藤原肇「ドラマの主役ですか?」 (8)

はじめてSSを書かせていただきます。
お手柔らかにお願い致します。
モバマスのSSです。

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モバP(以下P):「肇、ちょっと良いか?」
藤原 肇((以下 肇):「なんでしょう?」
P:「肇にドラマの主役の仕事依頼が来ているんだが、受けてくれるか?」
肇:「私が主役ですか?」
P:「あぁ。まだ脚本は出来ていなくて、元の話しかないらしいんだが、俺が読む限りでは、実に肇にぴったりだと思うんだ。作者も、肇をイメージして書かれたそうだ。」
肇:「そうですか。Pさんがそういうなら、やらせていただきます!」
P:「そうか。ではこれがその原作だ。脚本や演出によって多少は変わるだろうが、イメージや役作りには使えるだろうから、読んでおいてくれ。」

女性:藤原肇。陶芸家。人を避け、山奥の小屋で独り生活をしている。
鬼 :大昔の大罪人。死後、地獄にて鬼となる。

 それは真冬のある日、まだ世も開けぬ頃のことでした。月が高く昇っていましたが、粉砂糖のような雪が舞う、実に寒い夜でした。私はその頃、山奥の森の、さらに奥深くに粗末な小屋が建て、そこで暮らしておりました。その夜も私は一人、囲炉裏のそばで眠っておりました。
ふと玄関で物音がしました。そっと目を開けると枕元の山刀へと手を伸ばし、布団の中へと隠しました。
しばらく布団の中で様子をうかがっていましたが、特に変化はないので、再び目を閉じましたが、どうにも気になります。布団から出ると上着を羽織り、玄関へと向かいました。
戸を開けると、そこには一人の女の鬼が座っていました。肩には降り積もった雪が厚く乗っています。
「夜遅くにお尋ねして、申し訳ございません。貴女様にお願いがあって、参りました。」
私は鬼の肩の雪を落としながら言いました。
「話は中で伺いましょう。この様な所ですが、まずはお上がりください。今、火を熾します。」
家の中へと招き入れると、囲炉裏の火を掘り出し、薪をくべて火を大きくします。囲炉裏端に鬼を案内し、肩や頭を拭いてあげました。
「ありがとうございます。私は見ての通り、地獄の鬼でございます。この度はわけ有って人の世に参りました。突然の訪問、誠に失礼いたします。その理由と申しますのは、私、仏の道を知りとうございます。」
「そうは言われましても、私は尼ではないので、教えられることなど、何もございません。仏道を知りたければ、お寺へ行かれてはいかがですか?」
「それが寺へと参りましたら、大勢から『鬼は外!』との掛け声で豆を力いっぱい投げつけられました。痛いのと悲しいのとで、情けなくて逃げてまいりました。他の何所の家でも同じこと。私、このときほど、この姿に身を落としたことを嘆いたこともありません。途方にくれて、森の中を隠れながら歩いておりましたら、貴女様の家が見つかりました。こちらのお宅だけが、そのようなことをされることがありませんでした。そこで失礼ながらこっそりと、お邪魔させていただいきました。」
「そういえば、昨日は節分でしたね。私はわざわざ豆をまくのももったいないので、もう何年も豆まきをしていませんが。」
「今でこそこのような姿に身を落としておりますが、私も百年前は人でありました。もちろん、このように身を落とす次第でございますから、その生き様は、酷いものでございました。ある日、とある事情から、やむなく盗みを働きましたところ、見つかってしまいまして、組み合っているうちにその者を殺めてしまいました。どのような理由があれども殺しは殺し。私は追われる身となりました。
 そうなってはもう、生きるためにあらゆることをしてまいりました。盗みや殺し、脅しを繰り返しているうち、人の心も薄れ、いつしか『鬼』と呼ばれるようになっておりました。
 そうこうしているうちに人の生も終わりを迎え、地獄のあらゆる責め苦も覚悟しておりましたが、私に与えられたのは、地獄で鬼となり、落ちてきた者たちを責め立てるお役目でございました。どのような罪人も、始は好きで罪を犯すものなど、ありませぬ。そのことを知る身として、これはあまりにも辛い罰でございました。しかし、これが因果というものでしょう。私は涙をこらえて、そのお役目を全うしてまいりました。
 そうして百年が過ぎ、私も仏の道を知りたく思い、閻魔大王様に願い出て、一月の暇を頂き、こうしてお邪魔させていただいた次第でございます。」
鬼は、語り終えると、目から一粒、涙を落としました。
「そうは申されましても、この通り、私は尼でもなければ、その道を志したこともございません。聞きかじりのことしか教えられませんが、それでもよろしいですか?」
「貴女様はこうして、鬼となった私を見ても追い出そうとせず、家の中へと招き入れ、さらには話も聞いて下さいました。これ以上の師はございますまい。」
私はその言葉に衝撃を受け、姿勢を正して頭を下げました。
「わかりました。それでは一月の間、よろしくお願い致します。」

