北の果てで (95)

※注意※
このSSは艦隊これくしょん二次創作です。
キャラ崩壊や拙い表現力等があります。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1503739103

雪が降る北方で、ひっそりと佇む建物。本国から遠く離れたそれはほとんどの者が知らず、知っていても誰も近づかない。骨まで凍りそうな極寒のこんな辺境の地に飛ばされた青年が一人、送る用の船は、青年を下ろすとすぐに離れていった。

「うぅ…クソ寒い…」

とにかくこの風邪と雪から解放されるために建物に向かう。灯りは一切ついておらず、人の気配は全くしない。一応、扉をノックし誰かいるかを確かめる。すると、中から足音がこちらに近づいてきて扉を開けた。

「…どちら様かな」

「私は…」

中から出てきたのは少し青が混ざった白髪の少女、帽子に星のマークと錨の様なマークがある。蒼い目でこちらの姿をみると、何かを察したのかこちらが言い終わる前に建物の中に入るように促してきた。

「言わなくて良いよ、中に入って」

「ああ、ありがとう」

さっきの吹雪よりはましだが、建物の中もかなり寒い。底冷えするような寒さに、顔を歪めるが前を歩いている少女は平然として歩いている。

「な、なぁ」

「何かな?」

「暖房はつけないのか?これじゃあ、外も中も変わらないぐらい寒いんだが…」

「…執務室に暖房がある。それまでは我慢してほしい」

「ああ…」

寒さで倒れてしまいそうだ、せめてもう一枚上着を着てくれば良かったと今さら思っても時すでに遅し。執務室が近いことを祈ろう。

2度階段を登り、廊下を歩く。途中、窓から外をみたが、吹雪で外が全く見えない。まるで、檻に閉じ込められているみたいだ。

「ここだよ、どうぞ」

キィと油の切れた音を立て、ゆっくりと扉が開けられた。意外と中は綺麗に掃除されていて整っている。

「ふぅ…」

暖炉に火がついていて、窓には結露ができている。コートを脱いで、荷物を机に置く。暖炉に近付き手をかざして暖をとる。

「さて、それじゃあ自己紹介していいかい?」

「ん?ああ、寒さのせいで忘れてた」

その華奢な体に似合わない敬礼をすると、名前を言い始めた。

「私は元ソ連艦『Верный』。よろしく司令官」

「君はソ連艦だったのか」

「そうだよ、元は違う国の艦だったらしいけどね」

「覚えてないのか?」

「思い出そうとしても靄みたいなのがあって思い出せないんだ」

「それにしても幌筵は寒い、君はそんな格好で寒くないのか?」

「あれぐらいなら大丈夫さ」

スマホの充電がないので一旦ここまで

それではまた始めます

「ココアを飲むかい?少しは体が暖まるはずだ」

「ああ、頼む」

Верныйが部屋を出てココアを作りに行ってくれた。それにしても幌筵がここまで酷く寒いとは思わなかった。確かにユーラシア大陸からくる風は強く冷たいが、それに加えて吹雪まで起きるともう凍え死んでしまう。何故こんなところに泊地を作ったのか分からないが、恐らく戦術的なものがあるんだろう。そんな考え事をしていたら、Верныйドアを開けてココアを持ってきてくれた。

「ほら、少し熱いかもしれない」

「ありがとう」

差し出されたココアを縁を持って受けとる。さっきまで外に居たせいか手袋越しでも異様にココアが熱い。手放すことはなかったが、1度机に置く他なかった。

「ふふっ、熱かったみたいだね。それを飲み終わったら君の事を聞かせてほしい」

「そういえば俺はまだ名前も何も言ってなかったな。ちょっと待ってくれ」

出来るだけ早くココアを飲もうと口をつけるが、あまりの熱さにあまり飲めない、口をつけては放してを繰り返して飲んでいると、飲み干すのに五分もかかってしまった。その間、隣からはクスクスと笑い声が聞こえてきていた。

「ふぅ、やっと飲めた」

「ふふっ、だいぶ苦戦していたね」

「すまない、まさかあそこまで熱いとは思わなかった。それじゃ」

軍服の襟や裾を正し、軍帽を深く被る。

「私は新たにこの幌筵泊地に着任した、『明戸 玲二』少佐だ。前までは舞鶴で補佐をしていたが、こちらに飛ばされることになった」

「へぇ、左遷かな?」

「考えたくない事を言わないでくれ…」

期待

Верныйは、微笑んでクスクスと笑っている。私もそれにつられて笑ってしまった。一応一通りの話を終え、持ってきたカバンを開ける。中には万年筆や私服一式、軍人手帳、日記帳とメモ用紙が入っている。ちゃんと忘れ物はしてないようだ。

「何を持ってきたんだい?」

Верныйが隣から顔を出してカバンの中を覗き込んでくる。大して面白いものは入ってはいないが、どうやら好奇心旺盛の様だ。しゃべり方や振る舞い方はまるで大人のようだが、まだ心は子供のままらしい。

「これはなんだい?」

1枚の写真をカバンから取った。

「この幌筵に来る前に現像しておいた写真、まだ私が軍人になる前の家族写真だ」

Верныйに教えると、やけに姉の姿を見続けていた。

「家族写真…何だろうな、こう言うのを見ていると何かモヤモヤする」

「そういや、ソ連艦の前はどこかの国の船だったな。私は船に詳しくないから分からないが、その前の国で同じような写真を取ったんじゃないのか?」

「そうかもしれないな、まぁ思い出せても良かったぐらいの程度だろうけどね」

ここまで、寝落ちして申し訳ない

期待

再開、明日から学校が再開するので更新が遅れるかもです

写真を写真立てに入れて机にかざり、椅子に座ったときに見やすいよう調整する。これである程度自分の荷物はほぼ出しただろう。私服は使うまでこのカバンに入れ続けておこう。

