リアル同僚Pからの要望で書いてみました。自分は有香Pではありませんが、恋色エナジーは大好きです。
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アイドル――
それは自分とは無縁の、遠い世界の話だと、ずっとずっと、そう思っていました。
ステージの上でキラキラのスポットライトを浴びて、可愛い服を着て、可愛い歌を歌って、たくさんの声援を浴びて……
女の子ならば誰しも一度は憧れる、アイドル――
自分は子供のころから空手の練習ばかりでした。もちろん、それが嫌だと思ったことはありません。空手に打ち込んでいるときの引き締まった空気感は大好きですし、やっと黒帯を取ったときのあの喜びは何物にも代え難いです。
でも……やっぱり憧れは捨て切れていなくて。自分もあのキラキラしたステージに立ってみたいという気持ちは確かにあって。
だからあたしは、挑戦してみることにしたんです! アイドルへの道を!
「押忍! 志望理由は……!」
最終オーディションの面接、今でもはっきりと覚えています。練習のときはああじゃないこうじゃないと試行錯誤していましたが……やっぱりあたしは、自分を誤魔化すことは出来ませんでした。いつも通りのありのままの自分で挑もうと決めたんです。
そうでなければ、意味がないと思ったから。空手に全力で取り組んだ自分、それを認められたうえで、アイドルという世界に入りたかったから……
面接官の方々やプロデューサーさんは、やっぱり少し驚いていましたが……でも、あたしを認めてくれました。
「空手で培った気合いと根性、それはアイドルでも通用するはずだ。これから一緒に頑張ろう」
プロデューサーさんがあたしの担当に決まったとき、合格理由を訊いたらそう答えてくれました。アイドルのことはまだよく分からないけれど……気合いと根性は誰にも負けない自信があります!
こんなあたしでもアイドルを目指せる、その事実だけで、どんな困難でも乗り越えていけると、そう思っていました。
アイドルというのはそう甘いものではありません。テレビの向こう側で輝いて見える子達も、裏では弛まぬ努力をしているのです。
「有香、レッスンはどうだ?」
「押……じゃなかった、お疲れ様です! レッスンはですね……正直、全然ダメです」
可愛いさとは無縁の世界で生きてきたあたしには、アイドルのレッスンというのはどれも全く上手くこなせませんでした。
ダンスレッスンでは脚さばきを少し褒められましたが……それ以外は酷いものです。
「でも……あたし、こんなことくらいではめげません!」
「プロデューサーさんは、あたしの気合いと根性を認めてくれたんですからね! それに報いるためにも、猛練習します! 押忍!!」
かつて空手で挫けそうになったときも、最終的にあたしはひたすら練習に明け暮れたんです。出来ないのなら……その分練習すればいいだけですからね!
持ち前の気合いと根性でレッスンに挑み続けたあたしは、時間は掛かりましたがようやくトレーナーさんに認めて貰えるまでに成長出来ました。これも空手道が教えてくれたこと。疑っていたわけではありませんが、空手の経験がアイドルの世界でも通用するというプロデューサーさんの言葉は、やっぱり嘘じゃなかったです!
でも、少しだけ自信を無くしてしまった時期もありました。同じ事務所の子達は、見渡すとみんなとっても可愛らしい子ばかりで。やっぱり自分は、そういう『可愛い』っていうものになれていないんじゃないかと……
「何言ってるんだ、有香はどこからどう見ても可愛いアイドルじゃないか」
プロデューサーさんはそう言ってくれましたけど……自信がありません。女の子らしい服は持ってないし、お化粧も自分でしたことなんてありません。
気合いと根性はあっても、可愛さを持っていないアイドルなんて、果たしてやっていけるのでしょうか?
