――まえがき――
「にぱゆる」シリーズ、はじまります。
第1話/全5話、北条加蓮編。
イマココ)北条加蓮「何してんの?」相葉夕美「こっちこっちっ」
相葉夕美「ありすちゃんには……ニチニチソウかなっ」橘ありす「ニチニチソウ?」
喜多見柚「多くは望まないカモ♪」北条加蓮「私、欲張りになったね」
橘ありす「子供扱いとか、しなくていいですから」高森藍子「ありすちゃん……」
高森藍子「今日はどこに行こうかな?」喜多見柚「遊びに行こうっ!」
※原作無視だらけです
※ちょっと短くないです
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「【長め】がぶーっ」
――事務所――
<がちゃ
高森藍子「おはようございますっ♪」
<しーん
藍子「あれ?」
藍子「今日は、10時からミーティングの予定のハズだけれど……まだ誰も来ていないのかな?」
藍子「みなさんが来る前に、お茶を用意しておこうっと」
<がちゃ
相葉夕美「おは――」
夕美「!」
<えーっと、ありすちゃんの分はこっちで、夕美さんの分は――
<準備、できましたっ。あとは、みなさんが来たら、お湯を淹れましょう
夕美「……♪」ニヤリ
<がちゃ
北条加蓮「おはよー」
夕美「!」
夕美「(小声)加蓮ちゃん、しーっ」シー
加蓮「(小声)……? 何してんの?」
夕美「(小声)こっちこっちっ」テマネキ
加蓮「……?」
夕美「(小声)ほらっ」ユビサス
加蓮「……」
夕美「(小声)ねっ」
加蓮「……」ニヤリ
藍子「~~~♪ ~~~~♪」パラッ
藍子「あ、こっちの靴、可愛い……♪ 今度、買いに――」
「「せーのっ」」
藍子「?」クルツ
相葉夕美「がぶーっ!」(左側から噛みつく)
北条加蓮「がぶーっ」(右側から噛みつく)
藍子「ひゃああああああああああああああーーーーーーーーっ!?!?」
夕美「よっと」ハナレル
夕美「ふふふっ、大成功っ! いい反応だったねっ」
加蓮「いえーい」パンッ
夕美「いえいっ♪」パンッ
藍子「!?!????!?」
加蓮「でもよくバレなかったよねー。ちょっと後ろに回ってただけなのに」
夕美「ばれちゃうかもってスリルも楽しいよね♪」
加蓮「夕美とかもう普通に笑い声してたしー」
夕美「藍子ちゃんの反応を想像してたらつい♪」
加蓮「あ、ミスった。撮影しとけばよかったかな」
夕美「いいのいいのっ。びっくりするのは、今だけで!」
藍子「!!????!?!?!?」
夕美「次はありすちゃんにも仕掛けてみよっかっ」
加蓮「ありすは厳しくない? けっこう警戒心強いよね、あの子」
夕美「あはは、そうかもっ。私もけっこう警戒されちゃってるかな?」
加蓮「夕美はイタズラばっかりだからねー」
夕美「よし、今回は加蓮ちゃんにお任せしますっ」
加蓮「えー、私1人で? ちょっと自信ないなぁ。夕美も一緒にやろうよ」
夕美「しょうがないなー。じゃ、私がプランニングしちゃうねっ」
藍子「?? !?!? ?????!?」
夕美「藍子ちゃーん。そろそろ戻っておいでー?」フリフリ
加蓮「刺激が強すぎたかなー」
夕美「もうっ。加蓮ちゃん、強く噛みすぎちゃったんじゃないの? 甘噛みにしなきゃっ」ガブガブ
加蓮「って言いながらまだ噛んでるよ……。強くしすぎたのは夕美の方じゃない?」
夕美「私はそんなにしてないよーっ。ちょこっと舐めてみただけでっ」
加蓮「……えぇ……」
夕美「え、あれ? 加蓮ちゃん加蓮ちゃん? なんでちょっと引くのかな?」
藍子「はっ……び、びっくりしたぁ……」
加蓮「おかえりー」
夕美「おかえり、藍子ちゃんっ」バッ
藍子「はい、ただいま戻りました、加蓮ちゃん、夕美さん。そして、おはようございますっ♪」
加蓮「おはよう、藍子」
夕美「おはようございます、藍子ちゃんっ」
藍子「……って! もうっ、いきなり噛み付いてこないでください!」
加蓮「そうだよー夕美。藍子を困らせちゃ駄目じゃん」
夕美「加蓮ちゃんも一緒になってやったでしょーっ」
加蓮「言い出したのは夕美だよ?」
夕美「だって、藍子ちゃんが困る顔が見たくてついっ」
加蓮「あー、それなんとなく分かるー」
藍子「加蓮ちゃんもです!」
加蓮「やっぱり?」
<がちゃ
喜多見柚「おはよーっ!」
橘ありす「おはようございます」
夕美「柚ちゃん、ありすちゃん! おはようっ」
加蓮「おはよー」
柚「さっきありすチャンとそこで合流したんだっ! これで全員集合カナっ」
柚「……んん? なんか楽しそうなことしてる匂いがするっ」クンクン
加蓮「匂い?」
夕美「残念っ。もう終わった後だよっ。さっき、私と加蓮ちゃんで藍子ちゃんにがぶーってやったんだ!」
柚「じゃー次は柚がやる! とりゃー!」ガバッ
加蓮「しかし避ける!」ヒョイ
柚「ぎゅえっ!」ビターン!
ありす「がぶー……?」
藍子「あはは……。加蓮ちゃんと夕美さんの、いつものですよ。いきなりだったから、びっくりしちゃいました」
夕美「いきなりじゃないとイタズラにならないよっ」
藍子「まずイタズラをしないでくださいっ」
ありす「……ああ、そういうことですか。また夕美さんが変なことを思いついたんですね」ジトー
夕美「あ、ありすちゃん? 私だけじゃなくて加蓮ちゃんもなんだけどな?」
ありす「いいえ。どうせ夕美さんが言い出して加蓮さんを巻き込んだに決まっています。違いますか?」
夕美「……加蓮ちゃんっパス!」
加蓮「ごめん夕美、私今そこでヒキガエルになってる子を踏みつける作業があるから」ゲシゲシ
柚「あふんっ」
加蓮「うりうりー、ここかー、ここが気持ちええんかー」
柚「うににー。やーめーてー……あれっ? なんかホントに気持ちいい!」
加蓮「ツボ押しツボ押し!」ゲシゲシ
柚「はふんっ」
ありす「……よく分かりませんが言及はまた後にします。それよりも」
夕美「なになに?」カガミコミ
ありす「ミーティングの時間ですよね。モバP(以下「P」)さんはどこに?」
藍子「まだ来ていないみたいですね。ゆっくり待ちましょうかっ」
ありす「分かりました」
夕美「実はね、昨日ありすちゃんと色々お話したんだっ。次のステージのこととか、衣装のこととか!」
藍子「そうなんですか?」
夕美「次のステージは藍子ちゃんが主役だよね。色々考えて来たんだけど聞いてくれるかな?」
藍子「わぁ、ありがとうございます。聞かせてくださいっ」
夕美「ありすちゃんも、Pさんが来るまで私たちだけで話しちゃお?」
ありす「はい。ステージのこと、私も一生懸命考えました。ちょっとだけ自信があります」
藍子「ありすちゃんも。ふふっ、ありがとね、ありすちゃん」ナデナデ
ありす「いえ……LIVEのことを考えるのはアイドルとして当然のことです。やる以上は完璧な舞台にするべきで……その、バックダンサーに私も出る訳ですし……だから別に褒められることじゃ、」
藍子「ありがとう、ありすちゃん♪」ニコッ
ありす「……は、はい。…………えへへ」
夕美「私も撫でちゃうっ」ナデナデ
ありす「きゃっ。や、やめてください夕美さん」
夕美「えー。藍子ちゃんはよくて私は駄目なの?」
ありす「そういうことではなくて……もうっ!」
柚「はいはーい! 柚から1つ提案!」バッ
加蓮「うわちょ、いきなり起き上がらないでよ! びっくりしたぁ」
藍子「はい、何ですか?」
柚「藍子チャンがこう、ばーん! って飛ぶのがいいと思いますっ」ガバッ
藍子「と、とぶ?」
柚「そそっ。こう、前にテレビで見たヤツ! ほら、夕美サンも一緒に見たじゃん! ワイヤーとかつけて、きっと似合うよっ」
夕美「違うのーっ柚ちゃん! 藍子ちゃんは歩くの! ステージに花の道を作って、そこを藍子ちゃんが歩くのとか面白そうじゃない?」
ありす「いえ。あえて動かないというやり方もあると思います。藍子さんの静かで落ち着いた雰囲気を重視した演出はどうでしょうか」
加蓮「……え? これ言っていくパターン? 私何も考えてないんだけど」
柚「はくじょーだぞっ加蓮サン!」
夕美「もうっ。真剣に考えなきゃダメだよーっ」
ありす「加蓮さんがノープランというのは珍しいですね」
加蓮「ひどっ」
藍子「お花の道を、歩いて……。それ、とっても楽しそうです」
柚「負けた!?」ガビーン
ありす「……」ショボン
藍子「あっ……ええと、ステージを飛び回るのも、静かに歌うのも、とっても素敵だとは思います」
藍子「でも、想像してみたら、お花の道を歩くのが一番楽しそうかなぁって」
藍子「それと……と、飛ぶ? のは、私にはちょっと難しそうで……ごめんなさいっ」
柚「柚にだけ追い打ちがきた!?」ヨロヨロ
柚「うきゅう」バタン
加蓮「はい残念でした。生きてるかー?」ツンツン
柚「夕美サンに負けた……。加蓮サン、アタシいらない子? いらない子?」
加蓮「はいはい、いるから落ち込まないの」ナデナデ
柚「やたっ」
加蓮「毎度ながら立ち直るの早いなー」
柚「いつまでもクヨクヨしてたら未来は来ない! って誰かが言ってた!」
加蓮「誰だろ……。ありす、分かる?」
ありす「さあ。柚さんのことだから、存在しない人物の可能性があるのでは?」
加蓮「確かに」
柚「ありすチャン正解! そんなありすチャンにはー、はいこれ、柚グッズを進呈!」スッ
ありす「……これは……バッジ、ですか?」
柚「そそっ。柚のてへぺろマーク! 手書きのっ」
夕美「見せて見せてっ。わー、可愛いっ! これ柚ちゃんの手書きなんだっ」
柚「そだよ! あ、あんまり上手くできてないかもしれないケドっ、次の柚のLIVEではこれを配っちゃうんだ!」
藍子「ファンのみなさん、きっと喜びますねっ」
柚「そんでそんで藍子チャンの話! お花って?」
加蓮「藍子って言えば……ひまわりとか?」
ありす「向日葵ですか。私はもう少し大人っぽい花の方がいいと思います」
加蓮「可愛い系の方がよくない?」
ありす「大人っぽい方がいいに決まってます」
加蓮「む。歳相応ってのもいいんじゃない?」
ありす「何でも歳相応が良いとは限らないのでは?」
加蓮「そう? たまにはさー、元気いっぱいな藍子を見せていこうよ。ほら、ただでさえ誰かさんとか誰かさんが面倒かけるお陰で藍子は大人しいってイメージになっちゃってるみたいだし? ねえ?」
ありす「……誰のことを言ってるんですか」
加蓮「えー? ありすちゃんのこととは一言も言ってないよー?」
夕美「加蓮ちゃん、どうして私の方をじーっと見て言ってるのかな?」
加蓮「誰かさんとか誰かさんが。つまり複数。片方はありすとして、」
ありす「やっぱり私なんじゃないですか!」
加蓮「で、もう片方は――」チラッ
夕美「・ワ・」
柚「出たっ」
藍子「まあまあ。私は別に、迷惑なんて思ってませんから……」
藍子「ありすちゃんも、夕美さんも、私にできることがあったら、何でも言ってくださいね。もちろん、加蓮ちゃんも柚ちゃんも!」
柚「あいあいさー!」
ありす「…………」コクン
加蓮「あーあ、藍子には敵わないなぁ」
夕美「さすが藍子ちゃんっ、頼りになっちゃうね!」
藍子「……でも、いきなり噛み付いてくるとかはできればやめてほしいです」
加蓮「ごめんってば」
藍子「それで、お花のお話ですよね? 実は私、夕美さんからいろんなお話を聞いて、最近、お花のことを勉強しているんです」
夕美「そうなの? それは嬉しいなっ」
加蓮「私もー。調べてみると奥深くて楽しいよね」
柚「アタシもアタシも! ほんのちょこーっとだけだけど! 勉強とかニガテだしっ」
夕美「加蓮ちゃんに柚ちゃんも! とっても嬉しいよっ。自分の好きな物を好きになってもらえるのって、すごくいいよねっ」
ありす「あの、私も――」
夕美「ありすちゃんもっ!?」
ありす「別に、つられてという訳ではないんですが。知っておいて損はないと思って」
夕美「うんうんっ。じゃあ今度、一緒に本屋とか図書館に行こっか。オススメの図鑑とかいろいろ教えてあげるねっ」
柚「図書館ってうるさくしてると怒られるからアタシ苦手ー」
加蓮「眠くなっちゃうよね、静かな場所って」
柚「学校の授業とかも! アタシいっつも寝てる!」
加蓮「先生に見つからないでうまく寝る方法、知りたくない?」
柚「教えて教えて!」
加蓮「まずはね、手をこうして――」
ありす「2人して何やっているんですか。学校の勉強もちゃんとやってアイドルです。Pさんだっていつも言っています。勉強を疎かにしてはいけないと」
柚「ありすチャン、マジメすぎっ。そんなところがありすチャンだけどっ」
加蓮「ホントだよ。そんなんじゃダメだよ柚。ありすの言う通り、ちゃんと授業とか受けて、それでアイドルも頑張らなきゃ」
柚「あれ!? 加蓮サン!? あれ!?」
ありす「…………そうですね」
加蓮「あっれー反応が薄い」
夕美「図書館がダメなら、花屋さんとかどうかな?」
藍子「色々なお花のお話が聞けそうですね」
柚「そっちの方が面白そう! じゃー今日はお花屋サンに行くってことで決定!」
夕美「おーっ!」
ありす「花屋で勉強ですか。それなら、質問することを用意した方がよさそうですね」
藍子「え? い、いいのかな……? Pさんもまだ来ていないし、今日の予定は、もうちょっと待った方が――」
加蓮「そうだ。それならさ、帰りに寄りたいところあるんだけどいい?」
ありす「どこですか?」
加蓮「おっ、ありすちゃんは興味津々?」
ありす「……そんな言い方されたら、私じゃなくても誰だって興味を持ちます」
夕美「ありすちゃん、前に加蓮ちゃんに連れていってもらったアパレルショップではしゃいでたよね。いろんな服に目をキラキラさせてて、何回も試着してて――」
ありす「あれはそういう気分だっただけです! 今は関係ない話です!」
夕美「ふふふっ」
藍子「もう、夕美さんっ。あんまりからかわないであげてください。加蓮ちゃんは、どこに行きたいんですか?」
加蓮「駅前のファミレスー。そこのポテトセットがすっごく美味しいってウワサがあるの! ちょうどお昼になりそうだし、みんなで行かない?」
柚「ファミレスなのにポテトー?」
加蓮「うんうん。不思議でしょ? でも美味しいって声がいっぱいあってさ。ファンの人もツイッターで教えてくれたんだ。これはもう行くっきゃないでしょ!」
ありす「ファンの人がって……それ、危なくないですか?」
加蓮「だいじょうぶだいじょうぶ。あとそのファミレス、イチゴケーキが美味しいって話もあるんだよ。ありすちゃん、イチゴ大好きでしょー?」
ありす「! それは是非行って確かめるべきです!」
加蓮「よし食いついた」
柚「はいはい! アタシハンバーグが食べたいっ」
夕美「私もハンバーグが食べたいな♪」
柚「えー、夕美サン柚の真似ー。じゃあアタシ別のにしたいカモ。かぶってたら面白くなさそうだっ」
柚「そいえば藍子チャンは何食べるー?」
藍子「え? ええと……」
加蓮「そのファミレスさ、けっこう量が多いみたいなんだ。ポテト食べたいけど完食できる自信なくて。藍子、半分くらい食べてくれない?」
藍子「あ、はいっ。いつも通り、半分こですね」
加蓮「うんうんっ」
夕美「あー! 加蓮ちゃんばっかりいっつもずるい!」
柚「そうだそうだー!」
夕美「私だって藍子ちゃんと半分こしたいもんっ!」
柚「そうだそうだー!」
加蓮「もん、って……子供かアンタは」
柚「アタシも加蓮サンのポテト欲しいっ」
加蓮「はいはい、柚にも分けてあげるから」
ありす「…………」ソワソワ
藍子「……ふふっ。ありすちゃんとも、はんぶんこ。ね?」
ありす「べ、別に……、……はい」
<ガチャ
夕美「あ、Pさん!」
ありす「遅いです。……渋滞していた? そうですか。それなら仕方ありませんね」
加蓮「おはよう、Pさん。今日なんだけど午前って空けてもいい? ……大丈夫? やったっ」
藍子「おはようございます、Pさん。何のお話をしていた、ですか? ふふっ、今日、お花屋さんに行って勉強することになったんですよ」
柚「おはよーっ! そんで、帰りにファミレス! 加蓮サンとポテトをはんぶんこするんだっ」
夕美「え? うん、大丈夫! 午後のレッスンには間に合うようにしますねっ」
「(その後)噛みつく #とは」
――路上(花屋への道中)――
柚「あっちのパン屋さん美味しそうっ!」
藍子「柚ちゃんっ。今は、お花屋さんでしょ?」
柚「ちぇー」
藍子「だから、パン屋さんは今度一緒に」
柚「おお? 藍子チャンも興味ある系? 興味ある系!?」
藍子「だって、こんなにいい匂いが外までしちゃうから……」
ありす「……思い出しました。夕美さん、加蓮さん」
夕美「なにー?」
ありす「噛み付いていた、っていうのは、結局何だったんですか?」
藍子「……!」ビクッ
柚「藍子チャンがちっちゃい動物みたいなことした!」
加蓮「どーどー。藍子、もうやらないから。ね? そんな怯えないで?」
夕美「何って……イタズラ?」
ありす「そういうことじゃなくて! ええと、つまり私が言いたいのは、藍子さんを困らせないでくださいってことです!」
柚「そうだそうだー!」
藍子「ありすちゃんっ。大丈夫、私、そこまで気にしてませんからっ」
ありす「いいえ、こういうことは言うべき時にはっきり言うべきです! 藍子さんは優しすぎますから、代わりに私が言うんです!」
柚「そうだそうだー!」
加蓮「アンタはノリで言ってるだけでしょーが、柚」
柚「なぜばれた!」
加蓮「なぜバレないと思った」
夕美「むー。ありすちゃんがそう言うならちょっと控えよっかな」
ありす「その言葉、ちゃんと聞きましたからね。いえ、夕美さんの口約束は信用し難いですし、ここは書面でしっかりとした証拠を――」
加蓮「ふふっ。ありすちゃんって藍子のことが大好きだよねー」
ありす「何ですか、急に。……だいたい、それの何が悪いんですか?」
柚「アタシは加蓮サンが大好き!」
夕美「じゃあ私は、みんな大好きだよっ」
加蓮「うわ、尻軽だ」
ありす「優柔不断ですね」
柚「えーと、うわきしょう?」
夕美「なんで!?」
藍子「私も……加蓮ちゃんも、ありすちゃんも、夕美さんも、柚ちゃんも、みんな大好きですっ」
ありす「さすが藍子さんです。その……私も、藍子さんのこと、す……好きです」
加蓮「私も好きだよー」
柚「きゃーっ、照れる照れるっ。えとえと、アタシも大好きだよーっ。……これも照れる!」
夕美「ねえちょっと!? 私と藍子ちゃんで反応が違い過ぎないかな!?」
<おー、あっちのワンピース可愛いっ。ねね、ちょっと着てみないっ?
<柚ちゃん。今は、お花屋さんですよ?
<そうだった!
<…………。
<ありすちゃんも。今度また、一緒に試着しましょ?
<……そ、そうですね。アイドルですから
夕美「…………」シクシク
加蓮「…………」カタポン
加蓮「ドンマイっ」グッb
夕美「加蓮ちゃんなんて間違えてPさんにいっぱいホウセンカでも送っちゃえ!」
加蓮「やだよ! 普通にバラとかでいいよ!」
※ホウセンカの花言葉……「私に触れないで」「短気」「せっかち」
「女の子達のオシャレ事情」
――事務所――
加蓮「んー……」パラパラ
夕美「加蓮ちゃん、何読んでるのかなっ?」ノゾキコミッ
加蓮「あ、夕美。夕美ならさー、このゆるシャツに何合わせる?」
夕美「ボトムス?」
加蓮「うん」
夕美「私ならプリーツスカートかなぁ。最近、ふわっとした感じのスカートにハマってるのっ」
加蓮「やっぱり夕美だとそうなるよねー。私も、デニムばっかり選んでないでワンピースとか試してみよっかなぁ……」
夕美「今日もデニムだよね。スポーティで良い感じだよっ」
夕美「あっ、ワンピースって言えば藍子ちゃんがたくさん持ってるみたいだよ。借りてみたらどうかな?」
加蓮「んー……いいよ。藍子が着るようなのを着こなす自信はないし」
夕美「それなら私のスカート、貸してあげよっか? 加蓮ちゃんにもピッタリの感じのあるから!」
加蓮「じゃあテキトーに見繕って持ってきてもらっていい?」
夕美「はーいっ。トップスはもう決めてるの?」
加蓮「夕美が持ってきたのを見て合わせてみるよ」
夕美「ついでにシャツも持ってきちゃおっと」
加蓮「ちょっとー、トップスは私が選ぶんだから。夕美がぜんぶ持ってきたら着せ替え人形にしちゃうでしょ?」
夕美「えーっ。私にも加蓮ちゃんのコーデさせてよー」グイグイ
加蓮「やだー」
<がちゃ
ありす「おはようございます、加蓮さん、夕美さん」
加蓮「おはよー」
夕美「おはよう、ありすちゃんっ」
夕美「…………」ジー
ありす「……? 何ですか?」
夕美「ありすちゃんって……何って言うんだろ。お嬢様っぽいファッション? が好きだよね」
加蓮「紺のチュールスカートとかいつも似合ってるよね。上品って感じがして」
ありす「急に何ですか? よくわかりませんが、ありがとうございます」
ありす「これは母から買ってもらった物です。女の子ならおしとやかに、と何度も言われていますから」
夕美「うんうん、そんな感じがするよねっ」
加蓮「まさにお嬢様ってイメージだよね」
夕美「だからこそー?」
加蓮「試したくなっちゃうよねー?」
夕美「うんうんっ」
ありす「……猛烈に嫌な予感がするんですが……試す、ですか?」
夕美「せっかくアイドルになったもんね。女の子らしくおしとやかなのもいいと思うけど、色々やってみなきゃ損だよっ」
加蓮「それにここには、ファッションを教えてくれるお姉さんがいっぱいいるんだよ? 夕美の言う通り、やらなきゃ損だね!」
ありす「色々とやってみる……ですか」
夕美「オシャレは冒険っ」
加蓮「オシャレは度胸!」
ありす「確かに私も試行錯誤してみたいとは思っていました。加蓮さんのファッションセンスは、私も見習いたいと常々思っていましたから……お願いしてもいいですか? 加蓮さん」
加蓮「オッケーオッケー!」
夕美「私は!? ねぇ私は!?」
ありす「夕美さんに任せると変な格好にさせられそうなので嫌です」
夕美「そんなーっ。私も混ぜてよ! お願いだからーっ」
ありす「……はぁ。冗談です。でも真面目にお願いします。私も真面目なので」
夕美「やったっ」
ありす「それで、試すとはどんな風にですか?」
加蓮「んー。ありす的にはどうしたい?」
ありす「まだ決まっていません。ファッションについては調べてはいるんですが、よく分からなくて……。サイトによっても、書いてあることがバラバラで、正解が見つからないんです」
加蓮「調べてみるより試した方が早いかもね。今まで着たことないのを選んでみるだけでだいぶ違うと思うよ?」
夕美「試着コーナーに行ったら1日なくなっちゃうよねっ」
加蓮「なくなるなくなる。っていうか週末のオフがぜんぶ消し飛ぶよね」
夕美「もう1日お休みがあればいいのに、って思っちゃうよね!」
ありす「い、1日も……?」
加蓮「ありすだったら……案外ピーコートとか似合ったりして。メンズ系の」
加蓮「ほら、この辺」スマフォミセル
ありす「……これは男性向けのファッションサイトでは?」
加蓮「アリだと思うけどなぁ。女の子らしいありすだからこそ敢えて! みたいなの」
夕美「加蓮ちゃんってそういうコーデ得意だよね。意外性って言うのかな? 私もそういう系はやったことないから見学させてもらうねっ」
加蓮「ふわふわ系なら夕美や藍子の領域だけどね。柚……は楽しければ何でもってタイプだし」
夕美「加蓮ちゃんならではの変化球って感じかなっ?」
ありす「そういうのもあるんですね……」ジー
加蓮「別に意外性だけで勝負しようって訳じゃないと思うけどさ。要するに、がらっとイメージの変わるコーデもアリだってこと」
加蓮「夕美も言ったけど、せっかくアイドルなんだよ。誰も着てないようなのだって案外流行ったりするもんだよ?」
加蓮「こう、ありすスタイル! みたいなのができたりしてっ」
ありす「ありすスタイル……!」
ありす「いえ、どうせやるなら橘スタイルでお願いします!」
加蓮「じゃ探してみよっか、橘スタイル!」
夕美「オシャレは女の子の義務だよね。色々やってみようよ!」
ありす「分かりました。私、分からないことばかりなので、お任せします」
加蓮「よしきたっ」
夕美「腕がなるね♪」
――数日後――
ありす「おはようございます、Pさん」
ありす「……いつもと違う格好? さすがPさんですね。加蓮さんと夕美さんと一緒に選んだんです」
ありす「本来なら男性用の、コンパクトなコートを使いつつ……ええと……」
ありす「色鮮やか? なシャツとパンツで、女の子らしさを、魅せる……だったっけ……?」
ありす「……説明用の台本はまた読み込んできます。加蓮さんや夕美さんにも聞かなければ」
ありす「とにかく、これが新しい私、"タチバナ・スタイル"です! 次のお仕事はこれで挑みます。私の手で新しい流行を作ってみせます!」
ありす「……え? だったらもっとアピールできるように?」
ありす「そうですね。改めて、アピールの練習をしたいと思います。Pさんも手伝ってくれますか?」
夕美「ふふ、いい感じいい感じ……♪」(物陰から見守っている)
加蓮「Pさんもびっくりしてるー。いいじゃんいいじゃんっ」(物陰から見守ってる)
「(その後)むしとり少年」
――さらに数日後・事務所――
藍子「おはようございま――」
ありす「ですから! この虫取り網と虫カゴは何に必要なんですか!?」
夕美「いるったらいるの! だってすっごく似合ってるじゃん!」
柚「うんうん、アタシもありだと思う!」
加蓮「……いや夕美、柚。ショーパンに虫取り網ってそれじゃまるっきり男の子じゃん」
ありす「加蓮さんの言う通りです! これは"タチバナ・スタイル"には必要ありません!」
夕美「ニュー・たちばな・スタイル、行ってみようっ」
ありす「行きません!」
藍子「あはは…………」
藍子(私も、ありすちゃんみたいなスタイルを試してみようかな?)
