2期を目前にして1期Blu-rayを再視聴したのですが、
「あれ……色々と不自然だな」と違和感を感じたので完全自己満で脚本を書き換えました
「いやいやあれで完璧だろ、何イチャモンつけてんの?」と思われる方はブラウザバックをおすすめします
また、冒頭から前半数分程はほぼ変えていませんので、不要な方は読み飛ばしてください
どうしても聞き取れなかった箇所は省略または妄想で補完しています
「いやあのシーン無いんだけど?」という事も無きにしもあらずですが、ご了承ください
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1505657875
――2年前
鞠莉「……え?」
ホワイトボードに新曲の歌詞を書き連ねるマジックのペン先が、ピタリと止まった
果南「私……スクールアイドル、辞めようと思う」
鞠莉「なんで……まだ引きずっているの? 東京で歌えなかったくらいで……」
果南「鞠莉、留学の話が来てるんでしょ、行くべきだよ」
鞠莉「どうして……冗談はやめて?」
華南は、大きな音が出るほど、打ち付けるようにマジックをテーブルに置いた
鞠莉「前にも言ったでしょう、その話は断ったって……ダイヤもなんか言ってよ!」
鞠莉が身を乗り出し、テーブルに身体がぶつかり、その拍子にマジックが床に落ちて転がった
ダイヤ「……」
ダイヤはただ顔を伏せ、何も言おうとはしなかった
鞠莉「ダイ……ヤ……」
果南「ダイヤも同じ意見……もう、続けても意味がない」
果南が鞠莉に背を向けて歩き始めたと同時に、ダイヤも部室を後にする
鞠莉「果南っ! ダイヤっ!」
鞠莉は、胸元に抱きしめていた衣装を、果南たちに向けて突き出した
突然解散を告げられた彼女にとって、それだけが、三人を繋ぐ唯一のものだったから
二人は振り返った
果南は一層表情を歪め、ダイヤは今にも泣き出しそうな顔で床に目をそらす
果南「……終わりにしよう」
***
千歌が旅館の手伝いを任されたために、今日のミーティングは千歌の家で行うことになった
ルビィ「夏祭り!?」
花丸「ハムハム……屋台も出るずら!」
花丸はいつもののっぽパンを食べながら
善子は木製の長椅子に横たわり、顔を擦り付けている
善子「これは……痕跡?」
善子「僅かに残っている……気配……」
どうやら、木の香りの強い椅子が気に入ったようだ
ルビィ「どうしよう……東京に行ってからすっかり元に戻っちゃって」
花丸「ほっとくずら」
ルビィと花丸は、そろって目を細めて善子を見つめている
梨子「それより、しいたけちゃん本当に散歩でいないわよね?」
千歌「今度こそ大丈夫だってばー」
曜「千歌ちゃんは夏祭り、どうするの?」
千歌「そうだねー……決めないとねぇー……」
千歌は受付で寝そべりながら、夏祭りのイベントについて悩んでいる様子だ
曜「沼津の花火大会って言ったら、ここら辺じゃ一番のイベントだよ。そこからオファーが来てるんでしょ?」
ルビィ「でも……今からじゃあんまり練習時間ないよね」
梨子「私は、今は練習を優先したほうがいいと思うけど」
曜「千歌ちゃんは?」
曜が尋ねると同時に、千歌は立ち上がり、メンバーの下へ駆けて行った
近くの柱に身体を寄せ、とっさの笑顔をみんなに向ける
千歌「うん! 私は出たいかな」
曜「そっか!」
梨子「千歌ちゃん……!」
二人とも、心の底では不安だったのだ
東京でのステージで挫折を味わって間もない今、千歌がオファーを辞退するかもしれない
だが、予想に反して千歌の表情は明るかった
千歌「今の私たちの全力を見てもらう……それでダメだったらまた頑張る」
千歌「それを繰り返すしかないんじゃないかな」
曜「ヨーソロー! 賛成であります!」
善子「ギランッ」
曜と善子はいつもの敬礼は堕天ポーズで、みんなは笑顔で、千歌に答えた
千歌「っ……うん!」
曜「……変わったね、千歌ちゃん」
梨子「うん」
花丸「お祭り楽しみずら~」
ルビィ「だねだね!」
善子「堕天祭りよね……」
花丸「えぇ?」
