※しんみりコメディ
※ショタ提督の謎に迫ってみる
※短い
建造されたてのあたしは、指令室の提督の前で挨拶をしたわけだが……。
提督「よろしくお願いします」
摩耶(ついてねえな、あたしも。この鎮守府は駄目だ……)
なんでかって? この提督とやらは、どうみてもガキんちょ。
なおかつ、もやしのようにヒョロヒョロ。おかっぱ頭で整った顔立ち。
女の子にも見えるほど。無表情で落ち着いてるのが、かえってイラつかせる。
摩耶(こんなチビっこが提督なんて、鬼の海軍もヤキが回ったのか、
人材が枯渇してんのか、どっちにしても負け戦だな、こりゃ)
提督「高雄型の部屋に案内させましょう。大淀」
大淀「はい。こちらへどうぞ」ニッコリ
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廊下に出ると、あたしは大淀に話しかけた。
摩耶「なあ、戦局はそんなに悪いのか?」
大淀「は? なぜです?」
摩耶「だってよ、提督が子供って普通じゃねえぜ」
大淀「そうですね……。戦局は確かに悪いですが、最近持ち直してます」
摩耶「へぇ」
大淀「提督の活躍でね」ニコッ
摩耶「そんなお偉い提督様には見えねえけどな」
大淀「信じられないのも無理はありません。高雄さんや愛宕さんに聞いてみたらどうですか?」
摩耶「そうする」
重巡洋寮の高雄型の部屋に入ると、愛宕姉の圧……熱い歓迎が待っていた。
愛宕「摩耶~~! 待っていたの! お姉ちゃん、とっても嬉しいわぁ~~♪」ムギューーー
摩耶「わぷっ! 分かったから! 分かったから!」
高雄「愛宕、嬉しいのは分かるけど、そのへんにしておきなさい」
鳥海「私の計算では、摩耶は酸素が足りてませんね」
愛宕「あら~~いっけない! 摩耶! 大丈夫?」
摩耶「」グッタリ
三途の川から戻ってきたあたしは、疑問をぶつけてみた。
摩耶「大江艦長が手招きしてるのが見えたぜ……。それはそうと、ここの提督はどうなってんだよ?」
愛宕「さっすがわが妹! 提督に目をつけるなんて流石ね!」
摩耶「そうじゃなくてさ……」
高雄「素敵な方です」バルンッ
摩耶「えぇ……」
鳥海「司令官さんの戦略は、いつも私の計算と一致してます」めがねクイッ
摩耶「はぁ……」
姉貴たちが認めてるなら、そこそこのヤツなんだろう。
鳥海「司令官さんは優秀です。例えば、人類史上の戦史を全て諳んじられるほど。
神話、紀元前の戦いから、冷戦後の内戦まで全て」めがねクイッ
高雄「艦娘の指揮官としても、ずば抜けた素質を持っています。
200人以上の艦娘を顕現させた上に、同時に12人を戦闘させられるほどの
『霊能力』を持っている提督は、世界でも10人といません」
愛宕「その上、あの華奢な体つきと、端正な顔立ち……///」
摩耶「お、おう……」
優秀なのは分かったけど、なんか気にくわねぇ……。
愛宕「近寄りがたいあの雰囲気もたまらないの! パンパカした~~い♪」
摩耶「よくわからねぇけど、愛宕姉は自重しろ!!!」
その後、戦闘海域の近くの護衛艦の作戦室。
摩耶(姉貴は優秀って言ってたけど、本当かどうかお手並み拝見)
提督「深海棲艦は疑い深い。それを逆手に取ります」
提督が艦隊に次々と指令をだす。
摩耶(そんなに上手くいくもんなのかね?)