「(その後のその後)ボーイッシュ(意訳:男の子みたい)」
夕美「え? 藍子ちゃんとPさん、喧嘩しちゃったの? どうしてっ?」
加蓮「なんか、ありすに影響された藍子がボーイッシュなコーデをお披露目したらさ、Pさんに男の子みたいって言われたんだって」
夕美「あちゃー」
「ぜーはーぜーはー」
――レッスンスタジオ――
柚「アタシの勝ち!」イエーイ
加蓮「ゼー……ゼー……く、くそぅ……」バタン
<がちゃ
藍子「加蓮ちゃーん、柚ちゃーん。ここにいますかー?」
柚「あっ藍子チャンだ!」
加蓮「や、やほ、藍子……」ゼェゼェ
藍子「あっ、よかった、ここにいたんですね」
藍子「…………」ジー
藍子「……大丈夫?」ツンツン
加蓮「だいじょ、ぶ…………」
藍子「ぜんぜん大丈夫に見えない……」
藍子「レッスン、そんなにハードだったんですか?」
柚「そんなことないよー?」
藍子「それなら、どうして加蓮ちゃんはこんなに……?」
加蓮「それがさ……聞いてよ藍子……。レッスン終わった後、ちょっと時間があるからって、私と、柚で」
柚「勝負することになったんだ。ルームランナーでどっちが長く走れるか!」
加蓮「最近は、ゲホッ、体力、ついてきたと、思ったけど……」
柚「アタシの圧勝だったっ! 加蓮サン、今日もすぐへばちゃったんだ」
加蓮「くそー……次は負けないからね、絶対」
柚「また勝負しようね!」
柚「……ハッ! ここはもっと大物っぽくした方がよさそう!」
柚「ふははははー、加蓮サンよー、いつでも我に挑むが良いわー」
加蓮「うわっ似合わないー」
柚「バッサリ!?」
加蓮「上から目線なのに、加蓮サン、って言ってる時点でねー」
柚「しかもダメ出し!? だって、加蓮サンは加蓮サンだもん!」
藍子「ファイトです、加蓮ちゃん。次は、きっと勝てますよ」
加蓮「うん。頑張るよ」
柚「えー、藍子チャン藍子チャン、アタシの応援はしてくれない系?」ユサユサ
藍子「柚ちゃんも頑張ってくださいっ。どっちも応援していますから」
柚「やたっ。ところでー、藍子チャン、アタシ達のこと探してた? 何かあったの?」
藍子「そうでした。今、夕美さんとありすちゃんが、事務所でフルーツジュースを作っているんですよ。すっぱくて甘くて美味しいって言ってたから――」
柚「ジュース!? 飲みたい飲みたい! アタシ先行って飲んでるね!」タタッ
<バタン
藍子「おふたりも……って、もう行っちゃってる」
加蓮「言い終わる前に行っちゃったね……」
<バタン
柚「あっ加蓮サンの分はちゃんと残しておくね! 藍子チャンの分も! でもでもー、早く来ないとアタシがぜんぶ飲んじゃうぞーっ」
<バタン
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……レッスンやって、ルームランナーもやって、なんであんなに元気なのよ、あの子……」
藍子「柚ちゃん、いつも元気いっぱいですよね」
加蓮「くそう」
藍子「そんなに、負けたことが悔しかったんですか?」
加蓮「柚にっていうより自分にねー……。はー……」ネコロガル
藍子「加蓮ちゃんも、負けず嫌いなんですから」
加蓮「負けっぱなしじゃなくていい場所だもん。挑戦できることがすっごく幸せだし」ゴロン
藍子「幸せなんですか?」
加蓮「ここでならキツイことも苦手なことも頑張れるよ……よ、っと」オキアガル
藍子「すごく頑張るんですね。私はもう、加蓮ちゃんは十分に頑張っているって思いますけれど……」
加蓮「結果を出すまで頑張るよ。打倒私、そして打倒柚。あの子にだけは絶対に負けてられないっ」
藍子「じゃあ、加蓮ちゃんが頑張るところ、しっかり見ておきますね」
加蓮「うん、お願い」
藍子「あの……歩けますか? 早く行かないと、加蓮ちゃんの分まで柚ちゃんに飲まれちゃうっ」
加蓮「歩くくらいなら大丈夫。ちょっとゆっくりになるけど、一緒に行こっか」
藍子「はい! あっ、それなら、歩きながら教えてください。今日のレッスンのこととか、柚ちゃんとの勝負のこととか!」
加蓮「よしきたっ」
「【長め】にぱにぱゆるふらわ~ストロベリーミント」
――事務所のミーティングルーム――
夕美「みんな揃ったかな? じゃあ、第6回ユニット会議、始めるよっ」
柚「わー」パチパチ
藍子「わー」パチパチ
ありす「……」パチパチ
ありす「必要な資料は用意しました。準備は万全です」キリッ
藍子「メモの準備も、ばっちりですよ」
柚「お菓子もジュースも準備オッケー! まったりやっていこー」
柚「って、アレ? 第6回なんだ。なんかもーちょっとやってる気がしてたっ」
ありす「会議の回数を数え始めたのは、夕美さんがユニットに入ってからです」
藍子「それ以前のミーティングも合わせると、もっと回数をこなしているかもしれませんね。夕美さんが入ったのは、一番最後でしたから」
柚「あっそっかー」
ありす「それで、今日の議題は?」
夕美「藍子ちゃん説明お願い!」
藍子「はいっ。ありすちゃん。そっちの資料を貸してもらってもいい?」
ありす「はい、どうぞ」スッ
藍子「ありがとう」パラパラ
藍子「実は、Pさんから、私たちのユニット名を考え直してほしいってお願いされているんです」
藍子「Pさんが決めてもいいですけれど、こういうのは私たちが決めた方が、ユニット名にも思い入れが生まれるだろうから、って」
藍子「それから、この会議室は今日いっぱい使っていいそうです。大切なユニット会議だから、って。ふふ♪」
夕美「ということだよっ」
柚「ということかー」
ありす「本来ならそれは夕美さんが説明すべきなのでは? 仮にもリーダーを名乗っているんですから」
夕美「か、仮にもなんて失礼だよっ。れっきとしたリーダーだよ私!」
ありす「そうは見えませんが」
柚「はいはい! アタシはこのユニットのリーダーは藍子チャンだと思いまーす!」
夕美「!?」
ありす「会議室を借りる手続きをしたのも藍子さんですよね。スケジューリングも、藍子さんがやっていました」
柚「あとあとー、アタシ達に連絡してきたのも藍子チャンだった!」
ありす「……確かにこれは、藍子さんの方がリーダーと呼べるのでは?」
夕美「!?!?」
藍子「私、ですか……? でも、夕美さんが一番年上ですから、やっぱりリーダーは夕美さんの方が……」
ありす「年功序列なんてもう昔の考えです。元々リーダーとは本来年齢とは関係なく決めるべき物です。私は、藍子さんの方がリーダーとして適任だと思います」
柚「アタシも! ってことでー、このユニットのリーダーは藍子サンで決まりっ」
藍子「そ、そんなことないと思いますけれど……でも、それなら私、頑張りますねっ!」
柚「おー!」
ありす「応援しています」
夕美「・ワ・」
藍子「(小声)……お、おふたりとも冗談で言っているだけですから、きっとっ」
夕美「(小声)絶対冗談じゃないよねアレ!?」
藍子「い、今はリーダーを決めるためではなく、ユニット名を決めるためのミーティングですよ。リーダーのお話は、また後日ということで……」
柚「あいあいさー! 藍子チャンリーダーっ!」
夕美「だからリーダーは私なのーっ!」
ありす「いつ話し合っても結論は変わらないと思いますが」
柚「でもでも、確かに藍子チャンの言う通り! 日を置いて考え直してみるのもいいと思うっ。そしたらさー、もしかしたらー、柚がリーダーになっちゃったりしてっ」
ありす「……それなら私だって、リーダーになるための素質はあると思います」
柚「おおっ。ありすチャンから宣戦布告を受けてしまった! アタシ頑張るぞーっ」
藍子「こらっ。リーダーのお話は、また後で、ですよ」
柚「はーい!」
ありす「そうでしたね」
夕美「さてっ。そんな訳でユニット名を決める会議をしたい……んだけど……」チラ
ありす「……珍しいこともあるんですね」チラ
藍子「あはは……疲れちゃってるのかな?」チラ
柚「アタシ落書き用のペン探してくる!」
加蓮「すー……すー……」zzz
夕美「……うん。誰か、そこのねぼすけさんを起こしてあげてもらっていい?」
柚「はいはい! アタシやるっ!」
藍子「ペンを探すのはいいんですか?」
柚「おっ、藍子チャン藍子チャン、実は加蓮サンに落書きがしたいって思っちゃってたり~?」
藍子「ええっ!?」
夕美「!」キラーン
ありす「たぶん誤解ですから目を輝かせないでください夕美さん。いたずらに藍子さんを巻き込まないでください」
夕美「えー。肉と魚ならどっちを書きたいかって聞いてみたかったのに」ブーブー
ありす「なんで具体的な話にまで持ち込もうとしているんですか」
柚「加蓮サーン。起きろーっ。朝だぞー。あーさーだーぞー! 柚だぞー! おーきーろー!!」ユサユサ
加蓮「んん……うっさい……じゃま……」
柚「柚じゃま!? 邪魔者なの!?」
加蓮「……んぅ……うっさい……」
柚「またうっさいって言った!?」
ありす「柚さんはいつも賑やかですよね。……少しだけうるさいと思うことはありますが」
藍子「元気いっぱいで、私はいいと思うけどなぁ。ありすちゃんも、そんなに遠慮しなくていいんですよ?」
ありす「別に、遠慮している訳では……。……こそこそペンを取り出そうとしている夕美さんは藍子さんをもっと見習ってください」
夕美「ぎくっ。見習ってるよっ。見習った上で私はこうしてるの!」
ありす「もっと駄目じゃないですか、それ」
加蓮「ふわ……ここどこぉ……? んー……」ゴシゴシ
加蓮「……柚? なんで真っ白になって固まってんの……?」
夕美「あ、起きたっ。お・は・よ・う、ねぼすけさん♪」
加蓮「夕美? なんか笑顔が怖いんだけど……。ふわぁ……」
夕美「ミーティングやろうって時にぐーすか寝られたら私でも怒っちゃうよ!」
ありす「いつもと変わらないのでは?」
藍子「うーん。口元が、少しだけ引き締まっているように見えるかな……?」
ありす「よく分かりますね。さすが藍子さんです」
藍子「なんとなくだよ? それに、それでも夕美さんは楽しそうだし」
ありす「いつも通りですね」
柚「」
柚「……ハッ! 加蓮サンってばひどいっ! 柚のことをそんな風に思ってたなんてっ」
加蓮「はぁ……?」
藍子「加蓮ちゃん、まだ眠たいですか? 顔、洗いに行きましょう」
柚「それがいいと思う!」
加蓮「うん。そーするー……」ポテポテ
藍子「……私、ついていって来てもいいですか?」
夕美「1回シャキッとしてきた方がいいよ! 藍子ちゃん、お願いしてもいいかな?」
藍子「お任せくださいっ」
加蓮「眠ぅ……」ゴシゴシ
<加蓮ちゃん、歩けますか? こっちで顔を――ああっ、そっちは洗面所じゃなくて冷蔵庫ですっ
<それ水道じゃなくてスポドリですよーっ! きゃっ、加蓮ちゃんがびしゃびしゃに!
ありす「……大丈夫でしょうか?」
夕美「大丈夫……だと思うけど……」
柚「なんか面白いことになってる予感! アタシ見てきていい?」
ありす「柚さんが行ったら、もっと時間がかかってしまうのでは? 今は待ちましょう」
柚「……ぐ、ぐぬぬ。ありすチャンにロンパされてしまったっ」
夕美「今のうちにミーティング進めちゃおっか?」
柚「そうしちゃう?」
ありす「いいえ、おふたりを待つべきです。せっかくのミーティングですから」
柚「じゃー今は別の話をしよう! 例えばー、食べたいお菓子のこととかっ!」
夕美「ひまわりの種っ」
ありす「いちごパスタ」
柚「……加蓮サーン藍子チャーン、早く帰ってきてー! 柚ハムスターにさせられるのも実験台になるのもヤダー!」
……。
…………。
<ガチャ
藍子「お待たせしました。着替えまでしていたら、少し遅くなってしまって……」
加蓮「ただいま。ゴメンね?」
夕美「お帰り、藍子ちゃん、加蓮ちゃん。大丈夫だった? 目はばっちり覚めたかなっ?」
加蓮「うん。藍子もありがとね」
藍子「いえいえ。ミーティング中にごめんなさい、夕美さん」
夕美「ホントだよっ。加蓮ちゃん、昨日は夜更かしをしちゃったの? すっごくすやすや眠ってたよ!」
加蓮「あー……あはは、まあね」
藍子「……?」
柚「ささっ、加蓮サンも戻ってきたことだし、お菓子の話は、よそに置いてー」オクポーズ
夕美「ミーティング、始めよっかっ♪」
ありす「議題は「新しいユニット名」ですね」
加蓮「ユニット名……って、もうついてなかったっけ? なんかあの呪文みたいな奴」
藍子「じゅ、呪文って……」アハハ
夕美「せーのっ」
夕美「『にぱにぱゆるふらわ~ストロベリーミント!』」
柚「『にぱにぱゆるふらわ~ストロベリーミント!』」
夕美「略してー、はいっ、ありすちゃん!」
ありす「えっ」
柚「『にぱゆる!』」
夕美「そう、にぱゆる!」
ありす「に、にぱy……柚さんが答えるのなら私に振らなくてもいいじゃないですかっ」
加蓮「呪文だ」
藍子「呪文ですね」
夕美「私はいいと思うんだけどなー、"にぱゆる"。可愛いし、元気って感じがしない?」
ありす「そうでしょうか? まず略称が意味不明です。いえ、正式名称でも意味不明です。あと長すぎます」
藍子「Pさんも、ちょっと長すぎるから短くしてほしいって……あと、できればわかりやすくしてほしい、って言っていました」
柚「おおー、さすがありすチャン! まるでPサンみたいだ!」
ありす「そ、そうでしょうか。誰でも分かることだと思いますけど」
柚「そーカナ? アタシはピンと来なかった! だからありすチャン、さすがっ!」
ありす「……それよりも改善案です。何か新しい案はあるんですか?」
夕美「おっ、ありすちゃん照れてる? 照れてる?」
加蓮「ふふっ、耳が真っ赤になってるね」
藍子「笑うのを我慢してるの、見て分かっちゃいますね」
柚「嬉しい時には素直に言っていいと思うな!」
ありす「なんですかみんなして! それより会議! 今は会議の時間でしょう!」
夕美「新案はないよっ。今から決めるためのミーティングだもん」
柚「楽しそうっ!」
ありす「ごほんっ。まずは現状整理からしましょう。問題の解決は、何事も現状の問題点を洗い出すところから始まると、以前本で読みました」
加蓮「現状って言えばさ、この呪文……じゃなかった、ユニット名ってどうやって決まったの? 私知らないんだよねー」
柚「そういえばこれ決めた会議の時って加蓮サンいなかったんだ! 何回目だっけ?」
ありす「確か……第2回ですね。この記録の中にあります」
夕美「藍子ちゃんもいなかったんだよね?」
藍子「その日は、どうしてもロケのスケジュールの都合がつかなくて……」
柚「で、加蓮サンは風邪でダウンしてた!」
加蓮「……むー。あれはちょっと熱が出てただけなんだってばっ」
藍子「それで、ユニット名はどのようにして決まったんですか?」
夕美「えーっと、確かまず、みんならしい名前をつけようってなったんだよね?」
ありす「はい。"にぱにぱ"は、いつも楽しそうにしている柚さんの様子です」
柚「照れちゃう! で、"ゆるふわ"は当然藍子チャンのこと! "ふらわ~"が夕美サンのことで、合体させちゃったんだよね!」
夕美「"ストロベリー"はありすちゃんの、"ミント"は加蓮ちゃんの好きな物で、ありすちゃんや加蓮ちゃんのイメージでもあるねっ」
ありす「これらをベースに考えていこうとしたのですが……」
夕美「絞りきれなくて、もう全部詰めちゃおう! ってなっちゃって」
柚「んでんでー、呼びやすい言い方も考えたんだよね!」
藍子「なるほど~……とっても私たちらしい名前だったんですね」
加蓮「でも、長すぎると」
柚「詰め込みすぎた!」
夕美「花束だって、単に量が多ければいいって訳じゃないもん。敢えて少なくするところは少なくできるから、主役の花が際立つんだよっ」
柚「ってことはー、主役を決めちゃおう! って感じ?」
ありす「主役……」
加蓮「……主役」
夕美「主役!?」
藍子「あ、あの、みなさん? どうして急に目の色が変わって……?」
夕美「それならもう私で決まりだよね。なんたって私はリーダーだもん! ユニットの主役と言ったら、当然リーダーだよね!」
ありす「リーダーは藍子さんという結論に達した筈では? それに、ユニットの主役は持ち回り制にしています。前のLIVEでは私がセンターでした」
柚「そして前の前のLIVEは柚がリーダー! へへっ、みんないっぱい拍手をくれた!」
加蓮「ありすの言う通り、別にリーダー=主役って訳じゃないでしょ? リーダーが夕美だからって、夕美を中心にっていうのは早計だと思うなぁ」
夕美「ええーっ」
柚「あっ! アタシ今すっごいことに気付いた!」
柚「"にぱゆる"って"にぱにぱ"から入ってるよね? これってアタシのことなんだよね?」
柚「ってことはー、もしかしてもしかして?」
加蓮「じゃ"ミント"から入るようにしよっか」
柚「なにおう!?」
夕美「それなら"ふらわ~"から入った方が語呂がいいよっ。ううん、"ゆるふらわ~"からでもいいよ! 悔しいけど藍子ちゃんにも譲っちゃうっ」
ありす「名前とはいわば象徴です。そして、最初に来る単語が一番のイメージになります。つまり、このユニットは"ストロベリー"から入るべきです!」
藍子「あの、新しく決めるってお話――」
柚「はいはいっ! ユニットって、楽しくLIVEとかする為のだよね! で、ありすチャンは最初の単語がイメージって言ったよね?」
柚「なら"にぱにぱ"でいーじゃん! なんだかすっごく楽しそう!」
加蓮「柚……それ柚がリーダーを名乗りたいだけでしょ」
柚「そだよ!」
加蓮「開き直りおった……」
ありす「……柚さんがムードメーカーだということは認めます。ですが、」
夕美「ありすちゃんありすちゃん。私は?」
ありす「あなたはトラブルメーカーです」
夕美「・ワ・」
加蓮「……その返しは予想ついてたでしょ、夕美」
柚「じゃー藍子チャンは!」
ありす「リーダーです」
夕美「・ワ・」
加蓮「分かったから現実を認めなさいよ。……私はリーダーだと思ってるから」
ありす「ですが、ムードメーカーとリーダーは違います」
ありす「リーダーとは、常にユニット全員を見ていて、必要な指示を出したり、采配を下し、全体の進行を滞りなく進める役割があります」
ありす「その為には知的な判断ができ、冷静で、それでいて独裁にならないように優しい性格の――」
柚「それなら藍子チャンでよくない?」
加蓮「藍子でいいね」
夕美「だからリーダーは私なのーっ」
ありす「……た、確かにそうかもしれませんが……」
ありす「いえ。そもそも、リーダーのことは後日決めることになったのでは? それにリーダー=ユニット名とは限りません。今はもっと別の視点から、」
夕美「ありすちゃんありすちゃん。言いたいことがあったら言った方がいいよっ」
柚「そーそー。素直になった方が、人生楽しいぞっ。アタシが言うんだから間違いない!」
加蓮「確かに、こういう話だと柚が一番正しいよね」
ありす「……別に、言いたいことなんて……」
夕美「ほらほら、」
加蓮「さんはいっ!」
柚「どうぞっ!」
ありす「……わ、私もたまにはリーダーをやってみたいです! でも藍子さんにもリーダーでいてほしいんです!」
柚「おーっ、よく言ったぞっ! ありすチャンにこのチョコレートを進呈しよう!」
加蓮「自分もやりたいけど藍子にもやってほしい。ありすっぽい悩みだねー」
夕美「いや私は!? 私は!?」
ありす「そうです! リーダーも持ち回しにしてみるのはどうでしょうか!?」
柚「リーダー持ち回しかー。それなら柚もリーダーになれる?」
加蓮「持ち回しなんだからなれるんじゃない?」
柚「そかっ。ならアタシはそれに賛成だっ。みんなリーダーでいいと思うな!」
夕美「むー……。まぁいいけど……」
ありす「……夕美さんも、言いたいことがあるなら言ったらどうですか? さっき、私にそう言いましたよね」
夕美「だってー! 私、リーダーとかやるのすっごく好きなのっ。持ち回しになったら5回に1回しかできなく――」
加蓮「夕美。そういうわがままはよくないと思うよ」
ありす「グループは自分勝手に進めるべきではありません。周りの意見をよく聞くのも大切です」
柚「……ゆ、夕美サンだけずるいぞーっ」
夕美「おかしいよね!? おかしいよねこの扱い!? 今ありすちゃんが言えって言ったよねぇ!?」
加蓮「夕美だし」
ありす「夕美さんですから」
柚「で、いいと思うなっ」
夕美「うわーん助けて藍子ちゃん! みんながいじめる!」
藍子「……はぁ……」
夕美「なんかためいきついてる!?」
柚「マズイっ。藍子チャンを怒らせちゃった! ゆるふわタイムがなくなっちゃうっ」
加蓮「!? それは死活問題だよ! ありす、どうにかして!」
ありす「わ、私に言われても困ります! 怒った藍子さんなんてどうしたらいいか……」
藍子「あ、ごめんなさいっ。そういう意味ではなくて……。それに、怒っている訳でもありませんよ」
藍子「でも、加蓮ちゃん、ありすちゃん、柚ちゃん。あんまり夕美さんをいじめちゃダメですよ?」
加蓮「はーい」
ありす「いじめている訳では……いえ、ごめんなさい」
柚「てへへ、加蓮サンとありすチャンに乗っちゃった!」
藍子「ため息をついたのはそっちのことではなくて、また脱線してるなぁって……。今は、ユニット名を決めるためのミーティングのはずです」
柚「そーいえばそうだったね!」
ありす「忘れていました。……いえ、お、覚えてはいましたよ。ただこの話し合いも使えるのではと判断しただけで……」
藍子「じゃあ、今から切り替えていきましょ?」
藍子「まずは、ユニット名を短くするところから始めた方がいいと思うんですけれど――」
加蓮「(小声で)絶対これ藍子がリーダーでいいよね」
ありす「(小声で)リーダーの座には心惹かれますが、これはやはり、藍子さんがリーダーでいいと思います」
柚「(小声)柚も異論なーしっ」
藍子「3人とも、聞いていますか?」ジー
加蓮「き、聞いてる聞いてる。ええと、短くするんだよね?」
柚「それならさー、"にぱゆる"のまんまでよくない? にぱゆるだよ? にぱゆるっ! 言いやすくていいじゃんっ」
夕美「私も響きは好きだけど、パッと聞いただけじゃ意味が分からないと思うなっ」
柚「聞かれたら説明する! 『にぱにぱゆるふらわ~ストロベリーミント』のことだって!」
ありす「毎回説明するんですか? それは手間なのでは」
柚「だってそうした方がファンのみんなに分かってもらえるかなって!」
加蓮「……おぉ。柚のくせにすごい説得力あるね」
柚「アタシのくせにってどゆこと!?」
ありす「確かに良い手段だと思います。疑問を抱かせるのは、客層心理に良いと……どこかのサイトで見たことがあります」
夕美「花だって、何の花だろ? って興味が湧いたら調べたりするよね。それとおんなじことかな?」
加蓮「わざわざ説明する必要のある物に、敢えてやる……か。それは考えてなかったなぁ」
柚「縮めた言い方が意味不明でもアタシはいいと思う! ねね、どうかなっ」
加蓮「私はいいと思うよー。"にぱゆる"って私も可愛いと思うし」
夕美「賛成かなっ。あ、それなら次はさ、どうやって説明するか話し合った方がいいかもね」
藍子「ユニット名は"にぱゆる"のままで決まり、っと」メモメモ
ありす「――ですが、それは納得いきません」
藍子「ありすちゃん……?」
柚「むむ。何が納得いかないのさーっ。さっききゃく……きゃく、なんとかにいいってありすチャンも言ったじゃん!」
加蓮「客層心理、ね」
柚「それそれ!」
ありす「そこはいいと思います。ただ、略称が意味不明なのは変わりません」
夕美「敢えてわかんない物にするってやり方にするんじゃなかったのかなっ?」
ありす「それでも、略称はもうちょっとわかりやすくするべきです。名前は、」
ありす「……名前には、大切な気持ちが込められているんですから」
ありす「それを蔑ろにすることは、許容できません!」
加蓮「ありす……」
夕美「わぁ……!」
柚「おぉー……」
藍子「ありすちゃん……!」
ありす「……! な、何ですか。私はただ、正しいと思ったことを発言しただけで、そんな目で見られるようなことは何も……」
加蓮「ううん。それってすっごく大切なことだと思う」
夕美「とりあえず縮めとけって風潮はあるけど、縮めた名前にも気持ちは込めなきゃ駄目だよねっ」
柚「アタシもそう思うっ。テキトーにしちゃうのもいいけど、しちゃわないのもいいよね!」
藍子「そうですね。……ふふっ。ありすちゃん。大切なことに気づかせてくれて、ありがとう♪」
ありす「いえ、その、べ、別に私が思ったことを――」