「さて、荷物はもう触らなくて良いだろう。Верный、仕事をしよう」

これからはこの幌筵で頑張っていくぞと気合いを入れ直し、椅子に座って仕事を始めようとしたときВерныйはキョトンとした顔でこちらを見ていた。

「どうしたВерный、流石に着任早々から仕事をサボる訳には…」

「いやそうじゃなくて、ここでどんな仕事をするつもりだい?」

「そりゃあ、工廠で建造や装備開発をしたりだな」

「ここの設備は全て壊れてるけど、どうやって建造・開発をするんだい?」

その言葉を聞いた途端、目眩がした。建造するための設備が壊れているのにどうやって戦力を増やせというのか。これじゃあ、こんな辺境の地でどうやって過ごしていけというのか。

「…どうするんだよこれ。完全に厄介払いじゃないか。とにかく残っている資源の量を確認しよう」

「そうだね、倉庫に案内するよ」

コートを羽織、軍帽をかぶり直して執務室の外に出る。さっきまでの暖房がある執務室とは違って、廊下は嫌な寒さがある。

相変わらずВерныйは平気な顔をして廊下を歩いているが、どれだけ寒さに強いのだろうか。流石は元ソ連艦と言ったところか、それとも幌筵に過ごしていて慣れたのか。もし後者ならば私も見習わなければならない。

「寒さでここにいるのが嫌になったかい?」

「そうじゃない、寒さに強いВерныйが純粋に羨ましいんだ」

「ずっと寒いところに居たからね、嫌にでも慣れる。司令官もじきに馴れるさ」

「ずっとか、幌筵にはどれくらいここで住んでるんだ?」

この質問をした途端、Верныйの声色が変わった。

「…どれくらいだろうか。わからないよ、独りで居る時間が多すぎたせいでここに来た記憶さえ消えてる」

「ずっと独りで、か…」

「別に私に気にかける必要はないよ。所詮駆逐艦何て使い捨ての駒でしかないしね」

そういうВерныйの顔はどこか寂しそうで、私たちの間に少し気まずい空気が流れてしまった。

ここまで

再開します

「その…なんだ?これから俺たちはここで2人暮らしなんだ。これからは協力して生活していこう」

「…そうだね。これからは2人で生きていこうか」

Верныйはこちらを見ることは無く、ただただ倉庫に向かって歩いているだけだ。

「(まずいな…この空気が続いたらこれからの生活に支障が出かねない…)」

「ほら、ここが倉庫だ。所々床が凍っているから足元には気を付けてほしい」

「おう、気をつけ…うおっ!?」

足を思いっきり滑らせ、尻を床に強打した。それに加えて、床がコンクリートということもあり、数分はその場に座り込んでしまって立つことが出来ない。

「言ったばかりなのに、全く君というやつは…ほら、立てるかい?」

「すまない」

Верныйの差し出してくれたを握り、何とか立ち上がる。

「いててて…」

打った尻はヒリヒリと痛む。恐らく赤くなっているだろうが、今はとにかく倉庫に残っている資材を数え始める。

「燃料は多く余ってるみたいだ、だが弾薬、鋼材がが壊滅的だね」

「鋼材と弾薬が無いのか、一度中央に連絡して、こっちに資材を送ってもらうか」

メモ帳に今の資源の現状を書き込み、要望することを箇条書きにして書き留めておく。まぁ、そもそも電子機器が機能していたらの話だが。

「さてと、資源はこんなもんか。後は食糧か、定期的な供給をしてもらいたいものだが…」

「こんな辺境の地に輸送艦が来るのかい?」

「吹雪が1日でも弱まってくれれば来てくれるはずだ。そうじゃないとこれが飢え死ぬ。艦娘はその辺りどうなんだ?」

「燃料と弾薬、鋼材があれば生きていけるよ。艤装をつけてたらね」

「なるほど、艤装をつけるかつけないかで変わるのか。艦娘というのはよくわからないな」

すみませんね落ちしました。
ここまでです

再開します

残っている資材を確認し終えると、執務室に戻るために外に出る。相変わらずの視界の悪さに凍りそうになるほどの寒さ、慣れるまで長い時間がかかりそうだ。

「そういえば、司令官はどこから左遷されたんだい?」

「だから左遷て…私は舞鶴で大将の補佐をしていたんだ。好感度を上げるために、結構努力したはずなんだがなぁ~」

Верныйがクスクスと笑っている。吹雪の中でもその笑顔はかき消されること無く、ハッキリと浮かび上がっている。

「こんな辺境の地に飛ばされて君も不幸だったね。2人だけでこの吹雪の中、暮らすのは辛いものがあるんじゃないかな?」

「そうだなぁ、とにかく執務室で中央に連絡を取らないことには始まらない。必要最低限の食糧と資材を輸送してもらわないと冗談抜きで私が死ぬ」

「死なれたら死体の処理をしないとだから、死なないでほしい」

「怖い事を言わないでくれ…君がいうと何故か冗談に聞こえないんだ」

「ふふっ♪」

Верныйの笑顔は可愛らしいが、目が笑っていない。その目の奥はまるで氷のように冷たい。

執務室の前に戻ると、まるで実家に戻ったような安心感に包まれる。穏やかな気持ちで扉を開けると、机の上でちょこんと座わっている何かを見たとき私はギョッとした。20㎝程の2頭身の小人だ…

「あ、貴方がここの司令官ですね?」

「しゃ、喋った…」

「貴方がここに着任してくれたお陰で、ようやく私たち妖精が生成されました!」

「妖精?生成?どういうことなんだ…」

「んと、説明した方が良さそうですね」

私は椅子に座り、Верныйは窓のそばで立っている。妖精は説明を始める。

「まず、私たちは司令官さん達や艦娘達から妖精と呼ばれてます。全鎮守府、泊地で司令官が着任すると生成されるようになっていて、設備の機能と司令官の補助をするようになっています」