ルビィ「センスないよ、それ……」
善子「は?」
ルビィ「ぴぎぃっ!」
善子「ちょっと! 待ちなさいよ! 激おこデーモン丸~~~!!」
千歌は柱の影に身体を隠すと、思い出したように表情を暗くした
***
以前千歌が、早朝に果南を追いかけた時のことだ
果南『ん?』
千歌『ハァ……ハァ……』
果南の朝のジョギングはペースが速いものの、千歌は何とかついて行くことができた
果南に、どうしても聞きたいことがあったのだ
果南『練習、頑張ってね』
千歌の横を通り過ぎ、再びジョギングに戻ろうとする果南
千歌『……やってたんだよね!? スクールアイドル!』
果南は、ピタリと足を止めた
果南『……聞いちゃったか』
果南は振り向き、いつものお姉ちゃんの表情で言った
果南『ちょっとだけね』
***
梨子「どうしたの?」
千歌がその声に気がついた時には、梨子と曜が千歌の様子を伺っていた
いつも千歌の傍にいる二人は、彼女の異変にはすぐさま気がついてしまう
千歌「……果南ちゃん、どうしてスクールアイドル辞めちゃったんだろう」
善子「生徒会長が言ってたでしょ、東京のイベントで歌えなかったからだって」
善子はひじを突き、どこかの親父のようにだらしない格好で言った
千歌「でも、それで辞めちゃうような性格じゃないと思う」
梨子「そうなの?」
千歌「うん……小さい頃はいつも一緒に遊んでて」
千歌「どんな時でも私たちを引っ張ってくれたし……」
曜「私たちのお姉さんって感じだったよね」
梨子「そっか、曜ちゃんにとっても果南さんは幼馴染だもんね」
ルビィ「とてもそんな風には見えませんけど……」
ルビィ「はっ……すいません……」
善子「まさか!?」
善子は、突然長椅子から立ち上がったかと思いきや、
善子「天界の眷属が憑依っ!?」
と、いつもの堕天ポーズを決めた
一同「「ハァ……」」
千歌「もう少し、スクールアイドルやっていた頃のことがわかればいいんだけどなぁ」
曜「聞くまで、全然知らなかったもんね」
一同「「……ん?」」
ルビィ「ピギッ」
5人は、同時にルビィに目を向けた
千歌「ルビィちゃん、ダイヤさんから何か聞いてない?」
曜「小耳に挟んだとか」
梨子「ずっと一緒に家にいるのよね、何かあるはずよ」
ルビィ「へっ……へあぁ……え……ぅ……うゆゅ……」
ルビィ「るびぃ~~~!!」
千歌「あっ、逃げた!」
善子「フッ」
善子は、逃げ出したルビィをすぐさま追いかけた
善子「とぉりゃあ~~~!!」
善子はルビィに追いつくと、腕と足で雁字搦めにした
善子「堕天使奥義! 堕天流、包獄~~~!!」
刹那、善子の頭に手刀が振り下ろされた
花丸「……やめるずら?」
善子「は……はいぃ……」
***
千歌「ホントに?」
ルビィ「……ルビィが聞いたのは、東京のライブがうまくいかなかったって話くらいです」
ルビィ「それから、スクールアイドルの話はほとんどしなくなっちゃったので……ただ……」
一同「「ただ?」」
ルビィ「は……ハハハ」
***
数日前、鞠莉が黒澤家を訪問したときのことだ
ルビィは来客用のお茶を盆に載せ、来客室の目の前まで来た時、ダイヤのただならない声音に意表を突かれて立ち止まった
ダイヤ『逃げているわけじゃありませんわ』
ダイヤ『だから……果南さんのことを逃げたなんて言わないで』
***
ルビィ「……って」
千歌「逃げたわけじゃない……か」
梨子「それだけじゃ、やっぱりよく分からないね」
千歌「うーん……よし」
曜「どうしたの?」
千歌「もう一度、果南ちゃんに話を聞いてみる」
梨子「聞くって、いつ?」
千歌「明日の朝!」
曜「朝って……まさか、果南ちゃんがジョギングしてる時!?」
千歌「だって果南ちゃん、まだ休学中だし」
梨子「で……でも、果南さんってペース速いんじゃ……」
千歌「大丈夫! この間はついていけたもん!」
善子「前科持ちなのね……呆れた、まるでストーカーじゃない」
千歌「いいの! 幼馴染だし!」
曜「それって関係あるかな……」
花丸「おもしろそう! まるも行くずら!」