藍子「ありがとう、ありすちゃんっ」
ありす「…………はぃ」
夕美「じゃ、新しい議題が出たところでどうするか考えよっかっ」
加蓮「"にぱゆる"が意味不明なのがいけないんだよね。なら、どこか別のところを切り取るとか?」
柚「うーん。どこがいいんだろ?」
夕美「やっぱりここは"ふらわ~"が一番だよっ」
加蓮「分かった分かった、夕美がリーダーだって私はちゃんと認めてるってば」ドウドウ
夕美「違うよーっ。そういうんじゃなくて、ほら、アイドルってお花に例えられるじゃない? だからぴったりかなって!」
ありす「それなら、果実や果物……いえ、美味しい物に例えてもいいと思います」
夕美「ありすちゃんっ。ふやけてたのはもう大丈夫なのかな?」
ありす「誰もふやけてなんていません!! ……ごほん。ですからここは、"ストロベリー"から入ることを提案します」
加蓮「んー。"ミント"はクールが強すぎるなぁ。――そっか、それならコラボだよ!」
加蓮「ありす、今だけは手を組もう。"ストロベリーミント"! ね、なんだか美味しそうでしょ?」
ありす「コラボですか。確かに、イチゴにミントを混ぜるのは考えたことがありませんでした」
柚「そーいうお菓子とかありそうっ。ミントのすーってなる感じ、柚けっこう好きカモ!」
柚「イチゴは……ぱ、パスタに混ぜなかったら美味しいんじゃないカナ?」
夕美「え、なになに、新しいレシピの話? それなら私にも手伝わせてよっ! 実は最近、お菓子作りにハマってるの!」
ありす「いいですよ。夕美さんのアイディアも頂いて、最強のイチゴ料理……いえ、イチゴとミントの料理を完成させてみせます」
柚「……そ、それならアタシは加蓮サンの手伝いをする! いいでしょ?」
加蓮「手伝いも何も私お菓子とか作れないよ? だから私は食べ専でー」
柚「あ、それいいね! アタシもそうする!」
夕美「えーっ。イチゴとミントの料理をするんだよ? 加蓮ちゃんも参加しなよっ」
加蓮「って言っても――」
藍子「すとーっぷ!!」
4人「「「!?」」」
藍子「だからっ、今はユニット名のミーティングですっ。お菓子のお話は……また後でっ!」
加蓮「あー……」
夕美「また忘れちゃってたね」
ありす「……べ、別に忘れていません。加蓮さんがコラボと言い出したから私も考えただけです」
柚「これで何度目の脱線カナ? 柚たちが電車だったらスゴいことになりそうっ」
夕美「あ、電車と言えばこの前のロケで――」
藍子「夕美さん」
夕美「……あははっ。その話も、」
藍子「後で、ですっ」
夕美「うんうん! えーっと……どこまで進んだっけ?」
ありす「略称をどうするかという話です」
柚「ねねっ、アタシ思ったんだけどさ、"にぱゆる"のまんまじゃ分かりにくいのが問題なんだよね?」
柚「だったらさー、アタシ達で作ればいいと思うんだ! "にぱゆる"を!」
加蓮「……うん?」
藍子「作る……? 柚ちゃん、それはどういうことですか?」
柚「作ればいいの! アタシ達が、"にぱゆる"の……エート……さ、最初に作った人? になればいいと思う!」
柚「どう? どう? カッコよくない!?」
夕美「そっか、今は意味のない言葉だけど、私たちで作っていこうってことだね!」
柚「そんな感じ! たぶんっ」
加蓮「へえ……。それ面白そうじゃん! そのうち伝説の~とか言われちゃいそうじゃない?」
ありす「伝説……」
加蓮「おっ。ありすちゃん、今反応したでしょ」ニマニマ
ありす「か、加蓮さんだって楽しそうじゃないですか」
加蓮「まーねー。最初の1人になれるのって、すっごく嬉しいことだし。……ね、柚っ?」
柚「アタシのはじめては加蓮サン! へへっ♪」
加蓮「ちょっとー。それじゃなんか誤解を招くみたいじゃない」
柚「誤解?」
加蓮「……。でもさ、これマジでいいと思う。これなら略称が意味不明でもおかしくない。むしろ当たり前のことじゃん。今から作るんだから」
ありす「私達の活躍が、"にぱゆる"の拡大にも繋がるんですね」
藍子「聞いただけでは分からないという欠点が、逆に長所になっちゃいました」
夕美「なら、言葉の意味を私たちで作らなきゃね! どうしよっか?」
柚「とにかく楽しくて、そんでー、ゆるっとしてる! あとあと、たまにクールになったり、お花になれたりする!」
藍子「にぱゆるの意味は、楽しくて、ゆるっとしていて、たまにクールになれてお花にもなれる……」メモメモ
藍子「……あ、あはは、並べてみるとすごいことになっちゃいますね」
夕美「まずはゆるっと楽しく、くらいでいいんじゃないかな? 加蓮ちゃんのクールさや私の花は、その後でもいいよっ」
柚「さんせー!」
ありす「私も賛成です。これを今から広めるのが私達の役割です。伝説の一歩は、ここから始まるんです!」
柚「伝説の一歩! アタシもありすチャンのやってるゲームの主人公みたいになれるカナ? そういうの、すっごく楽しそう!」
加蓮「やりがいがありそうだね。それに、ユニットでのお仕事って感じがする。……うん! 私もやる気が出てきちゃった!」
夕美「よしっ。今日のミーティングの結論は、「今から"にぱゆる"という言葉をいっぱい広める」ってことで!」
3人「「「さんせー!(です)」」」
藍子「じゃあ、私、Pさんに報告してきますね」
夕美「あ、私も行くよ! 私はリーダーだからね! ……リーダーだからね!」
加蓮「まだ引きずってたんだ……」
ありす「待って下さい。そういうことなら、重要な議題がもう1つあります」
柚「リーダーは誰か、ってことだっ」
夕美「だーかーらー、私なの! 私がリーダーなのっ! ミーティングする意味ないのーっ!」
ありす「私だってリーダーの素質はあると思います。……もし私1人で不足してしまうなら、藍子さんにも……一緒に、やりたいです」
柚「はいはい! アタシもリーダーになれると思う! なんとなくっ」
夕美「ぐぬー。だから私が――」
ありす「私だって――」
柚「アタシもやりたいっ」
加蓮「……報告、行かないの?」
藍子「もうちょっとだけ、見ていたいなって。まだ時間も大丈夫ですから。加蓮ちゃんこそ、リーダーはいいんですか?」
加蓮「私はいいよ。だってリーダーは夕美じゃん」
藍子「……あはっ、そうですね♪」
加蓮「柚が誘ってくれるとかなら、巻き込まれちゃってもいいけど――」
柚「ありすチャンがそう来るなら、アタシも加蓮サンと一緒にリーダーやりたい! そういうのもいいんでしょっ?」
加蓮「……あーあー」
藍子「巻き込まれちゃったみたいですね。行ってらっしゃい、加蓮ちゃんっ」
加蓮「うん。ちょっと行ってくる」スクッ
<オッケー。柚と組んでそこの花お化けを倒せばいいんだね?
<そういうことだと思う! たぶんっ
<それなら私も協力します。まずは夕美さんを倒してから、改めて決勝戦をしましょう
<そういう話だっけ!?
藍子「ユニット名は、今から私たちが意味を広める、という意味で……」メモメモ
藍子「リーダーは……」メモメモ
藍子「……」テヲトメル
藍子「……」チラッ
<加蓮ちゃんさっき私をリーダーって言ってくれたよね!? うらぎりものーっ!
<いやー、柚に頼まれちゃったからしょうがないね
<リーダーとは常に自分の意思を貫くべきです。やはりここは私が
<えー、りんきおうへんなのもいいと思うっ
藍子「まだ、かかっちゃいそうかな? ふふっ」
「(その後)夕暮れに微笑う」
――事務所――
加蓮「結局、結論は決まらなかったね」
夕美「もーっ。まさかあそこで、加蓮ちゃんがありすちゃんと手を組むなんて」
柚「そうだそうだー! アタシをポイ捨てしたらっ、あとで呪われるぞっ」
加蓮「呪い」
夕美「例えば?」
柚「え。た、例えば? 例えば……例えば……加蓮サンのお菓子が1本なくなるとか!」
加蓮「なにそれ地味に嫌なんだけど」
ありす「ユニット名のことも、Pさんに認めてもらえてよかったです」
藍子「Pさん、少しびっくりしていたね。でも、最後には頑張れって言ってくれましたっ」
ありす「期待には応えなければなりません。早速、これから自主レッスンを――」
藍子「うーん……今日はもう遅いから、明日からにしない?」
ありす「……藍子さんがそう言うなら」
藍子「それに、家でも練習できることはあると思いますよ。台本を読んだり、次のお仕事のイメージを思い描いてみたり」
藍子「それから、どうやって"にぱゆる"を広めていくか考えたりっ」
ありす「確かにそうですね。明日までに作戦を練ってきます」
柚「ととっ、もうこんな時間!」
加蓮「……みたいだね」
ありす「お母さんに連絡して迎えに来てもらいます。心配するからしょうがありません。1人で帰ろうと思えば帰れるんですから」
夕美「女の子1人じゃ心配だよっ。私もついていくね!」
ありす「話を聞いてください。迎えに来てもらうんだから要りません」
藍子「あの、夕美さんも女の子――」
夕美「そのままありすちゃんの家に泊まるから大丈夫だよ♪」
ありす「…………いつもこうなんです、夕美さんは」
藍子「ふふっ。2人とも仲良さそうで、ちょっぴり羨ましいです」
夕美「だって、ありすちゃんっ」
ありす「むー……」
加蓮「そっか。もうこんな時間なんだね……」
柚「? 加蓮サン?」
加蓮「あ……ごめんごめん。ちょっとぼうっとしてた。何か言った?」
柚「アタシは何も言ってないケド……どしたの? こう、くらーい顔してたよ」
柚「あっ、さては! 明日の分の宿題をやってないことを思い出したとかっ」
柚「大丈夫、アタシもやってない! ってことで見せて!」
加蓮「別にそうじゃないけど……っていうか宿題は自分でやりなさいよ、柚」
柚「あーあーきこえないー。加蓮サンがうるさく言う前に柚は帰る!」シュタッ
加蓮「逃げなくてもいいじゃんかー」
夕美「宿題はいいのーっ?」
柚「なんとかなる! きっとっ」
藍子「私も、今日は帰りますね。夕美さん、ありすちゃん、加蓮ちゃん。また明日ですっ♪」
夕美「また明日ー!」
<藍子チャン、途中まで一緒に帰ろっ
<はい、いいですよ
加蓮「……ん。そうだね。お母さんを怒らせたら面倒だし……私も帰るね。じゃ」
夕美「? うん、またね加蓮ちゃん。今日はお疲れ様っ」
ありす「お疲れ様です、加蓮さん」
<ばたん
…………。
ありす「一気に人が減って、急に静かになりましたね」
夕美「ちょっぴり寂しいねー……。私たちも帰ろっか、ありすちゃん」
ありす「はい……って、だからどうして私が夕美さんと帰る話になっているんですか。お母さんを呼ぶので心配は」
夕美「いいじゃんっ、たまにはこういうのも!」
ありす「たまにっていつもこうじゃないですか!」
<ばたん
加蓮「…………」
夕美「? どうしたの加蓮ちゃん。何か忘れ物?」
加蓮「あ、いや……」
加蓮「……ううん、なんでもない。じゃあね、夕美、ありす」
<ばたん
…………。
夕美「加蓮ちゃん、ちょっと変じゃなかった?」
ありす「何かを隠しているように見えました。何かは……分かりませんけど」
夕美「うーん、気になるなぁ。ありすちゃんは何だと思うかなっ?」
ありす「さあ……」
「がんばれ藍子ちゃん」
――事務所――
<ザーーーーー
柚「いっくよー! 柚すまっしゅ!」ポコンッ
加蓮「ふっ――あまい!」ポコン
柚「なにーっ!? 柚すまっしゅが通じない!?」ポコン
加蓮「もうその技は何度も見たからね」ポコン
柚「ぐ、ぐぬぬ」ポコン
加蓮「ふっふっふー」ポコン
柚「ならば次は柚スマッシュだ!」ポコン
加蓮「それは何が違うの?」ポコン
柚「なんかが違う! 準備するからちょっと時間をちょーだいっ」ポコン
加蓮「――それを、許すとでも」ポコン
柚「なっ!」ポコン
加蓮「次は――私の番だ!」ポコン
柚「なにーっ。ま、まさか!」ポコン
<がちゃ
藍子「おはようございま――」
加蓮「行くよ――加蓮ちゃんスマッシュ!」ポコンッ
柚「きゃー! ……って加蓮サンどこに飛ばしてるの、へたくそー!」
加蓮「ありっ?」
藍子「す――」ポコン
加蓮「あっ」
柚「あっ」
藍子「……………………」
藍子「…………………………………………」ヒロイアゲ
加蓮「……お、おはよー藍子。あははーごめんね? その、ほら、私って運動神経があまり……よくなくてさー……」
柚「そ、そーそー! 加蓮サンってばドジなんだから~……も、もー……ドジなんだからー……」
藍子「……………………」
加蓮「わ、悪いのは柚だよ! 外が雨なのにバトミントンやろうとか言い出した柚が悪いから!」
柚「あーっ加蓮サンずるい! ノリノリでやろうって言ったの加蓮サン!」
加蓮「最初にバドミントンやろうって言ったの柚だし!」
柚「アタシよりノリノリだった! シャトルとかラケットとかすごい速さで準備してき、」
藍子「――加蓮ちゃん、柚ちゃん」
加蓮「……!」ビクッ
柚「……!」ビクッ
――数分後――
夕美「おはよーっ!」
ありす「おはようございます」
夕美「雨が上がってよかったよっ。あのね、ありすちゃんと一緒にコンビニに寄ってきたの! 見てみて、新商品……の…………」
藍子「バドミントンをやるなら、晴れた日に外でやってください! 事務所でやったら危ないです!」
加蓮「ハイ」セイザ
柚「スミマセン」セイザ
藍子「物が落ちたり壊れたりするかもしれないじゃないですか。室内で走り回ってたらテーブルの角にもぶつかっちゃいます! それで加蓮ちゃんや柚ちゃんが怪我をしちゃったらどうするんですか!」
加蓮「オッシャルトオリデス」セイザ
柚「ゴメンナサイ」セイザ
藍子「それと……ええと、それから……ゆ、柚ちゃんが変なこと言っちゃったら加蓮ちゃんが止めてくださいっ! どうして柚ちゃんと一緒だといつも悪ノリしちゃうんですか!」
加蓮「だってグチグチ言うくらいなら一緒にノッた方が楽し、」
藍子「加蓮ちゃん!」
加蓮「スミマセン」
藍子「柚ちゃんもっ。ええと……とにかく室内でバトミントンは駄目です。危ないです!」
柚「藍子チャン藍子チャン、思いつかないならお説教なんてやめてみんなで遊、」
藍子「柚ちゃん。本当に反省していますか?」ギロ
柚「ゴメンナサイ」
夕美「…………」
ありす「…………」
夕美「……モンブラン、私たちだけで食べちゃおっか」
ありす「待ってください夕美さん。藍子さんは悪くありません。だから、藍子さんの分は残しておくべきです」
夕美「うん、そうだね……」
「(その後)優しい藍子ちゃん」
藍子「はぁ~……」
夕美「お疲れ、藍子ちゃん♪ はいこれ、藍子ちゃんの分のモンブラン!」
藍子「ありがとうございます、夕美さん」
ありす「一緒に食べましょう、藍子さん。私のオススメはこっちの味です」
藍子「ありすちゃんも、ありがとう」
藍子「もぐもぐ……。おふたりに言い過ぎちゃっていないか、ちょっぴり不安です……」
夕美「大丈夫だよ! あの2人だって、きっと分かってくれてるよ!」
藍子「だといいですけれど……」
藍子「あ、それと、モンブランは加蓮ちゃんと柚ちゃんにも分けてあげてください。きっともう、いっぱい反省してますからっ」
ありす「……藍子さんは、相変わらず優しいんですね」
藍子「やっぱり、厳しくしたり怒ったりするのは苦手です。……ふふっ、ありすちゃん、一緒に食べましょ?」
ありす「はい!」
夕美「」
藍子「……夕美さん?」
ありす「どうして汗を流しながら顔を背けているのでしょうか」
夕美「い、いや~……そのぉ……」
夕美「わ、私そういえば用事があったんだった! ちょっとPさんのとこ行ってくる!」シュタッ
藍子「行っちゃった……」
ありす「どうしたんでしょうか。用事があるなんてここに来る時には――」チラ
ありす「空の容器が、2つ……」
藍子「……あっ」
ありす「……」
藍子「……まだ私、ふた口しか食べてないから、」
ありす「それはダメです。それだと、藍子さんが食べられなくなっちゃうじゃないですか」
藍子「でも、」
ありす「これは罰ということにしましょう。そうすれば、加蓮さんも柚さんもより反省すると思います」
藍子「うーん……それなら私、レッスンまでけっこう時間があるから、1つ買ってきますね」スクッ
ありす「あっ」
<ばたん
ありす「……本当、藍子さんは優しすぎますよ」
「(その後のその後)がんばれありすちゃん?」
柚「あっ美味しそうなモンブランみっけ! 柚も食べ――」
ありす「!」キッ
柚「る……え、え、何? ありすチャン顔が怖いっ。ってマジで怖い! 何!? 柚何かした!?」
ありす「柚さんは少し藍子さんの優しさを見習うべきです! いえ、見習うのが無理なら感謝くらいするべきです!」
柚「え、え?」
加蓮「…………」ソロー
ありす「藍子さんが戻ってくるまでここにあるモンブランには手をつけさせません。私が守ってみせま、」
加蓮「モンブランうまーっ♪」
ありす「あああああああ!!!」
柚「あっズルい! 加蓮サン加蓮サン、柚にも一口! あーんっ!」
加蓮「しょうがないなー」スッ
柚「うまうま♪ しかも食べたことない味! 今日もいーことありそうだっ」
ありす「」チーン
柚「……? どったのありすチャン? ありすチャンも食べればいーのに。食べないなら、アタシがもらっちゃうぞー」
ありす「……頂きます……」パク
ありす「……美味しいです……」グスッ
柚「……??」
「加蓮さんとありすちゃん」
――事務所――
加蓮「…………」(伊達眼鏡をつけて譜面を見ている)
ありす「…………」(読書をしている)
加蓮「…………」パラッ
ありす「…………」フムフム
ありす「…………」チラッ
加蓮「…………」ウーン
ありす「…………」パラッ
ありす「…………」フムフム
加蓮「…………」ユビトントン
加蓮「…………」パラッ
ありす「…………」チラッ
加蓮「……? さっきからどうかした?」
ありす「いえ。キリもいいので休憩にしようかと思っただけです」
加蓮「そ」
ありす「…………」
ありす「…………」ソワソワ
加蓮「……?」
ありす「…………」チラッ
加蓮「……私も休憩しよっかな」(伊達眼鏡を外す)
ありす「私も、休憩にします」
加蓮「? それさっきも聞いたよ」
ありす「そうですね」
加蓮「んん~~~~~!」ノビ
ありす「…………」チラッ
加蓮「鞄に何かあるの? ……私は気にしないから、気にしなくていいよ?」
ありす「でも、音を出したりしたら加蓮さんに迷惑なのでは?」
加蓮「休憩だってば。それに、Pさんが来るまでヒマだから新曲の譜面をぼーっと眺めてただけ。別にお仕事でもないよ?」
ありす「そうだったんですか。加蓮さんの顔がとても真剣だったので」
加蓮「ついのめり込んじゃってたからかなー」
……。
…………。
ありす「…………」ピコピコ
加蓮「音ってゲームの音だったんだ。イヤホンでもつければいいのに」
ありす「それでも気が散りませんか? ボタンを押す時だって音はしますし、邪魔はしたくありません」
加蓮「だからぼーっと眺めてただけだってば」
ありす「…………」ピコピコ
ありす「……あっ……」
ありす「このっ……ああっ、どうしてここで青色が来ないんですか!」
加蓮「……別のことの方が気になっちゃってたかなー、この分だと」
ありす「ああっ、また……! ……? 何か言いましたか、加蓮さん」
加蓮「何もー。何のゲームしてるの?」
ありす「パズルゲームです。この前買ったばかりの」
加蓮「あー、買ったばかりだからそわそわしてたんだ」
ありす「別にそわそわしていません」
加蓮「ありすってよくゲームやってるよね」
ありす「遊びながら頭のトレーニングになる、一石二鳥のゲームです」
加蓮「そうなんだ」
ありす「……興味あるんですか?」
加蓮「ちょっとだけ」
ありす「意外です。加蓮さんは、こういうことに興味がないって思ってました」テヲトメル
加蓮「えー? 私だっていろいろ興味があるんだよ?」
加蓮「衣装とか、ネイルとか、ヘアアレンジとか、お菓子とか」ユビオリカゾエ
ありす「ほとんどアイドルのことじゃないですか」
加蓮「いやいや、お菓子も混じってる」
ありす「加蓮さんは、アイドルの話か食べる話ばかりしている印象です」
加蓮「あはは……そこは否定できないかな?」ニガワライ
ありす「あと、夕美さんといる時はよくからかってきます」
加蓮「夕美とやると楽しいし」
ありす「成程。元凶は夕美さんですか」
加蓮「うんうん。夕美が悪い」
……。
…………。
ありす「…………」ピコピコ
加蓮「…………ふわ……」
ありす「ふうっ。やっとクリアできた……!」
加蓮「おめでとー」
ありす「あっ」
ありす「……そ、そういえば、Pさんなかなか来ませんね。加蓮さんはPさんを待っているんですよね?」
加蓮「そだね。何か長引いてるのかな」
ありす「そうかもしれませんね」
加蓮「……」
ありす「……」
加蓮「……ありすはいつも、頑張ってる印象があるなぁ」
ありす「印象?」
加蓮「ほら、さっきありすが私のこと、アイドルか食べる物の話ばっかりしてる印象って言ったからさ」
加蓮「ありすはいつも頑張ってるなーって。いつも頑張って背伸びしてて、だから同じところにいる感じがして」
ありす「……子供だからといっても、私だってアイドルです」ムス
ありす「同じところにいる、という意味は分かりませんが、プロである以上は大人も子供も関係ありません。同じところにいるべきではないでしょうか?」
加蓮「今は12歳の女の子だよ?」
ありす「だから何ですか?」
加蓮「そだねー。人生の先輩としてのアドバイスを1つ授けてしんぜよう」
ありす「……?」
加蓮「子供でいられるうちはちゃんと子供に……いやいや、んー、ありすはこれからなんだから無理に背伸びばかり……あー、これも違う……」
ありす「よく分かりませんが、加蓮さんだって世間的には子供なのでは?」
加蓮「うっさいっ。でも、甘えられる時は素直に甘えるべきだよ。甘えることを忘れちゃう前にね」
ありす「はあ」
加蓮「そのうち意味が分かるよ。なんて、ちょっぴりウザいかな?」ナデナデ
ありす「……とりあえず撫でるのはやめてください」
<がちゃ
夕美「こんにちはーっ。あっ、加蓮ちゃんとありすちゃんだ。なんの話してたのっ?」
加蓮「ん? 先輩としての教育」
ありす「加蓮さんの言うことがよく分からないんです。夕美さんには分かりますか?」
夕美「う゛、なんだか難しい話の予感。そ、そういうのはPさんに聞いてみるといいんじゃないかなー? あはは……」
加蓮「……まぁ、こうならない程度にね?」
ありす「今のは私でも分かりました」
夕美「こらーっ。加蓮ちゃん、ウソを教えるのはよくないよ!」
「(その後)だてめがね」
ありす「…………」チラッ
加蓮「……?」
ありす「いえ。加蓮さん、さっき伊達眼鏡をつけていましたよね」
加蓮「たまにね。集中したい時とか、たまに使うようにしてるんだ」
加蓮「どう? 似合う?」チャキッ
ありす「すごく知的に見えます」
ありす「……」ジー
加蓮「気になる? ありすもちょっとかけてみてよ。ほら」ズイ
ありす「別に、気になっていた訳では――」
加蓮「まーまー、いいからいいから♪」(ありすに伊達眼鏡をかける)
ありす「あっ。……また、そうやって強引に」
加蓮「はい手鏡」ズイ
ありす「…………」
ありす「…………!」
加蓮「ね? 知的になったって感じがするでしょ?」
ありす「…………!!」キラキラ
加蓮「あー。そういう方面のコーデでもやってみる? ……聞いてないな?」
夕美「じゃんっ♪ 私もつけてみたよ! どうかなっ?」
加蓮「おー……」
ありす「なんでしょうか……うまくは言えませんが、似合っているとは思います」
夕美「ホントっ!? やった♪ ……あれっ、でもなんだか含みのある言い方だね。なんかヘンだったりする?」
加蓮「変とかじゃなくて、なんていうのかな」
ありす「大学生という感じがします」
夕美「そ、そりゃー私は大学生だけど……」
加蓮「そうそう。どこにでもいる普通の大学生って感じ」
ありす「それです。私が言いたかったのはきっとそれです」
夕美「それって一般人みたいって言いたいの!? アイドルじゃなさそうって言いたいのかな!?」
加蓮「い、いいんじゃない? プライベートとそうじゃない時の区別がついてるってことで」
ありす「スイッチの切り替えはアイドルにとって大切なことです」
夕美「そっかー。へへへっ」
加蓮「(小声)単純……」
夕美「こらそこ? 聞こえてるよーっ」
「(その後のその後)あてれこ」
夕美「『知的な12歳、クールガール・タチバナです。分からないことは何でも聞いてください。たちどころに解決してみせます』」
