高森藍子「すきま」 (36)
デレマスSS
藍子ちゃん一人称
一部捏造
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おはようございます、高森藍子です。
今日の天気は晴れ時々曇り。気温は昼頃13時がピークで最高気温は23度。
その後だんだん低くなっていって、17時ごろには20度を下回る見込み。
今日の夜はまたちょっと肌寒くなっちゃうかな。なら、早く帰って来よう。
残りのトーストを食べて、紅茶を飲みきって、食器を台所へ持って行きます。
軽い手荷物を整理しながら、今日は日が落ちる前に帰ってくることと、
事務所に行ってくることと、そして「行ってきます」と、最後はちょっと大きめに一言。
お母さんに伝えて、家を出ました。
私の土曜日は、こんな形で始まったのでした。
おっとと、これ忘れたらダメですよね。
私のお気に入りの、ちょっと高い、コンパクトなカメラ。最近買ったんです。
特別に何かを撮るってわけじゃないけど、なんか、こういうものって持ち歩きたくなるじゃないですか。
~~~~~
土曜日は、高校はお休みです。だから仕事が入る日は土曜日日曜日が多めで、続いて平日の夕方です。
でも、たまに。
今日みたいに何もお仕事が入らない土曜日が、月に一度かどうかの頻度で、あったりするんです。
いつもの土曜日はお仕事があるから、そういう休みの日でも、お仕事でもないのに事務所に行くのが癖になっちゃって。
そのことでたまーに、プロデューサーさんから怒られることもあるけれど。
「おー、あーちゃん、おはよう!」
「藍子ちゃん、おはようございますっ!!」
「あー、藍子ちゃんだ。おはよー」
未央ちゃんに茜ちゃんに、今日は杏ちゃんも。
お仕事のない土曜日は、こういう風に事務所にみんなで集まるのが恒例になっちゃいました。
「おはようございます、今日は杏ちゃんもいるんですね」
「日差しが暑くってねー。それが理由で事務所に来るの、癖になっちゃった」
「まぁやることないし、寝るだけなんだけどね。プロデューサーにはキレられるけど、テキトーに流してるよ」
「私たちも同じ感じだね」
「設備を使うって言っても自主練ですから、あんまり気にすることじゃないと思うんですけどね!」
「それを気にするのがプロデューサーと部長なのさー」
「青木四姉妹と専務は話がわかるから助かってるけど」
「にしても茜ちゃん、休みの日でも自主練だなんて殊勝だねえ」
「体を動かしてないと疲れちゃいますから!」
「あかねちん、それって普通は逆なんじゃないかな……」
未央ちゃんたちと会話を交わしながら杏ちゃんはソファの上に身を投げ出して、口の中の飴玉を転がしています。
「そういや未央ちゃんたち、今暇?」
「暇というか、まあ暇、かな?」
「正直持て余してますね!」
「だったらさ、悪いんだけど……」
「杏の飴、買ってきてほしいなーって」
「え、私たちをパシるの」
「やだなー人聞きの悪い。お使いだよお使い」
「いや詰まる所パシリじゃん!」
そのとき。
太陽が雲に隠れたのか、急にあたりが翳りだしました。
プロデューサーさんのデスクに差し込んでいた日差しが薄くなり、やがて消えて、まんべんない薄影がデスクを覆いました。
それがきっかけか、私は窓の外の景色を、知らないうちに注目してました。
事務所の高階から見る外の景色に、いつのまにか目を奪われました。
葉脈のように細い道路を、蟻のような車が行き交う光景。
その手前にはこれまた蟻みたいに小さい影がゆっくりと動いている、そんな光景。
そしてもっと目を惹いたのが、不揃いに切り分けたカステラみたいに立ち並ぶ、背の低いビル群。
私はいつのまにかこう思っていました。
あの隙間の中って、どうなってるんだろう。
静かに、でも確実に絶え間無く動く景色の中で唯一、変わらずにじっと立っているビル群。
あの隙間の中に、何があるのだろう。
そう思い始めると、私のおさんぽ欲ともいうべき心が騒がしくなるのを感じました。
普段はなんの意識にも止まらないただの風景だったのに、
はたと目に留まっただけで、いつのまにか私の心は背の低いビル群に釘付けでした。
私の知らない何かが、私に知られるためだけに待ってくれているのではないか。
