月刊 NewsWave 特集「教育メタモルフォーゼ」より


　～学園艦が海から消える日～


　文部科学省が学園艦統廃合についての基準を約60年ぶりに改めた「公立中学校・高等学校の適正規模・適正配置等に関する手引」が発表されて数ヶ月がたつ。当時の新聞などでは「統廃合検討促す」「課題認識も5割が“放置”」などと、進まない統廃合をさらに促したものという点を強調した報道が大勢を占めたが、実態としては過度の統廃合により教育現場や学園艦住民から挙がる不満を抑えきれてはいない。

・「統廃合求めてない」手引き自体は評価

　そもそも手引き自体は、統廃合の数を抑え、教育の充実と地方経済の発展を促すために制定されたものであった。「地方にはうれしいことだ」、「目配りが利いている」と、当時の中央教育審議会で示された手引案に対して、委員から出た意見は極めて好意的なものだった。校長会代表の委員からは「統廃合が次の統廃合を生むという『負の連鎖』は切ってほしい」という声さえ挙がっている。現場では、さらなる統廃合の促進を求めたものではない、というのが一般的な受け止め方であったのだ。

　学園艦の規模については、1956年に制定された「学園艦管理手引」が、この60年近く地方交付税の算定基礎となるなど定着してきた。

　しかし、少子化が顕著になった90年代以降、手引に明示されていた「標準」と実態がかけ離れていったのは周知の事実である。まず都市部で学年1～2学級の維持に支障をきたす学校の問題が深刻になり、各地で統廃合が進んだ。その後も地方、都市部を問わず統廃合が課題となり、文科省の調査（2013年度）によると、この10年に限っても1割に当たる300艦余りが統合されたという。

　さらに追い打ちをかけているのが、95年に制定された教育民間投資枠拡大による私立学園艦の巨大化と、それに伴う私立受験熱の拡大である。前述の文科省調査では、私立学園艦所属者が20年前と比べ3.5倍、希望者に至っては5倍にまで膨れ上がっている。この結果、私立艦と公立艦の学生艦による施設・教育の「質の格差」が拡大したのでは、との声も聞かれる。政府としては、この問題を早急に立て直したいというのが実情である。

・「大洗騒動」にみる執行現場の実態

　しかしながら、手引発表後の執行の現場では、その意図とは裏腹にさらなる統廃合の検討が進められているとの意見が大多数を占める。その理由としてはやはり、近年の緊縮財政による教育予算枠の縮小が挙げられる。最近では、茨城県最大の学園艦であり、今年度の高校戦車道優勝校でもある県立大洗女子学園艦の廃艦騒動が話題となった。その後の戦車道チームの奮起と学園艦生徒会及び全国高高校戦車道連盟の尽力により、廃艦は特例として見送りとなったが、この案件により文科省の担当局である学園艦教育局の方針が露わになったのは言うまでもない。

　この一件について、当編集部は辻廉太教育局長への取材を敢行した。辻は文科省内では屈指の事業整理推進派として知られ、一部では次期事務次官との声も高かった人物だ。

－まず、一度確約した筈の廃艦取り下げを反故にしたという意見についてはどう思われますか

「約束を反故にしたわけではありません。あくまで検討をするという言質をとっただけです。そもそも、この廃艦に関しては昨年度までの段階で局内で既に確定していたものであり、各関係省庁との連携も済ませていたところでした。直前での方針変更はその他の業務執行に支障をきたすことになりますし、関係局にも大変な負担をかけることにもつながります。その点では、今回の撤回は忸怩たるものがあるというのが素直な感想です」

-しかしながら、突然の次期繰り上げに関してはあまりにも乱暴な処置であったと国会でも議論に上りました。

「今年度出された手引により、来年度以降の統廃合を制限すべきとの指令が出されました。その分、確実に負担の大きい学園艦を今年度中に処理するというのが大きな課題となったのです。正直に申しますと、あの手引は執行の現場の実態を全く反映していない。あの予算配分の中、統廃合以外の手法で健全化を図れなど、全くの絵空事です。教育者の意見は勿論重要ですが、運営管理の問題点を無視するようでは本末転倒です。今回の件でも、不必要なまでの教育関係者との会合によって学園艦住民への通告が大幅に遅れてしまったという問題が発生しました。教育局は手一杯なのです」

-今回の件を踏まえ、教育局としての方針に変更はありますか

「全学生の教育の質を確保するためにあらゆる整理の手段を講じるという点では、大きな変更というものはございません。今年度から試験的に導入した、私立校への補助金制度の抜本的見直しに関してもさらに進めていきます。今回の騒動の教訓としては、統廃合後の該当学生・住民に対するよりきめ細かなサポートが必要であるという点です。これらの施策を講じるためにも、政府にはさらなる支援を望みたいところです。繰り返すようですが、統廃合は悪ではないのです。学生の教育の質を確保するための最終手段であるということを理解していただきたい。おそらく私は次年度には異動となると思いますが、後任者にもその旨を伝えていく所存です」

