ガブリールドロップアウトのSSです
その日は、雨でした。
ざあーーー…
タプリス「はあ…」
雨宿りする小屋の前。
うす暗い空から、降り続ける無数の雨粒。
そんなドヨドヨ空模様を見上げながら、わたしは大きなため息をつきました。
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そりゃあ、ため息だってでちゃいます。だって傘をもっていませんでしたので。
タプリス「傘を忘れる、だなんて、ほんとドジですね私って…」
いや、勘違いしないでくださいね。いつもこんなドジを踏んでいるわけじゃありませんのでっ
ほんと違うんです。この日はたまたま寝坊してしまって、急いで家を出たものだから、つい天気予報をみるのを忘れたのです。たまたまです。
タプリス「けど、まさかそんな日に限って、下校中に雨が降ってくるなんて…」
タプリス「はあ…」
もう一度、大きなため息がでちゃいまいました。
近くにあった小屋にすぐ雨宿りできたのは、不幸中の幸いでした。
けど、シトシトと静かに降り続ける雨は、そう簡単には止んでくれそうにありません。
…このまま雨が止むのを待っていては、夜を迎えてしまうかも…そんな思いが私の心をよぎりました。
帰りが遅くなると、お母さんとお父さんが心配しちゃいます…うう…。
タプリス「仕方ないですね…」
やむを得ず、雨宿りする小屋の屋根から出て、どよどよの空模様の中を濡れて帰ろうとしました。
すると、
?「もしかして、傘を忘れたのですか?」
タプリス「え?」
声のした方を振り向くと、そこには、シトシトと降り続く雨のなか、傘を差した一人の女の子が立っていました。
女の子は、パッチリとした目に透き通るような白い肌。そしてうす暗い天気の中でもわかる綺麗な金色のサラサラヘアー……、
そう、まるでお人形さんのような、とっても可愛らしい顔立ちをしていました。
女の子は、背が私よりも大分小さく、その容姿もかなり、幼くみえました。
ただ、少なくとも私より年下ではありません。歳は私と同じ…いえ、すこし上の可能性もありました。
え?なんでそう思ったか、ですか?
だって彼女は、私と同じ…天使学校の制服を身にまとった天使だったからです。
天使学校に入学してまだ間もない1年生の私より年下、ということは、少なくともないのでした。
タプリス「あ、ええっと…、いや、あの、そのう……傘は…あの」
要領を得ない返答をしました。いや、正確には返答にもなってないですね…
それも、目を泳がせながら、顔を赤くしてモジモジとしながら。
いや、自分のことなので、実際に観てないわけなんですけど、きっと、そんな感じだったに違いないのでした。
突然、見知らぬ人に話しかけられた驚き。そして、同じ学校にかよう生徒に、傘を忘れ雨宿りする場面を見られた気恥ずかしさ。
そんな感情が入りまじって、思うように返答することができなかったんです。
タプリス「(はわわ……、し、知らない方に声をかけられちゃったです…、ど、どうしましょう…)ええと…その…」
?「………」
わかってます。彼女はきっと傘のないわたしを心配して声をかけてくれたんでしょう。
…けど、せっかく気を聞かせて声をかけたのに、その相手からまともな返答をもらえなかったら、嫌な気分になっちゃいますよね。
いや自分で言うのもなんなんですけど…すみませんすみません、面目ありません…
ですが。
その人は、そんなわたしに嫌な顔をするどころか、にっこりと微笑み、こう言葉をつづけたんです。
?「よかったら、私の傘にはいりませんか?」
…………
ざあーーーー…
雨はそのあとも、静かな雨音を鳴らしながら降り続けました。
雨が止むのを待つことをあきらめた私は、ようやく雨宿りをしていた小屋の屋根から出て、なだらかな丘に続く帰り道を歩き始めることを決めました。
彼女のさす傘にいれてもらいながら。
俗にいう、相合傘です。
タプリス「あ、あのぅ…すみません…ほんと…わたし」
女の子「気にすることはないんですよ、わたしも帰り道がこっちなんですから」
タプリス「ですが…」
女の子「いいんです。学年は違えど、同じ天使学校に通う生徒。困った時に助け合うのは当然のことです」
タプリス「…………すみません先輩」
女の子「いえいえ、ほんとうに気にしないでください」
聞けば、彼女は天使学校にかよう2年生。今年入学した1年の私の1個上の先輩のようでした。
タプリス「………」
・ありがとうございます、ですが、初対面の方のご好意に甘えるわけにはいきません。
・お気持ちだけ受け取っておきます。
・実は、この後家族が傘をもって、迎えに来る予定なのです。お気遣いなく。
・気にしないでください。傘を忘れたわけじゃないのです。実は、今、空から降る雨粒を数える訓練中なんです。
声をかけられたとき、脳裏に駆け巡ったお断りのセリフの数々……、緊張して、一言も口にできませんでした。
初対面の方を目の前にして、モジモジアウアウハワハワしている間に、がっつりと彼女のご厚意に甘える結果となってしまいました。
ほんと、情けない話です…
いや、結果的には助かったわけですけど…、人見知りな私にとって、初対面の方と相合傘で帰るなんて…とても緊張してしまいます。うう…
助けてもらっただけでなく、気を使って話かけてくる彼女のキモチに少しでもこたえようと、私は、必死で会話を紡ぐ努力をしました。
タプリス「すみません、ほんとに…私ってドジで…、今日は天気予報も観ずに傘を忘れてしまって…お恥ずかしいところをみられてしまいました…」
女の子「そんな、私もおっちょこちょいですから、忘れごとなんてよくありますよ。
ですが傘については、いつ天気が崩れてもいいように、折り畳み傘を鞄に携帯するようにしているんです。よかったら、ぜひ参考にしてみてください」
タプリス「そ、そですね…わたしもそのようにしてみます」
ぎこちないやりとりをつづけながら、ふと彼女のほうに目を向けると、気づくことがありました。
タプリス「……(あれ…?)」
彼女の背中からはえる天使の象徴たる2つの翼。その片翼が彼女のもつ傘の恩恵を授かることなく、雨でぬれていました。
なぜ最初に気づかなかったのでしょう。考えてみれば、それは、二人で入るには少し小さい傘でした。
雨にさらされ続ける片翼は、傘に”相席”する私のため、彼女が意図的にそうしているものに違いありませんでした。
そんな彼女の配慮に今頃気づいた私。自分の注意力のなさをとても情けなく感じました。
ご厚意に甘えっぱなしで…そこまでされるとさすがに恐縮してしまいます…。
今更…とも思ったんですけどね。
そこはさすがに申し訳ないので、ご気遣い不要の旨、彼女に伝えようと決めました。
タプリス「あ、あの…っ、先輩…!」
女の子「え?」
タプリス「あの…、…その翼が…その」
女のコ「え?…ああ…」
うまく言葉を紡ぐことができないでいる私の意図を、最後まで聞き終わることなく彼女は察してくれたようでした。
彼女は何も言いませんでした。
その代わり、その端正な顔を私にむけて…
タプリス「……っ」
にっこりと。彼女は、わたしにとても優しい微笑みを返してくれたのでした。
…聞いた話によると、下界には、半分が優しさでできている素晴らしいオクスリがあるそうですね。
けど、彼女の場合は、そのすべてが優しさでできていると言わんばかりでした。
彼女を微笑みをみて、わたしはもう、そんな彼女の配慮について、何も言いませんでした。言えませんでした。
わたしが引っ込み思案なので、結局、言い出せなかったわけではないですよ。
なんというか、うまく説明できないのですが……、
彼女のその行為は、優しさに満ち溢れ、ある種の"清らかさ"を伴っているように感じられ…、なんだかそれをあえて、指摘することのほうが
大変失礼なことのように思ったからです。
素直にそのご厚意に甘えることが、未熟者の私が、彼女に対してできる精一杯の配慮である、と思えました。
ざあーーーー…
心地よい時間でした。
彼女のさす傘の恩恵にあずかりながら、そんな彼女のやさしさに包み込まれ、心も体もぽかぽか暖かくなるような…そんな不思議な感覚。
ただその一方で、私の緊張は、ほぐれることはありませんでした。
いくら私が人見知りとはいえ、普段は初対面の方でも、しばらく行動を共にすれば少しぐらい慣れてくるものなんですけどね。
変なんです。彼女の場合は、一緒にいればいるほど、なぜか顔はどんどん熱くなり、心臓の鼓動も少しずつ早くなっていくのです。
なぜなんでしょう。
心地よさと、緊張でうまく立ち振る舞えないもどかしさ…
あまり愛称のいいとはいえない感情同士が、コーヒーにいれてかき混ぜたミルクのように、くるくるブレンドされるような感覚。
そんなよくわからない状態で彼女との会話をつづけつつ、丘道を歩いていると。
女の子「それで、…あら?」
タプリス「え?……あれ…雨が……」
気づけば、あたりで鳴り続けていたはずの雨音が聞こえず、傘の縁から絶えず落ちていたはずの雨雫がみえません。
傘から顔をだして上を見上げると、空から降り続けていた雨はみえず、どよどよだったはずの空が少し明るくなってました。
女の子「よかったですね、やんだみたいですよ雨」
タプリス「ほ、ほんとですね」
女の子「これはちょうどいいタイミングでしたね。ちょうど今いる別れ道からは、私とあなたとでは、家の方角が違うようだったので…
きっとこれも神様のお導きかもしれませんね」
タプリス「そう…ですね」
心優しい彼女のことです。きっと雨が止むことがなければ、この先も私に付き添い、最終的には私を家の前まで送り届けたに違いないのでした。
タプリス「……」
不思議です。ついさっきまでは、やんでほしいと思っていた雨だったのに。
今では、とっても残念な気持ち。
理由はもう、考えるまでもありませんでした。
女の子「本当によかったです。それじゃあ私はこれで」
タプリス「え?あ、ああ、あのっ!!」
女の子「え?」
タプリス「せ、先輩っ!!今日はあの!ほんとにあ、ありがとうございましたっ!わたし、とても助かっちゃいましたっ!」
女の子「ええ、こちらこそ。私も途中まで一緒に帰ることができて、とても楽しい時間を過ごすことができました」
タプリス「そ、それで、あの……、わ、わたし、わたしは、千咲=タプリス=シュガーベル、といいますっ!
も、もし、よ、よろしかったら、せ、先輩のお名前、聞かせてもらえませんかっ!!?」
女の子「タプリス……、とても素敵な名前ですね」
タプリス「あ、ありがとう…ございます…」
女のコ「私は、天真=ガヴリール=ホワイト、と言います。学年は違いますけど、同じ天使学校に通うもの同士。
よかったら、これからも仲良くしてくださいね」
そう。……これが、わたしことタプリスが、これまでの人生で最も尊敬する天使の先輩……、あこがれの"天真先輩"との初めての出会いだったのです。
それから…
はれて天真先輩とお知り合いになった私は、その後も様々な交流を重ね、親交を深めました。
学校の図書館で勉強を教えてもらったり…、学校生活でのお悩みを聞いてもらってアドバイスをいただいたり…、街に連れてってもらって遊んでもらったり…
あ、いえ、…こうして聞くと、わたしがお世話になりっぱなしな感じがするかもしれませんが、それだけではありませんのでっ!勘違いしないでください。
とにかく、天使学校での天真先輩との思い出は、それはもう一冊の文庫本にできちゃうくらい、たくさんあるのです。
天真先輩は、学年で1・2を争うほど成績優秀で…、才色兼備、そして、誰よりも心優しい、わたしが最も尊敬する天使の先輩でした。
天真先輩と過ごす学校生活はとても楽しいものでした。しかし、そんな日々にも終わりはやってきました。
………天真先輩が天使学校を卒業し、修行のため下界へ旅出つ日がやってきたのです。
【天使学校の卒業式】
タプリス「おめでとうございます、天真先輩!…けど、先輩がいないと、わたし、さみしいです」
ガヴ「ありがとうタプリス…さみしかったらいつでも遊びに来てくださいね」
タプリス「は、はい、です…!」
こう言い残し天真先輩は、下界へと旅立ちました。彼女は、広い下界の中でも、小さな島国の田舎へと移り住みました。
なぜ下界での修行の場として、その地を選んだのか。その真意は測りかねますが。
わたしが誰よりも尊敬する天真先輩。この先も彼女のそばで多くのことを学びたい。
そう思った私は、天使学校を卒業した際には、彼女と同じ下界の地域に移り住むことを心に決めたのです。
それからさらに…、月日がながれました。
【現在…ガヴリールの家】
タプリス「…………」
ガヴ「ったく、使えないパーティだな…いいからとっとと私にヒールかけろよ…ラッパ吹くぞクソが…」かちかち…
タプリス「先輩…」
ガヴ「はあ!?なんだ、こいつら経験値横取りとか、使えないうえに人の邪魔ばっかりしやがって、何様のつもりなんだよっ!」
タプリス「天真先輩…」
ガヴ「はああ!ふっざけんなよ、そのレアアイテムはどー考えても私んだろが!返せよ!ぶっ〇す!ぶっ〇すぞこのクソひゅーまんどもがあ!」
タプリス「天真先輩っ!!!」
ガヴ「は?何だよタプリス…今忙しいんだけど…てかお前、なんで私の部屋いるの?」
タプリス「んな…!なんですかそのいいかたは!久しぶりに先輩の家に遊びに、ついさっきお邪魔させてもらったとこじゃないですかっ!