ありす「変なアテレコを入れないでください」
夕美「『きりっ』」
ありす「なんですかそのセルフ効果音は!」
柚「柚もメガネモード! どう? どう!?」
加蓮「…………うん。アホっぽい」
柚「なにおう!?」
藍子「私も、かけてみました。どうですか?」
加蓮「すごく賢そう」
藍子「ふふっ、ありがとうございます♪」
柚「なんか柚とぜんぜん違うぞーっ!? ズルいっ」
「Flower Mint」
――事務所――
<がちゃ
加蓮「おはようございまーす」
藍子「あ、おはようございます加蓮ちゃん。待ってましたっ」
加蓮「おはよー藍子。なんか今日はご機嫌だね。私に何か用?」
夕美「さっきからずっとこうなの。聞いてもすぐに分かるってばっかりで、私までそわそわしちゃった」
加蓮「夕美もいたんだ。おはよー」
夕美「おはよう、加蓮ちゃんっ。藍子ちゃんが隠し事なんて珍しいと思わない? ずっと気になっちゃっててっ」
加蓮「確かに、藍子が隠し事なんて気になるね……」
夕美「藍子ちゃん、そろそろ教えてよっ」
藍子「はい。加蓮ちゃんも来ましたので、お話しますね」
藍子「ごほんっ。Pさんからの連絡です」
夕美「どきどき」
加蓮「Pさんから?」
藍子「私が代わりに伝えることになってごめんなさい。Pさん、どうしても打ち合わせの用事が外せないみたいで――」
夕美「そういう前置きはいいから早く早くっ」
藍子「ふふ、ごめんなさいっ」
加蓮「な、なんか緊張するなぁ。早く言ってよ!」
藍子「はーいっ。実は、次のフェスで――」
藍子「夕美さんと加蓮ちゃんに、限定のデュオユニットを組んでもらうことになりました!」
夕美「ユニット?」ミアワセ
加蓮「私達2人が?」ミアワセ
藍子「はいっ! 毎年やっている、有名なフェスで――」
夕美「あれって確か、前にみんなで出たヤツだよね?」
加蓮「レベルが高くてオーディションがすごく厳しかったんだっけ。ものすごくレッスンしたこと、よく覚えてるなぁ」
夕美「それでもギリギリ通ったってPさん言ってたよね。え、そのフェスでってことは、私たちまた出られるのっ!?」
藍子「はいっ。それに……聞いてください! Pさんによると、なんと向こうからのオファーだそうですよ」
加蓮「向こうからの!?」
夕美「確かに、あのフェスって特別枠がいくつかあったけど……」
藍子「夕美さんと加蓮ちゃんに歌ってほしい、って。ファンの方々にアンケートを取った結果、相当上位にいたそうなんですっ」
加蓮「わ、わ……」
夕美「わ~っ……! それ、すごく嬉しいかも……! それって、ファンのみんなが私たちの歌を聞きたいってことだよね? そういうことなんだよね!?」
藍子「はいっ。とっても期待しているって、Pさんも、フェスの開催者さんも」
夕美「わぁ……! すごいよ、早速レッスンしなきゃ! ね、加蓮ちゃん!」
加蓮「…………」パクパク
夕美「加蓮ちゃん?」
加蓮「あ、ごめん……。ちょっとびっくりしちゃって……。あの……藍子?」
藍子「はい、何ですか?」
加蓮「私達……私と夕美の歌を……ステージを見たいって言ってくれたの?」
藍子「そうですよ。ファン投票だけではありません。開催者さんは、加蓮ちゃんと夕美さんのLIVEの映像を見て、2人のステージを見てみたいって。ほら、前に一度だけ2人でユニットを組んだ時の……」
加蓮「それって確か、数ヶ月前のアレ?」
夕美「手違いで登録されてたのをゴリ推ししちゃったヤツだよね! いっぱい拍手をもらえたけど、主催者さんもチェックしててくれたんだっ」
藍子「はいっ。きっと、それのことですよ」
加蓮「そっか……。そっかぁ……!」
夕美「……加蓮ちゃん、震えてる?」
加蓮「だって……その、なんかすごいじゃん! 色んな人が私達を見てくれて、歌ってほしいってことなんでしょ!? なんか……上手く言えないけどすごいことじゃん!」
夕美「そうだよねっ。私、今までの中で一番燃えちゃってるもん! 絶対すごいステージにしようね! 加蓮ちゃん!」
加蓮「うんっ……!」
藍子「ふふっ。Pさんも、できるだけ加蓮ちゃんと夕美さんを優先してサポートをしてくださるそうですよ」
藍子「私も、しばらく大きなお仕事はありませんから、手伝えることがあったら手伝いますね」
夕美「いいの!? ありがとう藍子ちゃん!」
加蓮「夕美とのステージかぁ……。気合、入れないとね」
夕美「ふふっ。改めて、よろしくお願いしますっ」
加蓮「こっちこそ。一緒のステージって言っても、夕美には負けないよ。覚悟しててね」
夕美「それはこっちのセリフだよ!」
藍子「私も、すっごく楽しみですっ。私も頑張らなきゃ」
夕美「いつもごめんね藍子ちゃん。助かってます♪」
加蓮「ねー。最年長の誰かさんなんかよりずーっと頼りになるまとめ役だよね」
夕美「・ワ・」
藍子「あはは……。こういう裏方仕事は、私の好きでやっていることですから……」
夕美「で、でもほら、その分私たちはレッスンを……ねっ?」
加蓮「それはそうだね。じゃ、頑張ろっか1」
「楽しい楽しいレッスン」
――レッスンスタジオ――
トレーナー「ワンツースリーフォー! ワンツースリーフォー!」
加蓮「っ、とっ」
夕美「~♪ ~~♪」
トレ「北条さん、もうちょっと手足の先を意識して! 相葉さんは先走ってます!」
加蓮「いけないっ」
夕美「おっととっ」
トレ「はい、ターン!」
……。
…………。
トレ「そこまで!」
トレ「さすがに基本的な部分は完璧ですね、この分なら早速高度なことにも挑戦してみましょうか!」
加蓮「ふーっ……」夕美「えへへっ」
加蓮「いえいっ」パンッ夕美「いえーいっ!」パンッ
トレ「油断するのは早いですよ。予定を前倒しして、早速本番を想定した練習を始めましょう!」
加蓮「え、もう? 私まだ歌詞もまともに覚えてないんですけど……」
トレ「動きから覚えていきましょう。相葉さんも大丈夫ですか?」
夕美「ダンスがちょっと自信ないかも……。ううんっ、でも、やってみます! 一緒に頑張ろ、加蓮ちゃん!」
加蓮「うんっ」
柚(見学中)「おおー……」
ありす(見学中)「…………!」キラキラ
柚「やっぱり加蓮サンと……ゆ、夕美サンはすごいやっ」
柚「でも、加蓮サンと限定ユニットなんてズルいっ」
柚「でもでも……うんっ。夕美サンならしょうがないなー。うんうん。しょうがないっ。加蓮サンを渡すのは、今回だけだぞっ」
柚「ねね、ありすチャ――」
ありす「…………!」キラキラ
柚「……ありすチャンは夢中になっちゃってますなー。柚たいくつだぞー」
トレ「ワンツースリーフォー! 喜多見さん、退屈なら体力用のトレーニングをしますか?」
柚「わわっ聞こえてた!? あ、アタシはいいですっ。今は加蓮サンを見てるっ」
ありす「…………!」キラキラ
……。
…………。
トレ「そこまで!」
加蓮「ぜー、はー……」
夕美「ふうっ」
トレ「さすがにデュオユニットとなるとすぐにはできませんね……」
加蓮「はー、はー……だね……」
夕美「前にやった時なんて、ほぼ即興だったもんっ……後でDVD見てみたけど、すっごくバラバラだったこと、よく覚えてるよ」
加蓮「うん。……でも」
夕美「それを見てくれた人が、私たちの歌を聞きたいと言ってくれた。……だよねっ?」
加蓮「だから私達は、あの時以上のパフォーマンスを魅せるの。それが、アイドルだもん……」
夕美「うんうんっ! ……でもちょっとだけ休憩しない? 加蓮ちゃん、すごくしんどそう」
加蓮「……ふうっ。何言ってんのよ。私を誰だと思ってるの?」
加蓮「トレーナーさん。私まだやれます。だから――」
トレ「はい。では、頭からもう1度――相葉さんも大丈夫ですか?」
夕美「……うんっ。加蓮ちゃん、遠慮なんてしないでね? 大丈夫っ、私だって頑張ってついていくから!」
加蓮「ん……。ついていくのは私の方だけどね」
<ワンツースリーフォー! 相葉さん、もっとはっきり前を向く! 北条さんは相葉さんと動きを合わせて!
<はいっ
<っっ、こう?
柚「むむ? 加蓮サンといえど苦戦してるみたいですなー。ここは、この柚サンが助っ人に」ガシ
柚「がし?」
ありす「…………」
柚「どしたのありすチャン」
ありす「あ……。いえ。助っ人は、もう少し見てからにしませんか?」
柚「んーそれもそっかっ。今行ったら逆に邪魔になりそうだよねっ」
ありす「……」ジー
ありす「……」
ありす「……柚さんは、魂が宿る時を見たことはありますか?」
柚「ン? たましい?」
ありす「本当のパフォーマンスには魂が宿るんです。それは見ているだけで、心が揺さぶられて……胸の中が熱くなっていくようなことがあって」
ありす「それは、奇跡のようなものだと思います――少し、幼稚な考えかもしれませんけど」
柚「たましいかー」チラ
柚「たましいかどうかは分かんないけどっ、見ててすごいなーって思うのはありすチャンと同じカモっ」
ありす「そうですね」
柚「へへっ。がんばれーっ、加蓮サーンっ!」
加蓮「――!」
柚「でもっ、アタシは見てるだけよりこうして声を出したり、応援したりする方が好き!」
柚「ねねっ、ありすチャンはバドミントンの試合って見たことあるカナ?」
ありす「バドミントンの試合ですか? 見たことはありません」
柚「高校でさー、そういう大会あるんだっ。で、みんな応援がすごいの! アタシもだけど!」
柚「バド部にいた頃は、って今もいるんだけどっ。ほぼ幽霊部員!」
ありす「はあ」
柚「でねでね。その時は、試合に全力っ! で、部員の試合をやってる時は、思いっきり応援してた!」
柚「だからアタシは、見てるだけより応援する方が好きカモっ」
ありす「……成程。応援ですか」
柚「ありすチャンも応援しよーよ! 加蓮サンと、夕美サンもっ」
ありす「そうですね。では、せーの、で」
柚「うんうんっ」
ありす「せ――」
柚「加蓮サンっ頑張れー!」
ありす「!? ふ、フェイントはズルいですっ! ……ゆ、夕美さんも頑張ってください……ーっ!」
<えへへっ、頑張るよーっ
<……うん。頑張るよ!
……。
…………。
トレ「そこまで!」
加蓮「」バタン
夕美「ふーっ……さすがに疲れちゃったかなっ」
トレ「まだ課題は多いですね。特に動きが合っていない部分が多いので、本番まで構成も含めて修正する必要がありそうです」
夕美「や、やっぱり?」
加蓮「ぜぇ……ぜぇ……。そう、ですね……。でも、ちょっと後で、いい……?」
夕美「ああっ大丈夫! トレーナーさんのお話は私が聞いて、あとで加蓮ちゃんにも教えてあげるからっ。今は休んでて!」
加蓮「ん……そーする……」
トレ「でも――」
夕美「でも?」
トレ「北条さんも、相葉さんも。応援されてから、急に動きが鋭くなったように見えましたよ」
トレ「あれならきっと、本番でも最高のパフォーマンスを発揮できるでしょう!」
夕美「はいっ♪」
加蓮「……」コクン
柚「おーっ。応援、効果あったみたいっ」
ありす「……(少し顔を赤くしながら)そうですね。私の声にも……力は、宿っていたのでしょうか」
「(その後)レッスンの後で」
――数時間後:事務所――
藍子「ただいま戻りました~」
柚「あっ、お帰り藍子チャン! ねねっ、お土産は?」
藍子「ごめんなさいっ。次は、何か選んできますね」
柚「ぐぬぬー。次こそは期待してるぞーっ」
藍子「はーい。柚ちゃんは、レッスンですか? それともミーティング?」
柚「んーん。加蓮サンの付き添い」
藍子「加蓮ちゃんの……?」
<ガチャ
加蓮「ふー、すっきり」ホカホカ
柚「加蓮サンだ! ……シャワー上がりの加蓮サン。あったかそう! そんでー、いい匂いがしそう!」
柚「となればっ!」
藍子「……あはは」
柚「とりゃー!」ダイブ
加蓮「はい避ける」
柚「ぎゃふん!」ベチョ
藍子「ですよね……。柚ちゃーん。大丈夫ですかー?」
柚「へーきだよっ!」
加蓮「まったく。いつもいつもいきなりなんだから」
柚「た、たまには柚を受け止めるって選択肢はないのかーっ」
藍子「お疲れ様です、加蓮ちゃん」
加蓮「あれ? 藍子? ……あーそっか、撮影に行ってたんだっけ」
加蓮「お帰り、藍子」
藍子「はいっ♪ ただいま戻りました、加蓮ちゃんっ」
柚「(床に突っ伏せながら)柚にはー? 柚にはおかえりってないのー?」
藍子「柚ちゃんも、ただいま戻りましたっ」
柚「やたっ」パタパタ
加蓮「はいはい、寝っ転がってバタバタしないの。汚れるよ?」
柚「そしたら加蓮サンみたくシャワー浴びるもんっ」
藍子「加蓮ちゃん、今までレッスンをしていたんですか? もう外、けっこう暗いですよ?」
加蓮「んー……ちょっと終わった後に休憩挟んで居残りレッスンをね」
藍子「居残り?」
加蓮「なんていうか……なんだろ、そのまま帰るのが嫌でさー、もうちょっとだけやっときたかったって言うのかな」
藍子「そうなんですか。ふふ、今日も加蓮ちゃんは頑張ってるんですね♪」
加蓮「まーね。せっかくの大舞台だもん」
藍子「でも、あまり無理はしすぎないでくださいね?」
加蓮「無理なんてしてないってばー」
柚「だいじょーぶ! アタシがちゃんと加蓮サンを見張ってる! ドクターストップはお任せあれ!」ピョン!
加蓮「わっ。だから急に飛び上がったらびっくりするでしょ?」
藍子「ふふ。私がいない間の見張り役は、柚ちゃんにお任せしますね!」
柚「任された! なんなら藍子チャンがいる間も任されていいんだぞ!」
藍子「いいんですか?」
柚「お菓子を食べてる時とー、レッスンしてる時とー、お仕事している時以外! あとっ、遊んでる時以外! それならアタシがやるっ」
藍子「分かりましたっ。柚ちゃんがお菓子を食べている時と、レッスンの時と、お仕事の時と、遊んでいる時以外は、柚ちゃんにお任せしますね」
柚「さっすが藍子チャン! 分かってるぅ!」
加蓮「それほとんどやりたいことをやってるだけだよね? あと見張りとかいらないってば……」
藍子「だって、誰かが見張っていないと加蓮ちゃん」
柚「すぐ無理してしまいますからなー」
加蓮「……そ、そうだけどさ。でもその……今は、無理がしたいって訳じゃないの。どっちかっていうと、もうちょっとやりたかったっていうのかな……」
柚「同じだと思うな!」
加蓮「そうじゃなくてっ。無理がしたかったんじゃなくて、なんかあんまり帰りたくなかったのっ」
柚「……それ何が違うの??」
藍子「帰りたくなかった、ですか?」
加蓮「……ちょっとだけね」
柚「でも外、もう暗いよ? ってわわっ、いつの間にか真っ暗だ! 藍子チャンはだいじょーぶなの?」
藍子「今日は迎えに来てもらうことにしています。柚ちゃんは?」
柚「じゃーアタシも藍子チャンと一緒に帰る! いい?」
藍子「だ、大丈夫かな……? ちょっと、お母さんに聞いてみますね」
柚「あいあいさー!」
加蓮「柚ってば、相変わらず遠慮も何もないんだから……」
加蓮「…………」
柚「加蓮サン?」
加蓮「あ、ううん……。そっか。もう帰らないといけない時間なんだね」
柚「……?? そだよ? 今日はもう閉店だっ。あっ、加蓮サンも藍子チャンのおかーさんの車に乗せてもらう?」
柚「藍子チャーン! 加蓮サンも乗りたいって!」
藍子「へ? あ、ちょっと待っててねお母さん……うん。聞こえてた? 加蓮ちゃんも乗りたいって。うん、うん。お願いね……」
藍子「大丈夫みたいですよ。今から来るって言ってましたから、一緒に待ちましょう」
柚「オッケー!」
加蓮「……あはは、いいよ。別に見えないほど暗いって訳じゃないし、1人で帰れるよ」
柚「えーっ。一緒に帰ろうよ! その方が絶対楽しいよ?」
藍子「加蓮ちゃんを送ってもらうくらいなら、大丈夫だと思いますよ……?」
加蓮「いいってば。そしたら寂しくなっちゃうでしょ? そうなる前に、さっさと帰るよ」
藍子「そこまで言うのなら……。気をつけてくださいね、加蓮ちゃん」
柚「また明日ー!」
加蓮「……ん。また明日」
<ばたん
藍子「うーん……」
柚「ヘンなのー。そんなに車に乗りたくなかったのかな? 実はー、加蓮サンって車酔いしやすい方だったり!」
藍子「そういうお話は聞いたことありませんけれど……。柚ちゃんは、何か知ってる? 加蓮ちゃんが、何かを隠している、とか……」
柚「んーん。加蓮サンけっこー隠し事とかするけど、ヤバイのはしないタイプだしっ」
藍子「……そうですよね。なら、大丈夫なのかな?」
柚「きっとだいじょーぶ! さー、藍子チャンのおかーさんが来るまで何してよっか。トランプ? オセロ?」
藍子「じゃあ、ババ抜きでもしちゃいましょうかっ」
柚「オッケー!」
<ぎゃーまた負けたー! 藍子チャン、強すぎっ
<……柚ちゃん、すぐに顔に出ちゃってますよ?
<ホント!? ううぅ、それ加蓮サンにもよく言われるんだ! そ、それよりもっかい!
<はーい。次も、負けませんよーっ
「枕元にはいつもタオルを」
――北条加蓮の自室(夜)――
豆電球だけの部屋で、何度目になるか分からない寝返りを打つ。
投げ出した手が、枕元のタオルを掠めた。
いつも起きた時は汗びっしょりだから、朝の洗濯物が1つ余分に増えてしまって、事ある毎に母親から小言を受けるのだ。
1人で寝るのが苦手なんで子供じゃないんだから、と。
「私、まだ子供だよ?」とおちゃらけてみたり、「……そうなの。実は悩みが」とシリアス口調に切り出してどうでもいい話を振ってみたりと、はぐらかして、誤魔化して、いつかどうにかなればいいや、なんて思って。
今も、どうにもなっていない。
幼少期、入院生活から抜け出せて最初に思ったのは、都会の夜って意外に静かなんだなぁ、ということ。
病院にいた頃は、聴覚神経を薄針で突き刺されたような沈黙が嫌で嫌で、外に出たら賑やかな場所で眠れるんだ、と――人間は静かな場所だからこそ眠れるという一般論に全力で喧嘩を売り飛ばすような憧れを持っていたけれど、所詮はただの空想だった。
両親も既に寝静まっているらしく、階下からも何の音も聞こえない。
スマートフォンを取り出した。表示された時間は0時37分。
なんとなくロックを外して、ふと、通知が1件入っていることに気付く。
喉の奥が、微かに跳ねた。
唇の端を舐めながら確認する。そして落胆する。大昔に登録したまま放置しているメルマガだった。
スマフォをスリープに戻し、投げて、大きくため息を1つ。
0時37分。
両親もだし……みんなも、寝ている頃だろう。
例えば。
例えばの話。
寂しい、なんて声に出しても、誰も拾ってくれる時間ではない。
お昼の出来事が蘇ってきた。夕美とのレッスンは本当に楽しかった。発展的なことを始めた途端に体力や表現力、歌唱力、基本的な身体能力、あとは歌詞やリズムがあやふやであること――あらゆることが壁となり、何度も転び、へばり、トレーナーの叱責を受けたが、それでも楽しかった。
転ぶ度に手を差し伸べてくれて、「さ、もっかいやろっ?」と、「少し、休憩もらっちゃおっかっ」と、声をかけてくれる夕美が、すごく頼もしかった。
夕美だけではない。
柚とありすが見学していた。それだけで気が引き締まった。
何より。
何度も何度も同じところで失敗してしまい、歯噛みした頃に、柚が言ってくれた。
がんばれーっ、加蓮サーンっ――
柚からもらえる「頑張れ」という言葉は、少し特別な意味を持つ。
一番最初に、頑張っている自分をすごいと言ってくれたのは、彼女だったから――
今でも努力ができるのは、柚のおかげかもしれないから。
……お昼は、あんなに楽しかったのに。
嫌なことも、きついことも、上手くいかないイライラも、すうっ、と消えていったのに。
今は、ただただ、芯が冷たい。
ずっと楽しい時間が続けばいいのに。
かなわない願いを胸に抱えながら、北条加蓮は今日も独りぼっちになる夢を見る。
「私の見ている世界」
――レッスンスタジオ――
トレ「ワンツースリーフォー、ワンツー――」
加蓮(ここで立ち位置を交換するからっ……)
夕美(早めに左側へ意識して、)
夕美「って加蓮ちゃん危ないっ!」
加蓮「え? ……きゃっ!」ドンッ
夕美「痛っ!」ドンッ
加蓮「ったた……ごめん夕美。またぶつかっちゃった……」
夕美「う、ううん、痛いけど大丈夫。加蓮ちゃんこそ大丈夫? 立てる?」スッ
加蓮「大丈夫……」タチアガル
トレ「ワンツースリーフォー! 北条さん、相葉さんの方を意識しすぎです! もっと前を向いて!」
加蓮「は、はいっ」
夕美(…………)チラ
トレ「ワンツースリーフォー! 北条さん前に出過ぎです! 立ち位置を合わせて!」
加蓮「ぐ……」
トレ「そこまでっ! では、15分休憩をしたら、また後半のレッスンを――」
……。
…………。
ありす「『Flower Mint』ですか」
夕美「うん。私と加蓮ちゃんのユニット名。シンプルでカッコイイでしょっ?」
ありす「そうですね、夕美さんと加蓮さんらしいと思います」
夕美「『にぱゆる』の方に参加できなくてゴメンね? でもっ、私たちのデュオユニットでもしっかり宣伝はしていくから!」
ありす「はい。にぱゆる拡大計画はまだまだ始まったばかりです。夕美さんの活躍にもかかっていますから」
夕美「うんっ。任せておいて♪」
ありす「それより、私もレッスンに参加してよかったんですか? 2人の邪魔になるのでは?」
夕美「いいのいいの。フェスまではまだ時間があるし、いろんなレッスンを試さなきゃって」
ありす「Pさんの考えることはたまに分かりません。……Pさんのことですから、きっと何か意味があるんでしょうけど」
夕美「Pさんって不思議な人だよね。でもっ、Pさんの言うことだし悪くはならないよっ」
ありす「それは分かっていますが」
加蓮「はーっ、はーっ……」ゼェゼェ
ありす「お疲れ様です。加蓮さん」
夕美「加蓮ちゃん、だいじょうぶ?」
加蓮「なんとか……」
夕美「調子、悪そうだね。具合が良くないなら早めに言うんだよ?」
加蓮「うん……」
加蓮「はー……。なんかうまくいかないっていうか、壁に当たっちゃった感じかな……」
夕美「試してみたいことはいっぱいあるのに、どこかでうまくいかなくなっちゃうんだよね」
加蓮「体力もだけど、頭の中がちょっとぐちゃぐちゃだし」
夕美「構成も、あれからコロコロ変えてるから覚えるだけでせいいっぱいだもん……」
ありす「…………」
加蓮「……あんまりさ、あれこれやりたいなんて欲張ってちゃダメなのかな」
夕美「そんなことないよっ! 大丈夫だって! まだ4日目だもんっ。焦っちゃ駄目だよ、加蓮ちゃん」
加蓮「分かってるよ。分かってるけど……」
加蓮「上手くいってないのに夕美は余裕そうでいいね。私なんてずっといっぱいいっぱいなのに」
夕美「え? そんなことないよ!? 私だって必死だよっ」
加蓮「そうは見えないから言ったのっ」
夕美「そ、そんなこと言われても……」
ありす「加蓮さん、夕美さん……」オロオロ
夕美「ほらっ、加蓮ちゃんが怖い顔しているから、ありすちゃんが何言えばいいか分かんなくて困っちゃってるよっ」
ありす「え? あ、いえ……」
加蓮「…………」
加蓮「……ごめん。ちょっと歩いてくる。大丈夫、休憩明けまでには戻ってくるから」スタスタ
ありす「加蓮さん――」
夕美「ありすちゃんストップ!」
<ばたん
ありす「え?」
夕美「今はいいのっ。加蓮ちゃんにだって、1人になりたい時はあるよっ」
夕美「大丈夫。ちゃんと戻ってくるハズ。それまで私たちは休憩しながら待っていよ?」
夕美「もし戻ってこなかったら、その時は私たちで探しに行こっ?」
ありす「……はい」
……。
…………。
――廊下――
加蓮「…………」テクテク
加蓮「…………」テクテク
加蓮(…………)タチドマル
加蓮(……………………)
――回想――
夕美『合わせるのって難しいね。動きがバラバラになっちゃう』
夕美『歌声のバランスとかも。ふふっ、加蓮ちゃんについていくのって難しいね。私、頑張るよ!』
――回想終了――
加蓮(なんて言うけど、明らかに私が夕美についていけてないんだよね)
加蓮(新曲自体かなりハードだし、その上色々やってみようってなってるから単独でもキツくて)
加蓮(そこに、夕美のポテンシャルにも合わせないといけなくて……)
加蓮(……体力は私の方が大負け。声は、私の方がちょっと出てるかもしれないけど、それ以上に夕美の視野がすごく広くて、動きを捉えきれないっていうか)
加蓮(そのくせ私にまで……気を回してくれて。なんていうかな。総合力で惨敗してるって感じがする)
加蓮(……見えてる物が違う。というより、見えている範囲が違うって言うべきなのかな)
加蓮(難しいなぁ……)
<てくてく...