ルビィ「花丸ちゃんが行くなら、ルビィも!」
善子「何よ……いいわ、ヨハネも行ってやろうじゃない」
梨子「ちょちょ、善子ちゃんまで……」
曜「ヨーソロー! 私も行く行く!」
梨子「よ、曜ちゃん!」
千歌「よしっ、じゃあみんな、明日の4時に集合ね!」
梨子「ええ~……もう、仕方ないなあ」
***
果南「すぅ……はぁ……」
一同が華南を見つけたときには、彼女は準備運動を始めていた
花丸「ふわぁ……まだ眠いづら」
ルビィ「毎日こんな朝早く起きてるんですね」
梨子「それより、こんな大人数で尾行したらバレるわ」
曜「だって、みんな来たいって言うし」
千歌「あっ、準備運動終わったみたいだよ」
果南「フッ……フッ……」
果南は軽く身体を伸ばし、姿勢を低くした
善子「……クラウチングスタート? 軽くジョギングするんじゃなかったの?」
一同は一瞬、時が止まったような錯覚を覚えた
前方へ顔を向けた彼女は、陸上選手のような勢いで猛然と地を蹴り飛ばした
まるでミサイルのように、グングンと背中が遠くなっていく
曜「うっそ……」
千歌「……って、追いかけなきゃ!」
美しいフォームから意識を取り戻し、一同はすぐに駆け出した
千歌「ハッ……ハッ……果南ちゃんっ……どうしてあんなに早く走れるの……」
曜「ヤバイ……見失うっ……」
千歌「そんなっ……曜ちゃんでも追いつけないなんて……」
曜「今日の果南ちゃんっ……すごい飛ばしてるよ……」
花丸「ゼェ……ゼェ……もっ……もう無理ずら~」
ルビィ「あっ、花丸ちゃん!」
善子「なっ……情けないっ……わね……」
梨子「千歌ちゃんっ……もう無理だよ……諦めようよ……」
千歌「……分かった」
一番前を走っていた千歌たち三人が足を止めた途端、一同は崩れるようにその場に腰をついた
花丸「ハァ……ハァ……ふぃ~~~……疲れたずらぁ……」
ルビィ「ハハハ……ルビィ、今日はもう走れないかも……」
曜「果南ちゃん、どうして今日はこんなに速いんだろう」
善子「知らないわよ、たまたまそういう気分だったんじゃないの?」
梨子「……どうする? もう追いつけそうにないし、また今度……」
千歌「……ううん」
千歌は息を整えると、再び立ち上がった
千歌「ここで追いかけるのをやめたら、ずっと分からない気がする」
曜「どういうこと?」
千歌「わかんない……でもどうしてかな、そんな気がするの」
千歌は、いつもの笑顔で振り返る
千歌「だから、私は果南ちゃんを追うよ」
言うと、千歌は再び駆け出した
千歌「みんなは休んでて~」
***
千歌「ハァ……ハァ……」
千歌「どうしたんだろう、果南ちゃん」
果南が準備運動をしている際、千歌だけは既に彼女の異変に気がついていた
千歌「あんなに深刻そうな顔……見たことないよ」
淡島神社の階段をようやく上り終えるかという時
千歌は、上の方から誰かの声を聞いた
千歌「果南ちゃん?」
確かに、果南の声がする
だがもうひとつ、果南以外の声が混じっている
「……いうことなの?」
「だから、昨日言ったとおりだよ」
千歌「鞠莉さん、どうして……」
鞠莉「納得できない……受理できるわけないじゃない、あんなもの」
鞠莉「退学届なんて……」
千歌「……え?」
鞠莉「また……逃げるの?」
果南「勘違いしないで、逃げてるわけじゃない」
果南「……父さんの怪我の治りが、思ったより遅かったの」
鞠莉「え?」
果南「これから精密検査をするけど、その結果によっては……今の仕事を続けられなくなってしまう」
果南「だから、もう私が継ぐしかない……それだけのこと」
鞠莉「そんな……ふざけないでよ!」
鞠莉「私の知っている果南は、どんなことがあっても諦めなかった」
鞠莉「いつも前向きで、逃げることなんて絶対しなかった」
鞠莉「だってそうでしょ……ねえ、何か事情が……」
果南「うるさいっ!」
鞠莉「っ……」
果南「ねえ、どうして戻ってきたの?」
果南「……私は、戻ってきてほしくなかった」
鞠莉「果南っ……フフ、相変わらず果南は頑固なんだか――」
