ルパン三世「深窓のガンスリンガー・ガールに花束を」 (230)

―ローマ市内 路地裏―

クラエス「――ラバロさん。終わりました」

ラバロ『よし。すぐに合流ポイントにこい。警察が騒いでる』

クラエス「何かあったのですか」

ラバロ『大捕り物があったんだろうな。いいから早くこい』

クラエス「はい」

ルパン「――よっとと。ふぅー。今回も俺の勝ちだぜ、とっつぁん。ぬふふふ」

クラエス「……あ」

ルパン「さぁて、次にお宝を……。ん?」

クラエス「……ラバロさん。見られました」

ラバロ『そのときの対処法は教えただろ』

クラエス「はい。――殺します」チャカ

ルパン「なに?」

クラエス「……」ババババッ!

ルパン「がっ……ぎぃ……!?」

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銭形「ここか」

「はい。こちらです」

銭形「……この死体は?」

「現在、身元確認中です。ですが、テロリストグループの一員ではないかと」

銭形「この辺りなら、五共和国派か」

「恐らくは」

銭形「ふんっ。早くこんな国からは出て行きたいものだ」

「銭形さん、こちらに来てください」

銭形「どうした?」

「美術館から盗まれたものが……」

銭形「ここに落ちていたのか。では、ルパンはどこに消えた?」

「わかりません。ですが、ここに大量の血痕があります。そこに転がっている死体と撃ちあいになったのではないかと」

銭形「……まだなんとも言えんな。奴が簡単に撃たれるとは思えん」

「そうですか」

銭形「聞き込みを始めろ。もう1人いたかもしれんからな。それから死体をよく見せてくれ」

―社会福祉公社 寮―

クラエス「ただいま」

トリエラ「おかえり。どうだった?」

クラエス「知らない人に現場を見られたわ」

トリエラ「ふぅん。間が悪かったか」

クラエス「本当に間が悪い人だと思った」

トリエラ「でも、仕方ないよ。見られたら困るし」

クラエス「そうね」

トリエラ「それより、聞いた?」

クラエス「さぁ、聞いたかもしれないわ」

トリエラ「ローマにある大きな美術館から高価な展示物が盗まれたって話。さっき、ヒルシャーさんとジャンさんが話してたんだ」

クラエス「その所為で、多くの警察が動いているってラバロさんも言ってた」

トリエラ「名前はルパン三世。予告状を出してから盗むくせに、正体は未だに不明なんだっけ」

クラエス「悪い人みたいね。それだけは知っているわ」

トリエラ「だったら、いつか正義の味方にやっつけられるかもね」

―アジト―

ルパン「う……」

次元「よぉ、ルパン。目が覚めたか」

ルパン「……」

次元「自分が誰か覚えてねえなんていわねえよな?」

ルパン「あぁ……。つっ……!?」

次元「無理するな。お前は致命傷を負ったんだからな」

ルパン「どれぐらい寝てた……?」

次元「一週間だ。お前が寝ている間に、食料がいくつか腐った。あとでお前に食わせてやるよ。柔らかくなって食べやすいだろうしな」

ルパン「やめてくれよ。腹が余計に痛くなるだろ」

次元「……で、誰にやられた?」

ルパン「ガキだ。H&KVP70なんてもってやがる、メスガキだった」

次元「はっはっはっは。冗談きついぜ、ルパン」

ルパン「流石の俺様も油断しちまったよ。生きてるのが不思議なぐらいだ」

次元「俺が拾ってやらなきゃ今頃は舌でも抜かれてる頃だろうがな。暫くは絶対安静だとよ。闇医者の言うことだから信じなくてもいいけどな」

ルパン「……マジだかんなぁ」

次元「顔は見たのか?」

ルパン「ああ。見た」

次元「どうするよ。都会の路地裏で拳銃振り回してるガキなんて、狂ってるだけだ。関わるのはやめたほうがいい」

ルパン「ぬふふふ。次元、そうはいかないだろ。礼はさせてもらうつもりだ」

次元「ま、お宝は回収できなかったしな」

ルパン「そういえば、お宝はどうしたんだ?」

次元「お前、自分の言ったこと覚えてねえのか?」

ルパン「なぁんだ。ちゃんと守ってくれたのか。それならいいんだよ」

次元「お前は稀におかしなことを言うからな。付いていく身にもなってくれ」

ルパン「感謝してるって。でな、ついでにやって欲しいことがあるんだけど、いいか?」

次元「下の世話までする気はねえぞ」

ルパン「そこまで耄碌はしてねえよ。集めてほしいものがある」

次元「ポルノムービーか。変態がよく見るような」

ルパン「察しがいいな。ぬふふふ。極上のを出来る限り集めてくれ。寝てる間にもやれることはやっておきたいからな」

―社会福祉公社 寮―

トリエラ「――それじゃ、クラエス。行ってくるから。ヘンリエッタとリコのことお願いね」

クラエス「ええ」

トリエラ「んー……」

クラエス「了解」

トリエラ「よろしい」

クラエス「早くしないとヒルシャーさんに怒られるんじゃない? 仕事でしょ?」

トリエラ「あの人は怒らないから、遅刻程度ではね」

クラエス「それでも時間ぴったりに出て行くトリエラであった」

トリエラ「別に私は――」

ヒルシャー「トリエラ、準備はできたか?」

トリエラ「は、はい。できてます」

ヒルシャー「行こう」

トリエラ「あの、今日はどこへ行くんですか?」

クラエス「(今日の予定は……映画と……実験もあったかな……)」

―廊下―

クラエス「(あ……ジャンさん……)」

ジャン「リコには始末させておいたし、ホテル従業員の殺害もテロリストの犯行ということで片付けた」

ジョゼ「そうか。だが、死体が現場に増えればそれだけ漏洩のリスクも大きくなる。今後の課題かもしれないな」

ジャン「そうだな」

クラエス「こんにちは、ジョゼさん、ジャンさん」

ジョゼ「クラエス。今からか?」

クラエス「はい」

ジャン「そんな時間か。そろそろ行くか」

ジョゼ「次はどこへ?」

ジャン「俺たちが行く場所は大体同じだろう。血と硝煙の臭いしかしない場所だ」

ジョゼ「それはここのことでもあるぞ」

クラエス「あの、ヘンリエッタは今どうしていますか?」

ジョゼ「部屋にいると思うが、何かあるのか?」

クラエス「いえ。お節介なルームメイトに様子を見ておくようにと頼まれてしまっただけです。では、失礼します」

―ヘンリエッタ・リコの部屋―

ヘンリエッタ「……」

クラエス「ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ「あ、クラエス。どうかしたの?」

クラエス「何してるのかなって思って」

ヘンリエッタ「今は待機中なの。ジョゼさんがもうすぐ迎えにくるって」

クラエス「ああ。午後からは訓練だっけ?」

ヘンリエッタ「うん、そうだよ」

クラエス「そう。なら、いいか」

ヘンリエッタ「何が?」

クラエス「姫様には王子様がいるみたいだから、騎士は余計だってこと」

ヘンリエッタ「……?」

クラエス「こっちの話だから、気にしないで。ま、トリエラとの約束は果たせそうにないけどね」

ヘンリエッタ「トリエラとの約束って?」

クラエス「姫様のお世話よ」

ヘンリエッタ「それって、私のこと?」

クラエス「自分が姫だと自覚があるということは、相当なナルシストね。今日から砂糖女じゃなくてナルシスト女と呼ぼうか?」

ヘンリエッタ「やめてよぉ」

クラエス「あはは。冗談よ」

ヘンリエッタ「うぅ……」

クラエス「ところで、さっきジャンさんが話してたけど、前の任務で何かあった?」

ヘンリエッタ「ああ、うん。リコが無関係な男の子を撃ったの」

クラエス「そう。間が悪かったのね」

ヘンリエッタ「ジョゼさんも同じこと言ってた」

クラエス「ま、仕方ないわね。見られたら困るもの」

ヘンリエッタ「そうだね。でも、その男の子ね、リコと知り合いだったみたいで」

クラエス「……」

ヘンリエッタ「リコはまたその子に会ったら楽器の演奏をしてあげたいって言ってたんだけど……」

クラエス「そう……」

クラエス「(本当に間が悪い。そういう人っているのね)」

―警察署内―

銭形「まだ分からんのか?」

「何分、情報が……」

銭形「全く。1人の行方も追えんとは。ここの警察も大したことはないな」

「しかし、相手はあのルパン三世ですよ」

銭形「そちらではない」

「え……?」

銭形「ルパンを撃った人間のほうだ」

「そちらも目撃情報が皆無です。それに本当にいたかどうかも……」

銭形「あの死体は頭と胸を撃たれ即死。しかもかなり至近距離から撃たれていた。だが、もう一つの血痕は死体から10メートルは離れていただろう」

銭形「撃ちあいをしたというのは不自然だ。ルパンがゾンビと撃ちあったのなら別だがな」

「確かにそうではありますが」

銭形「ワシも捜査に向かう。誰かついてきてれないか」

「無理ですよ。先日のマスカール下院議員暗殺の件で殆どが出払っていますから」

銭形「ちっ。政治家殺しの犯人より、ルパンを捜索したほうがよほど世界平和に繋がるというのに。こうなったらワシ一人でもルパンを追い詰めてみせる」

―アジト―

ルパン「……」

不二子「はぁい、ルパン。お見舞いに来てあげたわよ」

ルパン「よぉ。不二子。久しぶりだな」

不二子「半年ぶりぐらいかしら? 五ェ門から聞いたわよ。もう三ヶ月はベッドの上だってね」

ルパン「ぬふふ。そうなんだよ。まだ、満足に動けねぇ」

不二子「例の美術館から盗んだものも捨てちゃったんでしょ? どうするのよ」

ルパン「だから今、これを見てる」

『ハハハハ――アアア――』

不二子「……あら、いつから小さな女の子に興味が沸いたの?」

ルパン「鉛を腹に受けてから嗜好が変わったみたいでな。ここ数週間はずっとこれを見てるのさ」

不二子「ふぅん。随分、溜まってるのね」

ルパン「男だからな」

不二子「あら、可哀相。この子、腕切られちゃったわね」

ルパン「その前に薬漬けになってるから、痛みも何もねえだろうなぁ。このあと眠るように死んでいけるだけ、幸せだろ」

次元「ルパン、また届いたぞ」

ルパン「ごくろーさん。そこに積んでてくれ」

次元「あいよ」

不二子「はぁい、次元。お久しぶり」

次元「何してやがる。お前もスナッフムービーを観賞していくか? 今ならルームシアターでも上映できるぜ?」

不二子「いやよ。そんな趣味はないもの。今日はルパンの様子を見にきただけ。でも、これじゃ仕事はできそうもないわね」

ルパン「わりぃな。また来てくれ」

不二子「復調したら連絡を頂戴ね」

ルパン「あいよ」

次元「けっ。おい、ルパン。また変な手伝いをされかねんぜ。今のうちに断っとけよ」

ルパン「心配すんなって。今はこっちにしか興味ねえから。次の取ってくれ」

次元「ほらよ」

ルパン「どうも」

次元「お前を撃ったガキはポルノデビューしてたか?」

ルパン「いやぁ。まだ見当たらねえのよ。ああいったガキはこういうところにいることが多いんだけどなぁ……」

次元「まぁ、全員がこういうところで腰を振ってるってわけでもねえだろ」

ルパン「家業を継いだとかか?」

次元「それか英才教育を受けているお嬢様か、だな」

ルパン「それにしちゃあ、手が雪みてぇに綺麗だったんだけどなぁ」

次元「日ごろから銃を握ってるなら、穢れていくはずだからな」

ルパン「ぬふふふ。だよなぁ。次元の手も醜いったらありゃしない」

次元「その手で介抱されたお前はどうなるんだよ」

ルパン「俺はもう汚れる余地なんてねえだろ。だから、いいんだよ」

次元「何がいいんだ。全く」

ルパン「こいつでもないな。あー。やっぱり、ハズレか」

次元「手がかりが無くなったか」

ルパン「白旗を振るのは全部見終わってからだな」

次元「あと100枚はあるぜ? 気が狂いそうにならねえのかよ」

ルパン「一周回って悟りを開いちゃうかもしれねえなぁ」

次元「はっ。てめえが悟ったら神様を信じてもいいかもな」

―ローマ市内―

銭形「くそぉ……」

銭形「(あまりに情報が無さ過ぎる。何故だ……)」

銭形「(ルパンを撃った者などいないのか。それとも撃った者を誰かが隠しているのか……)」

銭形「……」カチッ

銭形「ふぅー……」

トリエラ「……ごほっ」

銭形「ん? これは失礼した」

トリエラ「いえ。気にしないでください。少し咽ただけですから」

銭形「……学校はいいのか?」

トリエラ「……」

ヒルシャー「トリエラ、待たせたな。次へいこう」

トリエラ「はい」

銭形「保護者付きか……」

トリエラ「(フラテッロよ)」

―社会福祉公社 射撃訓練場―

ヘンリエッタ「……」パァン!!