驚きのスピードで私がいること忘れないでください!」
ガヴ「あーそうだっけ、で、なに?」
タプリス「どうもこうもありません、天真先輩!一体全体どーなってんですか!」
ガヴ「どうって、何がだよ」
タプリス「部屋ではだらしない恰好してネトゲとかいうゲーム三昧!そのうえ、この滅茶苦茶に汚れきった部屋!!
こんな姿、天界で天真先輩にあこがれる後輩たちがみたら、ショックで泣いちゃいますよっ!」
ガヴ「知らないよそんなの…泣かせときゃいいじゃん…、お、このアイテムはなかなか」
タプリス「がーん…」
ええっと…
まあ…、結論から言うと。これが今の天真先輩なんです。先ほど、語らしていただいた思い出の中の彼女と同一人物です。
下界へと舞い降りた天真先輩は、一体何がどうしてかよくわからないのですが、”駄天”、してしまったのです。
え?駄天とは何か?ですって?
…いや、そんなこと私に聞かれても困ります…
(本人に)聞いたところによると、駄天使とは、家に引きこもりゲームだけをすることを目標にしている天使のことだそうです。
わたしの見立てでは、ぐーたらでだめだめでグタグタな天使。そんな感じです。
…すみません、これくらいで察してください。あまり詳しくは言いたくないです。
あの、まじめでおしとやかで、優しさ成分に満ち溢れた天真先輩が、まさかこんな変貌を遂げてしまうだなんて…誰が予想できたでしょう…
まるで、下界ではやっているお笑いの、”オチ”、のような展開ですよね。
タプリス「いやいやいや!!オチ、だなんて認めませんっ!!認めませんからね私はっ!!」
ガヴ「え、何だよ急にオチってなんだよ…、意味がよくわかんないんだけど…」
タプリス「天真先輩っ!!いいかげん思い出してください!あの、天界での先輩のことを!あの真面目で優しくて、気品に満ち溢れたあの頃の先輩を!」
タプリス「天真先輩っ!!」
ガヴ「………タプリス」
タプリス「………」
ガヴ「………」
ガヴ「思い出した」
タプリス「え?…せ、先輩!?」
ガヴ「タプちゃんさあ…そういえば部屋の燃えるゴミがたまりきってるんだよねえ…悪いんだけどさ、
帰るときにゴミ捨て場に置いといてもらえないかな…いやホント悪いんだけどっさあ」
タプリス「」
タプリス「………、天真先輩っ!!!」ぶるぶる…
ガヴ「ん?なにタプリス?」
タプリス「今日はっ!!」
タプリス「ゴミの回収時間はもう終わっちゃいましたよっ!また次の燃えるゴミの日まで待ってくださいっ!!」
ガヴ「つっこむとこ、そこなんだ…」
ピシピシピシ、ガラガラガラガラ。
ガッシャーン。
……わたしの頭の中でこんな感じの音が鳴り響きました。
そう……、天使学校時代の、あの真面目で心優しき天真先輩との淡い淡い思い出に、ぴしぴしっとひびがはいって、
ガラガラと崩れちゃって、ガっシャーンっ、…てなっちゃうような…そんな感じの不吉な音が…。
わかってもらえるでしょうか?
まったくもって最悪な気分です。
ちなみに、皆さんは、どうおもわれますか。今の天真先輩のこと。
え、わたしですか?
いやだから、もう、言うまでもありませんが…
けど、そうですね、今のわたしの心境を、最近ガッコウで学習した下界の古典句法になぞらえて表現すれば、きっとこんな感じになると思います。
天真先輩は、このままでいいと思いますか?
いいえ、いいわけがありませんっ!!(反語)
【ヴィーネの家】
タプリス「更生させましょう、今すぐにっ!!」
ヴィーネ・サターニャ・ラフィ「………」
ラフィ「ええと、一体どうしたんですか、タプちゃん。突然?」
タプリス「どうもこうもありません白羽先輩!今の天真先輩のことですよ!!
早く、天真先輩の駄天をなんとかして、天界の頃の天真先輩を取り戻すんですっ!」
ラフィ「あら~」
タプリス「あら~、じゃないですよ、白羽先輩!え、てかなんですか、その面白くなってきた、みたいな反応!」
ヴィーネ「え、ええっとタプちゃん。とりあえず、たこ焼き、食べる?」
タプリス「いただきますっ月乃瀬先輩っ!って、いやいや違いますっ!今はたこ焼きの話ではなくてですねっ!」
サターニャ「いらないなら私食べるわよ」
タプリス「あ、いや、いらないとは言ってないですよっ、胡桃沢先輩!!いや、あの、
っていうかですね、3人ともちゃんと私の話を聞いて下さいっ!今は天真先輩の話をしてるんですっ!」
ネトゲー三昧の天真先輩の家をあとにした私は、下界で新しく知り合った先輩のお家にお邪魔させていただいていました。
先輩のおうちにお邪魔したのは、誘っていただいたタコパに出席することが主な理由でした。
しかし、出席される先輩方に、天真先輩のことを相談したかった、ということもあったのです。
まあ、ご存知のこととは思うのですが、ここで、この場にいる3人の先輩方について簡単に紹介をしておきましょう。
ラフィ「あらあら、それはそうと、たこ焼きおいしく出来上がりましたね~」
このおっとりとしてて、にこやかに微笑んでいる銀髪のロングヘア―美少女は白羽=ラフィエル=エインズワース先輩。
天界では有名な白羽家のご令嬢であり、天真先輩とは天使学校時代の同級生にあたります。
才色兼備、大変聡明な天使として天界でも有名で、天使学校では、天真先輩の相棒的な存在でした。わたしも天真先輩同様、たくさんお世話になりました。
ヴィーネ「あ、まだだめよラフィ。そこのたこ焼きはまだちゃんとひっくり返してないから、ちょっと待ってね」
肩にかかるくらいの黒髪で、タコパの調理を取り仕切っているしっかりものの先輩は月乃瀬=ヴィネット=エイプリル先輩。
下界で知り合った新しく知り合った悪魔の先輩の一人です。
そう、月乃瀬先輩は悪魔です。悪魔なんです。…けど、悪魔とは思えないほど心優しい先輩です。
私も初めてあった時は彼女に助けられてしまいました。なぜ、こんな方が悪魔をやっているのでしょう。本当に謎です。
そして…問題の3人目…
サターニャ「くっくっく…、相変わらず愚かな天使ねえタプリス…、ガヴリールを更生させる?そんなこと、無理に決まっているじゃない…」
タプリス「っ、あなたは…!」
燃えるような赤髪。
その髪を、両サイドでくるりと輪っかをつくって束ねるという、あまのじゃくヘアースタイルをしているのは胡桃沢=サタニキア=マクドウェル先輩。
彼女も月乃瀬先輩と同様、下界で新たに知り合った悪魔の先輩。
しかし、彼女は月乃瀬先輩とは違い、常日頃、悪魔的行為に没頭する悪魔らしい悪魔…
しかも天真先輩をライバル視し、いつも邪魔することに命をかけています。
ほら、観てください、この邪悪な笑みを…!
そう、そうなんです…!
彼女こそ、天真先輩が下界で駄天する原因となった張本人……!
サターニャ「…以前言ったでしょう。ガヴリールは、この大悪魔サタニキア様の力により駄天してしまい、既に我が手中にある…。
もはや、アイツを元の品行方正な天使に戻すことは不可能と知りなさい!!」
タプリス「………、」
タプリス「いえ…、もうそれなりの付き合いになりますし、胡桃沢先輩に天真先輩をどうこうする力がないことは、既に学習しました」
サターニャ「ふぁ!??」
サターニャ「は、はあああ!???ちょ、ま、待ちなさいよタプリスっ!や、やめてよアンタまでそういうこというのほんとやめて!
ホント傷つくからっ!!お願いやめてよ!!」おろおろ…
ヴィーネ「いや、サターニャ暴れないでよ…ちゃんとたこ焼きひっくり返せないでしょ…」
ラフィ「あらあらぁ…」
……張本人…、ではありませんでした。結論からいうと、天真先輩が駄天したことと、胡桃沢先輩は無関係です。
だって、胡桃沢先輩は、普段口にするたいそうな悪魔的行為を達成するほどの実力はなく、本人が自慢する実績もほぼウソだからです。
最近にやってようやくそれがわかってきました。
口にするだけなら、ぶっちゃけ無害ですからね。
それに、胡桃沢先輩も飼い主のいないイヌを引き取ったり、ホントは月乃瀬先輩みたく優しかったりする面もあったりしてですね…、
…ご、ごほんっ!な、なんて思ってることは本人にも、誰にも秘密です。
いずれにしても胡桃沢先輩も月乃瀬先輩も悪魔であることにかわりありません!
この悪魔の先輩の2人の警戒を完全に説いたわけではありません。天使が悪魔をそう簡単に肯定するわけにはいかないのです。
話がそれてしまいましたので、話を戻します。天真先輩のはなしです。
ラフィ「けど、それじゃタプちゃんはガヴちゃんの駄天の原因は何にあるとお考えで?」
タプリス「よく聞いてくれました、白羽先輩っ!下界に来て天真先輩を観察し続けてわかりましたっ!」
タプリス「天真先輩が駄天した原因…、そう…それは胡桃沢先輩ではなく……、あのネトゲ、とかいう邪悪なゲームの仕業に違いありません!!
下界にある数々の娯楽の中でも、あれが一番、天真先輩を変えてしまった一番の原因です!!」
ヴィーネ・サターニャ・ラフィ「………」
ヴィーネ「うん…まあそれはうすうすわかってはいたけど…ガヴが堕落した生活を送りだしたのは、ネトゲし始めるようになったころだった気がするし…
ヴィーネ「…けど原因がわかったとしても、今更、ああなってしまったガヴをどうやって更生させれば…」
タプリス「何ってるんですか、月乃瀬先輩っ!原因さえわかってしまえばあとはもう簡単ですっ!
ネトゲをするためのパソコンを天真先輩から取り上げましょうっ!あれさえなければ天真先輩はもとの天真先輩に戻ってくれるはずですっ!」
サターニャ・ヴィーネ・ラフィ「!?」
ヴィーネ「ちょ、な、何言ってんのタプちゃん!?む、無理よそんなのっ!危険すぎるわっ!」
タプリス「え?」
サターニャ「お、恐ろしいことをいうのねタプリス…!そんなこと、この大悪魔の私だって、なかなか思い付きはしないわよ…!!」
タプリス「え…え…?」
ラフィ「……ガヴちゃんからネトゲを取り上げる…、それって…つまり……、死ぬ気…なんですか?タプちゃん」ごくり…
タプリス「えええ!?し、死活問題ぃ!!?」
サターニャ「だってガヴリールのやつ、あのネトゲを生きがいにしてるんだから…そのツールを奪ったら、
多分ただじゃおかないとおもうわよ…ふつーに…」
ヴィーネ「うん…なんか発狂して世界の終わりを告げるラッパとか吹きそうだし…」
タプリス「えええ…そ、そこまで!?な、なんなんですかあの人!?遊び道具取り上げただけで人類滅ぼす危険性あるんですか!?