果南「もうやめて」
鞠莉「あ……ぅ……」
果南「もう……あなたの顔、見たくないの」
鞠莉「か……なん……」
果南はそれきり、一度も振り返らずその場を去った
千歌「そんな……嘘だよ……」
曜「千歌ちゃん」
千歌「あ、曜ちゃん……みんな……」
莉子「どう? 何か聞けた?」
千歌「ううん、何も。ただ――」
***
現Aqoursのメンバーは放課後、鞠莉を訪ねて理事長室へ足を運んだ
千歌「あの……鞠莉さん」
鞠莉「千歌っち……」
千歌「その……果南さんのことなんですけど」
鞠莉「そうね……昨日、聞いていたもんね」
曜「あれっ……やっぱりバレてた?」
梨子「だから言ったじゃない、あんな大人数で……」
善子「もう、それはこの際どうでもいいのよ、退学届ってどういうこと?」
ルビィ「退学って……もう、この学校には来ないんだよね」
花丸「さびしくなるずら……」
鞠莉「ううん、決定事項じゃないの」
花丸「ずらっ」
鞠莉「この書類には、保護者の同意が記されていない」
曜「あ、ホントだ……空欄になってる」
鞠莉「それに、保護者も交えて直接面談しないと、学校側としても受理するわけにはいかないわ……だから、この書類は無効」
千歌「よかったあ……じゃあ、果南ちゃんはまた学校に来れるんだね」
鞠莉「……」
善子「そんなわけないでしょ」
千歌「え……どうして」
梨子「仮に受理されなくても、退学届まで出すくらいだもん……果南さんはもう、学校に来るつもりはないってことだよ」
曜「……そっか」
千歌「そんなの……そんなのおかしいじゃん!」
鞠莉「千歌っち……」
千歌「家業がどうとか、お父さんの怪我が治らないとか……そんなの関係ないよ!」
千歌「私は、果南ちゃんに学校に来てほしい。ねえ、みんなもそう思うでしょ?」
花丸「それは……もちろんそうずら……」
ルビィ「でも……」
「やっぱり、こうなっていましたのね」
ルビィ「あっ、お姉ちゃん」
鞠莉「ダイヤ……」
ダイヤ「……いつか、話さなければならない時が来るとは思っていました」
梨子「どういうことですか?」
ダイヤ「みなさん、これからご予定は?」
一同「「……」」
ダイヤ「なら都合がいいですわ。私の家に来てください」
***
ダイヤ「ルビィ、お茶を」
ルビィ「分かった、お姉ちゃん」
黒澤家に着くと、一同は客間へと案内された
ダイヤ「先にお聞きしますが……果南さんのお父様の件は?」
千歌「あ、そのことはみんな……」
ダイヤ「そうですか……では話が早いですわ」
一同が座った後、ダイヤは静かに膝を折った
ダイヤ「たまたま、お父様の担当医が、私の父の知り合いでしたの」
ダイヤ「それで、詳しくお話をお聞きしたのですわ」
千歌「ど、どうだったんですか……」
ダイヤ「……後遺症などは、特になかったと」
千歌「え、でも……」
ダイヤ「精密検査をするのは事実ですわ、治りが遅いというのも事実」
ダイヤ「ただ元々、お仕事の継続が困難であるとか、そういう話はなかったのです」
曜「よかったあ~」
善子「全く、人騒がせね」
梨子「……だったら、どうして退学届なんて」
ルビィ「お待たせしました」
ダイヤ「ルビィ、ありがとう」
花丸「ありがと、ルビィちゃん」
ルビィ「うん、えへへ……」
***
歓声が轟くステージの舞台裏で、三人の出番が告げられた
ダイヤ『大丈夫ですの!?』
鞠莉『ぜんっぜん! うっ……』
鞠莉『果南! やるわよ!』
果南『……』
鞠莉『果南……?』
***
鞠莉「そんな……私は、そんなことしてほしいなんて一言も……」
ダイヤ「あのまま進めていたら、どうなっていたと思うんですの?」
ダイヤ「怪我だけでなく、事故になってもおかしくなかった」
鞠莉「でも……!」
ルビィ「だから、逃げたわけじゃないって……」
曜「でも、その後は?」
千歌「そうだよ、怪我が治ったら、続けてもよかったのに」
梨子「お父さんの怪我だって、今年に入ってからでしょ?」
鞠莉「そうよ……花火大会に向けて、新しい曲作って、ダンスも衣装も完璧にして……なのに……」
