ほっしゃガール【サガフロ風味】 (13)
高速道路を走るバスの中、SS女学園の生徒達は、これから始まる修学旅行に浮き足立っていた。
だが、皆がお喋りに興じる中、A子は一人ソワソワとした心持ちだった。
なぜなら隣りに座っているB澤。彼女が手に持つ物が気になって仕方がなかったのである。
だがB澤との間柄は普段に会話した記憶もない程度よ。しかるにA子は聞きたくても聞けずにいた。
しかし、なにせ移動時間は長い。どうせならば、この機会に仲良くなってバスでの時間を充実させようとA子が思うのも無理からぬ事であった。
A子「ねえB澤さん。さっきから何をしているんですか?」
B澤「ん?ああ、コレ。気になる?不快だったらゴメン」
A子「いいえ。不快ではありません。私はB澤さんの指先で長時間の回転運動をしているソレが単純に気になったのです」
B澤「へえ、知らないんだ。ハンドスピナーって言うんだよ」
A子「ハンドスピナー!?そういえば風の噂で聞いたことがあるように思えます。なんでもメリケンで大流行だとか」
B澤「そんな物欲しそうな顔してからに。なんならちょっとやってみるかい?世界中で一大ムーヴメンツを巻き起こしている、この…ハンドスピナーを……ッ!!」
なんたる僥倖。A子ときたら、ここぞとばかりにハンドスピナーを受け取り指先に置いて回した。
否、回そうとした。
ピコーン!!
その時、A子の頭上に電球走るッッ…!
突然に固まったA子を不審に思うてか、B澤が怪訝な顔で「どうした?」と心配する。
それに対しA子は、ただただ事実を口にした。
A子「どうしましょうB澤さん。私……雲身払車剣を閃いてしまいましたわ………」
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説明しよう!
雲身払車剣。それは剣技の中でもとりわけ強力な全体攻撃技である。
雲身……雲のようにサァッとその身が掻き消えたと思えば、次の刹那、全ての敵の前に分身として現れ、払車剣……巨大な滑車で敵を切り刻み大ダメージを与えるのだ。
このバスという閉鎖空間の中。
雲身払車剣を繰り出せば無事ではすまない。しかし、しかしだ。A子は閃いてしまった。閃いてしまったのであれば、それはもう…
A子「どうしよB澤さん…。雲身払車剣したい……雲身払車剣をしたいよぅ……!」
B澤「待て!待つんだ畜生!なんでハンドスピナーで雲身払車剣を閃くんだよ…!?」
A澤「ごめんね。ハンドスピナーが回るのを見て、払車剣を連想してしまったの。だから、仕方ないのですよ」
B澤「最悪だ!こんな所で雲身払車剣したら、阿鼻叫喚の地獄絵図だろうに!それが分からない君じゃない筈だ!」
A子「だって、だって閃いてしまいましたもの!
試さずにはいられません!
ならばB澤さんだって仮に今この瞬間、神速三段突きを閃いたとしたら、試さずにいられるんですか!?」
B澤「ぐっ…!だが神速三段突きは単体のみの攻撃だ。全体攻撃の雲身払車剣はやはり危険なのだよ!」
A子「論点を雑にすり替えよってからに!違うでしょう!今は、閃いた技を我慢できるか否かの話なのです!
私は……我慢できないですよ?」
A子がハンドスピナーを握る手にも力が篭もる…!
B澤「やめろォ!!すごくやめろォ!!」
咄嗟!
B澤は己の直感に確信して、A子のハンドスピナーを奪わんとその腕を伸ばす。
ハンドスピナーが払車剣を連想させた元凶なら、その発端を取り除ければ雲身払車剣を阻止できると考えたのだ。
そしてそれはおそらく正解だ。A子の雲身払車剣を止めるには、ハンドスピナーを奪う他あるまいよ。
だが、B澤はひとつ思い至らねばならなかった。
A子の、高ランク技である雲身払車剣を閃けられる程のA子の実力を!
A子「ディフレクトッッ!!」
B澤「ぐぬぅッ!?」
突如、見えない壁に遮られ、B澤の腕が弾かれた。
ディフレクト…。ランダムオートで発動する防御技で、発動すればあらゆる攻撃を無効化する!
A子「ふふふ。ディフレクトで良かったですねB澤さん。もう少しで喪神無想が出るところでしたよ?」
B澤「テメェ……!」
説明しよう!
喪神無想。それは、まごうことなくカウンター技である。
特徴としてディフレクトやかすみ青眼のようなオート発動ではなく、コマンド技ということだ。
それ故に使い所が難しいのが悩みではあるが、一般的に剣技で最強と言われている技「無月散水」を上回る高火力を誇る!
