龍殺しの傭兵と復讐の少女 (37)

中二病全開でいく予定

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今となってはもう昔のお話。それはもう五十年ほど前のお話。
この大陸にまだ五つの王国が存在していた。

五人の王様は五人とも悪い王様だった。
五つの国は常に反目しあい、ずっとずっと戦争を続けてきていた。
王様たちは民草のことも、国のことも、自分の家族のことも全部二の次。
相手の国を滅ぼすために戦争を続けてきていた。
何年も何年もお互いに殺したり殺されたりを続けてきていた。

だけどそんな戦争が五十年前にぱたりと止まった。

なんでかって? それは、ある兵隊さんたちが五つの国をぜーんぶ滅ぼしてしまったからなんだ。

その兵隊さんたちは二百人にも満たなかった。
二百人にも満たなかったけれど、一人一人がとっても強かったんだ。

どれくらいかって? そうだね、一人で普通の兵隊さんの千人分は強かったんじゃないかな。
そのとっても強い兵隊さんたちがどこからともなく現れて、その五つの国を全部潰してしまったんだ。

悪い王様がいなくなって、ようやく長い長い戦争が終わってみんな喜んだ。

喜んだけれど、突然国の一番偉い人がいなくなってみんな困ってしまったんだ。
そのとき、兵隊さんの一人がこういったんだ。
「みんなで次の王様を決めるまで、自分がみんなを導こう」とね。

その言葉を合図に国民は立ち上がり、疲れ切った国を癒していこうと決めた。

そこからまた長い年月が経って、ようやく国として活気を取り戻したときには
もう五つの国は一つの国としてまとまっていた。

みんながみんな手を取り合って、仲良く暮らす国ができていた。

それを見届けたみんなを引っ張ってきた兵隊さんは静かに身を引いて、次の王様に国を渡した。
そうしてできた国が、今の私たちの国。
今の王様が治める私たちの素敵な国。

めでたしめでたし。

さ、寝物語はこれでお終い。
早く寝るんだよ……。

王都の中心には豪奢な城が城下を見下ろすがごとくそびえ立っている。
城門へと続く大通りには多くの露店や商人が店を構え、活気に満ちていた。
大通りを行き交う人々もまた、笑顔を浮かべ王都の暮らしを謳歌していた。

だが、大通りを一本はずれた薄暗い裏路地に足を向ければ、そこもまた王都の現実だった。
吐瀉物の散乱するすえた臭いが立ち込める不衛生な場所。
おおよそ人が住めるような場所でもないはずだが、少なくない数の人間がそこにはいた。

力なく虚空を見つめる者。
ふさぎ込み延々と地面を指でいじる者。
虚ろな声で物乞いをする者。

住むところすらなく、地べたで生活せざるを得ない者も多くいるのだった。

その薄暗い裏路地をさらに奥へ行った先。
一軒の酒場で昼から入り浸っている男がいた。

埃っぽい空気と陰気な雰囲気。
昼間だというのに薄暗く店内に客はカウンターに座るその男一人しかいない。

「よお、マスター。何か仕事はないかい?」

「その前に客なら注文しな」

「へいへい。じゃ、ミルク」

「ここは酒場だ。酒をたのみな」

「何回このやり取りやるんだよ。俺は下戸だっつの」

「じゃあ酒場なんてくるんじゃねぇ」

「客に言うセリフかよ」

「酒場は酒を頼む奴が客だからな」

「かー泣けてくるね。それだから閑古鳥が鳴いてんだよ」

「やかましい」

無愛想なマスターの言を、飄々と受け流す男。

この国では珍しい黒い髪色。
邪魔にならなければいいというだけの適当な短髪に、装飾品を全く身につけないしゃれっ気のなさ。
ただ一つ特徴があるとすれば、腰に携えた直剣だけだろう。

