ガヴリール「ラフィエルと雨宿り」 (25)
季節は梅雨、急に降り出した雨。
さきほどまで明るかった空はどんよりと曇り、まるでカーテンを閉めた部屋の中のようだった。
ジュースとお菓子を買いにコンビニへ出かけていたガヴリールは、突然の雨に驚き、近くの橋の高架下へと走った。
降りしきる大雨を眺めながら、雨に濡れた身体を子猫のように震わせた。
ガヴリール「ふー、まったく急に降ってきやがって…」ビショビショ
ガヴリール「朝は晴れてたから大丈夫だと思ったんだが…天気予報見れば良かった」
ガヴリール「ん?あそこにいるのは…ラフィエルじゃん」
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目線の先には見知った姿の銀髪の少女。
どうやら彼女もここで雨宿りをしているらしい。
ガヴリール「おーい、ラフィエル」テクテク
ラフィエル「あら?ガヴちゃんじゃないですか。雨宿りですか?」
ガヴリール「まあな。急に降ってきたから参ったよ」
ラフィエル「私も傘を忘れてしまって…。ここで止むのを待っていたところです」
ガヴリール「そっか。私もここで待つとするかな……へっくちっ!」ブルッ
ラフィエル「あ、タオル持ってるので使ってください。風邪ひいちゃいますよ」
ガヴリール「ん、ありがと」フキフキ
ラフィエル「それにしても本当に急な雨ですね」
ガヴリール「ああ。ゲリラ豪雨ってやつだな」
ガヴリール「たぶんすぐに上がると思うけど…どうしようか」
ラフィエル「ガヴちゃん。時間つぶしに、ちょっとお喋りしませんか?」
ガヴリール「お?うん、まあいいけど」
ラフィエル「ふふっ、ありがとうございます」ニコッ
ラフィエル「ガヴちゃんは雨って好きですか?」
ガヴリール「んー…好きか嫌いかで言ったら、嫌いかな」
ガヴリール「じめじめするし、髪の手入れが面倒だし……家でずっとゲームできるのはいいけどね」
ラフィエル「へえ、ガヴちゃん、髪のお手入れなんてするんですね」
ガヴリール「あ、私じゃなくてヴィーネが勝手にやってくれるんだよ」
ラフィエル「……そうなんですか。ヴィーネさんらしいですね」
ガヴリール「ガヴの髪は長くてぼさぼさで整えるのが大変ねって。文句言うならほっといてもいいのにな」
ラフィエル「ガヴちゃんのお世話が好きなんでしょう。ツンデレってやつですよ。むしろデレデレです」
ガヴリール「私が甘やかされてるのか、私がヴィーネを甘やかしてるのか、よくわからなくなるよ」
ガヴリール「で、ラフィエルは雨好きなのか?」
ラフィエル「そうですね…どちらかといえば好きな方だと思います」
ラフィエル「雨に濡れる街がいつもと違う風景を見せてくれる気がして、なんだかわくわくします」
ラフィエル「もちろん、お天気な日も心地よくて好きですけど」
ラフィエル「いつも太陽に照らされていたら、眩しくて疲れてしまいませんか?」
ガヴリール「あー、それはわかるかも」
ラフィエル「それに、絶え間なく降り注ぐ雨粒をじっと眺めていると、心が洗われて素敵な詩でも浮かびそうな気がします」
ガヴリール「……ラフィエルってさ、日記とかポエム帳とか書くタイプ?」
ラフィエル「……さあ、どうでしょう」ニコッ
ラフィエル「そういえば二人きりで話すのなんて久しぶりですね」
ガヴリール「たしかに…。ヴィーネやサターニャと一緒にいる時はあるけど、二人だけってのは久しぶりだ」
ラフィエル「…天界にいたころはもうちょっと一緒にいましたよね」
ガヴリール「そうだったっけ。あんまり覚えてないや」
ラフィエル「もう…ちょっとひどいですよ」
ガヴリール「あ、ごめんごめん…。あの頃の私とはもう別人みたいになっちゃったからさ。思い出せないっていうか」
ラフィエル「まあ、ガヴちゃんは主席で皆さんの人気者でしたからね」
ラフィエル「その他大勢のうちの一人だった私なんて、覚えてなくて当然ですよ」
ガヴリール「ラフィエル……?」
ラフィエル「なんですか?」
ガヴリール「もしかして、ちょっと怒ってる…?」