「それじゃあ、君たちがいれば建造や開発が出来るようになるのかい?」

「そうです!流石は司令官!物分かりが早いですね!今は壊れている設備も、私たちがいればささっと直してしまいます!」

これで1回だけでも建造が出来る。別にВерныйが嫌という訳ではないが、人は多い方が楽しい。

ここまでです

おつ

再開します

「なら、早速建造で新しい娘を迎え入れよう。Верныйもそれで良いよな?」

「そうだね、人は多い方がいい」

「分かりました!それでは先に行って待ってますので、来てくださいねー!」

ふわっとその場から妖精が姿を消すと、そこには歯車が5つ置いてあった。ご丁寧にメモ用紙まで置かれていて、中に建造の仕方が書いてあった。

「へぇ、この歯車で艦娘が出来るのか。艦娘には謎がいっぱいだな」

「へぇ、私はその歯車から作られたのか」

「知らなかったのか?」

「まぁね、自分でも自分がよくわからないよ」

「そういうものなのか」

歯車を軍服のポケットにいれ上からコートを重ね着する。窓の外を見ると、だんだんと吹雪が強くなっているのがわかる。

工廠へはまだ案内されていない。Верныйには再び先導してもらい、妖精が待っている工廠へ向かう。
それにしても、こうも吹雪の音しかしないと何故か不安にかられる。

「そうだ司令官」

「ん、どうした?」

「私の部屋にだけは絶対に入らないようにしてほしい」

「あぁ、別に構わないが」

「ありがとう」

それほど見られたくないものがあるのだろうか。見た目は少女だから、もしかしたら思春期というものが艦娘にもあるのかもしれない。Верныйの機嫌を損ねないように、部屋には入らないでおこう。

そんなことをいっていると、工廠へ向かう渡り廊下にたどり着いた。筒のようになって、外の寒気に晒されないようになっている。

「この先が工廠だよ」

「工廠には、外に出なくても向かえるんだな。寒いのにはかわりないが」

ここまで

おつかれさん

再開します

通路を進み重々しい鉄製の扉を開ける。鉄の臭いと油の臭いが鼻につき、Верныйも顔を歪めている。

「臭いが酷いな。Верный、工廠の掃除はしなかったのか?」

「地図で見ただけだからね。中には入ったことなかったよ」

未だに顔を歪めている。今までに何回か左遷される前の鎮守府で工廠には入ったことはあったが、いったいどれだけ放置すればここまで酷くなれるのだろうか。

「あ、こっちですこっちです!」

声のした方向を見ると、装置の上でピョンピョンと跳ね、手を振ってこちらに気づいてもらおうと精一杯努力していた。

「やぁ妖精、ちゃんと来たぞ」

「はい、それはいいんですけど。ちゃんと歯車持ってきましたか?」

「安心しろ。ちゃんと持ってきてるぞ」

コートのポケットから出した歯車を見るとホッとした様子で装置を起動していた。

「よかったよかった。それじゃあ、その歯車をこの窪みに、ググッと押し込んでください!」

「こうか?」

窪みにはめると、装置がガコンという音をたてて起動する。歯車が輝きはじめ、ゆっくりと回り出す。

「あ、使用資源はどれくらいですか?」

「えっと、今は人数を増やしたから最小値で頼む」

「はいはーい!」

妖精が何やらボタンを押すと天井からアームが降りてきて、資材つかんで装置の中へ放り込んでいく。

「すごいな。こうやって艦娘が生まれるのか」

「前居たところではさせてもらえなかったのかい?」

「ああ、建造が出来るのは鎮守府の最高権力者である大将殿だけだったからな」

話している間にも装置は稼働し続け、中からは鉄を金槌で叩く音が聞こえる。

「はい!これで工程完了です!後は20分ぐらい待つか高速建造材使うかどうかですけど、どうします?」

「おとなしく待つよ、高速建造材がいつ必要になるかわからないからな」

「分かりました!それでは私はこれで!」

妖精がその場で一回転して姿を消す。さて、どうしたものか。20分を何もせずに待つと意外と長い。とはいえ、また執務室に戻るのも嫌だ。

「司令官」

「ん?どうした、Верный」

「少し眠くなってきた。先に部屋に帰っても良いかい?」

時計を見ると、既に午前1時になっていた。さっきまで昼だったのに、夜になるのは早いものだ。

「ああ、良いぞ。俺も建造が終わったら戻る」

「ああ、お休み。司令官」

ここまで

おつです

再開します

先にВерныйが工廠から出ていき、工廠の中には稼働中の装置の音しかしない。

「っ~~…はぁ、俺も眠くなってきたな。建造が終わるまで少し寝るとするか」

壁の側に寄りかかって座り込む。今までの疲れが出たのか、睡魔によって意識を手放すのは早かった。

「司令官さん、建造した後のことなんですけど…ってあれ?」

妖精が建造後の後片付けを聞こうとしたときには、既に提督は寝息を立ててグッスリと眠っていた。

「あらら、寝ちゃってますね。風邪引いたらダメだから毛布でも…」

備え付けの毛布を提督の体にかける。工廠の中とはいえ、底冷えするような寒さだ。

「さてと、なら後片付けはこっちで勝手にさせてもらいますね~」

妖精が再び姿を消し、自分の作業にへと戻っていった。

「……っ…?」

何分経っただろうか。目を覚ますと、いつのまにか毛布がかけられており装置の騒音も止まっていた。

「ああ、建造が終わったのか。よっと」

眠たいからだを無理やり起こし、装置の前までよろよろと歩く。

「やっぱり中途半端に寝るとよけい眠たくなるな。次からはもう少し考えて寝るとしよう

いったんここまで

再開します

装置の前に立つと、どこからか私の姿を感知したのか自動で扉が開いた。ガコンっと音を立て、中から少女が出てきた。

「えっと、ここの司令官かな?」

前に舞鶴で見たことがある制服だ。確か…村雨という艦娘が着ていた制服だったか、と言うことはこの娘は白露型なのだろう。とりあえず、名前を聞いておこう。

「ああ、君の名前は?」

「僕は白露型二番艦、時雨。これからよろしくね」

綺麗な水色の瞳に三つ編みの髪、背負った少し大きめの艤装。Верныйと同じぐらいの身長の少女。

「幌筵泊地へようこそ。私もまだ着任して一日もたってないから説明は出来ないが、執務室に案内できるぞ」

「なら、執務室に案内して欲しいな」

「ああ、分かった」

時雨を連れ、執務室へ向かう。

おつおつ

執務室へ向かっている最中、渡り廊下を渡りきった時のことだった。廊下の向こう側でВерныйの姿が見えた。Верныйは既に部屋に戻って眠っているはず、なぜあそこに居るのだろうか。