ジョゼ「よし。今日はもういいだろう」

ヘンリエッタ「あの、どうでしたか?」

ジョゼ「ああ。技量に関しては申し分ないさ」

ヘンリエッタ「あ、ありがとうございます」

ジョゼ「さ、部屋に戻ろうか」

ヘンリエッタ「はい」

ジョゼ「(あとは感情を上手くコントロールできればな……)」

ロレンツォ「――ジョゼ。いいか?」

ジョゼ「はい。ヘンリエッタ、一緒に行こう」

ヘンリエッタ「はい」

ジョゼ「何かありましたか?」

ロレンツォ「ヒルシャーから報告があった。五共和国派の潜伏先が割れたそうだ。マスカールの一件で濡れ衣を晴らそうと動いている連中もいるようだな」

ジョゼ「晴らそうとした分だけ寿命が短くなるのは皮肉と言えるでしょうか」

―会議室―

ロレンツォ「ここに数名いるのが確認できたそうだ」

ジョゼ「決行はいつになりますか?」

ロレンツォ「ジャンとヒルシャーが戻り次第詳細については決めるが、相手の規模から言って数日以内には踏み込めるだろう。移動されては面倒だからな」

ジョゼ「国家警察の動きは?」

ロレンツォ「先手は打てる。そちらの心配しなくてもいいだろう」

ジョゼ「わかりました」

ロレンツォ「今度はお前とヒルシャーにやってもらうことになるだろう。頼むぞ」

ジョゼ「はい。問題はありませんよ」

ロレンツォ「あれからヘンリエッタの調子は?」

ジョゼ「あのときの状況になってみないことにはなんとも言えません」

ロレンツォ「次、命令を無視し暴れるようなことがあればジャンのいうとおり、条件付けの強化は避けられんかもしれんな」

ジョゼ「……ヘンリエッタは優秀ですから、必要はないと思います」

ロレンツォ「優秀だからこそ困るんだ。ジョゼ、お前は一課が望んでいることを叶えようというのか? 下手をするれば義体を失うだけでは済まんぞ」

ジョゼ「いえ……そんなつもりは……」

ヘンリエッタ「……」

ジョゼ「行こうか、ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ「はい。あの、次の仕事ですか」

ジョゼ「ああ。隠れ家が見つかったそうだ」

ヘンリエッタ「今度は、あの……」

ジョゼ「大丈夫だよ。いつものヘンリエッタなら失敗することはない」

ヘンリエッタ「は、はい。私、がんばります」

ジョゼ「今日はもう休むといい。お疲れさま」

ヘンリエッタ「ジョゼさん、ありがとうございました」

ジョゼ「ああ……」

ジョゼ「……」カチッ

ジョゼ「……いや、煙はやめるか」

ジョゼ「資料にでも目を通しておくか」

ジョゼ「(失敗はしないんじゃない、できないんだ)」

ジョゼ「(尊敬され続ける兄でいるもの、楽じゃないな)」

―警察署内―

「お帰りなさい、銭形さん」

銭形「嫌味にしか聞こえん。やめろ」

「ルパンの行方はわからなくても、マスカール殺しの件は片付きそうですよ。そうなればルパン捜査にも人員を割けます」

銭形「五共和国派の一派なのだろう。そこまで判明していて何故迅速に片せんのだ」

「相手が相手だけに慎重にもなりますよ。月夜だけなんて誰も思っちゃいませんしね」

銭形「報復に怯えるぐらいなら、手錠と拳銃は置いていけ」

「無茶いわないでくださいよ」

銭形「……そういえば、例の死体は五共和国派で確定したのか」

「ええ。報告書は上がってませんか?」

銭形「そちらから攻めるのを失念していたな」

「どういうことですか?」

銭形「マスカール殺しの犯人はワシが逮捕し、取り調べる」

「え? それはちょっと困ります。国家警察の連中だって腰をあげている。勝手なことはしないでください」

銭形「ワシを止めたいのならICPOの長官に頼め。容疑者はどこにいるんだ、言え」

―数日後 市内アパート―

銭形「……」

銭形「(資料によればここだが、本当なのか。人の気配はせんが……)」

銭形「……!」

銭形「(いや。嗅ぎなれた臭いがするな……)」

フェッロ「あの、すみません」

銭形「……なんだ?」

フェッロ「今、ここには凶悪犯が逃げ込んでいます。危険ですので一般の方は外に出てもらえますか」

銭形「貴方は?」

フェッロ「警察ですよ」

銭形「同業者か。よかろう。ワシもここにテロリストがいると聞いてやってきた」

フェッロ「え……」

銭形「ICPOの銭形だ」

フェッロ「ICPO……?」

銭形「なんだ? 顔色が曇ったようだが?」

>>34
ロレンツォ「優秀だからこそ困るんだ。ジョゼ、お前は一課が望んでいることを叶えようというのか? 下手をするれば義体を失うだけでは済まんぞ」

ロレンツォ「優秀だからこそ困るんだ。ジョゼ、お前は一課が望んでいることを叶えようというのか? 下手をすれば義体を失うだけでは済まんぞ」

>>37
銭形「なんだ? 顔色が曇ったようだが?」

銭形「なんだ? 顔が曇ったようだが?」

フェッロ「そんなことはありません。頼もしい限りです。いきましょう」

銭形「ああ」

フェッロ「(ジョゼさん。ICPOを名乗る男がアパート内に入っていきます)」

ジョゼ『ICPOだと。そんな話は聞いていないぞ』

フェッロ「(しかし……)」

銭形「どこと電話しているのかね?」

フェッロ「……いえ」

銭形「ふんっ」

ジョゼ『ヘンリエッタとトリエラは既に配置についている』

ジャン『構わない。消してしまえ』

ヒルシャー『いいのですか? 国籍も分からないのに……』

ジャン『こういう場所で死体が増えても誰も気にしない』

フェッロ「(了解)」

ジャン『ICPOの男が目標の部屋に近づき次第、ヘンリエッタ、トリエラを突入させる。いいな』

銭形「……ここから臭うな」

フェッロ「(対象が目標の部屋の前にいます)」

銭形「……」コンコン

「――誰だ?」ガチャ

銭形「私はICPOの――」

ジャン『始めろ』

ヘンリエッタ「……っ」ダッ

銭形「む……!?」

ヘンリエッタ「……」バララララッ!!!

銭形「おぉう!!!」

「ぐあぁっ!?」

銭形「何者だ!! 止まれ!!」

ヘンリエッタ「……」

銭形「それでいい。大人しく――」

トリエラ「……」バッ

銭形「なに……!?」

トリエラ「ふっ……」パァン!!

銭形「がっ……ふっ……!?」

「な、なんだ!? なんのさわぎ――」

ヘンリエッタ「……」バラララララッ!!!!

「ぎゃっ!?」

トリエラ「……」チャカ

「やめろ……うたないでく――」

トリエラ「……」ドォン!!

「ごっ……!!」

ヘンリエッタ「終わりました」

ジョゼ『よくやった。戻ってきてくれ』

ヘンリエッタ「はい」

フェッロ「ジョゼさん。ICPOの男はどうしますか?」

ジョゼ『そのままで構わない。下手に動かさないほうがいいだろう』

フェッロ「了解」

トリエラ「……」

ヘンリエッタ「トリエラ、どうしたの?」

トリエラ「いや。見覚えるのある顔だったから」

ヘンリエッタ「その人のこと?」

トリエラ「この前、街で「学校は?」なんていわれただけだけど」

ヘンリエッタ「そうなんだ」

トリエラ「さ、戻ろ」

ヘンリエッタ「うん」

銭形「――待て」

トリエラ「……!!」

ヘンリエッタ「え?」

銭形「何者だ、貴様らぁ」

フェッロ「まだ生きて――」

銭形「警察のやり方ではないな」パァン!!

フェッロ「ぐっ……!!」

ヒルシャー『どうした?』

トリエラ「対象外の男が生きてました。今から殺します」

銭形「……」

トリエラ「ふっ!!」

銭形「遅い」パァン!

トリエラ「づっ……!?」

ヘンリエッタ「……!」ダッ

銭形「……小娘が振り回すには不釣合いな銃器だな」

ジャン『リコ、応援に向かえ』

ヘンリエッタ「……」バララララッ!!!

銭形「(子どもの身体能力ではないな。どのような場所で訓練を積んだ……)」

リコ「……」ダダダッ

銭形「もう一匹、いたのか……!!」

リコ「……」チャカ

銭形「(分が悪いか……)」

リコ「……」パァン!!

銭形「ちぃ!! 小ざかしい!!」

リコ「対象、部屋の中に移動しました。部屋は2011です」

ジャン『よし。ジョゼ、窓際に来たら撃て』

ジョゼ『分かっている』

銭形「くっ……」

リコ「……」ダダッ

銭形「――舐めるなよ」

リコ「え」

銭形「ふんっ!」ドガッ!!!

リコ「うっ……!」

ヘンリエッタ「リコ!!」

銭形「部屋に移動したのは、お前らを入り口で一人ずつ迎撃するためだ」

ヘンリエッタ「くっ」

銭形「どいてもらうぞ!」

トリエラ「ヒルシャーさん! ヘンリエッタとリコがやられました!」

ヒルシャー『なに!?』

銭形「外にも仲間がいるようだな」

トリエラ「このっ!!」

銭形「(ルパンを撃った者の輪郭は掴んだ。これ以上の長居は無用か)」

銭形「追ってくるなよ。面倒だからな」

トリエラ「そういうわけにも行かないの」

銭形「……」

トリエラ「死んでもらうわよ……」

銭形「国家警察の人間というわけでもなさそうだな。お前たちは何者だ」

トリエラ「さぁ、なんでしょうね。当ててみたら?」

銭形「それは今から探らせてもらうか」

トリエラ「……っ」ドォン!!!

銭形「……」パァン!!