そ、そんな…け、けどそれじゃあどうやって天真先輩を更生させれば…し、白羽先輩っ!」
ラフィ「いえ…わたしは今のガヴちゃんも素敵だと思いますし…別に更生させる必要なんてないとおもってますけど」
タプリス「え、ええ!?そんな!?」
サターニャ「まあ、確かに。ガヴリールのやつが素敵だなんてわたしはおもわないけど、後半のほうは同感だわ。
いまさらアイツが普通の天使みたいになっても調子狂うだけだし、更生なんて別にいいんじゃないの?」
タプリス「く、胡桃沢先輩は黙っててくださいっ!!つ、月乃瀬先輩っ…!月乃瀬先輩は分かってくれますよねっ!!」
ヴィーネ「う、うーん…まあ、確かに今の自堕落なガヴの生活を見てると、品行方正だったガヴに戻ってほしいと思うこともあるけど…」
タプリス「で、ですよねっ!!さすがは月乃瀬先輩っ!」
ヴィーネ「けど、今のガヴだって、良いところはたくさんあるし…本人があれでいいとおもってるんだったら、
無理に戻ってほしいなんて思わないかしらね、わたしも」
タプリス「が、がーん!!」
衝撃的。なんてこった。です。
あの駄天使な天真先輩は、この3人の先輩方には、すっかり受け入れられていたのです。
しょんな…
タプリス「う、うう…け、けど…けど…わたしは…昔の天真先輩に…」
ラフィ「まあまあ…タプちゃん…そんな気を落とさないでください…まあキモチは分からなくはないですが…けど、タプちゃん…今のガヴちゃんは別に…」
『さあ、本日もはじまりました。魔界通販の時間ですっ』
タプリス「え?」
サターニャ「あれ、今日の魔界通販の番組始まってるじゃない、チェックしなきゃ」
ヴィーネ「あれ、アンタ何時の間に、人の家のテレビの電源をつけてたのよ…まあいいけど…それにしてもサターニャ、
あなた、またこんなくだらない番組みてたのね」
サターニャ「くだらないとは何よっ!この通販で扱ってる悪魔的商品こそ、あのにっくきガヴリールを倒すキーとなるんだからっ!
ええっと何々、今日の商品は…」
司会者『今回紹介する商品はこちら!”戻りんハンマー”です!』
司会者『一見すると、ただのおもちゃのピコピコハンマーに見えますが、侮るがなかれ!これで相手をたたくと、なんと!
叩いた威力に応じて、相手の精神年齢を戻すことができる、という優れもの!
最大で赤ん坊のころの精神年齢まで戻すことができるのですっ!』
司会者『そう!この”戻りんハンマー”さえあれば、天使など文字通り赤子をひねるも同然!!ハンマーでたたいて、
精神年齢を赤子に戻し無抵抗となった天使にあの手この手のイタズラを存分に実行しちゃいましょう!!』
タプリス「……」
サターニャ「こ、こ、こ、これだわあああああっ!!!!」
ヴィーネ「わ、何よサターニャ、急に大声あげないでよ…」
サターニャ「いや、だって、これ久々の最大のヒット商品よ、ヴィネット!
このハンマーでガヴリールのやつを思いっきりたたいて、精神年齢をガキンチョレベルまでに下げてさ!
無抵抗になったガヴリールに普段の悪行の数々の仕返しをしてやるのよ!買いよ買い!絶対買いだわ!この商品!」
ヴィーネ「やめときなさいよ、どーせ…こんなの買ったって、いつもみたく失敗するだけよ」
ラフィ「ぜひ買いましょう、サターニャさん!
ガヴちゃんに逆にハンマーを取り上げられて、逆にサターニャさんが叩き返されて、イタズラされ返される様子が目に浮かびますっ!ぷぷっ!」
サターニャ「んな…、なんですってぇ!!」
ヴィーネ「それにアンタ、最近無駄づかい多いみたいだし…貯金大丈夫なの?こんなの買ってる場合じゃないんじゃないの?」
サターニャ「うぐ…、そ、そーだったわ…今月、これ以上何か買ったら、家賃払えなくなるかもしれないんだったわ…
ぐぐ…仕方ない…今回はあきらめるしかないわね…」
ヴィーネ「ほらみなさいよ…まったく…、少しはお金の管理も覚えなきゃだめよサターニャ。ねえ、タプちゃんも何か言ってあげてよ……、ん?」
タプリス「……………」
ヴィーネ「タプちゃん…?おーい?」
タプリス「(叩いた威力に応じて…精神年齢を……戻す……、それって……つまり…)」
タプリス「(このハンマーがあれば…天真先輩を…昔の天真先輩に……、そう、駄天する前の天真先輩の精神状態に……
戻すことが…可能になるのでは……?)」
わたしの耳元でぼそぼそと囁く声が聞こえました。
何の声?
そう、それはきっと”悪魔の声”、だったのでした。
【数日後…タプリスの家】
タプリス「…………」
最近の私には、ハイテク化の波がぐいぐいと押し寄せてきていました。
いえ、一からちゃんと、説明しますと。
以前、下界の図書館で、パソコンの使いかたを学んだことがあるんですけど。
そう……なんとあれから、わたしはノートパソコンを購入して、自宅で、その使い方を日々学習し続けていたのです。
その成果もあって、今や、自宅でいながらにして、いんたーねっと、というのを実施する技術を、身に着けていたのでした。
わたしが下界に来たばっかりのころを考えると、目覚ましい進歩ですよね。
すさまじいハイテク化。
いや、本当に、いんたーねっと、というのはすごいものなんですよ。
いろいろなことができちゃいます。
え、例えば?
例えばまあ……テレビでやっていた通信販売の商品を、ねっとで注文して購入するくらい簡単にできちゃいますね。
いや、それはもう簡単にですね。ぽちっとするだけで。例えそれが、魔界の通販番組の品であったとしても、それはもう簡単に…、
タプリス「(…………簡単に…)」
タプリス「………」
タプリス「…………簡単に、やってしまいました……魔界の通信販売の商品が…簡単に届いてしまいました…、
”戻りんハンマー”…買ってしまいましたぁぁ…」
タプリス「ど、どうしましょう…、て、天使ともあろうものが…魔界で作られた道具を買ってしまうだなんて…わたし、もしかして天使失格なのでは…」
タプリス「い、いえ!そ、そんなことはないです!これも天真先輩をもとの真面目な天真先輩に戻すためですからっ!」
自分にそう言い聞かせた私は、改めて届いた商品に目をやります。
タプリス「しかし、これが戻りんハンマー…、一見、子供のおもちゃのピコピコハンマーような外観ですけど…
これで、ホントに相手の精神年齢を戻せるのでしょうか…」
タプリス「あれ、そういえば商品の包装箱の中に説明書のようなものがありましたね、ええっと、なになに…」
開いた説明書の最初のページにはこんな内容が書かれていました。
★戻りんハンマー 取り扱い説明書
この商品は、叩いた相手を姿かたちはそのままで、精神年齢のみを退行させることができるハンマーです。
ハンマーで叩く威力が強いほど、相手の精神年齢をより引き下げることができます。
これさえあれば、にっくき天使の精神年齢を、赤子にまで引き下げ、無抵抗となった天使にあの手この手のイタズラを駆使する……なんてことも可能です!
タプリス「叩いた威力の強さが強いほど、引き下げる精神年齢も大きくなる…
悪魔らしい卑劣きわまりない商品です…!!許せません…!!あ、いや、今はそんなことより…」
タプリス「……、月乃瀬先輩の話だと……、天真先輩が駄天しはじめたのは下界に来て間もないころと聞きます。
だいたい今からだいたい1年くらい前の話…」
タプリス「…つまり、このハンマーで、天真先輩の精神年齢を約1年前に戻すくらいの威力で叩いてあげれば…、
天真先輩をちょうど、下界で駄天する直前に戻すことができるはずです…!」
タプリス「あれ、けどそれって…つまり、どの程度の強さでたたけばいいってことでしょう…?
ええっと説明書に何か具体的な記述は…」
説明書をさらにぺらぺらめくってみました。
……
★叩いたハンマーの威力と戻すことができる精神年齢の関係性は、おおむね以下の通りですので、ぜひ参考としてください。
約1か月戻す場合→ スライムの角に頭をぶつけた程度の威力
約3か月戻す場合→ サラマンダーの舌で顔をなめられた程度のざらっと感くらいの威力
約6か月戻す場合→イフリートの子どもの手で軽くにゃんパンチされる程度の威力
(次のページに続く)
………
タプリス「…………」
タプリス「なんでしょう…ハンマーの威力が全部、魔界に生息する生き物を例えにして書いてあって、よくわかりません……」
タプリス「しかし、戻すことができる精神年齢とハンマーの威力との関係を数か月単位で細かく書くなんて、
悪魔が作ったとは思えないほど親切な説明書ですね…、」
タプリス「私の目的は天真先輩を約1年前の精神年齢に戻すことですから……、
ええっと、それで、1年戻す場合のハンマーの威力はっと…」ぺらっ
(次のページの内容)
約1年戻す場合→イフリートの子どもの手で軽くにゃんパンチされる程度の威力の2倍
約2年戻す場合→イフリートの子どもの手で軽くにゃんパンチされる程度の威力の4倍
約3年戻す場合→イフリートの子どもの手で軽くにゃんパンチされる程度の威力の6倍
約4年戻す場合→イフリートの子どもの手で軽くにゃんパンチされる程度の威力の8倍
※以下、イフリートの子どものにゃんぱんちの威力をもとに、2の倍数で威力を強めていったら戻す精神年齢が+1年加算されると考えましょう。
なんだかんだで理屈より実践なので、いっぱい試して自分で感覚をつかんでみてください。
…………
タプリス「あ、あれえっ!!なんか急に、たとえの書き方がテキトーになってるんですけどっ!?」
やはり悪魔の商品でした。許せません。
確実に説明書を書いてる途中でめんどくさくなって飽きちゃったんですね。よくわかります。
しかも、1年以降の例えは、6か月の例えの使いまわしじゃないですか…
タプリス「かなりいい加減な説明書ですけど……、まあいいです。
ええとつまり………、話を整理すると、天真先輩の精神を約1年前の駄天する直前に戻すためには、
この戻りんハンマーで、天真先輩をたたけばいいわけですね…、
そう、具体的には、『イフリートの子どもの手で軽くにゃんパンチされる程度の威力』……その2倍程度の力で…天真先輩をこのハンマーでたたけば!!!」
べっしいいい!!!
タプリス「ってばかあああ!!どんな威力なんですかそれはあ!!イフリートなんて魔界の生き物、見たこともないのに、
その子どものにゃんぱんちの2倍の威力ってなんなんですかっ!?
どんな威力!?どんな程度の力加減なんですかっ!??どんなスナップ具合でたたくんですか!や、やっぱり悪魔の商品ですねっ!!
お、おのれ悪魔っ!許せませんっ!許せませんっ!」
怒りのあまり、説明書を床にたたきつけ、一人でノリツッコミをしてしまいました。
こんなにもテンションが高くなっているのは、時すでに深夜だったからでしょうか。
時間が時間なのもそうですが、商品の説明のあまりのばかばかしさに、くじけそうになっちゃいましたが…
しかし、この戻りんハンマーこそが、天真先輩を昔の真面目な天真先輩に戻す可能性がある唯一の希望…
そう考えると、簡単にあきらめるわけにはいきませんでした。
タプリス「うう…しかし、わ、わかりません…わかりません…何なんですか、そのイフリートっていうのは…、
にゃんパンチっていうのは…なんなんですか…なんかぷにっぷにの肉球でぺしぺしされる感じで逆に喰らってみたいですう…うう…」
タプリス「こ、こうなったら、いんたーねっとです!いんたーねっとを使って、検索して調べまくってやりますっ!
