるアモン・ラーが変化したモノと考えるのが一般的ですわ」

「日本人としては名前だけは永井豪先生のおかげで有名だけどな」

「ですから、そういうネタをちょくちょく挟んでいくのやめましょう。分かりやすい人にはわかりやすいのかもしれませんが」

「不動明に憑依した方は名前だけで、それこそ魔神としてもエジプトの最高神としてもほとんど関係の無いものですわ」

「知ってるんですか」

「それは、ほら日本に居たときに、少々その辺の知識も」

「ああ、んなこともあったか」

「7つ目の特異点は、バビロニア。ここで魔神柱との戦いは……ありませんでしたね。
 それ以上に強大な存在との戦いがありましたが」

「ギルガメッシュもそうだし、イシュタルとかケツァルコアトルとかゴルゴーンとか
 敵も味方もそもそも神霊クラスのオンパレードだったからなぁ」

「おや、イシュタルともお会いになられたのですか?」

「まぁな。守銭奴でうっかり屋だったけど、結局は味方してくれて助かったな」

「守銭奴でうっかり屋……エーデルフェルトの知り合いにそんなのが居ると聞きましたが関係は無いでしょう……。
 イシュタルも、魔導書に魔神として記録された1柱ですわ。
 ――アスタロス。序列29位、竜にまたがり毒蛇を携えて現れる魔神です。
 あらゆる天使の堕天について詳細を知ります。
 イシュタルが原型ともされる魔神ですわね。
 女神たる姿とは大違いですから、一緒にするのは怒られてしまうかもしれませんけれども」

「アモンと同じか」

「おおまかには」

「その辺、ちょっと本人に聞いてみたい気もするな。……ウチのカルデアにはいないけどな!」

「ちょっと残念ですわね。ああ、そういえば先に言ったほかの神々はいらっしゃるのですか?」

「ケツァルコアトルもゴルゴーンも来てくれてないな。
 メドゥーサは二人ともいるし、姉二人もいるけれど」

「またクラス違い……しかしステンノとエウリュアレも居るわけですか。
 よくそれで呪波汚染が起きませんわね」


「時々出てくるけど、呪波汚染ってなんだ?」

「えーっと、魔術を使用した際の余波、とされています。
 直接その結果がもたらすものの良し悪しに関わらず周囲には影響が残ります。
 確かに、本来神霊など高位の存在を呼び出せば、ただそこに居るだけで
 人々や土地に多かれ少なかれ被害を与えるものです。
 しかし、守護英霊召喚システム・フェイトにおいては
 その問題点は解決されているようです」

「確かに、資料にはそう載っていましたけれど、肝心な点は秘匿事項となっていましたわ。
 そのシステム、保障はされていまして?」

「あー、考えたことなかったな。レフ教授が何か仕込んでたりして……」

「教授の専門はシバの方ですから、もし何かするとしてもシステムの中枢部分は門外漢であったかと」

「ま、もし何かあったとしてダ・ヴィンチちゃんやバベッジあたりが見逃すわけないよな。
 と、話しはずれたが、第七特異点じゃあ、ソロモンと直接かかわる戦いは無かったんだよな」

「そのようですわね。もっとも、神霊との関わりは興味深いので、文書で構いませんから
 データは頂きたいですわ」

「んー、マシュ?どうだろ」

「そのあたりはまたこちらで検討してみます」

「ええ、分かりましたわ。
 ――さて、では最後の闘いが如何なるものであったか教えていただきたいですわ」

「冠位時間神殿、ソロモン。あの戦いはすごかったな。
 72柱の魔神、全部が、ほぼ無限に出てきてた」

「魔神は72柱揃っているもの。ゆえに、1柱でも残っていれば残りも再生する……
 今思い出しただけでも、よく勝てたと思います」

「これまでに戦った魔神はもちろん、他に覚えてるだけでもナベリウス、サブナック、アンドロマリウスとか居たな……」

「3000年以上前より伝わる魔神……それらがすべて揃い踏み……。
 例えそれが醜悪な肉の柱であっても、危機的状況であっても、個人的にはぜひ一度見てみたかったですわ」

「俺には、結局いわゆる普通の魔術師ってのがどういうものか理解できてないんだけどさ、
 やっぱり、そういう到達点っていうところは常に目指し続けるもんなんだな」

「そうですわ。魔術師とは異形を続ける者。受け継いだものをさらにその先へ繋げる者。
 王の魔術そのものと対峙すれば、あるいはより先へ進むきっかけが手に入るかもしれません」