ヒルシャー『トリエラ!! 応答してくれ!! トリエラ!!』

ジョゼ「ヘンリエッタ!!」

ヘンリエッタ「ジョ……ゼ……さん……」

ジャン「男は? ――そうか。そのまま追跡しろ」

ジョゼ「なんだって?」

ジャン「上手く逃げられてしまった。撒かれるのも時間の問題だろう」

フェッロ「申し訳ありません……」

ジャン「まさか義体相手にここまで戦える男が居ようとはな」

トリエラ「確かに……銃弾は当たっていたはずなんです……」

ヒルシャー「もういい。すぐに公社に戻るぞ」

トリエラ「ヒルシャーさんの言った通りに……わたし……」

ヒルシャー「分かっている。落ち着くんだ、トリエラ」

ジャン「リコ、いつまで寝ている。起きろ」

リコ「う……ぅ……」

ジャン「……つくづく使えない奴だ」

リコ「ご、めんなさい……」

―警察署内―

「銭形さん!? ど、どうしたんですか!?」

銭形「気にするな。数発ほど体を掠めただけだ」

「それにしたって、出血が……!!」

銭形「それよりも調べてほしいことがある」

「な、なんですか?」

銭形「ここ最近、多くの子どもを受け入れているような施設、団体がないかをな」

「何故、そのようなことを?」

銭形「ルパンのことを知っている可能性が高いからだ」

「それより、その傷はテロリストに?」

銭形「わからん」

「わ、わからんって……」

銭形「いいから調べろ」

「わかりました!」

銭形「(テロリストを抹殺する少女。ルパンが簡単に撃たれたこと。繋がっているとしか思えん)」

―社会福祉公社 会議室―

ロレンツォ「――この男は銭形幸一。日本人で警視庁からICPOに出向中だそうだ」

ジョゼ「何故、イタリアに?」

ロレンツォ「数ヶ月前、美術館から展示品が盗まれた事件があっただろう。当初の目的はその警護にあったらしい」

ヒルシャー「ルパン三世と関わりがあるということですか」

ロレンツォ「専門家だそうだ」

ジョゼ「なら、どうしてあの場所に……? ルパンも近くに潜伏していたということか」

ジャン「俺たちが消毒をかけたのはあのアパート内部のその周辺だからな。可能性の話をすれば限が無い」

ロレンツォ「相手は警官だ。見られてしまった以上は口を閉じてもらう必要がある。外部に漏れれば公社の存在自体が危うくなるからな」

ジャン「一課は何か言ってきていますか?」

ロレンツォ「まだ何も。だが、このままにしていれば近いうちに騒ぐだろう」

ジャン「根回しは既に行っています。銭形幸一が何かを報告しても、もみ消されるだけでしょう」

ロレンツォ「それだけでは不十分かもしれんな」

ジャン「え?」

ロレンツォ「この男、中々に厄介だ。場合によっては消したほうが早いかもしれん」

―トリエラ・クラエスの部屋―

トリエラ「はぁ……」

クラエス「戻ってきてから5度目のため息ね。幸せも枯渇しちゃうんじゃない?」

トリエラ「……圧倒されたのは初めてだった」

クラエス「私たちは決して万能ではない。言われたことなかった?」

トリエラ「分かってる。だから、毎日訓練してるんだし」

クラエス「義体である私たちより強い人はいて当然でしょ」

トリエラ「でも……」

クラエス「『若人よ強くあれ。悩めることは幸福であると知れ』」

トリエラ「誰の言葉?」

クラエス「私の言葉さ」

トリエラ「また?」

クラエス「いいんじゃない。トリエラが自信を無くせば、それだけヒルシャーさんも優しくなるし」

トリエラ「これ以上、保護者面されても鬱陶しいだけ。やめてよ」

クラエス「そう思うなら、今日の反省をしてから寝ること。いいかね、トリエラ君?」

トリエラ「わかりました」

クラエス「よろしい」

トリエラ「でも、リコのときもそうだったけど、最近は間が悪い人が多いわ」

クラエス「果たして、どっちのことなのかしら」

トリエラ「なにが?」

クラエス「その警官が仕事中だったなら、間が悪かったのはトリエラたちのほうだったかもしれないってこと」

トリエラ「私たちだって仕事」

クラエス「ま、それはこれから分かることだと思うけどね」

トリエラ「またあの警官と会うことになるかもしれない、か」

クラエス「もう一度戦うことにはならないと思うけど、もしそうなったら大変ね」

トリエラ「他人事みたいに」

クラエス「他人事だもの」

トリエラ「薄情ものー」

クラエス「生きていくなら薄情なぐらいが丁度いいのよ」

トリエラ「そうですか。それならもうトリエラには何も相談しないことにするわ」

―アジト―

ルパン「……いなかったなぁ」

次元「お手上げだな」

ルパン「んー……。これ以上見ても仕方ねえなぁ。次はもっと別のところから覗いていきますか」

次元「どこだよ」

ルパン「俺が撃たれたとき、既に仏さんは出来上がってた」

次元「そいつがどうしてガキに殺されたのかが分かれば、浮かんでくるものもあるってか」

ルパン「そういうことだ」

次元「だったら、まだ病床でもできることだな。警察の資料を盗みだすなんざ、今のご時世在宅ワークみたいなもんだしな」

ルパン「きちんと殺人事件で処理してくれているのかが、疑問だけどなぁ」

次元「死体は残ってたし、あの後すぐに銭形が来たみたいだからな。事件にはなってるはずだ」

ルパン「ぬふふふ。そうか。そいつはラッキーだ」

次元「怪我のほうはどうなんだ?」カチッ

ルパン「まだ痛んでるさ。まぁ、そのほうがありがたい。あのガキの顔を忘れずに済むからなぁ」

次元「ふぅー……。俺も早く拝みてぇもんだ。お前に風穴あけたお嬢ちゃんをな」

五ェ門「――ルパン」

ルパン「おぉー。ゴエちゃん、元気してた?」

五ェ門「情けないぞ。こんなところで何をしている」

ルパン「一生の不覚ってやつだ。笑いたいなら笑ってもいいんだぜ?」

五ェ門「美術館から盗んだものはどうした?」

ルパン「今頃、ばっちり返還されてるだろうな」

五ェ門「もう一度、盗み出すつもりか」

ルパン「んなこと聞くなよ。答えなんて分かりきってんだろ」

五ェ門「ならば、何故半年以上も油を売り続けているのだ」

ルパン「俺を撃ったガキにお礼がしたいんだよ」

五ェ門「それは次元からも話は聞いているが……」

次元「説得は諦めな、五ェ門。言ってきくような奴じゃないことはわかってるだろ」

ルパン「理解者がいて嬉しいねぇ。次元、五ェ門。ちょいとお使いを頼まれくれねえか?」

次元「ん? もう何か分かったのか?」

ルパン「ああ。五共和国派の奴から話を聞いてみてくれないか? 何か知ってるかもしれねぇ」

五ェ門「それはイタリアのテロリスト集団か」

ルパン「蛇のことは蛇に聞けっていうだろ」

次元「俺たちがテロリストに寝返ってもいいのか?」

ルパン「そのときはそのときよ。次元と五ェ門が心動かされるような理念をももって活動してるってことだろ」

次元「ふん。俺の心は簡単には動じないがな」

ルパン「ぬふふ。俺といるほうがよーっぽど、楽しいもんなぁ?」

次元「それは否定しねえよ」

五ェ門「しかし五共和国派か。この辺りではよく耳にするな」

ルパン「そいつらを狙う組織は無数にあるだろうけど、ガキを殺しに使ってる組織は2つもないはずだ」

次元「どうだろうな。あるかもしれねえぞ」

ルパン「たくさんあったら、町中に看板が出てるはずだ。俺が見逃すことはまずねえよ」

五ェ門「確かに表にはなくとも、裏なら一度や二度目にしていても不思議ではない。それがないということは……」

ルパン「一箇所ぐらいしかねえはずだ。子どもやガキのワードが一つでも出てきたところが大当たりよ」

次元「表向きが孤児院とかだったらどうするんだよ」

ルパン「殺しまでさせている孤児院かどうか調べればいいだけだろ?」

―ローマ市内―

銭形「……」

銭形「(ここ数日、やけに背中に汗をかくな。やはり監視されているのか)」

銭形「(ふん。回りくどいことをしてくれるな……。暗殺でもなんでも仕掛けてくればこちらも楽なのだがな)」

銭形「今日はここにしておくか」

プリシッラ「ふぅー……」

プリシッラ「(アンジェと遊びたい……)」

プリシッラ「例の男は養護施設に入っていきました」

ジャン『そうか。やはり近づいてきているようだな』

プリシッラ「一課に任せたほうがいいと思いますよ」

ジャン『一課に貸しを作ることになる』

プリシッラ「……そうですね」

ジャン『引き続き監視を続けてくれ』

プリシッラ「了解」

プリシッラ「(今頃、アンジェはなにしてるかなー)」

―病院 待合室―

銭形「社会福祉公社?」

「ええ。この子は確かにそこが引き取ってくれましたよ」

銭形「(50箇所目でようやく当たりを引いたか……)」

銭形「そこは確かな組織なのですか?」

「首相府主催の身障者支援事業団体ですから、調べればすぐにわかると思いますよ」

銭形「この子はどういった理由でそこへ?」

「CFS症候群による先天性の全身麻痺患者だったんですよ。その所為でご両親も……。ああ、いえ、これは他人の私が言うべきことじゃないですが」

銭形「社会福祉公社にいけば、その病気が完治すると?」

「そういうことではありませんよ。ただそこに預ければ一生涯面倒を見てくれるということですからね」

銭形「随分と太っ腹なことだな。子ども一人に一生タダ飯を食わせるのか」

「そういういい方をしなくても」

銭形「……わかりました。これで失礼します」

「え、ええ」

銭形「(身障者か。そのような子どもがあんなにも卓越した動きをするとは思えん。だが、もし何かしらの肉体改造を施されているのなら話は違ってくるか)」

―路地裏―

銭形「……」

銭形「……出てきたらどうだ。お前は社会福祉公社の人間なのか?」

銭形「福祉団体が何故、ワシを狙う? 何故、テロリストを排除している?」

銭形「……」

銭形「答えろぉ!!」

銭形「……ちっ。臆病者が」

プリシッラ「(ジャンさん、このままでは公社のほうへ向かうことになりそうですが)」

ジャン『構わない。向こうからきてくれるというなら好都合だ』

プリシッラ「(そうかもしれませんが……)」

銭形「(今頃、ワシを殺す算段でもしているのだろう)」

銭形「(流石に何があるかわからん。先日のように銃弾を正面から受けることになるかもしれんからな)」

銭形「……準備だけはしておくか」

プリシッラ「後を追います」

銭形「ふんっ……」

―社会福祉公社 中庭―

リコ「あ、クラエス。何してるの?」

クラエス「ん? ここ、何もないでしょ」

リコ「ないね」

クラエス「何かあればいいと思わない?」

リコ「たとえば?」

クラエス「そうね……。畑とか菜園とか」

リコ「いいね。見てみたい」

クラエス「リコは新しいものなら何でも見たいだけだからね」

リコ「うんっ。知らない景色が増えるのはいいことだと思うな」

クラエス「たとえそれが忘れていただけの景色でも?」

リコ「思い出せたら嬉しいよ。忘れてたら、それは私にとっては新しいものと同じだから、やっぱり嬉しいよ」

クラエス「そうね。忘れてしまっていたら、思い出せないなら、それは新しい記憶と同じか。……怪我はもういいの?」

リコ「うん。もう平気。ヘンリエッタも今朝は笑ってた」

クラエス「そう。よかったわね。ヘンリエッタは前の失敗でずっと落ち込んでたから……」

リコ「失敗って言っても、ジャンさんは何も影響はないって言ってたのに」

クラエス「ヘンリエッタの場合は、失敗がジョゼさんの貢献度に直結しているから、気にするなっていうほうが無茶なのよ」

リコ「そうなんだ」

クラエス「トリエラも妙に塞ぎがちだしね。素手の相手に負けたらどうなるやら」

ジャン「リコ、ここにいたのか」

リコ「はい。仕事ですか」

ジャン「そうだ。急げ」

リコ「分かりました」

ジャン「クラエス」

クラエス「はい。なんでしょうか」

ジャン「お前は寮に戻っていろ」

クラエス「分かりました」

ジャン「行くぞ、リコ」

リコ「はい」

クラエス「戻ろう……」

―会議室―

ロレンツォ「先ほど、本人から連絡があった。中を見せて欲しいとな」

ジョゼ「……どうする、ジャン?」

ジャン「見せてやればいい。社会福祉公社は身障者支援団体だ」

ロレンツォ「確かにそうだが、銭形という人物は警戒するに越したことは無い」

ジャン「何か探りをいれてくるようならば、ここで消しましょう。我々の敵になるというのなら、そうするべきです」

ジョゼ「その場合、犯人はどうする?」

ジャン「この男は先日五共和国派の過激派グループと接触し、数名を射殺している。恨みを買っていてもおかしくはない。そういうことだ」

ジョゼ「相変わらずだな」

ロレンツォ「銭形という男、未だに義体のことは報告していないようだ」

ジョゼ「確信を得るまでは捜査するタイプなのでしょうか」

ジャン「だとすれば、ここへ来て証拠になるようなものを漁るかもしれないな」

ロレンツォ「ジャン、この件はお前に一任したい」

ジャン「了解」

ロレンツォ「簡単に消せるなら、もう銭形はこの世にいないはずだ。十分に気をつけろ」

―数日後 待合室―

銭形「……」

ジャン「お待たせして申し訳ありません。ええと、銭形警部でよろしかったですか?」

銭形「臭い演技はやめろ。虫唾が走る」

ジャン「では、まずはこの組織の説明から――」

銭形「そんなものはどうでもいい。ワシが聞きたいのはただ一つだ」

ジャン「……」

銭形「ルパンを撃った者を探している」

ジャン「ルパン……?」

銭形「今から半年前になるか。美術館から展示物を盗むとルパン三世から予告があった。それは知っているか」

ジャン「ええ。新聞でもニュースでも大々的に取り上げていましたからね」

銭形「ワシは警備につき、ルパンは予告通り展示物を盗んだ。それまでは良かった。問題はそのあとだ」

ジャン「そのあと?」

銭形「ローマ市内のとある路地裏には射殺された男とルパンの血痕が残されていた」

ジャン(クラエスとラバロ大尉が担当した案件か……。ルパンの血痕……?)

銭形「何か知っているのかね?」

ジャン「いえ。続けてください」

銭形「状況から見て、殺された男とルパン、そしてもう一人その場にいたのは間違いない。ワシはその者を探している。ルパンを見た人間は例外なく重要参考人だ」

銭形「それも、撃ったとなれば尚のこと詳しい話を聞かねばならん」

ジャン「……なるほど。貴方の目的は分かりましたが、ここへ来てもルパンの情報など何一つ出せませんよ」

銭形「茶すら出ないところだからな」

ジャン「これは失礼しました。すぐに用意をさせます」

銭形「構わん。どうせ飲むつもりはない。毒が入っているかもしれんからな」

ジャン「そんなことしませんよ」

銭形「ここにこの少女がいるはずだ。話をさせてくれ」

ジャン「この似顔絵は?」

銭形「ワシが描いたものだ。あのときの記憶を頼りにな」

ジャン(この絵一枚でここへ来たのか……)

ジャン「お上手ですね。画家としてもやっていけるのでは?」

銭形「黙れ。この少女を出せ。ここにいるのだろう。全身麻痺の少女がな」

ジャン「ええ。確かにこの子はここにいます。ですが貴方の言うように全身麻痺です。外に出ることのできない体で、どうしてルパンを見ることができると思うのです?」

銭形「……いいから会わせろ」

ジャン「プライバシー保護のため、できません」

銭形「捜査協力は市民の義務だ」

ジャン(しつこい男だ。やはり、消すか……)

銭形「ならばいい。このどちらかとは会えるか?」スッ

ジャン「……この2人は知らない顔ですね」

銭形「……」

ジャン「もうよろしいですか?」

銭形「これ以上の問答は意味がなさそうだ。失礼しよう」

ジャン「パンフレットは?」

銭形「いらんな。そこに書いてあるのは、如何に優れた団体であるかだけだ」

ジャン「お気をつけて」

銭形「――それはワシの台詞だ」チャカ

ジャン「……!」

銭形「口を割らねば――」

リコ「……」バッ!!

銭形「ぬっ……」

ジャン「撃て」

リコ「はい」パァン!!

銭形「ぐぉ……!?」

ジャン「満足できたか。銭形警部」

銭形「……」

ジャン「これが貴方の会いたがっていた少女だ」

リコ「……」

銭形「……ふむ。見張りを任せるには未熟だな。主を気にしすぎているようだ。もう少し訓練をしっかりさせたほうがいい」

ジャン「殺せ」

リコ「はい」

銭形「遅い」パァン!!!

リコ「つっ……!!」

銭形「お前たちがワシを殺そうとする理由が分からん。教えてくれるか?」

ジャン「死ぬ人間には贅肉にしかならない。諦めろ」チャカ

リコ「……」

銭形「先日の一件も不自然だった。何故、ワシが退去したあとで突入させなかった?」

ジャン「答える義理はない」

銭形「最初からワシも標的だったのか? いや、それは違う。ワシがあの時間に、あの場所へ訪れたのは偶然に過ぎん」

銭形「このような兵隊がいるのに雑な作戦を組むとは思えん」

ジャン「よく喋るな。何を言おうが、答えるつもりはない」

銭形「警察に先を越されたくはないという焦りか。ワシがテロリストを連行すれば、あのように殺すことはできないからな」

ジャン「……」

銭形「この組織が生まれた理由は、それだけで想像がつく」

ジャン「なに?」

銭形「人形を用いて、更には過剰とも言えるほど殲滅することを優先している作戦。この組織はテロリストを潰すためにあるだけではないだろう?」

ジャン「もういいだろうか。こちらも忙しいのでね」

銭形「五共和国派への激しい恨みが見え隠れしているぞ。はっはっはっはっは」

リコ「……っ」バッ

ジャン「消えろ」

銭形「ふんっ!!」ドゴォ

ジャン「ぐっ……!?」

リコ「ジャンさん!!!」

銭形「甘い!!」パァン!!

リコ「きゃっ……!!」

銭形「全身麻痺の少女がこのように活発に動き回るとはな。体ごとを挿げ替えたか」

ジャン「うっ……くっ……」

銭形「また来ることになるだろう」

ジャン「……気をつけることだな」

銭形「一つだけ言っておく」

ジャン「……」

銭形「貴様らたちが何をしていようがワシは興味などない。あるのはルパン逮捕だけだ。ではな」

ジャン「銭形……か……」

>>68
銭形「貴様らたちが何をしていようがワシは興味などない。あるのはルパン逮捕だけだ。ではな」

銭形「貴様たちが何をしていようがワシは興味などない。あるのはルパン逮捕だけだ。ではな」

リコ「ジャンさん、大丈夫で――」

ジャン「……」パシンッ!!

リコ「あっ……」

ジャン「役立たずめ」

リコ「すみません……」

ジャン「ジャンだ。銭形が出て行く」

『見てます』

ジャン「手出しはするな。手ごわい相手だ」

『了解』

ジョゼ「――ジャン。酷くやられたみたいだな」

ジャン「スーツが汚れた。銭形はまた来ると言ってた」

ジョゼ「一課に任せるか」

ジャン「引き続き監視を行うだけでいい。ルパンの行方が追えれば満足だそうだ」

ジョゼ「だが……」

ジャン「分かっている。次のことは考えてある」

―社会福祉公社 出入り口付近―

銭形「ふんっ……。温いな」

クラエス「……」

銭形「……何を見ている?」

クラエス「空です」

銭形「何か見えるのか?」

クラエス「空と雲と時々鳥や飛行機が見えます」

銭形「楽しいか?」

クラエス「無為に時を過ごすことが好きなんです」

銭形「そうか……」

クラエス「もう行かないと。失礼します」

銭形「……」

ヒルシャー「クラエス。寮に戻るんだ」

クラエス「すみません」

銭形「(また一人追加か)」

―アジト―

ルパン「社会福祉公社ねぇ」

次元「フランカって女に聞いた話じゃ、今は一番ホットな組織らしいぜ。女の子を連れた男には注意しろって言われているらしい」

ルパン「なるほどぉ」

五ェ門「ルパンを撃った小娘とやらもそこにいるかもしれんな」

ルパン「ぬふふふ。ついに尻尾を掴んだな」

次元「半年は時間をかけ過ぎだろ」

ルパン「いいじゃないの。どうせ回復するまでは動けなかったんだからよぉ」

五ェ門「確認のためにも潜入してみるか」

ルパン「いやぁ。もっと楽な方法があるだろ?」カチッ

次元「楽な?」

ルパン「ああ。さぁて、リハビリも兼ねて、再始動といきますか」

次元「待ちくたびれて、リボルバーが回りそうにねえよ」

ルパン「油さしとけ。今から、いやと言うほど回すことになるんだかんなぁ。五ェ門も斬鉄剣の手入れは怠ってねえだろうなぁ?」

五ェ門「それは愚問だ、ルパン」

次元「まずは何からするつもりだ?」

ルパン「そりゃ勿論、お宝を盗むんだよ」

次元「ほぉ? あの美術館にもう一度行くのか」

ルパン「ああ。んで、もう一度アレを盗み出す。リハビリでリベンジだ。丁度いいだろ?」

次元「知るかよ」

五ェ門「宝玉のついた首飾りか」

ルパン「あれだけは盗まなきゃならねえよ。あれだけはな……」

次元「盗むのは賛成だが、そこから銃使いの嬢ちゃんとはどうやって会うつもりだ?」

ルパン「女の子たちはテロがらみでないと出て来れないんだろうなぁ。ってわけでよ、次元?」

次元「まさか……」

ルパン「ぬふふふ。テロ、しちゃいますか?」

五ェ門「美術館を襲うのか」

ルパン「前回は負けちまったんだ。今回は本気でやらせてもらうぜ」

次元「ドでかい花火になりそうだな、おい」

ルパン「にゅふふふふ。次元、顔がにやけてるぞ。不謹慎だろぉ」

―数日後 警察署内―

「銭形警部!! 大変です!!」

銭形「……知っている。ルパンが予告状をバラまいたな」

「ええ。ネット上でもウイルスをばら撒いたのか、ポップアップ広告のようにルパンの予告が表示されてうざったいのなんのって」

銭形「それと同時に五共和国派の犯行声明も出ているな」

「ああ、爆破予告ですね」

銭形「こちらの件はどうなんだ?」

「今、調査中です」

銭形「……」

「銭形警部。封書が届いております」

銭形「ご苦労」

銭形(差出人は……書かれておらんか……)

銭形「……」ペラッ

「あの、誰からですか?」

銭形「……ルパンからだ。ワシに見せたいものがあるらしい」

―アジト―

銭形「……」ガチャ

銭形「やはり、誰もおらんか……」

『とっつぁん。来てくれたみたいだな。嬉しいぜぇ』

銭形「……」

『これは事前に録音したものだ。だから、俺はもうここにはいない』

銭形「ルパンめ……」

『とっつぁんも俺と同じ相手を追っているはずだ。半年以上前、俺を撃った女の子をな』

銭形(やはりルパンも追っていたか。ならば、奴は……)