あたしの読みとは裏腹に、作戦は見事的中。
提督「追い詰められた深海棲艦に、逃げ道を作ります。救援の深海棲艦もそこに殺到するでしょう。
それは、この海峡です。ここが彼女たちの『死地』です」
海峡に押し込められた深海棲艦の大軍に、伏兵の艦娘が四方八方から集中砲火。
寡兵で大軍を破る、マンガみたいな展開。
摩耶(やるじゃん)
艦娘や兵士は歓喜に沸き立つが……。
提督「深追いは無用。手負いの獣をこれ以上追い詰めると火傷します。撤退です」
摩耶(子供ならもっと喜べよ! 見切りの良さは評価するけどさ……。ちょっと老練すぎんだろ)
実際、不穏な空気を感じ取った深海棲艦が大規模な援軍を差し向けていた。
あのタイミングの撤退は見事だったわけだが……やっぱり気にくわない。
海戦の数日後、鎮守府の大食堂で昼食を取っていると……。
摩耶「……はぁ」
足柄「摩耶がため息なんて、らしくないわよ。どうしたの?」
摩耶「うーん、あたしにもよく分かんないんだけどさ。提督を見ると、なんかモヤっとすんだよ」
足柄「なに? 恋してんの?」
摩耶「ちげーーよ! ショタはストライクゾーンじゃねえから!」
足柄「じゃなに?」
摩耶「なんつーか、釈然としないんだ。あの提督の存在が。
だいたい士官学校とか、あんな子供が入れるのか?」
足柄「そうねぇ……。わたしたち提督のことって、ほとんど知らないのよ」
摩耶「それって怖くね? 正体不明のヤツに命を預けるのって、怖くねーの?」
足柄「提督に命を預けるのは怖くないわ。彼はいつも私に勝利をくれるから」
摩耶「まあ優秀なのはいいんだけどさ。年季の入ったいぶし銀の指揮と、あの容姿が不釣り合いすぎて、
ちょっと怖いんだよ、正直。子供らしくねーんだよ。違和感ありまくりなんだよ」
足柄「ふうん」
足柄がコーヒーを飲みながらニコニコしている。
摩耶「あの年頃の子供っていうかガキンチョはな、戦争なんかに関わらないで、
平和に遊んでりゃいいんだよ。あたしらはそのためにいるんだし」
足柄「そうね」
摩耶「感情のままに泣いたり笑ったりすりゃいいんだよ。でも提督は能面みたいに無表情だし。
どんな修羅場をくぐったらああなるんだ?」
足柄「……」
摩耶「とんでもねえ闇を抱えてるんだぜ、きっと。そう思うとさ、
ふと『提督は幸せなんだろうか?』とか、色々考えちまってよ……」
足柄「摩耶って、口はがさつだけど、ちゃんと考えてるのね」ニコニコ
摩耶「がさつは余計だ。でもサンキューな」
足柄(なんだかんだ言っても摩耶って子供好きなのね。高雄型の運命(さだめ)なのかしら……)
足柄がふと考え込んだ。
足柄「そうねぇ……。確かに提督は感情を表に出さないし、幸せかどうか分からないわね」
摩耶「幸せだとはとても思えねえぜ。あたしが子供らしい幸せを取り戻してやんよ!」
足柄「どうやって?」
摩耶「まずあの能面フェイスをぶっ壊す。こういうのはどうよ?」ヒソヒソ
足柄「……え、あんた本気?」
摩耶「摩耶様に任せろ!」ニカッ
ある日の指令室……。
足柄「提督!」ドアバーーーン
大淀「」
そこにはパンツを顔にかぶり、手袋、スリングショット水着、網タイツ、ハイヒールの足柄がいた。
足柄「ウェルカム!!!」バーーン!
足柄「そこは私のカツカレーよ!!!」ババーーン!