なので間違ってもクラスメイトに繰り出していいような技ではあるまい。
B澤「頭イカれてやがる」
A子「あはははは!自らの力を思うままに振る舞いたい。これは人間として当然の欲求でございます」
B澤「それを律してこその人間だろうに…!」
A子「克己しろと?残念ながら私、邪術の資質を持っていまして、心術は覚えられませんことよ。かんらからから!かんらからから!」
B澤「ガールズトークの限界を感じるね。いいぜ。何が何でもお前に雲身払車剣はさせねぇ。絶対にだ!」
A子「力なき意思ほど滑稽なものはありませぬ。その息の根とめてくれよう!」
ババーン!
バス内の不穏な空気を察してか、すかさずに伊藤賢治の戦闘BGMを車内に流す運転手よ。
A子「ぐぉぉぉ……!何故だぁぁ……何故私は負けるのだぁぁ……!!?」
激しい戦闘の末、遂にA子の手からハンドスピナーを離すことに成功せしめたB澤。否、B澤『達』!!
B澤「これで最後だ…!」
C美「さあトドメを刺すでざますよ!」
D江「いくでガンス!」
E川「フンガー!」
F乃「まともにやりなさいよ!?」
そう、仲間の力だ!
一人一人の力は及ばずとも、力を合わせれば強大な敵にも立ち向かえる。それによって可能たらしめたのが何を隠そう『連携』である!!
BCDEF「跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾!!!」
A子「そ、そんなお手軽連携でぐわああああああああ…ガクーッ!!」
B澤「A子、お前は強かったよ。しかし、間違った強さだった」
タタタ ターターッタ チャーッチャーン(勝利BGM)
勝負に負けたA子。ああA子よ。しかしその顔は、まるで憑き物が落ちたように晴れやかであった。
A子「ごめんね。私、みんなに迷惑かけてしまいました」
B澤「なぁに気にすんなって。それにハンドスピナーも私の手元に戻ってきた事だし。
ククク…、この黒のハンドスピナーこそが真の力のスピナー。この力があれば何だって出来る…!修学旅行の行き先をカブトガニ博物館にすることだって!さあバスよ!ただちにカブトガニ博物館に向かうんだッッ!!」
運転手「ひぇぇえー!?」
C美「B澤!気でも触れたか!?」
D江「やはりね…。ハンドスピナーの力に冒されているわね」
A子「B澤さんは私に本当の強さを教えてくれました。だから今度は、私がB澤さんに本当の強さを教えてあげる!
B澤さんと戦ってでも!ねえ皆!!」
「「「「応ッ!!」」」」
A子の呼び掛けにバス中から同意の声ぞ湧く!
今やこの空間、B澤以外の全てがA子の仲間よ。
そうだ仲間だ!
おわかりだろうか?いかなる全体攻撃とはいえ、仲間に危害を加える技は無い!世界はそのように出来ている。
ならば結論は一つ、煌めくは勿論あの技、今ぞ解き放て!!
A子「 雲 身 払 車 剣 !!! 」
ズギャギャギャギャァァアーッ!!!
勝敗は決した。
雲身払車剣はその類稀なる回転力で以て、ハンドスピナーなる物体を粉砕せしめたのだ!
B澤はハンドスピナーを失ったショックで倒れたが、しばらくすると意識を取り戻した。
B澤「う……うぅん…?」
A子「気が付いたわ!」
B澤「そうか私は気を失って…。すまねぇ。私とした事がハンドスピナーの魔力に操られていたようだ」
A子「いいのよ。みんな無事だったんだから気に病むことはありませんわ」
B澤「そうはいかない。畜生!ハンドスピナーは私のカブトガニ博物館に行きたい欲に付け入った。欲望のままハンドスピナーに身体を預けた私の落ち度だ」
A子「だったら…、今度一緒に行きましょうよカブトガニ博物館に」
B澤「……いいのか?私なんかと一緒で?いいのか?カブトガニ博物館なんかで?」
A子「もちろんです。B澤さんと一緒なら、きっと何処だって楽しいわ。たとえそれがカブトガニ博物館だとしても多分?おそらく?きっと?もしかしたら?楽しい?に決まって?いるわ!
だって私たち……友達じゃない!」
B澤「ともだち……」
A子「あれだけ己を晒しあってぶつかったんだもの。そうです友達なのです。それとも、そう思っているのは私だけなのでしょうか…?」
B澤「そんな事はない。ああ。確かに私達はもう友達だ!」
A子「……嬉しい!」
かくして、ここに一つの友情が芽生えた。
ハンドスピナーが、雲身払車剣が、カブトガニ博物館が結んだ何よりも熱い友情だ。
その後、修学旅行のバスはタンザーに飲み込まれてしまうのだが、それは、また、別のお話。
完!
ありがとうございました。
余談ですが払車剣は「ほっしゃけん」と読むらしいそうです。
けど自分は頑なに「はらいしゃけん」と読み続けようと心に誓っています。
これすき
あっちの板といいサガフロSSが流行りかな?
なつか死www
跳弾連携はなぁ……
ロザリオインペールが好きでした
ライジングノヴァで打ち上げてから落ちたところにロザリオインペールで追い打ちする流れ好き
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