『まぁ、必要がないなら無視してくれてもいいが、ここに資料を置いておく。見たければみてくれ。もしかしたら知ってる顔が出てくるかもしれねえ』

銭形(資料……。このディスクの山か)

『でだ、もし知っている顔が出てきたら、いい証拠になるんじゃないかなぁって思うわけよ』

銭形「……」

『そこにあるのは全部ガキが主演のスナッフビデオだ。何作か途中で終わってる奴もあっけどな、出演者のガキは解体されて終わる』

銭形(手足を失ったはずの子どもが社会福祉公社では五体満足かもしれんということか。確かにルパンを撃った女を引き摺り出す良い材料になる)

―社会福祉公社 会議室―

マルコー「ルパンの予告は置いておくとして、爆破予告はどうなんだ?」

ロレンツォ「確認を急がしているが、まず間違いはなさそうだ」

ジョゼ「場所は例の美術館か」

ヒルシャー「予告の時間は7日後、閉館する20時ジャスト。その時間帯は人通りも多く、もし予告通りの爆発が起これば被害は甚大なものになるでしょう」

ジャン「……」

ロレンツォ「銭形は後回しになるな、ジャン」

ジャン「いえ、同時に行います」

ジョゼ「……大丈夫なのか?」

ジャン「どちらも野放しにはできない。それにこの状況は俺たちにとってみれば幸運と言える」

ロレンツォ「分かった。引き続き銭形はリコ・ジャン組に任せる。トリエラ・ヒルシャー組、ヘンリエッタ・ジョゼ組、エルザ・ラウーロ組は現場へ向かってくれ。くれぐれも気づかれないようにな」

ラウーロ「了解。エルザを呼んできます」

ロレンツォ「アンジェリカは……」

マルコー「報告通り、まだ無理です。何かできることがあれば言ってください」

ロレンツォ「マルコーはサポートを頼む」

―トリエラ・クラエスの部屋―

クラエス「……騒々しいわね」

トリエラ「ローマの美術館が爆破されるんだって。それで私も現場に行くことになったの」

クラエス「美術館?」

トリエラ「そう。彫刻が上向いて、助けを乞うようなのがあるところね。あと前にルパンが盗みに入って失敗したところ」

クラエス「ルパン? あの有名な泥棒の? そう。あそこにも盗みに入ってたのね」

トリエラ「……」

クラエス「美術館は教養と感受性を高めるのにはいい場所ね。ヘンリエッタには特に」

トリエラ「でも、ヘンリエッタは泣くかも」

クラエス「ありえる」

トリエラ「それじゃ、行ってくるよ」

クラエス「気をつけてね」

トリエラ「うんっ」

クラエス「……」

クラエス「そろそろ映画鑑賞の時間ね……。行かないと……」

―美術館―

ヘンリエッタ「……」

ジョゼ「この彫刻が気に入ったのかい?」

ヘンリエッタ「いえ。ただ、少し不思議な感じがして」

ジョゼ「不思議な感じ?」

ヘンリエッタ「女の人がとても嫌がっているみたいです。これは追われているんですか?」

ジョゼ「ああ、この彫刻はね」

ルパン「――有名な彫刻だ。ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ作のアポロンとダフネ」

ジョゼ「……貴方は?」

ルパン「ぬふふ。薀蓄を語るのが大好きなイタリア人さ。お嬢ちゃんは良いセンスをしてる」

ヘンリエッタ「え?」

ルパン「これはなぁ、嫌がる女を付回す、最低の男を表現したもんなんだよ」

ヘンリエッタ「へぇ……」

ジョゼ「待ってください。金の矢と鉛の矢の説明からしなければならないはずだ。それでは誤解してしまう」

ルパン「そこの説明いるぅ? 俺はいらないと思うぜ。求められることが辛くて辛くて、結局最後は死んで楽になる。それがわかってりゃあいいんでないの?」

ジョゼ「貴方の話は大事な部分が欠落しすぎている」

ヘンリエッタ「あ、あの……」

ルパン「男は実ることのない恋を追い、女はその想いから逃げる。一言で表すならあってんだろ?」

ジョゼ「間違ってはいませんが……」

ルパン「お嬢ちゃん。恋はしてるかい?」

ヘンリエッタ「え、えっと……その……あの……」

ジョゼ「申し訳ないが、妹が困惑している。多感な時期だし、そういう質問は控えてくれ」

ルパン「ぬふふふ。わりぃな。だが、お兄さんからも教えといたほうがいいぜ。追う方も追われるほうも苦労するってなぁ」

ジョゼ「……それは痛いほど分かっているつもりですよ」

ルパン「それならいいんだけどな」

ジョゼ「そういう貴方も追う恋の経験があると?」

ルパン「いやぁ、今まさに追っているところだ。まだ名前もわからねえんだけどな」

ヘンリエッタ「それは一目惚れですか?」

ルパン「ああ。街角で出会った可愛い娘さ。身なりからいって深窓から外を眺めているお嬢様だと思う。俺には不釣合いなのは分かってるけどな、金の矢が刺さっちまったみたいでな」

ジョゼ「アポロンのようにダフネを追わずにはいられないということですか」

ルパン「そういうこと」

ジョゼ「その相手に鉛の矢が刺さっていないことを祈るしかないですね」

ルパン「どうだろうな。恋のキューピッドなんて意地悪することが大好きだからな」

ヘンリエッタ「そ、そうなんですか?」

ルパン「そうだぜ。狙われたら恋は叶わないと思ったほうがいい」

ヘンリエッタ「……」

ジョゼ「信じなくていい。その手の話は迷信ばかりだ」

ヘンリエッタ「そ、それなら、いいんですけど……」

ルパン「それじゃ、俺は行く。薀蓄を聞いてくれてありがとなぁ。兄弟仲良く芸術に浸ってくれ」

ジョゼ「そうさせてもらうつもりです」

ヘンリエッタ「……」

ジョゼ「ヘンリエッタ?」

ヘンリエッタ「ジョゼさん」ギュッ

ジョゼ「イタリア人は悲恋や悲劇が好きなだけさ。気にすることは無い」

ヘンリエッタ「……はい」

次元「何してたんだよ」

ルパン「ぬふふ。向こうに感じのいい兄弟がいたから、少し話してきただけだ」

次元「こっちでもそれらしい兄弟は何組も見たぜ。こりゃ、絞り込むのは無理だな」

ルパン「場所が場所だけにな。まぁ、顔を覚えておくのは無駄じゃねえさ。当日、役に立つかもしれねえしな」

次元「爆弾のほうはどうなんだ?」

ルパン「そっちも問題ねえよ。五共和国派のチンピラどもに協力を呼びかけたらすぐに食いついてくれたしな。爆弾渡せば勝手に仕掛けて、勝手に殺されてくれんだろ」

次元「なら、あとはお宝のほうか」

ルパン「そっちは五ェ門に任せたが……」

五ェ門「ここに居たか」

ルパン「グッドタイミングぅ。どうだった?」

五ェ門「館長に話を聞けた。盗まれたものが戻ってきたため、そのまま展示しているそうだ」

ルパン「盗まれたのに再展示か。確定だな」

次元「だが、お前はそれを盗むんだろ?」

ルパン「当たり前だろ。あの首飾りがねえことには証明できねえからな。俺が稀代の大泥棒、ルパン三世だってことをよ」

次元「はっ。面倒な野郎だぜ」

ルパン「そういうなって。リハビリにはもってこいなんだから。さぁて、あとは不二子ちゃんにも協力してもらいますか」

五ェ門「女狐に何を頼むつもりだ」

ルパン「復調したら連絡くれっていってたんだよ。そろそろお仕事のこと伝えておかねえと、拗ねちゃうだろうしなぁ」

次元「浮気三昧のあいつにそんな心配はいらねえだろうよ」

ルパン「俺と他の男を一緒にすんじゃねえよ。さぁて、愛のラブコールをすっかなぁ」

次元「そのお気楽思考は羨ましくなる。五ェ門、お前のほうも兄弟らしいやつらは見かけたか?

五ェ門「ああ。数十組ほどな」

次元「やっぱりな」

五ェ門「衣服の中に得物を忍ばせている連中も少なくないが、子どもだけを見れば皆無だった」

次元「こんなところに来るガキは大体ヴァイオリンケース持ってやがる。自動小銃をもってるよりははるかにらしいがな」

五ェ門「そのケースの中に得物があるかもしれんな」

次元「ハッハー。それを気にし出したら、この世が荒廃してるように見えてくるな」

五ェ門「もしもの話だ」

ルパン「不二子? 久しぶりだな。ああ、そうだ。やっと仕事復帰よ。でなぁ、ちょっとやってほしいことがあるんだけどよ」

ルパン「分かってる。報酬も用意してるって。愛しの不二子、やってくれるかい?」

トリエラ「……」

トリエラ(この首飾りが、ルパンに一度盗まれたっていう……)

ヒルシャー「トリエラ。そちらはどうだった?」

トリエラ「渡されたリストにある顔は見ませんでした。ですが、不審な人物は数名いるみたいですね」

ヒルシャー「不審な人物?」

トリエラ「美術館なのに人の顔を見ていたり、柱の影を観察していたりする人は何をしに来ているんでしょうね。とても教養があるとは思えません」

ヒルシャー「まだいるか?」

トリエラ「はい」

ヒルシャー「視線はそのまま。人物の服装と位置を教えてくれ」

トリエラ「今、ダビデ像を見ている黒い帽子を被った男性。それから――」


ラウーロ「どうだ?」

エルザ「いえ。いませんでした」

ラウーロ「そうか」

エルザ「ラウーロさん……あの……」

ラウーロ「次のところに行くぞ。こい」

―美術館 裏口―

ジョゼ「ここはスタッフしか使わないそうだが?」

「ええ。まぁ、搬入なんかのときには業者も出入りしますけどね」

ジョゼ「なるほど。では、扉の暗証番号さえ知っていれば誰でも入ることができるということか」

ジョゼ(夜はここを監視する必要があるか……)

ヘンリエッタ「……」

ジョゼ「行こうか、ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ「ここって簡単に入ることができるんですね」

ジョゼ「一度、泥棒に入られている割には警備が緩いな」

ヘンリエッタ「……」

ジョゼ「どうした?」

ヘンリエッタ「いえ……」

ジョゼ「今日はこれぐらいにしておこう。あまりうろつくと警戒されるからね」

ヘンリエッタ「はい」

ジョゼ「そうだ、ヘンリエッタ。ジェラートでも食べるか?」

―広場―

ヘンリエッタ「はむっ」

ジョゼ「美味しいかい?」

ヘンリエッタ「はい」

ヒルシャー「待たせましたか」

ジョゼ「いや。寧ろもう少し気を遣って遅れてくれたほうがありがたかったかな」

ヒルシャー「え?」

ヘンリエッタ「……」

ヒルシャー「どうも失礼しました」

ジョゼ「冗談だ」

トリエラ「はぁ……。ヘンリエッタ、ジョゼさんが優しくていいわね」

ヘンリエッタ「え……うん……」

ヒルシャー「トリエラも欲しいなら――」

トリエラ「いりません」

ヒルシャー「そ、そうか……」

ジョゼ「僕たちは確認できなかった。ヒルシャーもか?」

ヒルシャー「はい。ただ、トリエラが不審者を数人見つけてくれました。すぐに照会してみます」

ジョゼ「よし。もう行ってくれ。また連絡する」

ヒルシャー「了解。トリエラ、ホテルに戻ろう」

トリエラ「分かりました。ヘンリエッタ、またね」

ヘンリエッタ「うん」

ジョゼ「トリエラは優秀だな」

ヘンリエッタ「あの……すみません……」

ジョゼ「ヘンリエッタも優秀だ」

ラウーロ「――ジョゼ。こちらは収穫はなしだ」

ジョゼ「僕たちもだ。ただトリエラ・ヒルシャー組が不審な人物を見たらしい」

ラウーロ「そうか。その中に当たりがいればいいな」

エルザ「……」

ヘンリエッタ「はむっ……。な、なに?」

エルザ「……別に」

―警察署内―

「美術館の警備はもっと増やせないのか」

「テロ対策のほうにも人員を割かなきゃいけないんで、まだなんとも」

「早く美術館は閉めさせろ!! いつまで客を入れてるつもりだ!!」

銭形「……騒々しいな」

「銭形警部。爆破予告があったのに暢気にしてる人間が多いんですよ」

銭形「平和でいいことだ」

「ルパンの足取りは分かったのですか?」

銭形「分かるわけがないだろう。奴はワシにこれを見せたかっただけだ」

「これは? 映画か何かですか?」

銭形「そんなところだ。見てもいいが、吐くなよ?」

「その手の作品なら遠慮します」

銭形「全身麻痺の病気を患っていたり、足や腕を切り落とされた子どもが、どうしたら銃を持ち元気よく駆け回ることができると思う?」

「映画の話ですか? そういう場合はその子どもが改造人間だったり、ロボットだったりするのが定番じゃないですかね」

銭形「ワシもそう思う。このディスクに残されていた作品の主演もそうなのだろうな」

―社会福祉公社 二課オフィス―

ロレンツォ「――分かった。あとはそちらの判断に任せる」

ジャン「テロリストが見つかったのですか」

ロレンツォ「とりあえず爆弾らしきものはまだ見つかっていないそうだ」

ジャン「目の前には広場もありますからね。警備の状況を見て、爆破ポイントを変更する可能性もあるでしょう」

ロレンツォ「ああ。ジョゼたちもそれは理解している。ジャンのほうはどうなんだ?」

ジャン「当日になってみないことには。ただ、今のところ問題は見当たりません」

ロレンツォ「……銭形か。公社の敵にしておくのは惜しい存在だが」

ジャン「腕は確かですが、義体の担当官には向かないでしょう」

ロレンツォ「直接話したお前がそういうなら、そうなのだろう」

ジャン「そろそろ、行きます」

ロレンツォ「頼む」

ジャン「はい。――リコ、出かけるぞ」

リコ「はい」

ジャン「頼むぞ。お前に全てが掛かっている」

―通路―

クラエス「……」

不二子「あのぉ。ちょっといい?」

クラエス「はい?」

不二子「研究棟ってどっちにあるのかしら?」

クラエス「こちらです。私も今から行くので、よければ案内しますけど」

不二子「ああ。気にしないで。まだ用事があるから」

クラエス「あの、失礼ですが……」

不二子「ごめんなさい。私、今日からここで働くことになったの。よろしくね、お嬢さん」

クラエス「そうですか」

不二子「ええと……」

クラエス「クラエスです。といっても、貴方とはあまり話す機会なんてないと思いますけど」

不二子「うふふ。でも、こうして会えたのも縁じゃない。自己紹介ぐらいはしてもいいでしょう。私は峰不二子よ。よろしく」

クラエス「珍しいですね。日本から来たのですか?」

不二子「ええ。ちょっと複雑な事情があってね。それじゃ、ありがと。またね、クラエス」

クラエス「……不思議な人」

マルコー「クラエス、どうした? 予定では今から絵を描くんじゃなかったか」

クラエス「マルコーさん。今、日本から来たって女性に会って少し話していました」

マルコー「日本?」

クラエス「今日から働くことになったって言っていました。名前はミネフジコだと」

マルコー「そんな話は聞いてないな」

クラエス「え……」

マルコー「お前は予定通りに行動しろ」

クラエス「はい」

マルコー「――マルコーだ。確認したいことがある。日本人が来たらしいが、本当か?」

クラエス「……」

マルコー「名前はミネフジコ。ここまで入ってきているなら……ああ、そうだ……。確認を急いでくれ。事と次第によっては使える義体にも動いてもらう」

クラエス「あの、その人は研究棟の場所を私に訊ねてきました」

マルコー「そうか。おい、研究棟に人を向かわせてくれ。いや、一課の人間のほうがいいだろうな。暇なやつを全員集めろ」

クラエス(不思議な人は不思議なことをするのね……)