加蓮(意外とできないことが多い、って、久々に思い知らされた)
加蓮(自分はギリギリでアイドルをやれてるんだ、って、叩きつけられたのも、すごく久しぶり)
加蓮(……上手くいかないことだって楽しい)
加蓮(うん。それは嘘じゃない)
加蓮(でもさ……それで夕美に迷惑をかけてちゃダメだよね、私)
加蓮(負い目……なのかな……)
加蓮(単純に自主練しただけでも埋まらない物がある)
加蓮(……ダンスもボーカルも、何もかもがぜんぜん上手くいなかった頃の私は、どうしてたっけ)
<てくてく...
加蓮(……ん?)
加蓮(あれ、この部屋って――)
加蓮(……)
加蓮(……レッスン用の部屋のうち、いくつかは自主練用に開けられている。ここも、その1つ)
加蓮(懐かしいなぁ。最初の頃、よく使ってたっけ。努力している姿を人に見せるなんて嫌だったし)
加蓮(それでもあの時――)
加蓮(……)
加蓮(……戻ろう。そろそろ、休憩時間が終わる)
――レッスンスタジオ――
<ばたん
加蓮「ただいま、夕美、ありす」
夕美「お帰り加蓮ちゃん!」
ありす「……お帰りなさい」
加蓮「うん。……あはは、ごめんね? 迷惑かけるだけかけて出ていくなんて」
夕美「ううんっ。あのね、加蓮ちゃん、まだイライラしてるかもしれないけど聞いてくれるかな?」
加蓮「なに……?」
夕美「さっきも言ったけど、心配しすぎなくても大丈夫だよ。最初に上手くいかなくても、焦らなくていいのっ」
夕美「加蓮ちゃんも私も、アイドルになって随分経つもん。新しい歌でも振付でも、なかなかできないってことがどんどん減っていって……そんな時にうまくいかなくなったら、ちょっとイライラしちゃうよね」
夕美「私も久しぶりだもん。こんなに慣れないって感じがするの」
夕美「だからほら、最初の頃を思い出してみよっ?」
夕美「花にだって、すぐ咲いてくれる物もあるけど、なかなか咲いてくれない物だってあるんだ。でもそういう花だからこそ、咲かせた時の感動はひとしおだよ!」
夕美「焦らなくて大丈夫。ゆっくり、でもいっぱいに、私たちの花を咲かせていこうよ!」
夕美「できないからって諦めることは、私、したくないなっ」
加蓮「夕美……」
加蓮「…………あははっ」
夕美「加蓮ちゃん?」
加蓮「ううん。実は私も同じこと考えてたの」
夕美「そうなんだっ」
加蓮「レッスンがぜんぜん上手くいかなかった頃、どうしてたかなーって。そしたら前によく使ってた自主練用の部屋まで歩いていっちゃってて」
加蓮「そしたら、なんていうか……また改めてちゃんと見ていきたいっていうか。そういう、周りにあるものとか」
夕美「周りにあるもの……」
加蓮「振り付けとかボーカルとか、結構ハードでさ。夕美のこと、まだしっかり見れてないと思う」
加蓮「でも……ちょっとずつ、合わせられるようにしていくから」
加蓮「……夕美も、私のこと、見ててくれると……」
加蓮「ほ、ほらっ、夕美ってリーダーでしょ? そんくらい余裕でしょ! っていうか、そんくらいできないと私も夕美をリーダーから引きずり下ろす同盟に入っちゃうよ!?」
夕美「加蓮ちゃん……」
夕美「ふふっ♪ 分かったよ。私も、もっと加蓮ちゃんを意識して動くようにするねっ」
夕美「だからちょっとずつでいいから頑張ろ? まだ時間はあるもん! 1つずつ、できることを増やしていこっ」
加蓮「……うん。トレーナーさん、休憩終わりっ! またよろしくお願いします!」
トレ「分かりました! それじゃあ頭からもう1度――」
ありす「……」
ありす「……分析も、模索も……自分が出来る方だと思っていたことが恥ずかしいです。どこにだって上には上がいるんですね」
ありす「ふふ」
ありす「私も少し歩いてきますね。頭を冷やして、"先輩"をしっかり見つめることに……」
ありす「…………」チラ
<ワンツースリーフォー! 北条さん、もっと大胆に動いて! 相葉さんも!
<はいっ
<はーい!
ありす「やっぱり見ていくことにします。今は……頭を冷やすより、熱情に溺れていたいですから」
ありす「……」
ありす「……が、がんばれー……」ボソ
<うんっ! 頑張るよーっ! ありがとうありすちゃん!
ありす「!? 聞こえたんですか!? 今の音量で!?」
ありす「~~~~~」カオマッカ
「【長め】風邪ひきさん」
――北条加蓮の家・加蓮の部屋――
柚「あったよ夕美サンっ。氷枕!」
夕美「ありがとう柚ちゃん。はい、加蓮ちゃん。ちょっとごめんね……よいしょ、っと」
加蓮「んっ……冷た……」
柚「これで楽になるカナ?」
夕美「うーん。まだ苦しそうかなぁ。加蓮ちゃん、やっぱりつらい?」
加蓮「大丈夫……だいぶ楽になったよ……。ケホッ、ありがとね、夕美。柚も」
柚「へへっ」
加蓮「だからほら……もう帰りなさいって。風邪、伝染るとよくないでしょ?」ケホッ
夕美「何言ってるの加蓮ちゃん! こんなにしんどそうにしてる加蓮ちゃんをほっとくなんてできないよ!」
柚「そーだそーだ!」
夕美「病人は大人しく寝ていなさいっ!」
柚「そーだそーだ!」
加蓮「……………………やだ」
夕美「ほら、ご飯とかは私たちが用意してあげるからっ」
柚「身体だって拭いちゃうっ。柚が加蓮サンの身体を隅から隅まで……ふっふっふー、ファンにこの話をしたらうらやましがられちゃうかな?」
加蓮「…………はー……」
加蓮「柚。その話は……するなとは言わないけど、あんまり言いふらさないでね」
柚「あいあいさー!」
加蓮「……夕美。アンタ確か……ケホッ……今日、レッスンの予定でしょ? 夕方から……」
夕美「う゛っ……それは、そうなんだけど……」
柚「ええっそうなの!?」
加蓮「そうなの。例のフェスに向けての……私はもう、今日は出られないって連絡したけど、夕美はいつも通りなんでしょ? だから、ほら。私はいいから……」
夕美「でも……」
柚「夕美サンっ。加蓮サンはアタシが見とくから、夕美サンはレッスンに行ってもだいじょーぶ!」
夕美「うーん……」
柚「むむっ、その顔は信じてない顔!」
夕美「ええっ!? そんなことないよ、そうじゃなくてっ」
柚「アタシだって加蓮サンの看病くらいできるよ! お布団かけてー、おかゆ作ってー、でしょ?」
柚「それに加蓮サンつらそうだし、うるさくもしないよっ。だいじょーぶだいじょーぶ、アタシを信じて欲しいなっ」
加蓮「ケホッ……あのねぇ夕美。風邪を引くなんてもう慣れっこだし、大丈夫だってば」
夕美「加蓮ちゃんがそういう言い方するから、心配なんだけどなぁ……」
加蓮「ゴホゴホッ……。だったらさ……夕美、先に私がやる分までやってから、私が元気になったら教えてよ」
加蓮「私の為だと思ってさ。ダメかな……?」
夕美「……うん……分かった。柚ちゃん、任せちゃって大丈夫?」
柚「あいあいさー! アタシが絶対、加蓮サンを元気にしてみせるね! もし加蓮サンが平気って言ってもちゃんと看病するよっ」
夕美「ホントにごめんね柚ちゃん。あっ、加蓮ちゃんも! レッスン終わったらまたすぐ来るから!」
加蓮「来なくていいってーの……」
<行ってくるねー!
<がちゃっ
加蓮「……ホント、大げさなんだから。ちょっと風邪引いたってだけなのに」
柚「うーん……でも加蓮サン、すっごくつらそう。柚に何かできること、ない?」
加蓮「伝染らないうちに帰れ」
柚「それはいくら加蓮サンの言うことでも聞けませんなー」
加蓮「ちっ」
柚「タオル交換してー、ぎゅっと絞って、えいっ」ピタッ
加蓮「んっ……」
柚「……そうだっ。加蓮サンが退屈しないように、柚、何か話すね。笑っていればしんどくないよね! 面白い話、何かあったカナー」
加蓮「いいよ……。それよりね、柚。眠たいから、ちょっとだけ眠ってもいい?」
柚「ね、寝ちゃうと死んじゃうぞー!? 起きろー!?」
加蓮「死なないっての」
柚「ホントに?」
加蓮「ホントに」
柚「ホント?」
加蓮「ホントホント」
柚「加蓮サン、うそつきだからなー」
加蓮「ひどいなぁ」
柚「加蓮サンのだいじょーぶは、だいじょーぶじゃない。って、Pサンと藍子チャンが言ってた! アタシもそう思う!」
加蓮「……Pさんはともかく藍子がそんなこと言ってたの?」
柚「? 言ってたよ? 加蓮サンがだいじょーぶって言ってる時はだいたい無理してる時だ! って」
柚「藍子チャンって加蓮サンのことよく見てるからなー、これは柚も負けてられないなー」
加蓮「そっか……」
加蓮「じゃあ、大丈夫じゃないから少し寝たいの。それならいい?」
柚「ならアタシ、加蓮サンが起きるまでずっとここにいる! アタシって風邪とか引いたことないんだ! だから伝染ることはきっとないっ」
加蓮「ああ、馬鹿だから」
柚「なにおう!?」
柚「あっ加蓮サン、起きたらおはようって言ってね。そしたらアタシも安心できるカモ」
加蓮「……うん…………」
柚「加蓮サン?」
加蓮「……………………」
柚「どしたの?」
加蓮「……あのね……」
加蓮「あのね、柚。私が起きたら、私よりも先に、おはようって言ってほしいな。……それだけだよ」
柚「先に言えばいいの?」
加蓮「うん」
柚「そっかー。じゃあアタシが先に言ってあげるね。だから安心して寝ててね、加蓮サン」
加蓮「うん……」
……。
…………。
体調を崩した時には、いつもにもまして嫌な夢を見る。
そのどれもが、苦しくて、辛くて……手を伸ばしてすがろうとしたら、どろどろに溶けてしまう、息苦しいばかりの夢だった。
ゆっくり休むなんて嫌だって思いと合わさって、意地でも目を開きたくなる。
でも……どうしてかな。
今は、大丈夫な気がした。
目を瞑ると思い出す。事務所のみんなのこと。みんなの笑顔。
いつもそこにいてくれる藍子。すまし顔の中に可愛らしい女の子がいるありす。
私と一緒にアホやるくせに、こういう時に限ってはお姉さんっぽくて……頼りになる、夕美。
それと、さっきから心配そうにしたり楽しそうにしたりで、なんだか忙しなくて。
でも、一緒にいてすっごく楽しい、柚――
――???――
……。
『――いさー! ――なー、まずは――――して、えとっ』
…………。
『仲良くなりたいなっ』
……。
…………。
――回想・路上――
加蓮「プロデューサーじゃん。えっ、迎えに来てくれたの? ……そっちの子は?」
柚「へへっ。えーと加蓮チャン? だっけ? はじめまして! アタシは柚だよ。えっと、一緒にステージやる人? だよねっ」
加蓮「……そうなの? プロデューサー」
加蓮「なーんだ、学園祭LIVEの話、ソロじゃなかったんだ」
加蓮「……拗ねるなって? ふふっ、冗談だよ」
柚「Pサンの言う通り、なんだかマジメそうな人だっ」
加蓮「ちょっとプロデューサー。どういう紹介してるの? もう……」
加蓮「ええと……柚ちゃん? だっけ。よろしくね。私は北条加蓮だよ」
柚「喜多見柚! 柚でいーよ! 一緒に楽しくやろーね、加蓮チャン!」
加蓮「柚ちゃん。元気いっぱいなんだね」
柚「どうせやるなら、元気いっぱい楽しくやりたいしっ。それにアタシ、誰かと一緒にLIVEやるのって初めてなんだ。だからこう、ぱーっ! って感じて思いっきりやりたいっ」
柚「あ、えとっ、あんまりマジメすぎるのは嫌、カナー。そのっ……か、肩の力を抜いてがんばろう!」
加蓮「え、うん」
柚「……アタシは肩を抜きすぎ? 加蓮チャンを見習え? むむ、Pサンも言いますなー。でもやだっ。これがアタシのスタイルなの!」
柚「そんでそんで、アタシと一緒にやる加蓮チャンにも教えてあげるんだっ」
加蓮「あはは、ありがと……あの、プロデューサー?」
加蓮「……(小声)正直うまくやれる自信ないんだけど」
加蓮「とりあえずやってみろって? うん……分かった。プロデューサーの言うことだもんね。信じてみるよ」
柚「?」
加蓮「なんでもない。今日からよろしくね、柚ちゃん」
柚「よろしくーっ」
……。
…………。
――数時間後・レッスンスタジオ――
柚「おつかれさまでしたーっ」
加蓮「お疲れ様でした」
柚「むむ、アタシも加蓮チャンもまだまだって感じ。でもいいや、明日またがんばろうっ。明日できなかったら明後日だ!」
加蓮「…………」
柚「ねね、加蓮チャンってどこに住んでるの? 途中まで一緒に帰ろ!」
加蓮「……ごめん、柚。私まだ帰らないから先に帰ってて」
柚「そっかー。明日は一緒に帰ろうね!」
加蓮「うん、分かった。明日は一緒に帰ろっか」
柚「じゃあねー!」
――さらに数時間後・夜遅くのプロダクション内の廊下――
柚「忘れ物忘れ物っ。あった! よかったー、ここに落ちてたんだ。誰にも拾われてなくてセーフっ」
柚「……アレ?」
柚「レッスンスタジオ、電気がついてる。誰か切り忘れたのカナ?」
柚「……これはっ、面白そうなことが起きてそうな予感!」
柚「なんだろなんだろ? 実は実はー、誰かがこっそり入って……事件を起こしてたりして!」
柚「柚、第一発見者? ままままさかっ、犯人に口封じされちゃうっ?」
柚「アイドル喜多見柚は見たっ! えっと……なんかこう、事件的なのを!」
柚「ってことでー、見ちゃえっ!」
――レッスンスタジオ前――
てててっ
柚「どれどれー?」ノゾキコミ
柚「…………え?」
<~~~~♪
<かちっ
加蓮「はーっ、はーっ…………」バタン
加蓮(……やっぱ、もたないなぁ……。1曲すらやりきれないって、ホント、どうなってんのよ、私の体力……)
加蓮(しかも今度のステージは、私1人だけのものじゃない。迷惑をかける訳には……)
加蓮(今、何時? ……うん、まだ大丈夫。自主練の許可もらってるし)
加蓮(無理するな、って言われたけど)
加蓮「……無理せずにいて、何がアイドルだ」グッ
加蓮「もっかい……次こそ、上手くやるんだからっ」
<かちっ
<~~~♪
柚「…………加蓮……チャン?」
<~~~♪ ~~~~♪
加蓮「『~~~♪ ~~~~♪』っ、次っ、右、左……きゃっ」バタッ
加蓮「ぜーっ、ぜーっ……」
<~~~~♪ ~~~♪
加蓮「…………」チラッ
加蓮「はぁ、はぁ…………なんでこう、上手くいかないかなぁ……!」
<かちっ
加蓮「ぜー、ぜー……」
加蓮「も、もっかいっ……!」
柚「……………………」
――倒れても、倒れても、何度でも起き上がる。
歯をくいしばって、顔をぐしゃぐしゃにして。
踊る度に、また、倒れてしまって。
目をぐしぐしと拭って、それからまた、立ち上がる。
柚「……す、ごっ…………」
やがて、倒れている時間の方が長くなってきた。
床を、どん、と叩いて、また立ち上がった。
目を瞑って、少しの間、動かなくなった。
見ている側がハラハラしていて、でもまた拳を握って、汗を拭う。
もう、とっくに夜も更けている頃なのに。
何度も、何度も。
起き上がる度に、それがアイドルだ、と口にする。
「それがアイドルだ」。
……反復してみると、それがとても大きな言葉だと気づいた。
まだそんなに、アイドルのことに詳しい訳じゃないけど。
彼女の口から発されたその言葉は、何度も何度も繰り返し、胸の中に広がっていった。
――レッスンスタジオ――
柚「た、たたたたのもーっ」バン!
加蓮「ぜー、ぜー…………え?」
柚「え、えと、そのっ! ……えと! えと!」
加蓮「柚、ちゃん……? ゼェ……なん、ゲホッ! なんで、ここ……ゲホッ」
柚「あああああええとええと、と、とにかくストップ! えとっ……!」
柚(な、何言えばいいんだろ……!? どしたらいいのー!? 誰か助けてー!」
加蓮「……?」
加蓮「……ぷっ」
柚「へ?」
加蓮「ハァ、ハァ……ふふっ。声に出てるよ? 助けて、って」
柚「な、なんですと!?」
加蓮「何も考えてないで来ちゃったの?」
柚「……う、うん」
柚「あの、でも、こ、こーゆーの、よくないって思う!」
加蓮「…………」
柚「ひ、ひとりでこそこそやるなんてよくないぞー。仲間はずれにすると柚が悲しんじゃうぞー。きっとPサンもそーいうのよくないって、言うと、思う……」
加蓮「…………」
柚「…………」
加蓮「…………」
柚「……か……」
柚「加蓮サンってスゴいんだねっ!」
加蓮「……え?」
柚「さっきの加蓮サン、スゴかった! な、なんかよく分かんないけどスゴかったっ! アイドルってこれなんだ! って感じ!」
加蓮「……私なんてただの出来損ないだよ。体力ないし、ダンスは壊滅してるし」
柚「そんなことないよ! だってスゴいって思ったもん!」
柚「えとえとっ、ここには頑張る人はいっぱいいてっ、それもそれでアタシはびっくりしてたけどっ」
柚「でも加蓮サン、なんか違うの! なんかスゴかった!」
加蓮「あのね。私はただ――」
柚「そんでそんで、アタシも一緒にやりたいっ」
加蓮「……聞いてる? 私がやってるからってそっちにまで無理強いは」
柚「ダメって言ってもやる! こんなに頑張りたいって……一緒にやりたいって思ったの初めてなの! 絶対一緒にやるんだっ!」
加蓮「しな……。……はぁ。肩の力を抜くって話はどこに行ったの?」
柚「あーあーきこえなーい! ふ、普段はテキトーかもしれないけど、今は……だって! すごく頑張りたいの! 加蓮サンと一緒に!」
加蓮「……私、毎日これやってるよ?」
柚「ままま毎日!? そ、それはちょっと……アハハ、柚サンにはハード、カナ?」
柚「……でも、今日は一緒にやるって決めたっ。不真面目でテキトーな柚サンは今日はお休みだっ」
加蓮「…………」
柚「ささっ、やろやろ!」
柚「あ、でも加蓮サンはいっかい休み! アタシがやるから加蓮サンは見学してることっ。アタシがやったら次は加蓮サンの番で!」
加蓮「…………」
柚「……で、でっ、ど、どーカナ? ど……どーでしょうかどーですか……ええとええと、あうぅぅ……」
加蓮「……ふふっ」
柚「!」ホッ
柚「あっ。……べ、別に怖かった訳じゃないぞーっ」
加蓮「うそつき。本当は私のこと怖がってたんでしょ?」
柚「ホントにホント! ち……ちょっぴり怖いなーって思ったかもしんないけどっでもスゴイって思ったの!」
柚「アタシそんなに頑張れないもん。まったりーってしかできないもん。だから、加蓮サンはスゴいっ」
加蓮「別に、できないからできるまでやるってだけだよ。すごくなんてない、むしろ情けないだけで、」
柚「スゴいったらスゴいっ。頑張ってるのって、アタシはスゴいって思うな!」
加蓮「え……」
柚「アタシ、今みたいに1人で頑張るのってムリっ。絶対ムリっ」
柚「だから加蓮サンはスゴいなーって。うん! 加蓮サンはスゴいっ!」
柚「でもっ! アタシも一緒にやりたい! やらせろーっ!」
加蓮「…………」
柚「こ、こそこそやるなんていまどき流行らないぞー? 今のブームは、ほらっ、みんなで和気あいあい! 仲良しアイドルブーム、きっと来る……と思うっ……く、来るといいな?」
加蓮「…………」
加蓮「…………ありがとう、柚」
柚「!」
加蓮「すごいなんて、言われたことなかったから……。結果を出さなきゃ、って、ずっと思ってたから……」
加蓮「頑張ってることをすごいって言ってくれるの、すごく嬉しいなって」
柚「そ、そっかっ。えーとっ、加蓮サンはスゴいよっ」
加蓮「もうっ……やめてよ。顔、赤くなっちゃうじゃん……」
柚「アタシにはできませんなー、スゴいですなー」
加蓮「も、もう! 私のことはいいから、やるならさっさと」ヨロッ
加蓮「あれ?」バタッ
柚「? 加蓮サン? おーい、だいじょぶ?」ツンツン
加蓮「あ、あはは……。えっと……その……」
加蓮「わ、私もその、いつもの私は今日は閉店っていうか、柚を見習うっていうか……」
加蓮「今日できなかったことは明日ってのでいいかな、なんて……」
柚「そのこころはっ」
加蓮「……思ったより無理しすぎたかも、ちょっと立てない」
――車内――
加蓮「や、やっぱりやりすぎ? ……ごめんね。でも、心配してくれてありがと……ぷろでゅ……ううん、Pさん」
柚「そしてPサンはアタシに感謝するのだ。アタシが見つけてなかったら、加蓮サンきっと、一晩中やってたと思う!」
加蓮「さすがに一晩は……な、何その目。Pさん私のこと信じてくれないの?」
柚「おー、Pサンたじたじだっ。加蓮サンの上目遣い、効果バツグンっ」
加蓮「……うん。もう無理はしないよ。約束する」
加蓮「でも、ちょっとくらいは無茶はさせてね」
加蓮「私だってやる気なんだよ? 誰かと一緒にLIVEをやるなんて……意地を張りたくもなるよ」
柚「加蓮サンっていじっぱりサン?」
加蓮「できないままっていうのがすっごくムカつくの。ましてアンタみたいな……脳天気でテキトーな子に負けるなんてね、冗談じゃない」
柚「なにおう!?」
加蓮「……だからー、Pさん? そんなに睨まなくても、もう無理はしないから。それは本当だから、ね?」
柚「じゃ、アタシがちゃんと見張っとくっ。そしたら加蓮サンも無理しなくなる!」
柚「……でも、たまに、たまーにでいいから、アタシも加蓮サンみたいに頑張りたい」
柚「2日に1回……み、3日に1回……4日に1回くらい! いつもの柚はお休みって感じ?」
加蓮「ふふっ。ね、柚」
柚「なになに?」
加蓮「一緒に頑張ろうね、LIVE」
柚「うんっ。えと、でもでもー、たまには肩の力を抜いてみるのもいいカナ? 加蓮サンだって、ほらっ。たまには閉店でもいいと思うな!」
加蓮「そうだね。肩の力を入れっぱなしじゃ、疲れちゃうもんね」
柚「そーそー! じゃあ、アタシがいろんなこと教えてあげる。まずはー、お休みをいっぱい楽しむ方法からっ」
柚「そうだ! 明日っ、柚が案内してあげる! オススメのスポットとかあるんだ。きっと加蓮サンも楽しめるよ!」
加蓮「……あれえ? 一緒に頑張るって話はどこに行ったのかなー?」
柚「うぐっ。そそ、それはー、そのー、じ、じゃあ! 明日は頑張って、明後日は遊ぼう! うんっ! そうしよう!」
加蓮「ふふっ。そうだね。楽しみにしてるね、柚」
柚「あいあいさー!」
……。
…………。
――回想終了――
――北条加蓮の家・加蓮の部屋――
加蓮「んっ…………」パチッ
柚「お、加蓮サン起きた。じゃあ――」
柚「おはよう、加蓮サン!」ニパー
加蓮「……うんっ! おはよう、柚っ!」
柚「へへっ、おはよう! ……あれ? 加蓮サン、顔色がよくなってるね。柚の元気ぱわ~が伝わった? 伝わっちゃった?」
加蓮「いっぱい伝わったよ。ありがと、柚」
柚「……加蓮サンがなんだか素直だ。明日はざーざー降りカナ?」
加蓮「オイ」
柚「じ、じょーだんじょーだんっ」
加蓮「ったくもう」
加蓮「……ちょっとさ、昔の夢を見てたんだ。柚と初めて出会った頃の夢」
柚「アタシと? エート……わ、わわっ忘れて! 忘れろー!」
加蓮「なんで?」
柚「だってそーいうのなんかハズいしっ」
加蓮「そう?」
柚「あっ、今のナシ! 忘れちゃダメだよ加蓮サン! だってアタシの大切な思い出だもんっ」
柚「加蓮サンとー、レッスンしてー、遊んでー、そんでケンカもして、最後にLIVEした! たいせつな思い出っ」
加蓮「……うん。たいせつな思い出、だね」
柚「へっへへー」
加蓮「久しぶりだなぁ、いい夢を見たの」
柚「そなの?」
加蓮「独りでいると変な夢ばっかり見るの。一面が真っ白な世界で、みんながいて……」
加蓮「でも、みんなは私に背中を向けてて、どんどん離れていっちゃって……」
加蓮「追いかけようとしても、体がぜんぜん動けなくて。そんな夢ばっかり」
加蓮「いつも寝るのが嫌だったんだ。でも、今日は久しぶりにいい夢が見れたよ。ありがとう、柚」
柚「……そ、そっかー、それはよかったー」
柚「あ、そうだ。そーいえばさ、加蓮サンのお母サン、さっき帰ってきたよ。加蓮サンが風邪引いてるって言ったらまたかって顔をしてた!」
加蓮「あはは……」
柚「そんでそんで、すっごく心配してたよ。だから、アタシがついてます! って言ったんだ。そしたら、じゃあ大丈夫、って笑ってくれた!」
柚「ってことでー、加蓮サンの看病、継続! 喉乾いてない? お腹空いてない? なんでも柚に言ってね」
加蓮「じゃあ伝染らないうちに帰――」
柚「あっ、帰れっていうのはナシだからね!」
柚「ささっ、この柚めにご命令を」ササッ
加蓮「……柚」
柚「ははーっ」
加蓮「それなら……一緒にいて」
柚「……へっ?」
加蓮「…………」フイッ
柚「……えと……」
柚「あ、あいあいさー! 今日は加蓮サンと一緒のお布団だ!」
柚「で、で、明日はアタシが先に起きて、ペンで落書き……」
柚「あっ今のもウソ! ウソだからねっ。今日の柚はウソばっかりつく悪い子だっ」
柚「でも、加蓮サンは大好き! これはウソじゃないからねっ」
柚「加蓮サン、ウソがすっごい上手いから、アタシ騙されちゃうもん」
柚「それに加蓮サンなら、ホントのことだってウソにできちゃうって思うんだ」
柚「でもアタシ、そーゆーのよくないと思うよ!」
加蓮「……柚、」
<ぴんぽーん
柚「おおっと。きっと夕美サンだ! アタシ見てくるー!」ドタドタ
加蓮「あっ」
<がちゃっ
<やっぱり夕美サンだ! おかえりーっ
<ぜ、ぜーっ、ぜーっ、加蓮ちゃんは無事!?