「その様子じゃ、おめえの傭兵稼業も閑古鳥が鳴いてそうだな」

「そら、繁盛してたらこんな場末の酒場なんざこないっての」

こん、という音共に傭兵の前にグラスに注がれたミルクが置かれる。

ここは、表の顔としては酒場。
しかし本来の顔は依頼人と傭兵稼業連中を繋ぐ斡旋所であり、
なおかつ表だって言えないような危険な依頼が多く舞い込むの場所なのである。

この傭兵もそんな依頼をこなしながら日銭を稼ぐ日々を送っていた。

「サンキュー、愛してるぜマスター」

「よせよせ、気持ちわりぃ。ほらよ、今ある依頼だ」

マスターがばさりと羊皮紙をカウンターに置くと、傭兵は一枚一枚眼を通していく。

「なんだよ。ギルドに通るような依頼ばっかじゃねぇか。
 御者の道中護衛なんてギルドに頼めっつの」

「まあな。御者本人がワケありなのか護送する奴がワケありなんだろさ」

「金がいいなら受けてやってもいいがシケてんねぇ。
 傭兵泣かせの世の中だよ全く」

ぼりぼりと頭を掻きながら愚痴をこぼす。

「やめんのかい? なら片付けちまうぜ」

そのとき、キィと木製のドアが軋む来客を知らせる音が響いた。

「いらっしゃい、って言いたいところだがな。
 お嬢ちゃんここは酒場だ。子供の来る場所じゃねぇ。帰りな」

傭兵も振り返ってみると、そこにはせいぜい十五から十六。
いや、もう少し幼く見える少女がバッグを一つ両腕で抱えて佇んでいた。

栗毛色の腰まであるたっぷりとした髪。
簡素な麻の服だが、それが洒落て見えるスタイル。
容姿は整っている部類に入るだろう。

ただ、その眼は殺気に満ちており容姿の印象よりもそちらが気になってしまう。

あまりに似つかわしくない光景に傭兵も少し驚いたが、
すぐに興味を失くしたように振りかえるのをやめ、ミルクを煽る。

「……」

少女はマスターに言われたことを無視して、カツカツと店内へ足を進め、
傭兵のすぐ横の席へ腰を掛けた。

「おいおい、帰れって言ったのが分からなかったのかい。
 お嬢ちゃんにはミルクだって出す気はないぞ」

少女はマスターの顔を無言のまま睨み付け、
持っていたバッグをどかりとカウンターへ叩き付けるように置いた。

「客よ。傭兵を斡旋してほしいの」

「なに?」

バッグの開くとそこには金貨が詰まっていた。

「お嬢ちゃん、どこでここのことを?」

怪訝そうにマスターが少女に尋ねる。

「どこでもいいでしょう。客は客よ。
 斡旋してくれるの、くれないの? どっち」

「そうかい。ま、いい。
 ほれ、この羊皮紙に依頼内容と報酬金を書きな」

マスターはカウンターの下から羊皮紙とインクと羽ペンを取り出した。
羊皮紙をまじまじと見つめていた少女が再び顔をあげてマスターに尋ねた。

「ねえ、名前を書かないとダメなの?」

「匿名希望ならそれはそれで構わねえが、経験上依頼が受諾されることは少ねぇな」

「そう、なの」

「ま、それでも金額如何では受けてくれる奴もいるがな」

それだけ聞くと少女は黙々と羊皮紙にペンをはしらせていく。
しばらく後、羽ペンを置いて羊皮紙をマスターに渡した。

「書けたわ」

「んじゃ、確認するからちっと待ってな」

マスターが羊皮紙に目を通している間、少女はじっとマスターを見つめていた。
傭兵はその様子を横目で見ながらも口は一切出さずにいた。

「なあ、お嬢ちゃん。一つ確認だが」

「なに」

「この報酬金は間違いないんだな?」

「ええ。ここのバッグにあるのがそうよ」

「なるほどな。オーケイだ。傭兵たちに開示させてもらう。
 とりあえず報酬金の半分を預からせてもらう。
 依頼が受けられようが受けられまいが手数料として――」

「そんなことどうでもいいわ。
 なんなら全部持っていてもらって構わない」

少女はバッグをそのままマスターに預けようとした。
その行動にマスターは眼を瞠りつつも、押し返した。

「信頼してもらえるのはありがてぇが、そういうワケには」

「別に信頼したわけじゃない」

マスターの声を遮りぴしゃりと少女は言い切る。

「お金なんて奪われても構わない。
 私に腕のたつ傭兵さえ紹介してくれれば」

「おいおい、金を奪われたら払えるもんなくなっちまうぞ。
 そうなったらお嬢ちゃんの命だって無事じゃすまねぇ」

「構わない。目的さえ達成できるなら、私の命なんか」