―多目的ルーム―

クラエス「……」

不二子「素敵な絵ね。どこの湖をイメージしてるの? ロンバルディアにこういう湖があったかも」

クラエス「……!」

不二子「警戒しないでぇ。お姉さん、悲しくなっちゃうでしょう?」

クラエス「ここの人たちが貴方のことを探しているみたいですよ」

不二子「だから、ここに隠れてるの。怖いわねぇ。最近の福祉事業団体って銃を撃つ訓練もするの?」

クラエス「さぁ。私はここの世界しか知りませんから」

不二子「なるほど。箱入り娘なのね、クラエスは」

クラエス「その表現は正しいと思います」

不二子「義体の負担を減らすためだけに生きてるのってどう?」

クラエス「それが私の役割ですから、感想を求められても困ります」

不二子「いつもここにいるなら退屈でしょ?」

クラエス「退屈かどうかは私が決めることですから」

不二子「それもそうね。ごめんなさい」

クラエス「私が貴方を捕まえるとは思わないんですか」

不二子「戦うの? いいわよ。義体の性能がどの程度のものか見ておきたいし」

クラエス「何のために?」

不二子「外の世界にはね、色々とあるのよ。ここしか知らないお嬢さんには理解できないようなこともね」

クラエス「そうですか」

不二子「興味ある?」

クラエス「いえ。ありません」

不二子「それも条件付けの影響なのかしらねぇ」

クラエス「……」

不二子「うふふ。はいはい。そろそろ出て行くわ。目的のものも手に入れたし、綺麗な顔に傷なんてつけたくないもの」

クラエス「……何を手に入れたの?」

不二子「内緒。貴方にいうと、大人に告げ口しちゃうでしょ? さっきみたいにね」

クラエス「貴方が内緒にしておけとは言わなかった」

不二子「もう。それぐらい察してほしかったわ。――絵のほう、がんばってね。出来上がったら見せてね。バァイ」

クラエス「……」ダッ!

不二子「……!?」

クラエス「捕まえたわ」グイッ

不二子「つっ……。やるじゃない。普通じゃないのね」

クラエス「そういう風になっているからもの」

不二子「可哀相に」

クラエス「貴方は誰なの?」

不二子「答える義理はないわ。私は頼まれて来ただけだもの」

クラエス「誰に?」

不二子「ルパン三世」

クラエス「ルパン……!?」

不二子「ふっ!」ガッ!!

クラエス「ぐっ……!?」

不二子「あーら。ごめんなさい。足癖が悪いのよ、私」

クラエス「どうして、ルパン三世が出てくるの?」

不二子「そのうち分かるわよ。だって、ルパンは貴方に会いたがっているからね」

>>112
クラエス「そういう風になっているからもの」

クラエス「そういう風になっているから」

「こっちだ!!」

不二子「バレちゃったみたいね。もう行くわ」

クラエス「どういうことなの?」

不二子「貴方は忘れただけよ。気になるならルパンから直接聞けばいい」

クラエス「……!」

不二子「バイバイ、クラエス。もう会うことはないでしょうけど」

クラエス「まって!!」

「居たぞ!! 捕まえろ!!」

不二子「それは無理ね」

「出入り口を固めろ!!」

クラエス「……」

マルコー「クラエス!!」

クラエス「マルコーさん」

マルコー「怪我はないか?」

クラエス「はい。大丈夫です」

マルコー「そうか……。お前は寮に戻れ。今日の予定は全て中止だ」

クラエス「マルコーさん、私はルパン三世と会ったことがあるんですか?」

マルコー「なに? どういうことだ?」

クラエス「分かりません。でも、さっきの女性がルパンが私に会いたがっているって……」

マルコー「……わかった。その件は俺が預かる。お前は何も気にしなくていい」

クラエス「でも……」

マルコー「いいから。寮に戻るんだ」

クラエス「……はい」

マルコー「――マルコーだ。課長はどこにいる?」

クラエス「……戻ろう」

クラエス(気にするなといわれたら、私は気にしないほうがいい)

クラエス(それはきっと、私にとっても周囲の大人にとっても都合が悪いことだからだ)

クラエス(ただ、頭の隅には残ってしまう)

クラエス(どうして私のことをルパン三世が知っているのか)

クラエス(失くした記憶は戻らない。考えるだけ無駄なことも知っているけど……)

―アジト―

ルパン「ぬふふふ。よく見えるなぁ。警察が集まってきてらぁ」

次元「美術館も一般客の立ち入りは禁じたか」

ルパン「ま、当然の対応だな。爆破予告は出ちまったんだし」

次元「爆弾はもう渡したのか?」

ルパン「ああ。ルパン様お手製の爆弾をなぁ」

次元「上手く設置できるのか」

ルパン「半年前に使った侵入方法を教えておいた。少なくともとっつぁんの敷いた警備網は掻い潜れる」

次元「だが、ありゃあ銭形も手を抜いてやがったんだろ? 役に立つか?」

ルパン「立つに決まってんだろ。俺の役にはよぉ」

次元「そういうことか」

ルパン「ぬふふふ」

不二子「――ルパン、ひどいじゃないのぉ。あんなに危ない場所だなんて思わなかったわよぉ?」

ルパン「不二子、お帰り。で、どうだった?」

不二子「報酬は弾んでもらうからね。ルパンを撃った女の子は恐らく、この子よ。名前はクラエス。本名はフレッダ・クラエス・ヨハンソン。記念すべき義体1期生よ」

ルパン「ああ。この顔だ。間違いねぇ。義体っていうのか」

不二子「そう。社会福祉公社のサイボーグ。素手で人間を殺せるぐらいには強いみたい」

ルパン「うぇー。いい趣味だなぁ」

不二子「詳細はこのUSBメモリーに入っているわ。興味があるなら見ておいて」

ルパン「お。この子には見覚えはあるな。トリエラちゃんねぇ。5年後が楽しみじゃないの」

不二子「そんなに長生きできるのかしら」

次元「おい、ルパン。このヘンリエッタってガキも見覚えがあるんじゃねえか?」

ルパン「おー。そっちは知り合いだ。俺の話を聞いてくれたかわいこちゃん。10年後に期待だな」

五ェ門「こちらのエルザも美術館にいたな」

次元「公社の奴らは集まってやがったか」

不二子「五共和国派の名前が出ればとりあえず動くみたいね。しかも、爆破テロともなれば数組のフラテッロが出てくる」

ルパン「クラエスの担当官はいねえのか?」

不二子「少し前に亡くなっちゃったみたいね。それからはずっと軟禁状態みたい」

ルパン「なーるぅ。ってことは、クラエスは現場にゃ出て来ないか。まぁ、いい。お楽しみは最後にとっておくのも悪くねえしな」

不二子「それじゃ、報酬のほうよろしくね」

―ホテル―

ジョゼ「――わかりました。すぐに戻ります」

ヘンリエッタ「どうしたんですか?」

ジョゼ「公社のほうでトラブルがあったらしい。僕たちは戻ることになった」

ヘンリエッタ「トラブル、ですか」

ジョゼ「何者かが無許可で公社内に侵入したらしい。その上、ヘンリエッタたちのデータまで盗られてしまったみたいだ」

ヘンリエッタ「私たちの……」

ヒルシャー「ジョゼさん!」

ジョゼ「話は聞いたよ。美術館とその周辺の監視はヒルシャーとラウーロに任せる。既に一課が動いているし、明日か明後日には戻ってこれるはずだ」

ヒルシャー「分かりました」

ジョゼ「大失態だな。堂々と泥棒に入られるなんて」

トリエラ「ルパン三世の仕業なんですか?」

ヒルシャー「侵入したのは日本人女性だからな、ルパンではないと思うが」

ジョゼ「それに盗まれたものが宝石や現金の類でもないからな。ルパン三世の仕業とはいえないだろう」

ヘンリエッタ「どうして私たちのことを盗んだんだろう……」

―社会福祉公社 会議室―

ロレンツォ「監視カメラにもはっきりと顔が映っているな」

マルコー「ええ。でも、捕らえることはできませんでした」

ジャン「警備の者はどうしていた?」

マルコー「モニターの前で眠っていた。しっかり5時間の睡眠は取らせていたはずだが」

ロレンツォ「どう考えても一流の犯行だ。手馴れすぎている。我々が無防備すぎたと言ってもいいがな」

ジョゼ「データを盗まれたと聞きましたが?」

ロレンツォ「義体に関するほぼ全てのデータだ。あれが流れれば公社は葬られるだろう」

ジャン「……盗み出されてから10時間か。マスコミに売ったなら、そろそろ電話が鳴り始めるだろうが」

ロレンツォ「その前に首相から直接何か言われるはずだ」

ジョゼ「それがないということは……」

マルコー「油断はできない。各報道機関と交渉中の可能性もある」

ジャン「顔と名前が分かってる分、探すのには手間取らないはずだ」

ロレンツォ「女が素顔と本名で侵入してきたのかは甚だ疑問だがな……」

ジャン(銭形といいこの女といい、俺たちの邪魔をしてくれる者が多いな)

ジョゼ「もう一つ、峰不二子はクラエスと接触したことも気になる」

マルコー「ルパン三世はクラエスに会いたがっていると言い残したみたいだが……」

ジャン「課長。銭形がここで発言したことは既に報告しましたが、覚えていますか?」

ロレンツォ「……半年前の事件との繋がりか」

ジャン「はい」

ジョゼ「なんだそれは?」

ジャン「半年前、クラエス・ラバロ組はローマ市内に潜伏していた五共和国派の過激派グループの一人と偶然現場を通りがかった男一人を射殺している」

マルコー「そういえばあったな」

ジャン「その日は、ルパン三世が美術館から展示品を盗みだした日でもある」

ジョゼ「それがどう繋がっている?」

ジャン「あの日、警察の動きが異様に早く、クラエス・ラバロ組は現場をすぐに立ち去ざるを得なかったそうだ。死体となっているかどうかの確認も不十分であったかもしれない」

マルコー「しかし、致命傷は与えたとクラエスは言っていた。現にそのとき撃たれた五共和国派は死んでいる」

ジャン「通行人は分からない。致命傷であっても一命を取り留めることはある」

ジョゼ「まさか……ジャン……」

ジャン「半年前のあの日、ルパン三世がクラエスの存在を知ることができた可能性は十分にある」

ジョゼ「だが、それは可能性の一つだ。通行人がルパン三世だったなんて……」

ジャン「ルパン三世捜査の専門家である銭形がここを訪れルパンを撃った者を出せと言い、続けて謎の女が公社に侵入し義体のデータを盗み出した。全て偶然か?」

ジョゼ「だったら、ルパン三世は……」

ロレンツォ「公社、或いはクラエスに恨みを持っているかもしれないな。クラエスが原因で展示品が返還されることになったというなら」

ジョゼ「では、峰不二子は下見するためにここへ?」

マルコー「ルパン三世に頼まれてデータを盗んだと考えるのが自然だが、何のためかは分からないな」

ジャン「どちらにせよ、俺たちの標的ははっきりした」

ロレンツォ「銭形幸一及びルパン一味か」

ジャン「はい。どちらも公社にとって害悪そのものです」

マルコー「銭形はともかくルパン一味は厳しいものになりそうだが」

ロレンツォ「クラエスだけが狙いとは思わんが、クラエスとの面談が目的の一つであるのは確かかもしれんな」

ジャン「ええ。それを利用する他ないかと」

ジョゼ「まさか、ジャン。クラエスを使うのか?」

ジャン「方法を選んでいられる状況ではない」

ジョゼ「だけど……クラエスは……」

―トリエラ・クラエスの部屋―

ジャン「クラエス」

クラエス「はい。なんですか?」

ジャン「よく聞いてくれ。ルパン三世がお前を狙っていることが分かった」

クラエス「どうしてですか」

ジャン「理由は不明だが、奴の行動を繋ぎ合わせるとそうとしか考えられない」

クラエス「……」

ジャン「いつ現れるか分からないため、お前には銃の常時携帯を命じる」

クラエス「はい」

ジャン「ルパン三世が目の前に現れたときは、躊躇わずに撃て」

クラエス「はい」

ジャン「もう一つ。万が一、誘拐されそうになり、救援も見込めず自力での脱出は不可能の場合は分かっているか?」

クラエス「……はい。勿論、死にます」

ジャン「こちらもできるだけのことはする。飽くまでも最悪のケースだ」

クラエス「分かっています」

―ホテル―

トリエラ「エルザ、監視交代するわ」

エルザ「……」

トリエラ「ゆっくり休んで」

エルザ「……」

トリエラ「何か言いなさいよね」

ヒルシャー「いいじゃないか」

トリエラ「でも……」

エルザ「あ……」

ラウーロ「ヒルシャー。二課員から良いものが届いた」

ヒルシャー「良いもの?」

エルザ「あのラウーロさん、私――」

ラウーロ「お前は早く寝ろ。大事なときに使えないんじゃ俺が困る」

エルザ「……はい」

ラウーロ「届いたものは、これだ。五共和国派の奴らはこの経路を利用して美術館内に爆弾を仕掛けるらしい」

―数日後 アジト―

ルパン「次元、どんな感じだ?」

次元「見てる限りじゃ、動きはねえな。テロリストも下見ぐらいはしているかもしれねえが、爆弾を仕掛けてる様子はない」

ルパン「意外と慎重だぁねぇ。約束の日までに義体の性能を見ときたかったけど、どうにも無理そうだな」

次元「不二子が振り切れるぐらいだ。大したことはねえだろ」

不二子「どういう意味よ」

ルパン「ところで不二子。ホントに報酬はあれでいいのか?」

不二子「勿論よ。首飾りはお金になるんでしょ?」

ルパン「爆破させちまうつもりだかんよ、盗むタイミングはシビアだぜ?」

不二子「承知してるわよ。それぐらいわね」

ルパン「流石は不二子。どうだい? 復調祝いに、一晩付きあわねぇか?」

不二子「クラエスはいいの? 他の女を抱いた手で迎えにいくなんて、失礼よ。それに向こうだって立派なレディだし、そういうのは匂いで気づかれるわ」

ルパン「一理あるな。お嬢様に会う前にはきちんと風呂に入って、綺麗にしていけねえとなぁ」

次元「なんの話してやがるんだ」

五ェ門「実に下らん」

―ホテル―

ジョゼ「ラウーロが言っていた侵入経路は確かに理にかなっている。この方法で侵入してくると考えていいかもしれないな」

ヒルシャー「気になるとすれば、どうやってこの経路を見つけ出したのかですね」

ラウーロ「有能なブレインがいるんだろう」

ジョゼ「これを利用すれば警備の目も掻い潜れてしまうな……」

ヒルシャー「公社のほうで僕たちも警備につけるように手配してくれたようですから、中で待ち伏せしましょうか」

ジョゼ「そうだな。具体的な爆弾の設置場所が分からない以上、分散させないといけないが」

ラウーロ「ヘンリエッタ、トリエラ、エルザはこの首飾りのところに置いておくか」

ジョゼ「それは……」

ラウーロ「侵入口は分かっている。そこを押さえておけば雑魚は美術館には一歩も入ることはできない。だが、ルパン三世は別のはず」

ヒルシャー「今や僕たちの標的にはルパンも含まれていますからね」

ラウーロ「公社に堂々と入り込んでくる奴だしな。テロリストと泥棒を一網打尽にするなら中央に戦力を固めておくほうがいい」

ジョゼ「外にはあの銭形がいるんだろうから、ヘンリエッタたちは外を巡回させるより中で待機させたほうがいい、か」

ヒルシャー「銭形が美術館内の警備をすることはないんですか?」

ジョゼ「二課が集めた情報によれば、その予定はないようだ。前回の警備計画でも銭形は美術館周辺に配置されていたみたいだが……」

―美術館―

銭形「……」カチッ

銭形「ふぅー……」

「銭形警部。警備計画のほうですが、本当に変更はなしでよろしいのですか?」

銭形「何度も聞くな。これでいい。爆破予告の所為で周囲の警戒態勢も前回より強化されている」

「しかし、ルパンが同じ手に引っかかることは……」

銭形「分かっている。だが、奴は再度盗むと言って来た。これはワシに対する挑戦でもあるのだろう」

「は、はぁ……」

銭形「ルパンは罠と知っていても突っ込んでくる馬鹿で愚昧な男だ」

銭形「……それ故に恐ろしいがな」

「分かりました」

銭形「……」

銭形(ルパンのほかにもゲストは来るだろう)