提督「……足柄さん、何か御用ですか?」
眉一つ動かさない提督。
足柄「……ちっくしょう……。この私が、ここまでやられるなんて……」
足柄が腕を下した。
足柄「コマネチ!」ササッ
提督「ああ……分かりました。冗談なんですね」
足柄「ゴフッ」バターン
顔面蒼白で倒れる足柄。
使えねぇ……。あたしも指令室に入る。
摩耶「雑魚は寝とけ。ネタが古いんだよ! ガキンチョ入れ食いの鉄板ギャグ、見せてやんよ!」
あたしは提督に背を向けると、スカートとパンツを半分おろし、前かがみになった。
摩耶「ケツだけ星人~~」プリプリ
丸出しのケツをプリプリ動かしながら、左右にテケテケと小刻みに動く。
摩耶(これでドッカンドッカン……)
ふりむくと提督がじっと見ていた。無表情に。
摩耶「ゴフッ」バターン
そこに……。
龍驤「……まな板」ガチャ
首から洗濯板をぶら下げた龍驤が入ってきた。
龍驤「キミィ、まな板知らへん? ずっと探してるんやけど」キョロキョロ
大淀「……プッ……ククク……」
龍驤「ん、下? 下に何かあるん?」キョロキョロ
龍驤「お! あったわ~~、こんなところにあったわ~まな板!」ホッコリ
龍驤「って、これ、洗濯板やないか~~い!!!」
提督「……」
摩耶(これでもダメなのかよ……)
提督「……クスッ」
あたしと足柄が飛び起きる。
摩耶「んだよぉ! 提督も笑えんじゃねえか! 楽しい時は笑っていいんだぜ!」ワシワシ
足柄「サイッコーね! 今までで一番嬉しい勝利よ!」ワシワシ
半ケツのあたしと変態仮面の足柄が提督を撫でまわす。
どんな絵面だよ。
摩耶「龍驤姉さん、ありしゃした! 勉強させてもらいました!」ペコリ
足柄「龍驤、ありがとう! 肉を切らせて骨を断つ。モノホンの自虐ネタ、マジ超うけたわ!」ゲラゲラ
龍驤「おう、キミたち精進するんやで。あと足柄は妙高と一緒に三者面談な」
足柄「んにゃー!」バターン
それから提督は少しだけ感情を出すようになった。
艦娘との距離も縮まった。
鎮守府の雰囲気もグッと良くなったぜ。
-続く-
期待
ジョークに染まった艦娘たちを見て知恵熱出してしかも生涯それに苦しめられると見た
足柄「あれから提督も雰囲気変わったわね」
摩耶「だけどな、まだ足りねぇ……」
ある日、あたしと足柄は司令室に押しかけた。
摩耶「提督、邪魔するぜ」
提督「なんですか」
足柄「提督には、もっと幸せになっています!」
摩耶「提督を甘やかす専門家を呼んであるからな。先生方、お願いします!」ガチャ
ぞろぞろと雷、霞、夕雲、浦風が入ってきた。
最初は雷。
雷「私たちを怖がらないで……。むしろ頼ってほしいの。
司令官の役に立つことが、私の喜びなの! 一緒にお仕事……ううん。
一緒い居るだけでもいい。そう、そこから始めましょう、ね?」パァアア
次は霞。
霞「艦娘と距離を取るなんて……あなた私たちが怖いの?
しっかりしなさい! 司令官なんでしょ?
それで私たちの指揮が取れるの? 堂々と艦娘と向き合いなさい!」キッ
そして夕雲。
夕雲「もっと近づいても……夕雲は怒りませんよ? うん?
怖がらないで……ふふ、仕方ない子♪ いいのよ……こっちから行くから……」トロ~ン
最後に浦風。
浦風「提督、うちは何があっても提督の味方じゃけぇ、安心しんさい。
もし仕事がたいぎいかったら、うちを呼んでつかぁさい。ぶち癒したるけぇ」ニコッ
頼らせ、叱って、甘えさせて、包み込む。
ママ勢のナチュラルな連携プレー。雀鬼共のコンビ打ち、はたまた軍神の車懸りの陣か。
さすがの提督も、ありゃ勝てねぇ。
足柄「提督、固まってない?」
摩耶「甘やかされることに慣れてないんだろ、多分。
あの手のスレたガキは、親の愛情が足りてねぇからな。
しっかり甘えて、子供らしい幸せな時間をすごすといいぜ!」
駆逐艦たちにチヤホヤされる提督を見て、あたしは満足。
あの時は「良いことした」と思ってた。
その後、提督と艦娘との距離はますます縮まり、提督の表情も豊かになった。
摩耶「いい感じじゃねえか」
足柄「素晴らしいわ! みなぎってきたわ!」
摩耶「摩耶様がもっと楽しませてやるぜ!」
ハロウィンの時は仮装して……。
愛宕「提督、お菓子をくれないと、イタズラしま~~す♪ くれてもイタズラします♪」たゆんたゆん
鳥海「私の計算では、愛宕姉さんがイタズラする確率は100%ですね」めがねクイッ
摩耶「愛宕姉、サキュバスコスとか自重しろ!!!」
クリスマスではサンタの格好をして……。
足柄「提督、メリークリスマース! もちろん今夜のプレゼントは、カツよ!」ドヤァ
摩耶「なんであたしがトナカイの格好を……」
正月は羽根突きをして……。
摩耶「提督、羽子板やろうぜ~」
足柄「提督、摩耶なんてやっつけちゃって!」
摩耶「あ、手がすべった」ビュン
足柄「ほげぇ!!!」ガスッ
摩耶「わりぃ、わりぃ。羽子板がすっぽ抜けて、足柄の顔面に当たっちまったぜ」シレッ
足柄「……みなぎってきたわ……。提督、代わってくださらない?」ユラ~リ
摩耶「……前からおまえは気に食わなかったんだよ……」
足柄「……やはり高雄型は目障りね……」ゴゴゴゴ
摩耶「……調子くれてる妙高型には、きっちり上下関係を教えてやらねえとな……」ドドドド
結局、あたしたちは羽子板で殴り合い、大破して、高雄と妙高にエンドレス説教を受けることになった。
二月は節分……。
足柄「角が生えてる摩耶鬼は外!」
摩耶「痛って! んだよぉ! ばっか! これはチャームポイントだろ!