<今起きたとこっ。ほらほら、こっちこっち!
加蓮「…………」
加蓮「……ほんっと、柚ってば元気いっぱいだなぁ――」
加蓮「…………」
加蓮「……ありがと」ボソッ
「柚は黙っていられない子」
――にぎやかなカフェ――
夕美「加蓮ちゃんがそんなことを言ってたの?」
柚「うん。変な夢をいっぱい見ちゃうんだって。アタシが看病してた時は久しぶりにいい夢を見れたって言ってたっ」
柚「……でも、ひとりの時は変な夢ばっかり見るって言ってた」
夕美「そうなんだ……」
柚「あ、でもねでもね! こないだ看病した時は、久々にいい夢が見れたって言ってたよっ」
藍子「柚ちゃんがいた時は、ぐっすり眠れたんですね」
柚「うん」
藍子「さすが柚ちゃんっ」
柚「へへっ、照れちゃうなー」
藍子「でも……加蓮ちゃん、心配ですね。1人の時はいつも悪い夢ばかり見ちゃうなんて」
夕美「うん。気になっちゃうね……」
藍子「いつもへとへとになるまで頑張っているのに。寝る時まで疲れちゃったら休憩できなくなってしまいます」
柚「ほらっ、加蓮サン、いっつも大丈夫じゃないのにだいじょーぶって言うし……」
柚「これはアタシが寝る時まで見張ってなきゃ。アタシっ今日から加蓮ちゃんの子になります!」
夕美「それを言うなら加蓮ちゃんのお母さんの子じゃないかな?」
柚「っておかーさんに相談してみたら笑われちゃった。むむ、アタシはホンキなのに」
藍子「いつもの冗談だって思われちゃったのかもしれませんね」
柚「あとね、アタシ、あんまり寝相がよくなくて。よくおとーさんに笑われちゃうっ。布団をこう、ぼーん! って蹴っ飛ばしてたり!」
柚「加蓮サンと一緒に寝たら、加蓮サンを蹴飛ばしちゃうカモ……」
藍子「あはは……。もし一緒に寝ることがあったら、蹴っちゃわないようにしないといけませんね」
柚「だね! あっこれナイショの話だよ! 恥ずかしいもんっ、夕美サンと藍子チャンだから言える話だからね!」
柚「加蓮サンのこともナイショの話! 他の人には言っちゃダメっ。あ、でもありすチャンにならオッケーだよ! むしろ柚が話す! そんでそんで、ありすチャンのナイショの話も聞いちゃうっ」
夕美「うんうんっ、分かってるよ」
藍子「ありすちゃんのお話、後でこっそり教えてくださいね♪」
柚「藍子チャンちゃっかりものだ!」
夕美「ちゃっかりものだねっ」ニマニマ
藍子「だ、だって、そういうのって気になっちゃって……今は加蓮ちゃんのお話ですっ」
柚「そうそうっ」
藍子「柚ちゃん1人がずっとついていてあげる、っていうのも難しそうですよね。柚ちゃんにも、都合や予定ってありますから……」
柚「むむ。アタシがいっぱいいればよかったのに」
夕美「そんなことがあったら、事務所がすっごく賑やかになっちゃいそうだねっ」
柚「盛り上げ担当、喜多見柚! いっきまーすっ! なんてっ」
藍子「……私たちじゃ、駄目かな……」
柚「ン?」
藍子「柚ちゃんがいつも一緒にいてあげるのは、難しいかもしれないけれど、私たちの誰かでいいなら――」
夕美「そっか! 空いている人が、加蓮ちゃんの家にお泊りすればいいんだね!」
藍子「はいっ」
柚「あ、でもさ、もしも誰も空いていない日があったら?」
夕美「その時は……Pさんがその役に?」
藍子「えええっ!?」
柚「おおっ! あだるとっぽい匂いがする!」
藍子「そ、そういうのはダメですっ!」
夕美「さすがに冗談だよっ。その辺は、スケジュールを上手く調節するしかないよね」
藍子「夕美さんの冗談は過激なんです……。また加蓮ちゃんが1人になっちゃう前に、克服できるといいんですけれど」
夕美「でも、やらないよりやった方がいいに決まってるよねっ。あとは、加蓮ちゃんが許可してくれるか、かなっ」
柚「加蓮サンいじっぱりサンですからなー」
柚「あー、ごほんっ」
柚「『別にいいわよ。そういうのを余計なお世話っていうの』」キリッ
柚「なんて言いそうっ」
夕美「今の加蓮ちゃんの真似? すっごくうまいね!」
柚「そ、そおかなー。へへっ」
藍子「…………」ウーン
藍子「じゃあ……みんなで詰め寄っちゃいませんか?」
夕美「詰め寄る?」
藍子「はい。私と夕美さんと柚ちゃんの3人……それと、ありすちゃんも一緒に」
藍子「4人で言っちゃえば、加蓮ちゃんも意地を張らなくなるかもしれません。ううん、張らせないんです!」
柚「みんなで加蓮サンをやっつけるんだね!」
藍子「や、やっつけちゃだめですっ。加蓮ちゃんがいい夢を見られる為に、ですよ?」
柚「おっとそーだったっ。でもさー、加蓮サンってなんかボスっぽい感じしない?」
夕美「それ分かるかもっ。ありすちゃんのやってるRPGゲームの、中ボスとかに出てきそうだよね!」
柚「すっごくえらそーな感じで、でも格好よくてっ」
夕美「負けちゃったら、素直に悔しがりそうかな?」
柚「うんうん! そっから柚のパーティーに入ってくれること希望!」
藍子「もーっ。おふたりとも、今はゲームのお話ではなくて、加蓮ちゃんが安眠できるための作戦会議ですよ?」
夕美「はーいっ」
柚「そうだったっ」
夕美「えっと、みんなで加蓮ちゃんに詰め寄ってお泊まり会をやるって話だったよね? じゃあ、事務所に戻ったらありすちゃんも誘ってやってみようよ!」
柚「ありすチャンが乗ってくれるカナ?」
藍子「きっと大丈夫ですよ。ありすちゃんだって、加蓮ちゃんのことが大好きですし、優しい子ですから。きっとこのお話を聞いたら、賛成してくれますよ」
柚「さすが加蓮サンっ、みんな大好きだ!」
夕美「加蓮ちゃん、意地張ってばっかりだもん。この前だって、風邪を引いてつらいはずなのに……だから、ちょっと強引にいかなきゃ。1人だけ我慢なんて、絶対にさせないよ」
柚「そーそー。じゃ、思いついたが……き、きち、きつ?」
藍子「吉日、ですか?」
柚「そうそう! さっそく行ってみよー!」
夕美「おーっ♪」
藍子「はい!」
――1時間後・事務所――
夕美「加蓮ちゃんっ、一緒にパジャマパーティーしよっ♪」ズイ
柚「加蓮サンの夢に柚がゲスト出演! 出演料は……明日のお菓子でいいよっ」ペカー
ありす「加蓮さんとは、一度しっかり話したかったんです。アイドルの話を、色々聞いてみたいと思っていました」キリッ
加蓮「……え、何? パジャマパーティー? 夢に出演? 話……?」
藍子「みんな加蓮ちゃんが心配なんですよ。眠る時、良くない夢ばっかり見ちゃうって……柚ちゃんが相談してくれたんです」
加蓮「は、はぁ」
夕美「パジャマパーティーって言えば……恋バナだねっ。うんうん、こういう話はあんまりしないから楽しみだな~♪」
ありす「加蓮さんは以前のレコーディングも一度でOKが出たと言っていました。その極意を教えてもらいます」
柚「アタシはその場のノリで! 加蓮サンとー、ジュース飲んでー、お菓子食べてー。何持ってこっかな?」
加蓮「……あのー?」
藍子「加蓮ちゃんは、お節介って言っちゃうかもしれませんけれど……でも、柚ちゃんのお話を聞いていたら、どうしても気になっちゃって」
藍子「夜に、悪い夢ばっかり見るって聞いて、でも柚ちゃんと一緒なら大丈夫だったんですよね?」
藍子「私が、柚ちゃんの代わりになれるかは、あんまり自信がないですけれど……でも、私は体も心も元気な加蓮ちゃんを見ていたいんです」
加蓮「いや……何の話?」
夕美「晩ご飯は一緒に作ろっ。朝ごはんは私が作ってあげるね! 私、朝は結構早い方だもんっ」
柚「はいはい! アタシも! 柚特製おにぎり、大評判なんだよ!」
ありす「料理なら私にだってできます。このタブレットでレシピを調べて、あとはその通りにやるだけです」
加蓮「は、はぁ。なんとなく分かったけど……あはは……」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「いや……その、……柚が相談したって言ったよね? やっぱり柚ってアホだな、って」
柚「なにおう!?」クワッ
加蓮「だいたい私も子供じゃないんだから、独りで寝るくらいできるって。そういうの、余計なお世話だって言うんだよ」
柚「ほら! ほら言った! やっぱり言った! 余計なお世話って!」
夕美「柚ちゃんの予想が的中したねっ」
ありす「わ、私だって1人で寝るくらい……」
夕美「ありすちゃん、今度私のとこに泊まりに来る?」
ありす「夕美さんのところには絶対に行きません!」
柚「別に加蓮サン、ありすチャンのことを言ったんじゃないと思うなっ」
夕美「でもありすちゃんが反応した、ってことはー?」ニヤニヤ
ありす「……ただの一般論です。それだけです! だからニヤニヤしながら見るのをやめてください」
加蓮「……もー。こんなの……どう断ればいいのよ、もー……」
藍子「断らなくていいんです。ほら、毎日ナイトパーティーだって思えば♪ きっと楽しいですよ、加蓮ちゃんっ」
夕美「じゃ、今日はまず私からだねっ。加蓮ちゃんが眠たくなっちゃうまで、花のことをいっぱい教えてあげるね!」
ありす「いえ、私からです。明日のレコーディングに向けての対策をするんです。それに、今日はお母さんが仕事の都合で外泊……は、関係ありませんけど」
柚「えーっ。アタシ、もう今日は加蓮サンとこ泊まるって連絡しちゃったよ?」
加蓮「……」
藍子「……それとも、やっぱり……加蓮ちゃんの言う通り……余計なお世話、でしたか?」
加蓮「それは……その……正直、……」
藍子「よかった♪ 柚ちゃんのお話を聞いて、私も夕美さんも心配していたんです。これで、少しでも加蓮ちゃんがゆっくりお休みできるといいなぁ……って」
加蓮「……優しすぎだって、ホント」
夕美「それなら、今日はみんなで行っちゃおっか!」
ありす「賛成です。その方がより効率の良い話し合いになる筈です。……寝るのが遅くならないように、気をつけなきゃ」
柚「みんなで枕投げだーっ。隠れんぼもいいかも? 晩ご飯はバーベキューで!」
加蓮「……あのさ。これ、私のこととか関係なく騒ぎたいだけなんじゃない?」
藍子「そ、そんなことないです。たぶんっ」
加蓮「どーだか」ジトー
夕美「おしゃれなテーブルクロスに、花飾りも持って行っちゃお♪」
ありす「夕食後のデザートは任せてください。今日こそ新しいイチゴ料理を完成させますから」
柚「……ありすチャンありすチャン? それはー、うん、また今度ってことでいいんじゃないカナ?」
ありす「どうしてですか? 普段の鍛錬が結果を出すんです。休んでなんていられません」
柚「たまには息抜きもしよう!」
加蓮「…………」
藍子「……それに、加蓮ちゃんにとっては……それくらいの方がいいんじゃないですか?」
加蓮「……」
藍子「ねっ?」
加蓮「……はいはい。じゃあ、お母さんに連絡してくるね」
加蓮「もー、メンドクサイんだから……ブツブツ……」テクテク
藍子「…………加蓮ちゃん、とっても楽しそう……♪」
藍子「あっ、柚ちゃん、ありすちゃん、夕美さんっ。私も混ぜてくださいっ」
「相葉夕美編:ねーんねー、ころーりーよー」
――夜:北条加蓮の自室――
夕美「ねーんねー、ころーりーよー……♪」
加蓮「…………」ジトー
夕美「や、やっぱり違う?」
加蓮「そういうのはありすちゃんにでもしてあげなさい」
夕美「だってー。ありすちゃん、子ども扱いしたら怒っちゃうもん」
加蓮「私なら子供扱いしてもいいってことかい……」
夕美「加蓮ちゃんだって子どもだよっ」
加蓮「2つしか違わないでしょ?」
夕美「2つも違うじゃん! 私にとっては、加蓮ちゃんだって立派な妹みたいなものだよっ」
モバマスようこそ恋ヶ崎女子やガールズシンホニィーみたいにアイドル所持数999か1000か全種類所持可能に成ったらモバマス復帰するンゴ
夕美「ほらほら、ムキになってないで。はいっ♪ 加蓮ちゃん、横になって? 眠るまで歌ってあげるね」
夕美「さすがに子守唄じゃないけど、ほら、静かな歌とかなら、気持ちよく眠れそうじゃない?」
加蓮「……ホント、お姉さんぶっちゃって。普段は柚と同レベルで騒いでるくせに」
夕美「・ワ・」
加蓮「あーもう……」
夕美「それと、加蓮ちゃんにプレゼント!」ガサゴソ
夕美「じゃーん♪ アロマキャンドル! 実はこれ、手作りなんだ。どう? かわいいでしょっ」
加蓮「わ、可愛いっ。って、え、手作りなの?」
夕美「うんうん。私と藍子ちゃんで作ってきました! スマフォで調べたら、けっこう簡単に作れるらしいからやってみたのっ」
夕美「加蓮ちゃんも今度一緒に作らない? 加蓮ちゃん器用だし、これホントに簡単に作れるんだから!」
加蓮「うん、また誘ってよ」
夕美「はーいっ。そういえば、加蓮ちゃんの部屋って意外と物が少ないんだね。これ、用意してきて正解だったよっ」
加蓮「色々と事務所に持ち込んでたらねー」
夕美「ちょっぴり寂しいかな? 私、次の時も何か持ってくるねっ」
夕美「じゃ、寝よっか」
加蓮「…………、って言いながらすごい元気そうだね、夕美。布団にすら入ってないし」
夕美「うーん、実はこの時間に眠ることってあんまりなくて……。加蓮ちゃんは意外と早寝なんだね」
加蓮「最初の日にみんなで泊まりにきた時も、夕美と柚だけ遅くまで起きて騒いでたよね。1回目が覚めちゃったよ」
夕美「加蓮ちゃんとありすちゃんはすぐに寝ちゃったっけ。寝顔、可愛かったなー♪」
加蓮「そういうのあんまり見せたくなかったんだけどなぁ……。もう今さらかな」
夕美「うんうん。見せちゃった方が、楽になれることってあると思うよ?」
加蓮「……見せた方が楽になる、か」
夕美「私も藍子ちゃんも柚ちゃんもありすちゃんもいるんだよっ。ナイショって言ったらきっとナイショにしてくれると思うし……」
夕美「それに、加蓮ちゃんが優しくて強い子だってことは、みんなもう知ってる筈だもん。ちょっとくらい弱いとこ見せても、私は大丈夫だと思うけどなぁ」
加蓮「そっか……」
夕美「……さ、今日はもう寝よ? 私も加蓮ちゃんも明日は朝早いもんね。お寝坊したらPさんに怒られちゃうよっ?」
加蓮「うん」
<かちっ
加蓮「…………」
夕美「加蓮ちゃん?」
加蓮「……いつもはさ。この時間になったら、みんな寝てて……言いたいことがあっても、伝わりなんてしないの」
加蓮「それが、すごく嫌だった。夜なんて来なければ、って思ってさ」
夕美「ふふっ。今は私が聞いてあげるね。なんでも言ってよ! ホントは子守唄が聞きたいとかっ、もうちょっとお話をしていたいとか!」
加蓮「だから子守唄はいいって」
夕美「えーっ。せっかく練習してきたのに!」
加蓮「わざわざ練習してきたの!? そんなことしてる暇があったらフェスに向けて何かしなさいよ」
夕美「心配ご無用っ。そっちも、ぬかりなくやってるからっ」
夕美「だって私はリーダーだもん。加蓮ちゃんのお手本にもならなきゃね」
夕美「それに、加蓮ちゃんが頑張ってるとこ、私も見てきたから……。ちょっとでも手伝いたいの。加蓮ちゃんに、しんどい思いはさせたくないもんね」
加蓮「そっか……」
加蓮「ね、夕美」
夕美「なにかな?」
加蓮「……おやすみなさい」
夕美「うんっ。おやすみなさい♪」
……。
…………。
<……すー、すー……
……。
…………。
夕美「……ふふっ。眠るの早いんだね。今日は私も寝ちゃおっと」
加蓮「……ゆーみ……」
夕美「なに?」
加蓮「歌……」
加蓮「……すぅ……」
夕美「…………」ナデナデ
夕美「……~~~♪ ~~~~♪」
加蓮「くー……」
夕美「……うんっ。気持ちよさそうに眠ってるっ」
――目をつむって、10秒したら、もう違う世界にいた。
ぼんやりとした視界に、虹色が見えた。
見渡す限りいっぱいの草原と、色とりどりの花畑。
真ん中に、女の子がいる。いっしょに遊んでる。
彼女は私より少し年上なのに、まるで同じ瞬間に生まれた相手みたいで、でも、花かんむりを渡してくれた時の笑顔は、すごく、お姉ちゃんっぽいな、って思った。
朝起きた時、少しの間だけ、目を開きたくなかった。
二度寝して、また夢を見たい、なんて……思ったの、いつ以来だろう?
「(その後)子守唄」
――後日・事務所――
夕美「ねえねえ加蓮ちゃん。子守唄が聞きたくなったらいつでも言ってね!」
加蓮「だからいらないって」
夕美「え? だって加蓮ちゃん、寝言で『歌……』って」
加蓮「……別にいらないってば。アンタのパッションまみれな歌なんて聞いてたら眠れるものも眠れなく、」
夕美「あっ! 藍子ちゃんにありすちゃん! ねえねえ聞いて、加蓮ちゃんがね――」
加蓮「ちょっと!? 話を聞いてよ!?」
「橘ありす編:22時に眠ることが自然体」
――夜:北条加蓮の自室――
加蓮「ただいまー。お風呂、気持ちよかった」ホカホカ
ありす「…………、…………」ウツラウツラ
ありす「はっ。ああ、お風呂から上がったんですね、加蓮さん。さあ、会議の続きをしましょう」
加蓮「それはいいけど、ありす、もう眠たいんじゃない?」
ありす「いえ。平気です。どこまで話しましたか? 確か……レコーディングの為のレッスンでしたっけ」
加蓮「それは前にみんなが来た時にやった話じゃなかった?」
ありす「あれ……?」
加蓮「……やっぱり眠たいんじゃないの? ……ふわ……私まで眠たくなっちゃった。ちょっと早いけど、今日はもう眠ろっかな」
ありす「……加蓮さんがそう言うなら仕方ありませんね。今日はそうしましょう」
……。
…………。
……。
…………。
ありす「……あの、加蓮さん。もう寝ましたか……? そうでないなら……少しだけいいですか?」
加蓮「なにー?」ゴロン
ありす「加蓮さんは、いつも加蓮さんですよね」
加蓮「? 何かの謎かけ?」
ありす「いえ。そういう訳では……」
ありす「アイドルの話を聞く度に、そして、加蓮さんのステージを見る度に思います。加蓮さんは、もっと無理をしていると思っていたのに……すごく、自然体なんだなって」
加蓮「そう見えちゃうか。ちょくちょく心配されるんだけどね。ちゃんと体力はセーブしてるんだよ?」
ありす「体力の話ではありません。精神面の話です。どんな仕事でも、加蓮さんはいつも加蓮さんのままです」
ありす「平静を保つ方法とか、何かコツとかあるんですか?」
加蓮「コツって……んー、自然体でいること?」
ありす「ですからその為のコツです」
加蓮「うーん」
ありす「…………私、Pさんや現場のスタッフさんからよく、もっと子供らしくと言われます」
ありす「別の場所では、無理に子供を演じる必要はないと言われます」
ありす「レコーディングの時は、子供っぽさを意識して歌えと指示されたり、もっと凛とした声を出すようにとも言われます」
加蓮「うん」
ありす「ファンレターを読んでいると、なんだか私が複数いるみたいになってしまっているんです」
加蓮「うん」
ありす「臨機応変が大切なことくらい分かってます。でも、どれが本当の私なのか、たまに分からなくなって」
ありす「だから、いつもそのままの加蓮さんのようになりたいなって……」
加蓮「そんなこと初めて言われたよ……。柚といいありすといい、私の知らない私を言ってくれるんだね」
ありす「柚さん、ですか?」
加蓮「ずっと前にね。頑張ってるのがすごい、って褒めてもらったことがあるの」
加蓮「私にとって、頑張ることなんて手段でしかなかったから……頑張ることそのものを褒められたことなんて、ほとんどなかったから」
加蓮「すっごく嬉しくてさー……って、い、今はありすの話でしょ。私のことはどーでもいいのっ」
ありす「話し始めたの、加蓮さんですよね。……別にいいですけど」
加蓮「いつもそのままでいる、って言うなら柚や夕美もそうじゃない? 私じゃなくても」
ありす「柚さんは……少し、うらやましいんです」
加蓮「えー? あのアホっ子が?」
ありす「あんな風にいつでも本音で話せたら、もっと――」
ありす「……でも、私はあんな風にはなれません。あそこまで真っ直ぐになることはできません」
加蓮「ふうん。そんなものなのかなぁ」
ありす「夕美さんだって同じです。私はあの人みたいに、いつでも自分に素直にはなれません」
ありす「馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれませんが、私だって分かっているんです。12年生きていますから。それくらい分かるんです」
加蓮「藍子は?」
ありす「尊敬しています」
加蓮「即答」
ありす「藍子さんですから」
加蓮「分かるけど。で、私は」
ありす「目標です。アイドルの」
加蓮「照れちゃうね」
ありす「加蓮さんを見ていると思うんです。音楽に力があるって、本当に本当のことなんだって……」
ありす「だから、私にとって加蓮さんはなりたいアイドル像なんです」
ありす「でも、どこを目指せばいいのか、分からなくなって……」
加蓮「迷子になっちゃった、か」
ありす「そんな子供っぽい言い方をしないでください。これは……自分探しです。迷子なんかじゃありませんから」
加蓮「そっか」
ありす「加蓮さんは、そういう時にどうしているんですか?」
加蓮「私? んー……最初を思い出す、かな?」
ありす「最初を、思い出す……」
加蓮「私だってたまにあるよ? 自分がどうしたらいいのか、分からなくなっちゃうこと」
加蓮「そういう時は……自分が何に憧れてアイドルになったのか思い出すようにしてるんだ」
加蓮「一番最初の私。キラキラ輝きたいって思った私」
加蓮「そうしたら、どんな自分でも自分だって思えるようになる気がしてさ」
ありす「…………」
加蓮「ね、ありす。ありすって、いつもは何時に寝てるの?」
ありす「……急に何ですか? 話を逸らさないでください、私は真剣に、」
加蓮「いいからいいから。何時に寝てる?」
ありす「…………本当は、夜の10時には寝ています。早寝早起きは体調管理の基本ですから。体調を崩して迷惑をかける訳にはいきません」
加蓮「……体調を崩して迷惑かけてばっかりで悪かったわねぇ」
ありす「えっ。ち、違います、そういう意味では……」
加蓮「ふふっ。知ってる知ってる。それで、今も10時だよね? だから今のありすは、いつも通りに寝ているありすだよ」
ありす「……? 何が言いたいのか分かりません」
加蓮「自然体ってそういうことじゃないの? 意識しない自分、っていうのかな……」
ありす「意識しない、私?」
加蓮「……ふわぁ……あのさ、私ってホントは23時くらいに寝るの。でも今日はすごく眠くて……」
加蓮「ってことは今の私はいつもの私じゃないのかな?」
加蓮「もしそうなら、ありすが言うほど私はいつも私って訳じゃないんだよ……」
ありす「はあ……」
加蓮「私を目標にしてくれることは、私もすっごく嬉しいけど……あんまり、そうじゃないといけない、って考えすぎると疲れちゃうんじゃない?」
加蓮「……ねっむぅ……。ね、先に寝ていい?」
ありす「はい。そういえば、加蓮さんがちゃんと眠れる為に私はここにいるんですよね。失礼しました」
ありす「……話したいことが、沢山あったので。もしよければ、また……相談しても、いいですか?」
加蓮「いいよいいよ。ありすと喋るのも好きだしー、相談じゃなくてもいつでも遠慮しなくていいよー」
加蓮「……でも眠いや。おやすみ~」
加蓮「まだ続けたいなら……夢に、来ていーよ……」
加蓮「……むにゃ……」
ありす「…………」
加蓮「……くぅ……」
ありす「…………本当に」
ありす「私の周りにいる人達は、すごいのに、いつでも抽象的すぎて」
ありす「見上げてもぼんやりとしか映らないから、首が疲れちゃいます」
ありす「それなのに、意識していなくて、いつも通りなんて……ズルいです」
ありす「……それが加蓮さんなんですよね」
ありす「おやすみなさい。でも私はまだ納得していません。だから、夢でお逢いしましょう」
――無機質とセピアカラーの入り混じった部屋にいた。気がする。
菖蒲色の椅子に私が座っていて、薔薇色の椅子に少女が座っていた。
私たちは、互いに自分ではない顔を見て、けれどどこか自分に似た顔を相手に、想いを交わし尽くしていた。
やがて少女が疲れてしまったから、あとの時間は、身体だけでできる遊びをして過ごした。
朝起きた時、少しの間だけ、記憶を辿りたくなった。
夢の内容を鮮明に思い出したい、なんて……思ったの、いつ以来だろう?