鞠莉の声音は震えていて、今にも消え入りそうなものだった
ダイヤ「心配していたのですわ……あなた、留学や転校の話がある度に、全部断っていたでしょう?」
鞠莉「そんなの当たり前でしょっ!!」
一同「「……!」」
ダイヤ「……果南さんは、思っていたのですわ」
ダイヤ「このままでは自分たちのせいで、鞠莉さんの色んな可能性が奪われてしまうのではないか……って」
ダイヤ「そんな時……」
***
担任『本当に断るの?』
担任『ご両親も先方も是非っておっしゃってるの、もし向こうで卒業すれば、大学の推薦だって……』
鞠莉『いいんです……私、スクールアイドル始めたんです』
担任『そんな……』
鞠莉『学校を救うために』
果南『……』
***
鞠莉「まさか……それで……」
鞠莉「……っ!」
ダイヤ「待ちなさい!」
ダイヤが発した突然の大声に、鞠莉だけでなく、その場にいた全員が声を失った
ダイヤ「……どこへ行くんですの」
ルビィ「お姉ちゃん……」
鞠莉「……そんなの、決まってるでしょ!」
再び駆け出そうとした鞠莉を、ダイヤが腕を掴んで静止した
鞠莉「離してっ!」
ダイヤ「おやめなさい! そんなことをしても無駄だというのがわかりませんか!?」
鞠莉「関係ないっ……一発ぶん殴らなきゃ気が済まないの!」
赤ん坊のように腕を振る鞠莉を、ダイヤは優しい声音で制す
ダイヤ「……果南さんは、ずっとあなたのことを見てきたのですよ」
ダイヤ「あなたがこの町に引っ越してきたときから、ずっと」
鞠莉が、次第に暴れるのをやめていった
ダイヤ「あなたの立場も……あなたの気持ちも……全部知っている」
ダイヤ「だってそうでしょう? 私たち三人は、ずっと一緒だったのですから」
鞠莉「……!」
ダイヤ「そして……あなたの将来のことも、ずっと想ってきた」
ダイヤ「他の誰よりも、あなたのことを考えているのです」
鞠莉「そんなのわからないよ……どうして言ってくれなかったの?」
ダイヤ「ちゃんと伝えていましたわよ? ……あなたが気づかなかっただけ」
鞠莉「――っ」
***
果南「……お父さん、具合はどう?」
父「もちろん大丈夫だよ、大したことはないさ」
果南「無理しないでよ。今までみたいに、私が手伝ってあげるからね」
父「……果南」
果南「何? お父さん」
父「スクールアイドルは、もうやらないのか?」
果南「……何言ってるの、もうずっと前の話だよ」
父「千歌ちゃんと曜ちゃんが、スクールアイドルを始めたそうじゃないか」
父「お前は、やらなくていいのか?」
果南「……それは」
父「それに、鞠莉ちゃんも」
果南「……!」
父「お父さん、この間店先で、お前と鞠莉ちゃんが話しているのを見たよ」
父「びっくりしたな……あんなに大人っぽくなって」
果南「だったらわかるでしょ、もうスクールアイドルには興味ないの」
父「……そんな風には、お父さんには見えないな」
果南「分かるわけないでしょ、私の気持ちなんて……」
父「わかるよ」
父「……何年見てきたと思ってる」
果南「私は……お父さんが心配で……」
父「果南は優しいな」
父「お父さんにも、みんなにも、すごく優しい」
父「でもね……それは、自分の気持ちを殺していい理由にはならないんだよ」
果南「……お父さん」
父「お父さんなら大丈夫だ。まだ万全とはいえないが、ここを経営していくだけの力は戻った」
父「あとは根性で何とかなるさ……お父さんに任せろ」
果南「……できないよ」
父「果南ならできるさ。果南は、一人じゃないんだから」
ピピピ……ピピピ……
父「ほら、ケータイが鳴ってるぞ」
果南「……」
ピッ
果南「……はい」
ダイヤ『果南さんですか?』
果南「ダイヤ……どうしたの?」
ダイヤ『ごめんなさい。全部、言ってしまいました……鞠莉さんに』
果南「鞠莉に……」
ダイヤ『今、そっちに向かっていますわ。止めようとはしたのですが……』
果南「私……は……」
ダイヤ『果南さん』
ダイヤ『私は、もういいのではないかと……思っていますわ』
