橘ありす「平らな世界」 (24)

モバマスのSSです
P表記です

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「Pさん、あれは何の建物ですか?」

「んー?」

少し遠い、しかし車で行けない距離でもない地方での小さなイベントへの移動中。

最初は他愛ないことを話し合い賑わっていた二人は徐々に静かになり、
1時間も経たないうちにラジオとエンジン音だけが喋り続けていた。

「どれど、れ……」

助手席から窓の外を見ていた彼女、橘ありすの質問に頭越しに見えた建物は
仲睦まじい男女が愛を確かめ合うホテル…要はラブホなのであった。

「何だか、お城みたいですね」

「あー…まぁ…お城、そうね…」

確かに外国のお城の様な見た目をしている…
最近はめっきり見なくなったけど少し都心から離れればまだまだ残っているみたいだ。
昔の流行りだったのだろう、よく見ると中々に薄汚れている。

常日頃からタブレットを持ち、色んな情報が簡単に手に入る彼女であったが
まだその辺りの知識には触れていない様で安心したが、この修羅場をどう切り抜けようか…

「タブレットで検索してみます」

「待って!?」

「え…どうかしましたか?」

「いやなんていうか…そう、車でタブレット見てると気持ち悪くなるぞ?」

「そんなにずっと下、見ませんよ」

「でも万が一ってことがさ…ほら、ありすもプロなんだから」

「むう…」

「そういうことだから。…ちょっと休憩していこうか」

ちょうど良くサービスエリアが見えてくる。
これ幸いと駐車場に車を止め、店に入る。

「…なんかはぐらかされた気が」

「ソンナコトナイヨ。お、いちごのアイスあるぞ!買ってやろうか?」

「む…しょ、しょうがないですね…今回は騙されてあげましょう」

別に食べたい訳では…などと呟きながらアイス片手に車に戻ってゆくありす。
可愛い奴め。その後ろ姿はなんだかんだ言ってしっかり子供らしい、年相応の女の子であった。

「…そろそろ出発するか」

お昼過ぎには目的地に着くだろう。そしたら適当に昼食を取って現場へ向かえばいい。
ナビを使わなくても迷うことはない、何故なら

「しかしまぁ、仕事とはいえ地元に戻ることになろうとは…」

東京に出てくるまでずっと過ごした地元なのだから。

__________



仕事は順調に終わり、現場を出たのは陽が沈みかけていた頃だった。
この時間なら少しゆっくりしてもそんなに遅くならずに東京へ帰れるだろう。

「お疲れ様、順調だったな」

「ありがとうございます。今日はうまく行きました」

褒めてください、と言わんばかりの上機嫌であった。

「よくやったな。お疲れのところ悪いがそろそろ出よう、遅くならないうちに帰さないといかん」

「分かりました」

帰路につくのに車を走らせる。
駅前、と言ってもほとんど何もないが、前を通過する。
学生時代よく通った場所だ。
もっと小さい頃は奥の駄菓子屋さんでお菓子を買って食べたっけ…。
そんな懐かしいことばかり考えてしまう。
そしてそこにありすがいる。
自分が育った街並みにありすがいることがどうにも気恥ずかしく感じてしまう。

「ここ、Pさんの地元なんですよね」

「ん…知ってたのか」

窓の外を眺める自分に、彼女は言った。

「ちひろさんに聞きました。…嫌、でしたか?」

「大丈夫だよ、特に隠してた訳でもないしな」

そこから少し無口になる。
お互いに話の切り出し方を迷っているみたいだ。

「…プロデューサーって、その、どんな学生だったんですか?」

「学生?学生ねぇ…しょうもないことばっかりしてたけど」

「聞きたいです。どんなことして遊んでたのかとか…」

「まぁいいけど…」

車を走らせながら思いつくことを語り始めた。
友人の話、良く行った遊び場の話、面白い先生の話…
記憶を掘り起こせばいくらでも出てきた。

ありすは相槌を打ちながら、時折質問しながら耳を傾けていた。
話しているうちに段々興に乗ってきてどんどん話してしまった。
気づいた時には自分の周りの人間関係が大体把握できるくらいには。

「あいつら今何してんだろうな…ほらそこ、そこのラーメン屋。昔キライだった先輩が働いててさ」

「あぁ、さっき言っていた部活の?」

「そうそう、良く部活終わりに行ってたんだけど引退した先輩が働き始めてからは全然行かなかったんだ」

「そうなんですね」

「あ、でも1回だけ行ったっけかな…マネージャーが『P君ラーメン好きなんでしょ、帰りに寄ってこうよ』なんて誘ってくれてさ」

「…へぇ」

「その人も一つ先輩だったんだけど、色々気が合う人で…どした、ありす」

「いえ別に。その時から年上の女性に目がないんですね?」

「え、そんなことないって…ごめん、つまらなかったか」

この話はあんまり面白くなさそうだ。
ありすはそっぽを向いてしまったが話は続けてくれた。

「そんなことないですけど。…そのマネージャーさんとはどうなったんですか?」

「どうって…特に何もなかったよ。そのまま先輩も卒業して、俺も次の年に卒業して…あれから会ってないしなぁ」

「…そうですか」

「最後に先輩の卒業式で話した以来だな…」


そうだ、会っていない。あの先輩も何をしてるんだろうか。
最後に話した時、彼女も上京すると言っていた。
どこかでまた会うこともあるのだろうか?