私の知らない何かが、私に見つかるためだけに待ってくれているのではないか。
そんな自分勝手とも言える、むずむずした感覚が走りました。
行って、見たい。あのビルの隙間の中を。
……おさんぽ、したい。
「……2人に頼もうかなって思ってたけど、藍子ちゃんお願いできる?」
不意に名前を呼ばれて、私は3人の方に向き直ります。
「えっ、何をです?」
「飴だよ飴ー。買ってきてほしいなーって」
「それだったら私がひとっ走りで買ってきますよ!」
「いや、なんとなく藍子ちゃんに頼みたいかなぁって」
「なんで?」
「茜ちゃんだと自腹でめちゃくちゃ大量に買ってきそうだから」
「あと未央ちゃんは何買うのか忘れてカップラーメン買ってきそうだから」
「ちょ、何気にひどいこと言ってない!?」
「それなら、私が行ってきます。杏ちゃんのご指名ですからね」
「悪いねー」
渡りに船でした。
2人にわからないように杏ちゃんに口真似で『ありがとう』と伝えると、
杏ちゃんは『いいよ』と、これまた口真似で返しました。
~~~~~~
思わず転がってきたおさんぽチャンスに、私は心が踊っていました。
エレベータを降りるとき、エントランスから出るとき、私は間違いなくスキップしていました。
早速買ったばかりのカメラで、エントランスをパシャリ。
何やってるの、と警備員さんに怒られちゃいました。
いけないいけない。心を落ち着けないと。
そう思っても嬉しさを抑えることができない私は、そのまま小躍りで事務所のビルを出ました。
~~~~~~
小さなビル群は、すごく遠くに見えるけど、上から見たときよりも大きく見えました。
上から見ていた時はまるで不揃いのカステラみたいに見えていたのが、地上に降りてみると見え方が変わったのです。
見下ろす視点から見上げる視点。まだ遠いから、その視点はあまり上がっていないけれど。
それら小さなビルたちはまるで、大きなティッシュ箱みたいでした。
その変化に、私はまたワクワクしました。高速道路と空と地面とビルの、視界に占める割合の絶妙さと言ったら!
ここでも写真をパシャリ。
……ただ、そこまでの距離が思っていたよりも大きかったのは、ちょっと悲しい誤算でしたけど。
道のせいで遠回りになっちゃったり、そしてあまり変わり映えのしない風景を撮りながら、私はそのビル群に近づいていきました。
事務所から出たばかりだと、その真上の視界はまだ大きなビルたちしかいません。
天に向かって突き刺さっていくような、そんな背の高いビルに囲まれてると、なんだか自分が小さくなったように感じてきますよね。
これから私がいくビルのすきまは、この風景と比べてどんなに違うのだろう。
そう思い浮かべると、ワクワクがまた湧き起こってきました。
一応、見上げた光景もパシャリ。
……うん、これはいいかも。青空に向かってのビルたちの図。
~~~~~~~
4車線、合計8車線もある太い道路を、まだLED化されてない信号を目指して横断歩道で渡って、また暫く信号待ちをします。
渡りきるのに信号を2回待たなければいけませんでした。
2回目の信号待ちの間にも、私の前と後ろをトラックや乗用車が高速で行き交います。
低くイノシシのような、猛獣のような鳴き声を上げながら走り抜けていく車たち。
トラックのちょっと臭い排気ガスにむせながら、青を待ちました。
その道路は太さもさることながら、上を高速道路が通っているので、
信号を待っているときのうるささといったらありませんでした。
後ろをガタガタ、上はゴウゴウ、前もガタガタ。
高速道路を支えてる支柱に、グラフィックが描かれているのを見つけました。
……なんて言ったら、落書きと一緒にしないでくれって、沙紀ちゃんに言われちゃいそうだけど。
そうだ、撮っておこう。パシャリ。当事者に聞くのが一番ですよね。これは沙紀ちゃんとしてはどう?って。
太い道路を渡りきると途端に景色が変わりました。車線は4で、相変わらずいろんな車が行き交っています。
私たちの事務所があるところから離れていくから、途端に取り巻く高い方のビルがすっと消えて無くなるのが不思議な感じがしました。
小さく感じていた自分の錯覚が完全に消えて、逆に自分が大きくなったような気さえしてきます。
ここも写真で……
……あっ、ごめんなさい!