「……なぁ、ひょっとして、その体も、そういうことの結果なのか?」

「聞くのですね。以前なら、違ったでしょうに」

「俺もいくつかの偶然とはいえ、こっちの事を知っちまったんだ。
 何にも聞かずに、ってのも甲斐性かもしれねぇけど心配するのも、友人の務めだろ?」

「あれ、えっと、先輩?」

「いやな、最初は驚いたけどよ、俺もいろいろ知ってなんとなく推測しちまうぐらいには
 戦いを潜り抜けてきちまったんだ。
 改めて聞くけど、その状態、普通じゃないみたいだし、それを何とかするためにカルデアに来たのか?」

「……その通りですわ。随分と遠回りしてしまいましたが、余計な交渉はこれ以上は不要のようですわね。
 査察というのはあくまで名目。
 私の本来の目的は、魔術王の術式、72柱の魔神に関するデータをすべていただきたいのです。
 私と――イツキの為に」

「そうか……じゃあ、ちょっと用意してみるか」

「そんな二つ返事でいいんですか!?流石に今回はちょっと気安すぎるというか……もう少し詳細を聞いてからでも」

「ん、アディリシアさんにお願いされたら、1も2も無くこうっするしかないんだよ。
 うけけ。マシュにも、いつかこんぐらいの友人が出来るといいな」

「あら、私はあなたの事友人と思ったことはありませんけれど?」

「ひどいですあんまりですアディリシアさん!」

「かけがえのない、という枕詞が抜けていますもの」

「……っと、今のはだいぶキたなぁ。百戦錬磨の美男美女に囲まれてても、
 美人な転校生で同級生にそういうこと言われたら、頭一つとびぬけますね」

「今の発言、ほかの女性英霊の皆様にお聞かせしても?」

「よろしくないな。うん、オフレコで頼むよマシュ。あとで詳しく説明するからさ」

「それで、本当に魔神のデータは大丈夫なのでして?」

「ああ、任せといてくださいよ。スタッフの皆さんともこう見えて仲良いし、
 最終戦とかで記録してたサーヴァントたちも欲しいデータをまとめてくれるだろうし、
 孔明先生なんかも協力してくれそうだ」

「……本当に、本当にありがとうございます」

「頭を下げる必要なんかないですって。本当に頭を下げる必要のあるのはイバイツの方です。
 来てるんでしょ?アイツも」

「……恐ろしいところですわね、カルデアも」

「魔眼だろうとなんだろうと、繰り返すようにこっちは精鋭ぞろいでして。
 魔術的に死角を狙っても、もっとそういうのが得意な人もたくさんいるわけです」

「分かりましたわ。どうぞお会いに行きなさい。
 まさか向こうも気づかれるとも思ってないでしょうから、
 最大限に驚かして差し上げなさい」

「はいはい。んじゃあマシュ、あとはちょっとしばらくアディリシアさんの事、お願いできるか?」

「え、はい。私が答えられる範囲でなら、質疑応答受け付けますので」

「お願いしますわ。ミス・キリエライト」

 ――カルデアの廊下。
 カルデアのマスターが先ほどいた部屋から、そう離れていない場所。
 物理的にカメラの死角、および魔術的な探査の死角。
 そこに少年……いや青年が居た。
 彼の右眼は、少々特殊で、部屋の外から中の様子を見守っていたのだ。

「大丈夫かな……アディリシアさん」

「何一丁前にイバイツがアディリシアさんの心配してるんだよ!」

「うわわわ!?なんでこ、ここに!?さっきまで部屋の中にいたんじゃ」

「ほーん、聞いてた通りに便利な眼みたいだな。でも俺の方もいろいろ入れ知恵されててな。
 所謂一つの変わり身の術ってやつだ。知ってるか?風魔小太郎」

「知らない間に忍術身に着けてたんだ……」

「知らない間にもっととんでもないことしでかしてたのはお前の方だろ?イバイツのくせに生意気な!」

「本当にもっとすごいことしたのはそっちの方だろ――」


「山田」

 山田和志。人理の修復を果たした、"この"カルデアの、マスターの名前。

「すごくないさ。頑張ったのは俺じゃない。
 所長やドクターを筆頭にカルデアのスタッフ、万能の天才を筆頭に英霊の皆様方、頼れる片目カクレ後輩。
 そんなすごい連中のなかにたまたま紛れ込んだ一般人だよ。
 魔術師だの、マスターだのなんて俺のガラじゃねぇ」