 朝食後、私が鬼に渡した課題は、「般若心経の写経」でした。というより、私が教えられる唯一のことが般若心経でした。しかし、鬼は実に真面目に、毎日何度も、それを繰り返しました。はじめは字の読み書きはおろか、筆の持ち方、墨のすり方、何も知りませんでした。すべて一からの手習いでした。大きな手で、優しくつまむように墨をもち、そっと擦っておりました。筆を使うより、指に墨をつけて書くほうが早そうなのでそうさせました。
筆を持つのも初めてだったらしく、両の手で細い筆を持ち、上を下に、右に左に持ち替えている様は、なんとも愛らしく、自然と笑いがこみ上げてきました。が、当の本人は真剣です。どうにか笑いをこらえていたが、顔の正面にかざして筆を睨みつけた時にはこらえきれずに噴出してしまいました。
「師匠、笑わないでください。筆なんて持つのは初めてなんです。」
情けない顔をしてそう言うものですから、尚更笑えてきます。笑いというのは、一度堰を切ると、なかなか止まらないものですが、どうにか抑えて、謝りました。
「すみません。あまりに鬼らしからぬ、なんと言うか、可愛らしかったものですから、つい笑ってしまいました。」
言い終わると、また笑いがこみ上げ、今度は二人で笑いました。笑いながら、私はふと、思いました。このように声を上げて笑ったのはいつ振りだろうか。この前に心から笑ったのは、いつだったか。人との交わりを極力絶ってから、何日も誰とも口を利かないことなど、よくあることでした。生業としている陶芸の品を売る時も、必要以上のことは話しませんでした。そのことに気付き、いつしか、笑いながら泣いていました。頬をつたう物の意味を忘れかけてしまうほどに、泣いたのもまた、久方ぶりのことでした。解放された涙はとめどなく流れ続け、頬を濡らし、いつしか私は、子供のように声をあげて泣いていました。そんな私を、鬼は不思議そうに黙って見ていた。
ある程度書けるようになると、鬼は一字一句、意味を問うてきました。そして経の意味を知って後は、さらにその奥のことを問うてきました。私もわかる範囲で応え、わからないことについては、共に考えました。二人で考えると、自分では全く気付かない疑問に出会ったりもするものです。そのような時は、どちらが師だかわかりませんねと言い、やはり二人で笑いました。
成り行きのように始まった付き合いでしたが、毎日師匠、師匠と懐かれれば、たとえ相手が鬼であろうと、くすぐったくもあり、うれしいものです。昼夜を問わず没頭し、質問をする鬼に、少しの意地悪を言ったこともあります。そんな時はいつも決まって、悲しそうな、困ったような顔をして、申し訳ないと言うのでした。時には意見の違いから口論もしました。共に山に入って薪を集めた時は、さすがにその力に感心した。いつしか彼女は、私の最も大切な友となっていた。
ある時、鬼は私に訊ねてきました。
「師匠はなぜ、このように人との交わりを避け、人里を離れて暮らしをしているのですか?」と。
思えば、その理由も遠く色褪せていることに気が付きました。当初は、様々な理由がありましたが、何度も春を迎えているうちに、今ではただ、心地よいから、となっていました。幸い、養うべき家族もいないので、この自由気ままな暮らしはこの上なく性に合っていたのです。
正直にそう応えると、鬼はこちらを真っ直ぐにみながら、こう言ってきました。
「寂しいと思ったことはございませんか?」
「そうですね。始めたばかりの頃ならば、時々は寂しく感じたかも知れんが、ここの暮らしもなかなかに賑やかでして。鳥も来れば獣も通ります。季節に合わせて様々な花が咲きます。それだけでも私には十分楽しいものです。それに、時には仏門を志したいという、妙な鬼が訪ねてくれますし。」
そう言って見ると、鬼は照れたように笑っていた。
そうこうしているうちに、約束の一月が経とうとしていました。

最後の朝、鬼は改まって居住まいを正すと、頭を床につけたまま、話し出した。
「一月の間、本当にお世話になりました。これで閻魔大王様の前にも堂々と報告ができます。私がこのような因果を背負った理由も、見えてきました。しかし、どうしてもわからぬことがございます。それを最後の質問とさせてくださいませ。」
「どのようなことでしょうか?」
「繰り返し出てきます、『すべては移り変わるものであり、実態なきものである』という部分でございます。この命もまた、いつか絶えるもの。それゆえ、この命をどう使うかが肝心であることもわかりました。しかし、わが身のひもじさは耐えられても、わが子が『ひもじい』と泣く声は、どうして耐えられましょうか。子供に何の罪がございましょうか。私はそれゆえに、最初の罪を犯しました。私は、いったいどうすればよかったのでしょうか。」
 私はしばらく声すら出せませんでした。私ならば、どうするでしょうか。半時ほども考えましたが何の糸口もみつからないまま、俺は口を開いた。
「すみません。私にはわかりません。わかりませんが、これは私の持論で、私の勝手な解釈ですが、こう思います。その問いを追求していくことこそが、道を求めるということなのではないでしょうか。」
 鬼はしばらく、まっすぐにこちらを見ていましたが、やがて再び頭を下げました。
「ありがとうございます。私も、それを追求してまいろうかと思います。」
「そうですか。もし何処かで菩薩にでもあったなら、訊いてみてください。私の考えが正しいとは限りませんので。」
こうして私は鬼と別れました。今生で縁ありしものは、来世でも何かしらの縁があるといいます。あの性分ならば、おそらく次に会う時は、こちらが教えを請う立場になるでしょう。その折には、この一月の記憶はないでしょうが、実に楽しみです。少し意地悪をした時に見せた、なんとも困った顔を思い出し、私は一人、小さく笑いました。
明日、里に下りてみましょう。そして今後は、もう少し人と交わって生きていきましょう。鬼との一か月間で、私の心にも大きな変化が生じていました。
ふと玄関前の梅を見ると、気の早い蕾が膨らみはじめ、メジロ達が澄んだ空に春の予感を歌っていました。

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以上です。ありがとうございました。

乙、読みにくいから改行してほしかったな

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