写真を撮るのに夢中になるあまりに、人とぶつかってしまいました……
気をとり直して……ここなら邪魔にならないかな。パシャリ。
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さっきよりは細い道路の、それでも信号待ちはちょっとじれったいから、丁度いい、歩道橋を使いました。
ちょっと古くて、手摺は錆びてて中身が見えちゃってます。
触ったら怪我しちゃいそうなので、触れないように気をつけながら階段を登ります。
歩道橋の上からパシャリ。
走る車がブレているのがちょっとカッコいい、そんな写真が撮れました。
そういえば、歩道橋を渡ってる途中、ファンの子とすれ違って、
私に気づいて一緒に歩いていた友達らしき子に伝えようとしていたのを
「しーっ」て、唇に人差し指をを当てて、お願いする場面もありました。
一緒に写真、撮ったほうが良かったかも……?
なんて、ちょっぴり後悔しちゃったり。
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事務所から出て30分。結構歩いた気がします。お陽さまが高く登ってきました。
途中、方向を間違えたんじゃないかな?
と不安になりながら、さっきみたいな歩道橋の上から目的のビル群をギリギリ目視で確認します。
うん、大丈夫。ちゃんと近づいてる。
パシャリ。
うーん、まだ頭しか見えないなぁ。
近づいているのは確かなので、私は不安を振り払ってそのまま歩き続けます。
ビル群が近いのに嬉しくなって、気持ち、歩く速さが速くなったかもしれません。
さっきの大通りよりは交通量の少ない道路の脇の歩道を歩きながら、私は杏ちゃんの飴のことを考えていました。
私の気持ちを察しておさんぽのきっかけを与えてくれたのだから、手ぶらで帰るわけにはいきませんから。
コンビニとかで、買えるかな……
ぼんやり、そう思っていたら視界の左下から小さめのボールがコロコロと転がって来ました。
それに続いてこれまた小さな男の子が、ボールを追いかけて来たのです。
さらに続いて、彼のお母さんと思しき女性が、男の子を抱き上げました。
「すみませーん!ほら、ダメじゃない!気をつけてって言ったでしょ!」
「あうー?」
「ごめんなさいねぇ、この子、歩き始めたと思ったらこんなにやんちゃで……」
「気にしないでください。はい、ボールです」
「本当にすみません……ほら、あっちで遊ぼう!」
「あいー」
男の子はお母さんに抱かれながら、公園の奥の方へ消えていきました。
私は男の子に手を振りながら、その姿を見つめていました。
そう、私の歩いていた歩道は、ちょうど公園に沿って伸びていたのでした。
公園……ここはなんて名前の公園なんだろう。どんな層が利用してるのだろう。
どんな写真が撮れるのだろう。
好奇心が、また、ふつふつと湧き上がって来ました。
来たことのない公園。思わず入りたくなっちゃったけど。今日はビルまで行くんだから、がまん。
公園入り口のちょっと面白い形のオブジェを撮るだけにして、私はまたビルを目指しました。
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公園傍を通り過ぎてしばらく歩くと、事務所の近くほどではないけれど太い道路に再び出くわしました。
そして私はハッとします。近すぎてわからなかったけれど、ここが確かに私が事務所から見下ろしていたビル群の前なのだと。