・学生主体で動く学園艦再興

　辻局長の回答を見る限り、教育局の緊縮策が縮小方向に向かうことは暫くないと考えて良いだろう。では今後、運営の厳しい地方学園艦はいかにして立ち回って行くべきか？

　回答の一助となるのが県立大洗女子の運営母体となっている生徒会であろう。あまり知られてはいないが、大洗女子学園は前述した民間投資枠拡大とともに導入され近年申請が続出している「学生自主管理特区」の先駆け的存在である。

　特に、現在の生徒会長である角谷杏を中心とした執行部は、理事長から大部分の運営権を獲得することに成功し、学生運営組織としてわずか1年という短期間で、現時点での入学希望者が昨年と比べ2.3倍（※あんこうリサーチ調べ）になるなど、着実に成果を出している。しかし、角谷自身が語るところによればその日々は綱渡りのようなものだったとのことだ。

角谷「最初にあの辻って役人から統廃合の通達を送りつけられたときは普段物臭な私もヤバイと感づいた。『あ、うちにも来たな』って。ただちょいと早すぎるとは思ったよ。今から考えれば最近流行りの忖度とやらがあったんだろうねえ。辻ちゃんは廃棄業者との癒着が噂されてる議員さんのコネで役人になったって前にお宅の雑誌で呼んだし」

角谷は小誌の数年前の記事にも目を通しているようだった。

角谷「学園艦の運営を担うってことはその分大人とやり合うってことと同義だからね。武器は多く持っておいたほうがいいっしょ？

ただ、廃校問題については小山（副会長）や河嶋（広報）といった優秀なメンツが総掛かりになっても、年々入学者数も学費外収入も減ってるうちみたいな弱小学園艦が統廃合を逃れるすべはなかった。だからこそ、イチかバチかで戦車道に賭けてみる価値があったってわけ。一歩でも踏み外したら学園はなくなる、ほとんど博打みたいなもんだよ。

いささか強引な形ではあったけど、西住ちゃん（※西住みほ 現大洗女子戦車道隊長）が入ってきてくれて本当に救われたと今でも思ってる。優勝という名誉だけじゃなく、統率し行動するという規範が各チームに行き渡って、結果として学生全体の行動力が向上したんだから。西住ちゃんには感謝してもしきれないよね」

戦車道全国大会優勝という栄誉を勝ち取った今だからこそ、角谷は今後の学園艦運営の手を緩めない。

角谷「なにせうちらが統廃合の対象になった最大の理由は、今後の学生増加が見込めない、いわば『ノーブランド』校状態だったってことに尽きる。戦車道の一枚看板だけじゃどうも弱い。そこでうちら執行部は『水産』と『地域イベント』に目をつけた。

まず前者。水産科の面々が養殖に成功している魚介類を大洗女子ブランドとして売り出しPRしていく手段に出てみた。当面の販売相手は他の私立学園艦。戦車道で築いたコネクションを使って販売に乗り出してるよ。早速アンツィオがイカとあんこうの定期購入を申し出てきた。あそこは食にだけは金を惜しまないからねぇ。

後者は戦車道も絡んでるかな。『あのあんこう軍団を支えた町』という名目で、各お店ごとにメンバーの写真パネルを飾ったり、スタンプラリーも組んでもらったり。とんかつ屋のおっちゃん（※常盤良彦 とんかつ専門店クックファン店主兼Oaraiクリエイティブ マネジメント代表取締役）が音頭を取ってくれて、地域全体が参加してくれてる。私達からしたら、恩返しの面もあるしねえ。今度西住ちゃんたちを呼んだトークショーみたいなのやろうと思ってるから、そのときは宣伝よろしく～」

今後の学園艦運営はどんな道を歩んでいけばよいのか？角谷は干し芋を片手に、次世代への継承を視野に入れつつこう締めくくった。

角谷「あと数ヶ月もすれば私達執行部は引退だしね。後継には運良くあんこうで砲手だった五十鈴ちゃん（※五十鈴華）ちゃんが名乗りを上げてくれた。華道の出の彼女なら、この学校の見せ方と締め方をきちんと示してくれると思う。今回の大洗の一件で多くの無名校が戦車道に興味を持ってくれたけど、私としては学生自治による学園艦運営の面にももっと注目してほしいなと思う。そりゃ面倒なことは仕事逃れのうまい(笑)私でさえ直面することは多いけど、それ以上に自分たちの悔いが残らない形で学校に携われるのが本当に楽しい。」


「それに、数年後私がOBとして戦車道で大洗の応援をするとき、公立学園艦のライバルが増えてたほうが絶対面白いと思わない？」

※以上です。以前の作品もよろしければどうぞ

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一部訂正

>>11
×　五十鈴ちゃん（※五十鈴華）ちゃんが～
○　五十鈴ちゃん（※五十鈴華 現大洗女子学園戦車道隊員 兼 華道五十鈴流次期家元）が～

それにしても、劇場版での会長マジ昼行灯