それと豆にベアリングの玉を混ぜるのはやめろ!!!」
五月は端午の節句。
摩耶「提督、柏餅食おうぜ~?」
足柄「え? 食べられない? カツも駄目だけど、これも駄目なのね……」
摩耶(そういえば提督が食事してるとこ、見たことねぇな……)
夏は海水浴。
摩耶「提督、スイカはあっちだぜ! これ持って思いっきり振り下ろすんだ!」
足柄「んにゃ!? 私はスイカじゃないし!
提督が持ってるのは日本刀だし! んにゃーーーー!!!」
そして花火と祭り。
摩耶「提督、祭りと花火が初めてって本当かよ。でも随分楽しんでるみたいじゃねえか!」
足柄「お祭り、サイッコーだわ!」
摩耶「提督、わた飴食べるか? って、食べられないんだよな……」
提督「……ひとくちなら……」
摩耶「お! ひとくちなんて言わずに、全部食べていいんだぜ」
提督「……甘い……」もそもそ
足柄「提督、摩耶! 花火が上がったわ……素晴らしいわ……」
摩耶「綺麗だな……。な、提督!」
そこに大淀が来た。
大淀「摩耶、足柄! また提督を連れ出して! 今度は始末書では済みませんからね!」
摩耶「けっ! あたしは提督のためを思ってやってるんだ」
足柄「そうよ! 営倉送りでもなんでもしなさいよ! でも妙高姉さんの説教だけは勘弁……」
摩耶「提督だって楽しんだし。また来年も行こうぜ!」
提督「来年……」
パシーーン……
大淀があたしの頬を張り飛ばした。
大淀「いい加減にしなさい!」
摩耶「んーだよ! 大淀……」
大淀の目から涙が一筋。
一体、なんなんだよ……。
そっからだ。そっから鎮守府がおかしくなった。
正確に言うと、大淀と明石がおかしくなった。
- 続く -
>>13
訂正……。
誤 : 摩耶「提督、羽子板やろうぜ~」
正 : 摩耶「提督、羽根突きやろうぜ~」
なお次回最終回。
乙です
物悲しいにおいがするぜえ
大淀は……。
摩耶「大淀、命令書間違ってたぜ? 大淀? 聞いてんのか?」
大淀「……え、あ、はい。補給ですね?」
摩耶「ちげーよ……って、大淀、大丈夫か? 最近、ずっとそんな調子じゃねぇか?」
大淀「……」
明石は……。
足柄「ちょっと! 整備頼んでた艤装が戻ってきたけど、
水上偵察機が二式大艇になってたわよ!」
明石「……いいじゃないですか。大きいほうが……」ニヤッ
足柄「」
明石「……ごめんなさい。装備を間違えました。すぐに戻します……」
昼間の鎮守府の大食堂で、あたしらはため息をついていた。
摩耶「……はぁ」
足柄「……はぁ」
摩耶「最近の大淀と明石、おかしくねぇか?」
足柄「そうね。鎮守府が混乱してるわね」
摩耶「まだ事故は起こってねぇけどよ、このままだと大事故になるぜ?」
足柄「どうすればいいのかしら……。あら、羽黒」
羽黒「足柄姉さん、摩耶さん、大淀さんが大会議室に集まってくれって言ってました」
摩耶「あ?」
大会議室に行くと、鎮守府の艦娘が全員集まっていた。
足柄「ただごとじゃないわね」
摩耶「大淀が来たぜ」
大淀と明石が入ってきた。目の周りが赤い。泣いていたのか……。
大淀「皆さん、これから話すことは口外しないでください。口外したら安全は保障出来ません」
摩耶(穏やかじゃねえな……軍機が絡んでんのか?)