事務所やその周りのビルと違って、四角くて背はそれなりに低いし、所々塗装がハゲちゃってるところもあります。
正直、事務所の近くのビルと比べると、あんまりかっこよくはないな、と思いました。少しだけがっかりしました。
でも、その全てがなぜか私のワクワクを刺激してくれました。
真正面のビルをパシャリ。看板の文字が入らないように、ちょっとアングルを工夫する必要がありましたけど。
そのビルとビルの間は、車一台が通るのにはちょっと狭いけど、人が歩く分には十分な広さでした。
ドキドキしながら入ってみると、そこのアスファルトは粗く、ところどころひび割れてたりして、注意して歩かないと引っ掛けてつまづいてしまいそうでした。
足元に注意しながら、ビルの壁を見ると、蔦が張っているのがわかりました。かなりの時間、放置されていたのでしょう。
蔦の張っていないところから見える窓は曇りガラスでしたが、中の何かの陰が動いているのを見ると、人がいるようです。
ビルの看板は聞いたこともない会社かお店の名前だったけど、その事務所が中に入っているのでしょうか。
壁の蔦以外にも、足元には雑草──ナガミヒナゲシ──が、ビルの壁と地面のアスファルトの隙間が破けたところを中心に群がっていました。
ヒナゲシの写真をパシャリ。……うん、いい感じ。
と、その時。
「ビビーッ!!」
「きゃあ!?」
後ろから大きなクラクションの音。撮影に夢中になるあまり、私は道路の真ん中を占拠してしまっていました。
慌てて飛びのいて、車に道を譲りました。
慌てて飛びのいたから、さっきまで元気に咲いていたヒナゲシを、ちょっと踏んでしまいました。
「あぁっ、ごめんなさい……」
と、つい声に出して言ってしまいます。
根元の茎が少し傷ついちゃったけど、多分致命傷にはなってない……はず。うう、本当にごめんなさい……
少しの罪悪感を感じながら、私はこの細いビルの間の道を歩み進めていきます。
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見上げると、クモの巣の黒くなったような電線の類が、ビルとビルの間に縦横無尽に張り巡らされていて、それは電柱につながっていました。
だらんと垂れた電線は頼りなげな細いものばかりでしたけど、それを透かして見る青空は、なんだかとても不思議なもののように見えました。
細い黒の線で分割された青空。それはまるで、空色の絵の具ばかりを集めたパレットみたいに見えて。
写真に収めたいけれど、どう頑張っても『らしさ』が出なくて、結局この風景の写真だけは諦めました。
空をずっと見上げていると、私たちの事務所がある高いビルが見えます。
さっきまで居た階を、今度はこの下から見上げます。
事務所は20階だから……あの辺かな。なんて指さしながら確認したりして。
あそこに未央ちゃんや茜ちゃん、杏ちゃんが居る。見えないけれど、確かに居る。
私からあっちが見えていないのと同じように、あっちからは私が見えてないだろうけど、
ビルから3人がこちらを見つめてくれているように感じました。
低いビルの隙間から見る高いビルは、なんだか難攻不落のお城のように見えました。
お城みたいな私達の事務所を、ここからパシャリ。
……うーん、今度は電線が邪魔だなぁ……
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裏路地を一通り探索して満足した私はコンビニに入り、杏ちゃんに頼まれていた飴を探しました。
そういえば杏ちゃんって、どんな飴が好きなんだろう?