果南「なんのこと?」
ダイヤ『鞠莉さんは、あなたとやりたいと……あなたがいいと、言っているのですから』
ダイヤ『どうか、答えてあげてください』
ダイヤ『あなた自身の気持ちに、正直になってあげてください』
果南「――っ」
プツッ
果南「お父……さん」
父「果南……」
父「行って来い」
果南の目から、一筋の涙が零れた
果南「……うん!」
***
通り雨なのか、午前は全く降っていなかった雨が、シャワーのように降り注いでいた
鞠莉「ハッ……ハッ……」
とっさに黒澤家を飛び出した鞠莉の身体を、無数の雨粒が容赦なくうちつける
いくつもの水溜りに気を使う余裕はなく、何度も踏み抜き、足は靴下までビショ濡れになった
鞠莉「ハッ……ハッ……きゃあっ!」
走りづらくなった足が濡れた路面で滑り、鞠莉は顔面から盛大に転んでしまった
鞠莉「う……うぅ……」
雨なのか、涙なのか
目元から鼻筋を伝う液体が、止まることはなかった
鞠莉「果南……!」
いくつもの思い出が、鞠莉の脳内を駆け巡った
内浦に引越し、緊張していた転校初日
まだ幼い顔立ちの、果南とダイヤ
夜、家のベランダにいた時、二人が電灯をかざして呼んでくれた時
内浦を離れる時
鞠莉『え?』
果南『離れ離れになってもさ』
果南『私は鞠莉のこと、忘れないから』
鞠莉「……果南」
すりむいた両膝の痛みをこらえ、再び走り出した
鞠莉「――!」
何度も何度も、彼女の名を叫んだ
頭にあるのは、その名前だけだった
***
果南「ハッ……どこ……鞠莉」
こちらに向かっている、としか聞いていない
彼女がどこから飛び出してきたのか、一体どこへ向かっているのか
彼女だって、果南がどこにいるのか知らなかったはずだ
果南「……」
たった一つ、思い浮かんだ場所があった
彼女との記憶が、一番強く残っている場所
三人の、思い出の場所
果南は、一縷の望みをかけて、そこへと走った
果たして、彼女の姿がそこにあった
何度も練習して、衣装を作って、歌詞を作って、拙いながらもメロディーを考えて
三人で過ごした、三人の部室
果南「……鞠莉」
彼女は突然の通り雨の影響をモロに受けたのか、全身がズブ濡れだった
鞠莉「……ばか」
消えかけて読み取れなくなったホワイトボードの歌詞を、指で弱々しくなぞっている
あの日果南が書きかけた、新曲の歌詞
果南「鞠莉」
近づこうとして足を踏み出すと、床の水溜りに足を突っ込んでしまった
鞠莉「……どうして、言ってくれなかったの」
果南「なんのこと?」
鞠莉「私たちが……解散した日!」
鞠莉「一方的に果南の気持ちを押し付けて、私の気持ちは聞いてくれなかったじゃない!」
果南「私は……鞠莉のために……」
鞠莉「そんなの違う! ……果南が思ってること、全部ちゃんと話して」
鞠莉「言ってくれなきゃわからないよ……私だって……」
鞠莉は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を、更に歪めて叫んだ
鞠莉「果南が私を想っているように、私も果南のことを考えているんだから!」
鞠莉「将来なんか今はどうでもいいの……留学? 全く興味なかった」
鞠莉「当たり前じゃない……だって、果南が歌えなかったんだよ? 放っておけるはずない!」
果南「……私は」
その時だった
パアンッ
果南「――っ」
鞠莉が、思い切り果南の頬を叩いたのだ
鞠莉「私が果南を想う気持ちを、甘く見ないでっ!!」
果南「……だったら」
果南「だったら素直にそう言ってよ!」
果南「リベンジだとか……負けられないとかじゃなく……ちゃんと言ってよ!」
鞠莉「だよね……だから……」
鞠莉は、人差し指で自分の頬を差した
果南「……!」
思い切り、右腕を振り上げた
ダイヤ『見つかったら怒られますわ』
果南『平気だよ』
鞠莉『うん?』
ダイヤ『ピギャッ』
果南『いっ……』
鞠莉『あなたは……?』
それは、鞠莉が小学校に転入してくる直前の記憶だった
果南『はっ……はぐ……』
鞠莉『え?』