「提督、あの娘はここの艦娘?」

「ああ、だが先に部屋に戻って寝たはずだが…」

呼びかけようとしたとき、フラッと進路を変えて姿が見えなくなった。

「見えなくなっちゃったね」

「まぁ、眼が覚めてトイレでも行ってたんだろう。…トイレの場所を聞くの忘れてたな。朝一に聞かなければ」

Верныйの事は気がかりだが、今は執務室へ向かおう。いい加減、私自身も眠たくなってきた。相変わらず外の吹雪は止まず、窓に雪がへばりついている


「時雨、だったか。村雨って娘を知ってるか?」

「もちろん、村雨は三番艦で僕の妹に当たるよ」

村雨の方が妹…パッと見では村雨の方が姉に見えるのだが…

「提督、今失礼なこと考えたね?」

「い、いやそんなことはないぞ」

この娘はエスパーか何かか?

ここまで

再開します

執務室の前につくと、時雨が服を引っ張ってくる。何事かと思い振り向くと、少しかしこまった様子でこちらを見つめていた。

「その、提督…僕あんまり他の娘と話すのが得意じゃないんだ。良かったら慣れるまで助けてくれると嬉しいんだけど…」

「安心しろ、今この幌筵には私とВерныйしか居ない。大きさの割りに寂しい白地だよ」

「ふふっ、提督は面白いね」

「あ、あんまり面白い事言ったつもりは無いんだがなぁ…」

時雨のことが良く分からないと思うのは私だけだろうか。だが、これでこの泊地へ3人になった。確かに少ないがそれでもまだマシだ。執務室の扉を開けて暖かい天国へ入る。

「ふぅ、流石に執務室は暖かいな。時雨、名簿に君の名前を追加する。何か名前の他に記入して欲しいことは?」

「そうだね、1つだけ『ム望造建艦妹姉』とでも書いといてよ」

「…直接言わない辺りいやらしいな」

「僕は他人に自分の気持ちを伝えるのも苦手なんだ♪」

「そうか、なら名簿に『ズラカベルス話会』とでも書いとくとしよう」

「…提督もいやらしいじゃないか」

「お互いにな」

名簿に時雨の名前と詳細を書いていく。もちろん、先程の『ム望造建艦妹姉』もだ。もし姉妹艦が4、5人集まったら消しておこう。

「それで時雨、今の時刻を見て欲しい」

「えっと…午前2時だね。もう良い子は寝てる時間だ」

「そうだ、そして私たちは悪い子になってしまうな。それにこれ以上起きていると、昼夜逆転した生活を送ることになる。廊下を通った時に分かっただろうが、ここは吹雪で全く外の様子が分からない。せめて時計だけでも昼夜に従いたい」

「その時計が正確だと良いね」

「安心しろ、ちゃんと来る前に合わせてきた。滅多なことがない限りずれないぞ」

「なら嬉しい限りさ」

暖炉の火を消し、懐中電灯を取り出して部屋の明かりを消す。そういえば寝床を作っていなかった、どこかの空き部屋で一晩を過ごすとしよう。

「提督、今日は僕と一緒に寝ないかい?」

「何を言い出すんだいきなり」

「冗談だよ、もうちょっと照れてくれたって良いじゃないか」

「すまんが、そういうのは幼馴染で間に合っている」

「あーあ、つまんないや…」

時雨という娘がどういう娘なのか更に分からなくなってきた。とにかく今日は隣で一夜を過ごそう。

ここまで

おつおつ

再開します

「っ~~…眠たくなってきたな。この部屋でいいか」

適当に側にあった部屋に入ることにする。スイッチを入れて電気をつけると二段ベッドが二つ、奥には机が机があり挟むようにロッカーが二つ、向かいに二つの計四つある。が、金具は錆びまともに開けられそうにもなかった。

「時雨はどこに寝るんだ?」

「僕は提督と一緒のベッドが良いな。この部屋寒いからかけ毛布だけじゃ足りないよ」

「確かに寒いが他のベッドから毛布をとってこれば良いじゃないか。別に俺と一緒に寝なくても…」

時雨が目をじっと見つめる。まるで誰が譲るもんかと抗議をするかのようだ。

「わかったわかった。これ以上言っても無駄みたいだしな」

「えへへ♪」

上着を脱いでベッドの端にかけておく。時雨は嬉々として毛布をとって来ると、同じ毛布の中へ入り込んでくる。モゾモゾと動かれてかなり気になる。しかし、時雨の体温が高いのか引っ付かれるだけでかなり暖かい。

「なぁ時雨」

「ん?どうしたの提督」

「まだあって一時間も経ったかどうか怪しいが、何で俺にそんなに引っ付いてくるんだ?普通は距離を開けて様子を見ると思うんだが」

「うーん、何でって言われても…初めてあったのが提督だったから、かな?」

「なるほど、生まれたてのひなが初めてみた鳥を親鳥と思い込むのと同じ原理か」

「僕は生まれたてのひなだと言いたいのかい?」

「間違ってるか?」

「ぐぬぬ…」

段々と力強く抱きついてきて少し暑い。こんな寒い部屋の中でまさか暑いと思うとは思わなかった。

「悪かった悪かった、抱きすぎで暑い」

「ダメ、朝までこうする」

「はいはい、おやすみ」

頭を撫でてやると目を瞑って顔を擦り付けてくる。
こう見ていると、犬を思い出す。

何分ぐらい撫でていただろうか。ふと気がついて布団の覗き込むと、時雨は穏やかな顔で眠っている。自分も枕に頭をおき、目を瞑る。体がベッドに深く沈み込み、力が抜けていく。