何味がいい?と聞いておくべきでしたね……
適当にぶどう味とイチゴ味、レモン味、メロン味を1つずつ買って、お会計を済ませました。
杏ちゃんにはイチゴ味がいいかな?レモンは未央ちゃん、メロンは茜ちゃんに。
そこでふと、突飛なことを思いつきました。
イチゴ味とぶどう味の飴の包み紙を開いて、ぶどう飴を口に含みます。
空になったぶどう飴の包み紙に、イチゴ飴を入れて包みなおしました。
見かけはぶどう味の、イチゴ味の飴の完成です。
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今日、私は大通りから路地裏へのお散歩で、いろんなことを発見しました。
遠くから見たものと、近くで見るものは全く違うこと。
遠くから見ると、整っているように見えても、近づくと色々といびつなところが見えてくる。
外から見るとかっこいいから、中に入って見ると実際はあんまりかっこよくなくて、その点は正直がっかりしちゃったり。
でも、入って見たら、外側からは絶対見ることのできない面白さがいっぱい詰まってる。
それはその道にしかない個性で、歩いて見てみないとわからないものでした。
それは人だってそう。第一印象と、付き合ってからの印象は全く違うのが普通です。
今日は歩かなかったけれど、外から見ていい感じの通りで、通って見てもいい感じの道路だって、
かがんで歩いて見たら吐き捨てたガムのこびりついたのがたくさん見つかるかもしれない。
でも、それだって可愛さだったり、魅力に見えたりすることだってあるのです。
真面目でしっかりしていそうな人が実は家の部屋は汚かったりだとか。そういうのがまた良さでもあると思います。
……私の部屋は綺麗な方ですよ?
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事務所に帰り着いた時には日は傾きかけていました。
「おー、あーちゃんお帰り!遅かったけどどうしたの?」
「ちょっと道に迷っちゃって。近くのコンビニまでだったんだけど」
私は嘘をつきました。今日あったことは、人に話しちゃうと、なんだか価値が失われてしまうんじゃないかと思って。
「あーちゃんも帰ってきたし、どうする?」
「自主練したいって言ってたし、してくれば?」
「そうと決まったら早速自主練に取り組みましょう!」
「オッケー!あーちゃんもあとで来れたらきてね!」
そういうと2人は、あっという間に駆け出していってしまいました。
「元気だねぇ。だからパッションやれてるんだろうけど」
「藍子ちゃんはあの2人と居て疲れない?」
「ううん、全然。むしろ、私が振り回しちゃうこともあったりするから」
「へぇ、意外だ」
「そうかな?」
「うん、藍子ちゃんって、なんかいっつもおとなしいイメージだからさ」
「なんだろう、あの2人に必死で追いつこうとしてる、みたいなイメージ持ってた」
「そんなことないよ。私たち3人は、いつも一緒に、同じところを走っていますから。追いかけられたり追いかけたり」
「たまには振り回したり……そういう意味では、私もあの2人と変わらないかなって」
「私だって、やるときはやりますから」
「杏も、これでもやるときはやってるんだよ」
「ふふっ、知ってるよ。杏ちゃんは手を抜かない人だってことくらい」
「勘違いしないでね。サボるためなら手段を問わないってだけだからさ」
「うふふ」
「あ、そだ。例のブツを頂こうか」
私は中身がいちごキャンディのぶどうキャンディを手渡しました。
「ん、ありがと。ぶどう味かー」
「杏的には今日はイチゴの気分だったんだよなー、なんて。贅沢だけど」
杏ちゃんが包み紙を解いて飴玉を口に入れたその時。
「うわ、ちょ、何これいちごじゃん!」
「ふふふっ」
「もー、よくこんな変ないたずら思いついたねー」
「ごめんなさい、つい出来心で」
「いいよいいよ。ちょうどイチゴだったし。ちょっとびっくりしたけどね。
ぶどうのはどうしたの?」
舌の上に、もうすっかり小さくなったぶどうキャンディを載せてちらっと口の中を見せました。
ちょっとお下品なので、ほんの一瞬だけでしたけど。