その、イフリートのにゃんぱんちのこと、ググる先生に教えてもらうんですからっ!」
こうして私は、ここのところ押し寄せていたハイテク化のビックうぇーぶに乗って、検索作業にいそしみました。
ハイテク化の波に乗り、ねっとサーファーとなった私の検索作業は、実に早朝にまで及んだのです。
そして、次の日の朝。
【学校】
タプリス「……はあ…」
その後一睡もせず、学校へと登校してきた私の心は憂鬱でした。
先に、夜を徹して行った検索結果に基づいた私の結論を言いますと。
『イフリートの子どもの手で軽くにゃんパンチされる程度の威力の2倍』
…もとい、
相手の精神年齢を1年程度戻す程度の戻りんハンマーの威力は
だいたい、"戻りんハンマー"を片手に軽くスナップを聞かせて、相手めがけてぴこん、と言った感じの、まあ可愛らしい威力だと思います。
ネットの情報をたよりに、早朝、何回か素振りをして感覚はつかみました。つかんだはずです…。
いや、それはいいんですけど。
タプリス「早朝まで、何をやってたんでしょう…わたしは…」
テンションMAXだった深夜とは打って変わって、今朝のわたしのテンションがだだ下がりでした。
みなさんは、夜遅くのテンションが上がった時に書いた学校の作文を、翌朝に冷静になって読みなおして、恥ずかしくなり、没にした経験はありませんか。
わたしは今そんな感じです。ようは我に返ったんです。
タプリス「……、一時の気の迷いとはいえ…、やっぱり天使であるわたしが、悪魔が作った道具を使うだなんてことできません…
わたし…天使のくせになんて馬鹿なことをおもったんでしょう…」
悪魔の道具の力を借りて…、それも天真先輩の了解も得ないで無理やり精神年齢を戻すなんて恐ろしいこと…
今更ですが、天使がやっていい行為ではありませんでした。
それでも……、この道具を使って、天真先輩を元の先輩に戻すことができるのであれば…、とちょっぴり思わなくもありませんが……。
タプリス「いえ…、やっぱりあきらめましょう。天使たるもの、こんなものに頼っていてはいけません」
きっと、こんな道具で精神年齢を戻すなんてことしなくたって、天真先輩を元の先輩に戻す方法はきっとほかにあるはずですよね。きっと大丈夫。
そう前向きに考えなおすことにしました。
そして。
タプリス「せっかく購入しましたが…この悪魔のハンマーは、捨ててしまいましょう…どんな理由があれ、天使がこんなものを持っていてはいけませんよね」
タプリス「けど…普通にゴミ箱に捨てたのでは、誰かがゴミ箱から拾って、誤って使用してしまう可能性があるかも…
そうだ…学校の焼却炉に捨ててしまいましょう。燃やして灰にしてしまえば、誰かが誤って使ってしまうこともないでしょうし」
そう思いたったわたしは、通学バックに入れていた戻りんハンマーを取り出し、校庭のすみにある焼却炉へと向かうことにしました。
教室を出たところで同級生に声をかけられました。
同級生「どこいくの…?」
タプリス「え、あ、いえ…その…ええと…、じ、自動機です。ちょっと、のどが渇いて…」
同級生「……、飲み物なら…魔界から取り寄せた人間の生き血風のトマトジュースを水筒に入れて持ってきてるけど…飲む?」
タプリス「け、結構ですっ!!一人で全部飲み干してくださいっ!」
……完全に余談ですが、彼女は、(不本意ながら)最近知り合いになった悪魔の同級生。
月乃瀬先輩や胡桃沢先輩とはまた違ったタイプの悪魔です。
一見おとなしい感じですが、そこはやはり、悪魔、あなどれません。
……悪魔的な飲み物で私をたぶらかそうとしてきました。
彼女の名前や、彼女との出会いの話は、またどこかの機会にお話しするとして。
そんな彼女からの邪悪な誘いを断った私は、"戻りんハンマー"を片手に、トコトコ焼却炉へ向かう廊下を歩きはじめました。
【焼却炉に向かうため、廊下を歩くタプリス】
タプリス「…にしても今更ですが、今の天真先輩は、昔の天真先輩とは、ほんと似ても似つきません。もはや別人にしかみえません。
いっそもう、今の天真先輩は、昔の先輩と区別するために、何か別の呼び方をする、というのはどうでしょうね……、
タプリス「そうですね…、駄天した天真先輩なので、”駄天真先輩”、とかいう名前で呼ぶとか…、
ぷぷっ、なんだかしゃれが効いていて我ながらナイスアイデアです」
などと、つまらないことをつぶやきながら、廊下の脇ある自販機を通り過ぎようとしたところで、
ふと、よく見たことがある顔が視界にはいってきました。
…………
ガヴ「げえ…、せっかく自販機前まで来たのに財布忘れた…くそが…
ああもう、戻るのめんどくせーし、なんか出せよ!自販機!オラっ!」ガンガン!!
タプリス「」
駄天真先輩でした。
先輩は、ちょうど右手をグーにして自動販売機をガンガン叩きまくっているところでした。
公衆?の面前で何をしてるんですか…、まったく、この人は…。
しかもこんな近くにいる私にも気づいていません。自販機と格闘する先輩の横顔が目にはいりました。
ピンピンにはねたボサボサの金髪。かつて、先輩のトレードマークでもあった金髪のサラサラヘヤ―は、今はもう見る影もありません。
駄天してから、髪にクシを通したこともないのではないでしょうか。
目の下にくっきりとみえる黒いクマは、夜通しネトゲして学校に来た証拠。
制服のうえに羽織るピンク色のパーカーはシワシワで、もう何日洗ってないかわかったもんじゃありません。
きちんとアイロンをかけてるとも思えないです…
ほんとに駄天真先輩…。
いや、今となっては全部ぜーんぶ、見慣れた光景なんですが。
しかし、ここのところ天界にいた頃の、”あの”天真先輩を思い出しがちだった私はそんな今の駄天真先輩をみて、さすがに少し悲しくなってきました。
おそるおそる声をかけてみます。
タプリス「…………先輩」
ガヴ「ちっ、さすがに叩いたくらいじゃどうようもねーか。それじゃ、おつり返却口に取り忘れた小銭が入ってたりは…」ぱかぱかぱかぱか…
タプリス「……天真先輩」
ガヴ「ああもうなんだよくそがっ!!一銭もはいってねーじゃん!なんだよっ!しかたない、こうなったら奥の手だけど…」
ガヴ「自販機の下にたまに落ちてる小銭がないかどうか、のぞいてみて…」
【自販機の下をのぞき込もうとかがむガヴリール】
タプリス「駄天真先輩っ!!!」
ガヴ「ん…、あれ?タプリス。何やってんのお前、こんなところで」
タプリス「それはこっちのセリフですっ!何をやってるんですか!皆が見てる前で恥ずかしいと思わないんですかっ、みっともないですよっ!!」
ガヴ「まあいいや、ちょーどよかった、タプリス、ちょっとお金貸してくんない?」
タプリス「ってあれ!?私の発言、ぜんぶ無視っ!?そして何の躊躇もなくお金をせびってこないでくださいっ!私いま、お金なんて今持ってませんからっ!」
ガヴ「はあ?そーなの?ったく、使えねーな。仕方ないそれじゃやっぱり自販機の下を覗いて…」
タプリス「きゃあああああ!S級悪魔行為!天使が何やってんですかっ!やめてくださいみっともないっ!」
タプリス「天真先輩っ!!いいかげん目を覚ましてくださいっ!」
ガヴ「はあ?何だよ急に…」
タプリス「だって、だって!今の天真先輩は、ぐーたらでダメダメな駄天真先輩すぎて、やっぱり、どうかしてしまってます!思い出してください!」
ガヴ「はあ?思い出すって、なんのこと…?」
タプリス「天界での“あの雨の日”のことを思い出してくださいっ!
私のことを、助けてくれたじゃないですかっ!あの時の優しい天真先輩はどこにいってしまったんですかっ!」
このとき、わたしの脳裏には、あの雨の日の光景がよぎっていました。そう…、天真先輩と初めてあった時のこと。
傘がなく、雨宿りをしていた私を助けてくれた天真先輩。数多くある思い出の中でも一番大切な思い出です。
その時の優しかった天真先輩。同じ思い出を共有する先輩にも、あの日のことを思い出してもらい、元の先輩に戻ってほしかったのです。
ですが…
…………
ガヴ「はあ?天界でのあの日のこと?雨の日?助けた、って…何の話だよ?」
タプリス「…え?」
ガヴ「そんなこと突然言われても…そんな天界の頃のことなんてわかんないよ…ええと…それより…自販機の下を…」
タプリス「…」
とてもショックでした。
タプリス「(…え、あれ…もしかして天真先輩…、覚えて…ない?
そんな…私と先輩が初めて会ったときの話なのに…私にとってはとても大切な思い出なのに…)」
大切にしていた思い出を、その本人にあっさり否定されたように感じたからでしょうか。
突然、わたしの心の中で嫌な予感が、もわもわっとわきあがりました。
タプリス「(…………、もしかして先輩…駄天したことで、天界にいたころの…駄天するまえの記憶もなくなってるんじゃあ…)」
タプリス「(いえいえ、そんなことありません。だって下界で、初めてあった時、ちゃんと私の名前、覚えてましたし…!まさかそんな…)」
タプリス「(けど…けど、……もし…天真先輩の駄天が以前よりさらに悪化してて、それに伴って駄天前の記憶が徐々に失われていってるのだとしたら…)」
わたしの心の中に沸き上がるネガティブな想いはもう止まりません。
タプリス「(そんな…先輩…そんな……)」
例えば、皆さんが懇意とされている方が、ある日、性格や言動、行動が180度変化しちゃって、
そのうえ、過去の記憶も失われているのだとしたらどう思われますか。
果たして、その方をかねてより懇意にされていた方と同一人物とみることができるでしょうか。
また、そこまでの変貌を遂げた方を、正攻法でもとに戻す自信はありますか?
わたしは……。
タプリス「そんなの…"反語"です…。…無理、……です…よ…天真先輩…」
ガヴ「………ええと、なんだっけ、そうそう。自販機の下を確認っと…」
天真先輩は、わたしとのやりとりが飽きたのか、既に自販機の下にある小銭に興味が移っている様子。
愚かなるS級悪魔行為を再開しようとする天真先輩。いえ、駄天真先輩。
そんな先輩の背中をみつめながら。
わたしは、手にもっていた戻りんハンマーの柄の部分を、ギュッと強くにぎりしめました。
タプリス「先輩……、」
ガヴ「あん?何か言った?…って、あれ?お前そのおもちゃみたいなハンマーは一体…」
タプリス「だ、駄天真先輩!!か、かくごおおおお~~~~~~!!!」
ガヴ「え?」
ぴこんっ
…可愛らしい音が鳴り響きました。…響いた気がしました。
正確には、この瞬間のことを私はよく覚えていません。
今の先輩に対する怒りや、失望や、絶望の感情がぐるぐる入り混じって…完全に我を忘れていたからです。
ただ、一つはっきり覚えていることは。
私がこの瞬間、手に持っていた"戻りんハンマー"をほどよい感じのスナップで振りかぶり、天真先輩の頭を叩いちゃった、ということです。
………
タプリス「はっ!」
気づけば、天真先輩が廊下に倒れていました。
ガヴ「………」
タプリス「あ、あれ…わ、わたし…いま…、て、天真先輩!!天真先輩っ!だ、大丈夫ですか!!天真先輩!!」
ガヴ「う、う~~ん…」
タプリス「よ、よかった、無事だったんですね…」
ガヴ「………」
タプリス「す、すみませんっ!!天真先輩!わたし、とっさの勢いで先輩をこのハンマーで…!」
ガヴ「……、あれ…ここはどこなのでしょう…?わたし、ったらなんでこんなところに…?」
タプリス「……え?」
ガヴ「学校の廊下…のようですけど…天使学校の校舎とは違うようですし…、
なぜこのようなところにいるのか…うまく思い出せません…なぜこんなところで倒れこんでいたのでしょう」
ガヴ「それに…わたしのこの恰好は一体…?ピンクの服に…、みなれない制服…、どういうことでしょう…わたし、夢でもみているのでしょうか…?」
ガヴ「それに……、あら?」
タプリス「………天真先輩…」
この口調…、この優しさに満ち溢れた顔つき……間違いありませんでした。
タプリス「……ようやく…ようやく…戻ってきてくれたんですね…、天真先輩…!先輩!せんぱあああい!!うわあああん!!」
ガヴ「え?え?」
タプリス「よかった…、天真先輩!ようやくもとの先輩に戻ってくれて…!わたし…ずっとずっと待ってたんですよ…!