「て、提督。もう寝たかい?」

時雨の呼ぶ声が聞こえる。だが、あまりの眠気と脱力感で答える気にならない。

「そっか~…寝ちゃったかぁ~…」

しょんぼりとしたような声色で時雨がまた布団のなかに潜り込んでいく。が、こっちはすでに頭が回らない。考えることをやめ意識を捨ててしまおう。

ここまで

どうしてウチの時雨ちゃんは画面の外まで着いてきてくれないんだろ……

再開します

あれからどれ程寝ただろうか、窓が無いため外の明るさも分からない。まだ時雨は布団の中で寝息を立ている、もうВерныйは起きているだろうか?ベッドが抜け出て上着を羽織り部屋の外に出る。廊下は明るい白の光で照らされており、目の奥まで光が届くようだ。執務室の扉を開け、中に入ると既にВерныйが暖炉に薪を焚べて火力を調整していた。

「やぁВерный、おはよう」

こちらに振り返ると少し不思議そうな顔をし、目を細める。少しして普段の表情に戻ると挨拶を返してくれた。

「おはよう、"提督"」

椅子に座り机の上を見回す。相変わらず書類も何もない、あるとしたら用もないのに置いてある万年筆だけだろうか。今日は強い風が叩きつける音もせず、雪も降っていない。

「さてはて今日はどうしたものか。運動するついでに島の見回りでもするか」

「いいと思うよ」

「少し外に出てくる。時雨が起きたら外に出ていると伝えてくれ」

「了解」

コートを羽織り、防寒具を整える。多少は体を動かせるだろう。

外は案の定辺り一面雪景色、枯れた木が何本か哀しく立っているだけで他には何もなかった。本当にここが軍事施設なのかと疑問になってくる程だ。港、といっても少し舗装されただけの桟橋まで来ると、遠くの方に小さな島影が見える。

「うぅ…」

どこからか女性の呻き声が聞こえたような気がした。もしもこんな極寒の中で倒れてしたら大問題だ。とは言え、こんな所に人が倒れているとも考えづらい。自分の疲れから来た幻聴かもしれない。

「おい、誰か居るのかー?」

少し待っても返事はなかった。そろそろ切り上げようと踵を返す。

「ん?」

突然右足が何かに固定されたように動かなくなった。

「ま、待って…」

「うおっ!?」

いきなりのことに体が飛び上がってしまう。すぐに足元を見ると雪の中から手が出ていた。

「ひっ、引っ張って…」

「お、おう…」

ゆっくりと引っ張り上げると、金髪の少女の顔が出てきた。意外と顔色は良く寒がっている様子もない。

「ぷはー…新鮮な空気…」

「…寒くないのか?」

「あ、うん。えっと…最後まで引っ張ってくれると嬉しいかなぁ~って…」

「分かった」

ここまで

再開します

ゆっくりと雪の中から引っ張り出していくと、全身が露になってくる。青色で装飾された制服、どこかビスマルクの服装に似ている気がしないでもないが、あちらは赤かった。

「ふ~、助かったよ~」

「君はどうしてここに?」

「えっと覚えてなくて…あはは…」

「なら名前はどうだ?」

「それなら覚えてるよ!」

コホンと咳払いをし、身体中に付いた雪を払い落としてこちらに笑顔を見せてきた。

「私はプリンツ・ユージン!よろしくね!」

元気に自己紹介をしてくれた彼女は、こんな極寒の島であるにも関わらず笑顔を保ち続けている。体感温度は人間との違いがあるのだろうか。

「私はこの泊地で提督をしているんだ」

「Admiral!?Really!?」

「お…おう」

「うーん、貴女の所でお世話になっても良いかな?」

「ああ良いぞ、人が少なくて寂しかったんだ」

「Thank you!」

とても陽気な子だ。彼女を入れて全員で3人の艦娘がいる。だいぶ雰囲気も良くなることだろう。

桟橋を後にし、建物に戻ると玄関で時雨が立っていた。どうやらベッドから居なくなったのに気付き慌てて探したのだと言う。プリンツが時雨に挨拶をして時雨も挨拶を返した。

「提督、新しい子を拾って来たんだね」

「拾って、まぁ間違ってはない。これから少し賑やかになるぞ」

「僕は提督のものなら何でも受け入れるよ」

少し話が噛み合っていない気がするが、気にしないでも問題はないだろうと思う。それにしても、会ってまた24時間も経っていないだろうにここまで懐かれると、悪い男に拐われたりしないか不安だ。

「そう言えば、提督は何で起きたとき僕も起こしてくれなかったんだい?」

「起こしたら悪いかと思ってな、そのままにした」

「僕を気遣ってくれるのはうれしいけど、それなら起こしてくれた方が良かったよ…」

しょんぼりとする時雨の頭を撫でてやると、少し笑みを漏らして喜んでいた。後ろでニヤニヤとプリンツがこちらを見ている。

「仲が良いんだね~」

「といっても会ったのは昨日なんだがな…」

「へぇー」

相変わらず建物の中も外と違う寒さで体が冷える。この檻のような建物からはいつか昇進しておさらばできることを願おう。

ここまで

プリンちゃんまさかこれ……

再開します

「Верный、戻ったぞ」

「あぁ司令官、ちょうど良かった。あそこの電話、誰からかかかってきたみたいだ」

「本当か?」

すぐに駆け寄り受話器を耳に当てる。

「もしもし、どなたでしょうか?」

『おお、ようやく声が聞こえたよ』

「げ、元帥殿!?」

提督が声をあげて驚いているとき、3人は暖炉の前で座っていた。プリンツは何やらソワソワと落ち着かずВерныйを眺めていた。

「Hi、えっと…ヴェルニー?」

「『ヴェールヌイ』だよ、どうかしたかな?」

「貴女ってSoviet unionの船だよね?」

「『元』ソ連艦だよ」

元という言葉を聞いた途端、プリンツは安堵した様子で大きく息を吐いていた。

「良かった~…」

「なにが?」

「私でも良く分からないんだけどね?頭の中で『ソビエトに気を付けろ』って、言葉が繰り返し流れてくるの」

「へぇ、面白いね。刷り込みでもされたのかな?」

Верныйはプリンツの言葉に笑顔を見せたが、誰がどう見ても眼が笑っていない。プリンツはぎこちない笑みを浮かべ、その奥では時雨が大きなあくびをしていた。数分もすれば提督も受話器を戻し、暖炉の前に座りに来た。