ラフィエル「全然怒ってなんてないですよ。ムスッ」
ガヴリール「いやもうムスッて声に出してるじゃん。怒ってるじゃん」
ラフィエル「どーせ私なんてガヴちゃんにとってはどうでもいい存在ですよー」プイッ
ガヴリール「ちょっ、冗談だって。ちゃんと覚えてるよ」アセアセ
ラフィエル「ほんとですか?」クルッ
ガヴリール「ほんとほんと。ちょっと照れくさいからごまかしてただけ」
ラフィエル「そうですか。えへへ…安心しました」
ガヴリール「天使学校時代、懐かしいなあ…」
ラフィエル「ガヴちゃんは成績優秀で友達もたくさんいましたよね」
ガヴリール「ま、取り巻きばっかでほとんどうわべだけの付き合いだったけどな…」
ラフィエル「またそんなこと言って……みんないい子でしたよ」
ガヴリール「外から見たらそんなもんだ。でも実際は、特に仲のいいやつはいなかったな」
ガヴリール「やっぱり子供ってのは目立ってるやつに惹かれるんだよ。そのターゲットに選ばれたのが私ってだけ」
ガヴリール「私から見たらラフィエルの方が羨ましかったな。自由で楽しそうに過ごしてて」
ラフィエル「そんなことはありませんよ。家が厳しかったものですから、とても自由とは言えませんでした」
ガヴリール「そっか。お嬢様だもんな…こう見えて」
ラフィエル「はい。こう見えてお嬢様なので」ニコニコ
ガヴリール「自分で言うか」
ラフィエル「だから学校に行くのは、解放された感じがして楽しかったんです」
ガヴリール「なるほどな」
ラフィエル「あと、大好きなガヴちゃんにも会えますし♪」
ガヴリール「だっ…!?はあ…こういうこと言うからこの話は避けてたのに…」
ラフィエル「ガヴちゃん。初めて私に話しかけてくれた時のことを覚えてますか?」
ガヴリール「あー……、まあ覚えてるよ」
ラフィエル「入学当時、友達が欲しかった私は、なんとか他の子の気を引こうと必死でした」
ラフィエル「でも他の子との距離感がつかめずに、孤立しがちでした」
ガヴリール「出会う度にイタズラしかけてたもんな…そりゃ距離置かれるわ」
ラフィエル「そんな時でも、私のそばに来てくれたのはガヴちゃんだったんです」
ガヴリール「もうそのくらいでいいだろ…照れるから」
ラフィエル「学校の裏庭でしたね。友達ができずに隠れて泣いていた私」
ラフィエル「そこに颯爽と現れたガヴちゃんは慈愛に満ちた表情で、涙にぬれた私の頬を柔らかな手で包み、一言……」
ラフィエル「………」チラ
ガヴリール「………」
ラフィエル「一言……」チラチラ
ガヴリール「…もしかして、私が言う流れ?」
ラフィエル「空気読んでくださいガヴちゃん!いまいい雰囲気ですよ!」
ガヴリール「雰囲気も何も……まあいいけど」
ガヴリール「コホン」
ガヴリール「初めまして、白羽さん♪私と、お友達になってくれませんか?」キラキラ
ラフィエル「わあーーー!!こちらこそ、喜んで!!」
ガヴリール「はぁーーーー……なんなんだこの茶番」ゲッソリ
ラフィエル「いまのガヴちゃん、駄天前のオーラが復活してましたよ」
ガヴリール「疲れるからあんまりやらせるなよ」
ラフィエル「ええー……聖ガヴちゃん可愛らしくて好きなんですが」
ガヴリール「なんか別人格というか、別人みたいな扱いだな」
ラフィエル「まあまあ、そうやさぐれずに……どっちのガヴちゃんも素敵ですよ」
ガヴリール「そうか?まあ、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ」
ガヴリール「どっちも本当の私だから。いまもむかしも、中身は変わってないから」
ラフィエル「そうですね…。変わるものも、変わらないものも、どちらも大事です」
分厚かった雲の色は薄くなり、空は徐々に明るさを取り戻しつつあった。
空から零れ落ちる粒の量も心なしか減ってきたようだ。
ガヴリール「雨、もう少しで止みそうだな」
ラフィエル「そうですね。……ねえ、ガヴちゃん」
ガヴリール「なんだ?」
ラフィエル「下界に来てから、ヴィーネさんやサターニャさんと出会って、仲良くなれましたよね」