ずっと…ずっと…先輩のこと…!ぐす…ぐす…!」
ついつい天真先輩の胸に抱き着いてしまうわたし。けど、仕方ないじゃないですか。
わたしの念願がかなったんです。
悪魔の道具を借りて、衝動的な行動に出てしまった点は反省しなければですが…、
しかし、終わりよければすべてよし、という下界の言葉もあります。
そう、結果として、駄天真先輩をもとの天真先輩に戻すことができたのです!
今まで、どんな努力をしてもかなわなかったのに…。もう内心、あきらめかけていたというのに…。
私の数々の思い出に一致する天真先輩がとうとう帰ってきたのです。
これって何か問題があるのでしょうか、何も問題は……、
………
ガヴ「あ、あの…その…」
ガヴ「、あ、…もしかして、あなたが倒れたわたしのことを介抱してくれていたんですか?」
タプリス「…え?」
ガヴ「どなたか存じませんが…ご親切にどうもありがとうございます。
よくわかりませんが…ここの学校の生徒の方なんでしょうか?」
タプリス「……………え?え?」
………問題、あったのです。
(後半に続く)
今日はここまでで。後半は、週末書く予定です。
期待
そらそうなるわな
待ってる
再開
タプリス「そ、そんな…!て、天真先輩!わたしですよ!タプリスです!
天使学校の後輩のタプリスです!お、覚えてないんですかっ!?」
ガヴ「え?え?…あ、あの…その……」
タプリス「…そ、そんな…まさか……う、うそですよ…ね…先輩…
わたしのことを、完全に忘れてしまった…んですか…な、なんで…?」
ガヴ「す、すみませんっ、…わたし…助けてもらっていただいた方にこんな失礼な…、
ですがヒト間違いじゃあないでしょうか…」
ガヴ「だって、私は最近、天使学校の1年生に入学したばかりですし…まだまだ勉強中の身。
まして、後輩を持つような立場ではありませんから…」
タプリス「……っ!!」
背筋に電流がビビビと走った気分に襲われました。
何が起こったのか。ようやく状況を把握することができました。
要するに、わたしは”戻りんハンマー”の威力を間違ったんです。
怒りや絶望が入り混じった負の感情にかられ、予定していたより、
先輩をほんの少しばかり強くたたきすぎたんです。
どれくらい叩きすぎたかって?
当初の予定では、先輩の精神年齢を1年ばかし戻すつもりでした。
ちょうど、先輩が下界に着て間もないころ、…駄天する直前くらいに戻すつもりだったんです。
ですが、まあ…なんというか…、実際には約4年くらい戻してしましました…
ざっと天真先輩が天使学校のぴかぴか1年だった頃まで…
つまり、天真先輩は、私と出会ったころより、さらに1年くらい前の年齢にまで、精神を戻してしまったわけです。
戻りんハンマーの説明書にちなんでいえば、イフリートの子どものにゃんぱんちの6回分、強くたたきすぎました。
ほんの少し、手元が狂ってしまったってことですね。
タプリス「って、ほんの少しばかりじゃないですう!!!」がくう!!
ガヴ「え?え?あ、あの…もし…だ、大丈夫ですかっ!?」
タプリス「(わたしは…わたしは…ホントに何やってんでしょうか…!大馬鹿ものです!
たしかに駄天前の天真先輩に戻ってくれたのはうれしいです……、
けど…、私と出会う前にまで精神が戻ってしまうだなんて……)」
それはつまり……、私との出会い…、出会ってからの思い出の数々…そのすべての体験が
今の天真先輩にとっては、”なかったこと”になってしまった、ということ。
それって、ともに体験した思い出を、”忘れてしまった”、ということより、さらに悲しいことだとおもいませんか。
ガヴ「だ、大丈夫ですか…か、顔が真っ青になってますよ…」
タプリス「て、てんま先輩…、ご、ごめんなさい…ごめんなさい………、わたし…わたし………、
しゅ、しゅぐにもとに戻しますから…、もとに…!え、あれ…けど、もとに戻す方法なんて……」
【一緒に持ってきていた説明書をめくるタプリス】
タプリス「……書いて……ない…です…あ、あばばばばば…」
ガヴ「え、あ、あの…っ」
わたしはここにきてようやく、自分がいかに、愚かで取返しのつかないことをしでかしたのか、理解しました。
タプリス「(ま、まずいです…まずいです…天真先輩の精神を勝手に退行させておいて…もとに戻す方法もわからないだなんて…、
ど、どどどどうしましょう…こんなの、先輩本人にはもちろん、他の先輩方にもどう説明したらっ!?)
ヴィーネ「あら?ガヴじゃない?それにタプちゃんも」
タプリス「ぴぎい!?」
タプリス「つ、つ、月乃しぇ先輩っ!そ、それに…」
サターニャ「2人して自販機前で何してんのよ?」
ラフィ「ごきげんよう、お二人とも」
タプリス「く、胡桃沢先輩に白羽先輩までっ!!」
まさかの先輩方オールスター参上。
あまりのタイミングのよさに、狼狽せずにはいられません。
………
ヴィーネ「自販機前で、何やってんのよガヴ…どうせ財布を忘れてタプちゃんにお金をせびってたんでしょう。
ほら、お金なら私が貸してあげるから、早く教室に…」
ガヴ「え、…あ、あの…ええっと…」
ヴィーネ「ん?……どうしたのよガヴ?」
ガヴ「す、すみません…もしかして…以前、どこかでお会いしたことがあったのでしょうか…
ご、ごめんなさい、私ったら、過去にお会いしたことのある方の名前を忘れるだなんて大変失礼なのですけど…」
ヴィーネ「は?なにいってんのよアンタ…?」
タプリス「あ、あああ、あの、つ、月乃瀬先輩っ!こ、これはその…!」
サターニャ「どーしたのよ、ガヴリール?なんか変なもんでも食べたんじゃないの…?
ん?あれ、それはそうと、タプリス?アンタそれ、手に持ってるハンマーって…」
タプリス「く、胡桃沢しぇんぱい!!こ、これは違っ!!違うんですっ!」
ラフィ「……ん、…あら、ガヴちゃん…?この感じ…」
タプリス「し、白羽先輩…こ、これはその…!!」
来るや否や、今の天真先輩とわたしをみて、不信に思う月乃瀬先輩と胡桃沢先輩。
白羽先輩にいたっては、天使学校時代からの付き合いだからでしょうか。
天真先輩をひとめ見ただけで、既に何かに感づいた様子です。非常にまずい状況です。
そしてさらに。
ガヴ「あ、ラフィ!」
【安堵した表情をうかべ、ラフィエルのところにかけよるガヴリール】
ガヴ「よ、よかった…ようやく友達に会うことができました…!しかしラフィ、
ここは、どこなのでしょうか…!天使学校ではないようですし…
ん…それはそうと…ラフィ…なんだかすこしオトナっぽくなりました?あれ…
それにラフィも制服が天使学校のものと違うようですけど…」
ラフィ「あらあら~」
ヴィーネ「え?え?何よ、ガヴ…どーいうこと?あれ…そういえばガヴのこの話し方…どこかで」
ラフィ「…あらあら、この雰囲気、ちょっぴり懐かしいですねえ…、ガヴちゃん…ひょっとして…」
タプリス「は、はわわわわわ!!し、白羽先輩っ、こ、ここここれはち、ち、違っ!…、」
タプリス「こ、この天真先輩は…、と、とにかく、ち、違うんですううううう!!!」
ガヴ「え?」
ヴィーネ・サターニャ・ラフィ「え?」
びっこーん
………
…ひとって、追い詰められて混乱が頂点に達すると、思いもよらない行動に出るものですね。
それをいま、身をもって体験してしまいました。
ええ…まあ…どういうことかといいますと…
ガヴ「……」
ヴィーネ「ええと…ど、どうしたのタプちゃん…急に…おもちゃのハンマーでガヴを叩いたりして…?」
タプリス「あ、あ……あああ…」
タプリス「(こ、混乱のあまり…思わずもう一回天真先輩をハンマーでたたいてしましましたああああ!!!!
何やってんですかわたしはああああ!!)」
ガヴ「………う、うん…」
サターニャ「ちょっとどーしたのよガヴリール…
あんなおもちゃのハンマーで叩かれたくらいで倒れこんだりして…、しっかりしなさいよ」
ガヴ「え…あ、あの…お、お姉ちゃん…だれ……?」
サターニャ「んあ?」
ガヴ「あ、あれ…こ、ここは…ここはどこですか…?それにおねえちゃんたちは…一体……」
ヴィーネ「え?え?」
タプリス「あばばばば…」
事態が悪化しました。
天真先輩の精神は、わたしの2打撃目によってさらに退行してしまいました。
どのくらい、さらに退行したかというと…
ガヴ「ど、どうしましょう…わたし…もしかして…迷子になっちゃったんじゃあ…」じわあ…
ガヴ「ふ、ふええ…、ぜ、ゼルお姉ちゃん…ゼルおねえちゃああああん!怖いよお…
どこいったのお!?一人にしないでよおお…」
ラフィ「あらあら~、この幼児泣きっぷり…わたしも知らないガヴちゃんですねえ…初等部低学年か…
幼稚園くらいのころですかねえ、…ねえタプちゃん」にっこり
タプリス「はううう!!」
口ぶりから、白羽先輩は、既に大方の事情を把握したようすでした。
ヴィーネ「え、ちょ、どうしたのよガヴ!?え、なに、急にどういうこと!??」
タプリス「はわわわわわわああああああ!!!ここ、これは…ち、ちちがうんです、ちがうんですううう!!」
びっこーん ぴっこーん ぽっこーん
………
ひとって、追い詰められて混乱が頂点に達すると思いもよらな(略
……大変愚かなことでした。私の混乱と、突拍子もない奇行は、天井知らずだったのでした。
………
………
【それから数分後】
ヴィーネ「え、ええっと…これは…ど、どうすれば…」
ラフィ「あらぁ…これは面白いことになってきましたねえ…」
ガヴ「だあ…だあ…ばぶ…ばぶ…」
タプリス「は…はわ…わ…」
天真先輩が廊下にぺたんと座り込んで、親指をくわえています。
それはもう、無垢な可愛らしい顔で…。
そう、わたしの度重なるハンマーの打撃で、天真先輩は赤ん坊(推定0~1歳)にまで精神が退行してしまったのです。
ガヴ「だあ、だあ、ばぶ」
ヴィーネ「まあ…事情はなんとなく把握したけど…、しかし外見は今のガヴのままなのに…なんだかシュールな光景ね…」
ラフィ「穢れを知らないきれいなままのガヴちゃん…、ああ、なんだかすごく…興奮しますね」
ヴィーネ「いや何いってんのラフィ!?」
ぽとっ
【手に持っていた戻りんハンマーを廊下に落とすタプリス】
タプリス「ご、ご、ごめんなさい~~!わ、わたし…わたし!!
て、天真先輩を…駄天から戻そうとして…こ、この悪魔のハンマーで…天真先輩を…、ずみません~~!!あううう!」
サターニャ「くくく…はぁーはっは!!愚かなる天使、タプリスよ!