「よし、今日は予定を変更して買い物に行くぞ!」
「買い物……ですか?」
「そうだ。有香、お前に好きな服を買ってやろう」
「え?? あ、あたしにですか!?」
半ば無理矢理、あたしはお洒落な洋服屋さんに連れて行かれました。あの場違い感……未だに忘れられません。
「あのあの! あ、あたし、こういうお店来たことなくてですね!」
「どんなものを選べば良いか、全く分からなくてですね!!」
するとプロデューサーさんは……
「有香が可愛いと思う服、着てみたいと思う服、それを選べば良いんだよ」
優しく諭すように、そう言いました。
「あたしが……可愛いと思う服……?」
胴着を着ている時間の方が長いくらいだったので、服の選び方なんて本当に分かりませんでした。店内を右往左往、色々な服を手にとっては戻し……の繰り返し。
その間プロデューサーさんは、ただ黙って付き添ってくれていました。
そして悩んだ末にあたしが選んだのは……
「こ、これが……可愛いと思いました」
薄ピンク色の、大人しめのワンピース。今までの人生で絶対に着ることのなかった、あたしが初めて自分で選んだ服。
「……その、あたしが着て可愛いかどうかなんて、全然分かりませんがっ……」
「大丈夫だ、絶対に似合うから。それ、俺からのプレゼントということで」
そう言ってプロデューサーさんは颯爽と会計を済まし、あたしに服を手渡しました。
「これが……あたし……」
事務所に帰り、プロデューサーさんが手配したスタイリストさんに手を加えてもらい、頂いた服を着用してみます。
――鏡に映った自分の姿に驚きました。全然自分じゃないみたいで、まるでテレビで見る、アイドルみたいで……
「そうだ、有香はこんなにも可愛いんだ、自信を持て」
気が付くと、あたしの目からは涙が溢れていました。自分自身でも知らない、あたしの中の可能性を引き出してくれる……あぁ、この人があたしのプロデューサーで、本当に良かった……
やがて少しずつ、本当に小さなお仕事ですがやらせて頂ける機会が増えてきました。まだまだ憧れのステージとは程遠い……
だからと言って、どんなお仕事でも手を抜くなんて言語道断ですっ! あたしは常に全力で与えられた役目を全うしました。
ですが、現実というのは厳しいもので……
あたしにそれ以上のお仕事が回ってくることはありませんでした。プロデューサーさんは毎日のようにあたしに謝ってきます。大きい仕事を取って来られなくて申し訳ない、頑張っている有香に応えてあげられなくて申し訳ない、と。
プロデューサーさんは毎晩遅くまで、あたしの為に頑張っていることくらい知ってます。
だからそんなとき、あたしはいつもこう言います。
「気合いと根性です! プロデューサーさん!!」
あたしに仕事を取って来る能力はまだありません。こちらこそお役に立てなくてすみません、と言いたいところですが……それは、プロデューサーさんに余計に負担をかけてしまうのでは……と思ったので、あたしはあたしらしい言葉をかけてあげます!
「ん……そうだな、ありがとう、有香」
そう言って、プロデューサーさんは笑顔になってくれます。あたしは、その瞬間の顔が大好きなんです。
ある日、遂に大きめのお仕事が回ってきました。日替わりで新人アイドルがメインMCを務めるバラエティ番組、そこにあたしの名前が挙がりました。
プロデューサーさんが苦労してようやく取ってきれくれたお仕事。このチャンスを逃すわけにはいきません。
大丈夫、出来る。普段のレッスンに加えて本番に向けての練習も充分に行ってきました。必ず、成功させます――
だけど、あたしは……プロデューサーさんの期待に応えることは出来ませんでした。
視聴者に好評だった他の子達は、その後歌番組の出演が決まり、次々とメディア露出が増えていきます。
あたしはというと……結局、前に逆戻りです。世間に認めて貰えなかったアイドルは、日の目を見ることはありません。
やっぱり――あたしにアイドルなんて、無理だったのかな……
可愛い服を着て、可愛い歌を歌って、キラキラのスポットライトを浴びて……そんなの、らしくないって、そういうことなんでしょうか。
とうとう、気持ちが負けてしまい泣き言を言ったことがありました。
自分にはアイドルなんて向いていない、これ以上やっても仕方ない。何より、プロデューサーさんの期待に応えられない……それが、一番辛かったんです。
今思えば、それらしい理由を付けてただ逃げていただけでした。
それでもそんなあたしの言葉を、プロデューサーさんは黙って聞き入れてくれて、最後に一言だけ。
「やめるやめないはお前の自由だ」
「けど、少しでも続けたいと思う気持ちがあるなら、諦めない方がいい」
「そして、その気持ちがあるのならば、二度とそういう事を言うな」
「中野有香、気合いと根性は誰にも負けません、だろ?」
そうです、プロデューサーさんはあたしのそういう部分にアイドルとしての可能性を見出し、一緒に歩んでくれているんです。ここで諦めたら、そんなプロデューサーさんの想いまで裏切ってしまう……そんなの、絶対にイヤです!!
まだまだ、あたしにはやれることがいっぱい残っているはずです。諦めない限り、どんな可能性も未来もある、そう信じて――
もう、振り返るのはやめます! 前だけ、ただ前だけを見て進む、そう誓いました。
「番組出演が、決まった」
寒さが厳しくなってきた冬のある日、あたしはそう告げられました。
出演するのは新人アイドルによるスポーツバラエティ番組、なんと製作会社側からのオファーでした。
空手黒帯所有者、そこを見込まれたようです。今まで打ち込んできた空手が、今の夢に生きた……嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした!