「……そうだね。山田はそんなにすごくないかも」

「おう!?気が付きゃ口も達者になりやがってオラオラ、
 第3次成長期だかで身長伸びて生意気になってないか?」

「痛い痛い……冗談だよ冗談」

「うけけけけ。そうだよ、そんだけ素直でなきゃ、らしくねぇ。
 立場が変わっても、互いに修羅場だの何だの乗り越えても見てる世界が変わっちまっても
 変わらないもんだってあるもんさ、なぁ?」

「うん。山田もらしいっていうか、びっくりするぐらいそのまんまだよ。
 外見とかじゃなく根っこがさ。だけどだっていうのに、すっごい大人になってる」

「んん?大人になったのはどっちだよ。
 結局アディリシアさんの心を射止めちまったんだろ?
 ド畜生め、悔しいことこの上ないし穂波さんの心中お察しするところだが、
 まさか、二人の間にそれこそナニもないとか言われても俺は信じねー」

「ちょ、ちょっとそういう話!?いや、そのそういうのでは……あるかもしれないけど!
 山田だって、キリエライトさんがいるじゃん!」

「バッ、お前、それこそそういうのじゃないんだよ、こっちは!
 後輩ってのはそういうロマンと一番近くて遠い哲学的概念なんだよ!
 万年補習のイバイツにゃあちと理解が難しかったか!?」

「補習とかいつの話!?それに補習って言ったら山田だって」

「だから、変わらないんだろ?俺たちはさ」

「そう、なんだろうね。きっと、世界とかも大変になった、ってのに」

「どうせ変わんないんだから、もっと早くにお前の社長業とか知っときたかったぜ」

「それでも、山田にはあんまり知ってほしくなかったんだ」

「んだよ、委員長だって知ってたんだろ?当時結局仲間外れだったの俺だけじゃねぇか」

「仲間はずれじゃないよ、山田だけは特別だったんだ。

 ――唯一、魔術とかほとんど関係なく仲良くなれた親友だからさ」

「おまえ、よくもそんなこっ恥ずかしいセリフ吐けたもんだ。
 しかも臆面なく、最高に決まってるしさ」

「そりゃあ、本心だからね」

「前言撤回。やっぱお前は変わったよ。でもそいつはきっといいことだ」

「ありがとう」

 そこで、アラート音がカルデアに鳴り響く。
 カルデアのマスターを管制室に呼ぶアナウンス。

「っと、なんかあったかな?」

「大変そうだね」

「まぁな。でも給料は一応出てるみたいだしな。
 帰ってからの通帳が楽しみだ」

 駆けだそうとする、山田。
 だが、すぐに止まり振り返る。

「……なぁ、こっちもそっちも、ごたごたが片付いたらよ。
 皆で会えねぇかな。委員長には俺から声かけてみるからさ」

「うん、そうできるようにしてみる。
 僕もアディ、リシアさんも難しい状態だし、穂波も忙しいけれど
 でも、きっとみんなも会いたいと思ってる」

「ありがたいな」

「うん。だから、頑張れよ」

「ああ、一仕事こなしてくるぜ」

「じゃ、またね。都合がついたら連絡するよ」

「またな。こっちも連絡する」

 そうして、笑顔を交わして伊庭いつきは山田和志を見送った。
 これから残骸の叙事詩と、人理再編へと挑む友人を。

おわり。

SSは書くのは初めてだったけどセリフの横に名前書かない方式って地の文少ないと大変ですね。
勢いで書いたから細かい設定の齟齬とかあるかもしれないけど、場末のSSにその辺のご指摘はご勘弁を。
致命的な矛盾とかあれば言って辱めてもらって大丈夫です。
html化の依頼出してきます。

と、ここまでわざわざ読んでくださった皆様、貴重なお時間頂き誠にありがとうございます。
次書くとしたらそれこそ布留部市が特異点になった話とかでも。(言うだけならタダ)
また、お会いする機会がもしもあれば、その時は、よろしくお願いします。

(html化依頼の方でsage忘れで恥ずかしいから逃げる)

結局三田フリークスによる三田以外踏み台ssだったか
見て損した

山田って誰だよ…

三田さん繋がりだったかww

事件簿もよろしく

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