まさか魔界通販の商品を購入し、ガヴリールの精神を無抵抗の赤ん坊のころにまで退行させるだなんて!
まったくもって、ナイスアシストね!このサタニキアさまの弟子にしてあげるわ!」
サターニャ「ええっと、それじゃさっそく今のガヴリールに、悪魔的なリベンジ行為を…そうね、まずは顔にラクガキを…」
ヴィーネ「ちょ、ちょっとサターニャ!」
ガヴ「びええええ!!」ばしばしっ
サターニャ「あ、あいたた!ちょ、こら!叩かないでよアイタ!おとなしくしなさい!こら、どうどう!」
ラフィ「あらあら~、サターニャさん。赤ガヴちゃんに嫌われてますねえ」
サターニャ「お、おかしいわね…昔、弟をあやしてたころはもっとこう……」
ヴィーネ「サターニャがイタズラしようとするからでしょ、まったく…ん?」
ガヴ「ふ、ふえええええん!!」
【ヴィーネに抱き着くガヴリール】
ヴィーネ「え、あ、ちょ、ちょっと!?ガヴリール!?」
ラフィ「あら~、ヴィーネさん、好かれてますねえ」
ヴィーネ「え、いやあの、…まあ…よしよし」
ガヴ「あう…あう…ひぐ…ひぐ」
サターニャ「ガヴリールのやつ…、ヴィネットにあやされたら、急に泣き止んだわ…、やるわねヴィネット…一人っ子の分際で…」
ヴィーネ「いや、それなんか関係あるのかしら…
…にしても、外見は今のガヴリールだから…なんかその…、こんな風に抱き着かれると複雑な気分だわ…」
ラフィ「ヴィーネママ…」ぼそっ
ヴィーネ「いや急に何言ってんだお前っ!!?」
タプリス「ああああ…、どうしましょう……わたし…わたし…、天真先輩をこんな状態にしてしまって…、取返しのつかないことを…あううう」
ヴィーネ「え、いやちょっとタプちゃん落ち着いて…別に大丈夫よ…。魔界通販の商品なんだから…、多分いつものパターンだと…、ん?」
ガヴ「………」ぷしゅーー…
ラフィ「あら?ガヴちゃん…どうしたんでしょう…急に頭から煙がでてますけど…」
サターニャ「ああ、多分そろそろ、ハンマーの効果が切れるころなんじゃないかしら」
タプリス「…え?」
ぽふんっ
とつぜん、頭から煙のようなものを出し始めた天真先輩は、その後、頭のあたりで小さな爆発音を一回、鳴らしました。すると…。
ガヴ「……、ん…あ、あれ…?わたし、一体…」
ヴィーネ「あ、ガヴ?もしかして、もとに戻ったの?」
ガヴ「え?もとに戻ったって何…って、う、わああ!!な、なんだこれ!どんな状況だよっ!」
【とっさにヴィーネから離れるガヴリール】
ガヴ「な、なにやってんだよヴィーネ!なんで私に抱き着いてきてるわけ!?
え!?おまえ、まさか…そういう趣味が…」
ヴィーネ「は、はあああ!?ち、ち、ち違うわよ!何いってんだお前!ば、バカじゃないの!?何言ってんのバカじゃないの!?」
ラフィ「いやいやヴィーネさん、てんぱりすぎですよ、ぷぷっ!」
ヴィーネ「だいたい、あ、アンタが先に抱き着いてきたんでしょうがっ!!」
ガヴ「は、はああ!?何いってんだよ!」
ラフィ「ガヴちゃん、やはり、さっきまでのこと何も覚えてないんですか?」
ガヴ「え、なんだろ?よくわかんないけど、最初は昔の夢をみてたような気が…
それでそのあと、昔と今の記憶がごちゃごちゃになったような変な感じになっちゃったと思ったら……目が覚めた気が…
ガヴ「あれ…けど私確か、自販機でジュースを買いにきてたはずだったんだけどな…」
ラフィ「ああ、それは実はですね…タプちゃんが…」
ガヴ「タプリスぅ?」
タプリス「っひっ!」
元に戻った天真先輩と目が合うわたし。
ど、どうしましょう…どうしましょう…
ハンマーの影響がきれ、元の先輩に戻ってくれたのは、ほんとによかったのですが…
わたしの衝動的な身勝手な行動で、天真先輩に迷惑をかけて…、いいわけのしようもありません…
…お詫びの言葉も見つからない状況です。
もう…天真先輩に、合わせる顔がありませんでした。
タプリス「せ、先輩…、て、天真先輩…」がたがた…
タプリス「ご、ごめんなさい~ご、ごめんなさいいいい!!!!」
ヴィーネ「あ、ちょ、ちょっとた、タプちゃん!?ど、どこ行くの!?」
【とつぜん踵を返し、廊下を走りさるタプリス】
ガヴ「…あ?なんだアイツ?よくわかんないけど、結局なにがあったの?」
ラフィ「ええっと、ガヴちゃん…実はかくかくしかじかで…」
………
【郊外の公園】
先輩たちから走って逃げ出してきたわたしは、そのまま、学校からも抜け出し、郊外にある公園のブランコに腰掛けていました。
タプリス「はあ…」
どこまでもサイテーなわたし。
天使にあるまじき、身勝手な行動で天真先輩にご迷惑をかけておいて…、
そのうえ、まともな謝罪もせず、あのタイミングで逃げてしまっては、ホントにもう、天真先輩に合わす顔がありません。
タプリス「きっと今頃、怒ってるでしょうね…天真先輩」
ブランコの鎖を両手でつかみ、うつむき加減でキコキコしながら、そんなことをつぶやきました。
すると…
ぽつ、ぽつ…
ざあーーー…
…………
雨が降ってきました。
タプリス「………」
ああ、そういえば今日の天気予報は雨でしたね…。
いえ、忘れていたわけではありません。自分の傘は学校にちゃんと持ってきてはいるんです。
ですが…
タプリス「傘は教室にあるわたしの鞄の中。とっさに飛び出してきたので、傘を学校に忘れてきちゃいました…」
ほんと、愚かです。何やってるんでしょう。わたし…。
ざあーーーーーー…
ぽつぽつと降り始めた雨は、少しずつ、その雨足を強くしていきました。
ブランコでうつむく私の背中や頭に、雨粒が降り注ぎ、少しずつ少しづつ、私の体をひんやりと冷たくしていきます。
頭を冷やせ、と誰かがそう言っているように思えました。
下界の方たちは、天候をつかさどる存在を畏敬の念を込めて“おてんとさま”と、可愛らしいネーミングで呼ぶそうですが。
きっとその“おてんとさま”、が、空から私の愚かな行動をみて、そう言っているのかもしれませんね。
そう。
わたしは、この雨を謹んで受け入れながら、本日の一件を、深く深く反省しなければならないのでした。
そのはずなんですけど……、
ざあーーーー…
タプリス「……、」
…………
ああ…私はどこまでも、ダメな天使です。
雨粒を身に受けながら、私が思いをめぐらしたのは、反省すべき本日の愚行…ではありませんでした。
性懲りもなく、あの、天真先輩と出会ったころの思い出。
思い出に残るあの日と同じように……、しとしとと降り続ける静かな雨音が、今までよりも、
もっともっと鮮明に、あの雨の日の情景を私に思い起こさせたのです。
脳裏に移るのは、あの雨の日、相合傘をしながら、帰ったあの丘道の情景。
あのときの天真先輩のやさしさ。その優しさに包まれ、心も体もぽかぽか暖かくなるような感覚。
そしてそれを口火に、次々と天真先輩との思い出の数々が、まるで走馬燈のように沸き上がってきます。
まじめで、聡明で、気高く、心優しかった天真先輩と共に過ごした天界での日々。
天真先輩とは、たくさんの素敵な思い出があるのです。
『寂しかったらいつでも遊びにきてくださいね』
タプリス「……」
天真先輩との卒業式。思えばあれが、天界での天真先輩との最後の会話となりました。
あのときの天真先輩に、もう一度会いたい。
わたしは…。わたしは…
ざあーーーー…
タプリス「先輩…、天真先輩…」
タプリス「もういちど…あいたい…です…」
雨でじわじわと冷えていく体とは対照的に、目のあたりがジンワリ熱くなってくるのを感じました。
頭を垂らしながら、雨が直接降り注ぐのを避けていた顔にも、そろそろ雨粒とは別の雫が頬を伝わんとしたとき――――
「もしかして、傘を忘れたのですか?」
タプリス「……っ、えっ?」
突然、声をかけられ、思わず顔をあげました。
………
ざああーーーーーー…
ガヴ「…ったく、あいからずだな」
駄天真先輩でした。
タプリス「え…いえ、…違っ…、天真せんぱ…って、あ、あれ?」
先輩は、ブランコに腰掛ける私の頭上に傘を差しながら、いつものぶっきらぼうな口調でこう続けました。
ガヴ「まったくホント世話が焼けるな、このポンコツ天使」
タプリス「え、……あ、あの…天真先輩…、なんで…」
ガヴ「はあ?なんでって…、これでも一応、天使学校主席だったんだぞ。お前がいる場所を把握するくらい、今の私だって、わけないし」
タプリス「え、いや…あの…そういうことではなく…あれ」
ガヴ「うわ、お前…制服も髪もびちょびちょじゃねーか…雨降ってんのに、何やってんだよ、バカなの?」
タプリス「先輩…、あの…」
ガヴ「あ、ああもう!いいから、とっとと立てよほら!いつまで、こんなとこでずぶ濡れになってんだよ!」
タプリス「わ、あ、あの、ちょ、せ、先輩!」
先輩は、無理やり私の腕をつかんでブランコから立たせると、こう続けました。
ガヴ「ほら、とっとと帰るぞ、バカタプリス!」
そのあとのこと。
しとしとと降り続ける雨の中。わたしは郊外を歩いていました。
わざわざ迎えに来てくれた天真先輩の傘に入れてもらいながら。
ガヴ「……」
タプリス「……」
相合傘をしながらの下校は人生2度目の体験でした。
シチュエーションが、あの”雨の日の思い出”と重なりました。
……いえ。とはいえ、あの時とは大きく違う点もあるんですけど。
違う点。それは、まず相手が違います。
だって、今の相合傘の相手は、天真先輩は天真先輩でも、
下界で堕落した生活を送り、駄天してしまった駄天真先輩なのであって…
かつての天真先輩とは…、
………。
あれ、なんでしょう…自分でいってて、なにか違和感を感じました。
そういえばさっき、ブランコで最初に声をかけられたとき…その声は、天界にいたころの天真先輩だった気がしました。
けど、今、横にいるのは間違いなく、ぶっきらぼうでやさぐれてる駄天真先輩…ですよね?
自販機であった時、ハンマーで先輩を退行させた影響は、もうないはずです。
けど…あれ?…、あれ?
この感覚は…一体…なんなのでしょうか…わたし、何か大切なことを見落としていやしないでしょうか…
そんなことを考えながら歩いていると、確かに、大切なことを忘れていることに気づきました。
大切なこと。何よりもまず、先輩にいうべきことがありました。
…………
タプリス「あ、あの…先輩…」
ガヴ「あん?」
タプリス「その…、あ、ありがとうございます…今日は、迎えに来てくれて…
それとあの……、今日のこと…、ほんとに…、ほんとに、すみませんでした!!」
ガヴ「あ?なんのこと」
タプリス「あ、いえ…ですから…、今日、先輩を突然、ハンマーでたたいてしまって…ご迷惑をかけてしまって…」
ガヴ「ああ…」
先輩は、いつものやさぐれた顔でつまんなそうにいいました。
ガヴ「まあ、あんなのサターニャのばかと絡んでたら日常茶飯事だし。
まあけど、サターニャっぽい行動をしたってことで、今日からお前のこと”タプーニャ”って呼んだほうがいいのかな」
タプリス「え、いや、や、やめてくださいっ!!ひどく侮辱された気分になりますのでっっ!」
天真先輩「けどお前ら結構仲いいよな、なんかおバカなところがキャラ似てるし」
タプリス「え!?に、似てませんよ!!似てません!!な、仲もよくありません!だ、だれがあんな悪魔なんかと!!