「ははっ、そういうこと」
「美味しかったです」
「なるほどね、こりゃあの2人も振り回されるわけだ」
会話が途切れて、少しの静寂が私たち2人を包みます。
その沈黙を、再び杏ちゃんが破って。
「……おさんぽ、どうだった?」
つい、喋っちゃいそうになっちゃったけど。
でも、やっぱり今日あったことは自分の中にしまっておきたくて。
「いつも通りでしたよ」
と、また嘘をつきました。
「そか」
杏ちゃんはそのまま体制を180度反転させて、うつ伏せになって。
「杏、もう寝るね。おやすみ」
「おやすみなさい」
私は、先に出て行った2人を追いかけて、レッスンルームに向かいました。
レモン味とメロン味の飴と、デジカメに収まった、今日という日の大事なカケラを持って。
了
hou
交流会作品の
高森藍子「終末旅行」
高森藍子「終末旅行」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1499442756/)
が良くてそれに反応するように書いてしまいました。
作者さん、見ていらっしゃいますか。すごく良かったですよこの作品。
おさんぽカメラ、多分こんな感じなんだろうなって思いながら書いてみた。
綺麗じゃないものを綺麗に見れるというところが藍子ちゃんにはあると思う。
好きなアイドルがまた増えてしまった。
知れば知るほど好きなアイドルが増えて行って追っつかないから、そろそろ見切りをつけたい。
なんて思ったのはこれで何度目だろう。あと何人好きになればいいんだ。わからん。
今回も読んでくださってありがとうございます。皆さんの支えがあって今の私が生きてると言っても過言ではありません。
毎回毎回ありがとうございます。次回もありましたら、またどうか宜しくお願い申し上げます。
7月もそろそろ中盤で本格的に暑くなってまいりました。
水分補給と塩分補給に気を使いながらも、夕立や雨が降る夜にも警戒しながら日々を過ごしてください。
熱中症はかかると「急に」力が抜けて倒れ、無抵抗に日差しに焼かれるハメになります。最悪そのまま死んじゃいます。
ちょっとでもクラっときたら危険信号なので、水と塩分を補給してください。くれぐれも油断しないようにしてください。
では。
参考楽曲
夏日記/ZABADAK
http://youtu.be/E0Cwy1Hcijo
空ノ色/ZABADAK
http://youtu.be/7N858agneZQ
報告完了
乙
おしゃれだった
良さみが深い
乙
ドラム缶のすまき?
乙
よかった
飴入れ替えるのかわいい
乙
初読の際、ビルの隙間を散歩したいと思い立った藍子ちゃんに対して、「事務所からのビル群の眺めなんてこれまでも何度も見てきただろうに、この子は急に何を言い出すのか?」と不覚にもそうツッコんでしまいました。
ですが落ち着いて考えてみると、こういうことって確かにたまにあるんですよね。
ある日急に、同僚の見慣れているはずの仕草が妙に気になったり、満月の大きさに気付いたり、部屋の模様替えしたくなったり…。
そういうことがあったとき、日々受け続けている外からの刺激によって、自分自身変化していっていることの無意識のサインなのかもしれないなぁ、などと一応の納得をしています。
この日の藍子ちゃんもそうだったのかな、なんて思いました。
グラス一杯に注がれた水が最後の一滴で一気に零れ始めるように、急な翳りの作り出した情景を引き金に藍子ちゃんの中の何かが少しだけ変化したのかも、なんて。
そこで湧いた気持ちを大事にして、実際に散歩へ行ってしまえるところに彼女の素敵さを感じます。
そうしてお散歩の先で出会った発見は、また別の発見に繋がっていくのだろうと…………
…………そこまで想像して、藍子ちゃんとは正反対の私自身の汚れ具合が恥ずかしくなってきたので、彼女の顔を立てる意味も含めて『……おさんぽ、したい。』の文字の並びの危うさに言及することは敢えてやめておきます。
>>35
長い三行
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