今度こそ、絶対に成功させてみせます。あたしには、自信がありました。根拠はありませんでしたけど、前回とは違い何の不安もありません。
そして本番当日、以前のようなあたしはもういませんでした。自分の夢に向かって、真っ直ぐに堂々と。
結果は……もちろん大成功。瞬く間に中野有香という名前は世間に知れ渡ることとなりました。
順風満帆。そこからは、目まぐるしく毎日が過ぎていきました。お仕事も次々と増えていって、休む間なんてありません。でも、本当に楽しい日々です。あたしの憧れていた世界が、夢が、もう手を伸ばせば届くところまで……
「どうした? 少し元気が無いように見えるが?」
「押忍! プロデューサー! いえ、ちょっと昔を、あたしがアイドルになったばかりの頃を思い出していまして」
「昔って言っても、そんな前じゃないだろう? ……ま、色々あったからな、ずいぶん昔のことのように思えるってのは分かる」
「そうですね、ほんと、色々ありました」
CDデビュー記念ライブ前夜。最後のリハーサルを終えたあとの事務所で、あたし達の声だけが響きます。
「いよいよ、明日が初ライブ、なんですね」
「ようやく……ようやくここまで来ることが出来ました」
その事実を噛み締めていると、胸の昂ぶりが抑えられなくなってきます。緊張や不安は不思議とありません。ただ、早く歌を大勢のお客さんの前で披露したい……それだけです。
「明日のライブは、俺達のひとつのゴールでもあり、通過点でもある」
「今のお前なら大丈夫だ。最高に楽しんで来て欲しい」
「押忍! 中野有香、最高の初ライブにしてみせます!」
もう大丈夫、プロデューサーさんと一緒なら、どんな道でも進めますから。
「……それにしても、有香、変わったなぁ」
「はい? あたし、どこか変ですか!?」
「いやいや、そういうことじゃなくってだな……」
「その……マジで可愛くなったと、思う」
「……ふぇえ!?!?」
な、いきなり何を言っているんですかプロデューサーさんは!!
「とても服一着選ぶのにわたわたしていた女の子とは思えない」
「あ、あれはですね……まだ不慣れだったから仕方ないと言いますか……そんなこともあったなぁと言いますか……」
「……でも、あのときプロデューサーさんが言ってくれた、お前はこんなにも可愛いって言葉があったから、あたしは女の子としての自信が付いたんです」
「それまで可愛さとは無縁の世界にいたあたしでも、こんな可愛い格好をしてもいいんだ、って」
プロデューサーさんが示してくれた、あたしの新しい可能性。そういったものの上に、今のあたしは成り立っているのだなと思います。
「ははははは、やはり俺の目に狂いはなかったな」
「中野有香は、俺の自慢の『可愛いアイドル』だよ」
少しおどけるように、でもしっかりとあたしの目を見ながら。その力強い眼差しに負けないように……あたしも。
「押忍!! プロデューサーさんも、あたしの自慢のプロデューサーさんです!!」
二人で歩んできた道の最初の到達点は、いよいよ明日、です!!
客席は熱気で包まれています。あたしの初めての舞台、それを見届けようとこんなにもたくさんのお客さんが来てくれたこと、正直実感がわきません。
「皆、有香のために来てくれたファンの人達だ」
「はい……夢じゃない、夢じゃないんですよ、ね」
大勢のお客さんといっても、何万人も入る大きな会場ではありません。即席で作られた、小さなイベント会場です。
でも、あたしにとってはとても、とても大きく見えました。
そして――身に纏った衣装は、あの薄ピンク色のワンピース。プロデューサーさんの想いがたくさん込められた、あたしへのプレゼント。
本当にその服でいいのか……と何度も訊かれました。最初のライブはこの服と決めていたんです。この服じゃないとダメなんです。
あたしが女の子としてアイドルとして、輝き出せた最初の衣装。あたしだけの、特別な衣装……
「……よし、時間だ。いけるな? 有香」
「……」
空手の黙想のように、ふぅ、と呼吸を整えて。
「押忍!! 中野有香、行ってきます!!!!!」
――あたしをここまで連れて来てくれて、こんなに素敵な世界を見せてくれて、ありがとうございます。
はじめて会ったあの日から、いくつもの時間、プレゼント、たくさん、たくさん貰いました。
その全てが、大事な、大事な想いに変わりました。
いま、あたしが、お返しする番です。この掛け声に乗せて……見ていて下さい、プロデューサーさん!!
「押忍! 中野有香です!!!」
――今まで以上になれるかどうかなんて、知らないし分かりません。
でも、お互いのチカラあわせれば、どんな壁だって超えていけるから。
「聞いてください! あたしのデビュー曲、恋色エナジー!!!!」
ありがとう これからずっと――!
END
お付き合い頂きありがとうございました。私の勝手な想像が多いので、イメージを崩されてしまったら申し訳ないです。恋色エナジーの歌詞を組み込んだSSがどうしても書きたかった!
4thのSSA初日でこの曲を聴いたときは泣き崩れました。Cメロがプロデューサーへの感謝の想いを歌っている(と勝手に解釈している)ようで、ほんと大好きです。5thの福岡とSSA初日も期待しております。
おつー
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