銭形(ワシの警備計画が若干変更されているのが良い証拠だ)

銭形(どこから入り込むかは知らんが、ワシの邪魔はさせんぞ。社会福祉公社)

ジャン「……リコ。作戦は覚えているな」

リコ「はい」

ジャン「よし。――ジョゼ、聞こえるか」

ジョゼ『ああ。聞こえる』

ジャン「予告通りに事が始まるとするなら、決行は明日になる。義体と銃器のチェックは怠るな」

ジョゼ『相手が違うからな』

ジャン「義体の力だけではどうにもならない。標的だけを的確に撃ち抜かねば、負けるのは俺たちだ」

ジョゼ『……そうだな』

ジャン「警察には先を越されるな。必ずテロリストは排除する。俺たちの邪魔をする者も一緒にな」

ジョゼ『失敗はしない。いや、できない』

ジャン「それでいい」

ジョゼ『……またあとで』

ジャン「……」

リコ「ジャンさん?」

ジャン「俺の顔は見なくていい。お前が見るのは殺す人間だけだ」

―ホテル―

トリエラ「明日、またあの刑事と戦うことになるのね……」

ヘンリエッタ「どうしたの、トリエラ?」

トリエラ「ん。ちょっとナーバスなの。普通の大人が相手ってわけじゃないし」

ヘンリエッタ「前、私たちが殺せなかった人……」

トリエラ「そう。ヒルシャーさんもジョゼさんも警戒している」

ヘンリエッタ「でも、あの人はルパンって人の捜査してるんだし、今回は関係ないんじゃ……」

トリエラ「さぁ、どうでしょう。あの人、とっても間が悪そうだもの」

ヘンリエッタ「間が悪いと、私たちと戦うの?」

トリエラ「その通り」

ヘンリエッタ「大変だね」

トリエラ「そ、大変。ルパン三世の相手だけできればいいんだけどなぁ」ジャキン

ヘンリエッタ「それ、もって行くんだ」

トリエラ「何言ってるの。これが私のトレードマークでしょうが」

ヘンリエッタ「そう、だったの?」

―翌日 アジト―

ルパン「……」カチッ

ルパン「すっ……ぱぁー……。時間か」

次元「馬鹿なテロリストが数人捕まったみてぇだぞ」

ルパン「ぬふふふ。ま、有象無象の蟻たちも、何割かは中に入れるだろ」

次元「入る際に撃たれるやつもいるがな。てめぇが横流しした侵入経路の所為で」

ルパン「それはいうなよ。こっちは病み上がりだ。囮ぐらいいっぱい欲しいだろ」

五ェ門「運よく中に入れた数名も、結局は義体により殲滅されることになる」

ルパン「で、俺たちが最後の最後で美味しいところだけを頂けば良い」

次元「……ちげえねぇ」

不二子「はい、これ」

ルパン「お。気が利くな」

不二子「墓に備える花束にならないことを祈るわ」

ルパン「縁起でもねえこというなよ」

次元「てめぇには丁度いいだろ。いい加減、一回ぐらいは死んだほうがいいぜ」

―美術館 周辺―

銭形「時間まで残り5分か」

「テロリストを発見!! 手には爆弾をもっています!!!」

「処理班を向かわせろ!!」

「こちらでも確認しました!!!」

「なにぃ!?」

銭形(これだけの人数を集めてきたということは、外側を混乱させる魂胆か。分かりやすい方法だが、それだけに真の狙いがよく分からんな)

銭形「いや。ルパンの狙いははっきりしているか……」

銭形「……ん?」

「銭形警部!! 手を貸してください!!」

銭形「お前たちでやれ。イタリアの警察は弱卒揃いか」

「そ、そんなぁ!!」

銭形「ワシは急ぎの仕事だ!!」

「予告の時間まで3分ほどですよ!?」

銭形「馬鹿者。だからだ」

―美術館内―

「ひひ、ここに仕掛けて……」

トリエラ「残念」

「な……!?」

トリエラ「……」パァン!!

ヒルシャー『トリエラ。東側から2人入り込んだ』

トリエラ「もう、見逃しすぎですよ。それで5人になるじゃないですか」

ヒルシャー『人数が多い上に、統率がとれていない。どこから沸いてくるのかわかないんだ』

トリエラ「言い訳は聞きたくありません」

ヘンリエッタ「……」バババババッ!!!

「あ、ぎっ……!?」

トリエラ「ヘンリエッタ、何人殺した?」

ヘンリエッタ「2人だよ」

トリエラ「ヒルシャーさん。ヘンリエッタがやってくれたみたいです」

エルザ「……」

>>151
ヒルシャー『人数が多い上に、統率がとれていない。どこから沸いてくるのかわかないんだ』

ヒルシャー『人数が多い上に、統率がとれていない。どこから沸いてくるのかわからないんだ』

トリエラ「――エルザ!! 後ろ!!」

エルザ「……」

「このクソガキぃ!!!」

エルザ「……」パァン!!

「がっ……!?」

トリエラ「ふぅ……。エルザ、油断はしないこと。いい?」

エルザ「……」

トリエラ「何かあっても助けないわよ」

ジョゼ『トリエラ。仲良くしてあげてくれ』

トリエラ「はいはい」

ラウーロ『足手まといになりそうなら、切ってくれてもいいけどな』

トリエラ「そうはっきり言われちゃうと……」

ヒルシャー『銭形が館内に移動してきた。みんな、身を隠してくれ』

トリエラ「アイツか。ヘンリエッタ、こっち」

ヘンリエッタ「うんっ」

銭形「――まだ来ていないみたいだな」

銭形「いや、死体がある。来ているか」

トリエラ「(ヘンリエッタ、合図をしたら行って)」

ヘンリエッタ「(うん)」

トリエラ「(エルザもいい?)」

エルザ「……」コクッ

銭形「どこだ……?」

トリエラ「(――ヘンリエッタ!)」

ヘンリエッタ「……」ダッ

銭形「やはり、貴様か……!!」

ヘンリエッタ「……」バババババッ!!!

銭形「ちぃ!! 小ざかしいわぁ!!!」

エルザ(あの人を殺したら、きっとラウーロさんも褒めてくれる……!!)

エルザ「ふっ!」

トリエラ「エルザ!! 勝手なことを……!! あぁ!! もう!!」ジャキン!!

銭形「ふんっ」パァン!!

ヘンリエッタ「っ……ふっ……!!」バババババッ!!!!

銭形「痛みは無視するか」

エルザ「……」パァン!!!

銭形「くっ……」

「ぬふふふ。とっつぁん。柱の影に隠れるなんて随分、臆病になっちゃったなぁ」

銭形「ルパァン!!!」

ルパン「またここで会ったな。ぬふふふ」

トリエラ(あいつがルパン……。今までどこに隠れて……)

ヘンリエッタ「ジョゼさん、ルパン三世です」

ジョゼ『なに!? どこから入ったんだ……!?』

ヒルシャー『トリエラ』

トリエラ「ルパンも銭形も殺します」

次元「わりぃが、そうはいかねえなぁ。嬢ちゃん、大人しく家に帰るなら見逃してやらねえこともねえぜ?」

トリエラ(な……! もう一人……!?)

次元「大人の仕事を邪魔すると火傷じゃすまねえぞ」

トリエラ「子ども扱いすると痛い目にあうわよ」

エルザ「……」ダダダッ

五ェ門「お前の相手は、ここだ」

エルザ「え……!?」

五ェ門「ふんっ!!」ブンッ!!!

エルザ「きゃっ!? ど、どこから……」

ルパン「さぁて、今のうちにお宝を頂きますかぁ」

銭形「そうはさせ――」

ヘンリエッタ「……」バババババッ!!!

銭形「おぉぉうおお!!! やめろぉ!!! 貴様の相手をしている暇はない!!!」

ルパン「ヘンリエッタちゃん。良い腕してるぁ。ぬふふふ。だが、鉛ばっかり撃っててもジョゼさんは振り向いてくれねえんじゃねえの?」

ヘンリエッタ「いえ。殺した分だけ、ジョゼさんは褒めてくれます」

ルパン「あっそぉ。大変なお仕事をしてらっしゃる」

ヘンリエッタ「だから、貴方を殺せばジョゼさんも……」チャカ

ヘンリエッタ「……」バババババッ!!!!

ルパン「あららぁ! あっぶねぇじゃねえか!! ばっきゃろぉ!!!」

銭形「逃げる気かぁ!!」

ルパン「バカいうなよ。俺がお宝を前にして逃げたことなんざ、一度もねえよ」

トリエラ(ヘンリエッタが引きつけてくれているなら……)

次元「ふん。トリエラだな」

トリエラ「……私たちのことは知っているんでしょ? 峰不二子がデータを盗んでいったって聞いたわ」

次元「お前が出演していたスナッフビデオ、見たぜ。最高にクールだった」

トリエラ「動揺するとでも思ってる?」

次元「いや」

トリエラ「だったら……!!」ジャッキン

次元「ショットガンか。お前みたいなはねっかえりにはよく似合うぜ」

トリエラ「どうも。これ気に入ってるから、嬉しいわ」ドォン!!!

次元「ちっ。無駄に動きがいいじゃねえか。義体ってのも厄介だな」

トリエラ「待て!!!」ドォン!!!

エルザ「……っ」パァン!!!

五ェ門「……」キィン

エルザ「な……」

トリエラ(なにアイツ!? ソードで銃弾を打ち落としたの!?)

次元「余所見か。気が多い女は嫌われるぞ」ドォン!!

トリエラ「くっ!!」

五ェ門「無駄だ。直線的な動きでしかない銃弾では我が斬鉄剣を越えられぬ」

エルザ「ラウーロ……さん……たすけ……」

ラウーロ『今、忙しい。自分でなんとかしろ。お前を信じて俺は送り込んだんだ」

エルザ「はい……」

ラウーロ『死ぬまで足掻け』

エルザ「……!」

五ェ門(義体か。洗練されているようで、粗い部分も目立つな。恐らく、身体能力を高めただけなのだろう)

エルザ「ふっ……!!」パァン!!!

五ェ門「無駄だ」キィン

エルザ「……」

五ェ門「覚悟」

エルザ(死ぬ……。ううん。死ぬまで、戦う……。ラウーロさんが、そういったから……!!)

五ェ門「せぇい!!!」ブンッ

エルザ「……っ」ダッ

五ェ門(自ら懐に……!!)

エルザ「くっ!!」ドゴォ!

五ェ門「ぐぅ……!! この間合いでは避けられんぞ……」

エルザ「あ――」

五ェ門「はぁぁ!!!」ザンッ!!!

エルザ「……!」

エルザ(右腕が飛んだ……痛い……)

トリエラ「エルザ!!! この!!!」

次元「ガンマンに背を向けるのは殺してくださいってことだぞ、嬢ちゃん」ドォン!

トリエラ「ぐっ……ずっ……!?」

ヘンリエッタ「ジョゼさん、トリエラとエルザが――」

銭形「出て来い!! 小娘がぁ!!!」バァン!!!

ヘンリエッタ「……!?」

次元「義体ってのも、こんなもんか」

五ェ門「手応えがなさすぎたな」

次元「ルパン。そっちはどうなんだよ」

五ェ門「……!」

エルザ「……」チャカ

五ェ門「次元!!」

次元「おいおい……。少しは苦痛ってもんを知ったほうがいいぞ」

エルザ「……」

五ェ門(この娘、どこをみている……?)

五ェ門「後ろか――」

トリエラ「ふふん、散弾は全部撃ち落せる?」ドォン!!!

五ェ門「つっ……!?」

次元「てめぇ――」

エルザ「……」パァン!!!

次元「おっと!! そうはいかねえな!!」

トリエラ「ガンマンさん。手を上げたほういいんじゃない?」

次元「……!」

ヘンリエッタ「……」チャカ

エルザ「……」

次元「ちっ。三方向からかよ……」

五ェ門(足をやられたか……不覚……!)

銭形「公社の人形どもが。貴様らの所為でルパンが逃げてしまっただろう……」

トリエラ「冗談。自分の腕の無さを責任転嫁しないで」

銭形「なにぃ……」

次元「ハッハー。言われ放題だな、銭形」

トリエラ「全員、動かないで。もう少し長生きしたいならね」

次元「構うことはねえ。撃ちたきゃうちな。銃で脅しても俺が出すのは憎まれ口だけだぜ?」

トリエラ「そう……。でも、貴方がルパンの居場所を吐いてからにするわ」

次元「悪いが、俺もあいつのことはよくわからねえんだ。長い付き合いだが、ルパンの頭ん中なんてこれっぽっちも覗えねえよ」

トリエラ「どこに行ったかも分からないってこと?」

次元「そういうことだ」

トリエラ「……」

ジョゼ「――それは本当か?」

ヘンリエッタ「ジョゼさん!」

トリエラ「きてくれたんですか?」

銭形(何? 雑魚の侵入を食い止めているのではなかったのか……?)

ジョゼ「ヘンリエッタ、よくやったな。こっちにきてくれ」

ヘンリエッタ「はいっ!」タタタッ

ジョゼ「ご褒美は何がいい?」

ヘンリエッタ「あの……その……あれ?」

ジョゼ「どうした?」

ヘンリエッタ「……ジョゼさんは煙草をやめたはずです。貴方、誰ですか?」

ジョゼ「ほう……。資料には喫煙してるって書いてたんだけどなぁ」

ヘンリエッタ「でも、最近は煙草の臭いはしなくて……あれ……」

銭形「小娘、うて!! お前の主ではない!!! ルパンだぁ!!!」

ヘンリエッタ「ルパン……!!」

ジョゼ「ぬふふふ。変装すりゃあ、義体も操れると思ったが甘くねえんだなぁ。でも、十分だ」チャカ

ヘンリエッタ「……!」

ルパン「――戦力は削っておくほど、楽になる」パァン!!!