鬼気迫る少女の表情にマスターも思わず圧倒される。
その後、何度か問答があったものの結局気圧されてマスターはバッグを裏へと引っ込めていった。

「また後日、ここへきな。
 依頼が受けられたか教えてやるから」

「わかったわ」

しかし、その承諾の言葉と裏腹に少女は席から動こうとしない。

「お嬢ちゃんどうしたんだい? もう手続きはないぜ?」

「待ってるわ」

「は?」

「だから、ここで待ってるって言ったの」

少女は一点を見つめたまま頑なに動こうとしない。
マスターは肩を竦ませて、大きく息を吐きだすと諦めたかのようにグラスを拭きはじめた。

「よおマスター」

先ほどから黙っていた傭兵がようやく言葉を発した。

「今ある依頼書見せてくれねぇかね」

「いや、今ある依頼書っておめぇさんが――って、そういうことか」

少女の眼が初めて傭兵に向けられる。

「あなた、傭兵なの?」

「まあね。これで喰っていってる程度には仕事してるのさ」

マスターが先ほど少女が書いた羊皮紙を傭兵の目の前に広げて置いた。

傭兵が羊皮紙に目を通す。
そこに書かれていた依頼は、とある人物の捜索だった。

報酬はおおよそデカイ屋敷がニ軒ほど建つほど。
依頼内容にしてはあまりにも高額な依頼である。

「ふむ。ここは探偵の斡旋所じゃないぜ?」

「……」

「それに、探す人物は依頼受諾後に教えるときたもんだ。
 この金額と依頼内容が釣り合ってなさすぎる。依頼として不審な点だらけだ。
 受けてもらえるかすら怪しいと、傭兵視点で言わざるを得ないな」

「……」

「それでも、これで依頼をだすのかい?
 何日も待ちぼうけをくらって、結果受けられないってことになると思うが」

「……」

「だんまりか。まあ俺に話す義理はないしアンタの決めたことだ」

特に感慨もなさそうに、傭兵はミルクを煽る。

「……だってここは、個人的な殺しは請け負ってもらえないんでしょう?」

「傭兵は確かに戦争屋だが、殺し屋じゃないからな」

「なら、見つけてさえもらえば。見つけてさえもらえば、私が殺す」

「ここへ来た時点で尋常じゃない雰囲気を纏っていたが、
 これまた尋常じゃない言葉が出てきたな」

「別に、見つけた後に私がその人をどうしようと傭兵たちには関係ないでしょう」

「ごもっともで」

「もういい? 依頼を受けない人とこれ以上話すことなんてないから」

「はいよ」

傭兵はカウンターの上に散らばってる羊皮紙を
少女の依頼書ごとひとまとめにしてマスターに返そうとした。

「私は、私は殺さなきゃならない。あの救国の亡霊を」

少女が誰に聴かせるわけでもなくこぼれ出た言葉。
それを聞いて、ぴたりと傭兵の腕が止まった。

「とにかく、私はここで待たせてもらうわ」

「はあ、強情だな。アンタも」

「……」

「おーい」

「……」

もう関係ない人間に話す言葉はないとばかりに少女は無視を決め込む。

「じゃあ、俺がこれを引き受けるって言ったら話してくれるかい?」

その一言がよほど意外だったのか、少女は目を丸くしながらこちらを見やった。

「……あなた、腕はたつの?」

「さあ。それなりじゃないか」

「それなりならいらない。
 私は腕がたつ傭兵がほしいの」

今度は落胆の色を浮かべながら少女は傭兵から視線を外す。

「お嬢ちゃん。安心しな。コイツはウチに出入りしている傭兵の中で一番腕がたつ。
 単独で飛龍を狩った奴なんざ後にも先にもコイツ一人だけ。
 龍殺しの異名を持つ傭兵さ」

「あ、マスター、てめ。余計なこと言わなくていいんだよ」

「なに、俺は斡旋屋としてまっとうな営業トークをしただけさ」

少女の眼が再び大きく見開かれる。

「飛龍を? 一人で?」

「あー……とある探検家一行の護衛の際に偶然出くわしてな。
 それで、ついでというか、そんな感じだ」

「……」

少女が今までと違った品定めをするような視線を傭兵に向ける。
数瞬の間があり、ようやく少女が口を開いた。

「受けてくれるの?」

「さっきはあんなこともいったが実入りもいい案件だからな。
 俺でよければその人探しの依頼承りましょう」

「わかった。お願いするわ」

「オーケイ。交渉成立だ。よろしくな、雇い主様」

こんな感じでやっていきます

ふむふむ

なるほど

まだかな?