ぶ、侮辱ですよ天真先輩!!私への侮辱行為です!ゆ、許されませんよ!」
天真先輩「ああ、はいはいタプーニャ」
タプリス「はがああ!?いや、やめてくださいっていいましたよね!!
こ、これ以上、わたしのことをいじめるなら、例え天真先輩でも許しませんよ!!」
…………
…あれ?誤って許しを乞うはず立場だったんですけど、逆にわたしが、むきーっ、と怒る羽目になりました。
なんででしょう…?先輩に、もっともっと、怒られると思ってたのに…。
なんだか、軽くいなされてしまった気分です。
今度は先輩から、別の話題を振ってきました。
ガヴ「それにしても、ホント成長しないなタプリスは…今日みたいな天気の悪い日に、
傘も持たないで外にいるだなんて…傘くらい携帯しとけって、まえに忠告したはずだけどな」
タプリス「あ、いえそれは、面目ないです…、
タプリス「けど、今日はつい突発的に外に飛び出しちゃっただけで、ちゃんと傘は学校に持ってきてたんです。
あれ以来、先輩に言われたとおり、ちゃんと鞄に携帯するようにしてますので」
ガヴ「雨が降るときになきゃ意味ないだろ…、それに今日は、雨宿りすらせずに、子供みたいにブランコに座って…、
なんか成長してないどころか、ますますドジになってない、タプリス?」
タプリス「べ、別にさっきのあれは、ドジで雨に当たってたわけじゃありませんよっ!
あの時とは違って、今日は、雨にあたって、深く反省を……」
タプリス「……、あれ…」
ガヴ「…ん、おい…何立ち止まってんだよ…!濡れちゃうだろ」
タプリス「……、天真先輩……、もしかして覚えてるんです…か?あの日のこと…?」
ガヴ「はあ?あの日のこと…って?いや、だからなんのことだよ」
タプリス「わ、私と初めて会った日のことですよ!!あの雨の日の!…」
ガヴ「え?いや、べつに覚えてるけど?ちょうど、今日みたいに一緒に雨宿りして帰った…」
タプリス「う、うそ!だ、だって今日、覚えてない、って言ったじゃないですか!」
ガヴ「はあ?なんだよそれ…?……って、ああ…そういや自販機であった時にお前、そんな感じのこと言ってたっけ…?」
ガヴ「いやいや…けど、あんな言いかたで急に言われても分かるわけないじゃん。
『あの日のこと』、だの、『助けてくれたじゃないですか』…だの…抽象的なこと言われても…」
ガヴ「言っとくけど、天界時代にお前を助けたことなんて1回や2回じゃないんだから、そんなこと言われたくらいじゃ、
どのこと言ってるのかわかんないだろ…ホント、世話が焼ける後輩だったよ…いや今もだけど」
タプリス「天真先輩……、それじゃあ、天界時代の記憶がなくなったんじゃあ…」
ガヴ「あ?なんでそんな話になってんの?いや、別に全部覚えてるけど…」
タプリス「じゃ、じゃあ!あの時のこと!い、一緒に図書館でお勉強したときのこと!私が先輩に勉強をみてもらった話は覚えてますか!?」
ガヴ「ああ、何回かあったな。お前、成績、中の下くらいだったし…教えるのほんと苦労したわ」
タプリス「学校生活のことを相談に乗ってもらったことは!?」
ガヴ「しょっちゅうだったな。しかも全部くだらないことばっか」
タプリス「それじゃ、2人で、湖に遊びに言った時のことは!?」
ガヴ「ああ、…お前がおぼれて大騒ぎになったやつな…あれはヤバかった」
タプリス「校内マラソン大会で先輩が最下位で走っているのを私が、一緒に走りながら応援し続けた話は!?」
ガヴ「…、お、覚えてない」
タプリス「うそですよ!ここまで来たら、もう覚えてるはずです!」
ガヴ「う、うっせーなバーカ!!バーカ!そんなつまんないこと覚えてんじゃねーよ!」
………
間違いありません。
今の天真先輩は、駄天したからといって、天界時代の記憶までなくなっていたわけではありませんでした。
駄天した先輩が記憶をなくしている、だなんてそもそも誰がそんなことを言い出したんでしたっけ?
…ええ、すみません、私でした。…どうやらわたしのただの勘違いだったようです…早とちりでした。
ただの勘違いではあったんですけど。
わたしは、ちゃんと私との思い出を覚えていてくれている今の先輩に、ほっと安堵してしまい、ついつい力が抜けちゃって…
タプリス「………、しぇ、しぇんぱあい…ぐす…」
ガヴ「って、はあ?お、おま…何急に泣いてるんだよ、おい!」
タプリス「だってだって…わたし…、安心して…、ほんと…ほんとによかったです…先輩が駄天したせいで…
私との思い出を全部忘れてしまってるんじゃあないかって…」
ガヴ「いやなんでそうなるんだよ…ってか、お前みたいな世話が焼ける後輩は他にいなかったからな、忘れたくても忘れられないよ」
タプリス「ぐすっ…、そ、それじゃあ…先輩、いい機会です!これを機に、もっともっと昔の思い出話を語り合いましょう」
ガヴ「はあ、やだよウザい。いいからとっとと歩けよバカタプリス」
タプリス「ひ、ひどっ!何ですかアナタは!や、やっぱやさぐれすぎですよ!」
ガヴ「あーもう、うっせーうっせー、いいからはやく歩けよ。おいてくぞタプリス」
タプリス「あ、ちょ、せ、先輩!」
天界のころの記憶はあっても、そこはやはり、今の駄天真先輩です。思い出話に花を咲かせようとすると、すぐに毟ってポイしてきました。
ほんと、やさぐれてますね。まともに会話に応じてくれません。
初対面で緊張していた私に、盛んに話しかけてきてくれた”あの雨の日”の天真先輩とは対照的。
そういえば、今日は、逆に私のほうが先輩に多く話しかけてます。
まったくもう。天界にいた頃の先輩だったら、きっと…
そんなことを思って、ふと横にいる先輩のほうにちらりと目を向けると。
気づくことがありました。
視界にはいるのは、傘をさしてくれている駄天真先輩。
そんな先輩の肩に目をやると……。
……
タプリス「……、先輩」
ガヴ「…今度はなんだよ」
タプリス「いえ…なんでもありません」
ガヴ「なんだよ…気持ち悪いやつだな」
……心地よい時間でした。
既に雨に打たれていた私でしたが、なんだか、心も体もぽかぽか暖かくなるような…そんな不思議な感覚を感じました。
こんな感覚を体感したのは、今回が人生で2度目のことです。
1度目がいつだったかは、もう言うまでもありません。
そして、今回は、心地よい時間とともに、私にある”ひらめき”をもたらしました。
ひらめいたこと。それは、私がずっと、つまらない勘違いをしていた、ということ。
タプリス「そっか、そういうことだったんですね…」ぽつり
ガヴ「あ?また、なんかいった?」
タプリス「……、ふふ、なんでもありませんよ」
ガヴ「なんだよさっきから…、ったく…」
人生2度目の相合傘。
わたしと先輩との間で、これ以降、あまり会話はありませんでした。
欲を言えば、いい機会に、先輩と天界にいたころの思い出なんかを語り合いたい気分もあったんですが…
ぶっきらぼうでやさぐれた今の先輩は、思い出話どころか、まともに会話に応じてくれません。
まあ、別にそれはそれで、もういいんですけどね。
とにかく。天真先輩と思い出話に花を咲かせるのは、また、次の機会の楽しみにとっておくこととし、
しとしとと降り続ける雨の中、そのまま2人で帰り道を歩き続けたのでした。
………
………
そして、その後の話。
【ガブリールの家】
タプリス「すみません先輩…、部屋で制服を干させてもらうだけじゃなく、お風呂まで借りてしまって…」
ガヴ「ああ、別にいいよ。お前ん家、あそこからじゃ結構遠いもんな。制服も乾かさなきゃだし、今日は私の家に泊って行けよ」
タプリス「は、はいですっ!!」
タプリス「あ、ありがとうございます先輩…。先輩、なんだか今日は優しいですね…えへへ…」
ガヴ「ん、まあな。だって、地獄のカーニバルの開催はこれからだもんな」
タプリス「そうですね!地獄のカーニバルの開催はこれから……、って、…え?」
タプリス「……、先輩…今なんて…?」
ガヴ「…まんまと私の家に来るなんて…ほんとバカだなタプリスぅ…」
…………、突然、邪悪な笑みを浮かべる天真先輩が、鞄から取り出したものをみて私は戦慄を覚えました。
タプリス「そ、それ!も、”戻りんハンマー”!?せ、先輩!な、ななななんでそれを!?」
ガヴ「なんでって、お前が自販機前の廊下で落としたのをそのまま持って帰ってきたんだよ…。
ふうん、すごいなこれ…これで相手の頭叩いたら、精神退行できるだな…へえ…、
まあ、身をもって体感したからわかってるんだけどね、誰かさんのせいで」にっこり
タプリス「せ、せ…先輩…?そ、それ…、ど、どうするつもりですか…、ま、まさか…?」
ガヴ「うん、いやだから、このハンマーでタプリス、お前をクソミソブッ叩いて、はなたれのガキンチョにした後に、すっげーイタズラしようと思って。
え?まさか、先輩に歯向かっておいて、なんのリベンジないで済むとおもってたの?」
タプリス「んなあ!?そ、そんな!せ、先輩!わ、わたしのこと許してくれるんじゃあ!?」
ガヴ「うん?許すとか、そんなこと言ったっけ?いや、まあ許すよ?このハンマーを使って、十万倍くらいに、仕返しした後に、なあっ!!」
タプリス「なんですかそれ!さ、ささ最悪です!!!」
やばいです。はやく、この家から逃げないと。
わたしの脳内危険度レーダーが危険度SS+の警報を鳴らし始めました。
タプリス「か、帰ります!きょ、今日のところは失礼して…!」
ガヴ「ふうん、わたしの貸してあげたパツパツのTシャツ着た恥ずかしいカッコで帰れるの?
それにまだ、乾かしてる状態の制服や下着、おいて帰れるのかなあ?」にちゃあ…
タプリス「か、確信犯ですね!自宅に招いて、お風呂を貸してくれた裏にこんな思惑があっただなんて!
こ、こうやって私の退路を断つ気だったんですね、最悪です!…って、ひ、ひい!」
ハンマーをもち、邪悪な笑みを浮かべた天真先輩が私にゆっくりとつめよってきます。
ガヴ「おら…いい加減、観念しろよタプちゃんよお…」
タプリス「て、てて天真先輩…、い、言っておきますけど、そ、そのハンマーは、扱い方がすごくデリケートなんです!
い、イフリートの子どものにゃんぱんちがわかってないと無理です!だ、だからやめてください!」
ガヴ「はあ?何わけわかんないこと言ってんの…?
ほら、とっとと観念しろ!おらああ!!逃げんなくそ!!」
タプリス「ちょ、て、てんま先輩、や、ちょ、やめてください!!!」
ガヴ「おりゃあああ!!」
ばちこーん!!