大淀「提督は……半年後にいなくなります」
ざわつく艦娘たち。
足柄「どういうこと? 転籍するの?」
大淀「違います」
摩耶「退官すんのか?」
大淀「いいえ。とにかく、提督はこの鎮守府からいなくなります。
そして、本日以降、提督との接触を禁止します」
足柄「納得出来ないわ! 事と次第によっては軍令部に乗り込むわよ?」
大淀「提督にこれ以上負担をかけないで下さい!」バンッ
部屋が静まりかえる。
摩耶「……意味がさっぱりわからねぇ。……普通じゃねえよ。
大淀も提督も……。事情を話してくれないか」
大淀「……これ以上、話すことはありません」
そこに……。
提督「事情は私から話します。大淀ありがとう」
大淀「……提督……なぜ……」
提督「皆に話したいことがありまして。これから話すことは、最重要軍機です。
話を聞くと、命の保障はありません。聞きたくない者は部屋から出るように」
誰も部屋から出ない。
提督「そうですか。では話しましょう。端的に言うと、私は半年後に死にます」
誰も言葉が出ない。
提督「なぜ死ぬのか。それは、そう作られているから。作られてから10年で死ぬように」
大淀「……ううっ……ぐすっ……」
泣き崩れる大淀を明石が抱きとめた。
摩耶「ばっきゃろー!!! 死ぬとか簡単に言うな! 第一、今ピンピンしてんだろうが!」
提督が優しく微笑む。
頼むから、そんな顔しないでくれよ……。
提督「そうですね。それを説明するために、私が作られたところから話しましょう。
私は、いわゆるデザイナーベビーとして生まれました。特定の目的のために遺伝子を操作された人間のことです」
摩耶「……」
提督「深海棲艦に対抗できるのは艦娘しかいません。しかし、艦娘を使える人間は、あまりにも少ない。
『霊能力』の強さは、遺伝的な資質で決まります。訓練ではどうしても伸ばせません」
摩耶「……」
提督「軍は考えました。訓練でどうにもならないなら、『霊能力』の強い遺伝子に書き換えてしまえばよいと。
そこで、受精卵の遺伝子を書き換え、私を作りました」
足柄「……」
提督「私の遺伝子は、『霊能力』史上最強と言われた提督と、『超記憶障害』を持つ女性をベースにしています。
『超記憶障害』とは異常な記憶力を持ち、目にした事、聞いた事、読んだ事を全て鮮明に記憶し、
忘れることが出来ないという障害です」
部屋の雰囲気が冷えていく。
提督「私の遺伝子の『霊能力』因子は書き換えられ、さらに『霊能力』が強まりました。
ですが、それが原因で消化器が弱くなり、特殊なベビーフードのようなものしか食べられません。
せっかく皆さんが作ってくれた手料理も食べられませんでした。申し訳ありません」
摩耶「……」
提督「時間がない軍は、私の遺伝子を、1年で10歳程度まで成長するように操作しました。
私は1歳で軍事教育を受け始め、ありとあらゆる兵法を学び、6歳で鎮守府に着任しました。
なお10歳の体で安定させたのは、その年頃が一番『霊能力』が強いからだそうです」
足柄「……」
提督「さて、このようにして最強の提督が作られたわけですが、軍はある保険をかけました。
強力な『霊能力』と絶対忘れない記憶力を持ち、高度な軍事訓練を受けた……子供。
不安ですね。何をするかわかりません。そこで……10年という寿命を設定しました」
あたしは頭の中が真っ白になった。
摩耶「……そんな……嘘だろ……」
提督「嘘ではありません。私の兄二人は、きっかり10年で壊れました」
提督が他人事のように話を続ける。
提督「兄達は極力艦娘と接点を持たないようにしました。
自分が居なくなっても、艦娘がショックを受けないように。
死んだことも知らせていません。彼女たちは、兄達が転籍したと思ってます」
足柄「……」
提督「私もそうするつもりでした」
摩耶「……」
提督「しかし……私の決意は、あなたたちの猛攻で壊れてしまいました。
特に足柄の……クククク……」