「提督、何だったの?」

「資源運搬の開始と食料運搬の開始が今日の昼から始まるそうだ。これで飢え死ぬことは無くなるな」

「ハイ!Hamburgerもある!?」

「いや、流石に無いだろ…」

「なーんだ…」

「とりあえず初めの配給は3時間後だ。それまで待機するぞ」

「ハーイ…」

持ってきたタイマーを3時間後に設定し、これまで待つことにする。外へ出てもまだすることがない。それよりも中で暖まっている方が体にも良いだろう。

「ねぇ~提督~…何かすることはないのかい…このままじゃ退屈で死んじゃうよ…」

時雨が退屈さに悲鳴をあげたのは待機してから僅か20分の事だった。提督の背中にもたれ掛かり、両手両足を投げ出している。

「おい、まだ悲鳴をあげるのは早すぎるぞ。しょうがない、ココアでも作ってくる。Верный、ココアがあるのはどこの部屋だ?」

「ココア…?えっと…隣の部屋だよ」

「そうか、なら作ってくる」

提督は部屋から出ていき、艦娘3人だけが残された。話しにくいのか、相変わらずお互いに少しの溝があるように思える。

「……」

誰も話しかけない。いや、誰も話しかけれない。提督という連絡橋が無い今、会話を始めるのは不可能に近かった。それでも、プリンツは何度か二人に話しかけようとするが、横姿から溢れてくる無言のオーラには勝てなかった

「戻ったぞ、って何で3人ともそんなに黙ってるんだ?」

「Admiral、ココア!」

「はいはい、慌てるな慌てるな」

1人ずつ丁寧に渡していく、昨日のВерныйのココアに比べればぬるいが、それでもけっこう暖かい。

「久しぶりにココア入れたから、薄かったりしたらすまない」

「気にしないで、提督。僕は薄くても濃くても大丈夫だから」

「Me too!こんなときに文句なんて言ってられないよ!Thank you Admiral!」

「Спасибо」

「ここの艦娘は国際色豊かだな」

ここまで

再開します

暖炉の前でココアを啜りながら、4人で固まり暖を取る。少女達の体は上着を着ていないにも関わらず、自分の素肌よりも一段と暖かくプリンツにいたっては今まで外に居た筈なのに3人の中で誰よりも暖かい。時雨は相変わらず誰よりもすり寄ってくるし、Верныйは1番端でココアを啜っている。

「提督、ココアごちそうさま」

「おう、机にでも置いておいてくれ。後で片付けに行く」

1番先に飲み干したのは時雨だった。机にコップを置くとまた隣にやって来てすり寄ってくる。…離れたら時雨は死んでしまうんだろうか?と疑問になってくるほどだ。

「やっぱり提督の隣は安心するね。ずっとこうしていたいよ」

「いや、流石にずっとそうされてると邪魔なんだが」

「…ダメかな?」

「上目遣いでこっちを見るんじゃない。断りにくいだろ」

いやらしい笑顔でこちらを見てくる。横でニコニコとプリンツが見てくる。

「司令官、おかわり頼んでもいいかな?」

「分かった、プリンツと時雨はどうする?今なら淹れてこれるが」

「なら僕のもお願い」

「私のもね!」

「はいはい、全員分だな。少し待ってろ」

「あ、僕も行くよ!」

全員分のコップを2人で持ち、隣の給湯室へ入る。もう一回やかんに水を入れ、ガスコンロの火をつける。やかんの注ぎ口から湯気が出てくるまで少し待機することにしよう。

「提督…」

「ん?」

時雨は顔を赤くして襟を掴んでくる。

「熱でもあるのか?どれどれ…」

「あっ…///」

額を合わせ体温を確かめる。特に熱は無いようで異常は分からなかった。

「熱は無しと、風邪でもひいたか?」

「いや、その…」

「ともかく異常があったらすぐに部屋のベッドで寝るんだぞ。今は薬がないから何も治療ができんしな」

「ぼ、ぼくは―――」

時雨の声はやかんの蓋のカタカタ音でかき消された。すぐにガスを切ると、コップの中にココアの元を入れお湯を淹れる。

「よし、できたな。時雨、持っていくぞー」

「むー…」

コップを持ち執務室へと戻る。何やら時雨が不機嫌になったようだが、理由は分からない。

ここまで

かわいい

再開します

「2人共、今戻ったぞー」

ココアを両手で持ち、扉を開けてもらい中に入る。さっきと変わらず暖炉のまで座っているが、Верныйが何故か自分のマフラーを首に巻いていた。グルグルと巻かれているマフラーは鼻までを隠すほどまで盛り上がっている。

「Admiral!Thank You!」

こちらに気づくと近付いてくると、まるでひったくるようにコップを取っていく。扉を閉め、暖炉を見るといつの間にか時雨がコートを羽織っていた。正直なところ、体温が低いこちらへ譲ってほしかったが、少女から大人が防寒具を奪うなどただの大人げないやつだ。そうだ、忘れないうちにプリンツを名簿に追加しておこう。