「(その後)おきみやげ」
――翌朝:北条加蓮の家・食卓――
加蓮「…………」
ありす『台所をお借りしました。相談に乗ってもらったお礼です。食べてください』
いちごパスタ<ズモモモモ...
加蓮「えぇー」
加蓮「……」パク
加蓮「……えぇー」
「きっかけなんてたった1つでいいんだ」
――フェス1週間前・レッスンスタジオ――
トレ「――そこまで!」
加蓮「ふーっ」
夕美「お疲れ様っ」
トレ「なんだか急に動きがよくなりましたね! 顔つきも随分良くなりました。特に北条さん!」
加蓮「え、私?」
トレ「いつも以上に気概を感じますね。何かあったんですか?」
夕美「ふふ♪ メンタルケア、うまくいってますっ」
加蓮「……。でもちょっと身体は不調気味なんだよねー。昨日珍しく夕美の方が先に寝ていびきでなかなか、」
夕美「わああああああああ!?」ユサユサ
トレ「……?」
トレ「でも、この分ならもうワンステップ上を目指せそうです! 早速やってみましょう!」
加蓮「え。まだ構成変えるんですか?」
夕美「うわー……。覚えるの大変かもっ」
トレ「北条さんと相葉さんならできると思いますよ。プロデューサーさんからも、できる限りのことはやるようにと期待されていますから!」
加蓮「Pさんが、ねー……」
夕美「そう言われちゃうと」
加蓮「あはは、弱いなぁ……」
夕美「期待には応えなきゃっ。お日様も水も栄養ももらったなら、綺麗に咲き誇りたいもん!」
加蓮「うんっ。せっかくだから、できること全部やってみよっか!」
夕美「そうだね! Pさんにも、ファンのみんなにも、スタッフさんにも、最高の私たちを魅せてあげなきゃ!」
トレ「構成なんですが、北条さんと相葉さんも考えてみません? こういうのがやりたい、というのがあれば今からでも変えられるので……」
加蓮「やりたいことかー。夕美、何かある?」
夕美「急に言われてもピンと来ないなぁ。加蓮ちゃんは?」
加蓮「私もー」
トレ「それなら反省会という形にしてみましょう! お互い指摘をすることで、新しい可能性も生み出されますよ」
加蓮「反省点かぁ……。とりあえずさー……夕美、2番の出だし早すぎ。音楽ちゃんと聴いてる?」
夕美「あはは、やっぱり? ごめんね。あそこから私のパートだからつい先走っちゃって……」
夕美「加蓮ちゃんは逆に、2番の途中から勢いがしぼんじゃってる気がするな。遠慮してる?」
加蓮「あー。体力の温存とか、あと……夕美の言う通り、そっちのメインパートだからちょっと遠慮しちゃうっていうか」
夕美「やる前に言ったよね。加蓮ちゃんにも負けない、って! 合わせることも大切だけど、遠慮なんてしなくていいよっ。それが加蓮ちゃんだもん!」
加蓮「夕美こそ1番のサビのところ、ただ踊ってるだけーって感じになってるよ? 気遣うなんてらしくない」
夕美「み、見抜かれてたかっ。そう言うなら遠慮なくやるね! で、最後のサビなんだけどー……」
加蓮「んー、その後のMCを夕美メインにしていい? それならもうちょっと全力を出せると思う」
夕美「いいよいいよ! どうせ全力を出しちゃうなら少し立ち位置も変えちゃわない? トレーナーさん、いいですかっ?」
トレ「……お互いがちゃんと見えるようになっているみたいですね。思ったよりも高度で驚きました!」
トレ「立ち位置の変更はもちろん大丈夫ですよ。相葉さんはどうしたいですか?」
夕美「加蓮ちゃんがこっち側に立って、それから――いや、加蓮ちゃんは逆の方が見栄えがよくなるかな?」
加蓮「スポットライトってどうなってたっけ。……あー、まだ未定か。でもたぶんこの歌だと、こっちからこうライトの演出が入るから――」
夕美「立ち位置はこっちの方がいい、っと。あっ! それなら、敢えてもうちょっと前に出てみるとかは? その方が奥行きが生まれそうじゃない?」
加蓮「あ、いいねそれ。それならダンスよりボーカルの方にウェイトを向けて……動きはこんな感じで……」
夕美「うんうんっ。どうせならここでこう動いてみない?」
加蓮「いいね! それならこっちは――」
柚(見学中)「な、なんだかスゴそうな話をしてるぞー。聞いてても柚ぜんぜんわかんないぞー」
ありす(見学中)「…………」
柚「ありすチャンは今日もお熱ですなー」
ありす「え? い、いえ。別に夢中に……なってはいましたが……」
柚「ありすチャンが素直に言うなんて珍しー」
ありす「それだけの力が、あの2人にはありますから」
柚「分かるっ! たましい、だっけ。加蓮サンも夕美サンもスゴいよねっ」
柚「……ホントに、すごいよね」
ありす「……?」
柚「あ、アハハ! ありすチャン、さっきからずっと目がキラキラしてたぞぅ? こう、こーんな感じに!」キラキラ
ありす「そこまではなって……いたかもしれませんが別にいいじゃないですかっ。凄い物を凄いと言って何が悪いんですか!」
柚「悪くないよー。悪くないー」
ありす「……」
ありす「…………」
柚「ありすチャン? どしたの? そんなに加蓮サン達をじーっと見て」
柚「ハッ! さては加蓮サンに一目惚れっ!? だ、ダメだぞっ、それならこの柚を乗り越えていきなさーいっ!」
ありす「何言っているんですか……」
ありす「でも、惚れたというのは間違いではないかもしれません。あくまで、音楽的な意味で、ですが」
柚「おんがくてき?」
加蓮「ファンからの見え方は……こっちがこう、の方がいいのかな?」
夕美「ちょっと角度を変えて見た方がいいかもっ。ほら、今回って綺麗な私たちより元気な私たちを魅せたいじゃない? なら――」
加蓮「あーそっか。さすが夕美」
夕美「加蓮ちゃんこそ、見られ方は完璧に分かってるねっ。さすが!」
加蓮「アイドルですから」
夕美「ふふっ、私だってアイドルだよ?」
加蓮「で、ここをこうして――うんっ、こんな感じで!」
夕美「トレーナーさん、これでどうですかっ」
トレ「成程……。良い感じですね! では、早速練習してみましょう!」
ありす「まだ完成もしていないステージ裏を見ても確信できます。今回の舞台は、きっと凄いことになります」
柚「それは分かるっ。なんかこう、ワクワクしちゃうよね!」
ありす「はい。夕美さんは……普段が普段かもしれませんが、楽しそうなアイドルという意味では、私たちの中では一番だと思っています」
柚「……うん……そだね。さすが夕美さんだ」
ありす「加蓮さんは今日も、凄いです。歌も、姿も。……改めて、心より尊敬します」
柚「お、おおっ、ありすチャンがなんかスゴいこと言った!」
ありす「歌が上手いだけではありません。想いと……魂が篭っていて。私も、あんな風に歌ってみたい……」
柚「ねーねー、それ加蓮サンに直接言ったらいいと思うっ。きっと加蓮サンも喜ぶよ!」
ありす「そうでしょうか。もし私なら……いきなり凄いと言われても、困惑してしまいそうですが」
柚「あー確かに、加蓮サンもありすチャンも、色々と素直じゃありませんからなぁ」
ありす「今は私は関係ないでしょうっ」
柚「へへっ。本番、楽しみだね!」
ありす「はい。とても楽しみです」
トレ「ワンツースリーフォー! 北条さん、もうちょっと顔を上げて! 相葉さんはもう二歩右に!」
加蓮「っとと」
夕美「こっちだねっ」
トレ「そのまま! ワンツースリーフォー――」
「高森藍子編:もう独りじゃない(物理)」
――夜:北条加蓮の自室――
藍子「じゃんっ♪」
加蓮「いぬのぬいぐるみ? 可愛いっ。これどうしたの?」
藍子「ありすちゃんとゲームセンターに行った時、クレーンキャッチャーで2つもとれたんです」
藍子「1つはありすちゃんの分で、もう1つは、加蓮ちゃんへのおみやげですっ」
加蓮「それなら藍子が持っていればいいのにー。それに、そんな毎回毎回おみやげなんていらないんだよ?」
藍子「加蓮ちゃんの家に行く度に、何を持っていこうか悩んじゃって」
加蓮「藍子もだけど、夕美も柚も来る度に何か持ち込んでくるから――」チラッ
――部屋の隅――
・造花(いっぱい)
・花飾り(いっぱい)
・睡眠用インテリア(いっぱい。大半が手作り)
・クラシックのCD(いっぱい)
・トランプ(4セット)
・その以外のカードゲーム(複数セット)
・いっぱい写真の詰まったアルバム(3冊目)
・その他、ぬいぐるみやら未開封のお菓子やらまだ聴いてないCDやら携帯ゲーム機やら
加蓮「もう誰の部屋か分からなくなっちゃったよ」
藍子「じゃあ、ここはもう、加蓮ちゃん独りの部屋ではないってことですね」
加蓮「……ちょっとはありすを見習ってよね。たまにCDを持ち込んでくるけど、それくらいならかさばらないし」
藍子「ふふっ♪ にこにこしながら言っても、ぜんぜん説得力がないですよ?」
加蓮「……寝るー」
藍子「はーい。加蓮ちゃん、明日の朝は早いんですよね。じゃあ、明日はちゃんと起こしてあげますからっ」
加蓮「今日はそんなに疲れてないから、藍子の方がきっと後に起きるよ。もしそうなったら――」
藍子「そうなったら?」
加蓮「顔じゅういっぱい落書きして写メってみんなに見せてやるっ」
藍子「き、今日は徹夜です。一晩中加蓮ちゃんを見張っていないと」
加蓮「あはは、冗談冗談。……冗談だからそんな決意を秘めた顔しなくていいよ?」
藍子「ほっ」
加蓮「あははっ」
加蓮「……藍子ってさ。いつもすっごく優しいよね」
藍子「ふぇ?」
加蓮「あと、いつも私達のことを見てくれてる。見守っていてくれて……なんだか、それだけで安心できるよ」
藍子「あ、あはは……もうっ。急にどうしたんですか? 加蓮ちゃん、いつもからかってばっかりでっ」
加蓮「あれは夕美や柚が誘ってくるからだよ? 文句ならあっちに言ってよ」
藍子「本当ですか~?」
加蓮「まー、私も楽しくてつい乗っちゃうんだけど」
藍子「乗っちゃうんじゃないですかっ」
加蓮「藍子うるさーい。寝れないじゃーん」
藍子「もーっ。じゃあ、電気を切りますね」
加蓮「うん」
<かちっ
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………」ギュ
藍子「?」
藍子「…………♪」ナデナデ
加蓮「…………」
加蓮「…………すぅ……」
――夢の中でふと、別の夢で見た少女のことを思い出した。
そうだ。私は撫でられている姿が羨ましかったんだ。
クリーム色に春の朗らかさが混じったこの場所なら、自分の代わりにお願いすることができた。
彼女は少しだけ驚いた顔を見せつつ、素敵な笑顔で応えてくれた。
とてもあたたかくて、身体の中がぽかぽかする――
朝起きた時、少しだけ、早く起きたことを後悔した。
ぼやけた時間がもうちょっと欲しい、なんて……思ったの、いつ以来だろう?
「(その後)なでなで」
――後日・事務所――
加蓮「ちょ、離して! 離せーっ!」
夕美「なーんだ、加蓮ちゃんも撫でてほしいならそう言ってくれればよかったのに♪」ナデナデ
柚「柚は撫でるより撫でられたい系っ、でも今日は撫でる系の柚サンだ!」ナデナデ
ありす「いつものお返しです。……決して普段からかわれることの仕返しとかじゃありませんから」ナデナデ
加蓮「な……撫でまくるなー! 三方向から撫でまくるなー!」
夕美「うんうん、分かってる分かってる♪」ナデナデ
柚「アタシが加蓮サンを撫でて、加蓮サンがアタシを撫でる。これで世界は平和だぞっ」ナデナデ
ありす「色々とやってみるといい、と教えてくれたのは加蓮さんです。……こういうのもちょっと面白いかも?」ナデナデ
加蓮「~~~~~!」
加蓮「藍子オオオオオオ! いっ、言いふらしやがっ……出てこーーーい!」
藍子(じ、事務所に入れないっ……!)
「喜多見柚編:寝させろ!」
――夜:北条加蓮の自室――
柚「はっ! 柚いまいいこと思いついた! ねねっ、"にぱゆる"をみんなに広めちゃう方法なんだけど――」
加蓮「あーもうっ! それさっきも聞いた! お菓子とタイアップとかなんとかでしょ!」
加蓮「そういうのはPさんに相談しなさい! 今は寝させろ!」
柚「えー。まだまだ夜は始まったばっかりだぞーっ。アタシ、もっともっと加蓮サンに話したいことがあるんだっ」
柚「そんで、加蓮サンの話も聞いてみたい!」
柚「せっかくのお泊まり会なんだからー、すぐに寝ちゃうなんてもったいないぞ?」
加蓮「せっかくのお泊まり会って……柚、ここに来るの何度目よ」
柚「エート……何回目だっけ? 加蓮サン、何回目?」
加蓮「知らないけど……。柚、他の誰かが来るって言う時も強引に言いくるめてうちに来るようにしてるでしょ。疲れたりしないの?」
柚「疲れないよ! だって加蓮サンと一緒だから!」
加蓮「……そ」
柚「おかーさんも、最初はうるさく言ってたけど最近は何も言わなくなっちゃった。へへっ、我慢比べはアタシの勝ちっ♪」
加蓮「呆れて言わなくなっただけだと思うよ、それ……。ま、柚が楽しそうなら私もいいんだけどさ」
柚「ホント!? じゃあアタシも、加蓮サンに面白い話をいっぱいしたげる!」
加蓮「今はやめて! っていうかホント寝させてよ! 疲れてるんだから!」
柚「えーっ。アタシまだ寝れそうになーい」
加蓮「私は寝たいの……。ほら、話なら明日またいっぱい聞いてあげるから。ね?」
柚「ちぇー。しょうがないなー。じゃ、今日はもう閉店だねっ」
加蓮「閉店閉店。電気切るよ?」
柚「はーいっ」
……。
…………。
加蓮「……、……」ウツラウツラ
柚「……ね、加蓮さん」
加蓮「ん……?」
柚「……」
加蓮「……何?」
柚「あたし、邪魔?」
加蓮「は? どうしたのよ急に。変なお菓子でも食べた?」
柚「た、食べてないやいっ。だって……加蓮サン、よく柚をうるさいとかうっとうしいとか言うから、その……き、気になっただけ!」
加蓮「……まぁ……うるさいと思うことはたくさんあるけど」
柚「や、やっぱり!?」
加蓮「うっとうしいこともいっぱいあるけど」
柚「そっちも!? や、やっぱりアタシ邪魔してるんだ! でもっ――」
加蓮「でもさー……。いいよ。それが柚でしょ?」
柚「へ?」
加蓮「うるさくない柚とか……柚じゃないし……。うっとうしくない柚も柚じゃないもん……」
柚「……あ、あのぉ。加蓮サン? それ、褒めてない……よね?」
加蓮「どっちもだよ……。柚が、柚でいてくれるから……私も、いっぱい笑えるんだよ……」
柚「ンー……」
加蓮「……」ゴロン
柚「わわっ。なに、なに? じ、じーっと見られると照れちゃう、なー……」
加蓮「……」
柚「……加蓮サン?」
加蓮「……ふふ……♪」
柚「!」ドキッ
加蓮「邪魔なんかじゃぜんぜんないよ。柚があの日、すごいって言ってくれたから、私、今も頑張れるんだよ?」
加蓮「それにね……私、柚が来た日はいっぱい楽しい夢が見られるの。起きたくなくなっちゃうくらいに」
柚「そ、そなの?」
加蓮「うん。夕美が来た時は、お花の夢を見て……藍子の時はあったかい夢を見て……。ありすは、不思議な夢を見せてくれるんだ」
加蓮「柚は、楽しい夢を……見せて、くれるから……」フワ
加蓮「そばに、いる、とき……」
加蓮「……」
加蓮「……くー……」
柚「……そ、そっかー」
柚「……」
柚「へへっ」
柚「お、おやすみーっ」
柚「……」
柚「……うっわ照れる、照れちゃうっ、絶対顔真っ赤。ほっぺた熱いっ!」
柚「もー、もー、加蓮サンが変なこと言うからだよっ。も、もも、もおおおおーっ!」
加蓮「……くー……」
柚「きゃーっ、きゃーっ」
柚「――これじゃ寝れないのは柚の方だ! どうしよどうしよ! ちらっ」
加蓮「すー……」
柚「…………」
柚「てやーっ」ギュー
加蓮「……くー……」
柚「お、おお? おおお? 加蓮サン意外とあったかいっ。これならぽかぽかで寝れそうかも!」
柚「おやすみーっ加蓮サン。……へへっ、……えへへっ」
柚「……ぐおーっ、ぐおーっ……」
加蓮「……すぅ……うっさいなぁ、もー……ふふ……」
――右も左も、前も後ろも、カラフルカラーでいっぱいで、アトラクションとか、遊具とか、遊ぶものでいっぱいだった。
めまぐるしいほどの光景に足を踏み出す先を悩んでたら、ぐい、と手を引かれた。
オレンジ色の笑顔の彼女は、行こ! と言って、返事を待たないうちからぐいぐいと引っ張っていってくれる。
起きるまでの時間が本当に一瞬すぎて、いつももったいないなと思うくらい。
なのに起きたら起きたで、陽だまりと子供のような表情が出迎えてくれる。
起きている時も寝ている時も、こんなにも楽しい、なんて……思ったの、いつ以来だろう?
「(その後)メリーゴーランド」
――後日・事務所――
ありす「……は?」
加蓮「だから、メリーゴーランドってあるじゃん。遊園地の。私、あれの乗り方を知らなくてさー」
ありす「……既に意味が分かりませんが、それをなぜ私に?」
加蓮「なんとなく?」
ありす「質問に質問で返さないでください。……普通に、馬にまたがるなり馬車に乗るなりすればいいじゃないですか」
加蓮「そっか」
ありす「…………メリーゴーランドに乗る予定なんてあるんですか?」
加蓮「ちょっとね。夢の中で」
ありす「は……???」
「躍進と影響力」
――フェス3日前・レッスンスタジオ――
トレ「ワンツースリーフォー! ……そこまで!」
トレ「もう完璧ですね! これから当日もバッチリでしょう!」
加蓮「……!」夕美「……!」
加蓮「……」チラッ 夕美「……」チラッ
加蓮「いぇーい♪」パンッ 夕美「いぇいっ!」パンッ
加蓮「やったっ。やっと完成した!」
夕美「うんっ! これが、私たちの力だよっ」
加蓮「最初にやりたいって思ったこと……諦めなければ、ぜんぶやれるんだね!」
夕美「ふふ♪ 加蓮ちゃんが頑張ったからだよ!」
加蓮「ううん。夕美が私を助けてくれたからだと思う」
夕美「加蓮ちゃんがいてくれたから私もやる気が出たんだよ。ありがとうっ、加蓮ちゃん!」
加蓮「あとはもう、本番を待つだけだね」
夕美「今回は緊張もプレッシャーも全然ないよっ」
トレ「だからといって油断してはいけませんよ? 特に北条さん。また体調を崩したりしないように」
加蓮「はいっ」
トレ「相葉さんも。MCの台本は毎日確認するくらいで!」
夕美「分かってますっ♪ 加蓮ちゃんの分も引き受けちゃったもん。いつも以上に気合を入れて頑張るねっ」
加蓮「ホントだよ。私の出番までぶん取っていったんだし、噛んだりしたら許さないよ?」
夕美「えっ。加蓮ちゃんがそれを言うの!?」
加蓮「なんてねっ。足引っ張ってごめんね。任せました、リーダー♪」
夕美「ううんっ。ぜんぜん迷惑なんかじゃないよ! 今回のMCパートは私に任せて、加蓮ちゃんは全力でファンに魅せつけることっ!」
加蓮「うんっ!」
柚(見学中)「ほわー……」
ありす(見学中)「…………!!!」キラキラ
藍子(見学中)「様子を見に来たら……加蓮ちゃんも夕美さんも、すごいですね!」
柚「なんだか息ピッタリって感じだった!」
藍子「歌っている時、加蓮ちゃんも夕美さんもお互いを見ていませんでした。なのに完璧なパフォーマンスになってます!」
柚「きっといっぱい練習したんだろーなー。さすが加蓮サンっ。……もちろん、夕美サンも!」
藍子「加蓮ちゃんは頑張り屋さんで、夕美さんはリーダーさんですから」
柚「うんうん! 相性抜群だっ。……ゆ、柚的にはちょっぴり悔しいけどでもっ本番が楽しみ!」
藍子「ふふ、私も楽しみですっ」
ありす「…………!!!」キラキラ
柚「……ありすチャン、今日もとりっぷしちゃってるねー。いつもより10倍くらい目がキラキラしてる気がするっ」
藍子「見とれちゃってますねっ」
ありす「はっ。み……見惚れて、なんて……見惚れてなんて……」
ありす「……だから見惚れてなにが悪いんですか!」クワッ
藍子「お、落ち着いて? 悪いなんて言っていないよ?」
柚「そーそー。アタシだって、じー、って見ちゃってた! だから一緒だ! たぶん、藍子サンもっ」
藍子「はい。私も、見惚れてしまいました」
ありす「良い物は伝わるということです。誰が見ても良いと分かる物が、本当に良い物という証拠です」
藍子「そうだね。でも、ありすちゃん。ありすちゃんがいいって思うことも、大切にしてあげてね?」
ありす「……はい。そうします」
柚「はいはい! アタシはっ、やっぱり頑張ってる加蓮サンがいいって思う!」
藍子「柚ちゃんは、本当に加蓮ちゃんのことが大好きなんですね」
柚「へへっ。ありすチャンは?」
ありす「私は……いえ。こういうことは本番を見てから言うことにします」
柚「むむ。もったいぶるなんてよくないぞーっ」
ありす「きっと本番ではまた違った印象を受けるでしょうから。今は……言葉を使うことが、勿体無い気がして」
藍子「すごい舞台になりそうですね。写真、いっぱい撮らなきゃ」
柚「あとで柚にも見せてね! アタシはー、ずっと加蓮サンと夕美サンを応援する役! でー、ありすチャンはっ」
ありす「本番終了後の打ち上げでの料理はお任せください。最高のパーティーにしてみせます」
柚「……ウン。そのー、……ウン」
藍子「あはは……一緒にやろうね、ありすちゃんっ」
ありす「藍子さんが手伝ってくれるなら百人力です」
柚「はいはい! アタシもアタシもっ」
<加蓮ちゃん、なんだか前より調子がよくなった?
<そうかな……。あんまり自分じゃ分からないよ
<トレーナーの私から見ても、随分よくなっていると思いますよ! 何かいいことがあったんですか?