…天真先輩の激しいリベンジ。必死の逃亡もむなしく、それをモロに喰らってしまいました。
頭を叩かれた瞬間、現実からものすごい勢いで遠ざかっていくのを感じました。
それから、記憶があいまいになっていって……あ、あれ…いしき…が…
もう…、…たたきすぎ…ですよ…てん、ま先輩…。
………
………
………
【その数十分後】
ヴィーネ「…突然、うちに来いとかいうから来てみたら…何やってんのよ、ガヴ」
ガヴ「あ、…あー…ええっと」
タプリス「ふえ…ふえええええん!ふええええ!!」
【床に寝転がり、大泣きしているタプリス】
サターニャ「なによこれ…、それにそこの床に落ちてるハンマー…、ガヴリール…まさかアンタ…」
ラフィ「あらあら~、タプちゃんも今日のガヴちゃんみたく、”赤タプちゃん”になっちゃった、ってことですかねえ…」
ガヴ「うんまあ、タプリスを初等部くらいの腕っぷしで勝てるくらいの精神年齢にして、
めっちゃイジメようかと思ったのに…、なんか思いっきり叩いたら、年齢戻しすぎたわ…」
ヴィーネ「いやホント、何しようとしてんだお前っ!?」
ガヴ「それで、全然泣き止まなくなってうるさいから、ヴィーネママにあやしてもらおうと思って!」
ヴィーネ「いやだから、それ誰のことなのよっ!!なんかすっごいむかつくんだけどっ!」
………
………
タプリス「すう…すう…」
ガヴ「いやあ、ようやく静かになった。やっぱ偉大だねヴィーネママは。ったく、世話がやける後輩だわ」
ヴィーネ「いや、アンタ、その言いかたなんかむかつくからいい加減にしなさいよ…
それに、アンタも、タプちゃんにイタズラしようとしといてその言い方はないでしょうが。まったく…」
ラフィ「うふふ…すやすや眠っています。タプちゃん、かわいいですね」
サターニャ「いや、流石に高校生の外見であそこまで大泣きされると違和感ありありだったけどね…ん?」
【頭から煙がではじめるタプリス】
ガヴ「…?なんだ?」
ヴィーネ「今日の学校でのガヴリールと同じ現象だわ。きっと、ハンマーの効果が切れて、精神が戻りはじめているんだわ」
ガヴ「………ああ」
ガヴ「…………」
【煙を出しながら眠っているタプリスのあたまに、優しく右手を当てるガヴ】
サターニャ「……?ガヴリール、何やってんのよ?」
ガヴ「……、ん、ハンマーの影響からもとに戻ろうとしてる今は、ちょうど一番記憶がごっちゃになっちゃってて、
どうせ目が覚めたらほとんど記憶には残らないだろうし。………まあ、どらくさにまぎれて、今ならいいかなって」
ヴィーネ「……??なんのこと?」
ガヴ「…まあ、少しくらい願いをかなえてやらないとな」ぼそ
ガヴ「……」
【そのまま静かに目をつむるガヴリール】
ヴィーネ「ねえ、ラフィ…ガヴ、何やってるの?」
ラフィ「さあ…?天使の術のようですけど…わたしも知らない術みたいで、よくわかりませんね…」
ヴィーネ「…どうしたのかしら…?これ以上、タプちゃんに変なイタズラしてないといいけど……」
…………
…………
…………
ざあーーーーー…
タプリス「…あれ?ここは…」
わたしはある小屋の前に立っていました。
空を見上げると、うす暗い空からは、降り続ける無数の雨粒が降り注いでいます。
ドヨドヨ空模様。気づけば、私は小屋の前に立ち、雨宿りをしているところでした。
タプリス「………」
この静かに降り続く雨、この小屋。この光景には覚えがあります。
そう、天真先輩と初めて会った日の、過去の記憶…その光景、そのものでした。
タプリス「…なんで、わたしこんなとこにいるんでしょう…、あ、そうです、確か、天真先輩に、
思いっきりハンマーでたたかれて…記憶があいまいになって…」
ということは…私が今、この過去の場所にいるのはハンマーで精神年齢が退行した影響なのでしょうか。
……いえ、あのハンマー自体は、叩いた相手の精神を退行させるのであって、時間そのものを戻すわけではありません。
下界にいた私が、今、この天界の思い出の場所にいるのはやっぱり、変ですよね。
…それに、今の私は、ちゃんと下界での記憶を保持していますし…
ハンマーで精神が退行しているわけでもない。
いえ…しかし、ふと自分の恰好をみてみると、昔の天使学校の制服を身にまとっている…?
やっぱり過去に戻ってる…? いえ…しかし…記憶は今のまんま?
過去に戻っているようで、現在にいるような。なんでしょう…時間軸があいまいで…
……つじつまがあいません。
それってつまり…。
タプリス「夢…ですか…」
思い立った結論をポツリとつぶやいたとき、声をかけられました。
「もしかして、傘を忘れたのですか?」
タプリス「…、」
声のした方を振り向くと、そこには、シトシトと降り続く雨のなか、傘を差した一人の女の子が立っていました。
もったいぶらなくても、それが誰なのか、お分かりですよね。
………、今回は夢とはいえ、同じセリフで声をかけられたのはこれで”3度目”の話。
さすがに、ちょっぴり恥ずかしい気持ちもありましたが、初対面の方ではありませんから、人見知りすることはありません。
なので今回は素直に返事をしました。
タプリス「ええ…実は…忘れてしまいました、何度もすみません…天真先輩」
そう答えると、傘を片手にもつ声をかけてくれた少女が優しく微笑み、やっぱり、こう返してくれました。
ガヴ「よかったら、私の傘にはいりませんか?」
ざあーーーー…
しとしと静かな鳴らしながら降り続ける雨の音。
そんな中、相合傘をしながら天真先輩と帰る、なだらかな丘に続く帰り道。
何もかも、記憶する思い出の情景そのままでした。
ただ、私と先輩が織りなす会話は、過去の記憶のそれとは違うものでした。
…………
タプリス「わたしったら……、今日もさっきまで傘にいれてもらっていたというのに……、何度も迷惑をかけてすみません…天真先輩…。
けど今度は、こうして、思い出のこの道をまた一緒に帰ることができて、うれしいです」
ガヴ「迷惑だなんて…、可愛い後輩のためですから。傘をさして一緒に帰ることくらい、何回だってかまいません。
それにわたしこそ、タプリスとこうしてまた、この帰り道をおしゃべりしながら歩くことができてうれしいです」
タプリス「そう言ってもらえてホントにうれしいです…天真先輩…
ですが、今日のことは、ホントにすみませんでした…、魔界の通販で買ったハンマーで先輩をたたくだなんて…」
ガヴ「もういいんですよタプリス。わたしも、あのあと、アナタに同じハンマーで仕返しをしてしまったのですから。おあいこです」
過去も現在もまぜこぜになっちゃって…、時間軸があいまいとなっている空間の中。
私と天真先輩の会話も、かつての思い出の会話をなぞらえたものではなく…時間軸がマッチしてません。
思い出の1シーンの中で天真先輩と今日あった出来事の話をしている。そんな奇妙な会話。
つじつまがあわない。そう、だからこれは夢です。
きっと、この天真先輩も、わたしの記憶が作り上げた、勝手なイメージなのでしょう。
そんなことを考えていると、ふと、天真先輩がこんなことをわたしに言いました。
ガヴ「…本当に謝らなきゃいけないのは私のほうですね、タプリス…下界での今のダメダメなぐーたらな私をみて、
ひどく失望しているようでしたから」
タプリス「え?」
ガヴ「タプリスは…現実で私と会うことができないで…やはり悲しいでしょうか…」
天真先輩が少し寂しそうな表情でそう問いかけます。
タプリス「……先輩」
そんな天真先輩に私は、あまり間をおかず、笑顔でこう返しました。
タプリス「…いいえ、天真先輩、悲しくなんてありませんよ」
ガヴ「え?」
タプリス「…わたし、ようやく今日、気づいちゃいましたから。
天界のころのまじめで優等生だった先輩も…、下界で駄天してぶっきらぼうな今の先輩も…
別人なんかじゃなく…全部、ホントの天真先輩ってことが…」
ガヴ「タプリス…?」
そう。
未熟者のわたしは、駄天した天真先輩のことを、ずっと、言葉使いやふるまいだけをみて、天界での天真先輩と比較し、
どこか別人のような目でみてきました。
けど、それが間違っていることに今日、やっと気づいたのです。
タプリス「……確かに外面がちょっぴり変わってやさぐれて、ぶっきらぼうになっちゃいましたけど…、それ以外は何も変わっていません。
今の天真先輩の中にも、ちゃんと私との大事な思い出の数々を覚えていてくれています…!
そして、わたしが一番、尊敬してやまない天真先輩の優しい心…、そう、人をぽかぽか温かくさせる先輩の優しさは、今も昔も変わらないままです」
タプリス「だから天真先輩…もう悲しくなんてありません…今も昔も、天真先輩は1人だけです!
下界に来た今も、私がずっと慕っている天真先輩は私のそばにいるんだってことがわかりましたから!」
タプリス「だから、天真先輩…!これからもよろしくお願いしますねっ!」
ガヴ「タプリス…、………ありがとう…」
天真先輩は、少し潤んだ瞳を向けて、いつもの優しい笑顔で微笑むと、こう続けました。
ガヴ「わたしこそ、これからもよろしくお願いします。わたしにとっても、……、タプリスは、一番の後輩です」
タプリス「先輩…!そ、そんな…、あ、ありがとうございます、おお、世辞でもうれしいですっ」
ガヴ「いえいえ、ほんとのことですよ」
これは…きっと、お世辞でしょうね…。まあ、夢の中ですからね。けど天真先輩にそういわれると、たとえ夢の中でも顔が赤くなってしまいます。
タプリス「…下界に来てからの話といえば…、先輩、わたしのほうはどうですか?わたし…、天界にいたころより、少しは成長しましたかね」
ガヴ「そうですね…ずいぶん成長したと思いますよ。はじめてこうして一緒に会った時は、
なんだかビクビクしてて、あまりキチンと話してくれなかったというのに、今ではこうしておしゃべりも長く続けてくれますし…」
タプリス「だあ、そ、そんなところですか!?」
ガヴ「あの時、正直、嫌われてるのかと…」
タプリス「い、いえ違います!あ、あの時はその…ちょっと緊張してて…、け、けど、
今日の帰り道では、私より先輩のほうがキチンと話してくれなかったじゃないですか、せっかく先輩と思い出話をしたかったのに…」
ガヴ「ふふ…そういえばそうですね。ごめんなさい、けど、思い出話をするだなんて、今の駄天した姿だと、なんだか照れくさくて…」
タプリス「じゃ、じゃあ、今だったらどうですか先輩、わたし、ずっと先輩に聞きたかったことがありまして、
ほら、あの2人で湖に遊びに行ったときの話なんですけど、あのとき…」
ガヴ「ああ、そういえばありましたね…あのときは楽しかったですね…あのときは…」
………
………
……いつしか、私と天真先輩との語らいは、天界での昔話に話題が移り始めました。
しとしとと降り続ける雨の中。
私と天真先輩は、素敵な思い出話に花を咲かせました。
初めて会った時の思い出の1場面を拝借した、天真先輩との思い出話の語らい。
今度は、どちらか片方が緊張してうまく会話しなかったり、照れくさがって会話に応じてくれないこともありません。
わたしの願望を具現化したような、どこまでも都合のいい夢の中の出来事でした。
けど、なんででしょう。
ともに語り合う天真先輩は、とても夢の存在とも思えないほど心の温かさを感じられ、
私にとっては現実での体験と、そう遜色がない感覚すらあったのです。
…こうして先輩と楽しい語らいをつづけるうち、少しずつ、雨足が弱まり、目の前が明るくなっていくのに気づきました。
それとともに、天真先輩の声が、なんだか聞こえづらくなっていきます。
雨が完全に止めば、きっとそれは夢の終わりの合図。夢から目が覚めるときが近づいているのだと、そんなふうに思いました。
夢の内容って、たいがいよく覚えてなくて、すぐ忘れちゃうものですよね。
だから、わたしは今日一日の出来事を、この夢の中の不思議な体験も含めて、新しい思い出の1ページとして、しっかりと記憶に書き記すことに決めました。
忘れないようにしっかりと。いまのうちにきっちり加筆しておきます。
わたしと天真先輩の新しい思い出の1ページ…。
この日も、雨でした。
おしまい
タプリスを主役したSSでした。タプリスのちょっと、子供っぽいっ感じの語り口調を表現できてたらうれしい
見てくれてる人少なそうだけど感想お待ちしてます。
おつ!
素晴らし過ぎる
めっちゃ雰囲気いいSSだった
読みやすいしすごく好きだわ
乙
乙乙
きれいでいい話だ
良かった
このSSまとめへのコメント
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