「プリンツ、ちょっとこっちに来てくれ」

「んん?どうしたの~?」

「名簿にプリンツの事を書いておきたくてな」

「OK!」

引き出しから名簿を取り出す。分厚さの割には最初の1ページ目以外白紙のほぼ真っ白な名簿、これがほとんどの埋まるほどの大所帯だと大変そうだが楽しそうだ。

「さてまず名前だが…プリンツ・ユージンって英語でどう書くんだ?」

「えっとね~ 『Prinz Eugen』…ってあれ?」

「ん?どうした?」

「…ううん、何でもないよー!ほら、『Prinz Eugen』。書いてみて!」

「よし…『Prinz Eugen』だな?」

「YES!次いってみよー!」

書かれた通りに名簿に書き写すと、見た目の特徴等を書いていく。何の問題もなく埋めていったが、今の願いを聞くと、悩み込んでしまった。

「うーん…」

「願い無いのか?最悪おもちゃが欲しいとかでもいいぞ?」

「ううん、そうじゃなくて…誰かに会いたいんだけど全然思い出せないなぁーって」

「なるほど、それなら思い出せてからにしよう。さて、こんなもんだな」

名簿をとじ、引き出しにしまうと狙っいたかのように電話な鳴り響く。

「すまん、ちょっと静かにしていてくれ」

「はい、こちら幌筵泊地」

『何度もすまんな、私だ』

「いえ、大丈夫です。それで、なにかご用で?」

『実はな、そっちで引き取って欲しい艦娘が3人ほど居てな』

「こちらでですか?」

『あぁ、『長門』『酒匂』『雪風』なんだが…』

「ちょ、ちょっと待ってください!流石にそれはダメですよ!こんな辺境の地に建造ならまだしもそちらから戦艦を寄越すなんて」

あまりのことにビックリした。長門と言えば、あのビックセブンと呼ばれた艦娘のはず。このような鎮守府に連れてくるのはもったいないはず。

「いや、問題が起きてな…」

「問題?いったいどのような?」

『最近、何かに怯えるように部屋に引きこもってしまって出てこないんだ。『酒匂』と『雪風』も同じような状態でな。何とか同室の艦娘に会話はしてもらっているが、あの状態でこの鎮守府に置いておくわけにもいかなくてな。どうだ?引き取ってくれるか?』

「と言われましても…こっちは戦艦の出撃なんて出来ませんよ?」

『構わない、ストレス発散という名目でそちらに行かせる。リンガでも良かったんだが、大規模作戦前線基地になることが決定してな』

「そうですか、分かりました。こちらは部屋の掃除をして準備をしています」

『頼んだぞ』

向こうから通信を切られるのを待ち、それに合わせてこちらも受話器を戻す。

「司令官、どうしたんだい?」

「艦娘が3人、こちらへ来ることになってな」

「名前は?」

「『長門』『酒匂』『雪風』だ」

「長門!?酒匂!?Really!?」

「お、おう。突然どうした?」

プリンツが机を乗り出して聞いてくる。どこかでの知り合いだろうか?

「酒匂に長門かぁ…久しぶりだなぁ…」

「とにかく、これから部屋の掃除をする。3人だから1つの部屋の掃除で十分か」

「Admiral!長門と酒匂は私の部屋が良い!」

「そうか、ならプリンツと長門と酒匂は同室と」

「提督、雪風は僕と同じ部屋で良いかな?」

「良いぞ、なら2つの部屋の掃除だな。さっさと済ませるぞ、終わらせるなら早い方がいい」

ここまで、いやークリスマスやること何も無いですね…

おつ
家族と過ごしたらどうだ?

>>62
貴女?女だったのか

遅れましたが新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします

↑『貴女』は変換間違いです。申し訳ありません

適当にほうきと雑巾、バケツを用意する。2つとも倉庫にあり、雑巾に関してはちゃんと乾かしていなかったのか、カチカチに凍ってしまっていた。水は雪をバケツに詰め込めるだけ詰め込め、暖炉で溶かして用意する。水はちゃんと別で用意してあるが、水分補給のためにもここで使いたくはなかった。

水を用意すると、二手に別れて掃除を始める。分け方としては俺と時雨、Верныйとプリンツ。仲間になりたそうにこちらを見ていた時雨を置いて、Верныйやプリンツを選んでいたら面倒くさい様なことになると直感が訴えていたため、時雨をパートナーに選んだ。

「それじゃ時雨、さっさと掃除を終わらせてしまうぞ。時雨は床にたまった埃を掃いてくれ。俺は雑巾で窓や壁を拭いていく」

「僕は良いけど、提督は水が冷たくないのかい?なんなら僕が…」

「大丈夫だ、暖炉で出来るだけ温めてきた。ぬるい程度だが冷たいよりはマシさ」

だが、油断していた俺はバカだった。窓を拭こうとして窓に雑巾を当てると、ぬるま湯がすぐに冷え窓に貼り付いてしまった。

「うおっ!?」

咄嗟に手を離したが、雑巾はピッタリと貼り付いている。外はそれほどまでに寒いのだろうか。ただでさえこの建物の中も寒いと言うのに、外がもっと寒いと思うだけで気が滅入ってくる。