目元から涙が溢れ出て、止まらなかった
果南『「ハグ……しよ」』
鞠莉「……!」
すぐにでも答えようとした
でも、それが現実とは思えなかった
何度も何度も逡巡して、やっぱりそれが現実なんだと実感して
酷く顔が歪んで、涙が零れて頬を伝う
鞠莉「あ……ぁ……」
鞠莉「――っ!」
まるで赤ん坊の癇癪のように声を上げて、果南の身体を抱き締めた
幼い頃のように、目一杯腕に力を込めた
気が済むまで、二人はずっと抱きしめ合った
***
ダイヤが追いついた時には、二人とも泣いていて
何も言わず、そっとその場を後にした
校門から出ようとした時、もう見慣れてしまった彼女のアホ毛が、垣根の上から見えていた
きっと、そこで待っているのだろうと容易に予想がついた
そう、Aqoursのメンバーが
千歌「フフッ……ダイヤさんって、本当に二人が好きなんですね」
ダイヤ「それより、これから二人を頼みましたわよ?」
ダイヤ「ああ見えて二人とも繊細ですから……」
千歌「じゃあ、ダイヤさんがいてくれないと!」
ダイヤ「えぇっ!?」
千歌は、ニヤニヤといやらしく笑った
ダイヤが咄嗟に断るであろうことは、予め予想していたからだ
ダイヤ「わっ、私は生徒会長ですわよ……とてもそんな時間は……」
――ほら、断り文句も予想していた通り
千歌は、顔が緩んで仕方がなかった
分かってる、これが照れ隠しなんだってことは
本当は、自分も入りたくて仕方がないのだ
千歌「それなら大丈夫ですっ、鞠莉さんと果南ちゃんと、あと……6人もいるので」
彼女の背中を押すための、恐らく一番の決め手は、既に用意している
ずっと待っていた
二年間……いやもっと、ずっとずっと前から
自分と同じくらい、スクールアイドルが好きで、同じくらい彼女のことが大好きで
お互いに憧れていた、スクールアイドルを
一緒にできる、この瞬間を
ダイヤ「……ルビィ」
ルビィ「……親愛なるお姉ちゃん」
胸元で握り締めていた衣装を、心からの笑顔で差し出した
ルビィ「ようこそ、Aqoursへ!」
姉妹の夢が、ひとつ叶った
***
ダイヤが追いついた時には、二人とも泣いていて
何も言わず、そっとその場を後にした
校門から出ようとした時、もう見慣れてしまった彼女のアホ毛が、垣根の上から見えていた
きっと、そこで待っているのだろうと容易に予想がついた
そう、Aqoursのメンバーが
千歌「フフッ……ダイヤさんって、本当に二人が好きなんですね」
ダイヤ「それより、これから二人を頼みましたわよ?」
ダイヤ「ああ見えて二人とも繊細ですから……」
千歌「じゃあ、ダイヤさんがいてくれないと!」
ダイヤ「えぇっ!?」
千歌は、ニヤニヤといやらしく笑った
ダイヤが咄嗟に断るであろうことは、予め予想していたからだ
ダイヤ「わっ、私は生徒会長ですわよ……とてもそんな時間は……」
――ほら、断り文句も予想していた通り
千歌は、顔が緩んで仕方がなかった
分かってる、これが照れ隠しなんだってことは
本当は、自分も入りたくて仕方がないのだ
千歌「それなら大丈夫ですっ、鞠莉さんと果南ちゃんと、あと……6人もいるので」
彼女の背中を押すための、恐らく一番の決め手は、既に用意している
ずっと待っていた
二年間……いやもっと、ずっとずっと前から
自分と同じくらい、スクールアイドルが好きで、同じくらい彼女のことが大好きで
お互いに憧れていた、スクールアイドルを
一緒にできる、この瞬間を
ダイヤ「……ルビィ」
ルビィ「……親愛なるお姉ちゃん」
胸元で握り締めていた衣装を、心からの笑顔で差し出した
ルビィ「ようこそ、Aqoursへ!」
姉妹の夢が、ひとつ叶った
***
新しく加入した3年生は、沼津の花火大会で歌う曲に、2年前の自分たちが考えた曲を採用することを提案した
イベントまでの期間を考えても、まだ十分に間に合う
3年生が、ホワイトボードの消えかけの歌詞を思い出しながら
傍らで、梨子がメロディーを考える
花火大会ということで衣装は浴衣をイメージし、既にほとんど作り終えていたために、9人はすぐにダンスレッスンに入る事ができた