<ふふ。実は――
<……ホント。添い寝なんて子供じゃないんだから
<でも、メンタルって重要なんですよ。時にはフィジカル以上に
藍子「加蓮ちゃん、すごく調子が良くなりましたよね」
ありす「はい。私がお邪魔した時も、最近は私より先に寝て、私より早く起きていることが多いです」
柚「この前、加蓮サン寝ながらえへえへって笑ってた!」
藍子「よかった……。柚ちゃん、あの時、教えてくれてありがとう。おかげで加蓮ちゃんの調子が良くなったんですよ」
柚「わ、わー……そ、そーいうマジなこと言われるとそのっ、こまっ、て、照れるから! 照れちゃうから!」バシバシ
ありす「それでどうして私を叩くんですか!」
柚「おおっとつい。こー、なんでもいいからなんかやりたくなることってない?」
ありす「だからといって――」
柚「ん~~~~~! 加蓮サンと夕美サンを見てたらアタシも何かやりたくなった!」
ありす「ま、まだ話は終わって」
柚「ね、ね、トレーナーサン。加蓮サンと夕美サンはもうバッチリなんだよね! 次っ、アタシ達も何かやっていいかなっ」
トレ「え? 私はいいですが……」
夕美「私もいいよー」
加蓮「私も、ちょっと休憩したいかな……」
柚「やったっ。ささ、ありすチャン、藍子チャン、やろうっ」
ありす「……私もですか?」
藍子「い、今から!? さすがにこの私服で踊ったりは、ちょっと……」
柚「えーっ。柚今すっごくうずうずしてるのにっ。いーよっじゃあアタシ1人でやるもん! トレーナーサン、なんかお題出して!」
トレ「は、はあ。じゃあ――」
柚「よーし! 次は柚の番! 加蓮サンも夕美サンも見ててね!」
柚「行くぞーっ。柚ダンス! からのー、柚スピン!」
加蓮「おー……」
夕美「柚ちゃんまで気合が伝わってる♪ きっと、加蓮ちゃんの影響力だねっ」
加蓮「夕美の方じゃない?」
夕美「加蓮ちゃんの方だよ!」
藍子「柚ちゃん……。あ、あのっ。私も、今から着替えてくるので……待っててもらっても、いいですか?」
柚「えいっえいっとやーっ! もちろんオッケーだよ! 柚踊って待ってるね!」
ありす「藍子さん! ……私もついていきます。いい、ですか?」
藍子「うん、もちろん♪」
柚「ありすチャンのことも待ってるぞーっ。からのー、柚ベーゴマ!」ギュインギュイン
加蓮「……わお。ダンサーだ」
夕美「真似したくなっちゃった?」
加蓮「無理。……でも、なんか負けたくない」
夕美「加蓮ちゃんも柚ちゃんに影響されちゃったねっ。3人の番が終わったら、また通しの練習をやってみよっか♪」
「光の中に飛び込んで」
――フェス当日――
緊張はしてる。
でも後悔はしてない。
もっとやっとけばよかった、なんて思わない。
そんな後ろ向きになるくらいなら、前を向きたい。
「さあ――」
開始前の言葉なんて、たった1つでいい。
「「めいいっぱい、楽しもうっ♪」」
――フェス会場――
空気を別の空気が破壊する。爆音と甲高い声に包まれて脳の構造が作り変えられていく。真っ白に、真っ白に包まれていく意識は、けれど今日に限っては色鮮やかな華色が引き止めた。
ひゅっ、と喉の奥で一度だけ息をつまらせている間に歓声の色が変わった。夕美が、ファンの皆の声に応えて手を振る。手を振るだけで、幻想のような世界に、かつて液晶画面の向こうで見ただけの世界に自分が立っているのだと強く意識できて、できたから、両足を踏みしめて、自分で選んだシュシュと、何度も上塗りしたネイルを一瞬だけ見て、うん、と頷いてから前を向いた。
「みんな~~~~~~~っ!! 今日は、」
「来てくれてありがと~~~~~~~~~っ!!!」
わあああああああああああああああーーーーーーー! と、四方八方の声に水色が混ざる。
夕美が一瞬だけこっちを見た。そう。開始前に叫ぶなんて予定はなかった。
今回のステージは勢いだけで作り上げたものではない。体力の配分、前に出るタイミング、場をリードする役割。演じる歌の難易度と、まだ2度目のデュオユニットという不慣れな前提を元に、計算に計算を重ね、協議して、議論して、時にはなじられて。分からず屋なんて言われて。てっぺんを越えて草臥れて吐きそうになって、やっと出来上がったんだ。
何枚にも渡る計画書を一瞬ですべて引きちぎったような暴挙に、夕美は「しょうがないなぁ」と肩を竦めた。
悪いなんて思ってない。だって言いたかったんだ。言いたかったから言った。きっと、夕美も分かっていると思う。
夕美も、私のことを分かっていると思う。
そして、ステージが始まる。
前奏が切って落とされると同時に白と桃と薄緑のライトが踊り狂う。負けじと歓迎の絶叫合唱が響き渡った。
この瞬間だけは何度重ねても慣れない。何も始まってもいないのに涙が出て来る。
左手の拳をいつも握っているのを知っているのは、私の仲間だけ。
『あなたとの時を紡ぐ♪ 永遠を奏でる時計♪』
デュオユニットだ。そこに夕美がいる。脳はそれを認識しているけれど身体が1人を求める。
どうしてだろうと自問した。別にずっと1人でやってきた訳じゃない――アイドルの世界へ手を引いてくれたのはPさんだし、最初に出会った仲間の柚とはこれまでずっと笑いあってきた。藍子と出会い、ありすと出会い、夕美がやってきて、私はいつも、誰かと一緒に歌っていた。
なのに、レッスンの時からずっとそうだけれど、身体が1人を求めるんだ。
『彩る絵の具は未来を描く♪ ふたりの鼓動が鮮やかに♪』
夕美はそれを、「加蓮ちゃんは、アイドルへの想いがすごく強いんだねっ」って言ってくれた。
夕美と合わせるのは苦労した。何度やっても何度やっても想いが先走って一歩先のステップを踏んでしまい、無意識のうちにセンターを独占しようとする。何度もぶつかって転んだ。
その度に、夕美は私の手を掴んで、もう1回やろっ、って励ましてくれた。
『明日進む道の先は、愛へ続く軌跡になる♪』
迷惑をかけていたのは私だ。
失敗ばかりしていたのも私だ。
ごめんね、と無意識のうちに言ってしまったことが、何度もある。
それでも。
私でなければよかった、と思ったことは1度もないし。
降りたい、と思ったこともない。
私がアイドルだから、と夕美は言ってくれた。
でも、きっとそれだけではない。
『もしも君が歩く先を♪ 見失ってしまったなら♪』
メロディラインが変わる。左から右へ。右から左へ。夕美と立ち位置を交換するのと同時にライトの色も変わる。
落ち着いた深青色と濃緑色。一筋だけのグレイ。
左目の端で色の変化を感じ取ったのを確認して、声を意図的に落とす。
この調節は最後まで苦労した。昂る心を歌詞に合わせることのなんと難しいことか。
でも歌うだけがアイドルではない。演じてこそ、アイドルだ。
夕美が信じてくれたものを、私も信じたくなった。だから、このパートは夕美に譲る、なんて提案は、最後まで考えもしなかった。
『あなたの名前を呼んであげる! ほら一緒に行こう! 私達は独りじゃない!(Ready Go!)』
また色が変わる。雲色と空色。
"じゃない!"のタイミングで、跳ぶ。
足が地面から離れたのはたった2秒。ふわり、と、風の中に薫風を浴びた。
サビに入るまで0.9秒。そのほんの僅かな間で夕美を見た。いつもより頬を上気させて心臓を飛び出させるような勢いの笑顔で両手両足で感情を表現していて目が私を捉えながらしっかりとファンの方も見ていて――
一言で現すなら、羨望した。
もしかしたら初めて知ったかもしれない。
ステージに立ち歌う夕美が、こんなに楽しそうだなんて。
レッスンの間ですらここまでではなかった。
前の即興デュオユニットの時は意識もしなかった。あの時は開始直後のホワイトトリップに身を委ねていたから。
……こんなに、楽しそうだったんだ。
『とび出そう! we will be shiny♪』
0.9秒の中に0.05秒だけ心が漏れ落ちて、サビの入りが少し甘くなった。
夕美の右眼の端の端が揺らいだ。一瞬だけ目を遣って、うん、と頷いた。
大丈夫だよ、って。
秘密のサインの心地よさへ、作り変えられた脳がまた後でと告げる。
今はアイドル。
感謝とか驚きとかは、ぜんぶ後でいい。
その代わり、嬉しい、という気持ちをぜんぶエネルギーに変化させる。手足へ続く神経が焼ききれるほどヒートアップしていく。
『ねえ笑っていてよ♪ 今隣にいるから♪』
お腹の奥の辺りが熱くなってきた。歌詞をぜんぶふっ飛ばして、歌うってことをぜんぶ放棄して、ありがとう、って叫びたくなった。
もしかしたらそれは皮肉なのかもしれない。あの孤独な夜の日、誰にも本音を言えなかった私がいるのに、今は気持ちを誰かに伝えたくて伝えたくて、それを必死にこらえている私がいる。
どっちも私だってことが、信じられない。
『飛び出そう! we start be shiny♪』
左足のステップを外側に調節して、しっかり身体を振って、右を向いて、夕美と向かい合って、ハイタッチ!
この5動作を何度練習しただろう。一番最初に甲高い手打ち音が聞こえた時にどれほど嬉しくて、そして絶対に成功させてやろうと思っただろう。
歌にも声にも負けない、パン……という潤った音に、瞬間だけ目を合わせて、私は獰猛に、夕美は快活に、それぞれ笑う。
『花は開くよ、心と一緒に――♪』
1番が終わる。反射的に膝頭に手をつきそうになるのを支えてくれたのは、私という魂を受け止めた観客の声援。
わああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーっ!!!! って。
私達の作ったものを受け止めてくれた、見届人の声。
その中に3つだけ、捉えた物があった。
……ううん。私が捉えることができたのは、残念だけど2つだけ。
無邪気なオレンジ色と、落ち着いた新緑色。
綺麗に造られた群青色が聞こえたのは、たぶん高揚のせいだ。
私の耳では結局、最後までありすの小さな声援を聞き取りきることはできなかったから。
ただ、夕美がすごく嬉しそうな顔をしているから、私の鼓膜に触れていなくても、きっとあったんだって思う。
応援してくれている。
今は、それだけで十分だった。
大きく息を吐く代わり、小さく息を吸って、歓声に応えるように手を振って、そして、2番が始まった――
□ ■ □ ■ □
――出番終了後・控え室――
加蓮「……ぜー、ぜー……夕美……」
夕美「……加蓮ちゃん……」
加蓮「……」
夕美「……」
2人「「いえーいっ♪」」パンッ
加蓮「たっっっっっっっっっっっのしかったぁ……! あああああ、今でもまだ身体が勝手に動きそう……! まだ歌いたいくらい!」
夕美「私も! すっごく楽しかった! まだ光の中にいるみたい……!」
加蓮「正直言っていい? 何回もレッスンしたじゃん。飽きるくらい動いたじゃん。だから本番そんなに楽しめないだろーなーとか思ってたの!」
夕美「実は私もっ。何度も知ってる本を読んでるみたいになりそうだったっ」
加蓮「でもさ、ステージに上がって、光を浴びて――」
夕美「歌が始まったら、やっぱりそんなことなかったよね!」
加蓮「ファンの歓声とかさ! 私もうすぐに頭真っ白になりそうだった! あっ、いい意味でだよ! いつもそれでトリップして身体が勝手に動くの!」
夕美「分かる分かるっ。レッスンの時よりずっとうまくできちゃうんだよね!」
加蓮「で、後からDVDとかチェックしてさ」
夕美「誰これ!? ってなるんだよね!」
加蓮「ホントホント! すごいじゃん私、みたいになってさ!」
夕美「ライバルは自分だってあれウソじゃないよね!」
加蓮「でも今日はそんなことなかった! ずっと、ずっと楽しくて、自分が自分だったの!」
夕美「私もだよっ。MCパートに入るまでも保ってたし、2曲目も……そうそう、ファンの声がぜんぶ聞こえたんだよっ! 1人1人の声が!」
加蓮「何それすごっ! でも私も、ファンのみんなの表情が見れて……もーホントにみんな楽しそうなの! 憧れてくれてるの! 私にだよ! 私に憧れてくれてるんだ! すっごく、すっごく嬉しくて!!」
夕美「危ないくらい気持ちいいんだよね!」
加蓮「どっか飛んじゃいそうだった!」
夕美「あははっ!」
加蓮「ふふっ!」
<ガチャリ
柚「お疲れ加蓮サ――」
加蓮「……それと、さ」
夕美「なにっ?」
加蓮「それと……」
藍子「あっ、待って柚ちゃん!」グイ
柚「きゃっ。なになに、どったの?」
藍子「(小声で)ほら……」チラ
ありす「…………」ドキドキ
加蓮「今日のステージでは、夕美が見えたんだ。初めてデュオユニットで上がった時は、全然見えてなかったの」
夕美「ふふ、あの時の加蓮ちゃん、ずっと夢中になってたもんね♪」
加蓮「うん……。今日は見えたの。夕美が、すっごくすっごく楽しそうにしてたところ」
加蓮「……私さ、見てもらえることが嬉しいんだ」
加蓮「あんまり周りには話さないようにしてるんだけど……ちっちゃい頃の私って、誰にも見られてなくて」
加蓮「ううん。悪い意味で注目を浴びることが多かったの」
加蓮「私って存在を見てくれる人が、全然いなかった」
加蓮「でも――」
加蓮「ここにはいっぱいいる。夕美も……それに、藍子も、柚も、ありすも、私を見てくれてる」
加蓮「ファンのみんなは……あはは、どうだろ。今でもアイドルって記号にされてるのかもしれない。病弱系アイドルなんて記号化されてるかもね」
加蓮「でもさ」
加蓮「今日のステージでは、私、北条加蓮を見てくれる人がいて」
加蓮「私をアイドルって存在にしてくれてる人が、いっぱいいる」
加蓮「……それがすっごく嬉しいの!」
加蓮「だから……ありがとう、夕美っ」
夕美「~~~~! 加蓮ちゃんっ!」ギュー
加蓮「わきゃっ。ちょ、何!?」
夕美「ううんっ。なんとなく、ぎゅー♪」
加蓮「ちょ……もう。汗臭いでしょ!」
夕美「いい子いい子♪」
加蓮「だから2つ違い……あははっもうっ!」
……。
…………。
夕美「ふうっ。落ち着いたかな?」
加蓮「だね。後はエンディングまで待機、かー」
夕美「こっそり抜け出しちゃおっかっ」
加蓮「あのね。そーいうイタズラには乗れないよ、私」
夕美「冗談だよ♪ さてっ……そろそろ大丈夫だよ、みんなー!」
加蓮「え?」
<ガチャ
藍子「はーいっ」
ありす「お疲れ様です、加蓮さん、夕美さん。……あ、あの……」
柚「お疲れーっ! えと……うまくいえないけど……えと、すごかった!」
加蓮「……え? もしかして、扉の向こうでずっと?」
夕美「そうみたい。私たちが落ち着くのを待っててくれたのかなっ。ありがとう、藍子ちゃんっ」
藍子「いえ。大切なお話をしていたみたいですから……私からも、お疲れ様ですっ♪」
加蓮「そっかー……。ホント、夕美って視野が広いんだね」
夕美「リーダーですから♪」
柚「えっ」
ありす「え?」
夕美「ちょ、何その反応!? いや言いたいことは分かるよ!? 分かるけど!」
加蓮「……ハァ。だから、私はリーダーは夕美しかいないって思ってるから安心してよ」
夕美「加蓮ちゃん……! って私忘れてないからね!? そう言って1回裏切ったよね加蓮ちゃん!?」
加蓮「根に持ってるなー」
藍子「あ、あははは……。でも、本当にすごい舞台でした!」
柚「うんうん! なんかこー、見てて、こー、すごかった!」
夕美「ホント!? ふふっ、ありがとう!」
ありす「……終わったら言葉を贈ろうと思ったんです。加蓮さんにも夕美さんにも負けないほどの言葉を」
ありす「でも……今は、何も言えません」
ありす「…………」
ありす「…………」ポフッ
加蓮「っと。どしたの、ありす? 急に抱きついてくるなんて」
ありす「こうさせてください。……言葉が、出てこないんですっ……!」ギュー
加蓮「そっか……」
夕美「ありすちゃんが抱きついてくるなんて珍しいね! 初めてじゃない? 加蓮ちゃん、そこ代わってーっ」
加蓮「え? やだー」ナデナデ
柚「ずるいっ。アタシも加蓮サンに、ぎゅー!」ギュー
加蓮「きゃっ。こら、飛びかかってくるなっ。ありすが今変な声出したじゃん!」
柚「ありすチャンごとぎゅー!」
ありす「く、苦しいですっ……!」ジタバタ
藍子「柚ちゃんもありすちゃんも、加蓮さんと夕美さんの舞台を見ている間、ずっと興奮していましたから……勢いづいちゃったんですね」
夕美「そっかー……。なんだかすっごく嬉しいかも! あっ、藍子ちゃんも飛びついてきていいんだよ?」
藍子「私はいいですよ。その代わり、ここからっ」ガサゴソ
藍子「はい、みなさ~んっ。こっちを向いてくださいっ」
柚「ン?」
ありす「ちょ、前が見えな……ふうっ。なんとか横から顔を出せ、」
加蓮「何ー?」
夕美「はーい♪」
藍子「えいっ!」パシャッ
藍子「……あはっ。みんないい顔ですっ。加蓮さんも夕美さんも、柚ちゃんもありすちゃんも!」
加蓮「えちょ、今撮ったの?」
柚「見せて見せて! えーちょっと! 柚は撮り直しを要求するーっ! なんか柚だけ可愛くない!」
ありす「私なんて半分隠れているじゃないですか!」
夕美「ホントだ、いい顔してるっ!」
藍子「じゃあ、もう1枚――」
柚「今度は藍子チャンも入ろう! ほらほらこっち!」グイッ
藍子「きゃっ。それならタイマーにして……みなさん、いきますよっ。はい、チーズ!」
加蓮「ふふっ」
夕美「あははっ」
柚「へへっ」
ありす「……ふふ」
ぱしゃっ!
「エピローグ:今日も彼女は口元に笑みを浮かべ」
――事務所――
<ガチャ
加蓮「おはよ――」
夕美「えーいっ♪」
藍子「ひゃああああ~~~~~~~っ! だかっ、だからいきなり噛み付いてくるのはやめてください!」
夕美「はむはむ」
藍子「な、なめないで~~~っ」
加蓮「まーたやってる」
夕美「あ、おはよう加蓮ちゃんっ。あと10秒早く来てたら加蓮ちゃんも誘ってたよ。残念、遅かったねっ」
加蓮「残念だねー」
藍子「首筋をなめながらっ、ひゃっ、喋るのをやめっ、くすっ、くすぐったいですっ」
加蓮「……。え、何? やっぱりガチな感じ? 夕美を見る目が少し変わるんだけど」
夕美「そういうんじゃないよー。藍子ちゃんを見ると、つい困らせたくなっちゃうんだっ」
加蓮「あはは、さすが夕美」
藍子「もうっ」フリホドク
夕美「おっと」
藍子「うううぅ……お、おはようございます、加蓮ちゃん」
加蓮「おはよ、藍子。といっても……」
夕美「もう昼過ぎだよねっ。今日もねぼすけさんかな?」
加蓮「今日もって言うのやめてよー。それに、今日は夕方からしか仕事ないんだし、いいでしょ?」
藍子「朝にお仕事やレッスンがある時は、すごく早く来ていますよね、加蓮ちゃん」
加蓮「まーね。……藍子がそれより早く来てるんだけどね、いつも」
夕美「そうなの?」
藍子「はいっ」
加蓮「しかも用意万端とばかりにお茶を淹れてくれてさ。いつ来てるんだって思っちゃうよ……眠くないの?」
藍子「だって、みなさんの一番最初の笑顔を見たくてっ」
藍子「そういえば今日の加蓮ちゃん、ちょっとだけテンションが低いですね。……何か、あったんですか?」
加蓮「んー。あったといえばあったというか……。起きたら11時で愕然としたっていうか」
夕美「昨日遅くまでレッスンしてたもん。疲れちゃったんじゃないの?」
加蓮「かもねー……。しかもさ」
夕美「しかも?」
加蓮「昨日うちに来たのがありすで」
藍子「……あぁ」
夕美「そういえばありすちゃん、なんだかウキウキしてたなぁ。加蓮ちゃんとお話したいことがいっぱいある、って、ノートにメモまでしてたの、私見たよっ」
加蓮「話が盛り上がっちゃってねー……1時くらいかな、寝たの。で起きたら」
夕美「11時だったんだねっ」
加蓮「はぁ……」
藍子「そのありすちゃんは?」
加蓮「私が起きた時に手と足をぶん投げて寝てたから、布団だけかけなおしておいたけど――」
<ガチャ
柚「おは――」
<どんっ
柚「痛ぁ!?」
ありす「~~~~~~~! あ、おはようございますちょっとそこを空けてください夕美さん!」ダッシュ
夕美「おっとっ」ヒョイ
ありす「~~~~~~~!」
<ばたん
<Pさんおはようございます違います寝坊したのではありません! なぜか目覚ましが鳴らなくて暖かい布団がかけられていただけです!
<だからやめてください生温かい目で頭を撫でるのは! 私はそんな子供ではありませんから!
加蓮「……起こすべきだったね」
夕美「ありすちゃん、大丈夫かな?」
藍子「間に合えばいいんですけれど……。あっ、柚ちゃん、大丈夫ですか?」ハイ
柚「あたた……ありすチャンにひかれちゃった! すっごい急いでたねっ」アリガト!
加蓮「柚を突き飛ばしたことも分かってなかったんじゃない?」
夕美「それだけ急いでたもんねっ。おはようっ、柚ちゃん!」
柚「、おはよ、夕美サン! あとっ、加蓮サンと藍子チャンも!」
柚「あっそうだ! 加蓮サン、今日は柚が加蓮サンんとこに行くからね!」
夕美「えーっ。今日は私が行く予定だったのにー」
柚「やだーっ。アタシが行くのーっ!」
夕美「いつも柚ちゃんが行ってばっかりじゃない。私にも行かせてよーっ!」
加蓮「何このケンカ……」
藍子「……ふふっ」
加蓮「なんか言いたそうだね」
藍子「なんでもありませんっ♪」
加蓮「そう?」
夕美「私が行くのーっ」
柚「柚が行くんだいっ」
加蓮(…………)
加蓮(…………なんだか、あれからずっと心が軽いんだよね)
加蓮(それは、今もいつも寝る時に誰かがいてくれるからかな)
加蓮(あれがきっかけで、何か見える物が増えたような気がして)
加蓮(……)
加蓮「……ふふっ」
藍子「? 加蓮ちゃん?」
加蓮「なんでも。さて、私ちょっとありすのところに行ってくるね。寝過ごしたのは私のせいでもあるんだし……」テクテク
藍子「あ、私もついていきます。何か手伝えることがあったら、手伝いたいですから♪」テクテク
<夕美サンしぶといっ。よーし、こうなったらバドミントン勝負で決めようっ
<そういうことなら負けないよ!
<勝ってアタシの方が加蓮サンのこと好きなんだって分からせてやるんだっ
<私だって加蓮ちゃんのこと大好きだもん! 負けないよっ
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お疲れ様でした。
読んでいただき、ありがとうございました。
北条加蓮「何してんの?」相葉夕美「こっちこっちっ」
ツギココ)相葉夕美「ありすちゃんには……ニチニチソウかなっ」橘ありす「ニチニチソウ?」
喜多見柚「多くは望まないカモ♪」北条加蓮「私、欲張りになったね」
橘ありす「子供扱いとか、しなくていいですから」高森藍子「ありすちゃん……」
高森藍子「今日はどこに行こうかな?」喜多見柚「遊びに行こうっ!」
以下、今回の目次です。
もう一度読みたくなったお話はありましたか? もしあるのなら、私はとても嬉しいです。
>>2 「がぶーっ」
>>23 「(その後)噛みつく #とは」
>>27 「女の子達のオシャレ事情」
>>35 「(その後)むしとり少年」
>>36 「(その後のその後)ボーイッシュ(意訳:男の子みたい)」
>>37 「ぜーはーぜーはー」
>>43 「にぱにぱゆるふらわ~ストロベリーミント」
>>80 「(その後)夕暮れに微笑う」
>>87 「がんばれ藍子ちゃん」
>>93 「(その後)優しい藍子ちゃん」
>>97 「(その後のその後)がんばれありすちゃん?」
>>99 「加蓮さんとありすちゃん」
>>109 「(その後)だてめがね」
>>113 「(その後のその後)あてれこ」
>>114 「Flower Mint」
>>121 「楽しい楽しいレッスン」
>>132 「(その後)レッスンの後で」
>>140 「枕元にはいつもタオルを」
>>146 「私の見ている世界」
>>162 「風邪ひきさん」
>>199 「柚は黙っていられない子」
>>216 「相葉夕美編:ねーんねー、ころーりーよー」
>>226 「(その後)子守唄」
>>227 「橘ありす編:22時に眠ることが自然体」
>>240 「(その後)おきみやげ」
>>241 「きっかけなんてたった1つでいいんだ」
>>250 「高森藍子編:もう独りじゃない(物理)」
>>256 「(その後)なでなで」
>>257 「喜多見柚編:寝させろ!」
>>267 「(その後)メリーゴーランド」
>>268 「躍進と影響力」
>>279 「光の中に飛び込んで」
>>308 「エピローグ:今日も彼女は口元に笑みを浮かべ」
乙、良かったよー
次はいつ頃のご予定で?
作者です。
<<320
ありがとうございます。
夕美編・柚編までは近いうちに投下予定です。
ひとまずは「柚編を5月8日に投下すること」を目標に、今頑張っています。
また楽しみにして頂ければ幸いです。
……作者です。アンカー逆になってますね。はい……。
ということで>>320さん、改めてコメントありがとうございます。
おつですー
いつもの組み合わせはもちろん、藍子大好きありすも新鮮で素敵でしたー
あと、ついこの間プロデューサー加蓮読み返してたので、柚加蓮のやり取りが個人的にクリティカルヒットでしたよー
続き楽しみに待ってますー
読み終わるのだいぶん後になりそうだから先に乙言っておく!
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