ガヴリール「……うん。悪魔だけど、いいやつらだよ。あいつらは」
ラフィエル「ヴィーネさんはガヴちゃんのお世話をしてくれるし、サターニャさんはガヴちゃんにちょっかいをかけてますね」
ガヴリール「それを言うなら、ラフィエルもサターニャにちょっかいかけてるじゃん」
ラフィエル「ええ!サターニャさん導りはとっても楽しいですね!」キラキラ
ラフィエル「……でもそのぶん、ガヴちゃんとお話できる時間が減っちゃった気がするんです」
ガヴリール「それは……まあ、うん」
ラフィエル「ガヴちゃんと最初に知り合ったのは私なのに。昔のガヴちゃんを知ってるのは私なのに」
ラフィエル「そう思うと、ほかの子と仲良くしてるのを見て…ちょっともやっとしちゃうんです」
ガヴリール「ラフィエル……」
ラフィエル「なーんて、ちょっと重い子みたいですね、私。すみません」ペコリ
ラフィエル「でも、いまだけは許してください……」
ラフィエル「雨の日は、ちょっぴり感傷的になるものですから」
ガヴリール「ラフィエル!」ガシッ
ラフィエル「えっ?な、なんですか、ガヴちゃん」ビクッ
ガヴリール「お前は昔から、そういうところ変わんないよな……」
ラフィエル「ど、どういうところ…?」
ガヴリール「悩みを隠して一人で抱え込んで、助けてほしいのに泣いてばかりいるところだよ」
ガヴリール「まあ今回は自分から言い出せただけいいけどさ、もっと踏み込んでこいよ」
ラフィエル「ガヴちゃん……」
ガヴリール「もっといっぱい話そう。いっぱい遊ぼう。ラフィエルが踏み込んできてくれたら、そのぶん私も応えるからさ」
ガヴリール「天界からの友達だろ?遠慮なんてすることないんだからな」
ラフィエル「……はいっ!ありがとうございます、ガヴちゃん♪」
雨はすっかり上がり、雲の切れ間から太陽が顔を覗かせる。
光に照らされた水滴はキラキラと反射して眩しいほどの輝きを放つ。
ラフィエル「短い時間でしたけど、昔話ができて楽しかったです」
ガヴリール「私も楽しかったよ。こんな話できるのラフィエルくらいしかいないもんな」
ラフィエル「……ご迷惑じゃなかったら」
ラフィエル「また、お話しませんか?」
ラフィエル「今度はこんな殺風景なところじゃなく、おうちとか、喫茶店とかで」
ガヴリール「んー…あんまりそういうキャラじゃないんだけどな」
ガヴリール「ま、ラフィエルの頼みごとするなんてめったにないからな。いいよ」
ラフィエル「ありがとうございます!やっぱりガヴちゃんは、変わらないですね」
ガヴリール「変わらない?どこが?」
ラフィエル「いまもむかしも、変わらずに優しいままですね、ってことです♪」
ガヴリール「は、はずいこと言うなよ……そんなんじゃないっての」
ガヴリール「ほら、雨も止んだし、さっさと帰ろうぜ」
ラフィエル「はいっ♪」ニコニコ
ガヴリール「あのさ、ラフィエル?」
ラフィエル「なんですか?」
ガヴリール「さっきも言ったけど……別にわざわざ機会をうかがわなくてもいいからさ」
ガヴリール「話したい時にはいつでも話に来ていいんだからな」
ガヴリール「私も…あ、あんまり悩んでるラフィエルを見たくないしさ」
ラフィエル(照れながらも私を心配するその姿の中に、天使学校時代のガヴちゃんが見えた気がします)
ラフィエル(どんなにぶっきらぼうに振る舞っても、その優しさは隠せませんね)
ラフィエル「……はいっ!わかりました♪」ギュー
ガヴリール「わっ…!ったく、急に抱きつくなって…!」ジタバタ
ラフィエル(やっぱりガヴちゃんは、昔から変わりませんね♪)
完
ありがとうございました。この二人には特に意味もなくダラダラとお喋りしてほしい。
おつ
よかった
ええやん
良いな
良い
/ 、″ __イ_ . / 、″__イ_ . / 、″__イ_ . / 、″-千- / /
./ ヽ ._ノ / ヽ ._ノ / ヽ ._ノ / ヽ _ノ ・ ・
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