「ふぅん…プロデューサー、その人のこと…」

「ん?」

「…何でもないです」

「何だよ、気になるじゃないか」

「何でもないです!」

「なんで拗ねるんだよ…ごめん、つまんない話だったな」

「…いえ、別に…」

こりゃまずいな。なんか話さんと…
ありすが楽しんでくれそうな、しょうもないバカ話を思い出そうとしているが中々出てこない。
さっきまでぽんぽん思い出してたのに…

…代わりに思い出したのは、先輩との最後の別れの時の会話だった。
自分も上京すると、早く都会に行きたいと言った自分に彼女は
 『君がこの街のことを思い出す時は、出来れば楽しいことを思い出して』と言った。
…どうやら、先輩の願った通りになったようだ。

「早く…」

「えっ」

「早く、大人になりたいです…プロデューサー」

「…」

「プロデューサーは待ってくれるって言ってくれましたけど。早くなれるのならそれに越したことはないです」

「んー…別に急ぐことは、ないと思うけどな」

「…」

彼女は、自分と一緒だ。この街にいた頃の。
一刻も早くこの街から、この世界から抜け出したいと思っていた自分は
早く大人になりたいとしきりに言っていた。

「ここに住んでた時はさ、毎日学校行って勉強して、つまんねぇ授業受けてってやってたけどさ」

「…はい」

「今考えたら全然悪くなかった…むしろ結構良かったっていうか。あの時は分かんなかったけど」

そうだ、悪くなかった。
あんなに大人になりたかった自分は今大人になって戻りたいと思うことすらあるくらいだ。
ずっと夢見ていた大人っていうものになったっていうのに。

「だから、今ってのは昔の積み重ねになるっていうか…今しか出来ないことをありすにはやってほしいっていうかさ…」

「…無理して良いこと言わなくていいですよ」

「うるせ。…そう、『あらゆる想像に耐え得る心を養うべき』なんだよ。子供のうちにな」

「なんですか、それ」

「どんな事が起きても良いようにしとけってことよ。人間、考えることより不可解な事が起きるもんだからな」

中々良いことを言った…先輩か誰かの受け売りだが。

「へぇ…たまには良いこと言いますね」

「たまに、は余計だ」

良いこととは言うが実際はすごいくだらない話の中での一言だった気がする。
…初めて18禁なスキンシップを取る際には、男の純情妄想など捨てておけ、的な…

「まぁそういうことなんだよ。だからありすもな」

「はい」

「ありすも…まぁ少し話は違うかもしれないけど」

でも一緒か。
いつかありすもあのお城のようなホテルの意味も、どういう場所なのかも知る時が来るだろう。
どんなに可愛がったって大人になっていくんだ。…あまり想像したくはないが。
想像したくはなくても、いつかはありすにだって恋人は出来るだろうし結婚もするだろう。
どう転んでもそれは未来なのだから。

「早く大人になろうっても…まぁ全然悪いことじゃないけどさ」

「…そうですか」

「嫌でも大人にはなれるんだ。だから今を、今のありすを楽しんでほしいかな、俺は」

結局のところそこに辿り着くのだ。
大人になった彼女は綺麗だろうし、可愛くもあるだろう。
確かにそんな彼女も見てみたいが、それは今の彼女と一緒に時を歩んでも遅くはない。

「…イマイチ分からないです」

「そこは分かりましたっていう所だろ…すまん、どうでもいい話だった」

「いえ…そんなこと、ないです」

暫く話し込んでいる内に地元は離れ、良く見知った道路の上を走っていた。
渋滞に捕まらなければ予定通り送り届けれるだろう。…少し寄り道しても問題ないくらい。

「まぁそんなもんかな、俺の思い出話は」

「…ありがとうございます、そこそこ楽しめました」

「そこそこかよ…」

まぁそんなもんだろう、俺の話なんてものは。
でも、いつか彼女にもわかる時は来るだろう。
今話したことは憶えてなくても。きっと無駄にはならないだろう。

「よし、腹減ってきただろ。なんか食べにいくか」

「何か食べさせれば機嫌良くなるとでも勘違いしてませんか」

「ソンナコナイヨ。何が食べたい?」

「むう…じゃあ苺パスタで」

「ごめんもっと夕食っぽいのにして…」

あの頃、自分が感じていたことを素直に、あの頃の通り伝えてやろう。
彼女は賢いから、色んなものを取捨選択して素晴らしい未来に辿り着くだろう。

だから暫くは、子供のままでいてほしい。
この子なら、きっと素敵な大人になれるであろうから。

終わりです。

ヤマなし落ちなしな感じですんません。
しかもP表記とか書いた割にずっとプロデューサー書いてましたね…
依頼出します。

あ、しかも名前のところにsage書いてますね…馬鹿ですね…すみません

外環通りのラブホか
昔の流行りだよね

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