ヘンリエッタ「あっ……!?」

ルパン(浅いか。やっぱりもう少し引き付けたかったぜ)

トリエラ「ヘンリエッタ!!」

銭形「ルパァン!!!」

トリエラ「動くな!!」

ルパン「そうそう。動くな。俺がお宝を取るまではなぁ」

ヘンリエッタ「……よくも……ジョゼさんに……ばけて……わたしを……!!!」

ルパン「お前さんに興味はない。あるのはクラエスだけだ」

トリエラ「クラエス……?」

次元「……ふんっ!!」グイッ

トリエラ「なっ……!!」

次元「意識が散漫しすぎだぜ。修行が足りねえな」

トリエラ「く……そ……」

ヘンリエッタ「……」チャカ

ルパン「さーて、おたからぁ、おたからぁ。にゅふふふ」

銭形「許すと思うのか?」

ルパン「とっつぁん、そりゃ状況を見てからいうんだな」

銭形「なに?」

ルパン「ガキンチョたちの狙いは俺たちととっつぁんなんだぜ? 俺だけに意識を集中させてると……」

ヘンリエッタ「……」ババババババッ!!!!

ルパン「あらよっと!」

銭形「おぉぉお!!! ルパンだけを撃て!!!」

ルパン「義体に命令できるのは条件付けを施した相手だけだ。諦めな」

銭形「義体……条件付け……。なんだそれは」

ルパン「それはとっつぁんが直接聞けばいい。証拠も揃ってるだろ」

銭形「ふんっ」

ルパン「――よぉし。お宝も手に入れたし、ここには用はねえなぁ」

五ェ門「急げ」

ルパン「わかってるよぉ。これをセットしてっと」ピトッ

トリエラ「なに……それ……」

次元「予告は二つあっただろ?」

トリエラ「爆破予告も貴方たちが流したのね」

ルパン「そういうことだ。さー、大変だぁ。この爆弾を処理しないと大事な大事な担当官も爆発に巻き込まれて死んじまうぜぇ?」

エルザ「そ、そんなこと……」

ルパン「守りたいなら必死になれ、エルザ。腕一本でもやれるだろ?」

エルザ「……ラウーロさんを……まもらなきゃ……」

銭形「行くのか」

ルパン「とっつぁんも爆発に巻き込まれたくないなら、俺を追ってくるこったな。あばよっ」

次元「さぁ、どうする?」

トリエラ「あんたも死ぬわよ」

次元「動けるのはヘンリエッタと銭形だけだな」

ヘンリエッタ「……」チャカ

銭形「ワシには爆弾処理の技能がある。お前にはあるのか?」

ヘンリエッタ「……」

銭形「答えろ」

ヘンリエッタ「ありません……」

銭形「ならば答えはわかりきっている」

ヘンリエッタ「爆弾を処理してくれるんですか?」

銭形「ワシを見逃すという条件でな」

次元「きたねえな。自分だけ助かろうとしやがって」

五ェ門「……」

ヘンリエッタ「ジョゼさん……きこえますか……?」

ジョゼ『なにがあった?』

―美術館 入り口―

「テロリストらしき者は何名いた!?」

「はっ。15名ほどです」

ルパン(ぬふふふ。その倍は用意してたんだけどなぁ)

ルパン(担当官の連中も中々に腕利きだな。不二子が持ってきた資料に偽りはなかった)

ルパン「まぁ、そうでないと面白くないけどなぁ」

ジョゼ「ヒルシャー。僕はヘンリエッタたちのところに向かう。監視はそのまま続けてくれ。ああ、頼む」

ルパン「お?」

ジョゼ「あ。これは失礼」

ルパン「がんばれよ。お兄様」

ジョゼ「なに?」

ルパン「はーっはっはっはっは!!」

ジョゼ「……公社を敵に回すと後悔するぞ」

ルパン「俺を敵にしたお前らが悪いんだろ。ほら、妹が心配ならいってやれよ」

ジョゼ「くっ……」

―美術館内―

ジョゼ「ヘンリエッタ、無事かい?」

ヘンリエッタ「ジョゼさん……」

銭形「腹を撃たれて立っているなど、人間とは呼べんな」

ジョゼ「……」

銭形「もうすぐ処理できる。待っていろ」

ジョゼ「……お前たちはルパンの仲間か?」

次元「そうだが、余計なことは言わないほうが良いぜ。大事な義体を無駄にしたくはねえだろ?」

トリエラ「ジョゼ……さん……」

五ェ門「……」

エルザ「うぅ……」

ジョゼ(下手に動けないか……)

銭形「これで起爆はしない。とりあえずは安全だ」

ジョゼ「何故、殺そうとしている相手を助けたんですか?」

銭形「ルパンの企みを潰すためだ。それ以外にない。ワシはルパンを追う。あとは好きにやってくれ」

ジョゼ「……ルパンなら広場のほうへ向かった」

銭形「なに? いや、そうか……。情報提供、感謝する」

ジョゼ「……トリエラたちを解放してくれ」

次元「した瞬間、俺たちが殺されるだろ? そんなのは御免だぜ」

五ェ門「このまま逃げ切るまでは人質にさせてもらおうか」

ジョゼ「逃げても公社は必ずお前たちを追い詰める」

次元「やってみな。こっちには敵が多いほど喜ぶ大馬鹿野郎がいるんでね。エサをやるだけになるぜ?」

ジョゼ「義体の情報を五共和国派に売るつもりか?」

次元「どうなんだ、五ェ門?」

五ェ門「ルパンに聞け。小娘の身体情報など興味はない」

次元「俺もだ。ロリコン野郎は喜びそうだがな」

ジョゼ「どういうことだ?」

次元「ま、最後だし、教えといてやるか。不二子が義体の情報を盗んだのは、クラエスってガキのことが知りたかっただけだ」

ジョゼ「クラエスの……?」

次元「ルパンはその嬢ちゃんに礼がしたいって半年前からずっと言ってる」

―広場―

銭形「……出て来い」

ジャン「気づいていたか」

銭形「暗殺するなら殺気ぐらい消せ。野兎すら狩れんぞ」

ジャン「それはどうだろうな」

リコ「……」パァァァン!!!

銭形「ごっ……!?」

ジャン「俺たちがルパンを殺す。それで貴方も満足だろう。もしそれで満足できないなら、あの世で好きなだけルパンを追い回せばいい」

銭形「くっ……くくく……ルパンを甘くみるな。奴を逮捕できるのは、世界でワシのみだ」

ジャン「公社の力を過小評価しているようだな」

銭形「お前らのような小物集団では太刀打ちできん組織をも潰してきた男だ。戦えるわけがない」

ジャン「……リコ」

リコ「……」パァァァン!!!!

銭形「ぐぁ……!!!」

ジャン「この力があれば、戦えるはずだ」

銭形「ぐぅぅ……」

ジャン「銭形警部はルパンを追走中、ルパンにより殺された。誰も疑わない結末だ」

銭形「……クローチェ事件」

ジャン「……」

銭形「ジョゼッフォ・クローチェとジャン・クローチェがいる時点で、公社という存在がなんのためにあるのかがよくわかる」

ジャン「それがどうした。知っている者は多い」

銭形「ならば、クローチャ事件の首謀者は?」

ジャン「……捜査中だ」

銭形「変態どもに手足を切断された者、先天性の病で歩くことすら出来なかった者、両親の死体の前で暴行され続けた者。そやつらが公社に引き取られたことも分かっている」

ジャン「なに?」

銭形「イタリア警察も、政府が復讐のために立ち上げた組織も、無能だ。ワシならば名前を聞いただけで、そいつが昨日食った晩飯のことも分かる」

ジャン「……」

銭形「取引と行こうか、ジャン・クローチャ。ルパンを撃った少女に会わせろ。そうすれば貴様が血眼になって探している情報もくれてやる」

ジャン「捜査に協力するということか?」

銭形「ルパンを追うついででよければな。利用するだけしていらなくなれば殺せばいい。どうだ。破格の条件だろう?」

>>172
銭形「ならば、クローチャ事件の首謀者は?」

銭形「ならば、クローチェ事件の首謀者は?」


銭形「取引と行こうか、ジャン・クローチャ。ルパンを撃った少女に会わせろ。そうすれば貴様が血眼になって探している情報もくれてやる」

銭形「取引と行こうか、ジャン・クローチェ。ルパンを撃った少女に会わせろ。そうすれば貴様が血眼になって探している情報もくれてやる」

―社会福祉公社 廊下―

クラエス「……」

「トリエラとエルザは無事だって」

「ジョゼさんがやってくれたか」

クラエス(みんな、生きてる……)

マルコー「クラエス」

クラエス「マルコーさん。トリエラたちは無事なんですね」

マルコー「ああ。まだ予断を許さない状況ではあるがな」

クラエス「どうしてですか?」

マルコー「ルパンは逃走してしまったようだ」

クラエス「……」

マルコー「クラエス。ここに侵入される可能性もゼロではない」

クラエス「ジャンさんから言われています。躊躇わずに撃てと」

マルコー「そうならないことを祈っていて欲しい」

クラエス「はい」

―トリエラ・クラエスの部屋―

クラエス「トリエラ、無事かしら……」

ジャン「クラエス」

クラエス「ジャンさん。もう戻ってきたんですか?」

ジャン「話がある。ついてきてくれ」

クラエス「はい」

ジャン「そうだな。多目的ルームがいいか」

クラエス「あの話ってなんでしょうか?」

ジャン「ルパン三世についてだ」

クラエス「その話なら……」

ジャン「君はルパン三世に会っている」

クラエス「……」

ジャン「覚えてはいないだろうがな」

クラエス「はい。外に出た覚えはないですから」

ジャン「そうだろうな……。こっちだ」

―多目的ルーム―

ジャン「座ってくれ」

クラエス「はい……」

ジャン「……」

クラエス「あの、ルパン三世と私が会ったことがあるというのは、いつごろの話ですか?」

ジャン「半年前になる」

クラエス「それは……あの……公社に来る前の話ですか?」

ジャン「さぁな」

クラエス「え? ジャンさんは知っているはずじゃないんですか……」

ジャン「俺が初めて君と出会ったとき、既に銃を握っていた」

クラエス「……覚えてません」

ジャン「条件付けの影響だな。仕方ない」

クラエス「はい。それで、これが話したかったことですか?」

ジャン「いや。本題はここからだ。――ルパン三世という男に興味はあるか?」

クラエス「多少はあります。私のことを狙っているとジャンさんから聞かされましたし」

ジャン「そうか。そうか。興味があるのか。それは嬉しいねぇ」

クラエス「え?」

ジャン「ぬふふふ。だったらよぉ、クラエス。今から、俺といいことするか?」グイッ

クラエス「え……ジャンさん、なにを……?」

ジャン「可愛い顔してんなぁ。あの時は眼鏡をかけてはなかったし、雰囲気も変わっちまったが、今のお前も魅力的だ」

クラエス「ちょっ……と……ジャンさん、どうしたんですか……」

ジャン「はーっはっはっはっは」

クラエス「な、なに……? ジャンさんじゃない……?」

ジャン「クラエス……会いたかったぜ……」バッ

クラエス「え……」

ルパン「――よぉ。俺がルパン三世だ」

クラエス(殺さないと……!)

クラエス「……!?」

ルパン「探し物はこれかい?」チャカ

クラエス「……っ」

ルパン「随分、探しちゃったぜ。どんな情報網を使っても、引っかかるのはお前さんのお友達のことばかりだ」グイッ

クラエス「うっ……」

ルパン「ま、それもそうだな。俺が撃たれたすぐあとに、お前は軟禁されてたんだから。こうして社会福祉公社っていうところに直接乗り込まないと、会えなかったわけだ」

クラエス「私に会うために危険なことをしてきたの?」

ルパン「そうだ。爆破予告でもしてここの戦力を分散させとかなきゃ、忍び込むのは一苦労だからなぁ」

クラエス「……」

ルパン「ついでに大怪我もさせとけば、すぐには戻って来れない。するとクラエスとゆっくりお話ができるってわけよ」

クラエス「私のためにどうしてそこまで……」

ルパン「半年前、お前に受けた銃弾の礼をしたくてしたくて、たまらなかったんだ」

クラエス「残念だけど、私は何も覚えていない。知らない人と話しているのが新鮮で楽しいぐらいなの」

ルパン「そうか。こんなにいい男を忘れるなんて、もったいねぇ。人生、損してるぜ」

クラエス「損か得かは貴方が決めることじゃない」

ルパン「言うねぇ。益々惚れちまったぜ。金の矢がふかーく、刺さってるみたいだ」

クラエス「そう……。でも、私には鉛の矢が刺さってるみたいよ。貴方のこと、好きになれそうにないから」

ルパン「条件付けっていう鉛の矢か? それとも別の矢か。まぁ、どっちでもいいけどな」

クラエス「殺すなら殺せばいいわ」

ルパン「それは惜しいなぁ。殺すぐらいなら、このまま盗んでやろうかしらぁ。にゅふふふふ」

クラエス「どうぞ、ご勝手に」

ルパン「いいのかい」

クラエス「貴方がどんなに優れた怪盗だろうと、私は盗めない」

ルパン「俺の手に掛かれば、心も体も盗んじまうぜ?」

クラエス「無理よ。人の心は絶対に盗めない」

ルパン「心もないお人形さんが、偉そうにいう」

クラエス「……っ」バッ!!