「提督、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。それよりもこの雑巾、どうやって外そうか…」

「それなら、このぬるま湯をかけてサッと」

なんとか雑巾は取れたが、垂れた水滴が固まってしまった。雑巾よりはマシだと思い、壁を拭き始める。

「時雨、助かった。まさか雑巾が貼り付くなんてな」

「僕は提督に凍傷とかがなくて良かったよ」

壁とベッドの木の部分を丁寧に拭いていく。壁はさほど汚れていなかったが、ベッドの下側を拭いていくと雑巾が黒くなるほど汚れていた。

「酷い汚れようだな、前の責任者もここまでは拭かなかったのか?」

「そんな所はあんまり拭かないんじゃないかな。多分…」

疑問になりながらも雑巾を何度も洗って拭き続ける。用意した水はもう黒く汚れていたが、替えに行くような気力はなかった。

「これほど掃除すれば大丈夫だろう」

「隣はどれくらい終わったんだろうね、ちょっと見てみようか」

「そうだな」

ドアをノックし、出てくるのを待つ。真っ先にプリンツが出てきて、後ろにВерныйが立っている。

「そっちはどうだ?」

「ある程度は終わったよ!」

「そうか、なら片付けるか」

水を一つのバケツにまとめると、給湯室の排水溝で水を捨てる。埃や大きい物は入っていない筈だから、詰まるようなことはないはずだ。

ここまで
久しぶりに実家に帰って家族と会いました。
いろいろと変わっていて、かなり驚くことが多かったです。

再開します

片付けを終えると腕時計を確認する。船が来る昼頃はそろそろだ。コートを羽織り準備をして執務室に戻ると、Верныйが居ないことに気が付いた。

「プリンツ、Верныйはどこに行ったんだ?」

「ん?Верныйなら先に部屋に戻ったよ?」

「そうか、なら良かった。もうすぐ船が来る、俺は桟橋に行ったと伝えておいてくれ」

「提督、僕も―――」

「時雨はここで待機だ。迎えは俺一人で大丈夫だ」

「…うん」

「それじゃ、任せたぞ」

「行ってらっしゃい」

部屋の外へ出る。不気味なぐらい静かな館内、この静かさが将来的に賑やかな声で騒がしくなっていることを願う。外に出れば雪によってできた道を進んでいく。少しでも道を外せば腰まで雪に埋まることになる。桟橋まで歩いてくると向こうの方から2つの大きな船影が見える。それはゆっくりと大きくなってくる。

10分も待っていると船は桟橋に到着した。橋がかけられ資材運搬用の車両が何十台も出てくる。元帥は最後に艦娘を連れて梯子から降りてきた。

「やあ明戸君、調子はどうだ?」

「まぁまぁです」

「何事もないようで何よりだ。先に連絡入れた艦娘達というのはこの3人だ」

一番前にたっている大きな女性と後ろに隠れている艦娘が二人、何故隠れているのだろうか?

「この子達は今あまり精神状態が良くなくてな、そっちでカウンセリングや息抜きを任せる。すまない、押し付けるような形となった」

「いえ問題無いです。既に3人分の部屋は掃除してありますので」

「助かる。では私はまだ本土でやることが残ってるからな、あとは頼んだぞ」

そう言って元帥は駆け足で船に乗り込んでいく。運搬用の車両も運び終わったのか次々と船のなかに戻っていき、最後の一両が乗り込んだかと思うと橋が上がって出港していった。

「さて、それじゃ3人とも俺についてきてくれ。君たちと同室を願う子もいるから仲良くしてくれよ?」

3人とも頷いてはくれたが返事はしてくれない。まだあったばかりだからだろうか。それに1人、やたらこっちに敵意を向けてくる子がいる。

「えっと3人の名前は分かってるんだが、顔と名前が一致しない。今のうちに教えてくれないか?」

3人ともなかなか口を開かない。かなり気まずい空気になったところで、一番背の高い子がようやく口を開いた。

「私が戦艦『長門』だ。そして軽巡『酒匂』に一番背の低いのが駆逐艦『雪風』だ」

これで名前がわかった。そして、誰が敵意を向けてくるのかもわかった。雪風が敵意の目でこちらを睨んでいる。これでは当分近付かない方が良さそうだ。時雨に何とかしてもらうとしよう。

ここまで

再開です

3人を執務室まで連れてくると、二人の姿が見えず、Верныйが1人で暖炉の前で座り込み火掻き棒で中の薪を弄っていた。

「Верный、他の二人はどうしたんだ?」

「入渠設備の掃除に行ったよ。私たちは暇だからね」

後ろにいる3人をВерныйが視認すると火掻き棒を直し、外していた帽子をもって立ち上がった。そのまま扉から出ていこうとする。

「そうだ司令官、少し雪風を借りていくよ」

「ああ分かった、雪風も俺と居るより同じ艦娘と一緒の方が良さそうだしな。名簿には最低でも名前があれば十分だ」

「ありがとう。それじゃあ雪風、行こう」

「え、あ…うん…」

手を力強く握って雪風を連れていった。とりあえず椅子に座り名簿を取り出す。

「何か記載しておいてほしいことはあるか?」

「私は特に無い、酒匂は何かあるか?」

酒匂は長門の言葉に対して首を横に振っていた。それほど話したくないのだろうか、そう考えると少し傷つく。

「これでよし、さてこの鎮守府だが特に何もしないで良い。と言うよりは何もできないが正しいな」

「どういうことだ?」

「資源もさっき補給されたが最低限しかないからな、演習も出撃も緊急時以外は出撃しないことに決めた」

二人は安心したような顔をした。

「そうか、それで私たちの部屋はいったい…」

「Admiral!今戻ったよー!」

プリンツが扉を勢いよく執務室の扉を開ける、後ろから時雨がやれやれといった顔で扉を閉めていた。

「長門ー!酒匂ー!」

二人はプリンツの姿を見るとさっきまで険しかった顔が笑顔になった。

「プリンツ!」

「ユージンちゃん!」

3人とも抱き合って、会えた喜びを分かち合っているのだろうか。この3人の関係性をよく分からないこちらからすると久しぶりに会えた艦娘としか思えなかった。

「3人ともいい感じの雰囲気になってるところ水を指して悪いが、良いか?」

「あ、ごめんごめん」

「3人は以前どこかであったことがあるのか?」

「ううん、会った記憶は無いの。でも、会いたいって気持ちがあって…よく分かんない」

「そうか、まあその辺りも調べていくとしよう。プリンツ、二人を部屋に案内してくれるか?」

「もちろん!」

プリンツが楽しそうに二人と手を繋いで出ていった。名簿をしまい一息つく。昨日と今日で艦娘が6人になった、まだ食っていない朝飯を食べてから後々のことを考えよう。食材は何があっただろうか

ここまで

おつ

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