傭兵は一気にミルクを飲み干すと、おもむろに立ち上がった。

「マスター、奥の部屋借りるぜ」

「あいよ」

マスターはグラスを下げると、代わりに小さな鍵を傭兵に渡した。

「ついてきな、雇い主様」

酒場の最奥に向かって傭兵が歩いていく。
少女は慌てて、傭兵の後ろへ歩を進めていった。
傭兵が壁の前で立ち止まる。

「部屋って、なにも――」

「まあ、みてなって」

傭兵はそういうと壁に空いた小さな穴に先ほど渡された鍵を差し込んだ。
がちゃりと、錠の空いた音は聞こえたが別段何も変わったことはない。
少女が訝しんでいると、傭兵は壁に片手をついてぐっと力を込めた。
ギギイ、と軋む音をたてながら壁の一部がくるりと垂直に回転し始めたのだった。

「隠し扉……!」

「ま、きな臭い場所だからな。こういう仕掛けはあるもんさ」

隠し扉を通り、しばらく歩くと小部屋に辿り着いた。
部屋の中には小さな机を挟んで向かい合うように椅子が二脚並べてあるだけ。
傭兵はそのまま、椅子に座り少女にも座るよう手で促した。

「さあ、詳しく話を聞こう。誰を探してほしいんだい」

「その前に、いいかしら」

「うん?」

「あなたは、五十年前の戦争の結末をどれくらいご存じ?」

神妙な面持ちで少女は尋ねる。

「その話は、これからのビジネスに関係があるのかい?」

「そうじゃなきゃしないわ」

「……ま、人並み程度だな。五つの国があって戦争してて」

「あるときどこからともなくやってきた中隊程度の人数の戦闘集団が
 五つの王国を蹂躙していった、かしら?」

「ああ。そんなもんだ。それで今の統一国家が生まれて現在に至っている」

それを聞くと、少女は目を伏せて黙ってしまった。
話し出す様子のない少女の様子をみると傭兵は背もたれに身体を預け、息を一つ吐いた。

少女はそのまましばらく逡巡していたが、意を決したようにゆっくりと口を開きはじめた。

「私が捜しているのは、その救国の英雄たちの長。
 当時、呼ばれていた通称が≪ヴィーヴル≫。
 ただ、本名かどうかはわからないわ」

ようやくでてきた少女の言葉は、どうにも突飛もない話だった。

「……五十年も前の英雄を?
 もうとっくに死んじまってるんじゃねぇのかい?」

「わからない……けど」

「わからないって、おいおい……。
 先に言っておくが傭兵は墓暴きじゃないからな?
 死んでるとわかったらそこで依頼は達成だぜ」

「けど、私は見たの」

少女の思わぬ言葉に傭兵は言葉に詰まった。

「見たっていうのはどういうことだい?」

「それは……」

しばらくの沈黙の後、少女は再び話しだした。

「ここ数年、元貴族の屋敷が襲われてる事件は知ってるかしら」

「数年前から統一国家になる前の貴族たちの屋敷が襲われて皆殺しにされてるって事件だろう。
 今はもう貴族制は撤廃されたが、被害者の唯一の共通点が元貴族の家系ってことで注目もされている。
 官憲も憲兵隊も血眼になって犯人を捜しているし、なんなら傭兵ギルドにまで依頼が来てるしな」

それがどうしたんだと、傭兵は視線で少女に投げかける。

「……私はその襲われた元貴族家系の生き残りなの」

「ほお」

傭兵は身を乗り出しつつ、目を細める。

傭兵稼業に身を任せている知りたくなくともそれなりに情報は集まってくるものだが、
襲われた貴族の生き残りがいるというのは初耳だった。

「私たちが襲われたのは三年前。
 とても月が綺麗な夜だったことを覚えているわ」

少女は突然立ち上がると着ていた麻の服を脱ぎだした。
傭兵は特に動揺するワケでもなく少女の行動を見ていたが、
少女がくるりと傭兵に背を向けると目を瞠った。

「これが、その時の傷。
 私も生きているのが奇跡的だったんですって」

それは、背中に大きく刻まれた刃の跡。
右の肩口から左の腰に掛けて稲妻のように走った傷跡が痛々しく、そして生々しく残っていた。

「全ての事件で、私だけが生き残った。父も母も姉も弟も殺された中で、私だけが生き残ってしまった。
 そして、私だけが虚ろな意識の中で犯人の姿を見ているの。だから、私は――」