ルパン「ありゃぁ?」

クラエス「……」チャカ

ルパン「やめときな。お前じゃ俺に勝てねえよ」

クラエス「……」

ルパン「銃の重さも分からないぐらいにブランクあるんだろ? 弾倉は抜いてあるだけどなぁ」

クラエス「抜け目がないのね」

ルパン「でなきゃ、この稼業はやってられねえって」

クラエス「……連れ去るなら早くしたほうがいいわよ。そのうちジャンさんも戻ってくるだろうし」

ルパン「あとこわーいおまわりさんも一緒にな」

クラエス「おまわりさん?」

ルパン「俺と一緒に外に出る気はねえか? 義体の能力はこの目で確認してきた。俺の傍にいても邪魔にはならない」

クラエス「……」

ルパン「一緒に行こうぜ。楽しい世界へな」

クラエス「聞こえなかったの? 私を連れ去ることはできても盗めないって」

ルパン「条件付けができれば簡単だと思うけどな」

クラエス「ご自由にどうぞ。その分、私は早く死ねるけど」

ルパン「こんな箱庭で体を弄くられて、力を持て余し続ける日々に魅力なんてねえだろ?」

クラエス「……」

ルパン「来いよ」

クラエス「それは脅し?」

ルパン「そうかもな」

クラエス「……昔、誰かに教えられた」

ルパン「何を?」

クラエス「無為に時を過ごす喜びを」

ルパン「お父さんに教えてもらったのかい」

クラエス「どうかしら。もう覚えていないわ。でも、そうだったかもしれない」

ルパン「そうか……」

クラエス「ここには読みきれないほどの本もある。絵も描ける。音楽も奏でることができる。これ以上に楽しいことなんてない」

ルパン「それがあるんだな。井の中にいるだけだ」

クラエス「私がそう思っている。それだけで世界は回る」

ルパン「……」

クラエス「それに、私はトリエラのように戦わない。傷だって負わない。その分だけ多くの本が読めるし、絵も描ける」

クラエス「それがどれだけ幸せなことか、貴方には絶対に分からない。だから、確信をもって貴方に言えるの」

クラエス「私のことは盗めないってね」

ルパン「なるほど……。つまり、俺がここから連れ出そうとすれば……」

クラエス「楽しみがなくなるもの。どんな手を使ってでも私は死ぬ。貴方の世界で生きようとは思わない」

銭形「どんな理由があろうが、未成年者を使ってまでテロリストをころしていいわけがない。
我々はこれより社会福祉公社を襲撃する!!」

銭形「いいか、最優先目標は大人の都合でいいように扱われている子供の保護だ。だが抜かるな、子供といっても洗脳された人間だ、ためらったらころされるぞ!!」

銭形「だから必要なら殺せ、全責任はわしがおう!」

埼玉県警機動隊「「「「ハッハッハッハッ!!!」

銭形「ええい突入!!」

埼玉県警機動隊員1「警部を援護しろ~~!」

埼玉県警機動隊員2「日本警察の維持を見せるんだ!」

銭形「ルパンここが公社の秘密か!」

ルパン「ああ、ひでえことしやがるぜ・・・ガキを無理やり機械のからだにしやがっておまけに洗脳して従わせるそこがここ社会福祉公社さ。
今まで見た組織でも狂ってる度合いは一二を争うな。」

銭形「う~~~ぬ!!」

銭形「私はこの目で見たんだ!!!ずらりとならんだ培養曹とその中に浮かぶ子供の臓器に、体をむかれ機械を入れられた子供の死体を!!!」

ICPO本部長「そんなことはわかっとる!だがこれは国家の犯罪なんだぞ!」

銭形「ICPOは、国際犯罪を取り締まる組織です。」

イタリア代表「残念だがミスタ銭形そのような事実はない。勝手な誹謗中傷をされたことに遺憾を表明したいですな。」

アメリカ代表「流石はナチスとともにファシズムに走った国家だ、いまもクズな行為をこそこそと。」

イタリア代表「なんだと!!!!」

本部長「やめろ、ここは国家問題を取り扱うべきところではない。」

銭形「」はぎりし

ルパン「ICPOのたいてろ部隊か、くるのが遅すぎだ。」





いつもならこうか

ルパン「条件付けって怖いなぁ」

クラエス「これも条件付けなのかしら……。それでもいいわ。喜べるだけ私は幸せだもの」

ルパン「……わかった。説得はどうやら無理みたいだな」

クラエス「無理よ。貴方程度ではね」

ルパン「ぬふふふ。そうかぁ。そりゃぁ、残念だ」

クラエス「……」

ルパン「だったら、お礼をして帰るとするかな」

クラエス「私が貴方を撃ったから?」

ルパン「そうだとも」カチッ

クラエス「……ここ、禁煙よ」

ルパン「ふぃー……。かてぇこというなよ」

クラエス「……」

ルパン「んじゃ、クラエス?」チャカ

クラエス「……なに?」

ルパン「――あのときは、ありがとよ」パァン!!

クラエス「……なんの真似?」

ルパン「祝い事のときはクラッカーに限るだろ? しらねえか?」

クラエス「どういうこと?」

ルパン「こいつを見てくれ」

クラエス「首飾り……?」

ルパン「半年前も俺は同じ奴を盗んだ。全く同じ奴だ」

クラエス「それがどうしたの?」

ルパン「これな、実はよくできた贋作なんだ。しかも発信機付きときてる。ひでぇだろ?」

クラエス「……」

ルパン「不思議そうな顔してんな」

クラエス「だって、話が見えてこないもの」

ルパン「あのとき、お前が俺を撃ってくれなきゃ、俺は間抜けにもこの発信機付きの贋作をアジトにもって帰るところだったわけよ」

クラエス「え……?」

ルパン「クラエスの撃った弾がこの首飾りにも当たってな、割れたところから発信機が出てきたんだ。で、それはその場に置いて俺は上手く逃げられた。そういうことだ」

クラエス「それだけのために、貴方は命を削ったっていうの?」

ルパン「わりぃか?」

クラエス「悪くはないけど、馬鹿みたいね」

ルパン「お前はしらねえだろうけど、こわーいおまわりさんは本当にしつけぇんだぜ? これをアジトにもって帰っていたらと思うと、ぞっとする」

クラエス「よくわからないけど」

ルパン「感謝してんだよ。ホントにな」

クラエス「記憶がないから、何を言われても困るけど」

ルパン「ぬふふふ。これは俺の自己満足だ。困らせるつもりできたんだし、大いに困ってくれ」

クラエス「何を言って……」

ルパン「あと、これ。花束も用意した。受け取ってくれ」

クラエス「こんなことされても……」

ルパン「まぁまぁ。いいじゃないの。こんな色男から感謝されるなんてそうあることじゃない。素直に感謝されときな」

クラエス「ショットガンが入っていたりは?」

ルパン「映画の見すぎじゃねえの?」

クラエス「そうかもね」

ルパン「ぬふふふ。な? 外にはこんなに愉快なことがある。少しぐらいは興味も湧くだろ?」

クラエス「……殺し文句にしては弱いわね」

ルパン「俺の話術も錆付いちまったかな」

クラエス「もう用事は済んだなら、出て行ってくれない?」

ルパン「そうさせてもらうか。時間も時間だしな」

クラエス「……」

ルパン「クラエス」

クラエス「まだ何か?」

ルパン「明日の正午、ここに来てくれ」スッ

クラエス「まだ諦めてないの?」

ルパン「いい女を簡単に諦める男はいねえよ」

クラエス「行くと思う?」

ルパン「必ず来るね」

クラエス「変な人ね」

ルパン「じゃあな、クラエス。待ってるぜぇ」

クラエス「さよなら」

銭形「――ルパンはどうした?」

クラエス「……貴方は?」

銭形「ワシはICPOの銭形だ」

ジャン「クラエス、何故ここにいる?」

クラエス「ルパン三世と接触しましたが、逃げられてしまいました」

ジャン「そうか」

銭形「間違いないな。ワシの作った首飾りがここにあるということは、ルパンは確かにここにいたはずだ」

クラエス「大丈夫ですか? 出血が多いようですが……」

銭形「見た目ほど大きな怪我ではない。それよりもクラエス、お前に話がある」

クラエス「なんですか?」

銭形「ルパンがお前に何を話したのか聞かせてもらうぞ」

クラエス「……」

ジャン「協力してやってくれ」

クラエス「わかりました」

銭形「よぉし。早速取調べを行うぞ。こい」

―翌日 トリエラ・クラエスの部屋―

クラエス「ん……?」

トリエラ「おはよ」

クラエス「……うん」

トリエラ「よく眠ってたね」

クラエス「よく無事だったわね」

トリエラ「結構大変だったんだから。あのあとヒルシャーさんとラウーロさんが来てくれなきゃ流石に死んでたかも。エルザも暫くは入院しなきゃいけなくなったし――」

クラエス「その話はまた今度聞かせてくれる?」

トリエラ「はいはい。退屈すぎるものね」

クラエス「……行ってくるわ」

トリエラ「どこに?」

クラエス「呼ばれているの」

トリエラ「ふぅん。そうなんだ……。行ってらっしゃい」

クラエス「行ってきます」

トリエラ「午後からは射撃訓練だったっけ。準備しなきゃ」

―広場―

次元「本当に来るのか?」

ルパン「間違いなくな」

次元「俺なら絶対にいかねえがな」

ルパン「次元と一緒にされちゃ、向こうも嫌だろうさ」

次元「……お前の本当の目的をそろそろ聞かせてくれねえか?」

ルパン「だから、お礼がしたかったんだよ。クラエスにな」

次元「嘘つけ。撃たれた相手に花を贈るなんざ、狂人のやることだぞ」

ルパン「あらぁ? 俺は生まれたときから狂人だぜ? 気づかなかったか?」

次元「自分でいうな」

ルパン「本当の目的なんてねえよ。俺を撃ったやつがどんな奴だったのか、知りたかっただけだ」

次元「そういうことにしとくか。それじゃ、俺はもう行く」

ルパン「どこにだ?」

次元「また連絡してやる。それより客だぞ」

ルパン「おぉ。来てくれたか。うれしいねぇ。待ってたぜ」

―社会福祉公社 面談室―

クラエス「いえ。行き先は何も」

銭形「本当に君を勧誘しただけなのか?」

クラエス「みたいですね」

銭形「……奴め、何を考えていたんだ」


ヒルシャー「よく許可を出しましたね」

ジャン「その代わり、暫くは奴の情報収集能力を公社のために役立ててもらう」

ヒルシャー「ですが、いつかは公社の敵となる存在では?」

ジャン「それはないだろう」

ヒルシャー「何故ですか? 昨日まではあんなに……」

ジャン「我々のことなど眼中にないそうだ。ルパン逮捕のために利用するだけだと言っていた」

ヒルシャー「信じるのですか、その言葉を」

ジャン「公社の内情を誰かに申告したということもない。今のところは嘘ではなさそうだ。だが……」

ヒルシャー「なんですか?」

ジャン「不要になれば消す。そういう約束だ。問題は、銭形をどのようにすれば消せるのかということだがな」

―広場―

ヘンリエッタ「……」

ジョゼ「クラエスは来ない。今頃、昨日に引き続き、取調べを受けている頃だ」

ルパン「んなことは分かってる。あんたらが何をしているのか分かった段階で、半分盗むのは諦めてた」

ジョゼ「本当の目的は、クラエス自身だったのか」

ルパン「ガキの形をした殺人機。俺の仕事にも使えると思ったんだがなぁ」

ジョゼ「撃たれたその日から考えていたのか?」

ルパン「ああ。あんな機械的に他人を撃てる女の子は希少だからな。盗みだすだけの価値はあった。礼をしたかったのもマジだけどな」

ジョゼ「何故、盗まなかった。お前には二度もチャンスがあったはずだ。爆破予告を囮にまで使って」

ルパン「一度目は単なる所在確認だ。いねえところに潜り込むなんて馬鹿な真似はしねえよ」

ジョゼ「なら、二度目は?」

ルパン「盗もうとはしたが、無理だった。ありゃ、薬でどうにかするしかねえ」

ジョゼ「どうにかすればよかったのでは?」

ルパン「その分短命になるんじゃ本末転倒だろ。道具は長く使えてなんぼだ。それになぁ、条件付けなんていう金の矢はどうにも性にあわねぇ。人としての魅力で惚れさせねえとなぁ」

ジョゼ「それは同意しておこうかな」

ルパン「さぁて、ジョゼさん。一体ぐらい義体を売ってくれねえか? 金なら出すぜ」

ジョゼ「断る。義体は盗むための道具じゃないんでね」

ルパン「復讐の道具ならいいのか?」

ジョゼ「……」

ルパン「否定はしねえか」

ジョゼ「ヘンリエッタ」

ヘンリエッタ「はい」チャカ

ルパン「こんな場所でドンパチやろうってか?」

ジョゼ「ルパン三世とその一味は公社の敵だからな」

ルパン「敵だぁ? ぬふふふ。舐めたこといってくれるな」

ジョゼ「なに?」

ルパン「弱ったガキを洗脳させて、兄弟ごっこをやっているだけの甘っちょろい奴らなんかに俺を捕まえるなんてことはできやしねぇさ」

ジョゼ「そんなことはない」

ルパン「だったらこのヘンリエッタを完全な殺人機にしてこい。そしたら、少しぐらいは遊んでやるぜ」

ルパン「それでも、指先が触れることすらできないだろうがな。ぬふふふ」

―社会福祉公社 トリエラ・クラエスの部屋―

トリエラ「……」

トリエラ「クラエス、遅いな……」

クラエス「……」ガチャ

トリエラ「クラエス。遅かったじゃない」

クラエス「あの刑事さんが何度も似たような質問をしてくるから、長くなったの」

トリエラ「でしょ? ちょっと頭おかしいと思うわ」

クラエス「ふふっ。そうね。だから、間が悪いのかも」

トリエラ「言えてる」

クラエス「あら? この花、生けてくれたの」

トリエラ「うん。枯れちゃうと可哀相だしね。それ、誰から貰ったの?」

クラエス「初対面のとっても不思議で変な人に貰ったの」

トリエラ「ふぅん。だったら、捨てたほうがよかった?」

クラエス「花に罪はないでしょ。このままでいいわ」

クラエス(私はあの泥棒と一度会ってる。彼が私に固執した理由は分からないが何かがあったに違いない。けれど、もう失った記憶のことだ。考えるだけ無駄である……)

―ローマ市内 路地裏―

ルパン「ふぅー……」

次元「ここにいたか。公社の奴らはどうした?」

ルパン「さぁな。興味ねえよ」

五ェ門「義体か。ルパンよ、本当にあのような物が欲しかったのか?」

次元「クラエスに拘る必要もねえし、不二子が盗み出したデータをみりゃぁ、そっくりなのは作れたんじゃないのか?」

ルパン「もういいだろ。この話はやめようぜ」

次元「よくわかんねえな、ホントによ」

ルパン「わかんなくていいんだよ。さっさと、イタリアを離れようぜ。義体の相手をするのはメンドーだしよ」

五ェ門「同感だ」

次元「次はどこに行くよ」

ルパン「そうだなぁ。さっむいところとかどうよ?」

五ェ門「何故、そのようなところへ向かう?」

ルパン「そんな気分なんだよ」

次元「頭でも冷やすのか。いいことだと思うがな」

不二子「はぁい。ルパン」

ルパン「本物の首飾り、手に入ったか?」

不二子「おかげさまでね。この通り。別の美術館に運ばれてたのね」

ルパン「とっつぁんのやりそうなことだろ」

次元「なんだよ。知ってたなら、こいつを盗めばよかっただろ」

ルパン「だから、贋作でもあそこから盗まなきゃ、クラエスに俺がルパン三世だって信じてもらえないだろ?」

五ェ門「どちらにせよ、何も覚えていなかったのでは意味がない」

ルパン「そこは俺のプライドの問題だ」

次元「その所為で死に掛けたわけか」

ルパン「いつものことだろ」

不二子「ねぇ、クラエスと何かあったわけ?」

ルパン「秘密だ」

不二子「もう、意地悪ねぇ」

ルパン「お宝が手に入ったんだ。文句いうなよ」

不二子「文句ってわけじゃないけど、気になるじゃない」

―ローマ市内 路地裏―

クラエス「……」ババババッ!

ルパン「がっ……ぎぃ……!?」

クラエス「……あ」

ルパン(こりゃぁ……偽者か……。とっつぁん、やってくれたなぁ……。だが、今は……このクソガキを……)

クラエス「壊してごめんなさい」

ルパン「な……?」

クラエス「大切なもの壊して、ごめんなさい。……さよなら」

ルパン「……くっくっくっ……くっくっくっ……」

次元「――おい、ルパン!! 何があった!?」

ルパン「……次元……それ……」

次元「こりゃ、盗んだお宝じゃねえか。どうして壊れてんだよ」

ルパン「ひろうな……それがにせものだって……せつめ、い……してや……る……」

次元「おい!! ルパン!! しっかりしろ!! おい――」

ルパン(申し訳なさそうに謝ったあいつにいつか説明してやらねえとな……。お前のおかげで偽者だってわかったこと。そして、大切なものでもなんでもないってことを……)


END

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