足柄のやつ、悲しんでいいんだか、喜んでいいんだか、
恥ずかしいんだか、よく分からない顔になってるぜ……。
提督「私は感情を持たないように作られ、また、そのように教育されましたが、
許容範囲を超えた揺さぶりを受けて、徐々に感情を持つようになり、
生きることが楽しくなりました。なってしまいました……」
提督が回りを見渡す。
提督「私はもっと生きたい、と願うようになりました。
感情を持たなければ楽だったのに、ともね」
一呼吸置く提督。
提督「皆さんには責任を取ってもらいます。
私は寿命を延ばす方法を思いつきました。ちょっと変化球ですが……。
それに協力してもらいます!」
艦娘たちの目に光が戻った。
足柄「さすが提督!」
提督「私は優秀ですから」ニヤッ
摩耶「言うようになったじゃねーか! 協力するからよ~、早くやり方を教えろよ!」ワシワシ
それから、あたしたちは全力で協力したんだ。
数年後……。
足柄「摩耶~、来たわよ~」
摩耶「よ! まあ入れよ」
今日は二人とも非番。暇な足柄があたしの部屋に遊びに来たってわけだ。
足柄「この部屋も久しぶりね。いつ以来かしら」
摩耶「そうだな……前の提督が生きていた時以来じゃねえか?」
足柄「……そうね……」
結局、提督は死んじまった。半年後にきっちりとな。ソニータイマーかよ。
摩耶「なあ……あたしは間違ってたのか。余計なお節介だったのかな、結局さ」
足柄「そんなことはないわ。提督が『ありがとう』って言ってたじゃない」
摩耶「あたしらを傷つけないための嘘じゃねえのか?」
足柄「最期の言葉で……嘘はつかないと思うの」
摩耶「……そうだな……」
その時……。
まや「ママ。お客さん?」トコトコ
摩耶「おう! 足柄おばさんに挨拶しな」
足柄「おば……」
まや「足柄おばさん、こんにちわ!」ペコリ
足柄「こんにちわ~。でも足柄『お姉さん』よ」ナデナデ
あしがら「まや~、こんにちわ」
摩耶「よう! あしがらちゃん」
まや「あしがら~、あっちで遊ぼう」
あしがら「うん!」
あたしと足柄は目を細める。
足柄「まやちゃん、可愛いわね~。ママに似ないでサイッコーに良かったわ~。パパそっくり!」
摩耶「うっせ! まあ……提督に似てるのは認めるけどよ……」
提督の「寿命を延ばす」やり方ってのは、子孫を残すことだった。
遺伝子を残せれば、それが生きていることと同じだとさ。
理屈っぽいっていうか、屁理屈っていうか、なんだろな。
足柄「あの時は大変だったわね。まさか、大淀から伊良湖まで、艦娘全員が協力に志願するとは……」
摩耶「ああ。提督もすごかったぜ。半年間、ぶっ続けで全員を相手して、全員命中させたからな」
足柄「正直、半年持たずに、逝ってもおかしくなかったわね……」
その後も大変だった。
なんせ鎮守府の艦娘全員、お腹ポッコリだぜ?
足柄「提督が亡くなって、新任提督が来たら、艦娘がみんなマタニティで……」
摩耶「それな。大問題になって、鎮守府の全艦娘が解体されかかったな」
足柄「大淀が裏で手を回して、うやむやにしたそうよ」
摩耶「おっかね。あいつだけは敵に回したくねえぜ……」
足柄がふと部屋の奥を見た。
足柄「あら……浴衣?」
摩耶「いいだろ。まやと祭りに行こうと思ってさ」
足柄「……」
摩耶「まやに花火を見せてやりてえんだ。ちょっと遅くなったけどな」
足柄「みんなを誘って行きましょうよ」
摩耶「そうだな」
花火だけじゃ済まさねえ。
もっと、もっと楽しんでもらうぜ。提督。
完
なぜショタが提督をやっているのか?
なぜ毎晩絞られているのか?
実は、こんな悲しい物語が……(適当)
なおショタ提督のモデルは「蒼き鋼のアルペジオ」の刑部 眞です
html申請してきます
乙
乙
若返りかクローン技術の系統かなとは少し思ってた
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