「ふむ。その犯人が、今回探してほしい人物で、救国の英雄≪ヴィーヴル≫なのか」

傭兵は少女の言葉を遮りつつ、今回の依頼の核心を確認する。

「ま、とりあえず服を着てくれ。話を進めよう」

少女は遮られた言葉を飲み込んだままこくりと頷いた。

「まず君が犯人を救国の英雄≪ヴィーヴル≫だと思った根拠を教えてくれるかい?」

そもそも、英雄とはいえ五十年も前の人相を誰が仔細に知っていようか。
市井の人々に伝わっている救国の話は今ではもう半分以上御伽話じみており、
ヴィーヴルは男とも女とも言われているし年齢も子供から老人まで幅広く言説が存在する。

伝説的英雄故に、美化され伝聞されることを避けられないのはもちろん、
人相書きや人物評といった書物の類が何一つ残されていないのがこの救国の英雄の神格化に拍車をかけていた。

つまり顔を見ても、誰も救国の英雄だとわからないというのが実際のところであり、
少女が救国の英雄だと断定するのは少々不自然だと言わざるを得ない。

しかし少女はなにか確信を持っているかのようだった。

「私は……あの襲撃された夜。死の淵で襲撃者の歌を聞いたの」

「歌?」

「『私はヴィーヴル。安寧と混乱と平穏と混沌を喰らい生きる者。
  ああ揺り籠よ、揺り籠よ。常世の全てを眠りへ誘いたまえよ。
  ああ子守唄よ、子守唄よ。常夜の国を目覚めへ誘いたまえよ』ってね」

澄んだ声が小部屋に響き渡る。
その血の海に沈んでいた身で聞いていたであろう歌を歌い終えたころには少女の眦には涙が溜まっていた。

「そのあともぼそぼそと独り言のようにいっていたし、私も瀕死だったから正確じゃないかもしれないけど……。
 眼は霞んでいたし、声も遠ざかる意識の中で聞いていたから男か女かもわからない。
 だけど、この歌だけがあの日から頭にこびりついて離れないの」

「なるほどね。それで『その』ヴィーヴルを探してくれってワケか。
 ちなみに官憲や憲兵には、そのことは喋ったのかい?」

少女は首を横に振り否定の意を示す。

「ま、そりゃそうか。言えないわな」

依頼内容の確認と同時にどうして彼女がここにきたのか得心がいった。

この国における救国の英雄たちの潔癖な信仰は宗教的と言ってもいい。
救国の英雄たちの部隊を模して造り、その理念と信念を受け継いでいると自称する憲兵隊や官憲隊たちはことさらなのである。

そんな中で、救国の英雄のトップが生きており猟奇殺人を繰り返しているなんて主張しようものなら
非難は免れないし、下手をすれば人知れずこの世から去ることになるであろう。

救国の英雄を騙っている犯人がいると憲兵や官憲に主張しても、おそらく救国の英雄の名前はでてこない。
この狂気ともいえる犯行に、僅かにでも関係があることすら彼らは許さないだろう。

むしろ反対に、英雄を貶める行為として糾弾されるほうが可能性としては高いのである。

「だから私はお金で動いてくれる傭兵が必要だったの。
 お金と信頼をイコールで結べる傭兵として優秀な人が」

「俺が優秀かどうかはわからねぇし、身の危険を顧みずに話してくれたことはありがたい。
 ただ俺が熱狂的な英雄信者だったらどうするつもりだったんだい?」

「マスターが一番腕がたつ、それに安心しなって言っていたわ。
 それは傭兵として優秀って意味も多分に含んでいなければ出てこない言葉だと思うから。
 たとえ、熱狂的な英雄信者だったとしてもあなたは感情は別として動いてくれると思ったの。
 傭兵たちが信用を一番に考えているのと同様に、斡旋所も信頼をベースにしてるのは同じこと。
 そのマスターが客に向かって言ったんだから信用するわよ」

少女の眼差しは、真っ直ぐに傭兵を捉えていた。

また次回

やったぜ

待ってるぞ

まだか

まだか

竜殺しの傭兵ってレインみたいだな

マジか半年前なのか…
是非続きが読みたいのだが…

保守

鯖復活記念でほっしゅ

みたい

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