3年生のタイミングが合うかどうか心配ではあったが、驚くべきことに息がピッタリだった
どうやら、3人とも隠れて個人練習をしていたらしい
かくして、万全の状態で花火大会当日が訪れた
***
最高のパフォーマンスだった
観客だけでなく、メンバー各々が感じていたことは、その一言だった
果南「……フフ、Aqoursか」
曜「ん? どうしたの?」
果南「私達のグループも、Aqoursって名前だったんだよ」
千歌「えっ、そうなの?」
ルビィは、一生懸命首を縦に振っている
梨子「そんな偶然が……」
果南「私も、そう思ってたんだけど」
曜「じゃあ……」
果南「ウフフッ……千歌達も、私と鞠莉も……多分、まんまと乗せられたんだよ」
ダイヤ「……」
傍らで、分かりやすい態度で知らないふりをしているメンバーが一人
果南「……誰かさんに」
ダイヤ「お父様の件は、果南さんにとって、きっかけでしかなかったのですわ」
ダイヤ「……きっと、お父様のお怪我が完治するまで、学校に来るつもりはないのでしょう」
ダイヤ「例えそれが何ヵ月……私達が卒業する時になったとしても」
ルビィ「そんな……折角スクールアイドルだったのに……」
梨子「未練は……無いっていうんですか」
鞠莉「……どうして」
鞠莉「だったら……あの時の果南は何だったの!?」
鞠莉「どんな時だって一生懸命で、諦めが悪くて、私たちを引っ張ってくれた、あの時の果南は……」
鞠莉「あの時歌えなかったのは……その程度の気持ちしか無かったからだって言うの?」
ダイヤ「それは違いますわ」
その時のダイヤの声は、一層鋭いものだった
ダイヤ「東京のイベントで果南さんは歌えなかったんじゃない」
ダイヤ「わざと歌わなかったんですの」
千歌「わざと……」
善子「まさか……闇のまじゅ……モガッ」
善子の口を、花丸が即座に塞いだ
ダイヤ「あなたのためですわ」
鞠莉「私の……?」
ダイヤ「覚えていませんか?」
ダイヤ「あの日……鞠莉さんは怪我をしていたでしょう」
これにて完結となります
以下雑談
読み返してみると、アニメを見ていないと何が起きているのかさっぱり分からないだろうなあと感じました
9話を鑑賞しながら書いたので、こうなってしまったのは必然のことかもしれません
今回こんなアニメを冒涜するかのようなSSを書いた動機としては、単純に9話の名シーンで泣けなかったからです
1話で千歌がμ'sのスタダに憧れるシーン
2話で千歌と梨子が窓から手を合わせるシーン
3話でたった3人のために町中のみんなが集まってくれたシーン
4話で花丸がルビィを送り出すシーン、ルビィが花丸に思いを打ち明けるシーン
5話で千歌達5人が善子の堕天使を受け入れるシーン
6話で「助けて、ラブライブ!」の本当の意味が明かされるシーン
7話で千歌が宿泊した旅館からUTX高校の電光掲示板まで走るシーン
8話でライブ直後に千歌がアイスを配るシーン、梨子の前で自分の想いを吐き出すシーン
9話で鞠莉が雨の中を走るシーン
10話で千歌が梨子の背中を押すシーン
11話で千歌が曜の家の前で叫ぶシーン
12話でAqoursが音ノ木坂の生徒と話すシーン、0から1へのシーン、千歌が白い羽を受け取るシーン
13話で1年生3年生2年生が決意するシーン
等々、涙腺崩壊したシーンは数えきれないほどあったのですが、何故か一番の名シーンであるはずの9話かなまりシーンで泣けなかったのです
理由は正直分からないのですが、恐らく納得できない箇所がいくつかあったのだと思います
それを言ってしまうと13話の謎ミュージカルはどうなんだという話になりますが
今回のSSでそれが解消されたかと聞かれると少し疑問が残りますが、とりあえずは自分を納得させることができたので満足です
以上、長文失礼しました
酒井の方がマシ
>>30
脚本は花田なんだが…?
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